骨粗鬆症は、骨がもろくなり、ささいな衝撃で骨折しやすくなる状態です。特にご高齢の方にとっては、骨折が寝たきりの原因となることもあり、決して軽視できません。
「年だから仕方ない」と諦める前に、なぜ骨が弱くなるのか、その原因を正しく知ることが、予防や対策の第一歩です。
この記事では、骨粗鬆症が起こる背景にある、加齢、長年の生活習慣、そして遺伝的な要因まで、様々な角度からその原因を一つひとつ丁寧に解説していきます。
ご自身の、そしてご家族の健やかな未来のために、骨の健康について一緒に考えていきましょう。
骨粗鬆症の基本的な仕組み
骨粗鬆症という言葉はよく耳にしますが、具体的に体の中で何が起きているのでしょうか。
ここでは、骨粗鬆症を理解する上で基本となる、骨の健康を維持する体の働きや、骨の強さを決める要素について解説します。
骨が単なる固い塊ではなく、常に生まれ変わっている活発な組織であることを知ることが、理解への近道です。
骨リモデリングとは何か
私たちの骨は、一度作られたら終わりではありません。常に古い骨が壊され(骨吸収)、新しい骨が作られる(骨形成)という新陳代謝を繰り返しています。
この一連の骨の生まれ変わりを「骨リモデリング」と呼びます。健康な骨では、骨を壊す働きと作る働きのバランスが保たれており、骨の強度と質が維持されます。
しかし、何らかの原因でこのバランスが崩れ、骨を壊す働きが作る働きを上回ってしまうと、骨は次第にスカスカになり、もろくなっていきます。これが骨粗鬆症の基本的な成り立ちです。
骨代謝の2つの働き
| 働き | 担当する細胞 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 骨吸収(骨を壊す) | 破骨細胞 | 古くなった骨や傷ついた骨を溶かして吸収する |
| 骨形成(骨を作る) | 骨芽細胞 | 骨吸収された部分に新しい骨を作る |
骨密度と骨質の関係
骨の強さは、よく知られている「骨密度」だけで決まるわけではありません。もう一つ、「骨質」という重要な要素があります。
骨密度は、骨の中にカルシウムなどのミネラルがどれだけ詰まっているかを示す量的な指標です。一方、骨質は、骨の構造(コラーゲンの網目の構造など)や材質の良し悪しを示す質的な指標です。
たとえ骨密度が高くても、骨質が悪ければ骨はしなやかさを失い、折れやすくなります。骨の強度は、この骨密度と骨質の両方が良好な状態であって初めて保たれるのです。
骨の強さを決める要素
| 要素 | 内容 | 例えるなら |
|---|---|---|
| 骨密度 | 骨に含まれるミネラルの量 | 建物のコンクリートの密度 |
| 骨質 | 骨の構造やコラーゲンの状態 | 建物の鉄筋の質や組み方 |
原発性と続発性の分類
骨粗鬆症は、その原因によって大きく二つに分類します。「原発性骨粗鬆症」と「続発性骨粗鬆症」です。
原発性骨粗鬆症は、加齢や閉経後の女性ホルモンの低下が主な原因で起こるもので、骨粗鬆症の大半を占めます。
一方、続発性骨粗鬆症は、特定の病気(関節リウマチや糖尿病、内分泌疾患など)や、治療のために使用する薬剤(ステロイド薬など)が原因となって発症します。
原因を正しく見極めることが、適切な対応につながります。
加齢による骨粗鬆症の発症の仕組み
年齢を重ねることは、骨粗鬆症の最も大きな危険因子です。若い頃は活発だった骨の新陳代謝も、年齢とともに変化し、徐々に骨を作る力よりも壊す力が優勢になっていきます。
ここでは、加齢がどのように骨の健康に影響を与え、骨粗鬆症の発症につながっていくのかを詳しく見ていきましょう。
骨形成能力の低下
年を重ねると、体の様々な機能が変化するのと同様に、骨を作る細胞である「骨芽細胞」の働きも徐々に衰えていきます。
若い頃のように活発に新しい骨を作れなくなるため、古い骨が壊されるスピードに骨作りが追いつかなくなります。この骨形成能力の低下が、加齢による骨量減少の直接的な原因の一つです。
骨吸収と骨形成のバランス変化
健康な骨では、骨吸収と骨形成のバランスが絶妙に保たれています。しかし、加齢に伴い、このバランスは崩れ始めます。
特に、骨を壊す「破骨細胞」の働きはあまり衰えないのに対し、前述の通り骨を作る「骨芽細胞」の働きは低下します。このアンバランスな状態が長く続くことで、骨は徐々にその量を失っていきます。
年代で見る骨代謝のバランス
| 年代 | 骨吸収と骨形成のバランス | 骨量の変化 |
