地域密着型訪問診療の取り組み – 多職種連携で支える在宅医療体制のご紹介

地域密着型訪問診療の取り組み - 多職種連携で支える在宅医療体制のご紹介

住み慣れたご自宅で安心して医療を受けたい、という想いに応える「訪問診療」。

この記事では、訪問診療がどのような医療サービスなのか、外来診療とどう違うのかという基本的な内容から、地域に根ざした医療体制の重要性までを詳しく解説します。

特に、医師や看護師だけでなく、薬剤師やリハビリ専門職、ソーシャルワーカーなど、多くの専門家が連携して一人の患者さんを支える「多職種連携」の仕組みに焦点を当てます。

ご自身やご家族が在宅での療養を考える際の、確かな情報源となることを目指します。

目次

地域密着型訪問診療とは何か

ご自宅で療養生活を送る患者さんのもとへ、医師が定期的に訪問し、計画的な医療を提供するのが訪問診療です。

単に医療を提供するだけでなく、患者さんが暮らす地域全体の医療・介護資源と連携し、その人らしい生活を支えることが重要になります。

ここでは、訪問診療の基本的な考え方と、地域に密着したアプローチがなぜ大切なのかを解説します。

訪問診療の基本的な定義と特徴

訪問診療は、お一人での通院が困難な患者さんのために、医師がご自宅や入居施設へ定期的に訪問して診療を行う医療サービスです。

多くの場合は、月に2回など、あらかじめ診療計画を立てて訪問します。病気の治療だけでなく、症状の管理や予防、療養生活に関する相談など、総合的な健康管理を担います。

突発的な体調不良時に医師が駆けつける「往診」とは異なり、訪問診療は計画的かつ継続的な医療を提供する点に大きな特徴があります。

患者さんの生活の場で診療を行うため、普段の暮らしぶりやご家族の状況を理解した上で、より現実に即した医療を提供できます。

従来の外来診療との違いと優位性

外来診療は患者さんが医療機関に足を運ぶのに対し、訪問診療は医療を提供する側が患者さんのご自宅へ向かいます。この違いは、患者さんやご家族にとって多くの優位性を生み出します。

例えば、通院に伴う身体的な負担や待ち時間がありません。また、医師が患者さんの生活環境を直接見ることで、より具体的で実践的な療養指導が可能になります。

訪問診療と外来診療の比較

項目訪問診療外来診療
診療場所患者さんのご自宅・施設病院・クリニック
待ち時間原則として無い発生する場合がある
生活環境の把握容易困難

地域密着型アプローチの重要性

患者さんが安心して在宅療養を続けるためには、診療所の力だけでは十分ではありません。地域の病院、薬局、介護事業所など、さまざまな機関との緊密な連携が必要です。

地域密着型のアプローチでは、こうした地域の医療・介護資源を熟知した上で、患者さん一人ひとりに合わせた最適な支援体制を構築します。

例えば、緊急で入院が必要になった際にスムーズに近隣の病院へつなげたり、退院後に在宅医療へ移行する患者さんを円滑に受け入れたりできます。

これらの緊密な連携により、患者さんは住み慣れた地域で切れ目のない医療・介護サービスを受けることが可能になります。

訪問診療クリニックの体制と診療範囲

訪問診療を提供するクリニックは、患者さんがご自宅で安心して過ごせるよう、さまざまな体制を整えています。診療できるエリアから、対応可能な疾患、緊急時の備えまで、その体制は多岐にわたります。

ここでは、一般的な訪問診療クリニックが持つ機能や診療範囲について具体的に見ていきましょう。

診療対象エリアと移動時間の配慮

多くの訪問診療クリニックでは、質の高い医療を迅速に提供するため、診療対象エリアをクリニックから車で一定時間内(例えば30分圏内)の地域に定めています。

移動時間が短いほど、緊急時に素早く駆けつけることができ、また、一日に訪問できる患者さんの数も増え、より多くの時間を一人の患者さんの診療に充てることが可能になります。

