生活保護の方への訪問診療 – 自宅で安心して治療を受ける方法

生活保護の方への訪問診療 - 自宅で安心して治療を受ける方法

日常生活を送るのが難しくなった場合に、自宅で医療を受ける選択肢として訪問診療が注目を集めています。特に生活保護を利用している方にとっては、費用面や手続き面で不安を抱えるケースが多いかもしれません。

自分の健康を守りながら暮らしを続けたい方々が安心して利用できるよう、基本的な内容や手続きの流れ、医療費や介護費の扱い、医療・介護の連携といったポイントを詳しくまとめました。

自宅での治療を検討するうえで、納得しながら選ぶための情報を紹介します。

目次

生活保護受給者の訪問診療の基礎知識

生活保護受給者が訪問診療を利用する際は、医療費や介護費を公的に援助してもらえる点が大きな特徴です。

ただしすべての方が訪問診療を受けられるわけではないため、どのような状況で利用できるのか、何を準備すればよいのかを知ることが重要です。

この段落では生活保護受給者が訪問診療を利用する条件、医療扶助と介護扶助の違い、訪問診療のサービス範囲、費用の扱いについて解説します。

生活保護受給者が訪問診療を受けられる条件

訪問診療は通院が困難な状況にある方が、かかりつけ医や在宅医から定期的に診療を受ける仕組みです。移動手段がなく通院が厳しい場合や、寝たきりまたはそれに近い状態で外来受診が難しい場合に適用します。

生活保護を利用している場合は、担当ケースワーカーや医師が「通院による診療が難しい」と判断したうえで訪問診療に移行する流れが一般的です。

通院が難しいと医師が判断した事例として、下記のような状況が考えられます。

  • ベッドからの移動が困難で、外来受診に負担がかかる
  • 遠方の医療機関に通うための交通手段が確保しにくい
  • 呼吸器や点滴管理が必要でこまめな受診が望ましいが、本人の身体状況により外出が難しい
  • 認知症や精神疾患などにより外出すると体調が大きく変化しやすい

このような事情がある場合は、在宅で医療サービスを受けるほうが身体的にも心理的にも安心につながる可能性があります。

医師が「在宅診療が必要」と判断し、生活保護担当ケースワーカーも状況を確認したうえで、訪問診療を利用できます。

少し具体的な比較を以下にまとめます。

外来通院が可能な状態訪問診療が望ましい状態
自力で外出しやすい歩行や移動が大きく制限されている
医療機関への移動や待合室での待機が苦にならない病院までの距離が遠く体力的に負担が大きい
定期受診の頻度が低く、通院の手間が少ない定期的な診察や処置が不可欠で外出が心身ともに厳しい

また訪問診療は医師だけでなく、看護師やリハビリ専門職などの多職種によるサポートが得られるため、日常の介助を含めたトータルケアが期待できます。

医療扶助と介護扶助の違い

生活保護受給者が訪問診療を利用するときには、医療扶助と介護扶助の2つが大きなポイントです。

医療扶助は診療・治療を受ける際の医療費を公費でまかなう仕組みであり、介護扶助は要介護認定を受けた方の介護サービス費用を公費でまかなう仕組みです。

訪問診療と組み合わせるケースは多く、状態によっては医療サービスだけでなく、ヘルパーやデイサービスなどの支援も同時に利用します。

医療扶助は診察費や治療費だけでなく、必要に応じて訪問看護なども含みます。一方、介護扶助は生活保護の要介護認定を受けた方が介護サービスを利用するときに適用できます。

医療扶助と介護扶助は目的が異なり、申請先や交付を受ける券の種類も違うため、整理して理解することが大切です。

医療扶助と介護扶助の特徴を一覧にまとめます。

区分目的主なサポート例申請・認定
医療扶助診療・治療に関する費用を公費で負担医師の診療、検査、訪問看護など病状や主治医の意見をもとに確認
介護扶助要介護状態にある方の介護費用を公費で負担介護スタッフの派遣、デイサービス、福祉用具のレンタルなど介護認定審査を経て認められる

訪問診療と介護サービスを組み合わせることで、安全性と生活の質を高められます。訪問診療で身体状態を確認しながら、ヘルパーやリハビリ職が日常のサポートを行う仕組みが整いやすくなります。