|---|---|---|
| 若年期(〜20歳頃) | 骨形成 > 骨吸収 | 増加する(最大骨量に達する) |
| 壮年期(20〜40歳代) | 骨形成 ≒ 骨吸収 | 維持される |
| 高年期(50歳以降) | 骨形成 < 骨吸収 | 減少していく |
筋肉量減少との相互関係
骨と筋肉は密接に関係しています。筋肉は骨を支え、動かすことで骨に刺激を与えています。この刺激が、骨を強く保つための重要な信号となります。
しかし、加齢によって筋肉量が減少する「サルコペニア」という状態になると、骨への刺激が減ってしまいます。
その結果、骨は「もうそんなに丈夫でなくても大丈夫だ」と判断し、自ら弱くなってしまうのです。
筋肉の衰えが骨の衰えを招き、骨の衰えがさらなる活動低下と筋肉の衰えにつながるという悪循環に陥りやすくなります。
活動性低下が与える影響
ご高齢になると、外出の機会が減ったり、家の中で過ごす時間が長くなったりと、全体的な活動量が低下しがちです。
歩く、立つ、物を持つといった日常的な動作の一つひとつが、骨に重力という負荷をかけています。この負荷が骨の強度を維持するために必要です。
活動性が低下すると、骨にかかる負荷が著しく減少し、骨リモデリングのバランスが骨吸収に傾いてしまいます。
宇宙飛行士が重力のない宇宙空間で骨量が減少するのと同じ原理が、地上での生活でも起こりうるのです。
女性ホルモンと骨粗鬆症の関係
「骨粗鬆症は女性の病気」というイメージが強いのには、明確な理由があります。それは、女性ホルモンである「エストロゲン」が、骨の健康に深く関わっているからです。
ここでは、女性ホルモンがどのように骨を守り、そしてその減少がなぜ骨粗鬆症の大きな引き金となるのかを解説します。
エストロゲンの骨保護作用
女性ホルモンのエストロゲンには、骨代謝において非常に重要な役割があります。それは、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制する作用です。
エストロゲンが十分に分泌されている間は、破骨細胞の過剰な働きが抑えられ、骨吸収と骨形成のバランスが保たれやすくなります。
つまり、エストロゲンは骨が過剰に壊されるのを防ぐ、骨の守り神のような存在なのです。
閉経による急激な骨量減少
女性は50歳前後で閉経を迎えます。閉経すると、卵巣からのエストロゲンの分泌が急激に、そして劇的に減少します。
このエストロゲンの減少により、これまで抑えられていた破骨細胞が一気に活発化します。
骨を作る骨芽細胞の働きは変わらないのに、骨を壊す働きだけが亢進するため、骨吸収が骨形成を大幅に上回り、骨量は急速に失われていきます。
この閉経後数年間の骨量減少は特に著しく、骨粗鬆症のリスクが飛躍的に高まる時期です。
閉経前後の骨の変化
| 時期 | エストロゲン分泌量 | 骨代謝への影響 |
|---|---|---|
| 閉経前 | 多い | 破骨細胞の働きが抑制され、骨量は安定 |
| 閉経後 | 激減する | 破骨細胞が活発化し、骨量が急速に減少 |
年代別の骨密度変化パターン
女性の骨密度は、生涯を通じて特徴的なパターンで変化します。思春期に急激に増加し、20歳頃に一生のうちで最も高い「最大骨量(ピークボーンマス)」に達します。
その後40代半ばまではそのレベルを維持しますが、閉経期を迎えると急激に低下し始め、その後も緩やかに減少し続けます。
若い頃にどれだけ高い最大骨量を獲得できたかが、将来の骨粗鬆症リスクを左右する重要な鍵となります。最大骨量が低ければ、その後の減少に耐えられず、早い段階で骨粗鬆症になりやすくなります。
男性における性ホルモンの影響
骨粗鬆症は女性に多いですが、男性も無関係ではありません。男性ホルモンである「テストステロン」も、骨の健康維持に関わっています。
テストステロンの一部は体内でエストロゲンに変換され、骨を保護する働きをします。男性も加齢とともにテストステロンの分泌が減少するため、骨密度は低下していきます。
ただし、女性の閉経のようにホルモン量が急激に変化するわけではないため、骨量の減少は女性に比べて緩やかです。
生活習慣が骨の健康に与える影響
骨の健康は、生まれ持った体質や年齢だけで決まるものではありません。毎日の食事や運動といった生活習慣が、何十年という時間をかけて骨の強さに大きく影響します。
