病院から在宅へつなぐ退院時カンファレンス – 訪問診療の安心導入ポイント

病院から在宅へつなぐ退院時カンファレンス - 訪問診療の安心導入ポイント

病院での治療を終えて自宅へ戻ることを考える際、在宅医療への移行に不安を覚える方は少なくありません。

退院後に備えたカンファレンスを適切に行い、訪問診療や訪問看護など多職種が協力して準備を整えることで、患者と家族は安心して在宅での生活を始めやすくなります。

住み慣れた自宅で療養を続ける選択肢を検討するため、退院時の段階から具体的な情報とサポートを得ることが大切です。

本記事では、退院時カンファレンスの目的や具体的な進め方、医療連携のポイントなどを詳しく解説します。

目次

退院時カンファレンスの基本と意義

医療機関から在宅へ移行する際に行う重要な取り組みのひとつです。

患者と家族の心配ごとや生活環境を考慮しながら、病院スタッフ、在宅医療スタッフ、介護関係者などが情報を共有し、適切な支援策を検討します。

入院治療から在宅療養への流れを円滑にするため、あらかじめ相談し合う機会が必要です。

退院時カンファレンスとは何か

病院での入院治療から退院後の生活に移るとき、医療・介護スタッフや患者、家族が集まって話し合いを行います。主な目的は、自宅あるいは施設での療養を見据えた具体的な支援の検討です。

病院と在宅医療の情報をつなぎ、患者と家族が安心して生活をスタートできるようにすることが目指されています。

退院後は入院時と異なり、看護師や医師が常にそばにいる環境とは限りません。患者本人と家族が主体となり、状態観察や介護を日常の中で行う必要があります。

そのため、専門職が連携して患者の身体状況や必要な医療処置を話し合い、退院準備を整える意義は大きいです。

在宅医療への移行における重要性

在宅医療を導入すると、通院の負担が軽減し、住み慣れた自宅で治療が受けられます。

一方で、実際にどのようにサポート体制を組めばよいか、日々の介護や緊急時の対応はどうすればよいのかなど、患者や家族には心配が生じやすいです。

退院時カンファレンスで在宅医療チームと情報を擦り合わせることで、予測される問題に対して適切に準備しやすくなります。

退院直後は体調が不安定になることもあるため、迅速に在宅体制を整える工夫が必要です。この話し合いが充実すると、退院後のサポートをスムーズにスタートできます。

主治医や訪問診療医、看護師、ケアマネージャーなどが適切に連携を取れるようになるので、患者と家族に生じる負担を軽減できます。

参加者と各職種の役割

退院時カンファレンスには、多職種が参加することが望ましいです。代表的な職種には以下があります。

  • 医師(病院主治医・訪問診療医)
  • 看護師(病院・訪問看護ステーション)
  • ソーシャルワーカー
  • ケアマネージャー
  • リハビリスタッフ(PT/OT/ST)
  • 薬剤師(病院・訪問薬剤師)
  • 福祉用具専門相談員

それぞれの専門性を活かして、患者の状態や必要なケア、療養環境を総合的に検討します。たとえば医師は治療方針や病状を共有し、看護師は日常のケアや症状管理を助言します。

ソーシャルワーカーは社会資源の活用や制度の説明を行い、ケアマネージャーは介護保険サービスの調整を担います。

各職種が情報を持ち寄り、患者の暮らしに合うサポート体制を作り上げることが大切です。

職種主な役割と特徴
医師(病院主治医)退院までの治療方針を決定し、患者の病状を在宅チームへ共有する
医師(訪問診療医)退院後の継続的な治療・診察を行い、在宅での健康管理を支援する
病院看護師&訪問看護師患者の状態観察やケアの実施に関する助言を行い、日常生活面のサポートを担う
ソーシャルワーカー福祉制度や経済面の相談対応、社会資源の活用支援
ケアマネージャー介護保険サービスの調整、ケアプラン作成
リハビリスタッフリハビリ計画の策定や日常生活動作の訓練支援
病院薬剤師&訪問薬剤師内服薬の管理や調剤、服薬指導
福祉用具専門相談員自宅で使用する福祉用具の提案や住環境へのアドバイス

開催のタイミングと準備

退院時カンファレンスは、退院のめどが立ち始めた段階で開催することが一般的です。

入院中に大きく容体が変動する可能性がある場合、早めに話し合いを始めておくと、万が一の変化にも柔軟に対応できます。家族の日程調整なども考慮しながら、退院の1~2週間前に開催するケースが多いです。

