自宅で療養を続けている方にとって、通院して医療処置を受けることは大きな負担になります。特に胃瘻がある方は、定期的なカテーテル交換が欠かせません。
訪問診療では、医師や看護師がご自宅に伺い、その場で胃瘻カテーテルの交換を行います。移動の負担を減らし、落ち着いた環境で処置を受けていただくことができます。
この記事では、訪問診療で安全かつスムーズに行われるバルーン型胃瘻交換と、ご家族が知っておくべき日々のケアについて詳しく解説します。
訪問診療での胃瘻管理をご検討されている方にとって、安心につながる情報となれば幸いです。
バルーン型胃瘻カテーテルの基礎知識
胃瘻カテーテルの種類と特徴
主な種類は「ボタン型」と「チューブ型」です。
チューブ型はさらに、先端に小さな風船がついた「バルーン型」と、プラスチックの固定具(バンパー)で支える「バンパー型」に分かれます。
それぞれのカテーテルには特徴があり、医師が患者さんに最も適したタイプを選択します。訪問診療で交換されることが多いのは、比較的交換が容易なバルーン型です。
胃瘻カテーテルの主な種類と特徴
| 種類 | 特徴 | 交換方法 |
|---|---|---|
| ボタン型 | 短く目立たない、衣服に隠しやすい | 比較的容易 |
| チューブ型(バルーン型) | チューブが体外に出ている、交換が容易 | 比較的容易 |
| チューブ型(バンパー型) | チューブが体外に出ている、固定力が強い | 専門的な手技が必要 |
バルーン型胃瘻の構造と機能
バルーン型胃瘻カテーテルは、胃の中に留置される部分に小さなバルーン(風船)がついています。
このバルーンに滅菌蒸留水などを注入することで膨らませ、カテーテルが胃の中から抜けないように固定する役割を果たします。つまり水風船です。
チューブは体外に出ており、栄養剤や水分を投与するための接続部があります。構造がシンプルであるため、在宅での交換に適しており、多くの訪問診療の現場で利用されています。
バルーン型を選ぶメリット
バルーン型胃瘻カテーテルを訪問診療で交換することには、いくつかのメリットがあります。大きな利点は、交換の手技が比較的シンプルであり、自宅でも行いやすい点です。
通院せずに自宅で交換できるため、移動に伴う負担を軽くし、病院までの送迎が難しい方にも適しています。
これにより、患者さんは通院の必要がなくなり、移動に伴う身体的な負担や感染リスクを減らせます。また、構造が単純なため、日々のケアも比較的容易に行えます。
万が一、カテーテルが抜けてしまった場合でも、再度挿入しやすいという特徴もあります。
交換の頻度と時期
バルーン型胃瘻カテーテルの交換頻度は、カテーテルの種類や材質、患者さんの状態によって異なりますが、一般的には1ヶ月から3ヶ月に一度の交換が必要です。
カテーテルの劣化やバルーンの破損、胃瘻周囲の皮膚の状態などを考慮して、医師や看護師が交換時期を判断します。
定期的な交換は、カテーテルの閉塞や感染などのトラブルを防ぎ、安全に胃瘻を使用するために必要です。訪問診療では、計画的に交換日を設定し、ご自宅に伺います。
適応となる患者さん
バルーン型胃瘻カテーテルは、嚥下機能の低下などにより口から十分な栄養や水分を摂取できない方に適応となります。特に、在宅での療養を希望されており、ご家族や介護者が日々のケアを行う場合、比較的管理が容易なバルーン型が選択されることが多いです。
また、胃瘻交換のための通院が困難な方や、病院での交換に不安を感じる方にも、訪問診療でのバルーン型胃瘻交換は有効な選択肢となります。
訪問診療による胃瘻交換の事前準備
必要な医療材料と機器
訪問診療でバルーン型胃瘻カテーテルを交換する際には、いくつかの医療材料と機器が必要になります。これらは通常、訪問診療を行う医療機関が準備しますが、ご家族にもどのようなものが必要か知っておいていただくことで、スムーズな交換につながります。
新しい胃瘻カテーテル、滅菌蒸留水(バルーン用)、シリンジ、消毒液、清潔な手袋、処置用シーツ、ガーゼ、テープなどを用意します。
バルーン型胃瘻交換に必要な主な物品
| 物品名 | 用途 |
|---|---|
| 新しい胃瘻カテーテル | 交換するカテーテル |
