老衰期の自然な経過を理解する – 訪問診療で実現する穏やかな看取り

老衰期の自然な経過を理解する - 訪問診療で実現する穏やかな看取り

老衰期は人生の終盤において身体機能が徐々に衰えていく自然な流れです。本人だけでなく家族も、住み慣れた場所で穏やかに最期を迎えたいと願うでしょう。

その実現に力を発揮する方法として、医療者が自宅を訪れてケアを行う訪問診療が注目されています。

老衰とは何か、どのように進行し、どのように支えていくのかを丁寧に探ります。

目次

老衰とは – 自然な人生の終末期プロセスを理解する

高齢者が終末期を迎える理由は人によって異なりますが、老衰は自然な加齢変化です。

臓器の機能が一斉に低下するというより、全身の細かな変化が積み重なり、徐々に体力が落ちていく過程です。

老衰への理解が進むと「無理な治療をするより、できるだけ負担を軽減しながら穏やかに過ごしてもらいたい」という家族の思いが強くなるケースがよく見られます。

老衰の基本的な内容をしっかり学ぶことで、医療や介護の選択肢を考えるときに役立つかもしれません。

老衰の医学的定義と一般的な理解

老衰は医療現場で「全身の機能が加齢によって徐々に低下し、治療による回復が見込みにくい状態」として扱われています。

ただし「治療による回復が見込みにくい」という言葉は、何もする必要がないという意味ではありません。痛みなどの不快症状をやわらげたり、本人が望む生活をできるだけ続けたりするための支援が必要です。

医学的な観点では、特定の病気が直接の原因というより、身体の様々な領域が年齢とともに少しずつ衰退し、結果として身体機能全体がうまく働かなくなると考えます。

以下の一覧に老衰を説明するときによく使われる用語をまとめます。

用語意味や特徴
フレイル加齢に伴う心身の活力低下で、要介護状態に至る手前の状態
サルコペニア筋肉量と筋力が低下していく状態
老年症候群高齢者に特有の症状の総称。転倒や認知機能の低下などを含む
老衰全身の臓器や機能が加齢によって徐々に衰え、自然に終末期へ移行する状態

これらの用語を通じて、高齢者の状態を多角的にとらえ、どの段階でどのような支援が望ましいかを考えることが重要です。

医療者側も「ただ衰えを待つだけではない」という姿勢をもって、一人ひとりに合ったケアを提案するよう努めます。

老衰と他の終末期疾患との違い

人生の終盤というと、がんや心不全、脳卒中など具体的な疾患が挙げられます。それらの場合は病気の進行に応じた治療や緩和ケアの方法が明確になっていることが多いです。

一方で老衰は、特定の病名よりも加齢による全身の変化がメインです。そのため「老衰で亡くなる」という表現はあるものの、いつから老衰と呼ぶかは個人差が大きく、はっきりと線引きしにくい現状があります。

他の終末期疾患では、例えばがんなら腫瘍が大きくなる速度や転移の有無、心不全なら心臓の拍出力の低下といった、明確な疾患メカニズムを示す指標があります。

しかし老衰の場合は、血圧や心拍数、日常生活動作など、複数の要素が少しずつ衰退していくため、いつが「終わりに近づいている」と断定しにくいです。

ただ、食欲の大幅な低下や身体活動の著しい減少、意識レベルの変化などがそろってくると、終末期にあると判断される場合が多いとされています。

下記の一覧では、がんなどの特定疾患と老衰の大まかな違いを示します。

スクロールできます
観点特定疾患の終末期老衰
原因腫瘍や心臓・血管の機能不全など加齢による全身機能の総合的な低下
進行パターン病気の進行段階によって予測しやすいことが多い個人差が大きくはっきりした境界が見えにくい
治療方針病状に応じた治療・緩和ケア症状に合わせたケアや生活支援が中心
看取りの見通し比較的明確に見通しを立てやすい変化がゆるやかでタイミングの把握が難しい