訪問診療で受けられる医療サービスの範囲

訪問診療の範囲は想像以上に幅広いです。主治医が自宅を訪問し、体調のチェックや必要な処置、症状に合わせた薬の処方などを行います。

さらに医療機器の導入が必要な場合は、その管理方法を教えてもらったり、看護師や専門職が適切にフォローする体制を築いたりできます。

具体的には、以下のようなサービスを利用する機会があります。

  • 定期的な診察や投薬管理
  • 血液検査や採血、点滴管理
  • 吸引や呼吸器の管理
  • 創傷処置や床ずれ予防
  • 栄養指導や口腔ケアの相談
  • 終末期医療(在宅での緩和ケアなど)

治療が長期にわたる場合や、寝たきりに近い状態の方にとって、自宅環境で医師のサポートを受けられる点は大きな安心につながります。

ご家族や周囲の方も医師との連絡が密にとれるため、医療行為と介護行為の連携がしやすいです。

利用する際には「外来で行う治療と同程度の医療が在宅で可能なのか」という疑問が生じるかもしれません。

訪問診療は高度な検査機器が必要な治療には限界がありますが、在宅生活の中で必要とされる基本的な医療を幅広くサポートしてくれます。

必要に応じて往診のタイミングを調整したり、緊急対応の体制が整っていたりするケースも多いため、事前に利用予定の医療機関に確認すると安心です。

費用負担について

生活保護受給者が受ける医療行為には、医療扶助が適用されます。つまり診察や処方、訪問診療にかかる費用は公的にカバーされるため、自己負担はありません(通常の状況であれば医療券を利用)。

また介護サービスが必要な場合は、介護扶助で費用を負担する仕組みがあります。ただし、居住地域や個々の状況によっては、医療券や介護券などの発行手続きや医療機関との連携が必要となるため、担当ケースワーカーに相談してください。

医師による訪問診療だけでなく、訪問看護や訪問リハビリなどが関係する場合は、それらの費用も公費で負担できます。

ただし介護保険対象年齢(原則65歳以上)で要介護認定を受けている方の場合は、介護保険制度との併用も検討します。生活保護を受給していても、介護保険が優先される場面があるため、両制度の仕組みを理解しておくことが大切です。

費用面で混乱しないためには、主治医やケースワーカー、ケアマネージャーとのやりとりを丁寧に行い、「医療扶助と介護保険のどちらを使うのか」「どのサービスが自分には必要なのか」をしっかり整理しておきましょう。

下に、医療扶助と介護保険の優先関係を簡単に示します。

受給者の状況優先される制度留意点
64歳以下医療扶助が中心状況により介護扶助と組み合わせ
65歳以上で要介護認定あり介護保険が優先公費負担は医療扶助・介護保険・介護扶助を状況で組み合わせ

いずれの場合でも「まずは担当ケースワーカーへ相談」「主治医やケアマネージャーと連携」を心がけると手続きの流れがわかりやすくなります。

訪問診療の利用開始までの流れ

訪問診療を検討する際は、かかりつけ医や担当ケースワーカーとの相談から始まります。

どの診療所や病院が在宅医療に対応しているか、誰に相談すれば手続きが進むのか、医療券や介護券はどのように取得するのか、といった手順を踏むことが大切です。

この段落では、利用開始までに押さえておきたい流れや準備すべきことを紹介します。

かかりつけ医への相談と在宅主治医の選定

通院中のかかりつけ医がある場合は、最初に「在宅での診療が必要と考えている」ことを伝えましょう。現在の病状や生活の様子を踏まえ、「通院が難しいので訪問診療に切り替えられないか」相談します。

かかりつけ医自身が訪問診療に対応していないこともあるので、その場合は他の医療機関を紹介してもらうケースが多いです。

訪問診療を行う医療機関は地域によって異なります。大きな病院よりも、在宅医療に特化したクリニックが対応していることも珍しくありません。対応範囲や診療体制、緊急時の対応可否などを確認して、自分の状況に合った在宅主治医を選ぶことが大切です。

  • かかりつけ医または紹介先の医師と現状を相談
  • 在宅主治医を決める
  • 訪問可能なエリアかどうかを確認

在宅主治医が決まったら、具体的に医師やスタッフと診療方針を話し合い、自宅での診療スケジュールを組んでいきます。

生活保護担当ケースワーカーとの相談

在宅主治医が概ね決まったら、生活保護担当ケースワーカーへ相談します。担当者は生活保護制度の専門的な知識を持っているので、医療券や介護券の手続き方法、他のサービスとの連携などを教えてくれます。

