アルツハイマー病の原因物質とは – アミロイドβとタウの最新知見

アルツハイマー病の原因物質とは - アミロイドβとタウの最新知見

アルツハイマー病は、もの忘れなどの症状が徐々に進行する病気です。ご本人やご家族の生活に大きな影響を与えるこの病気の根本には、脳の中に異常なタンパク質が蓄積することが関わっています。

この記事では、アルツハイマー病の主な原因物質と考えられている「アミロイドβ」と「タウ」という2つのタンパク質に焦点を当てます。

これらの物質が脳の中でどのように変化し、神経細胞にどのような影響を与えるのかを、現在の研究で分かってきている知見に基づいて、分かりやすく解説していきます。

病気の成り立ちを理解することは、ご自身や大切な方のこれからを考える上で重要な一歩となります。

目次

アルツハイマー病の原因物質とは

アルツハイマー病の理解を深める上で、その発症に深く関わる2つのタンパク質の存在を知ることが重要です。それは「アミロイドβ(アミロイドベータ)」と「タウ」です。

これらは本来、私たちの脳が正常に機能するために必要な役割を担っています。

しかし、何らかの理由でその性質が変化し、脳内に異常な形で溜まり始めると、神経細胞を傷つけ、認知機能の低下を引き起こす原因となります。

この章では、これらのタンパク質が持つ本来の働きと、病的な状態で見せる異常な振る舞いの基本について解説します。

アミロイドβとタウタンパク質の基本的な役割

私たちの体は、多種多様なタンパク質によって成り立っています。脳も例外ではなく、アミロイドβとタウは、健康な脳の活動を支える重要な構成員です。

これらが正常に機能している間は、特に問題を起こすことはありません。むしろ、神経細胞の成長や維持、細胞内の物質輸送など、生命活動に欠かせない働きをしています。

アルツハイマー病は、これらのタンパク質が本来の姿を失い、異常な構造に変化してしまうことから始まります。

正常な脳における両タンパク質の機能

アミロイドβは、より大きな「アミロイド前駆体タンパク質(APP)」から作られる断片です。正常な状態では、神経細胞の活動調整や、損傷からの保護に関与していると考えられています。

作られては分解され、常に一定のバランスが保たれています。

一方、タウは神経細胞の中にある「微小管(びしょうかん)」という構造を安定させる役割を持ちます。微小管は、細胞内の骨格のようなものであり、栄養素や情報を運ぶためのレールとしても機能します。

タウがこのレールをしっかりと支えることで、神経細胞は健康な状態を維持し、細胞間の情報伝達をスムーズに行うことができます。

正常時のアミロイドβとタウの働き

タンパク質主な存在場所正常な状態での主な役割
アミロイドβ神経細胞の外神経活動の調整、神経保護作用
タウ神経細胞の中細胞内の輸送路(微小管)の安定化

病的状態での異常な蓄積

アルツハイマー病では、この2つのタンパク質の生産と除去のバランスが崩れます。

アミロイドβは過剰に作られるか、あるいは分解がうまくいかなくなり、神経細胞の外側に凝集して「老人斑(ろうじんはん)」または「アミロイド斑」と呼ばれるシミのような塊を形成します。

タウは、異常に多くのリン酸基が結合する「過剰リン酸化」という状態に陥ります。

この変化により、タウは微小管から離れてしまい、タウ同士で絡み合って「神経原線維変化(しんけいげんせんいへんか)」という異常な線維の塊を神経細胞の中に作ります。

これらの異常な蓄積物が、神経細胞の機能を妨げ、最終的には細胞死に至らせる主要な原因となります。

アミロイドβの蓄積と病理学的変化

アルツハイマー病の病理学的な特徴として、最も早くから注目されてきたのがアミロイドβの蓄積です。この蓄積は、認知機能の低下といった症状が現れるずっと前から、静かに脳内で始まっています。

ここでは、アミロイドβがどのように作られ、なぜ脳内に溜まってしまうのか、そしてその蓄積が脳にどのような影響を及ぼすのかを詳しく見ていきます。

この一連の流れを理解することは、早期発見や予防的介入の重要性を知る上で役立ちます。

アミロイドβの産生と分解の正常な状態

アミロイドβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)という膜タンパク質が、特定の酵素によって切断されることで産生されます。