老衰は病気ではありませんが、医療や介護を整えて生活の質を保つことが大切な時期だといえます。本人と家族がどのように最期を迎えたいかを早めに話し合い、支援を調整していくことが重要です。

老衰の進行過程と一般的な経過

老衰というと、ある日突然体力が尽きるようなイメージを抱く人もいます。しかし実際は、ある程度の時間をかけて少しずつ活動量や食欲などが落ちていく場合がほとんどです。

長年の生活習慣や持病、栄養状態などによって進行スピードは変化し、数か月から数年にわたって変化が続くこともあります。

初期には疲れやすさや食事の量の減少、筋力の低下などが目立つ程度で、本人が大きな不調を感じない場合もあります。中期以降になると、歩行や排泄などの自立度が低下し、支えがないと日常生活が難しくなります。

終末期に近づくと、水分や食事の摂取量が大幅に減り、意識ももうろうとする時間が増え、最終的には穏やかな呼吸のうちに旅立つケースが多いです。

進行の特徴を大まかにまとめると、以下のような段階が想定できます。

  1. 生活動作の低下(歩行や階段の上り下りがきつくなる)
  2. 筋力や体重の減少(身体が細くなり、筋肉量が減る)
  3. 日常生活全般に介助が必要になる(トイレや入浴など)
  4. 食欲や水分摂取量の減少(誤嚥リスクも高まる)
  5. 意識や反応が鈍くなる(声かけへの応答が遅くなる)
  6. 眠る時間が増え、最終的に死に至る(穏やかな経過をたどることが多い)

個々の状態に応じて必要なケアを用意し、本人が望む生活スタイルをできるだけ維持することが大切です。

体調や意識レベルの変化を丁寧に確認しながら、本人の表情や訴えにも配慮して過ごし方を調整すると、穏やかな終末期につながりやすくなります。

老衰に関する誤解と正しい知識

老衰については「年を取れば皆同じように衰える」「痛みがないから緩和ケアは不要」といった誤解が見られることがあります。

たしかに老衰は加齢とともに生じる自然な変化ですが、個人差が大きく、同じ年齢でも体力や認知機能、生活背景が大きく異なることが実情です。

そのため、一括りに「老衰だから仕方がない」と考えるのではなく、本人が持つ力をどう活かし、苦痛を最小限に抑えて暮らすかを検討する必要があります。

中には、老衰を「何もできない状態」と捉え、精神的なケアや生活支援が不要だと感じる人もいます。しかし実際には、脱水や低栄養、褥瘡の発生などのリスク管理をはじめ、身体的な不快症状への対応が重要です。

また、長い人生を歩んできた人が「これまでのように体が動かなくなる」ことに対して心理的なショックを受ける場合があります。

そうした心のケアにも気を配ることで、老衰期をより穏やかに過ごせる可能性が高まります。

老衰期における身体機能の自然な変化

老衰期に起こる身体的変化は、加齢による組織の弾力性低下や細胞機能の衰退などが土台になっています。

筋肉量の減少、骨密度の低下、血管の硬化、ホルモンバランスの乱れなどが重なり合って、全身の働きが緩やかに落ちていくイメージです。

特にエネルギーを作り出す力が低下すると、少し動いただけで疲れるようになり、日常生活での活動が少なくなる傾向があります。

以下の一覧に、老衰期に生じやすい身体機能の変化例を示します。

身体機能具体的な変化
筋力全身の筋力が低下し、立ち上がりや歩行が難しくなる
骨密度が低くなり、骨折リスクが増加する
消化機能胃腸の働きが鈍り、食事量が減少しやすい
循環機能心拍出量が減り、血圧のコントロールが不安定になる
免疫免疫力が落ち、感染症にかかりやすくなる

