訪問診療と往診は何が違う?仕組みの差と使い分けを徹底解説

訪問診療と往診は何が違う?仕組みの差と使い分けを徹底解説

体調が悪く通院が難しい状況になったとき、医師が自宅に来てくれるサービスは患者や家族にとって大きな支えとなります。

しかし、「訪問診療」と「往診」という二つの言葉が混同され、どちらを選べばよいのか迷うケースが少なくありません。

結論から言えば、訪問診療は「計画的かつ継続的な医療管理」であり、往診は「突発的な症状への臨時対応」です。この二つは目的も費用も、そして利用すべきタイミングも明確に異なります。

本記事では、それぞれの仕組みの違いを詳しく紐解き、患者の状態や生活環境に合わせてどちらを選択すべきか、判断の助けとなる情報を網羅的に解説します。

目次

訪問診療と往診の決定的な違いとは

訪問診療と往診の最大の違いは、診療が「計画的」に行われるか、それとも「臨時的」に行われるかという点にあります。

訪問診療は、通院が困難な患者に対して、あらかじめ定めたスケジュールに従って医師が定期的に自宅を訪れ、継続的な健康管理を行う医療サービスです。

一方で往診は、普段は元気な人や容体が安定している人が急な発熱や痛みなどを訴えた際に、患者や家族の要請を受けてその都度医師が駆けつける救急的な医療対応を指します。

継続性の有無こそが、両者を分ける境界線です。

計画的な医療提供と突発的な対応

訪問診療では、一週間や二週間に一度といった頻度で訪問日時をあらかじめ決定します。

患者の病状が安定しているときでも医師が訪問し、診察や検査、薬の処方管理を行うことで、病気の悪化を未然に防ぐことを主眼に置きます。

これは病院への入院治療を自宅で再現するようなイメージに近く、長期的な視点で患者の生活を支える医療です。

医師は患者の普段の状態を熟知しているため、些細な変化にも気づきやすく、予防医療としての側面も強く持ち合わせています。

対照的に往診は、予定外の事態に対応するための医療です。例えば、夜中に高熱が出たり、急にお腹が痛くなったりした場合に、病院へ行くことができない患者のために医師が自宅へ向かいます。

これはあくまで一時的な処置であり、症状が落ち着けば診療は終了します。継続的な管理を前提としていないため、往診のみで長期的な療養生活を支えることは一般的ではありません。

往診は困ったときの一時的な解決策であり、訪問診療は生活の一部として組み込まれる医療インフラといえます。

医療形態の比較

項目訪問診療往診
基本的な性質計画的・継続的臨時的・救急的
訪問のタイミング事前のスケジュール通り患者・家族の要請時
主な目的病状管理・予防・看取り急性症状の緩和・処置

対象となる患者の状態と目的

訪問診療の対象となるのは、原則として「自力での通院が困難な方」です。これには、加齢による身体機能の低下、認知症、末期がん、難病、重度の障害など、様々な理由が含まれます。

目的は単なる病気の治療にとどまらず、住み慣れた自宅で最期まで自分らしく過ごすための生活支援や、QOL(生活の質)の維持向上にあります。

在宅での看取りを希望する場合も、訪問診療による継続的な関わりが必要不可欠です。

一方、往診は必ずしも「通院困難な慢性疾患患者」だけに限定されません。普段は元気に生活している人が、インフルエンザやぎっくり腰などで一時的に動けなくなった場合も対象となり得ます。

もちろん、訪問診療を受けている患者が急変した際に、定期訪問とは別に医師を呼ぶことも「往診」に含まれますが、単発で依頼する場合の往診は、あくまで急場をしのぐための手段として機能します。

24時間365日体制の有無

訪問診療を行う医療機関の多くは、「機能強化型在宅療養支援診療所」などの認定を受けており、24時間365日の対応体制を整えています。

これは、夜間や休日であっても、契約している患者からの緊急連絡を受け付け、必要に応じて往診や入院の手配を行うという約束です。この安心感こそが、在宅医療を支える土台となっています。

