高齢者の暮らしを支えるうえで、多くの薬を一度に処方される状況を放置すると、健康面や生活の質に大きな影響が及ぶ可能性があります。
ご自宅で診療を受ける機会が増えると、薬剤の管理に関する不安や疑問が生じることも多いようです。
薬の数や重複などを見直すポリファーマシー対策を理解し、訪問診療を利用する意義を検討することで、ご自身や家族の健康状態をより適切に守れるかもしれません。
本記事では、多剤併用のリスクと対策について多角的に解説し、ご自宅で安心して治療を続けるための一助となる情報をお伝えします。
ポリファーマシーとは – 高齢者の薬剤管理における課題
高齢者に対して複数の薬が処方されると、その種類や飲み合わせによってリスクが増大するといわれています。
複数の薬を内服することの問題点や、高齢者特有の身体的変化による薬物動態の影響などを見ながら、多剤併用の現状や実情を概観します。
多剤併用がもたらす有害事象のリスク
高齢者のポリファーマシーで懸念されるのは、有害事象のリスク増加です。複数の薬を組み合わせると、相互作用により副作用が出やすくなります。
たとえば鎮静作用のある薬をいくつも併用すると、転倒のリスクが高まる可能性があります。高齢者は筋力やバランス感覚が低下していることが多いため、転倒による骨折や入院のきっかけとなるリスクも見逃せません。
また、種類の多さだけでなく服用期間が長期化するほど副作用の可能性が高まります。
一般的な副作用だけでなく、薬が体内にとどまる時間の延長や相互作用によって、日常生活に支障をきたすような体調不良が起こることもあります。
特に肝機能や腎機能が低下しがちな高齢者では、薬の代謝や排泄が円滑に進まず、意図せず薬物の血中濃度が高まるリスクが高いです。
高齢者における多剤併用の一例として、睡眠導入剤と降圧剤、胃薬、痛み止めを同時に飲んでいる場合が挙げられます。
適切なタイミングや用量を守らなければ、めまいやふらつき、胃腸障害が起こることも想定されます。これらは生活の質を落とす要因になりかねないため、注意が必要です。
いくつかの例を示します。
区分 | 代表的な例 |
---|---|
複数の鎮静作用をもつ薬 | 睡眠導入剤+抗不安薬 |
複数の降圧効果がある薬 | 降圧剤+利尿薬 |
胃腸への影響が重なる薬 | NSAIDs+抗血小板薬 |
このように、同じ作用をもつ薬や作用機序が類似している薬を併用している場合は特に注意が必要です。
ポリファーマシーの定義と現状
ポリファーマシーは「多剤併用」と訳される場合がありますが、明確な定義はありませんが、処方されている薬が一定数を超えている状態を指すことが一般的です。
ただし、「薬が多い」だけでなく「有効性と安全性のバランスが崩れている状態」を重視する考え方も広がっています。
日本では高齢化が進むに伴い、複数疾患を同時に抱える方が増えています。そのため、病気ごとに薬が追加され、気づけば毎日飲む薬が10種類を超えるといった事例も珍しくありません。
しかし、すべてが必要な薬とは限らないのです。処方の意図が不明になった薬や、軽減可能な症状に対して継続している薬も存在します。
実際、医療現場でも処方を減らしたいという意識は高まっており、多剤併用解消のための診療報酬での評価や行政による啓発も行われています。
一方で、患者さん自身や家族が「薬を減らして大丈夫だろうか」と不安になるケースもあるため、医療者からの丁寧な説明が求められます。
高齢者の生理的変化と薬物動態への影響
年齢を重ねると、生理機能が少しずつ衰えます。代表的なものとして、腎機能や肝機能の低下、体内の水分量や脂肪量の変化などが挙げられます。
腎臓がろ過する能力が低下すると、薬の排泄が遅くなり、血中濃度が高まりやすくなります。肝機能が落ちると代謝が円滑に進まず、薬が体内に残る時間が長引き、副作用を起こしやすくなります。
さらに、体内の水分量が減少して脂肪量が増加すると、薬によっては分布が変化します。脂溶性の薬剤は体内に蓄積されやすく、水溶性の薬剤は血中濃度が高くなるなど、さまざまな変化が生じます。