準備としては、患者の入院中の経過や治療内容、リハビリ状況などを病院スタッフがしっかりまとめる必要があります。療養環境の情報(住宅の構造、介護者の状況など)も重要です。

事前にケアマネージャーなどと連絡を取り合い、必要な書類や情報をそろえておくと有意義な話し合いが行いやすくなります。

患者・ご家族の安心を支える準備と配慮

退院が近づくと、患者や家族は生活面や医療面に対してさまざまな不安を抱きがちです。

いざというときに誰に相談すればいいのか、自宅でのケアはどう進めればいいのかなど、具体的なイメージが湧きにくいまま退院日を迎えると負担も大きくなります。

そのため、事前準備と細やかな気配りが重要です。

退院前の心情と不安の理解

患者は入院生活に慣れ、常に専門職がそばにいる安心感を得ている場合があります。退院後に急に「自分たちでやらなければいけない」と意識すると、不安が高まることが考えられます。

特に高齢の方や慢性疾患を持つ方は、医療的ケアが必要なシーンが多いため、一人でどう対応すべきか悩むかもしれません。

家族もまた、介護や看病で生活が一変する可能性があります。仕事をしながら介護をする場合や遠方から通う場合など、負担や戸惑いが生じやすいです。

こうした心情に寄り添いながら、できる限り具体的なサポート体制を伝えることが大切です。

心情や不安の具体例対応策・配慮
「本当に自分の家で療養できるのか」在宅医療チームの概要や支援内容を具体的に紹介
「急な体調悪化に対応できるのか」24時間連絡体制や緊急往診の可能性を話し合う
「家族への負担が大きすぎないか」介護保険サービスや訪問看護など多職種活用を検討
「通院や検査はどうするのか」検査の必要性と訪問の可否、受診方法を説明
「費用はどのくらいかかるのか」医療保険・介護保険・各種助成制度の内容を案内

在宅医療のメリットと限界の説明

在宅医療には、病院までの移動が難しい患者でも自宅で診察を受けられる利点があります。住み慣れた環境で過ごすことで、患者がリラックスしやすい点や、家族が近くで支援できる点も良いところです。

しかし、医療設備が病院ほど充実していないため、救急対応が必要な状況においては入院に切り替える必要があります。訪問診療医と連携した緊急時の体制づくりが重要です。

訪問診療には費用面の課題も存在しますが、医療保険や介護保険の制度を活用することで負担を軽減する方法があります。患者と家族が負担を感じすぎないようにするためにも、制度の情報共有が欠かせません。

退院時カンファレンスでは、メリットと限界の両面をわかりやすく伝えるとともに、想定される医療費やサービス利用料を確認することが勧められます。

患者の意思と希望の尊重

患者本人がどのような人生観や価値観を持っているかは、在宅でのケア内容を考えるうえで大きな要素です。

例えば積極的な延命治療を望むのか、痛みの緩和を中心に生活の質を保ちたいのかなど、患者ごとの思いを受け止めることが重要です。退院時カンファレンスの場で、家族や医療スタッフは患者の希望を聞き取り、医療方針に反映するようにします。

医療者側の専門的な判断だけではなく、患者の生活背景や生き方へのこだわりを理解し、意向を聞き取る機会を十分に設けると良いでしょう。本人が話しづらいときは、家族が代弁することもあります。

その際にも、本人の意思を尊重する姿勢を保つことが大切です。

家族の介護負担への配慮と支援

家族が介護を続ける上で無理が生じると、患者・家族ともに生活の質が下がる可能性があります。特に高齢の夫婦や子育て中の世帯、働き盛りの人が介護を担うケースでは、心身の疲労や経済的負担が増大しやすいです。

退院時カンファレンスでは、どれだけサポートサービスを活用できるかを相談し、無理なくケアできる方法を検討します。

具体的には訪問看護や訪問介護サービス、デイサービスなどの利用を含め、ケアマネージャーが主体となってケアプランを組み立てます。家族の負担軽減につながるように、公的制度の利用や福祉用具の導入を視野に入れることが大切です。