往診のみを行っている、あるいは一般の外来診療の合間に往診を行う医療機関の場合、必ずしも24時間体制が敷かれているわけではありません。

診療時間外は対応できない、あるいは別の救急病院を案内されるというケースもあります。

継続的な契約を結ぶ訪問診療は、主治医が常にバックアップしてくれる体制が含まれているのに対し、単発の往診はその場限りの対応になることが多い点を理解しておくことが大切です。

訪問診療の具体的な仕組みと利用シーン

訪問診療は、病院への通院が物理的に難しい患者にとって、自宅が診察室代わりとなる仕組みです。

医師だけでなく、看護師や薬剤師、ケアマネジャーなど多職種が連携し、チームとして患者の生活を支えます。

定期的な訪問によって病状の安定を図り、入院することなく自宅での療養生活を継続可能にします。多職種連携によるチーム医療と、自宅で可能な幅広い医療処置について解説します。

定期的な医師の訪問スケジュール

訪問診療を開始すると、まずは患者の病状や家族の都合に合わせて訪問スケジュールを作成します。

一般的には月2回の頻度で設定されることが多いですが、病状が不安定な場合や、末期がんで緩和ケアが必要な場合などは、週1回やそれ以上の頻度で訪問することもあります。

このスケジュールは固定されており、患者や家族は医師が来る日時に合わせて準備を整えます。

定期訪問の際には、血圧や脈拍の測定、聴診といった基本的な診察に加え、普段の食事や睡眠、排泄の状況などを確認します。

医師はこれらを通じて体調のわずかな変化を察知し、薬の調整や生活上のアドバイスを行います。

家族にとっても、定期的に医師と顔を合わせて相談できる機会があることは、介護不安の軽減に大きく寄与します。待ち時間がなく、自宅のリラックスした環境で診察を受けられることも大きな利点です。

主な対応疾患例

  • 脳卒中(脳梗塞・脳出血)の後遺症による麻痺や通院困難
  • 認知症や老衰により一人での外出が危険な状態
  • 末期がんや神経難病など、自宅での緩和ケアや医療処置が必要な場合

慢性疾患の管理と予防医療の役割

高血圧、糖尿病、心疾患などの慢性疾患は、継続的な管理が途切れると重大な合併症を引き起こすリスクがあります。訪問診療では、こうした慢性疾患のコントロールを自宅で行います。

例えば、血液検査や尿検査を定期的に実施し、数値の変動を見逃さないようにします。必要であれば、ポータブルのエコー検査機器や心電図計を持ち込んで検査を行うことも可能です。

また、床ずれ(褥瘡)の予防や処置、誤嚥性肺炎を防ぐための嚥下機能評価なども重要な役割です。

在宅療養においては、病気を治すこと以上に「悪くしない」「生活機能を維持する」視点が重要になります。

医師は、患者が寝たきりにならないようなリハビリの指示を出したり、栄養状態を改善するための指導を行ったりして、包括的に健康を管理します。

薬の処方や検査体制の流れ

薬の処方については、院外処方箋が発行されることが一般的です。

医師が処方箋を作成し、それを家族が調剤薬局へ持ち込むか、あるいは「訪問薬剤管理指導」を利用して、薬剤師に自宅まで薬を届けてもらうことも可能です。

薬剤師が訪問する場合、残薬の管理や飲み合わせのチェック、服薬指導も受けられるため、薬の管理が不安な世帯にとっては非常に有用なサービスとなります。

検査に関しては、採血や検尿といった検体検査は自宅で問題なく実施できます。

高度な画像診断(CTやMRIなど)が必要と判断された場合は、連携している病院を紹介し、一時的に通院または搬送して検査を受ける手配を整えます。

つまり、訪問診療を利用しているからといって、高度医療へのアクセスが閉ざされるわけではなく、必要に応じて適切な医療機関への橋渡し役も担っているのです。

在宅で可能な医療処置

カテゴリ具体的な処置内容備考
管の管理尿道カテーテル、胃ろう、経鼻経管栄養定期的な交換・管理が可能
呼吸管理在宅酸素療法、人工呼吸器の管理、気管切開の処置専門的な機器の導入支援も含む
その他点滴・注射、床ずれ処置、疼痛管理(緩和ケア)麻薬を用いた痛みのコントロールも対応

