小規模多機能型居宅介護と訪問診療の併用ルール|利用条件と制限の仕組み

小規模多機能型居宅介護と訪問診療の併用ルール|利用条件と制限の仕組み

小規模多機能型居宅介護を利用しながら訪問診療を受ける場合、介護保険と医療保険の調整が必要です。

原則として、外部のクリニックが行う「在宅患者訪問診療料」の算定には制限があり、特定の末期がんや難病、退院直後といった例外条件を満たす必要があります。

この記事では、複雑な併用ルールの全体像を整理し、算定可能な費用と制限の仕組みを詳しく解説します。

目次

小規模多機能型居宅介護の基本構造と医療連携の在り方

小規模多機能型居宅介護は、通い、泊まり、訪問の3つのサービスを一つの事業所が定額で提供する仕組みです。

このサービスは地域密着型介護サービスに分類され、利用者の生活を包括的に支える役割を担います。

医療との連携については、事業所に配置された看護師や協力医療機関が中心となり、利用者の健康を管理します。

外部の訪問診療を導入する際には、この包括的なサービス構造との整合性を保つためのルールが重要となります。

包括報酬制が医療費算定に与える影響

小規模多機能型居宅介護の最大の特徴は、月額固定の包括報酬制を採用している点です。

介護サービス費用が一定であるため、利用者は回数を気にせずサービスを利用できる利点があります。

一方で、この包括制は医療側の算定にも影響を及ぼします。

厚生労働省の規定により、介護保険で包括的にケアを提供している場合、医療保険側での特定の管理料の算定が制限されます。

こうした仕組みは二重請求を防止し、適切な資源配分を行うための措置として機能しています。

小規模多機能型居宅介護が提供する3機能の概要

サービス形態具体的な内容医療的役割
通い事業所への通所ケアバイタル確認・処置
泊まり短期間の宿泊利用夜間の健康見守り
訪問(介護)自宅での生活援助服薬確認・状態把握

事業所専属の看護師と訪問診療の役割分担

事業所には看護師の配置義務があり、日常的な健康観察や経管栄養の管理などを行います。

医師による専門的な診断や処方が必要な場面では訪問診療の出番となります。事業所の看護師は、医師の指示に基づき日々のケアを実施し、容体の変化を迅速に報告する役割を果たします。

訪問診療医は、この報告を受けて適切な医療措置を判断し、在宅生活の継続を支えます。

主治医との連携を深めるための仕組み

小規模多機能型居宅介護を利用する際、必ずしも事業所の協力医を主治医にする必要はありません。以前から通院していた近隣のクリニックを主治医として継続することも可能です。

ただし、その医師が自宅や事業所へ訪問診療に来る場合は、算定ルールの壁に直面します。

ケアマネジャーは、医師に対して事業所のサービス内容を正確に伝え、役割の境界線を明確にする必要があります。

訪問診療を併用するための基本的な利用条件

外部の訪問診療を併用するには、厚生労働大臣が定める特定疾患や、急性増悪時といった限定的な条件を満たす必要があります。

原則として、小多機の利用者は事業所が健康管理を行う前提があるため、外部医師による「在宅患者訪問診療料」の算定は認められません。

これを突破するためには、特定の疾病を有しているか、あるいは一時的な急性増悪期などの特別な状況にあることが求められます。

利用条件を正確に把握することが、スムーズな導入の鍵となります。

在宅患者訪問診療料の算定制限と緩和措置

通常の在宅生活であれば月2回程度の訪問診療で「在宅患者訪問診療料」を算定できますが、小多機利用者に対しては、これが原則不可となります。

ただし、これには明確な緩和措置が存在します。利用者が自宅にいる時間帯に訪問し、かつ特定の病名がある場合に限り、算定が許可されます。

この制限は、小多機が医療と介護の連携を基本としているからこそ設けられたものです。

併用が認められる主な特定疾病

疾病カテゴリー該当する主な疾患医療の重要度
進行性疾患末期の悪性腫瘍疼痛管理と看取り
難病ALS、パーキンソン病持続的な専門管理
特殊な状態人工呼吸器使用など生命維持装置の管理