【家族が感じやすい負担の例と対応策】

家族が感じやすい負担対応策
身体的負担(長時間の介護など)介護サービスの併用、ショートステイの利用
心理的負担(責任感や孤立感など)サポートグループや相談窓口の利用、医療・介護職との定期連絡
経済的負担(医療費や介護費用)介護保険や高額療養費制度、各種助成制度の活用
生活リズムの乱れ(夜間の見守りなど)夜間対応の訪問看護体制整備、他家族との分担
仕事との両立が困難介護休業制度の活用や社会福祉協議会等のサービス検討

医療機器や処置に関する説明と準備

在宅で医療機器を使用する場合、酸素療法や人工呼吸器、経管栄養などが挙げられます。こうした機器の操作やトラブル対応を家族が担うことも少なくありません。

退院時カンファレンスでは、どのような機器を使用し、どのタイミングでケアが必要か、訪問看護師や訪問診療医がどの程度サポートするのかを明確にしておくと安心です。

医療機器のレンタルや購入にかかる費用、設置スペース、電源確保などの環境整備も大事です。実際に導入する前に試用が可能な場合は、入院中に使い方を練習すると理解が深まります。

機器が複雑な場合は訪問看護の支援を取り入れ、異常が起きたときの連絡先や手順をまとめておきましょう。

医療連携による切れ目のない医療提供

退院後のケアを成功させるためには、病院主治医と在宅医療チームの情報共有が欠かせません。

カルテや検査データだけではなく、患者の希望や生活背景を含めた包括的な情報を伝えることで、訪問診療医は患者の状況を正しく把握できます。

退院後に途切れることなく医療支援が行えるよう、連絡体制を整えることが大切です。

病院主治医からの情報共有と引継ぎ

退院前に担当医から在宅医への連絡や書類の作成を行い、病状経過や治療計画を正確に伝えます。

特に慢性疾患や複数の疾患を抱える患者においては、検査結果や投薬内容、今後想定される合併症など詳細な情報共有が重要です。

病院主治医が示した治療方針がどのように在宅療養に移行するかを確認し、訪問診療医が同様の方向で対応できるように連絡体制を調整しましょう。

訪問診療医の役割と対応範囲

訪問診療医は、定期的な往診に加えて必要な処方や検査の手配などを行います。状態が急変した場合に往診するほか、緊急時には入院先の手配や救急対応についてもアドバイスを行うことがあります。

患者や家族からの相談に柔軟に応じる点も大きな役割です。

定期往診の頻度や診察時間は患者の状態や医師の勤務体制によって異なります。

退院時カンファレンスであらかじめ訪問のスケジュール感や連絡手段を決めておき、訪問看護やケアマネージャーとも連動して情報を更新することが必要です。

24時間対応体制の構築と説明

在宅医療では、夜間や休日に患者の症状が急変する可能性を視野に入れる必要があります。

訪問診療医が所属する医療機関が24時間連絡対応を実施している場合もあれば、地域の夜間往診センターと連携する仕組みを持つ場合もあります。

患者と家族が困ったときに誰へ連絡すればいいのか明確にしておくことが安心へつながります。

退院時カンファレンスでは、その連絡体制や対応方法を詳しく確認します。夜間に連絡する際の電話番号、医師が訪問可能な範囲、救急搬送との連携などを説明しておきましょう。

訪問看護ステーションも夜間対応を提供する場合があるため、看護師の連絡先や緊急時の簡単な応急対応などもあわせて確認すると安心です。

緊急時の対応プランの策定

在宅で療養中、転倒や誤嚥、呼吸状態の悪化など、予測できない事態が起こることがあります。事前に緊急時の対応プランを立てておくと、いざというときに素早く行動しやすくなります。

対応プランには、次のような項目を盛り込みます。

  • 患者の容体が急変した場合の最初の行動
  • 連絡すべき医療機関や担当者の連絡先
  • 救急車を呼ぶ判断の目安
  • 家族が準備しておくべき書類(保険証、診療情報提供書など)

家族や患者本人が混乱しないよう、見やすい形でまとめておくと有用です。退院時カンファレンスで訪問診療医や看護師、ケアマネージャーと相談しながら作成することをすすめます。

