ご自宅での療養生活を考えたとき、「訪問診療」という選択肢が頭に浮かぶことがあるかもしれません。
しかし、「どのような状態になったら頼めるのだろう」「うちの家族は対象になるのだろうか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、訪問診療がどのような方に適しているのか、その基本的な判断基準を多角的な視点から詳しく解説します。
病気や身体の状態だけでなく、精神的な側面やご家族の介護環境といった観点からも、訪問診療の必要性について考えていきます。
ご本人やご家族が、安心して在宅での医療を選択するための一助となれば幸いです。
訪問診療の基本的な適応条件と制度概要
訪問診療の利用を検討するにあたり、まずはその基本的な仕組みや対象となる条件を理解することが重要です。
ここでは、訪問診療がどのような医療サービスであり、どのような方が保険を使って利用できるのか、そして在宅医療において医師がどのような役割を担うのかについて、基本的な知識を解説します。
訪問診療の定義と保険適用の条件
訪問診療とは、お一人での通院が難しい患者さんのご自宅などに医師が定期的に訪問し、計画的な医療管理を行うことです。
急な発熱時などに医師が駆けつける「往診」とは異なり、あらかじめ計画を立てて月に1回や2回といったペースで訪問し、継続的に患者さんの健康状態を把握・管理することを目的としています。
この訪問診療は、医療保険が適用されます。保険適用となる最も重要な条件は、「通院が困難である」と医師が判断することです。
年齢や病気の種類だけで決まるものではなく、患者さんお一人お一人の身体的な状況や生活環境を総合的にみて判断します。
訪問診療と往診の基本的な違い
| 項目 | 訪問診療 | 往診 |
|---|---|---|
| 目的 | 計画的な健康管理 | 急な症状への対応 |
| 訪問のタイミング | 定期的・計画的(例:月2回) | 不定期・患者の要請時 |
| 主な内容 | 診察、薬の処方、検査、療養相談 | 急な発熱や痛みなどへの対処 |
通院困難な状態の医学的判断基準
「通院困難」という状態は、単に「病院へ行くのが面倒」ということではありません。医学的な観点から、患者さんの安全や健康状態を考慮した上で判断します。
例えば、ベッドから起き上がれない、少し歩くだけで息切れがする、車椅子への移乗に複数の介助者が必要、といった身体的な理由が挙げられます。
また、認知症の症状によって外出そのものが危険を伴う場合や、精神的な不調から家を出ることが極度に困難な場合も含まれます。
医師は、患者さんの病状、身体機能、認知機能などを総合的に診察し、通院に伴う心身への負担やリスクが、自宅で医療を受ける利益を上回ると判断した場合に「通院困難」と結論づけます。
在宅医療における医師の役割と責任
在宅医療における医師の役割は、単に病気を診るだけにとどまりません。患者さんが住み慣れた環境で、その人らしい生活を続けられるように、医療の側面から総合的に支えることが求められます。
具体的には、定期的な診察による病状の管理、お薬の処方と調整、痛みを和らげる緩和ケア、床ずれ(褥瘡)の処置などを行います。
さらに、ケアマネジャーや訪問看護師、薬剤師、リハビリ専門職など、他の医療・介護サービス提供者と情報を共有し、連携の中心的な役割を担います。
患者さんやご家族の療養に関する不安や悩みに耳を傾け、精神的な支えとなることも大切な役割の一つです。
病院との連携体制と紹介のタイミング
入院中の患者さんが退院して在宅医療へ移行する場合、病院との円滑な連携がとても重要です。
多くの病院には、退院支援を専門に行う部署やソーシャルワーカーがおり、退院後の療養生活について相談に乗ってくれます。
訪問診療の導入を考える良いタイミングは、入院中の治療の方向性が固まり、退院の目処が立った頃です。
病院の医師や看護師、ソーシャルワーカーに「退院後は自宅で療養したい」「訪問診療を考えている」と伝えることで、地域の訪問診療クリニックとの連携を始めてくれます。
退院前には、病院のスタッフと訪問診療の医師、ケアマネジャーなどが集まり、患者さんの情報を共有し、在宅での療養計画を立てる「退院前カンファレンス」を行うこともあります。
身体的状態による訪問診療の適応判断
