外来受診と訪問診療の適切な選択 – 状態に応じた医療の比較

外来受診と訪問診療の適切な選択 - 状態に応じた医療の比較

体調が悪くなったとき、医療機関を受診する方法として「外来受診」と「訪問診療」があります。どちらを選ぶべきか、ご自身の状態や生活環境によって異なります。

この記事では、外来受診と訪問診療の基本的な違い、それぞれの特徴、費用、そしてどのような場合にどちらの医療が適しているのかを詳しく解説します。

ご自身やご家族にとってより良い医療選択をするための一助となれば幸いです。

目次

外来受診と訪問診療の基本的な違い

医療を受ける形態として、外来受診と訪問診療は、患者さんが医療サービスを受ける場所や方法において根本的な違いがあります。

これらの違いを理解することは、ご自身の状況に合った医療を選択する上で非常に重要です。

外来診療の特徴と適応範囲

外来診療とは、患者さん自身が病院やクリニックなどの医療機関へ出向き、医師の診察や治療を受ける医療形態です。一般的に「通院」と呼ばれるものがこれにあたります。

多くの医療機関では、内科、外科、眼科、皮膚科など専門分野ごとの診療科を設けており、患者さんは自身の症状や目的に応じて適切な診療科を選びます。

外来診療の大きな特徴は、医療機関内に整備された高度な医療機器や検査設備を利用できる点です。

レントゲン検査、CT検査、MRI検査、血液検査、超音波検査など、詳細な検査を通じて病状を正確に把握し、専門的な治療方針を立てることが可能です。

また、複数の専門医が在籍している医療機関であれば、必要に応じて他の診療科と連携したチーム医療を受けることもできます。

外来診療が適しているのは、主に以下のような方々です。

  • 自力で、あるいは家族の介助によって医療機関への移動が可能な方
  • 特定の専門分野の医師による診察や精密検査を希望する方
  • 比較的症状が安定しており、定期的な通院で健康管理を行いたい方
  • 急な体調不良や怪我で、迅速な診断と処置を必要とする方(救急外来など)

風邪やインフルエンザといった急性疾患から、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の定期管理、専門的な検査や治療まで、幅広い医療ニーズに対応できるのが外来診療の強みと言えるでしょう。

外来診療の一般的な流れ

段階内容備考
受付保険証を提示し、問診票に記入します。予約の有無により待ち時間が変動します。
診察医師が症状を伺い、必要な診察や検査を行います。検査結果によっては後日再診となることもあります。
会計・処方診療費を支払い、薬が必要な場合は処方箋を受け取ります。院外処方の場合は調剤薬局で薬を受け取ります。

訪問診療の定義と往診との違い

訪問診療とは、通院が困難な患者さんのご自宅や入居施設などに医師が定期的に訪問し、計画的な医学管理や診療を行う医療サービスです。

単に病気の治療だけでなく、患者さんの生活の質(QOL)を維持・向上させることを目指し、療養上の相談や指導も行います。

ここで、「往診」との違いを明確にしておくことが大切です。往診は、患者さんの急な体調変化に対応するため、医師がその都度要請に応じて不定期に訪問するものです。

一方、訪問診療は、あらかじめ診療計画を立て、週に1回、月に2回など定期的に訪問する点が異なります。もちろん、訪問診療を受けている患者さんが急に具合が悪くなった場合には、往診による対応も行います。

訪問診療は、患者さんが住み慣れた環境で安心して医療を受けられる点が大きなメリットです。

特に、高齢で複数の慢性疾患を抱えている方、寝たきりの方、認知症の方、終末期医療を希望される方などにとって、心身の負担を軽減しながら継続的な医療を受けるための重要な選択肢となります。

訪問診療と往診の比較

項目訪問診療往診
訪問のタイミング定期的・計画的患者の要請に応じ不定期
主な目的計画的な医学管理、療養支援急変時の対応、応急処置
対象者通院困難で継続的な医療が必要な方急な体調不良で一時的に通院できない方

医療提供体制の比較

外来診療と訪問診療では、医療を提供する体制にも違いがあります。外来診療は、病院やクリニックといった固定された施設が拠点となり、そこに患者さんが訪れることで医療が提供されます。