| 滅菌蒸留水 | バルーンを膨らませる |
| シリンジ | バルーン水の注入・抜去用 |
| 消毒液 | 胃瘻周囲の消毒 |
| 清潔な手袋 | 処置時の衛生確保 |
| 処置用シーツ | 衣類や寝具の汚染防止 |
| ガーゼ、テープ | 処置後の保護、固定 |
患者さんへの事前説明と同意
胃瘻カテーテルの交換を行う前に、患者さんご本人やご家族に対して、交換の必要性、手順、注意点、起こりうるリスクなどについて丁寧に説明を行います。
患者さんの状態や理解力に合わせて、分かりやすい言葉で説明し、不安を軽減するよう心がけています。説明内容に同意を得られた上で、交換を実施します。
これは、患者さんの権利を守り、安心して医療を受けていただくために必要な手続きです。
交換前の食事・水分管理
胃瘻カテーテルの交換は、胃の内容物が少ない状態で行うのが望ましいとされています。
そのため、交換の数時間前からは、胃瘻からの栄養剤投与や水分摂取を控えていただくようお願いすることがあります。例えば午前中の交換であれば朝食だけは抜くようにお願いしています。
具体的な時間については、患者さんの状態や交換を行う時間によって異なりますので、訪問診療の医師や看護師の指示に従ってください。
交換前のバイタルサイン確認
胃瘻カテーテルの交換を行う直前に、患者さんの体温、脈拍、血圧などのバイタルサインを確認します。これは、患者さんの全身状態を把握し、交換を安全に行える状態であるかを確認するためです。
発熱がある場合や、体調が優れない場合は、交換を延期することもあります。患者さんの体調に変化がある場合は、事前に医療機関に伝えておくようにしましょう。
バルーン型胃瘻交換の具体的手順
交換前の消毒と準備
胃瘻カテーテルの交換は、清潔な環境で行うことが感染予防のために非常に重要です。まず、交換を行う医療スタッフは手洗いをしっかりと行い、清潔な手袋を装着します。
患者さんの胃瘻周囲の皮膚を消毒液で丁寧に消毒し、清潔な処置用シーツを敷いて準備を整えます。必要な医療材料を手元に配置し、スムーズに手技を進められるようにします。
既存カテーテルの抜去方法
既存のバルーン型カテーテルを抜去する際は、まずバルーン内の水をシリンジで全て抜き取ります。バルーンがしぼんだことを確認したら、カテーテルをまっすぐに、ゆっくりと引き抜きます。
無理な力を加えると、胃瘻孔を傷つける可能性があるため、慎重に行います。抜去したカテーテルは、感染防止のため適切に処理します。
新しいカテーテルの挿入手技
新しいバルーン型カテーテルを挿入する前に、カテーテルの先端に潤滑剤を塗布することがあります。これにより、胃瘻孔への挿入がスムーズになります。
胃瘻孔に対してカテーテルをまっすぐに向け、抵抗を感じないようにゆっくりと挿入していきます。
無理に押し込んだり、斜めに挿入したりすると、胃瘻孔を傷つけたり、誤った場所に挿入されたりするリスクがあるため、注意が必要です。
新しいカテーテル挿入時の注意点
- 清潔な状態を保つ
- カテーテルに潤滑剤を使用する
- 胃瘻孔にまっすぐ挿入する
- 抵抗を感じたら無理に進めない
バルーン水の注入と固定
カテーテルが胃の中に適切に挿入されたことを確認したら、カテーテルのバルーン注入口から、指定された量の滅菌蒸留水をシリンジでゆっくりと注入します。
バルーンが胃の中で適切に膨らむことで、カテーテルが固定されます。
バルーン水の量が少なすぎるとカテーテルが抜けやすく、多すぎると胃壁を圧迫する可能性があるため、適切な量を注入することが重要です。
バルーンが膨らんだら、カテーテルを軽く引いて固定されていることを確認します。
交換後の確認方法
カテーテルの交換が完了したら、いくつかの点を確認します。まず、カテーテルが適切な位置に固定されているか、バルーンが適切に膨らんでいるかを確認します。
次に、胃瘻周囲の皮膚に発赤や腫れ、出血がないか、カテーテルからの漏れがないかなどを観察します。
また、カテーテルの閉塞がないかを確認するために、少量の白湯などを注入してみることもあります。患者さんに痛みや不快感がないかも確認します。
交換後の確認ポイント
