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訪問診療の基礎知識訪問診療と訪問看護

住み慣れた自宅で療養生活を送る際、最も頼りになる存在が医師と看護師です。

しかし、具体的に「医師は何をしてくれるのか」「看護師はどこまで対応できるのか」、その境界線や連携の仕組みを詳しく理解している方は多くありません。

訪問診療と訪問看護は、それぞれが独立して動くのではなく、車の両輪のように密接に関わり合うことで、患者様の安全と安心を支えています。

医師は医学的な判断と治療方針の決定を担い、看護師はその指示を受けて日々のケアや生活の細やかな変化を見守ります。

本記事では、この二つのサービスがどのように役割を分担し、どのように連携して在宅医療を支えているのかを、制度や現場の実情を交えて徹底的に解説します。

これから在宅医療を始める方や、現在の体制に不安を感じている方にとって、より良い療養生活の指針となる情報をお届けします。

訪問診療と訪問看護はセット?併用するメリットと役割の違い

訪問診療と訪問看護は、互いに異なる専門性を持ちながら補完し合う関係にあり、多くの在宅療養の現場では両者を併用することで、より質の高い生活と安全な医療環境を実現しています。

医師が月2回程度の定期的な診察で治療の枠組みを作るのに対し、訪問看護師はより頻繁に訪問し、生活の場における医療の実践と心身の状態観察を担います。

この二つを組み合わせることで、病状の変化をいち早く察知し、重症化を防ぐための迅速な対応が可能になります。

医師による医学的管理と看護師による生活支援の融合

在宅医療の現場では、病院とは異なり、医療機器や設備が整っていない環境で治療を継続する必要があります。

ここで重要になるのが、医師による医学的な管理と、看護師による生活に密着した支援の融合です。医師は診断に基づき、処方薬の調整や治療計画の立案、検査の指示を行います。

これは、病気を治す、あるいは症状をコントロールするための根幹となる部分です。

一方で、看護師はその治療計画が実際の生活の中で無理なく実施されているかを確認します。

例えば、医師が処方した薬であっても、患者様が飲み忘れていたり、副作用で飲むのを嫌がっていたりすることがあります。

看護師はこうした状況を把握し、服薬カレンダーを用いて管理方法を工夫したり、医師に薬の形状変更を提案したりします。

食事や排泄、入浴といった日常生活動作(ADL)の支援を通じて、患者様の体力が維持されているか、新たな健康問題が生じていないかを専門的な視点で観察するのも重要な役割です。

医師の「医学的視点」と看護師の「生活的視点」が重なり合うことで、無理のない持続可能な療養生活が形作られます。

それぞれの専門性が発揮される場面

医師は診断や検査、死亡診断書の作成といった法的に医師のみに許された行為を行います。

対して看護師は、患者様やご家族の不安を聞き取り、精神的なケアを行ったり、介護用品の選定についてアドバイスを行ったりと、療養生活の質(QOL)を直接的に高める役割を担います。

このように役割分担が明確であるからこそ、両者が揃うことで隙のないサポート体制が構築できるのです。

在宅生活を支えるための両者の具体的な業務範囲

訪問診療と訪問看護の役割を整理すると、それぞれが担当する領域と、連携して行う領域が見えてきます。

以下に、医師と看護師それぞれの主な役割と業務内容を比較して示します。

項目訪問診療医の役割訪問看護師の役割
基本方針治療方針の決定、医学的判断、診断診療補助、生活支援、療養上の世話
頻度月2回程度の定期訪問(必要時往診)週1回〜3回程度(プランによる)
処置・対応処方箋発行、検査、死亡確認、診断書作成点滴管理、創傷処置、清拭、服薬管理
緊急時医学的指示、入院調整、緊急往診初期対応(トリアージ)、医師への報告

表からも分かるように、医師は「決定と指示」を行い、看護師は「実施と観察」を主に行います。

もちろん、看護師もアセスメント(評価)を行い、自律的にケアの内容を調整しますが、医療行為に関しては必ず医師の指示に基づいて動きます。

具体的には、床ずれ(褥瘡)の処置を例に挙げると分かりやすいでしょう。医師は床ずれの状態を診断し、どのような軟膏や被覆材を使用するかを決定します。

看護師は、その指示に従って毎回の訪問時に処置を行い、傷の変化を記録し、写真を撮って医師に報告します。もし傷が悪化していれば、次回の訪問診療を待たずに医師へ連絡し、指示を仰ぎます。