医療設備や人員が集中しているため、専門性の高い医療や集中的な治療が可能です。

一方、訪問診療は、医師や看護師などが患者さんのもとへ出向く「アウトリーチ型」の医療です。持ち運び可能な医療機器や薬剤を用いて、患者さんの生活空間で医療を提供します。

このため、病院と同等の高度な検査や治療には限界がありますが、患者さんの日常生活に寄り添った、きめ細やかなケアが可能です。

訪問診療を行うクリニックは、地域の病院や薬局、訪問看護ステーション、ケアマネジャーなど多職種と連携し、チームで患者さんを支える体制を構築しています。

費用負担の違いと保険適用

外来診療と訪問診療では、費用負担の仕組みや保険適用の範囲にも違いがあります。どちらの診療形態も、基本的には健康保険(医療保険)が適用されます。自己負担割合は、年齢や所得に応じて1割から3割となります。

外来診療の場合、主な費用は診察料、検査料、投薬料、処置料などです。これらに加えて、初診料や再診料がかかります。

訪問診療の場合、定期的な訪問に対する「在宅患者訪問診療料」が基本となります。これに加えて、行った検査や処置、薬剤の費用、管理指導料などが加算されます。

また、緊急時の往診や看取りなど、状況に応じた費用も発生します。訪問診療では、医師が訪問するための交通費は原則として請求できませんが、一部例外的に実費負担を求める医療機関もありますので、事前に確認が必要です。

介護保険を利用している方は、訪問診療と関連して「居宅療養管理指導」というサービスを受けることができます。これは、医師や歯科医師、薬剤師などが家庭を訪問し、療養上の管理や指導を行った場合に算定されるもので、介護保険から給付されます。

費用については、患者さんの状態や受ける医療内容によって大きく異なるため、具体的な金額は医療機関に直接問い合わせるのが確実です。

主な費用の比較(保険適用後自己負担の目安)

費用項目外来診療訪問診療
基本診療料初診料・再診料在宅患者訪問診療料
検査・処置料内容に応じて変動内容に応じて変動(一部制限あり)
薬剤料処方内容に応じて変動処方内容に応じて変動
その他特定疾患指導管理料など在宅時医学総合管理料、居宅療養管理指導(介護保険)など

上記はあくまで一般的な目安です。詳細な費用については、必ず医療機関にご確認ください。

患者状態別の医療選択基準

患者さんの状態や生活環境は一人ひとり異なります。そのため、外来診療と訪問診療のどちらが適切かは、個別の状況を総合的に判断して決める必要があります。

ここでは、いくつかの具体的な状態を例に挙げ、医療選択の基準について解説します。

通院困難な状態の判断指標

「通院困難」とは、どのような状態を指すのでしょうか。一概に定義することは難しいですが、一般的には以下のような状況が考えられます。

  • 寝たきり、またはそれに近い状態で、自力での移動が著しく難しい。
  • 認知症の症状が進行し、一人での外出や医療機関での意思疎通が難しい。
  • 重度の身体障害があり、介助があっても外出に大きな負担が伴う。
  • 酸素療法や人工呼吸器など、医療機器を常時使用しており、移動が困難。
  • 終末期で、体力の低下が著しく、外出が極めて困難。

これらの状態にある方は、無理に通院を続けるよりも、訪問診療を選択することで、身体的・精神的な負担を軽減し、住み慣れた環境で質の高い医療を受けることが可能になります。

医師やケアマネジャーと相談し、患者さんにとって最も負担の少ない方法を選択することが大切です。

通院困難度チェックのポイント

チェック項目具体的な状況例
移動能力歩行困難、車椅子での移動も介助が必要、寝たきり
認知機能場所や時間が分からない、意思疎通が難しい、徘徊がある
医療機器への依存在宅酸素療法、人工呼吸器、経管栄養などを常時使用
全身状態著しい体力低下、重度の疼痛、頻回の医療処置が必要

慢性疾患管理における選択基準

高血圧、糖尿病、心臓病、呼吸器疾患などの慢性疾患をお持ちの方は、長期にわたる継続的な医学管理が必要です。症状が安定しており、ご自身で通院が可能であれば、定期的な外来受診で経過観察や治療調整を行うのが一般的です。