移動時間と診療の質への影響

移動時間緊急時対応診療の質
短い(~30分)迅速な対応が可能一人の患者さんにより時間をかけられる
長い(30分~)到着までに時間がかかる移動時間が診療時間を圧迫する可能性がある

診療可能な疾患と対応範囲

訪問診療では、内科系の慢性疾患から、がんの終末期ケア、特定の難病まで、幅広い疾患に対応します。通院が困難であれば、どのような疾患でも相談の対象となり得ます。

また、単に病気を診るだけでなく、床ずれ(褥瘡)の処置、経管栄養や在宅酸素療法の管理、点滴など、ご自宅で行う医療的な管理(医療処置)も重要な役割です。

  • 高血圧、糖尿病などの生活習慣病
  • 脳梗塞後遺症、パーキンソン病などの神経疾患
  • がん、老衰などの終末期ケア
  • 認知症

緊急時対応システムの構築

在宅療養中の患者さんやご家族にとって、夜間や休日などの急な体調変化は大きな不安要素です。そのため、多くの訪問診療クリニックでは、24時間365日対応可能な緊急連絡体制を整えています。

まずは電話で看護師などが状況を伺い、必要に応じて臨時で往診したり、救急要請の判断を助けたりします。

この体制があることで、万が一の時も慌てずに行動でき、安心して在宅療養を続けられます。

緊急時対応の流れ(例)

手順内容担当者
1.緊急連絡指定の緊急連絡先に電話する患者さん・ご家族
2.状況の聞き取り電話で症状や状況を詳しく確認する看護師・医師
3.対応の判断往診、救急要請、経過観察などを判断し指示する医師

医療機器・設備の充実度

訪問診療でも、ご自宅でさまざまな検査や処置が可能です。医師や看護師は、ポータブル式の医療機器を携行して訪問します。

例えば、超音波検査(エコー)装置があれば、その場でお腹や心臓の状態を確認できます。

また、心電計や血液検査機器なども持ち運び可能なものがあり、病院の外来と遜色ないレベルの検査が行える場合もあります。

これらの機器を活用することで、病状をより正確に把握し、適切な治療につなげることができます。

多職種連携による包括的ケア体制

在宅療養を支えるのは、医師や看護師だけではありません。患者さんの生活全体を支えるためには、さまざまな専門知識を持つ職種がチームとして関わることが重要です。これを「多職種連携」と呼びます。

薬の専門家である薬剤師、リハビリを行う療法士、生活の相談に乗るソーシャルワーカーなどがそれぞれの専門性を発揮し、情報を共有しながら、一人の患者さんを多角的に支援します。

医師・看護師による基本診療体制

医師は、診察や治療方針の決定、薬の処方など、医学的な判断の中心を担います。

一方、看護師は、医師の指示に基づき点滴や褥瘡の処置といった医療的ケアを行うほか、日々の健康状態のチェック、療養上のアドバイス、ご家族からの相談対応など、患者さんに最も身近な立場で心身両面のサポートを行います。

両者が緊密に連携し、それぞれの役割を果たすことが、質の高い在宅医療の基本となります。

医師と看護師の主な役割分担

職種主な役割関わりの特徴
医師診断、治療方針決定、処方医学的判断の中心
看護師医療処置、健康管理、療養相談患者さんに最も身近な存在

薬剤師との連携による服薬管理

複数の薬を服用している高齢の患者さんにとって、正しい服薬管理は非常に重要です。

飲み忘れや飲み間違いを防ぐため、訪問薬剤師がご自宅を訪れ、薬のセット(一包化)や服薬カレンダーの整理、薬の効果や副作用の確認などを行います。

医師や看護師と連携し、薬に関する情報を共有することで、より安全で効果的な薬物治療を実現します。

理学療法士・作業療法士との協力

寝たきりの予防や、日常生活動作(食事、着替え、トイレなど)の維持・向上を目指し、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)がご自宅でリハビリテーションを行います。

患者さんの心身の状態や生活環境に合わせて、無理のない個別プログラムを作成し、機能回復を支援します。ご自宅の環境でリハビリを行うことで、より実践的で生活に即した訓練が可能です。