このように、業務範囲は異なりますが、常に情報を共有し合うことで一つのチームとして機能します。

併用することで得られる安心感と緊急時の対応力

訪問診療と訪問看護を併用する最大のメリットは、「目」が増えることによる安心感と、トラブルが起きた際の対応力です。

医師の訪問がない週であっても、看護師が訪問することで、患者様の体調変化を見逃すリスクが大幅に減ります。ご家族にとっても、定期的に医療者が来てくれることは大きな精神的支えとなります。

特に、夜間や休日に体調が急変した場合、訪問診療のみの契約では、医師が別の患者様の対応中であればすぐに連絡がつかない、あるいは到着に時間がかかるといった不安が生じる可能性があります。

しかし、訪問看護も利用していれば、まずは訪問看護ステーションに連絡を入れることで、看護師が緊急訪問して状況を確認し、応急処置を行うことができます。

看護師からの専門的な報告があれば、医師も状況を正確に把握でき、往診の必要性や救急搬送の要否を迅速に判断できます。

この「二重のセーフティネット」こそが、在宅療養を継続するための鍵となります。

訪問看護指示書とは何か|在宅診療医が発行する書類の期限

訪問看護サービスを利用するためには、「訪問看護指示書」という書類が必要不可欠です。

これは主治医が「この患者様には訪問看護が必要である」と医学的に判断し、具体的なケアの内容や注意点を訪問看護ステーションに対して指示する公的な文書です。

この指示書がなければ、たとえ患者様が希望しても、看護師が医療保険や介護保険を使って訪問看護を提供することはできません。

指示書の役割と記載されている重要事項

訪問看護指示書は、いわば看護師に対する「処方箋」のような役割を果たします。

ここには、患者様の病名や現在の病状はもちろんのこと、服薬の状況、実施すべき処置の内容、リハビリテーションの指示、緊急時の連絡先などが詳細に記載されています。

具体的には、点滴や胃ろうの管理、酸素療法の設定数値、床ずれの処置方法などが細かく指定されます。

また、医学的な指示だけでなく、「独居のため服薬確認を重点的に行ってほしい」「家族への介護指導をお願いしたい」といった、生活背景を踏まえた留意事項が書かれることもあります。

看護師はこの指示書の内容を遵守し、指示の範囲内でケアを行います。

もし指示書に記載のない医療処置が必要になった場合は、改めて医師に連絡を取り、指示を仰ぐか、指示書の書き換えを依頼する必要があります。

こうしたルールが、医療の安全性を担保しているのです。

有効期間のルールと更新手続きの流れ

訪問看護指示書には有効期間が定められています。一度発行されれば永久に使えるものではなく、定期的な更新が必要です。主なルールは以下の通りです。

  • 指示書の有効期間は、原則として最大で6ヶ月と定められています。
  • 患者様の病状が不安定な場合は、1ヶ月や3ヶ月など短期間に設定されることもあります。
  • 有効期間が切れる前に、訪問看護ステーション等から医師へ更新依頼を行います。
  • 更新にあたっては医師による診察が必要となり、未受診の場合は発行できません。
  • 記載内容に変更がない場合でも、日付を更新した新しい指示書の発行が必要です。

ご家族や患者様が直接手続きを行うケースは少ないですが、診察の際に医師から「訪問看護は続けていきますか?」と確認されることがあります。継続を希望する場合はその旨を伝えましょう。

また、病院を退院して在宅医療へ移行する際は、病院の医師が最初の指示書を作成し、その後、在宅担当の医師(訪問診療医)が引き継いで発行する流れが一般的です。

この移行期間に空白ができないよう、退院調整の段階で看護師や相談員が連携を取ります。期限切れによるサービス中断を防ぐためにも、定期的な受診を欠かさないことが大切です。

