末期がんの痛みを軽減するためには薬物療法だけでなく、心理社会的なケアや在宅での支援体制の整備など、多面的なアプローチが重要です。
医療機関への通院で対応するか、訪問診療で在宅療養を続けるかは多くの方にとって大きな選択といえます。痛みや不安を少しでも和らげたいという気持ちに寄り添う情報をまとめました。
ご自身やご家族の状況に合わせた方法を見いだす際の参考になれば幸いです。
末期がんの疼痛緩和とは?基本概念と緩和ケアの重要性
痛みは身体的負担だけでなく、精神的な不安や生活の質の低下にもつながります。このパートでは、末期がんにおける痛みの特徴や緩和ケアの考え方について整理し、患者さんやご家族が治療方針を検討するきっかけを提供します。
末期がんの痛みが及ぼす影響
末期がんの痛みには、長期間続く鈍痛や腫瘍による圧迫、骨への転移に伴う疼痛など様々な種類があります。これらの痛みは身体的つらさだけにとどまりません。
日常生活が制限されるうえに、心の余裕を奪い、家族との交流や食事の楽しみなども損なわれやすくなります。
- 強い痛みによる睡眠障害
- 動く機会が減り、体力や筋力の低下
- 食欲不振や意欲の低下
- 不安感や抑うつ状態になりやすい
痛みが蓄積すると、がん治療への前向きさを維持しにくくなるだけでなく、必要な栄養摂取やリハビリなどにも支障をきたします。治療の効果を高めるためにも、生活の質(QOL)を落とさない疼痛緩和が大切です。
ここで、末期がんの痛みの原因や特性を簡単に整理してみます。
痛みの原因 | 主な症状・特徴 | 例 |
---|---|---|
腫瘍の直接的圧迫 | 腫瘍が神経や臓器を圧迫して痛みを引き起こす | 骨転移、脊髄圧迫など |
治療や検査に伴う痛み | 化学療法や放射線療法による副作用で痛みが発生 | 口内炎、皮膚のただれなど |
心理的要素が影響する痛み | 不安や恐怖によって痛みが増幅する | 見通しの不安や孤立感 |
がんによる痛みは単純ではなく、複数の要因が重なり合って起こります。患者さん一人ひとりの背景や病状に合わせた緩和ケアを行い、負担を減らす工夫を続けることが望ましいです。
緩和ケアの目的と役割
緩和ケアは、末期がんに限らず、慢性的な苦痛や余命に限りのある疾患を抱える方々を対象に、身体・心理・社会的・スピリチュアルな側面から支援するアプローチです。
「痛みがなければ治療も前向きに取り組めるのではないか」という患者さんやご家族の願いに応えるものとして、多くの病院や在宅診療の現場で注目されます。
緩和ケアの役割は、単純に「痛み止めを処方する」ことだけではありません。患者さんとそのご家族が生活を見つめ直し、本人が少しでも快適に過ごすための方法を模索するプロセスを支える点にあります。
具体的には、次のような取り組みが挙げられます。
- 痛みをはじめとする身体症状の軽減
- 不安や抑うつなど心理的ケアへの対応
- ご家族へのサポート体制
- 社会福祉制度や訪問診療・介護サービスとの連携
- スピリチュアルな面での相談
こうしたケアを複合的に実践し、患者さんの「生きる意義」や「生活への満足感」を高めることが緩和ケアの一番の目標です。
WHO方式疼痛治療の基本
世界保健機関(WHO)が提唱する疼痛治療の階段(3段階鎮痛ラダー)は、痛みの強さや段階に応じて医薬品を使い分ける方針をまとめたものです。
- 第1段階:非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)
- 第2段階:弱オピオイド鎮痛薬(コデインやトラマドールなど)
- 第3段階:強オピオイド鎮痛薬(モルヒネやフェンタニルなど)
患者さんの痛みの強さや、副作用の状況に合わせて段階的に薬を選択すると考えられています。これに加えて、痛みの種類(神経因性疼痛など)に応じた鎮痛補助薬を組み合わせることで、より適切な疼痛コントロールを目指せます。
下の表は、WHO方式疼痛治療の3段階をわかりやすく整理したものです。
段階 | 主な使用薬 | 特徴 |
---|---|---|
第1段階 | アセトアミノフェン、NSAIDs | 軽度〜中等度の痛みに用いる |