患者さんの身体的な状態は、訪問診療が適しているかどうかを判断する上で最も基本的な要素です。
ご自身で、あるいはご家族の介助があっても、病院やクリニックへの通院が大きな負担となる、または危険を伴うような状態であれば、訪問診療の利用を具体的に検討する必要があります。
ここでは、どのような身体的状態が訪問診療の対象となりうるのかを詳しくみていきます。
歩行困難・移動制限のある患者さんの状態
ご自身で歩くことが難しい、または移動に大きな制限がある状態は、訪問診療の適応を判断する際の重要な基準です。例えば、以下のような状態が考えられます。
- 寝たきりの状態
- 車椅子での生活が中心で、介助があっても乗り物への移乗が困難
- 杖や歩行器を使っても、短い距離の移動がやっと
- 病気の後遺症で麻痺があり、安定した歩行ができない
これらの状態では、通院のためにタクシーや介護タクシーを手配し、家族が付き添う必要があります。
通院そのものが一日がかりの大きな出来事となり、患者さんの体力を著しく消耗させてしまうことがあります。また、転倒のリスクも高く、かえって怪我をしてしまう危険性も考えられます。
身体状態と通院困難度の目安
| 身体状態の例 | 通院に伴う困難さ | 訪問診療の必要性 |
|---|---|---|
| 寝たきり、または座位保持が困難 | ストレッチャー付き車両が必要。心身への負担が極めて大きい。 | 高い |
| 車椅子での移動が主だが、移乗に複数人の介助が必要 | 介護タクシー等の手配が必要。介助者の身体的負担が大きい。 | 中~高い |
| 歩行器や杖で室内移動は可能だが、屋外歩行は困難 | 外出時の転倒リスクが高い。天候に左右される。 | 検討の価値あり |
重篤な慢性疾患による通院困難状態
心臓や肺、腎臓などに重い慢性疾患を抱えている場合、病状が安定していても少しの動作で身体に大きな負担がかかることがあります。
例えば、重い心不全の患者さんは、安静にしていても息苦しさを感じることがあり、通院のための移動や待ち時間で症状が悪化する恐れがあります。
また、在宅酸素療法を行っている呼吸器疾患の患者さんにとって、酸素ボンベを携帯しての外出は大変な労力を要します。
このように、特定の病気によって身体活動が著しく制限され、通院が病状を悪化させるリスクを伴う場合も、訪問診療の良い適応となります。
術後・退院直後の継続的医学管理が必要な状態
大きな手術を受けた後や、長期間入院していた後の退院直後は、まだ体力が回復しておらず、ご自宅での専門的な医療管理が必要な場合があります。
例えば、お腹から管が出ている(ドレーン管理)、傷口の処置が毎日必要、点滴で栄養を補給している(中心静脈栄養)、痰の吸引が頻繁に必要といった状態です。
これらの医療処置は、ご家族だけで行うには難しく、専門的な知識と技術が求められます。
このような場合に訪問診療を導入することで、病院と同じような医療ケアをご自宅で継続することができ、患者さんは安心して療養に専念できます。
精神的・認知的要因による訪問診療の必要性
訪問診療の必要性は、身体的な問題だけに限りません。認知症の進行や精神的な疾患によって、病院という環境に身を置くことや、外出そのものが困難になることがあります。
ご本人が医療の必要性を認識していても、精神的・認知的な要因が壁となり、適切な医療から遠ざかってしまうケースは少なくありません。
ここでは、そうした状況について具体的に解説します。
認知症の進行による通院困難な状態
認知症が進行すると、様々な理由で通院が難しくなります。慣れない場所に行くと混乱してしまったり、診察室でじっとしていることができなかったりします。
また、長時間待つことができずに大声を出してしまったり、帰りたがったりすることもあります。ご家族にとっては、周囲に気を遣いながらの通院は精神的に大きな負担となります。
さらに、ご本人が診察の必要性を理解できず、外出を頑なに拒否することもあります。このような場合、無理に通院を強いることはご本人のストレスを増大させ、症状を悪化させる可能性さえあります。
住み慣れた自宅という安心できる環境で医師の診察を受けることは、ご本人の負担を大きく軽減します。
認知症の症状と受診の壁
| 認知症の主な症状 | 通院が困難になる理由 |
|---|---|