介護サービスとの連携

在宅医療を成功させるためには、医療と介護の密接な連携が必要です。訪問診療医は、ケアマネジャーや訪問看護師、ヘルパーと情報を共有し、チーム全体で患者を支えます。

例えば、医師の指示に基づいて訪問看護師が日々のケアを行ったり、患者の身体機能の変化に合わせてケアマネジャーが介護プランを修正したりします。

定期的に開催される「担当者会議」には医師や看護師も参加し、関係者全員で情報のすり合わせを行います。

その結果、医療的な視点と生活支援の視点が融合し、患者にとって無理のない、かつ安全な療養環境が整備されます。

医師が介護保険の主治医意見書を作成することで、適切な要介護認定を受けるためのサポートも行います。

往診の役割と依頼するタイミング

往診は、予期せぬ体調不良に見舞われた際、病院へ行く手段がない患者にとっての命綱です。

しかし、すべてのケースですぐに医師が来てくれるわけではなく、また救急車を呼ぶべき状況との区別も重要になります。

往診はあくまで「緊急避難的な医療介入」であり、その役割と限界を正しく理解しておくことが、いざという時の適切な行動につながります。

急な発熱や痛みが起きた際の対応

高齢者や子供が夜間に高熱を出した、あるいは持病が悪化して動けなくなったといった状況は、往診が最も力を発揮する場面です。

依頼を受けた医師は、診療の合間や夜間の当直体制の中でスケジュールを調整し、患者の元へ駆けつけます。到着後はバイタルサインを確認し、問診や触診を行って原因を探ります。

その場で行える処置としては、解熱鎮痛剤の投与や点滴、応急処置などが主となります。インフルエンザやコロナウイルスの検査キットを持参している場合もあります。

医師はその場の症状を和らげることを最優先し、翌日以降に改めて専門の医療機関を受診するよう指示することが一般的です。

あくまで「つなぎ」の医療であることを認識しておく必要があります。

臨時的な診療としての位置づけ

往診は、一度きりの診療で完結することが多い医療形態です。医師と患者の間に継続的な契約関係はなく、その都度の依頼に基づいて診療行為が発生します。

そのため、医師は患者の過去の病歴や普段の状態を詳細に把握していないケースも多く、限られた情報の中で診断を下さなければなりません。

また、往診を依頼しても、医師のスケジュールや移動距離によっては対応を断られる場合もあります。

特に、過疎地域や医師不足の地域では、往診に対応できる医療機関を見つけること自体が困難なこともあります。

最近では、民間の往診代行サービスなどが都市部を中心に展開されていますが、公的な医療機関による往診体制は地域差が大きいのが実情です。

かかりつけ医がいない場合の選択肢

普段から病院に通っていない、あるいは引っ越してきたばかりでかかりつけ医がいない人が急病になった場合、往診は有力な選択肢の一つです。

病院の救急外来は待ち時間が長く、待合室での感染リスクも懸念されますが、往診であれば自宅で待機できるため、患者の身体的負担は軽減されます。

ただし、初診で往診を依頼する場合、カルテがないため、アレルギー情報や服薬情報を正確に医師に伝える準備が必要です。

お薬手帳や過去の検査結果などを手元に用意しておくと、スムーズな診療につながります。

かかりつけ医がいる場合は、まずはその医院に電話をして指示を仰ぐのが基本であり、知らない医師にいきなり往診を頼むのは次善の策と考えるべきです。

往診と救急車の判断基準

状況推奨される行動理由
意識がない・呼吸が苦しい迷わず救急車(119番)一刻を争う処置が必要なため
高熱だが意識は清明往診または救急相談自宅での処置で改善が見込める
激しい胸痛・麻痺症状迷わず救急車(119番)心筋梗塞や脳卒中の可能性があるため