専門医による診察や、必要に応じた検査を受けることで、病状の変化を早期に捉え、合併症の予防にもつながります。

しかし、慢性疾患が進行したり、複数の疾患を合併したりすることで、徐々に通院が難しくなるケースも少なくありません。また、加齢に伴う体力低下や認知機能の低下も、通院の負担を増大させる要因となります。

このような場合、訪問診療への移行を検討するタイミングかもしれません。訪問診療では、医師が定期的にご自宅を訪問し、血圧測定や血糖測定、お薬の管理、生活指導などを行います。

患者さんの生活リズムや環境に合わせたきめ細やかなケアを提供することで、病状の安定化とQOLの維持を目指します。

特に、服薬管理が難しい方、食事療法や運動療法の実践に支援が必要な方、頻繁な体調変化がある方などにとっては、訪問診療が有効な選択肢となるでしょう。

急性期から慢性期への移行タイミング

病気や怪我の治療は、一般的に「急性期」「回復期」「慢性期(維持期)」という段階を経て進みます。急性期は、病気の発症直後や症状が不安定な時期で、集中的な治療や検査が必要です。

この時期は、入院治療や頻繁な外来受診が中心となります。

症状が安定し、集中的な治療の必要性が低下すると、回復期を経て慢性期へと移行します。慢性期では、病状の再発予防や後遺症の管理、QOLの維持が主な目標となります。

この移行のタイミングで、それまでの医療提供体制を見直し、患者さんの状態や生活環境に合わせた形へと調整することが重要です。

例えば、脳卒中を発症し急性期病院で治療を受けた後、リハビリテーション病院での回復期を経て自宅退院する場合、退院後の医療をどうするか検討する必要があります。

後遺症の程度や通院能力によっては、外来リハビリテーションを継続する、あるいは訪問リハビリテーションや訪問診療を導入するといった選択肢が考えられます。

医師やソーシャルワーカー、ケアマネジャーなどと十分に話し合い、患者さんとご家族の意向を踏まえながら、最適な医療の形を選択していくことが求められます。

疾患・症状別の適切な医療選択

特定の疾患や症状によっては、外来診療よりも訪問診療の方がより適切なケアを提供できる場合があります。ここでは、いくつかの代表的なケースについて解説します。

末期がん患者の緩和ケア選択

末期がんの患者さんにとって、痛みや苦痛を和らげ、残された時間を穏やかに過ごすための緩和ケアは非常に重要です。緩和ケアは、病院の緩和ケア病棟だけでなく、ご自宅でも受けることができます。

住み慣れた家で、家族に囲まれて過ごしたいと希望される患者さんやご家族にとって、訪問診療による在宅緩和ケアは有力な選択肢です。

訪問診療では、医師や訪問看護師が定期的に訪問し、痛みのコントロール(医療用麻薬の使用を含む)、吐き気や倦怠感などの症状緩和、精神的なケアなどを行います。

24時間体制で緊急往診に対応する医療機関もあり、急な体調変化にも迅速に対応できます。また、地域の訪問看護ステーションやヘルパーステーション、ケアマネジャーなどと連携し、療養生活全体をサポートする体制を整えます。

ご自宅での療養が難しい場合や、専門的なケアが必要な場合には、緩和ケア病棟への入院も検討します。患者さんとご家族の意思を尊重し、最も安楽に過ごせる場所と方法を選択することが大切です。

在宅緩和ケアの主な内容

ケアの種類具体的な内容例
疼痛管理医療用麻薬の調整、神経ブロック注射(可能な場合)
症状緩和吐き気止め、便秘・下痢対策、呼吸困難感の緩和
精神的ケア不安や抑うつの傾聴、家族へのサポート
療養環境整備福祉用具の導入相談、介護サービスとの連携

認知症患者の医療継続方法

認知症の患者さんは、症状の進行に伴い、環境の変化への適応が難しくなったり、医療機関でのコミュニケーションが困難になったりすることがあります。

通院自体が大きなストレスとなり、症状の悪化を招くことも少なくありません。

このような場合、訪問診療は有効な医療継続の手段となります。医師が患者さんの生活空間であるご自宅に訪問することで、患者さんはリラックスした状態で診察を受けることができます。