第2段階 | コデイン、トラマドール | 中等度〜やや強い痛みに対応 |
第3段階 | モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン | 強い痛みに使用し、用量調整や副作用管理が重要 |
この3段階を目安に、患者さんの痛みの度合いと薬の効果、副作用の出方などを総合的に判断しながら、医師や看護師、薬剤師が連携して薬物療法を組み立てます。
QOL改善がもたらす効果
QOL(Quality of Life)の向上は、治療の延命効果だけを追いかけるのではなく、日々の暮らしの中でいかに苦痛を軽減できるかに重きが置かれます。
身体的な痛みが落ち着くだけでなく、不安やストレスが減ることで、患者さんや家族が再び日常の小さな喜びを味わえるようになります。
- 食事が楽しめるようになる
- 夜間の睡眠が安定し、疲労が和らぐ
- 人と会う元気が出て、コミュニケーションが増える
- 在宅療養の継続に意義を感じられるようになる
こうした効果は、まわりのサポートや環境整備によってさらに高まります。疼痛緩和に加え、訪問診療や介護サービスなどを活用することで、生活のリズムや患者さんの意欲を保ち、心身ともに負担を減らす土台が整います。
薬物療法の選択肢と注意点
痛みの緩和には薬物療法が柱のひとつになります。鎮痛薬と一口にいっても、多種多様な種類があり、各々が異なる特徴をもっています。
ここでは、代表的なオピオイド系鎮痛薬や鎮痛補助薬、痛み評価スケールの使い方、副作用との向き合い方について解説します。薬物を使用する上で気を付けたいポイントを把握すると、安心して在宅療養や訪問診療を選択しやすくなります。
オピオイド系鎮痛薬の特徴
がんによる強い痛みに対しては、オピオイド系鎮痛薬が重要な位置を占めます。モルヒネやフェンタニル、オキシコドンなどは強オピオイドと呼ばれ、WHO方式疼痛治療の第3段階で中心的に使用されます。
オピオイド系鎮痛薬には誤解も多く、「依存性が生じてしまうのではないか」「副作用が強く出てしまうのではないか」という不安を持つ方が少なくありません。
しかし、適切な用量と方法で用いれば、依存や過度な副作用を最小限に抑えられると考えられています。特に慢性的な痛みに対して処方する場合は、以下の要点を意識することで安心感が高まります。
- 服用時間や回数の管理を徹底する
- 投与ルート(経口、貼付剤、注射など)を痛みや生活状況に合わせて選択する
- 便秘などの副作用予防を併用し、症状が出る前から管理する
オピオイドの導入をためらう方も多いですが、適切な管理とモニタリングを行えば、生活の質が大きく改善することも期待できます。
鎮痛補助薬の活用シーン
鎮痛補助薬は、主にオピオイド系鎮痛薬や非オピオイド鎮痛薬と組み合わせて使用します。神経因性疼痛や慢性疼痛など、単一の鎮痛薬だけでは対処しにくい痛みに対して、補助薬が効果を発揮するケースがあります。
たとえば、抗うつ薬や抗けいれん薬が神経の痛みをやわらげる一助になることがあります。
鎮痛補助薬の例 | 役割 | 活用シーン |
---|---|---|
抗けいれん薬(ガバペンチンなど) | 神経の興奮を抑制し、神経因性疼痛を緩和 | しびれを伴う痛み、帯状疱疹後神経痛 |
抗うつ薬(SNRI、TCAなど) | 中枢神経のセロトニンやノルアドレナリンに作用し、痛みの伝達を調整 | 不安やうつ症状が強い場合、神経因性疼痛を併発している場合 |
ステロイド | 炎症や腫脹を抑え、がんによる痛みを軽減 | 腫瘍の圧迫を和らげたい場面 |
こうした補助薬を上手に組み合わせると、オピオイドの使用量を適度に抑えながら痛みを改善しやすくなります。ただし、薬によっては注意すべき副作用もあるため、医師や薬剤師とよく相談することが大切です。
副作用への対応とリスク管理
強い鎮痛効果がある薬は、同時に副作用も発現しやすい傾向があります。オピオイド系鎮痛薬の代表的な副作用には便秘、吐き気、眠気、嘔吐などが挙げられます。
特に便秘は多くの患者さんが困っている症状であり、下剤の併用など予防的な対策が求められます。
- 便秘:下剤や浣腸の使用、食物繊維と水分摂取の工夫
- 吐き気・嘔吐:吐き気止めの併用や服用時間の調整
