訪問看護指示書とは何か|在宅診療医が発行する書類の期限

訪問看護指示書とは何か|在宅診療医が発行する書類の期限

在宅での療養生活を支える訪問看護サービスを利用するためには、主治医が発行する「訪問看護指示書」の交付を受ける必要があります。

この書類は単なる手続き上の形式的な紙切れではなく、自宅という医療設備が限られた環境において、看護師が安全かつ適切な医療処置を行うための法的な根拠となる重要な文書です。

有効期限は原則として最長6ヶ月と定められていますが、病状が不安定な時期に発行される特別訪問看護指示書など、種類によって期間やルールが大きく異なります。

本記事では、この書類の役割や入手方法、費用、そして家族が最も注意すべき期限管理について、専門的な視点から網羅的に解説します。

目次

訪問看護指示書の基礎知識と役割

訪問看護指示書は、医師が訪問看護師に対して、患者の自宅で行うべき医療処置やケアの内容を具体的に指示する命令書としての性質を持ちます。

日本の医療法規において、看護師は診療の補助を行う専門職であり、医師の指示なしに独自の判断で医療行為を行うことは禁じられています。

したがって、この書類が存在しない限り、たとえ熟練した看護師であっても訪問看護サービスを提供することはできません。

在宅医療の現場において、この指示書は医師の手が届かない場所で医療の質を担保する「命綱」とも言える役割を果たしています。

在宅医療における位置づけ

在宅医療の現場では、病院とは異なり医師が常にそばにいるわけではありません。日常的なケアを担うのは訪問看護師ですが、医学的な管理責任は主治医が負っています。

訪問看護指示書は、物理的に離れた場所にいる医師と看護師をつなぎ、患者に対して一貫した治療方針を提供する基盤となります。

この書類には、患者の現在の病名や病状だけでなく、服用している薬剤の種類、褥瘡(床ずれ)の処置方法、点滴の管理、あるいは緊急時にどこまで救命処置を行うかといった詳細な取り決めが記載されます。

看護師はこの記載内容を厳守してケアにあたるため、指示書の内容が具体的であればあるほど、患者は安心して質の高いサービスを受けることができます。

医師と看護師をつなぐ共通言語

職種主な役割指示書との関わり
主治医治療方針の決定指示書を作成・発行し、医療的な責任を負う
訪問看護師日常のケア・処置指示書に基づき看護を実施し、医師へ報告する
ケアマネジャーサービスの調整指示書の有無を確認し、プランに組み込む

医師と看護師の連携ツール

この書類は一方的な命令書ではなく、医師と看護師の間で情報を共有し、連携を強化するためのツールとしても機能します。

訪問看護師は日々のケアの中で患者の状態変化を敏感に察知し、それを医師に報告します。医師はその報告を受けて治療方針を修正し、必要であれば指示書の内容を書き換えます。

例えば、病状が悪化した際には点滴の指示を追加したり、リハビリの内容を変更したりします。

このように、指示書を介して情報のキャッチボールが行われることで、在宅という特殊な環境でも病院に近い水準の医療管理が可能になります。

紙媒体でのやり取りが基本ですが、記載内容は常に更新され続ける動的な情報であると理解することが重要です。

交付が必要になるタイミング

訪問看護指示書の交付が必要になるのは、新たに訪問看護サービスを導入する際だけではありません。

すでにサービスを利用している場合でも、いくつかの局面で再度の交付や内容の変更が必要になります。最も一般的なのは、書類に記載された有効期限が切れるタイミングです。

期限切れの状態でサービスを提供することは法令違反となるため、継続して利用する場合は必ず更新手続きを行います。

また、患者の病状が大きく変化した場合や、入院治療を経て退院し、再び在宅療養に戻る際にも新たな指示書が必要です。

特に退院時は、入院前とは身体状況や必要な医療処置が変わっていることが多いため、退院直後の状態に合わせた新しい指示書を病院の主治医や在宅医に作成してもらいます。

指示書の種類とそれぞれの特徴

訪問看護指示書には大きく分けて3つの種類が存在し、患者の病状や緊急度に応じて使い分けます。

最も基本となるのが「訪問看護指示書」であり、慢性期の安定した状態にある患者に対して発行されます。

これに対し、病状が急激に悪化した際や終末期に対応するための「特別訪問看護指示書」、そして自宅での点滴治療に特化した「在宅患者訪問点滴注射指示書」があります。

これらは単に名称が異なるだけでなく、利用できる介護保険や医療保険の適用ルール、さらには訪問看護師が訪問できる回数や時間制限にも直接影響を与えるため、違いを正しく理解しておくことが大切です。