これらの変化は個人差がありますが、少しずつ進行するケースが多いです。

毎日の小さな体調変化を把握し、家族と医療者が連携して支援を組み立てていくことが穏やかな生活の実現において重要です。

老衰期に現れる身体的・精神的変化の特徴

老衰期が近づくと、身体面だけでなく精神面や行動面にも少しずつ変化が現れます。本人はこれまでの日常との違いを受け入れるのに時間が必要かもしれません。

家族がその特徴を理解し、サポートしやすい体制を考えることが、安心感を高めるカギになりやすいです。老衰期特有の身体的・精神的な変化と、その対処方法を整理します。

食欲・水分摂取の変化と対応方法

老衰期に食欲や水分摂取が極端に低下すると、衰弱が早まるのではないかと心配する家族が多いです。

しかし、身体の機能が衰えると自然に消化吸収が低下し、たくさんの量を摂ることがかえって負担になる場合があります。

無理に固形物を食べさせるより、本人の嗜好や体調に合わせて柔らかいものやゼリー状の食品を少量ずつ用意するなど工夫が望ましいです。

下記の一覧は、食事や水分補給を楽にするためのヒントです。

方法ポイント
ゼリーやプリンなど飲み込みやすく、水分補給にも役立つ
ポタージュ系スープ栄養が摂取しやすく、口当たりがなめらか
経口補水液塩分と糖分のバランスがよく、脱水予防に効果的
少量頻回一度に多くを摂るのが難しいときに適している

多くを一気に摂ることが難しくなったら、数回に分けてゆっくり口に運ぶだけでも十分な場合があります。

こまめに水分を含ませる、好きなものを一口だけでも楽しんでもらうといった方法を試しながら、本人のペースに合わせましょう。

睡眠パターンの変化と休息の確保

老衰期には昼夜の区別があいまいになり、昼間に長時間眠る一方で夜中に目を覚ますことが増える場合があります。

家族が「昼間に起きてほしい」と考えても、本人の体力や生体リズムが変化しているため、従来の生活リズムに合わせるのが難しいことがあります。

過度に修正を試みるとストレスになるので、自然な睡眠パターンを見ながら必要なケアを調整するほうが安心です。

参考になるポイントは次の通りです。

  • 痛みや不安があると睡眠が乱れるので、緩和ケアや声かけを行って落ち着ける環境を整える
  • 部屋の照明や室温をこまめに調整し、快適に休める雰囲気をつくる
  • 日中に軽く身体を動かす時間をつくると、夜間の睡眠が深まりやすい場合がある
  • 覚醒していても無理に活動を求めず、身体の負担を意識しながら過ごす

意識レベルと反応性の変化

老衰が進行すると、頭の回転が遅くなり、呼びかけに対する反応が鈍くなることがあります。特に疲れているときや眠気が強いときは、会話をするのが難しくなる場合があります。

これは脳の機能が緩やかに衰退しているために起こる自然な現象です。

しかし、全く反応がなくなるわけではなく、穏やかに声をかけたり、手を握ったりするとわずかに握り返すなど、コミュニケーションの糸口が残っていることもあります。

無理に返事を求めず、落ち着いた声のトーンで話しかけ、安心感を与えるように心がけるとよいでしょう。

呼吸・循環の変化と観察ポイント

終末期が近づくと、呼吸が浅くなったり、一時的に呼吸が止まるように見えたりする呼吸パターン(チェーンストークス呼吸)が現れることがあります。

血圧や心拍数も日ごとに変動しやすくなり、体温調節が難しくなる場合もあります。急激な変化があると家族は不安を覚えるかもしれませんが、老衰の経過の一つとして見られることも多いです。

下記の一覧に、老衰期特有の呼吸・循環の変化と注意点を挙げます。

観察ポイント具体例
呼吸リズム一定のリズムが崩れたり、無呼吸の瞬間が発生する
口唇や爪の色酸素不足で紫色がかることがあるが、苦痛がない場合も多い
手足の冷え末梢循環が弱くなり、手足が冷たくなる傾向
脈拍の乱れ不規則な脈拍や非常に弱い脈拍が見られることがある