- 眠気:薬の用量調節、生活リズムの見直し
- 呼吸抑制(重度の場合):用量の段階的調整や投与経路の変更
最初は副作用が出ても、体が薬に慣れてくると落ち着く場合も多々あります。必要に応じてリスク管理を徹底しながら、生活に合わせた薬の使い方を探してみるとよいでしょう。
痛み評価スケールの使い方
患者さんが感じる痛みの度合いは、客観的に測定しにくいものです。しかし、痛み評価スケール(Numeric Rating Scale:NRSなど)を用いることで、ある程度の客観的指標を得られます。
NRSでは「0=痛みなし」から「10=我慢できない激痛」までの数字を使い、現在の痛みを本人に評価してもらいます。
数値 | 痛みの程度の目安 |
---|---|
0 | 痛みなし |
1〜3 | 多少あるが、日常生活は問題なく行える |
4〜6 | 我慢できるが、動作や集中力に影響する |
7〜9 | かなりつらく、会話や移動も困難 |
10 | 耐えられない激痛 |
このように、患者さん自身がその時点での痛みを数字で示すことで、医療スタッフが薬の効果や副作用を調整する際の目安にしやすくなります。定期的な痛み評価を実施すると、急な痛みの悪化や薬の効き過ぎなどを早期に発見しやすくなります。
医療スタッフとの連携方法
疼痛管理は医師だけではなく、看護師や薬剤師、リハビリスタッフなど、多職種が関わるチームワークが重要です。それぞれの専門領域での経験を生かしつつ、患者さんやご家族とコミュニケーションを密に行います。
- 医師:診断、薬物療法の処方や調整、治療方針の決定
- 看護師:生活の場面に即したケア、状態の観察と報告
- 薬剤師:薬の適切な使い方や副作用対策のサポート
- リハビリスタッフ:体力維持や痛みを軽減する体の使い方の指導
- ソーシャルワーカー:介護保険や福祉サービスの情報提供
特に在宅療養では、患者さんや家族が「誰にいつ相談すればいいのか」がわかりにくい場合があります。
そのため、訪問診療のチームやかかりつけ医を中心に連絡体制を明確にし、何か不安や痛みの変化があったらすぐに相談できる体制を整えておくと安心です。
非薬物療法や補完的アプローチ
痛みには薬物だけでなく、物理療法や心理面でのサポート、補完療法なども組み合わせることが重要です。特に精神的ストレスや筋肉のこわばりなどが痛みを増幅している場合、非薬物的な手法を併用すると症状が和らぎやすくなります。
このパートでは、神経ブロックや放射線療法、物理療法やリラクゼーション、心理的なケアなどを詳しく紹介します。
神経ブロックや放射線療法の意義
神経ブロックは、痛みを伝える神経に局所麻酔薬や薬剤を注入し、一時的あるいは持続的に痛みの伝達を遮断する方法です。病変部位によっては非常に有効で、オピオイドの用量を抑える手段として選択肢に挙がることがあります。
また、骨転移による激しい痛みに対しては、放射線療法が大きな助けとなる場合があります。腫瘍の増大を抑制したり、骨に生じた腫瘍を縮小する効果が期待でき、痛みを和らげる手段のひとつです。
痛みが強いからといって薬の強度を上げるだけでなく、こうした物理的介入も検討すると、長期的な疼痛コントロールに役立ちます。
神経ブロックや放射線療法などは下の表のように特定の症状に合わせて使い分けることがあります。
手法 | 主な対象となる症状 | メリット・効果 |
---|---|---|
神経ブロック | 神経性の鋭い痛みや局所に限局する痛み | 短期間で劇的な痛み軽減が見込める場合がある |
放射線療法 | 骨転移による骨痛や脊髄圧迫など | 原因となる腫瘍そのものを縮小して痛みを和らげる |
物理療法やリハビリテーション
物理療法としては、温熱療法やマッサージ、軽いストレッチなどが挙げられます。筋肉の緊張をほぐしたり血行を改善したりすることで、痛みの緩和につながりやすくなります。
ただし、悪性腫瘍や転移の場所、患者さんの体力状況によっては、特定の物理療法を控えたほうがいい場合もあるので、主治医や理学療法士、作業療法士などと相談しながら実施してください。
リハビリテーションでは、無理のない範囲で体を動かし、関節の可動域や筋力を保つことを目指します。