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| カテーテルの位置 | 適切な深さに挿入され、固定されているか |
| バルーンの状態 | 適切に膨らんで、カテーテルを固定しているか |
| 胃瘻周囲の皮膚 | 発赤、腫れ、出血、漏れがないか |
| カテーテルの開通 | 白湯などで閉塞がないか確認 |
| 患者さんの状態 | 痛みや不快感がないか |
交換後のケアと観察ポイント
交換直後の注意点
胃瘻カテーテル交換直後は、胃瘻孔がまだ安定していない可能性があります。交換後数時間は、激しい動きを避け、胃瘻部への刺激を最小限に抑えることが大切です。
また、交換直後に少量の出血や滲出液が見られることがありますが、通常は自然に治まります。しかし、出血が止まらない場合や、多量の滲出液が見られる場合は、すぐに訪問診療の医療機関に連絡してください。
栄養剤投与再開のタイミング
胃瘻カテーテル交換後、いつから栄養剤の投与を再開できるかは、患者さんの状態や交換時の状況によって異なります。通常は、交換後しばらく時間を置いてから、少量から開始することが多いです。
医師や看護師から具体的な再開時間や投与量について指示がありますので、それに従ってください。
交換直後の投与で、胃瘻部からの漏れや腹痛などの症状が出ないか注意深く観察することも重要です。
胃瘻周囲のスキンケア
胃瘻周囲の皮膚は、常に清潔で乾燥した状態に保つことが、スキントラブルを防ぐために非常に重要です。毎日、石鹸とぬるま湯で優しく洗い、水分をしっかりと拭き取ります。
カテーテルの周囲に汚れや滲出液が付着している場合は、丁寧に拭き取ります。必要に応じて、皮膚保護剤を使用することもあります。
発赤やただれなどの異常が見られた場合は、早めに医療機関に相談してください。
胃瘻周囲のスキンケアのポイント
| ケア項目 | 内容 |
|---|---|
| 清潔保持 | 毎日石鹸とぬるま湯で洗う |
| 乾燥 | 洗浄後はしっかりと水分を拭き取る |
| 汚れの除去 | カテーテル周囲の汚れや滲出液を拭き取る |
| 皮膚保護 | 必要に応じて皮膚保護剤を使用 |
| 異常の早期発見 | 発赤、ただれなどがないか観察 |
トラブル発生時の対応
在宅での胃瘻管理において、カテーテルの抜け、胃瘻周囲の炎症、カテーテルの閉塞などのトラブルが発生する可能性があります。
これらのトラブルに気づいた場合は、慌てずにまずは訪問診療の医療機関に連絡しましょう。状況を正確に伝え、指示を仰いでください。
自己判断でカテーテルを無理に挿入したり、処置を行ったりすることは、状態を悪化させる可能性があるため避けてください。
胃瘻の主なトラブルとその兆候
| トラブルの種類 | 主な兆候 |
|---|---|
| カテーテルの抜け | カテーテルが胃瘻孔から抜けている |
| 胃瘻周囲の炎症 | 発赤、腫れ、痛み、熱感、膿の排出 |
| カテーテルの閉塞 | 栄養剤や水分が注入できない、注入に抵抗がある |
| 胃液の漏れ | 胃瘻孔周囲から胃液が漏れ出る |
在宅での胃瘻管理と家族指導
日常的な胃瘻ケアの方法
在宅で胃瘻管理を行う上で、ご家族や介護者による日常的なケアは非常に大切です。毎日の胃瘻周囲の清潔保持、カテーテルの固定状態の確認、バルーン水の量の確認などを行います。
栄養剤や水分を投与する際には、清潔な手で扱い、投与速度を守ることも重要です。
訪問診療の医療スタッフが、ご家族に対してこれらの日常ケアの方法について丁寧に指導を行いますので、分からないことや不安なことは遠慮なく質問してください。
バルーン水の確認と管理
バルーン型カテーテルを固定するバルーン水は、時間の経過とともに自然に減少することがあります。バルーン水が減るとカテーテルが抜けやすくなるため、定期的にバルーン水の量を確認するようにしましょう。
通常、週に一度程度、シリンジでバルーン水を抜き取り、量が減っている場合は指定された量の滅菌蒸留水を再度注入します。この手技についても、訪問診療の医療スタッフがご家族に指導を行います。
家族が注意すべきサイン
胃瘻管理中に、患者さんの状態や胃瘻部にいつもと違う変化が見られた場合、それはトラブルのサインかもしれません。