| 見当識障害(場所・時間がわからない) | 病院にいることが理解できず、不安や混乱が強くなる。 |
| 実行機能障害(段取りができない) | 診察の順番を待つ、検査のために移動するなどの段取りが理解できない。 |
| 行動・心理症状(BPSD) | 興奮、徘徊、暴力、介護抵抗などにより、外出そのものが困難になる。 |
精神疾患による外出困難・社会不安の状態
うつ病、統合失調症、不安障害、パニック障害といった精神疾患を抱える方の中には、症状のために外出が極度に困難な方がいます。
例えば、広場恐怖では、人が多い場所や逃げ出せないと感じる場所に強い不安を覚え、病院の待合室のような環境が耐えられないことがあります。
また、重度のうつ病では、気力や意欲が著しく低下し、家から一歩も出られない状態になることもあります。
このような方々にとって、精神科の治療を継続することはもちろん、内科的な疾患にかかった際の受診も非常に高いハードルとなります。
訪問診療は、精神科の治療と身体的な治療の両面から、自宅で療養する患者さんを支えることができます。
うつ病等による活動性低下と医療アクセス問題
特に高齢者のうつ病では、気分の落ち込みだけでなく、「何もする気が起きない」「身体がだるくて動けない」といった身体症状が強く現れることがあります。
この活動性の低下は、ご本人が病気であるという認識(病識)を持ちにくくさせ、医療機関への受診をさらに遠ざける一因となります。
ご家族が心配して受診を勧めても、「どこも悪くない」と拒否されることも少なくありません。
この状態が続くと、高血圧や糖尿病といった慢性疾患の管理がおろそかになったり、新たな病気の発症を見逃したりする危険性があります。
医師が自宅を訪問することで、まずは信頼関係を築きながら、少しずつ治療へとつなげていくことが可能になります。
発達障害による医療機関受診の困難さ
発達障害のある方、特に自閉スペクトラム症(ASD)のある方の中には、感覚過敏の特性を持つ方がいます。病院の強い照明や様々な音、消毒薬の匂いなどが耐え難い苦痛となることがあります。
また、予期せぬ出来事や待ち時間にも強いストレスを感じます。これらの特性は、医療機関を受診すること自体を非常に困難なものにします。
定期的な健康管理や急な体調不良の際に、安心して医療を受けられる環境を整えることは重要です。
訪問診療であれば、最も安心できる自宅という環境で、予測可能な形で診察を受けることができ、ご本人の負担を最小限に抑えることが可能です。
疾患別にみる訪問診療の適応基準
どのような病気を抱えているかによっても、訪問診療の必要性は変わってきます。
特に、進行性のがんや神経難病、あるいは複数の病気を抱える高齢者など、専門的かつ継続的な医療管理を在宅で必要とするケースは多く存在します。
ここでは、具体的な疾患を挙げながら、訪問診療がどのように役立つのかを解説します。
がん終末期における在宅緩和ケアの適応
がんと診断され、治療が難しいと判断された後も、患者さんの生活は続きます。住み慣れたご自宅で、家族と共に穏やかな時間を過ごしたいと願う方は少なくありません。
訪問診療は、そのような想いを実現するための在宅緩和ケアの中心的な役割を担います。医師が定期的に訪問し、痛みをはじめとする様々な身体的・精神的な苦痛を和らげるための治療を行います。
点滴による痛み止めの投与や、医療用麻薬の管理などもご自宅で行うことが可能です。ご本人とご家族の意思を尊重しながら、最後までその人らしい生活が送れるよう、医療面からサポートします。
在宅緩和ケアで提供される主な医療
| ケアの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 痛みの管理 | 飲み薬、貼り薬、点滴などを用いた持続的な疼痛コントロール |
| その他の症状緩和 | 吐き気、息苦しさ、だるさ、不眠などの症状に対する治療 |
| 精神的ケア | 不安や気分の落ち込みに対するカウンセリングや薬物療法 |
神経難病(ALS・パーキンソン病等)の在宅管理
筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病といった神経難病は、病気がゆっくりと進行し、徐々に身体の機能が失われていくという特徴があります。