動かないでいると体が硬くなり、痛みを感じやすい状態が続きやすくなるので、日常生活動作の練習を通じて身体機能を維持することが望ましいです。
- 椅子から立ち上がる練習
- トイレや浴室での安全な移動方法
- 寝たきりにならない工夫(ベッド上での体位変換など)
心理面のサポートとメンタルケア
痛みは心理面とも深く結びついています。強い不安や恐怖心は、痛みをより強く感じさせる要因となりやすいです。そのため、メンタルケアを含めたサポートを行うことが疼痛緩和において大切です。
- カウンセリングや認知行動療法を取り入れて、不安やストレスを軽減
- 心理士やスピリチュアルケア担当者が、患者さんの価値観や想いを聞き取る場を提供
- 家族と一緒に話し合う機会を設け、今抱えている悩みや今後の生活の見通しを共有
こうした取り組みを継続的に行うと、患者さんの痛みの自覚度合いが下がるケースも報告されています。特に終末期の不安は強くなりやすいため、表に出しにくい悩みや孤独感を話せる場所をつくることが重要です。
補完療法とリラクゼーション技法
アロマセラピーやマッサージ、音楽療法、ヨガ、呼吸法など、補完療法と呼ばれるアプローチが多くの医療現場で取り入れられています。
これらは痛みの直接的な原因を治療するわけではありませんが、筋肉の緊張や心理的ストレスを緩和する効果が期待される場合があります。
呼吸を意識する呼吸法や瞑想、簡単なストレッチなどは在宅でも取り組みやすいです。医療スタッフに相談しながら、自分に合った方法を無理のない範囲で続けてみるとよいでしょう。以下のような手軽なリラクゼーション法があります。
- 腹式呼吸:5秒かけて息を吸い、5秒でゆっくり吐く
- 音楽を聴きながら体をやさしく揺らす
- ラベンダーなどのアロマオイルを使った足浴や手浴
緊張しがちな時間にリラクゼーションを取り入れると、気持ちが安定しやすくなり、痛みもやややわらぐ可能性があります。
補完療法の種類 | 特徴・方法 | 期待できる効果 |
---|---|---|
アロマセラピー | 精油を使って香りの刺激を与える | リラックスや血行促進 |
音楽療法 | 心地よい音楽を聴いたり、歌ったりする | 気分の安定、痛みの意識をそらす |
呼吸法・瞑想 | ゆっくり深い呼吸とイメージワークなどを取り入れる | 自律神経の安定、ストレス緩和 |
在宅療養での疼痛緩和と家族支援
在宅で療養しながら末期がんの痛みをコントロールするには、訪問診療のチームや介護サービスの利用が大きな助けになります。
病院では得られない安心感や、自宅だからこその快適さがある一方、日常のケアを担う家族にも大きな負担がかかるのが事実です。ここでは、訪問診療チームの具体的な役割や、在宅での痛みへの対処法、家族支援について掘り下げます。
訪問診療チームの役割と連携
訪問診療では、医師や看護師が定期的に自宅を訪問し、体調チェックや薬の処方、副作用の確認などを行います。
患者さんの状態を把握し、必要に応じて薬の種類や量を調整したり、検査が必要なときには地域の医療機関と連携して対応したりします。
家族が医療の知識を持たなくても、日常の困りごとを相談しながら安心して看取りまでのケアを継続できる体制を提供することが大切な役割です。
- 痛みの状態を確認し、薬の変更や追加の判断
- 療養環境のアドバイス(介護ベッドの導入や安全対策など)
- 急変時の対応や緊急連絡先の明示
- 家族への心理的ケアや負担軽減策の提案
医師や看護師だけでなく、訪問歯科や訪問リハビリ、訪問薬剤師、介護福祉士など、複数の専門職が連携するとより充実した在宅療養を行いやすくなります。
痛み発生時の対処と緊急対応
在宅では、突然痛みが強くなる場面も考えられます。このようなときは慌てず、あらかじめ「痛みが強くなったときの行動手順」を決めておくと安心です。
- 訪問診療の担当医や看護師に連絡し、追加の鎮痛薬の使用や服用時間の調整を相談
- 体位を変えてみて痛みが和らぐか確認
- 温罨法や冷罨法を試す(医療スタッフに使用の可否を確認)
- 精神的な不安が痛みを増幅している場合は、呼吸法や短時間の安静で落ち着きを取り戻す