在宅リハビリテーションの主な内容

職種主な目的訓練内容の例
理学療法士(PT)基本的動作能力の回復起き上がり、歩行訓練、関節の運動
作業療法士(OT)応用的動作能力の回復食事や着替えの練習、趣味活動

ソーシャルワーカーとの地域連携

ソーシャルワーカー(社会福祉士など)は、療養生活におけるさまざまな「困りごと」の相談に乗る専門家です。

医療費や生活費に関する経済的な問題、介護保険サービスの利用方法、家族関係の悩みなど、幅広い相談に対応します。

患者さんやご家族の状況を丁寧に聞き取り、必要な社会資源(公的制度やサービス)につなげることで、生活面から在宅療養を支えます。

  • 介護保険や医療保険制度の案内
  • 経済的な問題に関する相談
  • 地域の福祉サービスの情報提供

栄養士による食事指導サポート

在宅療養において、食事は治療の一環であると同時に、日々の楽しみでもあります。

管理栄養士は、患者さんの病状や飲み込みの力(嚥下機能)に合わせて、栄養バランスの取れた食事内容や調理方法を提案します。

低栄養の予防・改善や、糖尿病・腎臓病などの食事制限がある場合のサポートを行い、食べる喜びを支えながら健康維持を目指します。

地域医療機関との連携ネットワーク

一人の患者さんが安心して療養生活を送るためには、訪問診療クリニックだけでなく、地域のさまざまな医療・介護機関が協力し合うネットワークが欠かせません。

入院が必要な時に対応してくれる病院、専門的な治療を行う医療機関、日々の生活を支える介護事業所などが顔の見える関係を築き、情報を共有することで、切れ目のない支援が可能になります。

近隣病院との紹介・逆紹介システム

在宅療養中に病状が悪化し、入院による集中的な治療が必要になることがあります。このような場合に備え、訪問診療クリニックは近隣の協力病院と密な連携体制を築いています。

患者さんの情報を速やかに共有し、スムーズに入院できるよう手配します(紹介)。

逆に、病院での治療を終えて退院する際には、病院から在宅療養の情報提供を受け、切れ目なく訪問診療を開始します(逆紹介)。

病院と診療所の連携(紹介・逆紹介)

連携の方向目的情報の流れ
紹介(診療所→病院)入院による専門的治療診療情報提供書で患者情報を共有
逆紹介(病院→診療所)退院後の在宅医療への移行退院時サマリーで治療経過を共有

専門医療機関との協力体制

訪問診療で対応する疾患は多岐にわたりますが、時には皮膚科や眼科、精神科といった、より専門的な見地からの診断や治療が必要となる場合があります。

その際は、地域の専門医と連携を取ります。

専門医に往診を依頼したり、ご家族の協力が得られる場合は専門クリニックへの受診を調整したりして、患者さんがご自宅にいながら専門的な医療を受けられるよう支援します。

介護事業所との情報共有

在宅療養を支える上で、介護サービスの力はとても重要です。

ケアプランを作成するケアマネジャー(介護支援専門員)を中心に、訪問介護(ヘルパー)や訪問看護、デイサービスなどの介護事業所と定期的に情報を共有します。

サービス担当者会議などを通じて、医療と介護の両面から患者さんの状態を評価し、支援方針を統一することで、より質の高いチームケアを提供します。

行政機関との連携体制

地域の高齢者福祉や介護に関する公的な相談窓口である、地域包括支援センターや市区町村の担当部署とも連携します。

経済的に困難な状況にある方への公的支援制度の紹介や、虐待が疑われるケースへの対応など、医療や介護だけでは解決が難しい問題について、行政機関と協力して取り組みます。

患者さん・ご家族への支援体制

訪問診療は、患者さんご本人だけでなく、日々介護を担うご家族を支えることも大切な役割です。

病気や介護に対する不安を軽減し、ご家族が自身の時間や健康を保ちながら介護を続けられるよう、さまざまな角度からサポートを提供します。

ここでは、相談から診療開始後のフォロー、ご家族への具体的な支援内容について解説します。

初回相談から診療開始までの流れ

訪問診療の利用を検討される場合、まずはクリニックへの電話相談から始まります。患者さんの現在の病状や生活の様子、ご家族の希望などを伺い、訪問診療が適しているかを判断します。