特定の疾病や状態にある利用者の扱い

併用が認められる最大の条件は、高度な医学的管理を必要とする疾病の有無です。

末期がんや難病を患っている場合、小多機の看護師だけでは対応しきれない専門的な医療処置が必要と判断されます。

このようなケースでは、外部の訪問診療医が定期的にお伺いし、診察を行うことが認められます。

その結果、重度化した利用者であっても住み慣れた地域での生活を継続できる体制が整います。

急性増悪時や退院直後の一時的な対応

慢性的な状態だけでなく、急激に体調が悪化した場合や、病院から退院して間もない時期も、外部医師の介入が必要な期間として考慮されます。

退院後30日以内に限り、特別な管理が必要な場合は併用ルールが緩和される規定があります。病院での治療内容を在宅ケアにスムーズに引き継ぐために、医師による直接の指導が重要視されるためです。

この期間を通じて状態が安定すれば、徐々に事業所主体のケアへと移行します。

併用制限が発生する具体的な仕組みと算定ルール

併用制限は、小多機の包括報酬に健康管理の費用が含まれているという考え方に基づき、二重払いを防ぐ目的で設定されています。

小規模多機能型居宅介護の基本報酬には、利用者の健康を維持するためのコストが一部反映されています。

そのため、外部の医師が診察料を請求すると、公的な費用負担が重複するという課題が生じます。

この課題を解決するために、算定できる項目とできない項目を厳格に区分けするルールが運用されています。

在宅時医学管理料の算定可否

訪問診療において、診療料と並んで重要なのが在宅時医学管理料です。小多機利用者の場合、これらの管理料の算定は非常に限定的です。

通常の在宅診療で使用する管理料は算定できず、代わりに特定の条件下でのみ認められる項目を選択します。

この仕組みを知らずに診療を開始すると、後日医療機関側で費用の返戻が発生するリスクがあります。

医療機関側で確認すべき算定項目

項目名算定の可否留意事項
訪問診療料条件付きで可特定疾病等の確認必須
往診料急変時は可計画的な診療とは別
医学管理料原則不可特別な管理が必要な場合のみ

訪問場所による制限の違い

診療を行う場所も算定に影響を与えます。

訪問診療は原則として利用者の居宅で行うものです。小多機の泊まりのサービスを利用して事業所に滞在している間は、そこは居宅ではなく施設の一部とみなされる場合があります。

このため、事業所内での診療には、自宅での診療とは異なる算定基準が適用されます。

多くの場合、自宅に戻っているタイミングに合わせて診察を計画する工夫が求められます。

薬剤費や検査費の取り扱い

診察料の算定に制限があっても、薬剤費や検査費については別の考え方が適用されます。処方箋の発行や、必要とされる血液検査などは医療保険の枠組みで通常通り行えます。

ただし、これらも診察に伴う行為であるため、診察自体が成立していることが前提となります。

介護事業所側で用意すべき消耗品と、医療側で提供する材料の切り分けについても、事前の合意が混乱を防ぐ手段となります。

特例として外部の訪問診療が認められるケース

看取り期や難病、精神科診療など、専門的な医学管理が不可避な場合には、原則を越えた外部医師の介入が特例として認められます。

これらの特例は利用者の尊厳や生命の安全を守るために用意された重要な仕組みです。

特に看取り期における対応などは、通常の制限を越えて外部リソースの活用が推奨される場面もあります。

特例を適切に適用することで包括ケアの限界を補い、質の高い生活支援を実現します。

看取り期における緩和ケアの実施

人生の最終段階において、住み慣れた場所での看取りを希望する場合、医師による頻回な訪問が必要です。

この時期においては、小多機の包括報酬とは別に、医療側での積極的な介入が認められる傾向にあります。特に看取り加算を算定するようなケースでは、医師と介護スタッフが密接に連携します。