近くに頼れる家族や友人がいない場合は、地域で支援を受けられる緊急連絡先(夜間・休日対応の訪問看護ステーションなど)を共有しておくと良いです。
箇条書きリスト(1)
- 常備薬とその使い方をメモにまとめておく
- 緊急時に連絡する先をわかりやすい場所に書いて貼っておく
- 在宅医療スタッフと痛みが出た場合の行動計画を事前に話し合う
在宅でもできる簡易リラクゼーション
病院のような専門的設備はなくても、自宅で手軽にできるリラクゼーション法はたくさんあります。痛みをゼロにすることは難しくても、不安や緊張をほぐすだけで体のこわばりが軽減し、結果的に痛みが楽になる例もあります。
- テレビやスマートフォンを一時的にオフにして、静かな音楽を流す
- ベッドやソファに座ったまま、肩や首を軽く回すストレッチ
- ゆっくり湯船につかり、体を温める(医師の許可がある場合)
こうした小さな工夫の積み重ねで、日常の中でホッとできる瞬間を増やし、痛みに意識が集中しすぎないようにすることがポイントです。
介護者の負担軽減とサポート策
在宅ケアは、家族や親しい人にとっても大きな負担を伴います。特に介護者が高齢だったり、仕事や子育てと両立していたりすると、身体的・精神的に疲労が蓄積しやすくなります。
介護者自身の健康管理も見落とせない課題です。以下のような手段でサポート策を活用し、負担を少しでも軽くしていきましょう。
- デイサービスやショートステイで一時的に介護の手間を減らす
- 家事代行やヘルパーサービスを使って、食事や掃除を手伝ってもらう
- 家族や友人だけで抱えこまず、地域の相談窓口や医療スタッフに定期的に状況を報告する
- 介護者がカウンセリングやリラクゼーションを受ける機会をつくる
介護疲れが蓄積すると、適切なケアを続ける余裕が失われ、場合によっては患者さんとの関係性にも悪影響が出ることがあります。周囲のサポートを積極的に取り入れながら、自分を守りつつケアする姿勢が大切です。
ケアマネージャーや行政サービスの利用
在宅療養を継続するうえで、ケアマネージャー(介護支援専門員)は心強い存在です。介護保険の申請や更新、必要なサービスの計画(ケアプラン)作成など、幅広い業務を担い、患者さんや家族をサポートします。
困ったときはまずケアマネージャーに相談する、というルートを確立すると、必要な情報がスムーズに手に入りやすくなります。
行政サービス・制度 | 利用の仕方 | 主なメリット |
---|---|---|
介護保険 | 要介護認定を受けると各種訪問介護サービスなどが利用可能 | 訪問入浴や通所リハビリなど、生活を支えるサービスが受けやすくなる |
高額療養費制度 | 医療費が高額になった場合、一定額を超えた部分が還付される | 経済的負担の軽減 |
障害者手帳 | 合併症などにより障害認定を受ける場合あり | 公共交通機関の割引や手当など |
こうした制度は積極的に利用することで、医療費や介護費の負担が少しでも和らぎ、自宅での生活の安定につながります。
緩和ケアにおける多職種連携と今後の展望
がんの終末期においては、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなど多くの専門職が協力することで、患者さんの痛みや不安を和らげやすくなります。
家族にとっても、支えになってくれる複数の窓口があると心強いものです。このパートでは、多職種連携のポイントと、病院と地域のネットワーク、家族とのコミュニケーション、そして近年の緩和医療の動向などをまとめます。
緩和ケアチームの構成と連携ポイント
緩和ケアチームは、疼痛管理だけでなく、心のケアや社会的サポートなど包括的な支援を提供します。具体的には下記のような専門家が参加します。
- 医師:患者さんの症状や治療方針を総合的に判断し、薬物療法を調整
- 看護師:体調の観察と日々のケア、患者さんや家族の感情面のサポート
- 薬剤師:服薬指導、相互作用のチェック、副作用予防策のアドバイス
- リハビリスタッフ:身体機能の維持・向上を目指すリハビリ計画の提案
- ソーシャルワーカー:介護保険や公的支援制度の案内、相談窓口