その後、医師や相談員がご自宅を訪問して面談を行い、診療内容や費用について詳しく説明し、ご納得いただいた上で契約、診療開始となります。

訪問診療開始までの流れ(例)

段階主な内容関わる人
1.相談電話等で現在の状況を伝えるご家族、ケアマネジャー等
2.初回面談医師・相談員が訪問し、説明と意向確認を行う医師、相談員、患者さん、ご家族
3.契約・計画作成契約手続きと、今後の訪問診療計画の作成相談員、医師
4.診療開始計画に基づき、定期的な訪問診療を開始医師、看護師

定期診療における丁寧なフォロー

定期的な訪問診療では、単に診察と投薬を行うだけではありません。患者さんやご家族との対話を大切にし、体調の変化だけでなく、生活の中での小さな不安や困りごとにも耳を傾けます。

この対話を通じて信頼関係を築き、何でも気軽に相談できる存在となることを目指します。この積み重ねが、病状の早期発見や精神的な安定につながります。

ご家族への介護指導とサポート

ご家族が安心して介護に取り組めるよう、具体的な支援を行います。

例えば、痰の吸引や床ずれの予防といった医療的なケアの方法、楽な姿勢で行える体位交換の仕方など、日々の介護で役立つ技術を丁寧にお伝えします。

また、介護疲れや精神的なストレスを軽減するため、ご家族の悩みを聞き、時には介護保険のショートステイなどを利用して休息を取ることを提案するなど、ご家族自身のケアも重視します。

  • 医療的ケアの指導(吸引、経管栄養など)
  • 身体的負担の少ない介護技術の助言
  • 介護者の精神的サポート、傾聴

よくある質問

訪問診療について、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。サービスを利用する上での疑問や不安の解消にお役立てください。

訪問診療と往診の違いは何ですか?

訪問診療は、通院が困難な方のために、あらかじめ計画を立てて定期的(例:月2回)に医師が訪問し、継続的な健康管理を行うものです。

一方、往診は、突発的な発熱や体調不良など、患者さんの求めに応じてその都度、臨時で医師が訪問するものです。

普段から訪問診療を受けている患者さんが急に具合が悪くなった場合は、担当医が臨時で往診することがあります。

費用はどのくらいかかりますか?

費用は、医療保険(および介護保険)が適用されます。自己負担額は、お持ちの保険証の種類や収入によって定められた負担割合(1割~3割)によって決まります。

また、月の医療費自己負担額には上限(高額療養費制度)が定められています。

具体的な金額は、診療内容や訪問回数によって異なりますので、初回面談の際などに詳しく説明を受けることができます。

家族が同居していなくても利用できますか?

はい、お一人暮らしの方や、日中ご家族が不在の方でも利用できます。

その場合、ご本人の状態に応じて、訪問看護やヘルパーなどの介護サービスと連携し、必要な支援体制を整えます。

離れて暮らすご家族とも電話や書面で定期的に連絡を取り合い、ご本人の状況を共有することも可能です。

夜間や休日に急に具合が悪くなったらどうすればよいですか?

多くの訪問診療クリニックでは、24時間365日対応の緊急連絡先を用意しています。まずはそちらへお電話ください。

電話口で看護師などが症状を詳しくお伺いし、医師と連携して、緊急往診の必要性や救急車を呼ぶべきかなど、適切な対応を判断しお伝えします。

薬はどのように受け取りますか?

いくつかの方法があります。一般的には、訪問診療の医師が処方箋を発行し、それをご家族が院外の薬局へ持参して薬を受け取ります。

また、薬局によっては、薬剤師がご自宅まで薬を届けてくれる「在宅患者訪問薬剤管理指導(訪問服薬指導)」というサービスもあります。

このサービスを利用すると、服薬管理の相談もでき、より安心です。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

目次