褥瘡治療の基礎知識 – 分類と評価、治療選択まで

褥瘡治療の基礎知識 - 分類と評価、治療選択まで

訪問診療を検討している方々は、褥瘡の原因や治療法をしっかり理解しようと考えているケースが多いです。

褥瘡は高齢者や寝たきりの方、在宅療養を続けている方に生じやすく、放置すると状態が悪化して日常生活へ負担を与えます。

この記事では、褥瘡の基礎的な知識や分類・評価方法、治療選択の流れについて順を追って解説し、在宅療養において検討する内容を整理します。

目次

褥瘡の基礎知識

褥瘡は長時間にわたり体重が特定部位に集中することで皮膚や皮下組織が損傷し、最終的に深い創傷に至ることがあるものです。

主に体圧の分散がうまくいかないことで起こりますが、栄養状態や日々のケアの方法も大きく関わります。体の状態が弱っている方にとっては深刻な問題となりやすく、早期の予防や適切な管理が重要です。

褥瘡(床ずれ)とは何か

褥瘡は「床ずれ」と呼ばれることもあり、皮膚やその下にある筋肉などが連続的に圧力を受けることで発生します。骨が出っ張っている部位に体重が集中して起こりやすく、一度できると治癒に時間がかかることがあります。

状態が重くなると感染のリスクも上がるため、早めの予防策と発生時の適切な対応が大切です。

褥瘡の発生メカニズム

皮膚表面や皮下の組織は、圧力が加わり続けると血流が阻害されやすくなります。血流量が下がると酸素や栄養が届きにくくなるため、細胞がダメージを受けて壊死に至る可能性があります。

さらに、摩擦力やずれの力も加わると組織へのダメージが増え、褥瘡が形成されやすくなります。

次のように圧迫やずれ、摩擦の要素を整理します。

圧迫の主因具体的な例
体重の集中長時間同じ姿勢をとる場合
硬い寝具や座面柔軟性が低いマットレス上での臥床
固定化された装具ギプスや器具の圧迫

このような要因が複合的に働き、褥瘡が進行しやすくなります。

褥瘡の好発部位

骨の突起部分に圧力が集中することが多いため、以下のような部位で生じやすいです。

  • 仙骨部(おしりの尾てい骨付近)
  • 踵(かかと)
  • 座った姿勢が長い場合の坐骨部
  • 大転子(股関節の外側部)
  • 肩甲骨付近

身体が衰弱している方は、皮下組織がやせると骨と皮膚の距離が短くなり、圧力を受けやすくなります。

医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)について

MDRPU(Medical Device-related Pressure Ulcer)は、医療で使用するチューブや装具などにより生じる圧迫創傷を指します。

たとえば鼻腔チューブ、酸素マスク、ギプスなどが当たる部分で起こり、着脱の方法やケアの仕方に注意しないと褥瘡と同様のメカニズムで創傷が進行します。

高齢者や寝たきりの方は皮膚が弱く、ちょっとした圧迫で傷ができる場合があるので、在宅療養の場面でも機器の選択や使用方法の見直しが必要です。

褥瘡の分類と評価

褥瘡が実際に起こった場合、深さや組織の状態を評価し、その段階に応じた治療法を選択します。この過程を適切に行わないと、治療の方向性にズレが生じたり、病変の悪化を防ぎにくくなったりします。

医療機関だけでなく在宅ケアの現場でも、看護師や主治医、リハビリスタッフなどが協力しながら判断し、必要に応じて治療方針を調整することが大切です。

褥瘡の深達度分類(NPUAP分類)

NPUAP(National Pressure Ulcer Advisory Panel)の分類は、褥瘡を4つのステージに分ける方式で、世界中で広く用いられています。

  • ステージ1:皮膚の変色や発赤があり、押しても色が戻らない状態。まだ皮膚の表面は破れていない。
  • ステージ2:表皮や真皮が損傷し、水疱(すいほう)や浅い潰瘍ができる。
  • ステージ3:皮下組織まで進行した損傷。脂肪組織が露出する可能性がある。
  • ステージ4:筋肉や骨まで達する深刻な損傷。壊死組織が露出する場合もある。

この段階分けを参考に治療の優先度やケアの重点を決定し、管理しやすくします。

日本褥瘡学会による分類

日本褥瘡学会はNPUAP分類を基盤にしつつ、日本の医療現場で使いやすい工夫を加えています。皮膚が浅く損傷した段階から深部組織にまで及ぶ段階までを系統立てて示し、進行度を把握しやすくしています。