訪問看護師ができる医療処置|医師不在時の対応範囲を解説

訪問看護師は、医師の指示書に基づき、病院で行うのと同等の多岐にわたる医療処置を自宅で行うことができます。

多くの処置は医師がその場にいなくても、看護師単独で実施可能です。そのため、医療依存度の高い方でも、入院せずに自宅で生活を続けることができます。

ただし、すべての医療行為ができるわけではなく、法的に認められた範囲と、医師の具体的な指示がある場合に限られます。

医師の指示に基づき実施可能な具体的処置

看護師が実施できる処置は、日々の健康管理から高度な医療機器の管理まで幅広いです。

以下に、在宅で頻繁に行われる処置と、その際の看護師の役割を整理します。

処置の区分具体的な処置内容留意点
管(カテーテル)管理尿道カテーテル交換、胃ろうの管理交換は医師の指示頻度に従う。トラブル時は即時対応。
呼吸管理在宅酸素療法、人工呼吸器の管理、吸引機器の数値設定確認や、家族への操作指導も含む。
点滴・注射皮下注射、筋肉注射、静脈点滴抗生剤や高カロリー輸液の投与。針の刺し替えも実施。
処置・ケア床ずれ処置、人工肛門(ストーマ)ケア洗浄や薬剤塗布。皮膚状態の観察と保護方法の指導。

これらの処置は、医師が作成した手順や指示書に基づいて行われます。

例えば点滴の場合、医師が薬剤を処方し、指示書に「1日1回、〇〇mlを〇時間で投与」と記載します。看護師はその指示通りに実施し、点滴が漏れていないか、副作用が出ていないかを確認します。

家族への指導や医療機器の管理について

訪問看護師の重要な役割の一つに、患者様ご本人やご家族への「指導」があります。

看護師が24時間常にそばにいるわけではないため、看護師が不在の時間帯は、ご家族がある程度のケアを担う場面が出てきます。

例えば、痰の吸引や、胃ろうからの栄養剤の注入、インスリン注射などは、医師と看護師の指導のもと、一定の訓練を受けたご家族が実施することが認められています。

看護師は、ご家族が安全に手技を行えるよう、わかりやすく指導し、手技の確認を行います。不安がある場合は何度も一緒に練習し、自信を持って実施できるようサポートします。

また、在宅酸素濃縮器や輸液ポンプなどの医療機器についても、正常に動作しているかの確認や、アラームが鳴った時の対処法を指導します。

機器メーカーとも連携し、故障時の連絡体制を整えるのも看護師の役割です。

医師不在時に看護師が判断できることとできないこと

看護師は専門的な知識を持っていますが、独断で医療行為を行うことは法律で禁じられています。

看護師が判断できること

患者様の状態を観察し、緊急性が高いかどうかを判断すること(トリアージ)は看護師の重要な職務です。

「血圧が下がっている」「意識レベルが低下している」といった兆候から、すぐに救急車を呼ぶべきか、まずは主治医に連絡すべきかを判断します。

また、あらかじめ医師から「熱が〇〇度以上出たら解熱剤を使用する」といった条件付きの指示(包括的指示)が出ている場合は、その範囲内で薬剤を使用する判断ができます。

ケアの方法、例えば清拭の手順や体位変換の工夫などは、看護師の裁量で最善の方法を選択します。

看護師が判断できないこと

新たな薬剤の投与や、現在行っている治療の中止・変更は、看護師の判断では行えません。例えば「痛そうだから痛み止めを増やそう」と勝手に薬を追加することはできません。

必ず医師に状況を報告し、医師の新たな指示(口頭指示含む)を得てから実施します。

死亡確認も医師のみができる行為であり、看護師が死亡診断を行うことはできません(医師到着までの処置や対応は行います)。

訪問診療のみで訪問看護を使わない選択は可能?判断基準解説

「訪問看護まで頼むと費用がかさむ」「他人(看護師)が頻繁に家に来るのは気が引ける」といった理由で、訪問診療のみを利用し、訪問看護は利用しないという選択を希望される方もいらっしゃいます。

結論から申し上げますと、制度上は訪問診療のみの利用も可能です。

しかし、それが安全かつ持続可能であるかどうかは、患者様の病状やご家族の介護力によって大きく異なります。

訪問看護を利用しなくても生活が成り立つケース

訪問看護を導入せず、医師の定期訪問だけで在宅療養を継続できているケースには、いくつかの共通点があります。

以下のような条件が揃っている場合、訪問看護なしでも生活が成り立つ可能性があります。

  • 病状が長期間にわたって安定しており、急変のリスクが極めて低い状態であること。
  • 定期的な医療処置(点滴、バルーンカテーテル交換、インスリン注射など)が必要ないこと。
  • 服薬管理が患者様ご本人、または同居のご家族によって完璧に行われていること。
  • 入浴や排泄などの日常ケアにおいて、介護ヘルパーや家族の支援で十分に充足していること。
  • ご家族に医療的な知識や経験があり、些細な変化に気づいて適切に対処できる能力があること。