呼吸や循環の変化があっても、本人が苦しそうでなければ慌てず様子を見守りながら、必要な医療的ケアを検討することが大切です。

訪問診療を利用している場合は、医師や看護師にこまめに相談すると安心感が得られます。

家族が知っておくべき老衰期のケアと心構え

老衰期を迎える方のケアでは、体力が落ちていく中でも心穏やかに過ごせるような配慮が重要です。家族が先回りして何でもやりすぎると、本人がかえってストレスを感じる場合があります。

一方で必要なサポートがなければ安全面のリスクも高まります。家族としてどのような支援と心構えを持てばいいのか、具体的な観点を見ていきましょう。

老衰期の苦痛を最小限にするための工夫

身体機能が衰えていく過程で、痛みやしびれ、呼吸苦などの症状が出る場合があります。これらを放置すると、心身ともに大きな負担となります。

痛みがなくても、寝たきりの状態が続くと筋肉が硬直し、体がこわばったりすることもあります。

少しでも苦痛を和らげるための工夫としては、定期的な体位変換、マッサージや温罨法、できる範囲でのストレッチなどが挙げられます。

専門的な技術が必要な場合もあるので、訪問看護師などに相談しながら取り入れるのがよいでしょう。

家族ができる日常的なケアと声かけ

家族は直接的な治療や医療行為を行うわけではありませんが、日常生活を支える上で大きな役割を担います。以下の点を意識すると、本人に寄り添いやすくなります。

  • 朝晩の声かけや手握りなど、さりげないスキンシップで安心感を伝える
  • できる動作はあえて見守りながら、自分の力で行う時間を尊重する
  • 水分補給や口腔ケアをこまめにチェックし、必要があればサポートする
  • 部屋の温度や湿度を快適に保ち、静かな音楽や好きな香りを取り入れる
  • 同じ話を繰り返し聞くことがあっても否定せず、穏やかに受け止める

老衰期特有の不安と家族の心理的負担への対処

老衰期には本人だけでなく、家族もさまざまな不安を抱きます。衰えていく姿を見ること自体がつらく、何かできることはないかと焦るあまり、心身が疲れ切ってしまうケースもあります。

自分を追い込みすぎるとケアの質にも影響が出るので、家族自身のケアも大切になります。

地域の介護者向け交流会や訪問診療の相談窓口、ヘルパーの力を借りることで「自分一人で抱え込まない」姿勢を保つことが望ましいです。

看取りに向けた家族間のコミュニケーションの重要性

老衰の時期に近づくと、医療行為をどこまで行うか、延命措置を希望するかどうか、本人の意思をどのようにくみ取るかなど、家族の間で話し合うテーマが多くなります。

気まずさや遠慮から意見を言えず、あとになって「こうしてあげればよかった」と後悔するケースもあるようです。

定期的に家族同士で近況や気持ちを共有し、「本人がどうしてほしいと考えていたか」を中心に話を進めると、より納得感の高い看取りにつながります。

看護師やケアマネジャーなど第三者を交えると冷静に話し合えることも多いです。

最期の時を迎える準備と心の整理

老衰期にある方が最期を迎えるまでの準備は、単に医療処置を整えるだけではありません。遺言やエンディングノートの作成、葬儀の希望などの実務面を整理することで、家族の負担が軽くなる場合があります。

また、これまでの人生を振り返りながら本人に感謝の気持ちを伝える時間を設けると、家族にとっても心の整理が進むかもしれません。

訪問診療や訪問看護のスタッフは、こうした準備と心のケアをサポートする役割を担うことが多いので、困ったときは遠慮なく相談しましょう。

訪問診療による老衰期の医療的サポート

老衰期の医療と聞くと「病院で過ごすことが普通なのでは」と思われがちですが、自宅や施設など本人が慣れ親しんだ環境で過ごすことも可能です。

訪問診療の体制を整えれば、医師や看護師、リハビリ専門職などが連携して定期的に訪れ、必要なケアや処置を行います。

大規模な医療設備がなくても、穏やかな状態を維持しやすくなるメリットが注目されています。

訪問診療チームの役割と連携体制

訪問診療においては、医師を中心に看護師、薬剤師、リハビリ専門職、ケアマネジャーなど多職種が関わります。老衰期にある方の場合、時々刻々と変化する体調を見ながらきめ細やかな対応を行う必要があります。