次に、分類の概略をまとめます。

分類段階特徴
I発赤があり、皮膚の破綻はない
II表皮・真皮まで損傷
III皮下脂肪組織まで損傷
IV筋肉や骨まで到達した状態

このようにNPUAPとの対応関係を踏まえつつ、国内の臨床現場で取り入れられる形で運用します。

DESIGN-R評価システムの概要

褥瘡を包括的に評価する指標として、日本褥瘡学会が提唱するDESIGN-Rがあります。

これはDepth(深さ)・Exudate(滲出液)・Size(創面の大きさ)・Inflammation/ Infection(炎症や感染)・Granulation tissue(肉芽組織)・Necrotic tissue(壊死組織)・Pocket(ポケット状の腔)の頭文字をとったもので、さらにRe-evaluation(再評価)も重視します。

それぞれの観点を数値化し、褥瘡の重症度や経過を客観的に追えるのが特徴です。

DESIGN-R2020の新規ポイント

従来のDESIGN-Rから、一部の評価項目の基準や加点方式が見直されたバージョンがDESIGN-R2020です。より実態に沿った得点方式を取り入れ、褥瘡の進展や改善度を把握しやすくしています。

在宅の場面では、訪問看護師がこのスコアを基に医師と連携し、創部の変化を共有することで治療方針を調整します。

褥瘡の状態評価

褥瘡の状態をチェックする際、深さや創部の範囲、滲出液の量だけを確認するのではなく、周囲皮膚の状態や痛みの有無なども含めて観察することが重要です。

皮膚の色合いや触ったときの硬さ、においなどが普段と違う場合は、感染や悪化の兆しを疑うきっかけになります。

褥瘡のリスクアセスメント

褥瘡はできてからの治療も大切ですが、そもそもできにくい環境を整える予防的視点も大事です。リスクアセスメントとは、褥瘡の発生リスクが高い方を早期に見つけ、適切な予防・ケアを行うための評価活動です。

入院患者だけでなく、在宅療養の方でも定期的に行ってみると褥瘡の早期発見につながります。

リスクアセスメントの重要性

褥瘡は一度できると治癒に時間がかかり、感染のような合併症も起こりやすいです。リスクが高い方を見定めておくことで、必要な物品やケアの頻度、サポート体制を強化できます。

介護を行う家族と医療専門職が情報共有し、予防策を実践することで合併症を防ぎやすくなります。

下のまとめを参考にすると、リスクアセスメントの観点が把握できます。

評価項目意義
活動度ベッド上での可動性、歩行可能性
認知機能自身で体位変換の必要性を理解できるか
栄養状態体重減少や低アルブミン血症など
皮膚の状態乾燥や湿潤などダメージを受けやすいかどうか

このように複数の観点から総合的にリスクを推定します。

ブレーデンスケール

ブレーデンスケールは、感覚認知や活動性、可動性、湿潤、栄養状態、摩擦・ずれなど6項目を点数化する評価法です。合計点が低いほど褥瘡発生リスクが高いことを示し、具体的な予防策を導き出しやすい特徴があります。

在宅の場面でも、訪問看護師や家族が協力し合いながら項目をチェックし、早い段階で介入します。

K式スケールとOHスケール

国内では、ブレーデンスケールに加えてK式スケールやOHスケールなども利用されています。K式スケールは活動度や食事摂取量などを簡便に評価し、OHスケールは寝たきり度や意識状態なども含める形で褥瘡のリスクを示唆します。

複数のスケールを使い分けながら、利用者の状態を総合的に判断できます。

褥瘡予防のためのスクリーニング

在宅療養の方には、以下のような点に目を向けたスクリーニングを行います。

  • 過去の褥瘡の既往とその原因
  • 日常生活の動作範囲や介助のレベル
  • 皮膚や栄養状態の変化
  • 睡眠や休息の状態

身体機能だけでなく生活環境、介護者のケアの方法、寝具の選択など、日常の多面的な視点が大切です。

褥瘡の治療方針

褥瘡を治療する際は、まず圧迫を減らし、体の組織を回復させる環境を作ることが大事です。さらに栄養管理や局所治療などの複数のアプローチを組み合わせて進めます。

深達度や滲出液の量、感染の有無などに応じて選択肢が変わるため、継続的な評価と見直しが欠かせません。

治療の3本柱(除圧・栄養・局所治療)

褥瘡治療では以下の3点を中心に進めます。

  • 除圧:体位変換やクッションの活用、適切な寝具選択で長時間の圧迫を避ける。
  • 栄養:たんぱく質・ビタミン・ミネラルなどを十分に摂取し、創部の治癒を助ける。
  • 局所治療:壊死組織の除去や傷の保護、感染管理などを行う。