ここでは、骨の健康を左右する様々な生活習慣について、その影響を具体的に解説します。日々の暮らしを見直すヒントがここにあります。
栄養不足による骨密度低下
骨はカルシウムの塊と思われがちですが、その土台となるのはコラーゲンというたんぱく質です。
丈夫な骨を作るためには、カルシウムはもちろん、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨の形成を促すビタミンK、そして良質なたんぱく質など、様々な栄養素が必要です。
特にご高齢になると食が細くなりがちで、これらの栄養素が不足しやすくなります。偏った食事や極端なダイエットは、骨にとって大きなダメージとなります。
骨の健康を支える主な栄養素
| 栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食品 |
|---|---|---|
| カルシウム | 骨の主成分となる | 牛乳、乳製品、小魚、豆腐 |
| ビタミンD | カルシウムの吸収を助ける | きのこ類、鮭、さんま、卵黄 |
| ビタミンK | 骨の形成を促す | 納豆、ほうれん草、ブロッコリー |
運動不足と骨への負荷不足
骨は、負荷がかかることで強くなる性質を持っています。運動によって骨に体重や衝撃がかかると、骨を作る骨芽細胞が活性化し、骨が丈夫になります。
逆に、運動不足で骨に負荷がかからない生活が続くと、骨は弱くなってしまいます。
散歩やジョギングのような体重がかかる運動や、筋力トレーニングで筋肉を介して骨に刺激を与えることが、骨の健康維持にとても重要です。
喫煙・過度な飲酒の悪影響
喫煙と過度な飲酒は、骨の健康に様々な悪影響を及ぼします。喫煙は、胃腸でのカルシウムの吸収を妨げ、骨を保護する女性ホルモン(エストロゲン)の働きを弱めることが知られています。
また、過度のアルコール摂取は、骨を作る骨芽細胞の働きを直接的に低下させるとともに、利尿作用によってカルシウムの尿中への排泄を増やしてしまいます。
これらの習慣は、骨粗鬆症の危険因子です。
- 喫煙:カルシウム吸収阻害、女性ホルモンへの悪影響
- 過度の飲酒:骨形成の抑制、カルシウム排泄の促進
日光不足とビタミンD欠乏
骨の健康に欠かせないビタミンDは、食事から摂取するほかに、日光(紫外線)を浴びることで皮膚でも作られます。
しかし、ご高齢になると外出機会が減ったり、過度な紫外線対策をしたりすることで、日光を浴びる時間が不足しがちです。
その結果、体内のビタミンDが欠乏し、食事でカルシウムを摂っても十分に吸収できず、骨がもろくなる原因となります。適度な日光浴は、骨の健康のための大切な習慣です。
食塩・リンの過剰摂取問題
塩分(ナトリウム)を摂りすぎると、体は余分なナトリウムを尿として排泄しようとします。その際、カルシウムも一緒に排泄されてしまうため、骨にとってはマイナスです。
また、インスタント食品や加工食品に多く含まれる「リン」も、摂りすぎるとカルシウムの吸収を妨げたり、排泄を促したりします。
バランスの取れた食生活を心がけ、塩分や加工食品の摂りすぎには注意が必要です。
遺伝的要因と骨粗鬆症の発症
生活習慣に気をつけていても、骨粗鬆症になりやすい人がいるのも事実です。骨の強さや骨量は、両親から受け継いだ遺伝的な要因も影響します。
ここでは、自分では変えることのできない、遺伝的な側面から骨粗鬆症の原因を探ります。ご自身のルーツを知ることも、リスク管理の一つです。
家族歴と骨粗鬆症リスク
血縁関係のある家族、特に母親が骨粗鬆症であったり、足の付け根(大腿骨近位部)の骨折を経験していたりする場合、その子供(特に娘)が骨粗鬆症になるリスクは高くなることが分かっています。
これは、骨の量や質を決定する遺伝的な体質が受け継がれるためと考えられます。家族歴は、骨粗鬆症の重要な危険因子の一つです。
体型・体質による影響
生まれ持った体型も、骨粗鬆症のリスクに関係します。
一般的に、痩せている人や小柄な人は、体重が骨にかける負荷が少なく、また骨格自体も華奢であるため、もともとの骨量が少ない傾向にあります。
若い頃に蓄えられる最大骨量が低めになりがちで、加齢による骨量減少の影響を受けやすくなります。
骨粗鬆症のリスクが高い体型
| 特徴 | 理由 |
|---|---|
| 痩せ型・低体重 | 骨にかかる体重の負荷が少なく、骨が作られにくい |
| 小柄な体格 | もともとの骨格が小さく、全体的な骨量が少ない傾向がある |
骨代謝関連遺伝子の役割