多職種連携による在宅生活支援の構築

在宅医療では、訪問診療医だけでなく看護、リハビリ、薬剤管理、介護サービスなど、多様な専門職がチームとなって支えていきます。

お互いが情報を共有し合い、連携をとることで患者の生活をより安全・快適に保ちやすくなります。

訪問看護との連携ポイント

訪問看護師は、患者の状態観察や療養上の指導、処置などを定期的に実施します。訪問診療医が往診できない時間帯でも連絡を取り合い、患者の状況を把握することが可能です。

退院時カンファレンスで、具体的にどのようなケアや対応が必要なのかを共有し、訪問看護と連動したスケジュールを作成します。

訪問看護師は、自宅での安否確認や身体的ケアだけでなく、患者や家族の精神面にも寄り添います。

普段の生活の中で起きる小さな変化や悩み事を捉え、必要に応じて医師やケアマネージャーにつなぐことで、連携の要となります。

【在宅における多職種連携のイメージ(4回目の一覧)】

専門職主な連携内容
訪問診療医医療処置・処方、定期往診
訪問看護師日常の健康観察、処置、アセスメントの共有
ケアマネージャー介護サービスのコーディネート、各職種連携の取りまとめ
リハビリスタッフ運動機能向上や日常生活動作の訓練計画、情報フィードバック
薬剤師(訪問対応含む)服薬管理やアドバイス、薬の相互作用チェック
福祉用具専門相談員車いす、ベッドなど福祉用具の選定と導入支援

ケアマネージャーとの役割分担

介護保険を利用する場合、ケアマネージャーが中心となりケアプランを策定します。

医療保険との組み合わせや、訪問看護、訪問介護、通所サービスなどをどう組み合わせるかを調整するのが主な役割です。

退院時カンファレンスで顔を合わせ、患者の希望や家族の状況を共有し、具体的なプランを作り上げます。

ケアマネージャーが定期的に家庭を訪問し、ケアの実施状況や問題点を確認して修正を行います。

医療面での変更がある場合は、訪問診療医や訪問看護師などとも密に連絡をとって、プランの見直しを行うことが求められます。

福祉用具・住環境整備の検討

在宅療養を安全に行うためには、住環境の調整が必要となるケースも多いです。

手すりの設置、段差解消、車いすや歩行器などの導入によって、患者が転倒リスクを減らしながら生活しやすい環境を整えます。

寝たきり状態や重度の身体介護が必要な方には、電動ベッドや床ずれ防止マットなどの福祉用具を検討することも有効です。

福祉用具専門相談員は、患者の体格や疾患特性、家の間取りなどを考慮してアドバイスを行います。

退院時カンファレンスで必要な用具をリストアップし、退院までに導入を間に合わせるか、退院後にスムーズに貸与・購入できるよう手配すると安心です。

薬剤管理と訪問薬剤師の活用

複数の疾患を抱える方の場合、服用する薬も増える傾向があります。自宅で複雑な内服薬を管理するのは、患者本人だけでなく家族にとっても負担が大きいです。

訪問薬剤師は、自宅に薬を届けるだけでなく、服薬カレンダーの作成や薬剤の飲み合わせチェック、余剰薬の確認などを行い、正しい服用をサポートします。

薬の副作用で体調を崩したり、飲み忘れが続いたりすると、症状が悪化する恐れがあります。退院時カンファレンスで、訪問薬剤師の導入や薬の管理方法を話し合い、患者や家族が無理なく続けられる体制を作ることが大切です。

リハビリテーション計画の継続

入院中に理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)が関わっていた場合、退院後もリハビリを続ける必要があります。

リハビリスタッフが自宅を訪問する方法や、通所リハビリ施設を利用する方法が考えられます。患者の残存機能を維持・向上させるには、継続したリハビリの計画が大切です。

退院時カンファレンスで入院中のリハビリ進捗状況を共有し、在宅ではどのようなメニューを行うか、どれだけの頻度が適切かを検討します。

ベッド周りでの自主トレーニングや日常生活の動作を使ったリハビリを提案し、訪問時に実践状況を確認しながら調整を続けていきます。

【リハビリテーションの継続モデル】

リハビリ形態メリットデメリット
訪問リハビリ自宅環境に合わせた訓練が可能訪問回数に制限がある場合がある
通所リハビリ専門機器の活用ができ、他者との交流がある通所のための送迎が必要
自主トレーニング好きな時間に気軽に行えるひとりでの実施にモチベーションが続かない場合がある

退院後のフォローアップと診療体制

退院してから数週間から数か月がもっとも大事だと言われることが多いです。環境の変化や治療方針に慣れるのに時間がかかるため、初期のフォローアップをしっかり行う必要があります。