訪問診療に変更する理由や医師の判断を伝えることで、必要な書類や手続きの進め方を案内してもらえることが多いです。

生活保護の制度上、どのように動けば医療扶助や介護扶助をスムーズに活用できるか把握しておくと、後々の書類手続きで混乱を減らせます。ケースワーカーには、次の点を伝えておくと話がスムーズです。

  • かかりつけ医から在宅診療を受ける必要性を説明された旨
  • どの医療機関・クリニックが在宅訪問を担当するのか
  • 診療開始のめど(どの時期から訪問診療をスタートしたいか)
  • 身体状況や介護サービスの利用状況、必要性

相談内容が整理できていれば、ケースワーカーも正確な情報をもとに助言をくれます。

医療券・介護券の申請手続き

医療券や介護券は、生活保護の対象となる医療や介護サービスを受けるための重要な書類です。訪問診療を行う医療機関に提出して、公費負担として医療サービスを受けることを証明します。申請の際は以下の流れが一般的です。

  1. 担当ケースワーカーに訪問診療が必要であることと、主治医が誰になるかを伝える
  2. 必要な書類の案内を受ける(医師の意見書などが必要となる場合がある)
  3. ケースワーカーが申請手続きを進める
  4. 医療券または介護券が発行される
  5. 在宅主治医へ書類を提出し、訪問診療スタート

医療券(または介護券)は、在宅主治医や訪問看護ステーション、訪問リハビリなどのサービス事業所に提示することで公費負担が適用されます。

まれにサービス内容によっては追加書類が必要になることもありますが、基本的には担当ケースワーカーが案内してくれます。

下に医療券・介護券の発行手順をまとめます。

手順内容
1ケースワーカーへ訪問診療利用の意向を伝える
2必要書類を受け取り、医師やサービス事業所と連携
3役所または福祉事務所で申請
4医療券・介護券の交付
5在宅主治医や関連サービスへ提示して公費負担を適用

初回訪問までの準備事項

訪問診療が始まる前に、自宅での生活状況や介護に必要な物品を整理しておきましょう。医師や看護師が診療しやすいように、ベッドやテーブル周りの動線を確保すると、診療や処置が円滑に進みます。

もし点滴や酸素吸入などの医療機器が必要になった場合、設置スペースや電源の確保も考えておくと安心です。

初回訪問では以下のような準備が必要な場合があります。

  • 使用中の薬やお薬手帳の確認
  • これまでの診察記録や検査結果の共有
  • 緊急連絡先リストの用意
  • 介護保険を併用している場合はケアマネージャーの連絡先
  • 自宅内の危険物や転倒リスクのある箇所の点検

訪問時にスムーズに必要情報を共有できれば、医療チームのメンバーも正確に状態を把握しやすくなります。

医療チームとの治療方針の確認

訪問診療では、医師だけでなく看護師や管理栄養士、リハビリ専門職などが関わる場合があります。診療開始前に「どのような治療を目指すか」を医療チーム全員で確認しましょう。

利用者本人だけでなく、家族の希望やこれまでの治療経緯なども大切な要素です。

主な確認事項として、次のような点が挙げられます。

  • 治療目標(症状を安定させる、痛みを緩和する、リハビリを行うなど)
  • 通院が必要になるタイミング(検査や緊急対応)
  • 服薬管理の方法と副作用への対処
  • 連絡体制(夜間・休日の緊急連絡先)
  • 介護スタッフやケアマネージャーとの役割分担

このように訪問診療に入る前にお互いの認識をすり合わせておけば、実際の診療スケジュールや緊急対応にも余裕が生まれます。

在宅での医療サービス内容

在宅での医療サービスは、定期的な診察や薬の管理だけでなく、必要な検査や緊急時の対応も含みます。限られた環境ではあるものの、在宅生活を維持するために多角的なサポートを得られます。

この段落では、在宅医療の具体的な内容やメリットを順番に紹介します。

定期的な診察と健康管理

在宅医療の最大の特徴は、主治医が定期的に自宅を訪問し、患者の身体状態を直接確認できる点です。通院する場合と違い、実際の生活環境を踏まえて症状の変化を把握できるため、より細やかなケアにつなげやすくなります。