医師は診察や薬の処方を行い、看護師はバイタルチェックや日常的なケアのアドバイスを担当します。

薬剤師は薬の飲み合わせや副作用を管理し、リハビリ専門職は生活動作や痛みの緩和を目的とした運動指導などを行います。

ケアマネジャーはサービス全体の調整役を担い、家族との連絡窓口になることが多いです。

次の一覧に、訪問診療チームの主な役割をまとめます。

職種主な役割
医師定期訪問での診察、薬の処方、医療的判断
看護師バイタルサインの管理、生活ケアのアドバイス
薬剤師処方薬の管理、飲み合わせや副作用の確認
リハビリ専門職生活動作の維持・向上、痛み緩和の運動指導
ケアマネジャーサービス全体の調整、家族との窓口

これらの専門家が連携しながら必要なタイミングでサポートを提供することで、老衰期の人が心身を安定させて在宅生活を続けやすくなります。

家族は一人で抱えず、それぞれの専門職に相談しながら進めると負担を軽減できます。

老衰期に必要な医療処置と不要な医療介入

老衰期の方にとって、すべての医療行為がプラスになるとは限りません。

点滴や胃ろう、人工呼吸器など、身体に大きな負担をかける可能性がある処置は、本人のQOL(生活の質)を高める目的にそぐわない場合もあります。

逆に、痛み止めや酸素投与などは、苦痛を和らげ、穏やかな生活を支えるうえで有効な手段となることがあります。

大切なのは、どの処置が「本人にとっての生活の豊かさ」につながるのかを判断することです。

訪問診療では病院と異なり、大掛かりな医療機器の使用は難しい場合が多いですが、その分「家で穏やかに過ごすこと」を重視しやすいという利点があります。

医師や看護師と相談しながら、必要以上に身体への負担をかけない医療の在り方を選ぶことが可能です。

症状緩和のための薬物療法と非薬物療法

痛みや吐き気、倦怠感など、老衰期に見られる苦痛を少しでも軽くするために薬物療法が活躍することがあります。

医師がモルヒネ系鎮痛薬などを使い、痛みの感じ方をコントロールする場合もありますが、本人の状態や副作用を注視しながら使うことが大切です。

一方で、非薬物療法にも注目が集まっています。以下のようなアプローチで身体と心を落ち着けるケアを目指すことができます。

  • アロマや音楽を使ってリラクゼーションを促す
  • 軽いマッサージや温かいタオルを利用して筋肉の緊張をゆるめる
  • 体位変換で関節や筋肉への負担を和らげる
  • 呼吸法を意識しながら焦燥感を抑える

緊急時の対応と24時間サポート体制

老衰期の方は予測できないタイミングで体調が急変することがあります。そのときに病院へ搬送するか、自宅で様子を見るかの判断は、本人の意向や病状の状況に左右されます。

訪問診療を利用している場合、多くの医療機関は24時間連絡を受け付ける体制を整えています。家族が困った時、迷った時にすぐに電話し、適切な指示を仰げるという安心感は大きな支えです。

チームが本人の普段の様子を把握しているからこそ、迅速かつ適切な対応が期待できます。

穏やかな看取りを実現するための訪問診療の実際

自宅や施設などで最期を迎えたいと考えたとき、訪問診療は必須と言えます。

定期的な診察を行いながら、必要に応じて看護師や薬剤師、リハビリ専門職が情報交換を行い、本人に合ったケアを実践していく流れが一般的です。

家族の思いを尊重しつつ、専門家の視点で看取りへの準備が進むことで、穏やかな最期をサポートしやすくなります。

在宅看取りの流れと医師の関わり方

在宅看取りでは、本人と家族が「どのように日々を過ごしたいか」をベースにケア方針を決めます。訪問診療を依頼すると、最初に医師が健康状態を把握し、必要な薬剤や看護の頻度などを計画します。