この切断には複数の酵素が関与しますが、特に「β(ベータ)セクレターゼ」と「γ(ガンマ)セクレターゼ」という2つの酵素の働きが重要です。

これらの酵素がAPPを切断すると、アミロイドβが細胞外へ放出されます。

健康な脳では、放出されたアミロイドβは分解酵素によって速やかに除去されたり、脳の外へ排出されたりするため、蓄積することはありません。

アミロイドβの産生と分解に関わる主な酵素

酵素の種類役割アルツハイマー病との関連
βセクレターゼAPPを切断しアミロイドβ産生の起点となるこの酵素の活動が亢進すると産生が増加する
γセクレターゼAPPの最終切断を行いアミロイドβを放出させる遺伝性アルツハイマー病ではこの酵素の変異が見られる
分解酵素(ネプリライシン等)産生されたアミロイドβを分解・除去する加齢などによりこの酵素の働きが低下すると蓄積しやすくなる

老人斑形成の進行

アルツハイマー病の脳では、産生と分解のバランスが崩れ、アミロイドβが脳内に溜まり始めます。

特に「アミロイドβ42」という少し長くて凝集しやすいタイプのアミロイドβが増加することが問題となります。まず、アミロイドβの単体が複数集まり、「オリゴマー」と呼ばれる小さな塊を作ります。

このオリゴマーは神経細胞に対する毒性が非常に高いと考えられています。オリゴマーがさらに集まり、線維状の構造を経て、最終的に「老人斑」という大きな凝集体を形成します。

この老人斑の周りには、炎症反応を起こした細胞などが集まり、さらなる脳組織の障害を引き起こします。

老人斑の主な種類と特徴

種類特徴脳への影響
びまん性老人斑境界が不明瞭で、初期段階で見られる神経細胞への毒性は比較的低いとされる
古典的老人斑(典型的老人斑)中心に密な芯があり、周囲を異常な神経突起が囲む強い神経毒性と炎症反応を引き起こす

アミロイドβ蓄積の脳への影響

アミロイドβの蓄積、特に毒性の高いオリゴマーの存在は、脳の機能に多岐にわたる悪影響を及ぼします。神経細胞同士の接合部である「シナプス」の機能を低下させ、情報伝達を阻害します。

このシナプス機能の障害が、記憶力の低下の直接的な原因の一つです。また、アミロイドβの蓄積は、脳内の免疫細胞であるミクログリアを過剰に活性化させ、持続的な炎症状態を引き起こします。

この慢性的な炎症が、さらに神経細胞を傷つけるという悪循環を生み出します。

  • シナプス機能の障害による情報伝達の阻害
  • 神経細胞に対する直接的な毒性
  • 脳内での慢性的な炎症反応の誘発
  • タウタンパク質の異常蓄積の促進

発症前段階での蓄積開始時期

衝撃的な事実ですが、アミロイドβの脳内蓄積は、もの忘れなどの認知機能障害の症状が現れる15年から20年以上も前から始まっていることが分かっています。

つまり、本人が自覚症状なく日常生活を送っている間にも、脳内では病的な変化が静かに進行しているのです。

この「発症前アルツハイマー病」の期間に蓄積の有無を検出し、進行を食い止めることが、将来の認知症発症を予防する上で極めて重要と考えられています。

タウタンパク質の異常と神経原線維変化

アミロイドβが神経細胞の「外」で問題を起こすのに対し、タウタンパク質は神経細胞の「中」で異常を引き起こします。

タウの異常は、アルツハイマー病の症状の重症度とより密接に関連していると考えられており、特に記憶を司る脳の領域に大きなダメージを与えます。

この章では、正常なタウがどのようにして異常なタウへと変化し、神経細胞を内側から破壊していくのか、そしてそれがどのようにして記憶障害に直結するのかを解説します。

タウタンパク質のリン酸化異常

タウタンパク質の機能は、リン酸基という化学物質の結合によって精密に調節されています。正常な状態では、適度な数のリン酸基が結合し、タウが微小管に適切に結合するのを助けています。

しかし、アルツハイマー病の脳では、リン酸化酵素の活動が異常に高まり、タウに過剰なリン酸基が結合してしまいます。これを「タウの過剰リン酸化」と呼びます。

過剰にリン酸化されたタウは、本来の立体構造を維持できなくなり、微小管から剥がれ落ちてしまいます。

神経原線維変化の形成

微小管から剥がれ落ちた異常なタウは、行き場を失い、細胞質内で凝集し始めます。これらが互いに絡み合い、最終的に不溶性の線維の塊である「神経原線維変化」を形成します。

この神経原線維変化が神経細胞の中に溜まると、細胞内の物質輸送システムは完全に崩壊します。栄養や情報が細胞内に行き渡らなくなり、神経細胞は正常な機能を維持できなくなります。