また、普段の生活の様子を医師が直接把握できるため、より実情に即したアドバイスや治療計画の立案が可能です。

訪問診療では、認知症の薬物療法だけでなく、BPSD(行動・心理症状:徘徊、暴力、不安など)への対応、ご家族への介護指導や精神的サポートも行います。

ケアマネジャーや地域包括支援センターと連携し、介護サービスの調整や社会資源の活用についても支援します。患者さんが安心して在宅生活を続けられるよう、多職種でサポート体制を築くことが重要です。

褥瘡治療における在宅管理

褥瘡(じょくそう)、いわゆる床ずれは、寝たきりの方や長時間同じ体勢で過ごす方に発生しやすい皮膚のトラブルです。

一度発生すると治癒に時間がかかり、悪化すると感染症を引き起こす可能性もあるため、早期発見と適切な処置、そして予防が重要です。

通院が困難な患者さんの褥瘡治療において、訪問診療は大きな役割を果たします。医師や訪問看護師が定期的に訪問し、褥瘡の状態を評価し、必要な処置(洗浄、薬剤塗布、ドレッシング材の交換など)を行います。

また、体圧分散マットレスの導入や体位交換の方法など、褥瘡の予防や悪化防止のための具体的な指導も行います。

栄養状態の改善も褥瘡治療には欠かせません。訪問診療では、必要に応じて栄養士と連携し、食事内容のアドバイスや栄養補助食品の提案なども行います。

多角的なアプローチで、褥瘡の治癒と再発予防を目指します。

神経難病・慢性疾患の長期管理

パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病や、重度の心不全、呼吸不全といった慢性疾患を抱える患者さんは、病状の進行に伴い、徐々に日常生活動作(ADL)が低下し、通院が困難になることがあります。

これらの疾患は、長期にわたる専門的な医学管理と、症状に応じたきめ細やかなケアが必要です。

訪問診療では、神経内科医や呼吸器内科医など、専門医と連携を取りながら、患者さんの状態に合わせた医療を提供します。

例えば、パーキンソン病の患者さんには、薬物療法の調整やリハビリテーションの指導、ALSの患者さんには、呼吸管理やコミュニケーション支援、栄養管理などを行います。

また、これらの疾患は、患者さんだけでなくご家族の介護負担も大きくなる傾向があります。

訪問診療チームは、介護者の精神的サポートやレスパイトケア(一時的な休息支援)の提案など、家族支援にも力を入れています。

患者さんとご家族が、病気と向き合いながらも、できる限り質の高い生活を送れるよう支援することが、訪問診療の重要な役割です。

高齢者の複数疾患管理

高齢になると、複数の慢性疾患(ポリファーマシーと呼ばれることもあります)を同時に抱える方が増えてきます。例えば、高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗しょう症、変形性膝関節症など、内科的な疾患と整形外科的な疾患を併せ持つケースも珍しくありません。

複数の医療機関、複数の診療科を受診していると、薬の種類が増えすぎてしまったり(多剤併用)、それぞれの医師が他の疾患や処方薬を十分に把握できないまま治療を進めてしまったりするリスクがあります。

この結果、薬の副作用が出やすくなったり、治療効果が十分に得られなかったりすることもあります。

訪問診療では、一人の医師が患者さんの全体像を把握し、総合的な医学管理を行う「かかりつけ医」としての役割を担います。服用している薬を一元的に管理し、不要な薬を減らしたり、重複投与を防いだりします。

また、各専門医と連携を取りながら、それぞれの疾患に対する治療方針を調整し、患者さんにとって最もバランスの取れた医療を提供することを目指します。

特に通院が困難になってきた高齢者にとって、訪問診療は、多角的な視点から健康状態を管理し、安全で効果的な医療を継続するための重要な手段となります。

複数疾患を持つ高齢者への訪問診療のポイント

  • 全体的な健康状態の把握と総合的な医学管理
  • 多剤併用の整理と適切な薬物療法
  • 各専門医との連携と情報共有
  • 生活機能の維持・向上を目指したケア