救急車を呼ぶべきか迷った時の判断

「往診を頼むべきか、それとも救急車を呼ぶべきか」という判断は非常に難しいものです。

目安として、意識障害がある、激しい胸の痛みがある、呼吸困難がある、大量の出血があるといった生命に関わる兆候が見られる場合は、往診を待つのではなく、直ちに救急車を要請するべきです。

往診医が到着するまでの時間が、命取りになる可能性があるからです。

判断に迷う場合は、「#7119(救急安心センター事業)」などの電話相談窓口を利用することをお勧めします。

専門家が症状を聞き取り、救急車を呼ぶべきか、医療機関を受診すべきかのアドバイスをしてくれます。

往診は便利なサービスですが、重症救急患者に対応する設備(酸素マスク以上の呼吸管理機器や緊急手術の設備など)を車に積んでいるわけではないことを忘れてはいけません。

費用負担の仕組みと目安

在宅医療にかかる費用は、基本的に公的医療保険の適用対象となりますが、訪問診療と往診では算定される項目が異なります。

訪問診療の定額管理料と往診の出来高払いという構造の違いや、高額療養費制度による負担軽減について詳述します。

在宅時医学総合管理料とは何か

訪問診療を利用する場合、毎月の費用の中で大きなウェイトを占めるのが「在宅時医学総合管理料(在医総管)」です。

これは、医師が24時間365日体制で患者の状態を管理し、緊急時の対応を保障するための基本料金のようなものです。実際に医師が訪問した際の「訪問診療料」とは別に、月単位で定額が発生します。

この管理料は、患者の病状の重さや、単一の建物で何人を診療しているか(一戸建てか施設か)などによって点数が変動します。

これに加え、毎回の診察ごとに「訪問診療料」がかかります。つまり、訪問診療の費用は「月額固定の管理料」+「回数分の診療料」+「検査・処置・薬代」で構成されています。

往診料と交通費の考え方

一方、往診の場合は継続的な管理料は発生しません。その代わりに、医師が足を運ぶことに対する「往診料」が算定されます。

往診料は、通常の初診・再診料に加算される形となり、さらに緊急時(診療時間外)や夜間、深夜にはそれぞれの加算がつきます。

したがって、夜中に往診を依頼すると、日中の受診に比べて窓口負担額は高くなります。

また、忘れてはならないのが「交通費」です。

医療保険が適用される診療費とは別に、医療機関から自宅までの交通費(ガソリン代やタクシー代、あるいは規定の出張費)を実費として請求されることが一般的です。

この交通費部分は保険適用外となるため、医療機関によって設定金額が異なります。事前にホームページや電話で確認しておくことが大切です。

費用の構成要素比較

費目訪問診療往診
基本料金在宅時医学総合管理料(月額)なし
医師の訪問費用訪問診療料(回数分)往診料(緊急・夜間加算あり)
その他実費交通費、おむつ代などの衛生材料費交通費

高額療養費制度の活用

訪問診療を定期的に利用すると、月々の医療費が高額になることを心配される方も多いでしょう。

しかし、日本の医療制度には「高額療養費制度」があり、所得に応じて1ヶ月あたりの自己負担限度額が決められています。

この限度額を超えた分については、申請すれば払い戻しを受けることができます(または「限度額適用認定証」を提示すれば窓口での支払いを限度額まで抑えられます)。

75歳以上の後期高齢者の場合、一般的な所得区分であれば、通院(在宅医療含む)の自己負担上限額は月額18,000円(年間上限144,000円)程度に設定されているケースが多くあります(※制度改正により変動するため確認が必要です)。

この制度のおかげで、手厚い訪問診療を受けても、経済的な負担は一定の範囲内に収まる仕組みになっています。

どちらを選ぶべきか判断する基準

訪問診療を契約すべきか、それとも何かあった時だけ往診や通院で対応すべきか。

この選択は、患者の現在の身体状況だけでなく、家族の介護力や将来の見通しを総合的に考えて行う必要があります。

患者の状態と家族の負担を軸にした、適切な医療形態を選ぶための判断基準を整理します。

通院が困難な理由を整理する

まず考えるべきは、「なぜ通院ができないのか」という点です。

「一人で行くのが不安だが、タクシーを使えば行ける」レベルであれば、外来通院を継続する方がリハビリにもなり、社会との接点を保つ意味でも推奨されることがあります。

しかし、「通院するだけで体力を消耗し、その後数日間寝込んでしまう」「認知症で待合室にいることが苦痛」といった場合は、訪問診療への切り替えを検討すべきタイミングです。