医師の定期訪問の頻度は、週1回程度から月1回程度までさまざまで、病状や医療方針に合わせて決まります。

診察内容は血圧や脈拍、体温などのバイタルサインのチェックを中心に、患者の声に耳を傾けて日々の困りごとを聞くことが多いです。その場で薬の調整や簡易検査も行える場合があるため、外来と同様の感覚で診療を受けられます。

家庭の中に潜む危険や衛生面の課題があれば、同時に指摘してもらい対策を立てることができます。

医師が訪問するとき、家族が立ち会うケースは少なくありません。本人だけでは伝えきれない症状や困っていることを家族が補足すると、医療チームがより適切なアドバイスや治療方法を考えやすくなります。

定期訪問を円滑に進めるためには、前回の診療以降に気になった点をメモしておくと便利です。例えば、「このときに体調が悪化した」「夜間に咳が続いた」「薬が飲みにくかった」などの情報は、診断材料として非常に貴重です。

処方薬の管理と服薬指導

在宅医療では、必要に応じて医師が処方する薬を自宅まで届けてもらう方法もあります。訪問薬剤師が薬の使い方や保管方法を説明し、副作用のリスクなどを確認するケースもあり、自宅でも安心して薬を使えます。

寝たきりの方や独居の方などは薬の管理が難しくなるため、薬剤師が管理や服薬カレンダーの利用を手伝うことがあります。

服薬指導によって期待できるメリットを簡単に示します。

  • 服薬量の過不足の防止
  • 適切なタイミングで薬を飲むための提案
  • 薬の飲み合わせや副作用の説明
  • 使い方が複雑な薬(吸入薬や貼り薬)の指導
  • 飲み忘れ防止策のアドバイス

特に高齢者や複数の疾患を抱えている方は一度に多くの薬を処方されることがあるため、薬剤師との連携が助けになります。薬が自己管理できなくなってしまうと、病気が悪化したり、思わぬ副作用が出たりする恐れがあるため、在宅環境での服薬指導は重要です。

必要な検査や処置

自宅で行う医療行為は限られるように見えますが、基本的な検査や処置は在宅でも行えます。採血や点滴管理、床ずれの処置、カテーテルの管理、インスリン注射など、通院が困難な方にとっては大きな負担を減らす手段です。

必要に応じて専用の医療機器を導入し、医師や看護師が使い方を指導します。

代表的な在宅で行いやすい検査と処置を一覧にまとめます。

検査・処置具体例
採血・血液検査定期的な血液検査、栄養状態や臓器機能の評価
尿検査尿のたんぱく・糖・感染症のチェック
点滴管理栄養剤や抗生物質などの輸液、補液
吸引・気管切開部管理呼吸器を使う方のケア、呼吸状態の維持
褥瘡(床ずれ)ケア傷の消毒、ガーゼ交換、姿勢管理の指導
カテーテル管理尿や胃瘻などのチューブ管理と交換
インスリン注射糖尿病治療のための自己注射指導

在宅で行う検査や処置の範囲が増えたことで、必要な医療を受けるために長距離移動をする負担を軽減できます。ただし、MRIなどの大がかりな機器が必要な検査や高度な外科的処置は通院や入院を考慮する場合もあります。

緊急時の対応体制

在宅医療を利用する中で最も気になることの1つに、容体が急変したときの対応が挙げられます。緊急時は在宅主治医や訪問看護ステーションに連絡できる体制を確保し、早めに対応します。

夜間や休日でも連絡先が明示されていれば、「どうしていいかわからない」という不安を減らせます。

医療機関の中には24時間対応の緊急連絡サービスを備えているところもあり、在宅での看取りに対応する体制を整えているところも存在します。

万が一大きな検査や処置が必要となった場合は、救急搬送を行う病院と連携しておくことが大切です。

緊急時に家族や周囲が混乱しないための工夫として、以下のような事項を事前に決めておくと落ち着いて対処しやすくなります。

  • 連絡すべき医療機関や担当者の電話番号
  • 病院へ行くか自宅で対応するかの基準(医師の指示)
  • 救急車を呼ぶ際の準備(住所や現在の状況を正確に伝える)
  • 普段の内服薬一覧表や保険証、医療券などの置き場所