これらのメンバーが共通の方針を持ち、こまめに情報共有を行うことで、痛みやその他の症状が変化した際にもスピーディーに対処できます。
特に在宅療養では、予定外の体調変化が起こりやすいので、チームの連携体制が整っていると負担が大幅に軽減されます。
病院と地域ネットワークの活用
がん患者さんが病院から在宅に移行する際、円滑な連携が大切です。退院調整看護師や地域連携室が橋渡しを行い、患者さんの療養計画を立てる場面が増えています。
訪問診療の専門医や看護師が病院に赴き、事前のカンファレンスに参加するケースもあります。
在宅に移行した後も、再入院が必要になった場合は、スムーズに病院に戻れるルートを確保すると安心です。血液検査や画像診断などの定期フォローを地域のクリニックや病院と連携して実施するなど、多様な選択肢が存在します。
- 退院前カンファレンスで患者さんとご家族の要望を共有
- ケアマネージャーと病院スタッフ、訪問診療チームが顔を合わせて情報交換
- 急に状態が悪化したときの搬送方法や連絡窓口を事前に決める
家族と医療従事者のコミュニケーション
患者さん本人の意思だけでなく、家族の希望や負担の度合いも含めて考えるのが緩和ケアの特徴です。家族が「こうしてほしい」と医療従事者に伝えやすい雰囲気づくりも求められます。
そのためには、定期的な面談や電話連絡の場を設け、些細な変化や悩みを気軽に相談できる関係を育むことが大切です。
箇条書きリスト(3)
- 痛みや眠気など、患者さんの普段の様子を遠慮なく報告する
- ケアマネージャーや看護師に、「家族の体調が悪い」「介護に疲れている」なども共有
- 医師の説明が理解しづらい場合は、そのままにせず再度説明をお願いする
コミュニケーションが円滑だと、手遅れになる前にケアの修正や追加サポートが入りやすくなり、患者さんと家族が共に穏やかな時間を過ごしやすくなります。
近年の緩和医療の進歩と課題
かつては「緩和ケア=人生の最終段階だけのケア」と捉えられてきましたが、今では早期からの導入が有効と認識され、がんと診断された段階で緩和ケアを紹介する事例も増えてきています。
痛みや症状を和らげることで治療の継続を助け、患者さんの気力やQOLを保ちやすくするからです。
ただ、緩和ケアの普及にはまだ課題も残っています。専門の医療従事者が不足している地域があることや、「まだ治療をあきらめたわけではないのに」と抵抗を感じる方が多い点などが挙げられます。
こうした壁を超えるには、緩和ケアの正しい理解を広める活動や、医療機関と地域が協力して専門家の配置や教育を進める取り組みが必要です。
- 緩和ケア医や看護師の養成支援
- 地方でも質の高い在宅緩和ケアを受けられるためのインフラ構築
- 患者さんや家族への早期介入を促す広報活動
医療技術や社会環境が変化しても、患者さんの苦痛を和らげ、望む場所で暮らせるようにする姿勢は不変の価値があります。今後も多職種連携と地域の結びつきを深めることで、末期がん患者さんのQOL向上を目指す動きは続くでしょう。
- 自宅で過ごす場合は、訪問診療や介護サービスを活用して負担を調整
- 痛みの強さに合わせて薬物療法と非薬物療法を柔軟に併用
- 家族もひとりで抱えず、ケアマネージャーや医療チームと連携
- こまめなコミュニケーションで状態変化を早期に察知
表やリストを活用した情報整理は、複雑な緩和ケアの選択肢をイメージしやすくします。患者さんの意見や状況を考慮して、最も大切にしたいことは何かを話し合いながら、落ち着いた治療やケアを進めてみてください。
- 病院、在宅、介護施設など、各環境の利点と課題を事前に情報収集
- がんの痛み対策だけでなく、心と体、そして生活面のトータルケアを意識
- 困ったときは一人で悩まず、専門家や家族と相談して解決策を探す
表でまとめたデータやリストを見返しながら、患者さんのQOL向上に向けた選択肢を検討していただければと願っています。
ここまで述べてきたように、末期がんの疼痛緩和では薬物療法と非薬物療法をバランスよく活用し、在宅療養や訪問診療チームとの連携が欠かせません。家族の力だけでは難しい部分も多いので、地域の専門家や行政サービスの協力を得て、より安定した日々を送れるよう工夫してみてください。
以上