訪問診療導入のメリットとデメリット

訪問診療を検討する際には、そのメリットとデメリットを十分に理解しておくことが大切です。患者さんやご家族の状況と照らし合わせ、総合的に判断しましょう。

患者・家族にとってのメリット

訪問診療には、患者さんとご家族にとって多くのメリットがあります。

まず最大のメリットは、住み慣れた自宅で医療を受けられることです。病院への移動や待ち時間といった身体的・時間的負担が軽減され、精神的な安心感にもつながります。

特に、環境の変化に敏感な方や、体力が低下している方にとっては大きな利点です。

また、医師が定期的に訪問することで、日々の細かな体調変化にも気づきやすく、早期対応が可能になります。

患者さんの生活空間で診察を行うため、普段の生活習慣や療養環境を直接把握でき、より個別性の高い、きめ細やかなアドバイスや指導が期待できます。

ご家族にとっては、通院介助の負担軽減が大きなメリットです。また、医師や看護師と直接話す機会が増えるため、病状や治療方針についての理解が深まり、介護に関する不安や疑問も相談しやすくなります。

24時間対応の体制を整えているクリニックであれば、夜間や休日の急変時にも相談・対応してもらえる安心感があります。

訪問診療の主な利点

対象者メリット
患者さん通院負担の軽減、安心感、個別性の高いケア、急変時対応
ご家族介護負担の軽減、医療者との連携強化、相談のしやすさ

医療の質と安全性の確保

訪問診療においても、医療の質と安全性を確保するための様々な取り組みが行われています。

多くの訪問診療クリニックでは、定期的なカンファレンス(症例検討会)を開き、医師、看護師、その他の医療スタッフ間で情報を共有し、治療方針やケアプランについて検討しています。

また、地域の基幹病院や専門医との連携体制を構築し、必要に応じて患者さんを紹介したり、専門的なアドバイスを受けたりしています。電子カルテシステムを導入し、診療情報を正確かつ迅速に共有することで、医療の継続性や安全性を高めている医療機関も増えています。

ただし、訪問診療で提供できる医療には限界もあります。病院のように高度な検査機器や手術設備が整っているわけではないため、対応できる検査や治療は限られます。

緊急時には、連携先の病院へ迅速に搬送・紹介できる体制が整っているかどうかも、医療の質と安全性を考える上で重要なポイントです。

導入時の課題と対処法

訪問診療を導入する際には、いくつかの課題が生じることもあります。

例えば、患者さんやご家族が「自宅でどこまで医療が受けられるのか不安」「費用がどのくらいかかるのか心配」といった疑問や不安を抱くことがあります。

これらの課題に対処するためには、まず医療機関のスタッフ(医師、看護師、ソーシャルワーカーなど)と十分に話し合い、訪問診療で提供できるサービス内容、費用、緊急時の対応などについて、具体的な説明を受けることが重要です。

疑問点や不安な点は遠慮なく質問し、納得のいくまで説明を求めましょう。

また、訪問診療は医師や看護師がご自宅に立ち入るため、プライバシーへの配慮も必要です。事前に、診療を行う場所や時間帯、家族の同席の有無などについて、希望を伝えておくと良いでしょう。

介護保険サービス(訪問看護、訪問介護、デイサービスなど)を利用している場合は、ケアマネジャーを中心に、訪問診療チームと介護サービス事業者が情報を共有し、連携を密に取ることで、よりスムーズな在宅療養が可能になります。

医療連携体制の構築

質の高い訪問診療を提供するためには、地域の様々な医療・介護資源との連携が不可欠です。

訪問診療クリニックは、地域の病院(急性期病院、回復期リハビリテーション病院、療養型病院など)、他の診療所、訪問看護ステーション、調剤薬局、ケアマネジャー(居宅介護支援事業所)、地域包括支援センターなどと緊密な連携体制を構築しています。