タウの異常化と神経細胞への影響

段階タウの状態神経細胞への影響
正常適度にリン酸化され、微小管に結合細胞内輸送路が安定し、細胞機能は正常
初期異常過剰にリン酸化され、微小管から解離輸送路が不安定になり、シナプス機能が低下し始める
進行期凝集し、神経原線維変化を形成細胞内輸送が停止し、細胞が死に向かう

タウ病理と神経細胞死の関係

神経原線維変化が蓄積した神経細胞は、最終的に死に至ります。タウの病理は、脳の中でも特定の領域から始まり、予測可能なパターンで広がっていく特徴があります。

最初は、記憶形成に中心的な役割を果たす「海馬」やその周辺領域から始まり、徐々に大脳皮質の広範な領域へと波及していきます。

このタウ病理の広がりと、脳の萎縮や認知機能低下の程度は、非常によく相関することが知られています。つまり、タウの異常蓄積が広がれば広がるほど、症状は重くなるのです。

記憶機能への直接的影響

アルツハイマー病の初期に新しいことが覚えられなくなる「記銘力障害」が顕著に現れるのは、タウの病理が記憶の中枢である海馬を早期に侵すためです。

海馬の神経細胞が機能不全に陥り、死滅していくことで、新しい情報を記憶として定着させる能力が失われます。

  • 新しい出来事の記憶(エピソード記憶)の障害
  • 日付や場所が分からなくなる見当識障害
  • 病状が進行すると、古い記憶も失われる

このように、タウの異常はアルツハイマー病の中核的な症状である記憶障害に直接的に結びついており、その進行をいかに食い止めるかが治療における大きな課題となっています。

アミロイドβとタウの相互作用

アルツハイマー病の研究において、アミロイドβとタウは長年、それぞれ独立した原因物質として研究されてきました。

しかし、近年の研究により、この2つのタンパク質は互いに深く関連し合い、協力して神経細胞を傷つけていることが明らかになってきました。

一方がもう一方の異常を加速させるという、負の連鎖反応が存在するのです。ここでは、この2つの悪役がどのように連携し、病状を悪化させていくのかについて解説します。

アミロイドカスケード仮説の概要

アルツハイマー病の発症に関する最も有力な説として「アミロイドカスケード仮説」があります。

これは、「脳内でのアミロイドβの蓄積が、アルツハイマー病における一連の病的変化の最初の引き金になる」という考え方です。

この仮説によれば、まずアミロイドβの蓄積が先行して起こり、それが下流にあるタウの異常(過剰リン酸化と神経原線維変化の形成)を誘発し、最終的に広範な神経細胞死と認知機能障害に至る、という一連の流れを想定しています。

つまり、アミロイドβが全ての元凶である、という考え方です。

両タンパク質の病理学的連鎖反応

では、具体的にアミロイドβはどのようにしてタウの異常を引き起こすのでしょうか。

まだ完全には解明されていませんが、アミロイドβの蓄積、特に毒性の高いオリゴマーが、神経細胞にストレスを与え、タウのリン酸化を促進する酵素(リン酸化キナーゼ)を活性化させると考えられています。

この活性化によりタウの過剰リン酸化が始まり、神経原線維変化の形成へとつながっていきます。

つまり、アミロイドβが「種火」となり、タウが「燃え広がる炎」のような関係にあるとイメージすると分かりやすいかもしれません。

アミロイドβとタウの病理学的連鎖

段階主な出来事脳内で起きていること
第一段階(引き金)アミロイドβの産生・分解バランスの破綻アミロイドβオリゴマーが形成され始める
第二段階(連鎖)アミロイドβ蓄積によるタウの異常化タウの過剰リン酸化が起こり、微小管が不安定になる
第三段階(拡大)タウ病理の拡大と神経細胞死神経原線維変化が形成され、脳の萎縮と症状が進行する

相互作用における時間的経過

この2つのタンパク質の異常蓄積には、時間的なずれがあります。前述の通り、アミロイドβの蓄積は症状が出る20年近く前から始まります。

一方、タウの異常蓄積が本格的に始まるのは、アミロイドβの蓄積がある程度進行してからです。そして、タウの蓄積が脳内で広がり始めると、認知機能の低下が顕著になってきます。

この時間差は、診断や治療を考える上で非常に重要です。

アミロイドβの蓄積を早期に発見し、タウの病理が広がる前に介入することができれば、発症を遅らせたり、進行を緩やかにしたりできる可能性があります。

診断技術と治療への応用

かつてアルツハイマー病の確定診断は、死後の脳を調べることによってしかできませんでした。

しかし、研究の進歩により、生きている間に脳内のアミロイドβやタウの蓄積を直接的、あるいは間接的に捉える技術が登場しました。

これらの技術は、早期診断を可能にし、治療薬の開発にも大きく貢献しています。ここでは、現在用いられている診断技術と、それらの知見を応用した治療法の現状について紹介します。