続いて看護師やリハビリ専門職が定期的に訪れて、バイタルチェックや身体状況の確認、リハビリやケアのアドバイスを行います。

終末期が近づいたと感じた際は、医師がより頻繁に訪問し、痛み止めの調整や経口摂取が難しくなった時の点滴による水分補給などを検討します。

その時点で「本人がどういった医療行為を望むか」を改めて確認し、家族とも十分に話し合いながら方針を決定します。

本人の苦痛を和らげつつ、最大限に自宅での生活を維持できるよう関わるのが、訪問診療の医師の役割です。

看取り期における訪問看護の役割

看取りの時期には、看護師のサポートが特に大きな意味を持ちます。

食事や水分摂取が難しくなったときの補助、床ずれ防止のための体位変換、呼吸苦があるときの酸素療法の補助など、細かなケアが必要になります。

看護師は単に身体面だけでなく、家族の不安にも寄り添いながら、どのように声をかけるか、どんな環境づくりが安心につながるかを提案します。

痛みや不快感の原因を見つけ出し、医師や薬剤師と連絡をとりながら対処を行う存在として重宝されます。

家族の絆を深める看取りの実例

在宅での看取りには、家族が同じ時間と空間を共有しながら、最後の思い出をともに刻むという温かい側面があります。例えば、次のようなエピソードがあります。

  • 家で過ごすなかで昔の写真を一緒に眺め、会話を通じて家族の歴史を振り返った
  • お孫さんの声を聞くと安心するということで、定期的にビデオ通話を楽しんだ
  • 毎朝の日課だったお茶の習慣を少量でも続けるため、家族が小さな湯飲みを用意した
  • 旅が好きだった思い出を共有しながら、写真や地図を広げて思い出話に花を咲かせた

こうした何気ない時間が、本人と家族にとってかけがえのない心の支えになります。

辛い場面が多いイメージがある終末期ですが、思いやりを感じられる瞬間が増えると、家族同士のつながりがいっそう深まることでしょう。

看取り後のグリーフケアと家族サポート

看取りの瞬間はゴールではなく、その後に家族が感じる喪失感や不安に目を向けることも重要です。

グリーフケアとは、大切な人を亡くした後の悲嘆を癒すための支援を指し、訪問看護ステーションや医療機関のソーシャルワーカーなどが対応するケースがあります。

相談できる場所があると家族は孤独になりにくく、自分のペースで心を整理しやすいです。必要に応じて専門のカウンセリングなどを活用する方法もあります。

在宅看取りを選択した家族の声

在宅看取りを実際に経験した家族の多くは「最期まで一緒に過ごせた」「本人の笑顔や安らかな様子を間近で感じられた」という声をあげます。

もちろん、日々のケアや夜間の見守りなど負担は大きい側面もありますが、その一方で「病院では得られない温かさや安心感があった」と振り返る方も少なくありません。

訪問診療チームとの信頼関係が築けていた場合、「困ったときに連絡できる場所がある」という安心感が大きく心の支えになると多くの人が実感しています。

地域で支える看取りネットワークの構築

在宅で老衰期を過ごし、穏やかに看取るためには、地域全体で支え合うしくみが大切です。

医療や介護のサービスだけでなく、行政やボランティア団体、近隣住民の協力が得られると、より充実した在宅生活を続けられます。

多職種連携や地域資源の活用を通じて、看取りを支える取り組みを見ていきましょう。

多職種連携による切れ目のないケア体制

医師や看護師、薬剤師、リハビリ専門職に加え、介護職員やソーシャルワーカー、行政職員などが連携すると、老衰期の方の状態を多角的にサポートできます。

情報共有がスムーズに進むと、本人の症状や家族の要望に素早く対応しやすくなります。

次の一覧は、多職種連携で想定される協力例を示します。

関わる職種具体的なサポート
医師・看護師医療判断、バイタル管理、緩和ケアの実施
介護職員日常生活動作の介助、住環境の整理
ソーシャルワーカー福祉制度の案内、経済面の相談支援
行政職員地域支援サービスの情報提供、必要書類の手続きサポート
ボランティア見守り活動、レクリエーションの協力