訪問診療、訪問看護、リハビリなどの連携が円滑に機能しているかを確認しつつ、状況に応じて対応を調整します。

初回訪問診療の重要性と内容

退院後、初回の訪問診療は重要です。自宅での生活に実際に移行し、患者の表情や声の調子、家族の負担具合などを直接観察できるからです。

退院時カンファレンスで話し合った内容と実際の生活が合っているかをチェックし、必要があれば修正や追加の手配を行います。

初回訪問診療では、バイタルサインの測定や身体状態の確認だけでなく、家の間取りや動線を見て、患者が安全に過ごせているかを把握することが求められます。

家族が操作する医療機器や投薬管理の方法が問題なく行われているかを確かめ、疑問があればその場で解消しておくことが大切です。

訪問診療の頻度と内容の決定

訪問診療は、患者の状態や家族の要望によって頻度が変わります。週に1回から月に1回など、医師と相談しながら適切に決定します。

慢性疾患が重い方や在宅酸素など医療機器を常用している方は、こまめな往診が安心につながります。一方、状態が落ち着いている場合は、月1回程度の診察で十分なケースも存在します。

診察内容は、バイタルチェックや症状の評価、薬の処方、療養上のアドバイスなどが中心です。必要に応じて採血や簡易的な検査も行い、結果を確認して治療方針を調整します。

訪問看護師やケアマネージャーとの連絡を密に取り合いながら、患者の状態変化に合わせてプランを変更していくことが大切です。

訪問看護指示書と特別指示書の活用

訪問看護を実施する際には、医師が作成する訪問看護指示書が必要です。ここには患者の疾患名、具体的なケア内容、留意点などが記載されます。

これをもとに訪問看護師はケアプランを立て、実際のケア内容を決定します。

また、特別指示書は急性増悪などが考えられる場合に、医師が指示を出すために発行する書類で、より密な観察や対応が求められるケースに活用されます。

退院時カンファレンスの段階で、どの程度の看護が必要かを医師と訪問看護師が相談し、指示書の内容をすり合わせます。指示書の内容は患者の状態が変われば随時見直し、指示書の更新を行ってケアの質を保ちます。

【医師の指示書に盛り込みたい情報】

項目内容例
主疾患・合併症慢性心不全、糖尿病など
現在の病状血圧や脈拍などのバイタル情報、むくみの有無、呼吸状態など
実施する主な処置内容点滴、褥瘡ケア、ドレーン管理、酸素療法の流量調整など
服薬内容内服薬の名前、用量、服用回数
特別指示の要否状態悪化の際の緊急対応、夜間や休日の連絡体制

定期的な多職種カンファレンスの実施

退院時だけでなく、退院後も状況に応じて多職種で話し合う機会が必要です。患者の容体は日々変化するため、定期的に情報をアップデートしておくと予期せぬトラブルを未然に防ぎやすくなります。

看護師やケアマネージャー、リハビリスタッフが定期訪問で感じた変化を共有し、医師とともに対応策を検討します。

このような多職種間の話し合いは、患者本人や家族も参加するとさらに効果的です。生活の中で困っていることを直接伝え、医療者や介護者が改善策をリアルタイムで提案できます。

退院時のカンファレンスと同じように、情報をオープンに共有することで在宅療養の安定化を図ります。

診療報酬と算定のポイント

在宅医療の導入や多職種連携を円滑に行うためには、診療報酬や介護保険サービスの仕組みを理解しておくことが大切です。

医療機関や介護事業所だけでなく、患者と家族にとっても費用面の把握は重要になります。適切に保険を活用することで、経済的な負担を軽減しながら質の高いケアを受けることができます。

退院時共同指導料の算定要件

退院時カンファレンスを行った際、医療保険の制度の一部として「退院時共同指導料」という報酬を算定できる場合があります。

これは、退院前に病院のスタッフと在宅医療のスタッフが共同で指導を行い、退院後の療養計画を立案することを評価するものです。算定を行うためには、以下のような要件が必要とされています。

  • 病院の医師と訪問診療医、その他必要な職種が共同で指導を実施
  • 患者や家族も参加し、具体的な治療・ケア計画を話し合った記録を残す
  • 必要な書類を整備し、医療保険者に請求

このような手続きを通じて、病院と在宅側が連携した指導の成果を診療報酬として評価します。結果として、より計画的で質の高い退院支援が行われやすくなるメリットがあります。