高齢者は転倒や骨粗鬆症による骨折リスクも高いため、わずかな副作用でも生活を大きく左右しかねません。
そうした事情を踏まえ、同じ疾患に同じ薬を用いる場合でも、高齢者では作用の仕方が異なったり、副作用が現れやすくなったりします。
たとえば眠気が強い薬や、血圧を下げる効果が強い薬、鎮静鎮痛作用が強い薬などは少量から始めるなどの工夫が重要です。
次の構成は高齢者の生理的変化と薬物動態の例をまとめたものです。
項目 | 若年層 | 高齢者 |
---|---|---|
体内水分量 | 多い | 減少傾向 |
脂肪割合 | 低い | 増加傾向 |
肝機能 | 活発 | ゆるやか |
腎機能 | 高め | 低下傾向 |
残薬問題とその背景
多剤併用が進むと、患者さんが服用する薬の総量が多くなるため、使いきれない薬がたまることがあります。
残薬は、患者さんの負担を増やすだけでなく、実際にどの薬をどれくらい服用しているのか把握しにくくする原因にもなります。さらに、残薬が増えるということは、医療費の増大にも直結します。
残薬が生じる背景には、患者さんの飲み忘れや、症状が落ち着いたので自己判断で中止したケースなどさまざまな要因があります。
とくに高齢者は、複数の薬を区別するのが難しくなりやすいこともあり、飲み忘れに気づかずに処方を継続してもらうことで結果的に残薬が大量にたまることもあります。
薬剤師や医師が定期的に薬の状況を確認し、必要に応じて処方を変更・中止したり、飲みやすい形状に切り替えたりすることで残薬を減らす取り組みが進んでいます。
残薬問題が解決すると、経済的負担の軽減だけでなく、患者さんの安全性や安心感が高まるという利点があります。
訪問診療におけるポリファーマシー対策の重要性
ご自宅で診療を受ける高齢者にとって、ポリファーマシー対策をしっかり行うことは重要です。
在宅医療の現場での薬剤管理の問題点や訪問診療を活用する意味を考え、患者さんの生活環境に合わせたアプローチがどのように役立つかを見ていきます。
在宅医療の現場で見られる薬剤管理の問題点
外来通院が難しい方や寝たきりの方などは、在宅医療を受けるケースが多いです。
しかし、在宅では病院のように常時医療スタッフがいるわけではないため、服薬管理の多くを本人や家族が担うことになります。
薬の種類や用量が多いと、どうしても間違いが生じやすくなるのが現実です。
- 複数の診療科から薬を処方されている
- 飲むタイミングが異なる薬が多い
- 服用する目的が分からないまま惰性で続けている
こうした状況が重なると、本来効果が期待される薬が十分に役立っていないばかりか、新たな症状を引き起こす原因にもなり得ます。
在宅では医師が常にそばにいるわけではないので、些細な体調の変化に気づきにくくなる面もあります。
訪問診療が入れば、薬の内容や服用状況を定期的に見直すことができます。患者さんの顔色や生活の様子を実際に見ることで、体調の変化を見逃しにくくなります。
薬剤管理の問題点を早期に察知して対策を取るためにも、訪問診療を活用する価値は高いです。
次の表では在宅医療で生じがちな薬剤管理の主な課題をまとめています。
問題点 | 具体的例 |
---|---|
複数の処方元 | 病院Aと病院Bで重複する薬がある |
服用タイミングの混乱 | 朝だけ飲む薬と朝夕飲む薬を混同 |
目的不明の薬 | いつから飲んでいるか分からない薬 |
自己中断や飲み忘れ | 病状が楽になると勝手にやめる |
高齢者の服薬コンプライアンスと生活環境
高齢者は、身体機能の低下や物忘れの増加などにより、薬を正しく飲むことが難しくなる場合があります。さらに、複数の薬を指示通りに飲むには手先の器用さや注意力も必要です。
たとえば分包シートをうまく開けられなかったり、錠剤をうまくつまめなかったりすることで、正しい服薬が滞る可能性があります。