このような体制が整うと、急な困りごとが起きたときも迅速に対処でき、家族の負担も軽減しやすくなります。

介護保険サービスの活用方法

老衰期には介護保険サービスを活用すると、家族だけでは対応しきれない部分を専門職が担ってくれます。

具体的には、ヘルパーによる身体介護や生活援助、訪問看護や訪問リハビリ、デイサービスやショートステイなど多彩なサービスが利用できます。

訪問診療と組み合わせることで、医療面と生活面の両方から支援を受けることが可能です。ケアマネジャーはサービス計画の中心となり、本人や家族と相談しながら利用するサービスを調整します。

地域の医療・介護資源の活用と連携

地域によっては、在宅医療支援センターや包括支援センターなど、高齢者の在宅生活を総合的にバックアップする拠点が整備されています。

老衰期の方が利用できる福祉用具の貸与や住環境の整備、ボランティアによる買い物代行など、様々な支援が得られる場合があります。

これらの資源をどう組み合わせるかによって、家族の負担を大きく減らせる可能性があります。

介護保険サービスだけに依存せず、地域で利用できる制度やボランティア活動を幅広く知っておくと選択肢が広がります。

看取りを支える地域コミュニティの役割

家族だけで老衰期の人を支えるのは限界があります。

近所の人がちょっとした買い物を手伝ってくれたり、自治体のボランティアが話し相手になってくれたりするだけでも、在宅生活の継続が大きく変わることがあります。

また、地域の行事や集まりに気軽に参加できる環境があると、孤立を防ぎながら心穏やかに過ごしやすくなります。

地域コミュニティが互いに情報共有し合い、見守り合う風土が形成されることで、老衰期の人と家族にとってより過ごしやすい環境が生まれます。

よくある質問

老衰と診断されたら必ず在宅で過ごさなければいけませんか?

老衰は「自然な終末期の状態」を指す言葉であり、在宅か施設、あるいは病院で過ごすかは自由に選べます。大切なのは、本人と家族がどのような環境を望むかという点です。

体力面や家族の状況などを踏まえて決定するといいでしょう。

老衰期の人が突然食欲を失ったとき、すぐに病院に連れて行くべきでしょうか?

食欲低下は老衰期に多い変化のひとつですが、まったく食べられない状態が続くようなら医師に相談してください。

訪問診療が介入しているならば電話や訪問時に状態を伝え、点滴や食事形態の見直しなどのアドバイスをもらうのがよいです。

訪問診療にはどのように依頼すればいいのでしょうか?

かかりつけ医や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどに相談すると、訪問診療を行っている医療機関や在宅療養支援診療所を紹介してもらえる場合があります。

すでに要介護認定を受けているならば、ケアマネジャーに直接相談するのも良い方法です。

老衰期でもリハビリを受ける意味はありますか?

体力が著しく低下している人でも、痛みの緩和や拘縮の予防など、生活の質を保つためのリハビリは効果があります。

寝たきりを防ぐことで、褥瘡ができにくくなったり、本人が少しでも自分で動ける時間を増やせたりするメリットが期待できます。

看取りの瞬間、家族は何をすればいいのか分からなくて不安です。

穏やかな息づかいが続き、意識が薄れていく中で最期を迎える場合が多いです。呼吸や脈が停止した後は医師に連絡し、死亡確認の手続きを行います。

看取りの時間は大きな感情の波が訪れるかもしれませんが、無理に声を上げず静かに寄り添うことでも、十分に最後のひとときを大切にできるはずです。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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