例えば、高血圧や糖尿病などの慢性疾患で病状が落ち着いており、基本的には薬を飲むだけでコントロールできているような場合は、月2回の医師の訪問で十分な管理ができる可能性があります。

また、介護保険サービスのデイサービスやショートステイを積極的に利用し、日中の見守りや入浴などのケアが外部で完結している場合も、訪問看護の必要性は低くなります。

家族の介護力が問われる場面と負担の現実

訪問看護を利用しない場合、その分だけご家族にかかる負担と責任は重くなります。

看護師がいれば気付くような「小さな異変」が見過ごされ、気づいた時には重症化して入院が必要になるというケースは少なくありません。

特に、床ずれの予防や皮膚トラブルの早期発見、便秘や脱水の兆候の把握などは、専門的な視点がないと難しいものです。

ご家族が「なんとなく元気がない」と感じていても、それが緊急性を要するものなのか、様子を見て良いものなのかの判断は困難です。

訪問看護師がいれば、週に一度でも訪問して全身状態をチェックし、プロの目による「安心」を提供できます。

老々介護や独居に近い状態など、介護力が十分でない環境で訪問看護を削ることはリスクが高いと言えます。

費用面での懸念がある場合は、訪問回数を最小限(週1回など)に抑えたり、状態が安定している間は隔週にしたりと、柔軟なプランをケアマネジャーや医師と相談することをお勧めします。

完全にゼロにするのではなく、最低限のつながりを持っておくことが、いざという時の命綱になります。

24時間の連絡先はどっち?訪問診療と訪問看護の緊急時連携

在宅医療を選択する際、最大の不安要素となるのが「夜中や休日に具合が悪くなったらどこに連絡すれば良いのか」という点です。

24時間365日の対応体制を持っている訪問診療クリニックと訪問看護ステーションを利用している場合、基本的にはどちらも連絡可能ですが、役割分担に基づいた効率的な連絡ルートが存在します。

通常は、まず訪問看護ステーションに連絡を入れることが推奨されるケースが多いです。

最初の連絡窓口となる訪問看護ステーションの役割

多くの連携体制において、緊急時のファーストコール(第一報)は訪問看護ステーションが受け付けます。これには明確な理由があります。

看護師はトリアージ(緊急度の選別)のプロフェッショナルであり、電話口でご家族から状況を聞き取ることで、今すぐ医師が必要か、救急車を呼ぶべきか、あるいは看護師が訪問して様子を見れば良いかを冷静に判断できるからです。

医師は診察中や移動中であることが多く、電話に出られない場面も想定されます。

一方、24時間対応体制をとっている訪問看護ステーションでは、当番の看護師が専用の携帯電話を常時携帯しており、確実につながりやすい体制を整えています。

看護師がまず状況を整理し、医学的な情報をまとめて医師に伝えることで、医師は的確かつ迅速な判断を下すことができます。

このワンクッションがあることで、情報の錯綜を防ぎ、スムーズな対応が可能になります。

医師への連絡が必要となる判断基準と流れ

では、どのような流れで医師へ情報が伝わり、連携が図られるのでしょうか。典型的な緊急対応のフローを以下に示します。

ステップアクション担当者
1. 通報患者様・ご家族が異変に気づき、緊急連絡先へ電話。ご家族 ➡ 訪問看護
2. 状況確認電話で症状を聴取。緊急度を判断し、必要なら緊急訪問へ出発。訪問看護師
3. 医師報告聴取内容または訪問後の所見を医師へ報告。指示を仰ぐ。訪問看護師 ➡ 主治医
4. 医師判断報告に基づき、往診、救急搬送、薬剤使用などの指示を出す。主治医
5. 実施医師の指示に従い処置を実施。または医師が現場へ到着し治療。看護師・主治医