また、生活環境の問題も大きいです。1人暮らしの高齢者は、日常の見守りが少ないので、薬の飲み忘れや間違いに気づきにくいです。
ご家族と同居している場合でも、家族が忙しかったり、高齢の配偶者同士で支え合っているケースだと、十分なサポートが難しくなることもあります。
訪問診療により定期的に医師が状態を確認し、必要に応じて訪問看護師やケアマネジャー、薬剤師などと連携することで、きめ細やかなサポートが期待できます。
高齢者の生活環境を改善しながら、服薬コンプライアンスを高める取り組みを行うことが重要です。
訪問診療だからこそできる薬剤管理
病院受診では短時間の診察が中心になる場合もありますが、訪問診療だと医師や看護師が自宅で生活する様子を直接確認できます。
たとえば、薬がどの棚に置いてあるか、飲み忘れを防ぐ仕組みはどうなっているかなど、生活の実態を踏まえたうえで薬剤管理の方法を提案できます。
さらに、必要な場合には訪問薬剤管理指導を活用することで、薬剤師が自宅に伺い、薬の整理や服薬カレンダーのチェックなどを行えます。
こうした取り組みによって、患者さんの負担を軽減しながら、適切な薬を適切なタイミングで服用する環境を整えやすくなります。
薬を実際にどれだけ残しているか、飲み忘れがないかなどを直接確認しながら医師と相談できるのもメリットです。
外来通院だけではつかみきれない情報をもとに、処方の調整を行える点が訪問診療の利点といえます。
患者のQOL向上とポリファーマシー対策の関係
ポリファーマシー対策を行うと、生活の質(QOL)の向上につながると期待できます。
多剤併用が原因で生じていた眠気やふらつき、消化不良などが緩和されると、日常生活の動作や意欲に変化が出てくる可能性があります。
たとえば、「薬を減らしたら朝起きられるようになり、散歩ができるようになった」といった声もあります。
医師が処方を見直して薬を整理し、副作用が少なくなることで食事の味を楽しめるようになったり、夜間のトイレ通いが減ったりする変化が見られることもあるのです。
ただし、薬を減らすことが全ての症状改善につながるわけではなく、あくまで必要な薬を見極めることが大切です。
訪問診療の枠組みでは患者さんの生活状況が詳細に把握できる分、より的確な判断がしやすくなります。
医療費削減の観点からの意義
ポリファーマシー対策には、国の医療費削減という観点もあります。処方される薬の種類が増えるほど、薬剤費がかさみます。一方で飲み忘れや長期処方により残薬がたまれば、さらに無駄が生じます。
薬剤管理を適切に行い、必要がない薬を減らすことで、社会全体の医療費を軽減できる可能性があります。
患者さん自身の負担も同時に軽くなる利点があります。特に複数の慢性疾患を抱え、長期にわたって薬を飲み続けている方にとって、月々の薬代は無視できない出費でしょう。
訪問診療を活用し、薬剤師や医師と連携してポリファーマシー対策を行うことは、長期的に見てもメリットが大きいと考えられます。
次のまとまりにポリファーマシー対策による効果の一例を示します。
項目 | 期待される効果 |
---|---|
医療費 | 薬剤費の軽減 |
患者の負担 | 服薬回数や費用の低減 |
副作用リスク | 軽減 |
生活の質 | 活動性向上や自立度上昇 |
多職種連携によるポリファーマシー対策の実践
ポリファーマシーを解消するには、医師だけでなく薬剤師、看護師、介護職などさまざまな職種が連携することが大切です。
多職種が協力してどのように薬剤管理を行うか、その具体的な取り組み方を紹介します。
医師と薬剤師の効果的な連携方法
薬剤師は薬の専門家として、薬の選択や併用時の相互作用、副作用のモニタリングなどを担います。
医師が患者さんを診察し、治療方針を決める一方で、薬剤師が処方された薬の内容を確認し、気になる点を指摘することは重要です。
とくに訪問薬剤管理指導で薬剤師が在宅を訪問し、実際に薬の状態や服薬状況を確認できると、処方の重複や無駄などを見つけやすくなります。