病状の進行に合わせて、きめ細やかな医療管理とケアの調整が必要です。例えば、ALSが進行すると自力での呼吸が難しくなり、人工呼吸器の装着が必要になることがあります。
訪問診療では、医師が定期的に診察し、人工呼吸器が適切に作動しているかを確認したり、痰の吸引に関する指導を行ったりします。
また、パーキンソン病では、薬の効果をみながら細やかな調整を行うことが、日常生活の質を維持する上でとても重要です。
病状の変化を継続的に把握し、適切な医療を提供できる体制が求められます。
慢性疾患の長期管理と定期的なモニタリング
高血圧、糖尿病、心不全、慢性腎臓病といった慢性疾患は、日々の安定した管理が合併症を防ぐ鍵となります。
しかし、通院が困難になると、定期的な受診が途絶え、気づかないうちに病状が悪化してしまうことがあります。訪問診療では、定期的にご自宅へ伺い、血圧や血糖値の測定、血液検査などを行います。
これらの検査結果に基づいて薬の量を調整し、食事や生活上の注意点について助言します。
安定しているようにみえる慢性疾患でも、定期的な医師の診察とモニタリングを通じて、重篤な状態に陥るのを未然に防ぐことが大切です。
小児・若年者の重症心身障害における在宅医療
生まれつき、あるいは幼少期の病気や事故によって、重度の知的障害と身体障害を併せ持つ「重症心身障害」のあるお子さんや若者も、訪問診療の対象となります。
気管切開や胃ろう、人工呼吸器など、日常的に医療的なケアを必要とすることが多く、「医療的ケア児」とも呼ばれます。
ご家族は日々、献身的なケアを行っていますが、専門的な医療判断が必要な場面も少なくありません。
訪問診療は、日々の健康管理はもちろん、発熱などの急な体調変化にも対応し、ご家族が安心して在宅でのケアを続けられるよう支援します。
学校や福祉サービスとの連携も行い、お子さんの成長と生活を地域全体で支える一翼を担います。
高齢者特有の複数疾患管理の必要性
高齢になると、一つの病気だけでなく、複数の慢性疾患を同時に抱えることが一般的になります。例えば、高血圧と糖尿病、骨粗しょう症、心臓病といった具合です。
それぞれの病気に対して異なる専門科の医師から多くの薬が処方され、薬の管理が複雑になることがあります。
これを「ポリファーマシー」と呼び、薬の飲み合わせによる副作用や、飲み忘れのリスクが高まります。
訪問診療を行う医師は、総合的な視点から患者さんの全体の状態を把握し、本当に必要な薬を見極めて整理する役割も担います。
複数の医療機関への通院が困難な高齢者にとって、一人の医師が主治医として全体を管理することは、安全で質の高い医療につながります。
家族・介護環境からみた訪問診療の判断要素
患者さんご本人の状態だけでなく、ご家族の介護力や生活環境も、訪問診療を検討する上で重要な要素です。
介護の中心を担うご家族の負担を軽減し、持続可能な在宅療養の体制を整えることは、患者さんにとってもご家族にとっても大切なことです。
また、お一人で暮らす高齢者や施設に入居されている方にとっても、訪問診療は医療へのアクセスを確保する上で大きな意味を持ちます。
家族の介護負担軽減としての訪問診療
患者さんの通院には、ご家族の付き添いが欠かせないことがほとんどです。特に、歩行が困難な方の通院介助は、身体的に大きな負担となります。
また、仕事を休んで付き添ったり、病院での待ち時間で長時間拘束されたりと、時間的な負担も無視できません。
こうした負担が積み重なると、介護を行うご家族が心身ともに疲れ果ててしまう「介護疲れ」につながる恐れがあります。
医師が自宅に来てくれる訪問診療は、通院介助にかかるこれらの負担を大幅に軽減します。
ご家族が自身の時間や健康を保ちながら、心にゆとりを持って介護を続けるためにも、訪問診療は有効な選択肢です。
通院介助における家族の負担の例
| 負担の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 身体的負担 | ベッドから車椅子への移乗、車の乗り降りの介助、院内での移動補助など |
| 時間的負担 | 通院のための仕事の調整、往復の移動時間、診察や会計の待ち時間など |
| 精神的・経済的負担 | 周囲への気遣い、急な病状変化への不安、交通費(介護タクシー代など) |
介護施設入居者への医療提供体制