これらをバランスよく行いながら、創部の状態をこまめに観察します。

次のまとめを確認すると、3本柱に対して具体的に取り組むポイントを再確認できます。

主な内容補足説明
除圧体位変換・クッションの使用複数回にわたり位置を変える
栄養十分なカロリーとたんぱく質食欲が低下している方には補助食品も検討
局所治療感染コントロール・創傷被覆材傷の評価に応じて頻度を調整

保存的治療の選択

保存的治療とは、創を手術で閉じるのではなく、体圧分散や薬剤・創傷被覆材を用いて自然治癒力を高める方法です。褥瘡が比較的浅い段階や、手術リスクが大きい方に適しています。

感染の兆候が見られた場合は、早めに局所の洗浄や抗菌薬の使用を検討し、状態が落ち着けば被覆材の種類を変えて傷を保護します。

外科的治療の適応

深部まで達した褥瘡で、壊死組織が広範囲におよぶ場合は、外科的処置を検討します。具体的には、大量の壊死組織の切除、皮弁形成術(皮膚や筋肉を移動させて創を閉じる手術)などの方法があります。

手術には全身状態の管理が必要であり、高齢者や合併症を抱えている方の場合、慎重に検討します。

チーム医療の重要性

褥瘡治療には医師だけでなく、看護師や理学療法士、管理栄養士、介護職、さらには家族の協力が欠かせません。

それぞれの専門性を活かしながら連携し、治療計画の立案や在宅での指導などを実践していくと、褥瘡の悪化を防ぎやすくなります。

訪問診療や訪問看護を取り入れると、適切なタイミングでアドバイスを得たり、必要な処置を受けたりしやすくなります。

局所治療の実際

褥瘡の局所治療には、傷の状態に合わせたケアの手順や使用物品の選択が含まれます。感染リスクの軽減、滲出液の吸収バランスの調整、壊死組織の除去などを複合的に行うことで、褥瘡を早期に改善へ導きます。

在宅療養の場合は家族も処置に関わる場合があるため、わかりやすい指導が求められます。

外用薬の選択と使用法

褥瘡の治療薬には、消炎・殺菌作用をもつものや、肉芽形成を促す成分を含むものなどがあります。薬品によって粘度や作用特性が異なるため、創の深さや滲出液の量に合わせて選びます。

たとえば、湿潤環境を保つ外用薬は浅い創に向いていますが、滲出液が多い場合は吸収力のある素材と組み合わせると効果的です。薬を塗布する前後は、創周囲の清潔を保つように気をつけます。

創傷被覆材(ドレッシング材)の種類と選択

褥瘡の局所治療では、被覆材の選択が大きなポイントになります。代表的な被覆材を簡単に整理してみると、以下のような特徴があります。

  • フィルムタイプ:薄い素材で、軽度の創に使いやすい。
  • ハイドロコロイド:湿潤環境を保ち、浅い潰瘍に適する。
  • ポリウレタンフォーム:吸収力があり、滲出液が多い創に便利。
  • アルギネート:止血効果もあり、滲出液が多い創に向く。

在宅で使用する場合は、交換のしやすさや保険適用の範囲なども考慮します。

次のように被覆材を選ぶ際に着目する要素をまとめます。

要素確認ポイント
吸収力滲出液が多いか少ないか
保湿能力乾燥を防ぐ必要があるか
創の深さ被覆材が創に密着できるか
交換頻度在宅での交換が難しくないか
コスト保険適用や家庭の負担状況

これらをもとに最適な組み合わせを考えます。

壊死組織の除去(デブリードマン)

褥瘡が進行すると、壊死組織が傷の治癒を妨げることがあります。デブリードマンは、その壊死部分を機械的・化学的・外科的に除去する行為を指します。

  • 機械的:生理食塩液や専用のガーゼを用いて軟化した壊死組織を取り除く方法。
  • 化学的:酵素や薬剤で壊死組織を溶解・軟化させる方法。
  • 外科的:メスなどで直接切除する方法。