この連携により、例えば以下のようなことが可能になります。

  • 患者さんの病状が急変し、入院が必要になった場合に、連携先の病院へスムーズに紹介する。
  • 退院後の在宅療養への移行を円滑に進めるため、入院中から病院のスタッフと情報交換を行う。
  • 訪問看護師やケアマネジャーと定期的にカンファレンスを開き、患者さんの情報を共有し、ケアプランを共同で作成・見直しする。
  • 専門的な検査や治療が必要な場合に、地域の専門医を紹介する。

患者さんやご家族が安心して在宅療養を送るためには、こうした多職種によるチームアプローチが非常に重要です。

外来から訪問診療への移行プロセス

これまで外来診療を受けていた方が、訪問診療へ移行する際には、いくつかの段階と注意点があります。スムーズな移行のためには、適切なタイミングで、関係者とよく相談しながら進めることが大切です。

移行タイミングの判断基準

外来診療から訪問診療への移行を検討するタイミングは、一律に決まっているわけではありません。

患者さんの病状、身体機能、認知機能、介護状況、そしてご本人やご家族の意向などを総合的に考慮して判断します。

一般的には、以下のような状況が見られるようになったら、移行を検討し始める時期かもしれません。

  • 通院が肉体的・精神的に大きな負担になってきた(例:通院後に数日間寝込む、外出を極端に嫌がる)。
  • 介助者の負担が増大し、通院介助が困難になってきた。
  • 病状が進行し、自宅での医療的管理の必要性が高まってきた(例:頻繁な医療処置が必要、在宅酸素療法を開始した)。
  • 認知症の症状が進行し、外来での診察や指示の理解が難しくなってきた。
  • 終末期を迎え、住み慣れた自宅で過ごしたいという希望がある。

これらのサインが見られたら、まずはかかりつけの医師や看護師、ケアマネジャーに相談してみましょう。

移行検討のサイン

観点具体的なサインの例
患者さんの状態通院による疲労困憊、外出拒否、医療依存度の高まり
介護者の状況介助負担の増大、介護疲れ、仕事との両立困難
医療ニーズ頻回な医療処置、在宅での専門的管理の必要性
患者・家族の意向在宅療養への希望、終末期の過ごし方に関する希望

紹介・連携の手順と流れ

訪問診療への移行を決めた場合、一般的には以下のような手順で進められます。

1. 相談と情報収集:まず、現在かかっている外来の医師や、入院中であれば病院のソーシャルワーカー、または担当のケアマネジャーに、訪問診療を希望する旨を伝えます。地域の訪問診療クリニックに関する情報を提供してもらったり、紹介状(診療情報提供書)の作成を依頼したりします。

2. 訪問診療クリニックの選択と契約:紹介されたクリニックや、ご自身で探したクリニックに連絡を取り、面談(初回相談)の日程を調整します。面談では、医師や相談員から訪問診療の具体的な内容、費用、緊急時の対応などについて説明を受けます。内容に納得できれば、契約手続きを行います。

3. 初回訪問と診療計画の作成:契約後、医師や看護師がご自宅を訪問し、患者さんの状態を詳しく診察します。これまでの病歴や現在の症状、生活状況、ご本人やご家族の希望などを伺い、今後の診療計画(訪問頻度、検査内容、治療方針など)を作成します。

4. 定期訪問の開始:診療計画に基づき、定期的な訪問診療が開始されます。必要に応じて、訪問看護ステーションや薬局、ケアマネジャーなどとも連携を取りながら、在宅療養をサポートします。

この移行に際して、診療情報提供書は非常に重要な役割を果たします。これまでの治療経過や検査結果、現在の処方内容などが記載されており、訪問診療医が患者さんの状態を正確に把握し、スムーズに診療を引き継ぐために必要です。

移行時の注意点と準備事項

外来診療から訪問診療へスムーズに移行するためには、いくつかの注意点と準備しておくべき事項があります。

まず、患者さんご本人とご家族が、訪問診療について十分に理解し、納得していることが大切です。不安や疑問点は事前に解消しておきましょう。

特に、緊急時の連絡体制や対応方法については、しっかりと確認しておく必要があります。

ご自宅の療養環境についても、医師や看護師の訪問を想定して、ある程度整えておくと良いでしょう。例えば、診察を行うスペースの確保、医療機器(酸素濃縮器など)を設置する場所、薬剤の保管場所などを考えておきます。