通院介助をする家族の負担も重要な要素です。仕事や育児で忙しい家族が、仕事を休んで半日以上を通院に費やしている状況であれば、訪問診療を導入することで家族の生活を守ることができます。

医療を受けるために生活が破綻してしまっては本末転倒です。物理的な移動の可否だけでなく、社会的・精神的な負担も考慮に入れてください。

長期的な療養か一時的な不調か

病状の見通しも判断の鍵となります。

例えば、骨折をして一時的に歩けないが、数ヶ月すれば回復して元通り歩けるようになる場合は、その期間だけ往診や短期的なサポートを利用し、治ったら通院に戻るという選択が合理的です。

訪問診療を一度契約したからといって、一生続けなければならないわけではありません。

逆に、老衰、進行性の難病、認知症、末期がんなど、時間の経過とともに通院能力の回復が見込めない、あるいは徐々に低下していくことが予想される場合は、早い段階から訪問診療を導入することをお勧めします。

早期から医師との信頼関係を築いておくことで、状態が悪化した際にもスムーズな対応が可能となり、本人も家族も安心して過ごすことができます。

判断のためのチェックシート

  • 通院の準備から帰宅までに半日以上かかり、患者がぐったりしてしまう
  • 家族の通院介助が限界にきており、仕事や生活に支障が出ている
  • 退院を迫られているが、自宅での医療処置に不安がある

家族のサポート状況と負担軽減

在宅医療は、同居家族の協力なしには成立しにくい側面がありますが、独居や老老介護の世帯であっても、訪問診療と訪問看護、ヘルパーを組み合わせることで生活を維持することは可能です。

重要なのは、家族だけで抱え込まないことです。訪問診療医は、家族の介護負担を客観的に評価し、無理が生じないようにサービスを調整する役割も担います。

往診のみの対応では、日々の細かなケアや介護相談までカバーすることは難しく、家族が孤立してしまうリスクがあります。

家族が安心して日常を送るための「相談相手」としての機能を医師に求めるのであれば、定期的に顔を合わせる訪問診療の方が圧倒的に有利です。

レスパイトケア(介護者の休息)のための入院調整なども、日頃の状況を知る訪問診療医であればスムーズに進められます。

選択のマトリクス

患者の状況推奨される医療理由
通院困難かつ病状が慢性・進行性訪問診療継続的な管理と急変時の体制確保が必要
普段は元気だが急な発熱・怪我往診(または救急外来)一時的な処置で回復が見込めるため
一時的な歩行困難(骨折等)往診または短期訪問診療回復後は通院に戻ることが前提

訪問診療を始めるまでの流れ

訪問診療を導入しようと決めた場合、どのような手順で手続きを進めればよいのでしょうか。申し込みから実際の診療開始までには、いくつかの準備と調整が必要です。

スムーズに在宅医療へ移行するための、一般的な導入手順と準備について解説します。

相談窓口と問い合わせ先

訪問診療を希望する場合、まずは現在の主治医や病院の「地域連携室」、あるいは担当の「ケアマネジャー」に相談するのが一番の近道です。

彼らは地域の医療資源に詳しく、患者の状態に合った訪問診療クリニックを紹介してくれます。また、地域包括支援センターも有力な相談先です。

自分で探す場合は、インターネットで「地域名 + 訪問診療」と検索し、近隣のクリニックを探します。

直接クリニックに電話をして、「訪問診療を検討している」と伝えれば、相談員(ソーシャルワーカー)などが対応してくれます。

この段階で、現在の病状や住所、家族構成などを簡単に伝えます。

面談による診療方針の決定

多くのクリニックでは、診療を開始する前に事前の相談(面談)を行います。これは、患者や家族がクリニックに出向く場合もあれば、相談員が自宅を訪問して行う場合もあります。

