緊急時の対応

訪問診療の原則

24時間対応の管理費用(在宅時医学総合管理料など)

厚生労働省の診療報酬点数表に基づく訪問診療の仕組みとして、定期診療を行う際に24時間対応を確実に行うことで管理料を請求することができます。

逆に言えば、定期往診のみで管理料を請求するのはルール違反です。実際にそのようなルール違反をしている医療機関はかつては多かったのですが、現在は減少傾向です(皆無ではないことは確認しています)。

また、全ての患者さんに訪問看護師の導入を要求して、夜間は訪問看護師に対応させて、医師が応答しないのに一見すると24時間対応しているように見える施設もあります。

もちろん看護師に医学的な判断を委ねてよいはずはなく、医師が最終的に責任を持って判断する必要があります。

自分たちが依頼している訪問診療所が実際はどのように(名目上ではなく)24時間体制を運用しているか確認することが大切です。

緊急時とはどういうものか

「緊急時」には明確な定義は有りませんが、以下の状態に当たる場合は速やかに訪問看護師もしくは当院にご連絡いただくのが望ましいです。

生命に関わる状況

  • 意識レベルの急激な低下や意識消失
  • 呼吸困難や呼吸停止
  • 胸痛(心筋梗塞の疑い)
  • 激しい腹痛
  • 大量出血
  • けいれん発作

急性症状の悪化

  • 高熱(普段より明らかに高い発熱、一般的に38度以上が目安)
  • 急激な血圧の変動
  • 脱水症状の進行
  • 疼痛の急激な増悪
  • 嘔吐・下痢による脱水

上記にあるような症状の時は「緊急時」とみなしてよいですし、例えばご家族から見て「いつもと違って調子が悪そうだ」などという時もご連絡ください。

普段から患者さんを見ているご家族の違和感というのは重要な兆候の可能性もあります。

逆に、老衰が進行し、ご家族も我々も看取りを前提としている場合の「呼吸停止」は必ずしも緊急ではなく、遠方のご家族を呼んでゆっくりと別れを惜しんでも良いと考えています。

緊急時ではなさそうでも電話で相談を

一見して緊急ではない時、例えば、ちょっとした皮膚症状、下痢、便秘、浮腫などの時もご連絡ください。表面に出てくる症状が派手でなくても、医学的には重大な疾患が潜んでいる場合も考えられます。

一通りの診療と検査を行って、何もなければそれで良いのです。

よく患者さんとご家族に話しているのですが、例えば10回の連絡のうち9回が空振りだったとしても1回重大な疾患が見つかるなら、それでも良い、というものです。

症状の強烈さと疾患の深刻さというのは必ずしも比例しないものです。

当院としても電話で相談いただく場合、経過観察としたり、電話での処方、頓服使用の指示などにとどまる場合も多々あります。それでも一度医師のフィルターを通しておくことは大事なのです。

連絡を受けたときの当院の対応

臨時往診

連絡を受けて、すぐに往診の必要がある場合にもいくつか往診の種類があります。これは医療費請求上の分類であり、病状と必ずしもリンクするわけではありません。

緊急往診した結果、大きな異常を認めずに経過観察になることも珍しくありません。

  • 緊急往診
    • ほかの患者さんの診療中などに連絡が入り、以後の日程を変更する必要があるときには緊急往診にあたります。どれほど状況が切迫していても夜間や休日などのときには緊急往診ではなく、夜間往診や休日往診として扱います。
  • 夜間往診(18時から22時まで、早朝6時から8時までの往診)、深夜往診(22時から早朝6時までの往診)、休日往診(医療機関が休診日として扱っている日中の時間帯の往診)などの種類がありますが、これらは時間帯の違いだけで、病状の深刻さとは無関係です。
  • 「往診」は上記の緊急性に乏しい状態の時の日中時間の往診を指します。

往診時のアクション

往診し、診察してからのアクションは様々です。

診察の結果、緊急性が無い時は経過観察とします。その時でも状態の変化があれば即時にご連絡をいただき、次のアクションにつなげていきます。

当院では夜間に往診や電話を受けた場合などは必ず日勤の時間帯に看護師が状態確認の電話をするルールを設けています。

往診して当院で治療可能な場合、例えば肺炎が明らかな場合などは、一通りの検査を行い、抗菌薬の内服や点滴を行います。点滴に関しては訪問看護師に指示をして処置してもらうこともよくあります。

血液検査、尿検査、エコー検査なども実施して診断の精度を上げていくことも非常に大事です。

末期がんなどで医療用麻薬の注射を行っているときなど、その量の調整や別の薬剤への変更、薬剤の追加などを判断することもあります。

当院の診察では診断がつかない時や在宅での診療が限界と判断された場合は、救急搬送をすることもあります。

当院の決まりとして、搬送する時は、往診中の現場から二次救急の病院に往診医が連絡をし、その場で紹介状を記載して救急隊に搬送を依頼します。

これは二次救急の病院との信頼関係維持のためにも非常に大事です。

以前、ホスピス型住宅の訪問看護師から以下のようなことを伺ったことがありました。

状態が急変してしまった患者さんの指示を仰ぐべく訪問診療クリニックに連絡をしたところ、「救急車を呼んで」という指示があったため、どの病院に送るか伺ったところ「救急隊に決めさせて」と。

紹介状はどうするか聞いたら「受け入れ先から要望があったら書く」との返答をされたとのことでした。怖いことに、これは当地での出来事です。

もちろん当院ではこのような対応をしたことはありませんし、今後もあり得ません。往診の上で受け入れ先にちゃんと連絡を行い、紹介状の記載をするのは当然のことです。

オンライン再診

オンラインにて診療を行い、処方箋の発行もしくは医学的な指示をすることも可能です。

風邪症状、消化器症状(嘔吐、悪心、下痢、便秘)など、往診するほどでもないが、オンラインにて病状が確認できるときに用います。

ただし、独居で認知機能の低下しているお年寄りなどにそれを要求するのはかなりハードルが高く、全例において実施は困難と考えられます。

定期往診時の心がけ

緊急事態が起こった時の対応はもちろん大切ですが、それ以上に普段の定期診療にてどれだけ状態の急変を予想し、カルテ記載でほかの医師たちに情報共有できているか、ということが非常に重要なのです。

緊急時にその場をしのげる薬の準備やご家族に対しての緊急時の事前指示、カルテに緊急時の対応方法を記載しておくことが、緊急時の予後を左右することもあります。

例えば、肺炎を繰り返し、すでに耐性菌が出現している場合などは、その履歴を残すことで、誰が診療し判断しても有効な治療法を選択することができます。

もちろん医師の技量が高いに越したことはありませんし、そのための努力を惜しんではいけませんが、人間はミスをする生き物ですので、誰が往診に伺っても同様の判断ができるための情報共有が何よりも大事なのです。