ただし、大掛かりな準備は必ずしも必要ではなく、訪問診療チームと相談しながら徐々に整えていくことも可能です。

お薬手帳や健康保険証、介護保険証、各種医療受給者証などは、すぐに提示できるようにまとめておきましょう。これまでの検査結果や退院時サマリーなどがあれば、それらも準備しておくと、診療の助けになります。

そして最も重要なのは、訪問診療チームとの信頼関係を築くことです。遠慮なく希望や不安を伝え、コミュニケーションを密に取ることで、より良い在宅療養が実現します。

よくある質問

ここでは、外来受診と訪問診療の選択に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

訪問診療はどのような人が利用できますか?

訪問診療は、病気や障害、高齢などにより、お一人で、またはご家族の介助があっても医療機関への通院が困難な方が主な対象となります。

例えば、寝たきりの方、重度の認知症の方、在宅で医療機器(酸素、人工呼吸器など)を使用している方、終末期でご自宅での療養を希望される方などが利用されています。

年齢制限はありません。利用可能かどうかは、まずかかりつけ医やケアマネジャー、または直接訪問診療クリニックにご相談ください。

訪問診療ではどのような医療行為が受けられますか?

訪問診療では、医師による診察、血圧測定や体温測定などのバイタルチェック、お薬の処方・管理、採血や尿検査などの各種検査(可能な範囲)、点滴、注射、褥瘡の処置、在宅酸素療法の管理、経管栄養や中心静脈栄養の管理、痛みのコントロール(緩和ケア)、療養上の相談・指導など、多岐にわたる医療行為を受けることができます。

ただし、病院のような高度な検査機器や手術設備はないため、対応できる範囲には限りがあります。

具体的な内容は、患者さんの状態やクリニックの方針によって異なりますので、事前に確認することが大切です。

訪問診療で可能な医療行為の例

分類具体例
診察・相談定期的な健康状態の確認、療養相談、家族支援
検査血液検査、尿検査、心電図検査、超音波検査(ポータブル)
処置・管理点滴、注射、褥瘡処置、カテーテル管理、在宅酸素管理、緩和ケア
訪問診療の費用はどのくらいかかりますか?

訪問診療の費用は、医療保険(健康保険)が適用されます。自己負担割合は年齢や所得に応じて1割~3割です。具体的な費用は、月々の訪問回数、行った検査や処置の内容、管理料の種類などによって変動します。

一般的に、月2回の訪問で基本的な管理を行った場合、1割負担の方で月額数千円から1万円程度が目安となることが多いですが、状態や医療内容によってはこれを超えることもあります。

また、介護保険を利用している場合は、居宅療養管理指導費が別途かかることがあります。

詳細な費用については、利用を検討している訪問診療クリニックに必ずお問い合わせください。見積もりを出してもらうことも可能です。

緊急時には対応してもらえますか?

多くの訪問診療クリニックでは、24時間365日体制で緊急時の連絡・対応を行っています。

定期訪問の患者さんが急に体調を崩された場合には、まずお電話で状況を伺い、必要に応じて臨時往診を行ったり、救急搬送の手配をしたりします。

緊急時の連絡先や対応の流れについては、訪問診療を開始する際に詳しく説明がありますので、必ず確認しておきましょう。

ただし、クリニックによっては夜間や休日の対応体制が異なる場合もあるため、事前に確認することが重要です。

訪問診療と訪問看護はどう違うのですか?

訪問診療は医師が主体となって行い、診断や治療方針の決定、薬の処方など、医学的な判断が中心となります。

一方、訪問看護は看護師が主体となり、医師の指示に基づいて、療養上のお世話(清拭、入浴介助など)、医療処置(点滴、褥瘡ケア、カテーテル管理など)、ご家族への介護指導、精神的なサポートなどを行います。

訪問診療と訪問看護は、それぞれ役割が異なりますが、在宅療養を支える上で非常に重要な連携関係にあります。多くの場合、訪問診療を受けている患者さんは、訪問看護も併せて利用し、医師と看護師がチームとなってケアにあたります。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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