この面談では、患者の病歴や現在の状態の確認だけでなく、「どのような療養生活を送りたいか」「最期をどこで迎えたいか」といった価値観のすり合わせを行います。

また、費用に関する説明や、緊急時の連絡方法、提携病院についての説明もこの場で行われます。不安な点や要望があれば、遠慮なく伝えることが大切です。

医師との相性やクリニックの方針が自分たちに合っているかを確認する重要な機会でもあります。

契約手続きと初回訪問の準備

方針に合意できれば、正式に契約を交わします。契約書や重要事項説明書への署名・捺印が必要です。また、これまでのかかりつけ医からの「診療情報提供書(紹介状)」の手配も進めます。

これは、これまでの治療経過を新しい医師に引き継ぐための極めて重要な書類です。

初回の訪問日が決まったら、駐車場の確保(自宅にない場合は近隣のコインパーキング情報の共有)やお薬手帳、保険証の準備をして待ちます。

初回は問診や身体診察に時間をかけ、今後の詳細な診療計画を立てていきます。ここから、自宅での新しい医療生活がスタートします。

準備が必要なものリスト

  • 健康保険証、介護保険証、後期高齢者医療被保険者証など
  • 現在服用している薬の内容がわかるもの(お薬手帳)
  • 前医からの診療情報提供書(紹介状)および画像データ等

導入までのタイムライン

段階内容目安期間
1. 相談・問い合わせケアマネや病院経由、または直接クリニックへ連絡開始希望の1〜2週間前
2. 事前面談・調整病状確認、システム説明、訪問スケジュールの仮決定問い合わせから数日以内
3. 契約・初回訪問書類手続き、診療情報提供書の提出、診療開始面談後、速やかに実施

よくある質問

最後に、訪問診療と往診の違いに関して寄せられることの多い疑問についてお答えします。

医師の指名や薬の受け取り方、夜間の緊急対応など、実際に利用を開始する前に解消しておきたい不安点をまとめました。

医師の指名は可能ですか?

基本的には、クリニックの体制や担当エリア、医師のスケジュールによって担当医が決まるため、指名が難しいケースが多いです。

しかし、女性医師を希望する場合や、特定の専門分野(緩和ケアや神経内科など)を持つ医師を希望する場合は、事前の相談段階で伝えてみることをお勧めします。

可能な範囲で配慮してくれるクリニックもあります。

薬はどこで受け取れますか?

訪問診療では院外処方箋が発行されます。家族が近隣の調剤薬局へ処方箋を持って行き、薬を受け取る方法が一般的です。

もし家族が薬局に行くことが難しい場合は、訪問対応を行っている薬局を利用することで、薬剤師に自宅まで薬を届けてもらうことができます。

この場合、薬剤師による服薬管理も受けられます。

夜中に容体が急変したらどうすればいいですか?

訪問診療を契約している場合、24時間365日つながる緊急連絡先が案内されます。まずはその番号に電話をかけ、医師や看護師に状況を説明し、指示を仰いでください。

状況に応じて、電話でのアドバイス、緊急往診、または救急車の要請や連携病院への搬送手配など、適切な対応が行われます。

家族が同席する必要はありますか?

原則として、患者の状態を正確に把握し、今後の方針を共有するために家族の同席が望ましいです。特に認知症の方や意思疎通が難しい方の場合は、家族の同席が必要です。

ただし、仕事などでどうしても都合がつかない場合は、連絡ノートを活用したり、電話で診察結果を報告したりと、柔軟に対応してくれるクリニックも増えています。

施設に入居していても利用できますか?

はい、利用可能です。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどの施設に入居している場合でも、訪問診療を受けることができます。

施設によっては提携している協力医療機関が決まっている場合もありますが、入居者には医師を選ぶ権利があるため、希望するクリニックがあれば施設側に相談してみてください。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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