「いざというときの手順」を共有しておけば、本人や家族が動揺した際にも対応を間違えにくくなります。

医療・介護の連携体制

訪問診療は医師だけで完結するものではありません。看護やリハビリ、薬剤管理やケアマネージメントなど、多職種が連携するからこそスムーズに在宅生活が続けられます。

どのような連携が存在するのかを知っておけば、自分の状態や希望に合わせたサポートを得やすくなります。この段落では、訪問看護、訪問薬剤師、リハビリテーション、ケアマネージャーとの連携方法を紹介します。

訪問看護との連携

訪問看護は、看護師が定期的に自宅へ行って病状を観察したり、必要な処置を行ったりするサービスです。医師の指示に基づいて血圧や体温を測定し、褥瘡のケアや点滴管理なども実施します。

体調が変化した際には、主治医へ迅速に報告し、必要ならば医師が追加の訪問診療を計画することもあります。

訪問看護は、医療面だけでなく日常のケアにも携わる場面が多いです。入浴や排泄の補助、リハビリの補助なども担当し、家族にとっては大きな安心感につながります。

状態が重い方や医療依存度が高い方ほど、訪問看護を活用する機会が増える傾向があります。

訪問薬剤師によるサポート

自宅で多種多様な薬を使う場合、薬剤師が直接自宅を訪問して指導・管理を行うサービスが役立ちます。

服薬状況や残薬をチェックしながら、薬の変更が必要かどうかを主治医と連携することで、安全性と効率的な治療を両立しやすくなります。

以下のようなメリットが考えられます。

  • 適切な薬の保管方法や飲み忘れ防止策の提案
  • 飲みにくい剤形の変更の提案(錠剤を粉薬に変更するなど)
  • 特定の薬の副作用について、詳しい説明
  • 体調変化が薬の影響かどうかの評価
  • 医師と連携した迅速な処方変更

薬剤師が定期的に自宅に足を運ぶことで、「薬が余っていても気づかない」「正しい服薬手順がわからない」といった事態を防ぎやすくなります。

訪問リハビリテーション

在宅医療を利用している方は、身体機能の低下を抱えているケースが少なくありません。

そこで理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が自宅を訪問し、身体機能の維持・向上を目指すサービスが訪問リハビリテーションです。歩行訓練や座位保持練習、日常生活動作の訓練などを自宅で実践します。

通所リハビリに行くことが難しい方や、ベッド上でのリハビリしか難しい方でも、自分の生活環境に合わせた訓練が行えます。

転倒リスクの高い家具の配置を改善したり、移動しやすい動線を確保したり、家族に介助方法を伝えたりといったアドバイスも得られます。

身体機能の低下を緩やかにするだけでなく、本人の自信回復にもつながるため、多職種連携の中で非常に大きな役割を担っています。

ケアマネージャーとの連携

要介護認定を受けている場合は、ケアマネージャー(介護支援専門員)との連携が欠かせません。

ケアマネージャーは、本人の希望や状況に合わせてケアプランを作成し、訪問診療や訪問看護、訪問介護などの各サービスを調整します。訪問リハビリテーションも含め、多様な介護サービスを組み合わせて生活をサポートする立場です。

訪問診療は医療扶助の範囲で、訪問介護やデイサービスは介護扶助や介護保険の範囲となります。両方を効率よく利用するためにも、ケアマネージャーと医療チームの連絡を密にすることが大切です。

状況によっては主治医がケア会議に参加し、本人や家族の要望を踏まえてプランを見直す場面もあります。

以下に、多職種連携のイメージを示します。

役割主な業務連携のポイント
在宅主治医診察・治療方針の決定定期的なバイタルチェックや症状変化の情報共有
看護師日常の処置・体調管理医師への報告、家族へのケア指導
薬剤師服薬指導・薬の管理医師との処方調整、飲み忘れ防止策の提案
リハビリ専門職身体機能の維持・回復支援自宅環境の改善アドバイス、適切な運動指導
ケアマネージャーケアプランの作成・サービス調整医療と介護の橋渡し、本人と家族の意向確認