血液バイオマーカーによる早期診断

近年、最も注目されているのが、少量の血液を調べることで脳内の病的な変化を推定する「血液バイオマーカー」です。

脳内にアミロイドβやリン酸化タウが蓄積すると、その一部が血液中にも漏れ出してきます。

このごく微量なタンパク質を特殊な技術で測定することにより、脳内の蓄積の有無を高い精度で判定できるようになりました。

この検査は、体への負担が少なく、多くの人が受けやすいという利点があります。これにより、症状が出る前の段階でリスクを把握し、生活習慣の改善など早期の対策につなげることが期待されます。

  • 血漿アミロイドβ42/40比
  • 血漿リン酸化タウ(p-tau181, p-tau217など)

PET検査による脳内蓄積の可視化

アミロイドPETやタウPETは、脳内に蓄積したアミロイドβやタウを画像として直接写し出すことができる画期的な検査です。

特殊な薬剤を注射し、それが脳内の標的タンパク質に結合する様子をPETカメラで撮影します。

この検査により、どのくらい蓄積があるのか、脳のどの部位に分布しているのかを一目瞭然で確認できます。確定診断や、治療薬の効果判定などに用いられます。

主な診断技術の比較

検査方法分かること利点と課題
血液バイオマーカー脳内のアミロイドβやタウ蓄積の可能性利点:低侵襲、簡便。課題:まだ新しい検査で保険適用外の場合がある。
アミロイドPET脳内のアミロイドβ蓄積の量と分布利点:直接的な証拠が得られる。課題:高額、実施可能な施設が限られる。
タウPET脳内のタウ蓄積の量と分布利点:症状との関連が強い。課題:アミロイドPET以上に実施施設が限られる。

抗アミロイドβ抗体治療の現状

アミロイドカスケード仮説に基づき、脳内に蓄積したアミロイドβを除去することを目的とした治療薬の開発が進められてきました。その代表が「抗アミロイドβ抗体薬」です。

これは、アミロイドβに特異的に結合する抗体を点滴で投与し、脳内のアミロイドβを免疫の力で除去する薬です。

いくつかの薬が臨床試験で脳内のアミロイドβを減少させ、病気の進行を緩やかにする効果を示し、日本や米国で承認されています。

ただし、この治療は早期のアルツハイマー病患者さんが対象であり、誰にでも使えるわけではありません。また、副作用のリスク管理も重要です。

主な抗アミロイドβ抗体薬

薬剤名(一般名)特徴主な副作用
レカネマブ毒性の高いオリゴマーやプロトフィブリルを標的とするアミロイド関連画像異常(ARIA)、注入に伴う反応
ドナネマブ(海外承認)既に蓄積したアミロイド斑を標的とし、除去効率が高いアミロイド関連画像異常(ARIA)

訪問診療における診断の実際

訪問診療の現場では、必ずしもPETのような高度な画像検査をすぐに行えるわけではありません。

しかし、ご本人やご家族から詳しくお話を聞く問診、認知機能テスト、そして血液検査などを組み合わせることで、アルツハイマー病の可能性をかなり高い精度で診断することが可能です。

特に、血液バイオマーカーの登場は、在宅の現場でも早期診断への道を開くものとして期待されています。

診断がついた後は、薬物療法だけでなく、生活環境の調整や介護サービスの導入など、ご自宅で穏やかに過ごすための総合的な支援計画を立てていきます。

予防と生活指導の最新知見

アルツハイマー病は、発症のずっと前から脳内で変化が始まっていることから、その進行を食い止め、発症を遅らせる「予防」の観点が非常に重要視されています。

現在のところ、発症を完全に防ぐ方法は確立されていませんが、特定の生活習慣が発症リスクを低減させる可能性が多くの研究で示されています。

ここでは、日常生活の中で取り組むことができる予防的な介入や、ご家族ができる支援について解説します。

生活習慣による蓄積予防効果

日々の生活習慣は、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβやタウの蓄積に影響を与えることが分かってきています。

特に、運動、食事、知的活動、社会的なつながり、そして質の良い睡眠が重要です。例えば、定期的な運動は脳の血流を改善し、アミロイドβを分解する酵素の働きを活発にすることが知られています。