医師に速やかにフィードバックして処方を調整することで、ポリファーマシーを効果的に防げます。医師も薬剤師からの客観的な情報を得ることで、より安全な治療を提供しやすくなります。
訪問薬剤管理指導の活用と効果
薬剤師がご自宅にうかがい、薬の飲み方や副作用の有無、保管状況などをきめ細かく確認するのが訪問薬剤管理指導です。
患者さんや家族が薬について抱えている疑問や不安を相談できるので、服薬ミスのリスクが減ります。
具体的には、薬を飲むタイミングの整理や、飲み残しの有無をチェックするだけでなく、副作用を早期にキャッチして医師につなげる役割も担います。
たとえば、むくみが出ていないか、倦怠感が強まっていないかなど、日常的な身体の変化をヒアリングしながら副作用を疑うことも大切です。
訪問薬剤管理指導を利用することで、ポリファーマシーを防ぎながら、万が一のトラブルを未然に防ぎやすくなります。
介護職・看護師との情報共有の重要性
在宅ケアにおいては、介護職や看護師も重要な存在です。介護職は日常的な生活支援を行い、看護師は医療的ケアを担いますが、いずれも患者さんの生活を間近で見る立場にいます。
そのため、薬の副作用らしい体調不良が起きたり、飲み忘れが続いたりする場合には、すぐに気づくことができます。
情報共有を円滑にするためには、医師や薬剤師と同じタイミングで情報を共有する場を設けたり、記録や連絡ツールを活用してこまめに連絡したりする仕組みが大切です。
介護職・看護師による気づきは早期発見に直結するので、ポリファーマシー対策にも大きく貢献します。
以下は多職種が連携することで見込める主なメリットの例です。
職種 | 主な役割 | 連携メリット |
---|---|---|
医師 | 診断・治療方針の決定 | 状態を総合的に判断し処方を調整 |
薬剤師 | 薬の適正使用・相互作用のチェック | 在宅での薬剤管理をサポート |
看護師 | 医療的ケア・体調管理 | 患者の日常の変化を早期に把握 |
介護職 | 生活支援・見守り | 日々の暮らしの状況をフィードバック |
多職種カンファレンスの開催と活用法
患者さんの治療を複数の専門職が一体となって支えるには、定期的に多職種カンファレンスを開催することが大切です。
医師、看護師、薬剤師、介護職、ケアマネジャーなどが一堂に会し、患者さんの体調や生活環境について情報を共有し合います。
そのうえで処方内容の見直しやリハビリ、介護サービスの提供方法を検討すると、患者さん一人ひとりの状態に合わせたケアをしやすくなります。
多職種カンファレンスでは、各専門家が異なる視点で患者さんを捉えています。
たとえば看護師は血圧や体温などのバイタルサインを重視し、介護職は食事や排泄などの日常動作の様子を重点的に見ています。
薬剤師は薬による副作用や相互作用に注目し、医師は総合的な治療方針を考えます。こうした情報を集めることで、より適切な薬剤選択や服薬指導を提供できるでしょう。
具体的な減薬アプローチと評価方法
高齢者のポリファーマシーを見直すには、単純に薬を減らすだけではなく、適切に評価しながら慎重に行う必要があります。
高齢者総合機能評価に基づく薬学的アセスメントや、減薬の進め方、患者さんや家族に対する説明方法などを具体的に紹介します。
高齢者総合機能評価(CGA)に基づく薬学的アセスメント
CGAは、身体機能や精神・心理面、社会的環境などを多面的に評価する手法です。
薬剤の副作用による生活機能の低下や、薬を正しく使えているかなどを総合的に考慮することで、ポリファーマシーの影響を精査できます。
医師と薬剤師が協力してCGAの結果を読み解きながら薬学的アセスメントを行うと、患者さんの身体状況や認知機能、経済状況などを含めて「この薬は続けるべきか」「作用が重複していないか」などを確認できます。
とくに訪問診療では生活環境も評価しやすいため、減薬の必要性と安全性を判断しやすいメリットがあります。
処方見直しのタイミングと進め方