発熱、胃瘻周囲の強い痛みや腫れ、大量の出血や膿の排出、カテーテルからの胃液の漏れ、栄養剤が注入できない、嘔吐や腹部の張りなどの症状が見られた場合は、すぐに訪問診療の医療機関に連絡してください。
早期に異常を発見し、適切に対応することが、患者さんの安全を守る上で重要です。
家族が注意すべき胃瘻のサイン
| サインの種類 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 発熱 | 体温が高い状態 |
| 胃瘻周囲の異常 | 強い痛み、腫れ、赤み、熱感、膿の排出、出血 |
| カテーテルの状態 | 抜けそうになっている、胃液が漏れている、閉塞している |
| 栄養剤投与時の異常 | 注入できない、注入中に痛みがある、漏れがある |
| 患者さんの全身状態 | 嘔吐、腹部の張り、いつもと違う様子 |
次回交換までの相談体制
訪問診療では、胃瘻交換だけでなく、日々の胃瘻管理に関する相談や、患者さんの体調変化に応じた対応も行います。
次回交換までの間に、胃瘻に関する疑問や不安、困ったことなどがあれば、いつでも訪問診療の医療機関に連絡できる体制が整っています。
電話での相談や、必要に応じて緊急往診も可能です。ご家族だけで抱え込まず、遠慮なく相談してください。
訪問診療クリニックのサポート体制例
| サポート内容 | 詳細 |
|---|---|
| 定期的な訪問 | 計画に基づいた定期的診察や処置 |
| 電話相談 | 日常的な疑問や不安に対する電話での助言 |
| 緊急時対応 | 体調急変時やトラブル発生時の緊急往診 |
| 家族への指導 | 胃瘻ケアや栄養剤投与方法の指導 |
| 多職種連携 | ケアマネジャーなどとの情報共有、連携 |
よくある質問
- 胃瘻交換は痛いですか?
-
バルーン型胃瘻カテーテルの交換は、通常、大きな痛みを伴うことは少ないです。カテーテルを抜去する際に、バルーンがしぼんでいればスムーズに抜けます。
新しいカテーテルを挿入する際も、潤滑剤を使用し、ゆっくりと挿入すれば、ほとんど痛みを感じない方が多いです。ただし、胃瘻孔の状態によっては、多少の違和感や軽い痛みを感じることがあります。
痛みが強い場合や、痛みが続く場合は、すぐに医療スタッフに伝えてください。
- 交換時間はどのくらいかかりますか?
-
バルーン型胃瘻カテーテルの交換自体にかかる時間は、通常5分から15分程度です。
しかし、交換前の準備や交換後の確認、患者さんの状態の観察、ご家族への説明なども含めると、訪問診療での滞在時間は30分程度になることが多いです。
患者さんの状態や、同時に他の処置が必要な場合は、もう少し時間がかかることもあります。
- 交換後にお風呂に入れますか?
-
胃瘻カテーテル交換後、すぐにシャワーや入浴が可能かどうかは、胃瘻孔の状態や医師の判断によります。通常、交換後数時間から翌日にはシャワーが可能になることが多いです。
入浴については、胃瘻孔が完全に安定するまで数日待つ必要がある場合もあります。入浴する際は、胃瘻部を清潔に保ち、石鹸成分が残らないようにしっかりと洗い流し、優しく水分を拭き取ることが大切です。
具体的な入浴許可のタイミングについては、訪問診療の医師や看護師に確認してください。
- カテーテルが抜けてしまったらどうすれば良いですか?
-
バルーン型カテーテルが抜けてしまった場合は、すぐに訪問診療の医療機関に連絡してください。胃瘻孔は時間が経つと閉じてしまうことがあるため、できるだけ早く対応する必要があります。
清潔なガーゼなどで胃瘻孔を覆い、汚染されないようにしてください。自己判断でカテーテルを再挿入しようとせず、医療スタッフの指示を仰ぐようにしましょう。
- 交換費用はどのくらいですか?
-
訪問診療での胃瘻カテーテル交換にかかる費用は、医療保険や介護保険の適用状況、患者さんの負担割合、利用している医療機関によって異なります。
具体的な費用については、利用を検討している訪問診療クリニックに直接お問い合わせください。事前に費用について確認しておくことで、安心してサービスを利用できます。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