特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの介護施設に入居されている方も、訪問診療の対象となります。施設には看護師が配置されている場合が多いですが、医師は常駐していません。
そのため、入居者の日々の健康管理や定期的な診察、薬の処方などは、外部の医療機関が担う必要があります。
多くの施設では、協力医療機関や地域のクリニックと連携し、訪問診療の体制を整えています。
施設にいながらにして、計画的な医療を受けられることで、入居者は安心して生活を送ることができますし、体調が変化した際にも迅速な対応が可能となります。
独居高齢者の医療アクセス確保
お一人で暮らす高齢者にとって、体調を崩した際の医療へのアクセスは切実な問題です。頼れる家族が近くにいない場合、自力での通院が困難になると、必要な医療を受ける機会を失いがちになります。
訪問診療は、そのような独居高齢者の命綱ともいえる役割を果たします。定期的に医師が訪問することで、健康状態を継続的に見守ることができ、病気の早期発見や重症化の予防につながります。
また、医師や同行する看護師が定期的に顔を見せることは、社会的な孤立を防ぎ、精神的な安心感をもたらす効果も期待できます。地域の見守りネットワークの一員として、重要な存在となります。
訪問診療導入の手続きと連携体制
実際に訪問診療を利用したいと考えた場合、どこに相談し、どのような手順で開始するのでしょうか。
また、医療だけでなく介護サービスとも上手に連携していくことが、在宅療養を成功させる鍵となります。
ここでは、訪問診療を始めるための具体的な手続きの流れや、多職種との連携について解説します。
病院から訪問診療クリニックへの紹介プロセス
入院中の方が退院後に訪問診療を希望する場合、まずは入院している病院の医師、看護師、あるいは医療ソーシャルワーカーにその旨を伝えます。
病院側は、患者さんの病状や必要な医療処置などの情報が記載された「診療情報提供書(紹介状)」を作成します。
そして、地域の訪問診療クリニックに連絡を取り、情報を提供して受け入れを依頼します。
退院前には、前述の「退院前カンファレンス」を開き、病院スタッフと訪問診療クリニックのスタッフ、ケアマネジャーなどが顔を合わせ、在宅療養がスムーズに開始できるよう、情報の引き継ぎや役割分担の確認を行います。
家族からの相談・申込み方法と初回訪問まで
現在ご自宅で療養されていて、これから訪問診療を始めたいという場合は、いくつかの相談先があります。
- かかりつけの病院やクリニック
- 担当のケアマネジャー
- 地域の訪問診療クリニック(直接連絡)
- 市区町村の高齢者相談窓口(地域包括支援センター)
いずれかの窓口に相談すると、地域の訪問診療クリニックを紹介してくれます。クリニックに連絡を取ると、まずは患者さんの状態やご家族の希望などについて、電話などで詳しく聞き取りがあります。
その後、実際に医師やスタッフがご自宅を訪問し、診療内容や費用、緊急時の対応などについて説明を行い、同意が得られれば契約となります。
そして、あらかじめ決めた日時に、最初の計画的な訪問診療が開始されます。
相談から初回訪問までの一般的な流れ
| 段階 | 主な内容 | 関わる人 |
|---|---|---|
| 相談・問い合わせ | 現在の状況を伝え、訪問診療が可能か相談する。 | 家族、ケアマネジャー、クリニックの相談員 |
| 初回面談・契約 | 医師やスタッフが自宅を訪問。診療計画や費用について説明を受け、契約する。 | 患者、家族、医師、クリニックのスタッフ |
| 初回訪問診療 | 計画に基づいて、最初の定期訪問と診察が行われる。 | 患者、家族、医師、看護師 |
介護保険サービスとの連携・調整方法
在宅療養は、訪問診療という医療サービスだけで成り立つものではありません。
訪問看護、訪問介護(ヘルパー)、訪問リハビリテーション、デイサービス、福祉用具のレンタルといった、介護保険サービスとの連携がとても重要です。
これらのサービスの調整役を担うのがケアマネジャー(介護支援専門員)です。ケアマネジャーは、ご本人やご家族の希望を聞きながら、必要なサービスを組み合わせた「ケアプラン」を作成します。