一般的な訪問看護指示書

通常、私たちが「指示書」と呼ぶ場合、この一般的な訪問看護指示書を指します。病状が比較的安定しており、定期的な健康観察やリハビリ、服薬管理などを目的とする場合に用いられます。

この指示書に基づいて訪問看護を行う場合、原則として介護保険が優先して適用されます(要介護認定を受けている場合)。

介護保険を利用する場合の訪問回数は、ケアプラン(居宅サービス計画)に基づいて決定され、区分支給限度基準額の範囲内で調整します。

多くの利用者はこのタイプの指示書で長期的な療養生活を維持しており、更新頻度も後述するように比較的長期間に設定されることが一般的です。

特別訪問看護指示書の要件

特別訪問看護指示書は、通常時は介護保険を利用している患者であっても、一時的に医療保険での訪問看護に切り替える効力を持つ強力な書類です。

これが発行されるのは、肺炎や心不全の増悪などで病状が急変した「急性増悪期」、または人生の最期を自宅で迎える「終末期」、退院直後の集中的なケアが必要な時期などに限定されます。

この指示書が発行されている期間中は、介護保険の支給限度額とは無関係に、毎日かつ1日に複数回の訪問看護を受けることが可能になります。

これは在宅で重篤な状態を管理するために特別に設けられた制度であり、医師が必要と認めた場合に限り発行されます。

特別訪問看護指示書が発行される主なケース

  • 肺炎や尿路感染症などで高熱が出て状態が悪化した場合
  • 最期の時を自宅で過ごすためのターミナルケア期間
  • 褥瘡(床ずれ)が悪化し、毎日の処置が必要な真皮を超える状態
  • 気管カニューレを使用している状態で状態が不安定な場合

在宅患者訪問点滴注射指示書

週3日以上の点滴治療が必要と医師が判断した場合に、通常の指示書とは別に、あるいは併記する形で発行されるのが在宅患者訪問点滴注射指示書です。

この指示書は、在宅での点滴実施に特化した内容となっており、投与する薬剤の種類、量、滴下速度、ルート確保の方法などが詳細に記されます。

この書類が発行されることで、特別訪問看護指示書と同様に、週3日以上の点滴が必要な期間に関しては医療保険での対応が可能になる場合があります。

脱水症状の改善や、口からの食事摂取が困難になった場合の栄養補給など、医療的な介入度が高いケースで活用されます。

発行から利用開始までの流れ

訪問看護指示書を入手し、実際にサービスを開始するまでには、利用者や家族、ケアマネジャー、医師、訪問看護ステーションの間で綿密な調整を行います。

この書類は患者本人が直接作成できるものではなく、医師に依頼して医療機関から訪問看護ステーションへ直接、あるいは患者経由で送付されるものです。

スムーズにサービスを開始するためには、誰がどのタイミングで医師に依頼するのかを明確にしておくことが重要です。

待っているだけで自動的に発行される書類ではないため、関係各所への働きかけを能動的に行う意識を持ちましょう。

主治医への依頼方法

最初のアクションは主治医への相談から始まります。すでにかかりつけの在宅医がいる場合は、定期訪問の際に訪問看護を利用したい旨を伝えます。

これから在宅医療を始める場合や、病院の主治医に依頼する場合は、外来受診時や退院調整会議の場を活用して依頼します。

医師は患者の病状や在宅での生活環境を考慮し、訪問看護の必要性を医学的に判断します。

この際、どこの訪問看護ステーションを利用するか決まっている場合は、そのステーションの名称や連絡先を医師に伝えることで、書類の送付や連携がスムーズに進みます。

訪問看護ステーションとの契約

指示書の発行依頼と並行して、実際にサービスを提供する訪問看護ステーションを選定し、利用契約を結びます。

訪問看護ステーションは、医師から届いた(あるいは利用者が持参した)訪問看護指示書の内容を確認し、その指示に基づいて具体的な看護計画書を作成します。

契約の際には、緊急時の連絡体制や利用料金、キャンセル規定などの重要事項説明を受けます。

指示書はあくまで「医師からの命令」であり、実際のサービス提供に関する細かな取り決めは、ステーションとの契約によって確定します。

ステーション側も指示書が手元に届かないと正式なサービス開始ができないため、医師への依頼状況をステーションと共有しておくことが大切です。

ケアマネジャーの関与

介護保険を利用する場合は、ケアマネジャーの役割が非常に重要です。ケアマネジャーは全体のケアプランを作成する司令塔であり、訪問看護をどの曜日、どの時間帯に組み込むかを調整します。