患者の状態や創の深さなどを考慮して適切な方法を選びます。頻度やタイミングも重要であり、必要があれば訪問診療や通院を組み合わせます。

感染・滲出液のコントロール

感染が生じると創面が悪化し、治癒までの期間が長引きます。発熱や悪臭、膿の増加などの兆候に注目し、抗菌薬の使用やドレナージ(排液)の管理を検討します。

滲出液が多い場合は吸収力の高い被覆材を用いると傷が浸軟しにくくなり、逆に滲出液が少ない場合は保湿力の高い素材を使って創面の乾燥を防ぎます。

肉芽形成・上皮化の促進

褥瘡が修復に向かう段階では、肉芽組織や新しい皮膚の形成を促すケアが大切です。局所環境を適切な湿度に保ち、過度に乾燥させないようにすることがポイントです。

また、壊死組織が残っていると肉芽形成が進みにくいので、こまめに状態を確認しながら除去を行い、栄養状態の管理も徹底します。

特殊な状況における褥瘡ケア

褥瘡は基礎疾患や生活環境、治療目的によってケアの内容が大きく変わる場合があります。がん患者や終末期など、それぞれの状況を理解しながら負担を軽くし、生活の質を保つ工夫が欠かせません。

在宅で暮らす方は家庭環境に合わせたアプローチが求められるため、訪問診療や訪問看護が役立ちます。

がん患者の褥瘡管理

がんを患っている方の中には、体力低下や骨転移などで痛みが強く、長時間臥床を避けにくい場合があります。痛み止めの調整や、栄養補給への配慮が褥瘡管理と重なり、複雑なケアが必要になることがあります。

治療の優先度を見極めながら、皮膚トラブルを予防するために定期的な体位変換やスキンケアを行います。

次に、がん患者の褥瘡対策でチェックしたい項目をまとめます。

項目対策の例
痛み鎮痛薬や姿勢の工夫で軽減
栄養経口摂取が難しいなら補助的経腸栄養
精神面不安を和らげる声かけやサポート
装具褥瘡ができやすい場合は特別なクッションを使用

病状や治療ステージに応じた対応が求められます。

在宅での褥瘡ケア

在宅療養では、自宅の寝具や介護者の負担を踏まえたケアが求められます。体位変換のタイミングが不規則になりがちな場合や、使用できる医療機器に制限がある場合もあります。

たとえば、寝返りの補助に使うクッションやエアマットを導入し、医療保険や介護保険を利用してケア用品を整備すると、褥瘡予防と負担軽減を両立しやすくなります。

訪問診療で医師が定期的に創部を確認し、問題があればその都度適切な処置を行うことが大切です。

難治性褥瘡への対応

長期にわたって治りにくい褥瘡は難治性褥瘡と呼ばれ、慢性的な炎症や感染を抱えていることがあります。

栄養状態が改善しにくかったり、患部への十分な血流が確保できなかったり、全身的な免疫力が低下していたりするなどの要因が絡み合います。

少しずつでも創部をクリーンな状態に保ち、リハビリを組み合わせることで血行促進を図るなど、複合的にケアを行うことが必要です。

終末期における褥瘡ケア

終末期を迎えている方にとっては、生活の質を支えるためのケアが中心になり、褥瘡の完全な治癒が最優先とは限りません。痛みや不快感を緩和するような除圧や保護を行いつつ、負担が少ない治療法を選ぶことが多いです。

家族や本人の意思を尊重しながら、医師や看護師がサポート計画を立てます。

よくある質問

在宅で褥瘡の処置をする場合、どんな準備が必要ですか?

まずはベッド周りの清潔を保つことや、体位変換をしやすい配置を考えてください。また、医師や看護師との連絡体制を整えておくと安心です。

必要に応じて医療保険や介護保険を活用してクッションやエアマットを導入し、定期的な訪問診療で創の状態をチェックすると適切なタイミングで治療を調整できます。

褥瘡ができる前に家族が注意できるポイントはありますか?

皮膚が赤くなっていないか、触ったときに熱感や硬さがないかをよく観察すると、早期発見につながります。こまめな体位変換や適切な栄養管理も予防には重要です。

褥瘡が深くなったらすぐに手術が必要でしょうか?

一概に手術が必要というわけではなく、創の大きさや状態、全身の体力を総合的に判断します。保存的治療で回復できるケースもあるため、医師の判断を仰ぎながら慎重に検討してください。

感染が疑われるときはどうすればいいですか?

発熱や強いにおい、膿などがある場合は、なるべく早めに医師に相談してください。処置や抗菌薬の導入で症状を抑えたり、ドレッシング材を変えたりするタイミングを見極めることが大切です。

リスクアセスメントはどれくらいの頻度で行えばいいでしょうか?

在宅療養の場合、生活スタイルに合わせて柔軟に行うとよいです。状況が大きく変わったとき(寝具を替えた、体重が大幅に減ったなど)や、定期的な訪問看護のタイミングで再評価すると、リスクを見落としにくくなります。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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