処方を見直すタイミングとしては、定期的な診察や訪問時が挙げられます。患者さんの体調変化や新たな症状が出たとき、あるいは薬剤師から薬の問題点が報告されたときなどが機会になります。
まずは薬の一覧を作成し、1つひとつの必要性や目的、副作用リスクをチェックし、不要と判断できる薬については主治医の指示のもとで中止や減量を検討します。
急に薬を中止するとリバウンド現象を起こす薬もあるため、徐々に減量することが大切です。とくに降圧剤や睡眠導入剤、ステロイド系薬剤などは医師の監督のもとで慎重に減らす必要があります。
以下は処方見直しの流れの例です。
ステップ | 内容 |
---|---|
薬の把握 | 現在使用中の薬をすべてリストアップ |
必要性評価 | 診療方針に照らし合わせて必要な薬か検討 |
副作用確認 | 副作用のリスクや相互作用の有無をチェック |
減薬 or 切り替え | 医師の判断で徐々に量を調整 |
フォローアップ | 経過観察し、症状や副作用の再評価 |
減薬後のモニタリングと評価
減薬を行った後は、患者さんの体調や症状の変化をこまめにチェックします。減薬により本来の症状が悪化したり、別の副作用が生じたりする可能性もあるので、注意深く観察する必要があります。
特に高齢者は複数の疾患を抱えている場合が多いため、1つの薬をやめることで他の薬や症状に影響が出ることもあります。
訪問診療では、医師や看護師が定期的に自宅を訪問して状態を観察できるため、減薬後のモニタリングがスムーズに行えます。
患者さんや家族も、体調や生活の変化を説明しやすくなるので、何かトラブルが起きた際にもすぐに対応できる体制を整えられます。
患者・家族への説明と同意の取り方
薬を減らすことに対して患者さんや家族が不安を抱く場合もあります。これまで長年飲んできた薬を急にやめるのは心配だという声も多いです。
そのため、医療者は「なぜ減薬が必要か」「副作用のリスクとベネフィット」などを具体的に説明し、メリットを理解してもらうことが大切です。
また、減薬を実施するうえでは患者さんや家族の同意を得ることが不可欠です。納得のいく説明と、状況に合わせた相談ができるようなコミュニケーションが望まれます。
訪問診療の現場では、家族も同席しやすいため、意見を聞きながら方針を決められるのも利点です。
診療報酬上の評価と活用
多剤併用の見直しは、診療報酬の項目でも評価されるケースがあります。
たとえば、ポリファーマシー対策として減薬の取り組みや、訪問薬剤管理指導を活用した事例などには、医療費の点数加算が認められることがあります。
これにより、医療現場でもポリファーマシーに積極的に取り組む動機付けが高まっています。
患者さんからしても、適切な評価があることによって医師や薬剤師が連携しやすくなり、減薬の機会が増えます。診療報酬上のメリットを活かすことで、質の高い在宅医療を受けることにつながるでしょう。
ポリファーマシー対策の具体的な方法
ポリファーマシーを解消するためには、多角的なアプローチが求められます。医師の処方変更だけでなく、薬剤管理の仕組みや患者さん・家族への啓発が重要です。
薬剤管理を一元化する方法や自宅での飲み忘れ防止策など、実践的な取り組みを紹介します。
薬剤管理の一元化システム
薬剤管理を一元化するには、複数の医療機関で処方を受けている場合でも、主治医が薬の総数や種類を把握することがカギとなります。
かかりつけ医を決め、すべての薬の処方情報を一元的に管理するのが理想的です。
そのうえで、薬局も1つに絞って処方箋を出し、薬剤師が総合的にチェックする体制を整えると、重複や相互作用を見逃しにくくなります。
一元化システムを運用する際には、定期的に薬のリストを更新し、変更があればすぐに共有することが大切です。
訪問診療と組み合わせれば、実際の残薬や服薬状況もリアルタイムで確認しやすくなり、より安全性を高められます。
次の情報は薬剤管理の一元化でチェックすべき主なポイントです。
項目 | チェック内容 |
---|---|