訪問看護指示書の発行依頼についても、家族に代わってケアマネジャーが医師や病院の地域連携室と連絡を取り合い、手配を進めてくれるケースが多くあります。

特に複数のサービスを併用している場合、訪問看護の導入が他のヘルパー利用やデイサービスに影響を与えることもあるため、ケアマネジャーを中心とした情報共有を行い、指示書の内容とケアプランに整合性が取れているかを確認します。

書類の有効期限と更新手続き

訪問看護指示書には明確な有効期限が設定されており、1日でも過ぎてしまうと訪問看護サービスを受けることができなくなります。

期限切れは、医療処置の空白期間を生み出し、患者の健康状態に直結する重大なリスクとなります。

そのため、家族や介護者は書類の有効期限を常に把握し、期限が迫る前に更新の手続きを済ませるよう管理します。

期間は指示書の種類によって法律で厳格に定められており、医師の裁量で無制限に延長することはできません。

原則的な有効期間のルール

一般的な訪問看護指示書の有効期間は、医師が記載した日から最長で6ヶ月間です。

ただし、これはあくまで「最長」であり、病状が不安定な場合や、医師がこまめな観察が必要だと判断した場合は、1ヶ月や3ヶ月といった短い期間で設定されることもあります。

記載された有効期間の最終日までに新しい指示書が発行されていなければなりません。

通常は、訪問看護ステーションやケアマネジャーが期限を管理しており、「そろそろ期限が切れるので受診時に依頼してください」とアナウンスしてくれることが多いですが、最終的な管理責任は利用者に及ぶこともあるため、自身でも把握しておくことが賢明です。

指示書ごとの有効期間の違い

指示書の種類有効期間備考
訪問看護指示書最長6ヶ月医師の判断で短縮可能
特別訪問看護指示書最長14日間月1回のみ発行可能(例外あり)
点滴注射指示書最長7日間指示書に期間を明記する

特別指示書の短い期限

注意が必要なのは、特別訪問看護指示書の期限です。この指示書は急性増悪などの緊急時に対応するための特例措置であるため、有効期間は原則として発行日から最長14日間に限定されています。

また、この特別指示書は原則として月に1回しか発行できません。

ただし、気管カニューレを使用している場合や真皮を超える褥瘡がある場合など、厚生労働大臣が定める特定の重篤な状態にある場合に限り、月に2回まで(最大28日間)発行することが認められています。

期限が非常に短いため、頻繁な医師との連携と、状況に応じた迅速な更新判断が求められます。

更新を忘れないための管理

更新手続きは、期限が切れる2週間から1ヶ月前には開始するのが理想的です。直前になって医師に依頼しても、診療の都合ですぐに書類作成ができない場合や、郵送に時間がかかる場合があるからです。

更新には必ず診察が必要となるのが原則です。長期間受診していない場合、医師は患者の現在の状態を把握できないため、指示書を書くことを拒否する正当な理由になります。

定期的な訪問診療を受けている場合は自動的に更新されることが多いですが、外来通院の場合は、受診予約と合わせて文書作成の依頼を計画的に行います。

費用と保険の取り扱い

訪問看護指示書の発行には費用が発生し、これには健康保険が適用されます。経済的な負担を理解しておくことは、長期的な在宅療養を継続する上で大切です。

費用は「誰が」「どのような保険で」負担するかによって変わりますが、基本的には医師の技術料としての文書料と考えます。

全額自己負担となる一般的な診断書とは異なり、訪問看護指示書は療養担当規則に基づく公的な書類として扱われるため、1割から3割の自己負担割合に応じた金額を医療機関の窓口で支払います。

介護保険と医療保険の区分

訪問看護指示書の作成費用(訪問看護指示料)は、患者が訪問看護自体を介護保険で利用していても、医療保険で利用していても、書類作成に関しては「医療保険」から請求されます。

つまり、介護保険の限度額を圧迫することはありません。この点は利用者にとってメリットと言えます。医療機関に対して支払うものであり、訪問看護ステーションに支払う利用料とは別物です。