このように、それぞれの専門職が分担しながら情報交換を行い、一人の生活を多面的に支えます。

安心して継続的に医療を受けるために

訪問診療を受け始めてからも、定期的な見直しや相談窓口の活用、家族とのコミュニケーションなど、多くのポイントを意識すると安定した在宅生活を送りやすくなります。

この段落では、医療相談窓口の活用、家族の情報共有、定期的な状態確認の重要性について触れます。

医療相談窓口の活用方法

生活保護を利用している方が抱える悩みは、医療費や制度に関することだけにとどまりません。食事や栄養管理、住環境、精神面のサポートなど、多岐にわたる可能性があります。

困ったときには遠慮なく相談窓口を利用し、状況に応じて専門家につなげてもらうことが大切です。

行政が設置する地域包括支援センターや医療機関内の相談室では、次のような手助けを期待できます。

  • 医療扶助・介護扶助の具体的な手続き相談
  • リハビリや介護サービスの事業所選びに関する情報提供
  • 精神的な負担を感じる方のカウンセリングの紹介
  • 住環境や福祉用具の導入に関する案内

また、在宅医療を行うクリニックや病院の窓口でも、訪問診療の利用方法や医療チームとの連携に関する問い合わせに対応することがあります。

何か問題が起きたときにひとりで悩まず、複数の支援機関に相談する姿勢が在宅生活の継続を後押しします。

家族との情報共有の重要性

在宅医療を利用している方は、日常生活のサポートを家族に頼っているケースが多いです。本人と家族の意識をすり合わせておかなければ、「どう対応すればよいかわからない」「症状変化に気づけない」といった問題が起きやすくなります。

家族が協力しやすくなる工夫として、以下のようなポイントが挙げられます。

  • 医師や看護師の訪問日程を家族も把握する
  • 診察やカンファレンスの内容を共有し、方針を一緒に考える
  • 緊急時の連絡手順や薬の管理方法を家族も理解する
  • 適宜、家族同士で声を掛け合い、本人の変化を見逃さない
  • ケアマネージャーや介護スタッフと家族の意見交換を行う

実際の在宅ケアは、医療と介護の専門職だけではなく、家族が果たす役割も重要です。本人が安心して生活するために、話し合いの機会を作っておくと早期に問題点を発見しやすくなります。

定期的な状態確認の仕組み

訪問診療をスタートしてしばらくすると、最初に立てた治療方針や介護プランが今の状況に合わなくなる場合があります。症状が進行したり、逆に改善して通院が可能になったりすることもあるからです。

そのため、定期的に状態を評価し、必要であれば診療頻度やケアプランを修正します。

状態確認の方法としては、主治医や看護師が行う定期的な訪問、ケアマネージャーのモニタリング、家族からの電話連絡などが挙げられます。

家族や本人が少しでも「いつもと違う」と感じたら早めに伝え、必要な処置を受けることが大切です。

医療チームのメンバーはそれぞれ専門的な知識と経験を持っていますが、利用者本人や家族が日常的に見守ることが早期発見につながります。「ちょっとした違和感」を共有することで、大きなトラブルを防げる可能性があります。

状態確認のタイミングをまとめます。

タイミング内容
定期受診(訪問診療)バイタルサインや症状のチェック、薬の調整
訪問看護・看護師往診処置やケアの際の小さな異変の報告
ケアマネージャーのモニタリング日常生活全般の様子、サービスの利用状況をヒアリング
家族の観察食欲減退や睡眠障害、歩行状態の変化などの気づき
緊急時急激な悪化や転倒など、普段と明らかに違う場合は医療機関へ連絡

このように複数のタイミングで状態を観察する仕組みを持つと、適切なケアや治療への修正がしやすくなります。

訪問診療は体力的・精神的に大きな負担がある方や家族を支えるサービスですが、それを十分に活かすためには普段の連絡体制や観察が大事な役割を担います。

最後に、在宅医療を上手に活用するためには「遠慮なく医療・介護専門職に相談する姿勢」と「家族や地域の支援者との連携」が重要です。

生活保護を利用している方にとっては、医療費や介護費の負担を気にせず、必要な治療を受けられるメリットが大きい反面、手続きや制度の理解が複雑に感じるかもしれません。

担当ケースワーカーや医療チーム、ケアマネージャーなど、頼れる人と協力しながら手続きを進め、安心して自宅での治療を続けられるよう取り組んでみてはいかがでしょうか。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 所長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 所長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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