明らかに心停止している場合や、一刻を争う事態(大量吐血や激しい呼吸困難など)の場合は、訪問看護への連絡を飛ばして、直接救急車(119番)を呼ぶことが最優先です。

その上で、救急隊が到着するまでの間に訪問看護や主治医へ連絡を入れるのが理想的です。

夜間や休日の急変時に動く連携の仕組み

夜間や休日は、通常の外来診療が行われていないため、在宅医療チームの連携力が試される時間帯です。

訪問看護師が緊急訪問し、例えば「熱が高い」という状況であれば、医師に電話で指示を仰ぎながら座薬を入れたり、クーリング(冷却)を行ったりします。

もし「尿が出ない」ということであれば、カテーテルの詰まりを確認し、交換が必要ならその場で実施します。

看護師の処置だけでは対応しきれない場合、例えば「強い心不全症状があり、酸素投与や利尿剤の静脈注射が必要」と判断されれば、医師が夜間であっても往診に向かいます。

地域によっては、主治医が動けない場合に備えて、地域の医師会や連携クリニックが代行して往診するシステムを構築している場合もあります。

いずれにせよ、訪問看護師が現場の「目」となり、医師が「頭脳」となって動くことで、24時間途切れのない医療を提供しています。

ご家族は、事前に渡された「緊急時連絡先リスト」を目立つ場所に貼っておき、迷ったらまずは電話をかけることが大切です。

医療保険と介護保険の訪問看護|在宅医療での適用の仕組み

訪問看護を利用する際、費用負担や利用限度額に関わる重要な要素が「保険の種類」です。訪問看護は、医療保険と介護保険のどちらでも利用可能ですが、自由に選べるわけではありません。

原則として「どちらの保険を優先して使うか」というルールが厳格に定められています。この仕組みを理解しておくことで、ケアプランの作成や費用の見通しが立てやすくなります。

介護保険が優先される原則と対象者

日本において、65歳以上の方(第1号被保険者)および40歳から64歳で特定疾病に認定された方(第2号被保険者)が要介護・要支援認定を受けている場合、訪問看護は原則として「介護保険」が優先的に適用されます。

介護保険での訪問看護は、ケアマネジャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画)の中に組み込まれます。

介護保険には要介護度に応じた支給限度基準額(単位数)があり、訪問看護も他の介護サービス(ヘルパーやデイサービスなど)と枠を分け合って利用することになります。

そのため、訪問看護を毎日利用したいと思っても、限度額オーバーとなり全額自己負担が発生する可能性があるため、他のサービスとのバランス調整が必要です。

介護保険には利用回数や時間に一定の制限がある一方で、リハビリテーション中心の訪問看護など、生活機能の維持・向上を目指す支援が受けやすいという特徴があります。

自己負担割合は所得に応じて1割〜3割となります。

医療保険が適用される特定の疾患と状態

「介護保険優先の原則」には例外があります。以下の特定の条件に当てはまる場合は、要介護認定を受けている方であっても、自動的に「医療保険」の適用に切り替わります。

医療保険が適用されると、介護保険の支給限度額とは別枠で計算されるため、介護サービスの枠を圧迫せずに訪問看護を利用できるというメリットがあります。

条件・状態具体例・詳細適用ルール
厚生労働大臣が定める疾病等(別表7)末期の悪性腫瘍、難病(ALS、パーキンソン病等)、多発性硬化症、頸髄損傷など週4回以上の訪問が可能。2箇所以上のステーション利用も可。
特別訪問看護指示書の発行急性増悪期、退院直後、看取りの時期(ターミナルケア)一時的に医療保険に切り替わる(最大14日間など)。
精神科訪問看護認知症以外の精神疾患(統合失調症、うつ病など)での利用精神科訪問看護指示書に基づき医療保険適用。

また、要介護認定を受けていない40歳未満の方や、40歳以上でも要介護認定非該当(自立)の方は、最初から医療保険での訪問看護利用となります。

医療保険の場合、基本的には週3回までという制限がありますが、上記の「別表7」に該当する疾病や状態であれば、その制限を超えて毎日訪問することも可能です。

このように、病気の種類やその時々の状態によって適用される保険が切り替わる仕組みは非常に複雑です。

そのため、ご自身で判断せず、主治医やケアマネジャー、訪問看護ステーションの管理者に確認することが大切です。

特別訪問看護指示書が出るタイミング|急性期や看取りの対応

通常、介護保険や医療保険での訪問看護には訪問回数の制限がありますが、病状が急激に悪化した場合や、最期の時をご自宅で迎えようとする時期には、より手厚い看護が必要です。