近年の研究により、骨の代謝に関わる特定の遺伝子が、骨密度や骨粗鬆症の発症しやすさに関連していることが明らかになってきました。
例えば、カルシウムの吸収に必要なビタミンDの働きに関わる「ビタミンD受容体遺伝子」や、骨の主成分であるコラーゲンの設計図となる「コラーゲン遺伝子」など、複数の遺伝子が関与していると考えられています。
ただし、遺伝子だけで全てが決まるわけではなく、あくまで「なりやすさ」に関わる一因です。
疾患・薬剤による続発性骨粗鬆症
加齢や生活習慣とは別に、特定の病気の治療やその影響で骨がもろくなることがあります。これを「続発性骨粗鬆症」と呼びます。
もとになる病気の管理とともに、骨の健康にも目を向けることが大切です。ここでは、どのような病気や薬が骨に影響を与えるのかを解説します。
内分泌疾患による骨代謝異常
ホルモンバランスの異常を引き起こす内分泌疾患は、骨代謝に大きな影響を与えることがあります。
例えば、甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)や、骨からカルシウムを溶かす働きのある副甲状腺ホルモンが過剰になる副甲状腺機能亢進症は、骨吸収を促進し、骨量を減少させます。
- 甲状腺機能亢進症
- 副甲状腺機能亢進症
- クッシング症候群(副腎皮質ホルモンの過剰)
ステロイド薬による骨量減少
関節リウマチ、気管支喘息、膠原病などの治療に広く使われるステロイド(副腎皮質ホルモン)薬は、骨粗鬆症を引き起こす代表的な薬剤です。
ステロイド薬は、骨を作る骨芽細胞の働きを抑制し、同時に骨を壊す破骨細胞の働きを活性化させる作用があります。
さらに、腸からのカルシウム吸収を妨げ、尿からのカルシウム排泄を増やすなど、様々な経路で骨に悪影響を及ぼします。特に長期間、多くの量を使用する場合には注意が必要です。
その他の薬剤と疾患の影響
ステロイド薬以外にも、骨に影響を与える薬剤や疾患は存在します。例えば、糖尿病は骨質を劣化させ、骨密度がそれほど低くなくても骨折しやすくなることが知られています。
また、慢性腎臓病では、腎臓でのビタミンDの活性化やカルシウム・リンの調節がうまくいかなくなり、骨がもろくなります。
その他、一部の抗てんかん薬や乳がん・前立腺がんのホルモン療法なども骨密度を低下させることがあります。
続発性骨粗鬆症の主な原因
| 分類 | 具体的な原因の例 |
|---|---|
| 内分泌疾患 | 甲状腺機能亢進症、糖尿病、性腺機能低下症 |
| 薬剤 | ステロイド薬、一部の抗てんかん薬、ホルモン療法薬 |
| その他 | 慢性腎臓病、関節リウマチ、動脈硬化、COPD |
早期発見と対策の重要性
続発性骨粗鬆症の場合、もとになっている病気の治療が最優先です。しかし、それと同時に骨に対するケアを怠ってはいけません。
原因となる病気の主治医と連携し、定期的に骨密度を測定したり、必要に応じて骨粗鬆症の治療薬を開始したりすることが重要です。
原因が分かっているからこそ、早期からの対策が可能な場合も多くあります。
よくある質問
最後に、骨粗鬆症の原因に関して多くの方が疑問に思う点について、Q&A形式でまとめました。ご自身の状況と照らし合わせながら、参考にしてください。
- 牛乳を毎日飲めば骨粗鬆症は防げますか?
-
牛乳はカルシウムが豊富で骨に良い食品ですが、それだけで完全に防げるわけではありません。
カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨を作る他の栄養素もバランス良く摂ることが大切です。また、運動習慣など他の要因も大きく関わります。
- 骨密度検査はいつ頃から受けるのが良いですか?
-
特に女性は、閉経期を迎える50歳前後が一つの目安です。
また、痩せている方、ご家族に骨折した方がいる、特定の病気や薬を使用しているなど、危険因子がある場合は、より早い時期からの検査を検討すると良いでしょう。
- サプリメントは効果がありますか?
-
食事から十分な栄養が摂れない場合には、カルシウムやビタミンDのサプリメントが有効なことがあります。ただし、基本はあくまで食事からの摂取です。
また、過剰摂取が問題になる栄養素もあるため、利用する際は自己判断せず、医師や薬剤師に相談することが望ましいです。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