こうした連携が、人道的な観点から医療の介入を正当化する代表的な事例となります。

特例対応が必要となる状況の具体例

  • がん末期による持続的な劇薬点滴が必要な状態にある場合
  • 難病指定を受けており、人工呼吸器の調整を要する状態
  • 退院後、在宅生活への移行を目的とした集中的な医学管理期間
  • 重度の精神症状により自他害の恐れがある緊急事態への対応

精神科訪問診療による専門的な支援

認知症に伴う周辺症状が激しい場合、精神科医による専門的な訪問診療が必要となります。精神科の訪問診療は、一般的な内科の訪問診療とは異なる算定体系を持っています。

特定の条件下で併用が認められるケースがあり、適切な薬剤調整を行うことで介護スタッフの負担を軽減します。

利用者が穏やかに過ごせる環境を整えることが、この介入の主な目的です。

歯科訪問診療や訪問リハビリの扱い

医科の訪問診療に制限があっても、歯科訪問診療や訪問リハビリテーションは別枠で考えられます。口腔ケアや摂食嚥下訓練は、小多機の基本サービスだけでは不十分な場合が多いからです。

これらは医療保険、あるいは介護保険の別枠サービスとして利用が可能です。

全身の健康維持には口腔環境の整備が欠かせないため、多職種連携の中にこれらの専門職を組み込むことが大切です。

介護保険と医療保険の優先順位と役割分担

小規模多機能型居宅介護と訪問診療の併用では、介護保険優先の原則に基づきつつ、医療行為については医療保険を適用する切り分けが行われます。

日本社会保障制度の基本原則として、介護保険優先のルールがあります。

どちらの財布から費用を支払うかを明確にするとで、利用者にとっての経済的負担を透明化します。納得感のあるサービス利用を促すためにも、この構造の理解は重要です。

介護保険優先の原則と例外規定

65歳以上の介護保険被保険者がサービスを受ける場合、介護保険で提供可能な内容は医療保険に優先して適用されます。

小多機は包括サービスであるため、本来であれば訪問看護も介護保険の一部として提供すべきものです。

しかし、難病患者や気管切開を行っている等の重度な状態にある場合は、訪問看護自体を医療保険で提供する切り替えが発生します。

この切り替えによって、外部の訪問診療医との連携がよりスムーズになる構造となっています。

保険適用と役割の整理

サービス区分適用される保険主な費用負担
小多機基本サービス介護保険月額定額(1割〜3割)
訪問診療・往診医療保険診療報酬に応じた負担
薬剤費(院外処方)医療保険調剤報酬・薬価負担

ケアマネジャーによる調整の重要性

併用ルールの運用において、中心的な役割を担うのが小多機のケアマネジャーです。

ケアマネジャーは医療保険の制限事項を熟知し、医師に対して算定の可否を調整する役割を求められます。

また、利用者の負担額が過剰にならないよう、バランスを維持する責任もあります。

医師、看護師、そして家族の間に入り、制度の複雑さを翻訳して伝える対話能力が求められます。

家族負担の透明化と同意形成

併用によって発生する費用は、利用者の自己負担に直結します。小多機の月額定額料金に加え、医療保険の自己負担分が発生することを、家族は事前に正しく理解する必要があります。

経済的な見通しを立てた上で、医療の必要性を共有し、家族の同意を得ることが長期的な支援の基盤となります。

利用者と家族が知っておくべき併用のメリットと注意点

訪問診療の併用により、24時間体制の介護に専門的な医療判断が加わり、在宅での看取りまで含めた高度な支援体制が完成します。

施設入所を選択しなくても、同等以上の医療ケアを自宅で受けられるからです。

しかし、一方で制度の複雑さからくる誤解や、連携不足によるリスクも考慮しなければなりません。

メリットを最大限に引き出しつつ、注意すべき点を回避するためには多職種との意思疎通が大切です。

切れ目のないケア体制の構築

併用の最大のメリットは、24時間365日の介護体制に、医師の視点が加わることです。

小多機のスタッフが日々の微細な変化を捉え、それを訪問診療医にフィードバックする循環が生まれます。こうした体制により、病気の悪化を未然に防ぐことが可能となります。

夜間の急変時にも、普段の様子を知っているスタッフと医師が連携することで、不必要な救急搬送を避けられます。

併用におけるチェックポイント

  • 現在の主治医が小多機利用者への訪問診療に対応可能である
  • 特定疾病の診断が下りているか、または特例に該当している
  • 緊急時の連絡体制が医療機関と事業所の間で確立されている
  • 毎月の自己負担合計額が家族の予算の範囲内に収まっている