こうした状況に対応するために発行されるのが「特別訪問看護指示書」です。

これは、主治医が「今、集中的なケアが必要である」と判断した期間に限り、通常のルールを超えて頻回に訪問看護を利用できるようにする特別なカードのようなものです。

急性増悪時や退院直後に発行されるケース

特別訪問看護指示書は、主に以下のようなタイミングで発行されます。

  • 肺炎や心不全の悪化など、病状が急激に変化(急性増悪)し、頻繁な観察や処置が必要な場合。
  • 病院から退院した直後で、在宅での生活環境が整うまで集中的な支援が必要な場合。
  • 高カロリー輸液(点滴)を開始した直後や、人工呼吸器などの管理が不安定な場合。
  • 重度の床ずれ(真皮を超える褥瘡)に対する専門的な処置が必要な場合。

この指示書が発行されると、介護保険を利用している方でも一時的に「医療保険」の適用に切り替わります。有効期間は指示書発行日から最大14日間です。

この期間中は、週4回以上の訪問が可能になり、必要であれば毎日、あるいは1日に複数回の訪問(難病等の一部を除き原則1日3回まで)を受けることができます。

こうした手厚い体制が、不安定な時期を乗り越え、再び安定した療養生活に戻るための支えとなります。なお、月に1回(条件により2回)まで交付することができます。

自宅での看取りを支える頻回訪問の必要性

人生の最期を自宅で過ごしたいと願う方にとって、特別訪問看護指示書は非常に重要な意味を持ちます。

死期が迫った状態(ターミナル期)においては、身体的な苦痛の緩和(疼痛コントロール)や、ご本人・ご家族の精神的なケアのために、きめ細やかな対応が求められます。

看取りの時期には、刻一刻と状態が変化します。

特別訪問看護指示書があれば、午前中に点滴のために訪問し、夕方に痛みの確認のために再訪問し、夜間に不安がるご家族のために再度様子を見に行く、といった柔軟な対応が可能になります。

また、2箇所の訪問看護ステーションが連携して訪問に入ることも認められるようになり、より強固な見守り体制を作ることができます。

医師はこの時期、ご家族と緊密に相談しながら、適切なタイミングでこの指示書を発行します。

「最期まで家で診てあげられるだろうか」というご家族の不安を、医師と看護師がチームとなって支え、穏やかな時間を過ごせるよう全力を尽くします。

特別訪問看護指示書は、そのための制度的なバックアップ機能と言えるでしょう。

よくある質問

訪問診療と訪問看護は同じ法人でないといけませんか?

いいえ、同じ法人である必要はありません。訪問診療を行うクリニックと、訪問看護ステーションが別々の法人であっても問題なく連携できます。

実際、多くのケースで異なる法人のサービスを組み合わせて利用しています。

大切なのは、日頃から電話やICTツール(医療介護連携SNSなど)を使って密に情報共有ができているかどうかです。

ケアマネジャーが調整役となり、実績のある連携の良い組み合わせを提案してくれることもありますので、ご相談ください。

医師の診察時に看護師も同席しますか?

基本的には、訪問診療(医師の診察)の時間に合わせて訪問看護師が同席することは必須ではありません。医師は医師のスケジュールで、看護師は看護師のスケジュールで動きます。

ただし、初めての診察時や病状が大きく変化した時、退院直後のカンファレンスなどの重要な場面では、あえて時間を合わせて同席し、情報共有や方針のすり合わせを行うことがあります。

同席がない場合でも、「看護記録」や「診療情報提供書」を通じて情報は共有されています。

途中で訪問看護ステーションを変更できますか?

はい、変更可能です。

「相性が合わない」「来てほしい時間帯に対応してもらえない」「より専門的なケアが必要になった」などの理由で変更を希望される場合は、まずケアマネジャーに相談してください。

新しいステーションを探し、契約を結び直すことができます。

その際、主治医にも変更の旨を伝え、新しいステーション宛ての訪問看護指示書を再発行してもらう手続きが必要になります。

家族が不在でも訪問診療や看護は受けられますか?

可能です。独居の方や、日中ご家族が仕事で不在の場合でも、鍵の管理方法(キーボックスの利用やご家族から預かるなど)を取り決めた上で、医師や看護師が訪問してケアを行います。

診察やケアの内容については、連絡ノートや電話、メールなどでご家族へ報告する体制をとっている事業所がほとんどです。

ただし、認知症が進行している場合や、重要な医療判断が必要な場面では、ご家族の同席や電話での即時対応をお願いすることがあります。

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