処方元の確認 | どの病院や診療所から出ているか |
薬の重複 | 同じ成分や作用の薬が出ていないか |
服用目的 | 何の症状に対して処方されているのか |
変更履歴 | どのタイミングで追加や変更があったか |
おくすり手帳と服薬カレンダーの活用事例
薬剤管理を整理する手段として、多くの方がおくすり手帳を活用しています。
受診のたびに医療機関や薬局で薬の情報を手帳に記載し、いつでも参照できるようにしておくと、多職種が情報を共有しやすくなります。
特に訪問診療や訪問看護を受けている場合、手帳を見ればどのタイミングで何が処方されたのか一目瞭然です。
一方、飲み忘れ防止には服薬カレンダーが役立ちます。
あらかじめ薬を区分ごとに小分けしておき、朝・昼・夕・就寝前などの時間帯別にセットしておくことで、患者さんが自分のペースで確認できます。
ご家族や介護職がサポートする場合にも、飲み残しや飲み間違いを確認しやすくなるメリットがあります。
服薬支援ツールと最新テクノロジーの導入
従来からある服薬カレンダーに加え、近年ではさまざまな支援ツールが利用されています。携帯端末のアプリで服薬時間をアラーム通知したり、飲み忘れをカウントしたりするシステムもあります。
IT機器に馴染みがない高齢者でも、家族がサポートすれば比較的スムーズに利用できることが多いです。
一方で、電子機器が苦手な方もいます。その場合は無理に導入するのではなく、シンプルな方法を選択することが大切です。
お薬を仕分けした小分けバッグや曜日ごとのケースなど、アナログ手段でも十分効果があります。大切なのは患者さん自身や家族、介護職が使いやすい方法を見つけることです。
以下は服薬支援ツールの主な種類と特徴です。
種類 | 特徴 |
---|---|
アラーム機能付きケース | 時間になると音や光で知らせる |
スマートフォンアプリ | 服用記録や副作用管理ができる |
機械式分包装置 | 決まった時間に必要な薬のみが出てくる |
患者・家族への教育と啓発活動
ポリファーマシー対策の一環として、患者さんや家族が薬について理解を深めることが重要です。
なぜその薬が必要なのか、どんな効果と副作用があるのかを把握することで、安心して治療に取り組めます。
薬の知識を学ぶ機会を設けたり、医療者からの説明に積極的に質問をしたりすることが大切です。
特に高齢の方は、昔から飲んでいる薬をそのまま続けることが当たり前だと思っている場合が多いです。
しかし、年齢や体調の変化で薬の必要性が変わることがあると知れば、減薬の提案にも抵抗を感じにくくなることがあります。
訪問診療の場で、定期的に薬に関するミニ学習会を開くなど、家族も含めた啓発を行う取り組みが進んでいます。
ポリファーマシー対策の今後と展望
社会の高齢化が進むにつれ、在宅医療の需要は増しています。その状況で多剤併用をどう解消していくかは、医療と介護の大きな課題です。
地域包括ケアシステムの中での役割や、ガイドライン・政策の動向、薬剤管理とデジタル技術の可能性などについて解説します。
地域包括ケアシステムにおける役割
地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で必要な医療や介護、生活支援を受けながら暮らし続けるための仕組みです。ポリファーマシー対策はその中でも重要な位置づけです。
多職種連携が欠かせないため、地域の医師会や薬剤師会、介護事業者と協力し合う体制が求められます。
訪問診療だけでなく、地域の医療機関や薬局が情報を共有することで、どの患者さんがどの薬を飲んでいるかを確認し合い、重複や過剰処方を防ぎやすくなります。
地域包括ケアシステムの整備が進むほど、ポリファーマシー対策も円滑に進めやすくなるでしょう。
最新のガイドラインと政策動向
最新のガイドラインや行政の政策でも、多剤併用への関心が高まっています。政府や自治体は、高齢者の安全な薬物治療を促進し、医療費の適正化を図るための政策を打ち出しています。