訪問診療料の算定と注意点

在宅医療を受ける際、主治医が患者宅を訪問して診療を行うときに算定されるのが訪問診療料です。算定には、医師の登録や訪問診療計画の策定、定期的な往診など、いくつかの要件があります。

たとえば、患者の状態を考慮しつつ定期往診の必要性が医師によって判断されていることなどが挙げられます。

また、月に何回まで算定可能か、他の報酬との重複が認められないケースがあるなど、細かなルールが存在します。

訪問診療料の理解が不十分だと、医療機関側が請求できるはずの報酬を逃してしまったり、逆に重複請求とみなされるリスクがあります。

そのため、医療機関の事務スタッフと訪問診療を行う医師が連携し、正確な算定を行うことが必要です。

在宅医療関連の管理料の活用

在宅医療では、診察以外にも、オンラインでのモニタリングや在宅酸素の管理など、さまざまな管理料が用意されています。たとえば在宅酸素療法指導管理料、在宅自己注射指導管理料などです。

これらの管理料を適切に活用すると、医療機関は患者の状態を継続的に把握しやすくなり、患者側も必要なサポートを受けやすくなります。

退院時カンファレンスで、患者の医療機器の使用状況や自己注射の必要性などがわかっていれば、管理料を算定するための手続きをスムーズに進められます。

医師や看護師は、管理料に応じた記録や報告を適切に行うことで、診療報酬のルールに則ったサービス提供が可能です。

【在宅医療関連で算定できる主な項目】

項目内容
在宅酸素療法指導管理料酸素濃縮器や酸素ボンベを用いた在宅酸素療法の管理
在宅自己注射指導管理料糖尿病などで必要な自己注射や注射セットの管理など
在宅気管切開患者指導管理料気管切開患者に対するケアや吸引の指導・管理
在宅寝たきり患者処置指導管理料褥瘡ケアや栄養管理など、寝たきり患者への定期的指導
同一建物居住者訪問診療料同じ建物に複数の在宅患者がいる場合の訪問診療の加算

介護保険サービスとの併用

在宅医療は、介護保険サービスを活用することでより充実したケアを提供できます。

医療保険でカバーされる訪問診療と、介護保険でカバーされる訪問介護や通所サービスなどを組み合わせるケースが多いです。

ケアマネージャーが中心となって、医療保険と介護保険の枠をうまく組み立ててプランを作り上げます。

ただし、訪問看護の費用やリハビリテーション費用などが医療保険と介護保険のどちらで負担されるかを確認しないと、患者や家族が想定外の支払いをする可能性があります。

退院時カンファレンスの時点で、担当スタッフ間でしっかり整理しておくことが重要です。

Q&A

退院後に在宅医療を導入するうえで、患者や家族からよく寄せられる疑問の例を紹介します。

退院時カンファレンスで事前に答えを得ておくと、不安が軽減し、実際の在宅生活にスムーズに移れます。

退院後に状態が急に悪化した場合は、必ず入院しなければなりませんか?

軽い症状なら訪問診療医が往診や電話でのアドバイスで対応します。重症の場合は急遽入院が必要になるケースもあります。

緊急時の対応手順を事前に決めておくことで落ち着いた対応がしやすくなります。

夜間や休日に急変した場合、いつでも訪問してもらえますか?

多くの訪問診療医は夜間・休日に連絡があった際の応対方法を定めています。しかし、医師ひとりでは対応が難しいこともあるため、医療機関や地域の往診センターと連携しています。

連絡先と対応フローをあらかじめ把握しておくと安心です。

介護保険を利用したいですが、どのように手続きを始めればいいでしょうか?

介護保険の申請は、お住まいの市区町村役所や支所などで行います。

ケアマネージャーがいない場合、地域包括支援センターに相談すると申請からケアマネージャーの紹介まで手伝ってもらえます。

在宅医療の費用はどれくらいかかりますか?

保険の種類や公的助成の有無、サービス内容によって異なります。医療保険だけでなく、介護保険や高額療養費制度などを活用することで自己負担を軽減できます。

入院費と比較してどうなのか、担当者と相談してみると良いでしょう。

在宅でのリハビリを続けても回復が難しいと感じる場合はどうしたらいいでしょう?

症状や年齢に応じてリハビリの目標を設定し直すことも選択肢の1つです。

リハビリスタッフや訪問診療医と相談し、無理のない範囲で活動量を維持していく方法を探すと良いでしょう。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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