後期高齢者医療制度の対象者であれば1割(現役並み所得者は3割)、それ以外の方は3割負担が基本となります。

利用者が負担する発行料

具体的な金額としては、診療報酬点数に基づいて計算されます。一般的な訪問看護指示料は300点と定められており、1点10円換算で3,000円です。

1割負担の方であれば300円、3割負担の方であれば900円が窓口での支払額となります。

特別訪問看護指示書を追加で発行する場合は100点(1,000円相当)が加算され、在宅患者訪問点滴注射指示書も同様に100点が加算されます。

これらは月ごとの算定となるため、毎月発行されれば毎月費用がかかりますが、6ヶ月有効の指示書であれば、発行された月のみ費用が発生します。

複数のステーションを利用する場合

病状が重く、24時間の見守りや頻繁なケアが必要な場合など、ひとつの訪問看護ステーションだけでは対応しきれず、複数のステーションを併用することがあります。

この場合、それぞれのステーションに対して個別に指示書を発行する必要があります。指示書は「○○訪問看護ステーション宛」と宛先を指定して作成されるものだからです。

したがって、2つのステーションを利用する場合は、2通分の指示書発行料が必要となり、費用負担も2倍になります。

ただし、複数のステーションを利用するには相応の医学的理由が必要であり、ケアマネジャーや医師との十分な相談を経て決定します。

記載される具体的な内容

訪問看護指示書には、看護師が安全にケアを行うために必要なあらゆる医学的情報が網羅されています。これは個人情報保護の観点からも厳重に扱われるべき文書です。

記載項目は厚生労働省によって様式が定められており、医師はそれに従って記入します。

家族も内容を確認することで、医師がどのような治療方針を立てているのか、日々のケアで何に注意すべきかを理解する手助けとなります。

病状と治療方針の明記

最も基本的な情報として、主病名(主な病気)と現在の病状、そして既往歴(過去にかかった病気)が記載されます。

さらに「日常生活自立度」として、どの程度自分で動けるか、認知症の度合いはどのくらいかという評価も記されます。

治療方針の欄には、医師が目指す療養のゴールや、現状維持を目指すのか、あるいは積極的な治療を行うのかといった方向性が示されます。

また、服用している薬剤の名前、用量、用法も詳細に記載され、看護師による服薬管理や副作用の観察における基準となります。

指示書に記載される主な項目例

  • 装着している医療機器(カテーテル、在宅酸素など)の設定
  • 処置の内容(インスリン注射、ストマケア、吸引など)
  • 褥瘡(床ずれ)の深さや大きさ、処置方法の指定
  • リハビリテーションに関する具体的な指示(時間、強度、禁止事項)

リハビリテーションの指示

訪問看護ステーションから理学療法士や作業療法士が訪問してリハビリを行う場合も、この訪問看護指示書に基づきます。

医師は指示書の中に「リハビリテーション」の項目を設け、1日あたりの実施時間や頻度、具体的な内容を指示します。

心臓病の患者であれば運動負荷の制限、骨折後の患者であれば関節可動域訓練の指示などが書かれます。

看護師によるケアだけでなく、リハビリ職種の介入にも医師の明確な指示が必要であり、勝手な判断でリハビリの内容を変更することはできません。

緊急時の対応連絡先

在宅療養で最も不安な急変時の対応についても記載があります。不在時の連絡先や、緊急搬送を行う場合の希望する病院名、救急車を呼ぶ基準などが明記されます。

特に終末期の患者の場合、心肺蘇生を行うかどうか(DNAR指示)についての医師と家族の合意事項が記載されることもあります。

この情報共有によって、いざという時に訪問看護師が迷うことなく、患者や家族の意思に沿った対応を迅速に取ることが可能になります。

指示書は平時のケア手順書であると同時に、緊急時の危機管理マニュアルとしての側面も持っています。

よくある質問

特別訪問看護指示書が出ている間は介護保険のサービスは使えなくなりますか?

いいえ、すべて使えなくなるわけではありません。特別訪問看護指示書が出ている期間中は、訪問看護に関しては医療保険の適用となり、介護保険の訪問看護は使えなくなります。

しかし、ヘルパー(訪問介護)やデイサービスなどの他の介護保険サービスについては、ケアプランの範囲内で通常通り利用を継続することができます。

入院中ですが退院に向けて訪問看護指示書を書いてもらうことはできますか?

はい、可能です。退院後の在宅生活をスムーズに開始するために、退院前に病院の主治医に依頼して作成してもらうことが一般的です。

退院調整の段階で看護師やソーシャルワーカーに相談しておくと、退院日に合わせてステーションに届くよう手配してくれます。

主治医が変わった場合、指示書はどうなりますか?

主治医が変更になった場合は、新しい主治医から改めて訪問看護指示書を発行してもらう必要があります。

前の医師の指示書は、新しい医師が診療を引き継いだ時点で効力を失うか、あるいは新しい医師の方針と異なる可能性があるためです。

速やかに新しい医師に依頼し、空白期間を作らないようにしましょう。

指示書の内容に家族の希望を反映してもらうことはできますか?

指示書は医学的な判断に基づく医師の命令書ですが、家族の介護力や生活スタイルを考慮して作成されます。

例えば訪問時間を調整したい、特定のリハビリを増やしたいなどの希望がある場合は、医師やケアマネジャーに相談することで、医学的に妥当な範囲で指示内容に反映されることは十分にあります。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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