これらの健康的な生活習慣は、アルツハイマー病だけでなく、高血圧や糖尿病といった他の生活習慣病の予防にもつながり、全身の健康を保つ上で大切です。

認知機能の維持に役立つ生活習慣

生活習慣具体的な内容期待される効果
運動ウォーキング、水泳などの中等度の有酸素運動脳血流の改善、神経保護因子の増加
食事野菜、果物、魚、全粒穀物を中心とした食事抗酸化作用、抗炎症作用
知的活動読書、パズル、楽器演奏、新しいことの学習脳の予備能(認知予備能)の向上

認知機能維持のための介入方法

認知機能の維持を目指す上で、単一の介入よりも複数のアプローチを組み合わせることが効果的です。

  • 食事指導(地中海食やDASH食など、抗酸化・抗炎症作用のある食事が推奨される)
  • 運動プログラム(有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ)
  • 認知トレーニング(脳トレや学習など、頭を使う習慣)
  • 社会参加(趣味の会やボランティア活動への参加)

これらの介入は、脳の神経ネットワークを活性化させ、ダメージに対する抵抗力、いわゆる「認知予備能」を高めるのに役立ちます。

たとえ脳に多少の病理変化があったとしても、認知予備能が高ければ症状として現れにくいことが分かっています。

家族への指導と支援体制

ご本人が認知症と診断された場合、あるいはその疑いがある場合、ご家族の役割は非常に大きくなります。しかし、ご家族だけで全てを抱え込む必要はありません。

訪問診療では、病気に関する正しい情報を提供し、ご本人の状態に合わせた具体的な接し方や、生活環境の整え方について助言します。

例えば、安全な住環境の確保、日々のスケジュールを分かりやすく提示すること、ご本人の自尊心を傷つけないようなコミュニケーションの工夫などが挙げられます。

また、介護保険サービスや地域のサポート団体など、利用できる社会資源についての情報を提供し、ご家族の負担を軽減するための支援体制を共に考えます。

よくある質問

ここでは、アルツハイマー病の原因に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

アルツハイマー病は遺伝するのでしょうか?

アルツハイマー病には、特定の遺伝子変異によって若い年齢(65歳未満)で発症する「家族性(遺伝性)アルツハイマー病」と、多くの患者さんが当てはまる「孤発性アルツハイマー病」があります。

家族性アルツハイマー病は全体の1%未満と非常に稀です。

ほとんどの孤発性アルツハイマー病は、単一の遺伝子で決まるわけではなく、APOE遺伝子型などの遺伝的なリスク因子と、加齢や生活習慣といった環境的な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

ご家族に患者さんがいる場合、発症リスクはやや高まる可能性がありますが、必ずしも遺伝するわけではありません。

最近もの忘れが気になります。すぐに詳しい検査を受けるべきですか?

年齢とともにもの忘れが増えること自体は、自然な老化現象の一部である場合も多いです。

しかし、もの忘れの頻度が増えたり、以前はできていたことができなくなったりするなど、日常生活に支障が出始めている場合は、一度専門医に相談することをお勧めします。

特に、新しい出来事を丸ごと忘れてしまう、時間や場所が分からなくなるなどの症状は注意が必要です。

かかりつけ医や地域の相談窓口、専門医療機関に相談することで、適切な評価やアドバイスを受けることができます。

治療で完全に治すことはできますか?

残念ながら、2024年現在、アルツハイマー病を完全に治癒させ、失われた記憶を取り戻す治療法はまだありません。

しかし、近年登場した抗アミロイドβ抗体薬のように、病気の進行そのものに働きかけ、そのスピードを緩やかにする治療が可能になってきました。

また、薬物療法だけでなく、リハビリテーションや生活環境の調整、適切なケアを組み合わせることで、認知機能をできるだけ長く維持し、穏やかな生活を送ることは十分に可能です。

治療の目標は「完治」だけでなく、「病気と共により良く生きる」ことにも置かれています。

家族として、本人にどのように接すれば良いですか?

ご本人は、できなくなることが増えていくことに対して、誰よりも不安や混乱、悲しみを感じています。その気持ちに寄り添い、自尊心を尊重する姿勢が大切です。

間違いを強く指摘したり、試すような質問をしたりすることは避けましょう。本人が混乱しているときは、穏やかな口調で安心させ、話題を変えるなどの対応が有効な場合があります。

また、できることは自分でやってもらい、さりげなく手助けをすることで、本人の自立心を支えることも重要です。

介護は長期にわたるため、ご家族だけで抱え込まず、訪問診療のスタッフやケアマネジャーなど専門家のサポートを積極的に活用してください。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

目次