情報共有の漏れを防ぐ工夫

複数の組織が関わるため、情報の断絶が最大の懸念点となります。

事業所の連絡帳、医療側の診療録など、情報は分散しがちです。これを解消するために、共通の連絡ノートの設置などが効果的です。

誰がいつ何を確認したかを可視化する仕組みを作ることで、エラーを最小限に抑えられます。

契約関係と解約時のルールの確認

小多機を利用する際は、以前のケアマネジャーとの契約を解除し、小多機専属の担当者に交代する必要があります。これに伴い、以前からの医療連携ルートが一時的に途切れるリスクがあります。

訪問診療医との関係を維持したい場合は、新しい担当者に対して、その意向を強く伝える必要があります。

契約終了時の手続きも、医療側との連携を維持しつつ計画的に進める姿勢が求められます。

よくある質問

小規模多機能型居宅介護の事業所に泊まっている時に具合が悪くなったら、外部の先生に診てもらえますか?

急激な体調変化などの緊急時には、往診という形で外部の医師に診てもらうことが可能です。

通常の計画的な訪問診療とは異なり、突発的な事態への対応であるため、医療保険での算定も認められるのが一般的です。

ただし、まずは事業所の看護師や協力医が対応するのが基本ですので、現場のスタッフの判断に従って連携を仰ぐ形になります。

夜間や休日でも連絡がつく体制を医師と事業所の間で整えておくことが重要です。

訪問診療を受けたいのですが、ケアマネジャーさんに反対されることはありますか?

ケアマネジャーが反対するというよりは、制度上の制限によって、今の状態では併用が難しいと説明されるケースはあるでしょう。

特に特定の疾病がないにもかかわらず定期的な訪問診療を希望する場合、医療機関側が診療報酬を受け取れないため、医師側が引き受けられないという事情も生じます。

ケアマネジャーは制度を遵守しつつ、利用者の健康を守る義務があります。医療の必要性が高いと判断されれば、併用を可能にするための条件整理を医師と一緒に考えてくれるはずです。

今まで通院していた先生に、そのまま家まで来てもらいたいのですが可能ですか?

その先生が訪問診療を行っているクリニックであれば、理論上は可能です。

しかし、小多機利用者への訪問診療には厳しい制約があります。先生がその制約を理解し、算定が可能であると判断すれば継続できます。

まずは現在通院している先生に、小規模多機能型居宅介護を利用する予定であることを伝え、訪問診療への切り替えと併用ルールの対応が可能かどうかを相談してみてください。

訪問診療の先生にお願いすれば、お薬は事業所まで届けてもらえますか?

医師が処方箋を発行し、それを調剤薬局に送って、薬剤師が事業所や自宅へ薬を届けるサービスを併用できます。

これは医療保険の別枠として認められており、薬の管理を専門家に行ってもらえるため非常に有用です。

小多機のスタッフが薬を取りに行く手間も省け、誤薬防止にもつながります。配達を希望する場合は、対応可能な薬局をケアマネジャーや医師に紹介してもらうと良いでしょう。

併用を始めた後で、病状が良くなって制限に引っかかったらどうなりますか?

状態が改善し、特定の疾患管理や特別な処置が不要になったと判断されると、外部の訪問診療を継続できなくなる場合があります。

その際は、事業所の健康管理サービスに一本化するか、あるいは必要に応じて家族がクリニックへ連れて行く外来受診へと切り替えることになります。

制度はあくまで医学的な必要性に基づいています。体調が良くなるのは喜ばしいことですので、その後の管理方法について改めてケアマネジャーと相談し、適した形を再構築しましょう。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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