たとえば、医療機関同士の連携を円滑にするICT(情報通信技術)の活用や、多職種が集まって意見交換を行う場の整備などが挙げられます。
薬剤師の在宅訪問や訪問看護との連携を推進するための診療報酬制度も整備されつつあり、ポリファーマシー対策が実践しやすい環境が増えています。
ただし、制度だけではなく、地域の状況に合わせた柔軟な取り組みも重要です。
デジタル技術を活用した薬剤管理の未来
デジタル技術の進歩により、薬剤管理の方法がさらに広がる可能性があります。
オンライン診療や遠隔モニタリングシステムを使えば、患者さんがリアルタイムに血圧や体温を医療者に共有し、薬の効果や副作用をオンライン上で相談することも可能になりつつあります。
ウェアラブルデバイスを活用すれば、薬を飲んだタイミングを自動記録し、飲み忘れが発生したら通知を送るといった仕組みも導入可能です。
デジタル機器が苦手な方にはハードルがあるものの、介護者や家族が支えることで、在宅でも高度なモニタリングと薬剤管理を実現できるでしょう。
次のまとめはデジタル技術がもたらす利点の一例です。
方法 | 利点 |
---|---|
オンライン診療 | 通院が困難な方も診察を受けやすい |
遠隔モニタリング | バイタル情報をリアルタイムに共有 |
ウェアラブル活用 | 飲み忘れや副作用を早期に察知 |
患者中心の薬物療法実現に向けて
ポリファーマシー対策の最終目的は、単に薬の数を減らすことではありません。患者さんが安全かつ安心して暮らせるように、効果的な薬だけを必要な量だけ使うことが重要です。
医師や薬剤師などの専門家が方針を決めるだけではなく、患者さんや家族の意向を尊重したうえで治療を組み立てるのが理想的です。
訪問診療は患者さんの生活実態を把握しやすいため、本当の意味での「患者中心の薬物療法」を実現しやすいと考えられます。
多職種の連携を通じて、患者さんとご家族の理解を深めながら、一人ひとりに合った形で処方を行うことが求められます。
よくある質問
在宅で薬を管理するうえで気になる点や、ポリファーマシー対策に関するよくある疑問をまとめます。訪問診療の利用を検討している方が、抱きやすい質問と答えを整理してみました。
- 訪問診療で薬の内容を見直してもらうにはどうすればいいですか?
-
訪問診療を行う医療機関に相談するか、かかりつけ医に訪問診療を依頼してみることを勧めます。
医師が訪問診療を実施している場合は、在宅での診察と合わせて処方や服薬状況を評価し、必要に応じて薬剤師の訪問指導を受けられます。
- 薬を減らすと病状が悪化しないか心配です。どのように判断すればいいでしょうか?
-
減薬は医師の診断にもとづいて安全を考慮しながら行います。自己判断で中止するのではなく、主治医と相談して副作用や病状を確認しながら進めるのが大切です。
定期的に状態をチェックし、不調があればすぐに医師へ相談してください。
- 複数の薬局を利用しているのですが、どんなデメリットがありますか?
-
複数の薬局を利用すると、薬剤師があなたの全処方内容を把握しにくくなります。その結果、重複処方や相互作用を見逃すリスクが高まります。
薬剤管理の観点では1つの薬局にまとめたほうが、安全面でも便利です。
- 訪問診療を受けるのに費用はどれくらいかかりますか?
-
一般的には、医療保険の範囲で行われるため、外来受診と同様の自己負担が発生します。
収入や保険の種類、住んでいる自治体の助成制度によって変わるため、詳しくは医療機関に問い合わせてください。
- 在宅でも認知機能が落ちている家族の服薬を管理できますか?
-
訪問薬剤管理指導や訪問看護師のサポートを利用することで管理のしやすさが向上します。
カレンダーや小分けケースなどを活用し、定期的に様子をチェックしながら取り組むと、飲み忘れや飲み間違いを減らしやすいです。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。