訪問診療の医師は、このケアマネジャーと密に情報を交換し、医学的な視点からケアプランに対する助言を行います。
例えば、「床ずれのリスクが高いので、体位交換の回数を増やしてほしい」「リハビリは心臓に負担がかからない範囲で」といった具体的な指示を出すことで、医療と介護が一体となった質の高いケアが実現します。
緊急時対応と24時間体制の確保
ご自宅で療養していると、「夜中に熱が出た」「急に痛みが強くなった」といった予期せぬ事態が起こることがあります。
多くの訪問診療クリニックでは、そのような緊急時に備えて、24時間365日対応できる体制を整えています。契約時に緊急連絡先の電話番号が伝えられ、何かあればいつでも連絡・相談が可能です。
電話で看護師や医師が状況を聞き、必要に応じて臨時でご自宅へ往診したり、救急車の手配を指示したりします。
いざという時に頼れる医療機関があるという安心感は、ご本人とご家族にとって大きな心の支えとなります。
よくある質問
ここでは、訪問診療を検討する際によく寄せられる質問とその回答をまとめました。制度や費用など、具体的な疑問の解消にお役立てください。
- 訪問診療と往診は、どう違うのですか?
-
最も大きな違いは「計画性」です。訪問診療は、療養計画に基づいて定期的に(例えば月2回など)医師が訪問し、継続的な健康管理を行うものです。
一方、往診は、急な発熱や体調不良など、患者さんやご家族からの要請に応じて、その都度、不定期に訪問するものです。
訪問診療を受けている患者さんが急に体調を崩した際には、担当医が緊急で「往診」を行うことになります。
- 費用はどのくらいかかりますか?
-
訪問診療にかかる費用は、お持ちの医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療制度など)が適用され、自己負担割合(1割〜3割)に応じた金額となります。
基本的な診察料に加え、行った検査や処置、交通費などが加わります。また、24時間対応の体制をとっているクリニックの場合は、その体制に対する費用が加算されることがあります。
具体的な費用は患者さんの状態や診療内容によって異なりますので、契約前の面談時に詳しく確認することが大切です。
訪問診療にかかる費用の内訳例
費用の種類 内容 基本的な診療費 月々の訪問回数に応じた定額の費用。在宅時医学総合管理料など。 出来高の費用 行った検査、処置、注射、点滴などにかかる費用。 その他の費用 交通費(実費)、診断書などの文書作成料など。(保険適用外) - 家族が日中不在でも利用できますか?
-
はい、ご利用いただけます。ただし、患者さんご本人の同意があり、お一人で受け答えができる状態であることが前提となります。
認知症などでご本人の意思確認が難しい場合は、ご家族の立ち会いをお願いすることがあります。
ご家族がお仕事などで不在にされることが多い場合でも、訪問看護師など他のサービス提供者と訪問時間を調整し、連携することで対応可能です。
ご家庭の状況に合わせて柔軟に対応しますので、まずはご相談ください。
- どんな薬でも処方してもらえますか?
-
訪問診療では、医師が必要と判断したお薬を処方します。基本的には、院外処方箋を発行し、お近くの薬局で薬を受け取っていただく形になります。
ご自身で薬局へ行くのが難しい場合は、薬剤師がご自宅まで薬を届けてくれる「在宅患者訪問薬剤管理指導(訪問服薬指導)」という制度を利用することもできます。
この制度を利用すると、薬剤師がお薬の管理や説明、副作用の確認なども行ってくれます。特別な医療機器が必要な専門的な薬など、一部対応が難しい場合もあります。
- すぐに開始できますか?
-
ご相談いただいてから、初回訪問までにはある程度の時間が必要です。まずは現在の病状や生活のご様子を詳しくお伺いし、必要であればかかりつけ医からの情報提供をお願いします。
その後、初回面談と契約を経て、診療計画を立ててから最初の訪問となります。
一般的には、ご相談から1週間から2週間程度で開始となることが多いですが、緊急性が高い場合は、より迅速に対応することもあります。
退院に合わせて開始する場合は、入院中から早めに相談を始めることがスムーズな移行につながります。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

