訪問診療のオンコール体制の仕組み|夜間・休日の電話対応と当直医の役割

訪問診療のオンコール体制の仕組み|夜間・休日の電話対応と当直医の役割

訪問診療のオンコール体制は、自宅療養を続ける患者様とご家族を24時間体制で支える命の窓口です。

通常の診療時間が終了した夜間や休日であっても、専用の電話番号を通じて医療スタッフと常につながる状態を維持します。

体調の急変時に迷わず相談できる場があることは、在宅医療において何よりも大きな安心材料となります。

専門の看護師や当直医が状況を判断し、適切な助言や緊急往診を行うことで、不必要な救急搬送を防ぎます。

目次

訪問診療におけるオンコール体制の基本構造

オンコール体制の基本構造は、診療時間外でも医療スタッフが即座に動ける待機体制と、情報の共有基盤によって成り立っています。

この仕組みが機能することで、日中と変わらない質の医療を夜間でも提供できるようになります。

24時間対応を支える義務と体制の定義

在宅療養支援診療所としての認可を受けている施設には、24時間の連絡体制と往診体制を維持する法的役割があります。

これは、契約を結んでいる患者様に対して、いつでも健康上の不安に応じる姿勢を示すものです。

担当スタッフは専用の携帯電話を肌身離さず持ち、常に電波の届く場所で待機を続けます。

たとえ休日であっても、連絡が入れば即座にカルテを確認し、医療的判断を下す準備ができています。

オンコールに関わる役割の構成

役割名主な業務内容期待される効果
相談受付症状の聞き取りと緊急性の判断医師への適切な情報伝達
当直医師医学的指示と往診の要否決定迅速な処置と入院の判断
支援スタッフ往診車の運転や医療資材の準備医師の安全確保と移動短縮

診療所単独型と連携型の違い

体制の維持には、一つのクリニックが自前で全ての対応を行う単独型と、複数のクリニックが協力する連携型があります。

単独型は日頃の主治医が直接対応するため、患者様やご家族の安心感が非常に強いのが特徴です。

一方、連携型は地域の医療資源を共有し、交代で当番を担当して体制の継続性を高めています。

医師の過労を防ぎつつ、安定した24時間対応を提供するための合理的な手法として注目されています。

オンコール担当スタッフの待機場所

オンコールの担当者は、必ずしも診療所の中に留まっている必要はありません。多くの医師は自宅やクリニックの近辺で待機し、緊急時にはすぐに往診車を出せる環境を整えています。

タブレット端末などで電子カルテをどこからでも閲覧できる環境が、場所を選ばない迅速な判断を可能にしました。

こうして、病院の当直室にいなくても、患者様の最新の状態に合わせた指示を出せます。

夜間や休日における電話対応の具体的な流れ

夜間や休日の電話対応では、看護師やオペレーターが患者様の状況を正確に把握することから始まります。

一刻を争う事態か、翌朝の診療まで待てる内容かを見極めるトリアージが、対応の成否を分けることになります。

ファーストコールから医師への報告まで

ご家族が専用の連絡先に電話をかけると、まずは当番スタッフが応答します。「誰が」「いつから」「どんな症状か」という情報を、落ち着いて聞き取ることに全力を注ぎます。

例えば「熱がある」という報告に対し、食欲の有無や意識の状態、顔色の変化などを具体的に確認します。

こうして得られた情報は、直ちに待機中の医師へ共有され、次の行動が決定されます。

緊急往診が必要なケースの選別

全ての相談に対して往診を行うわけではなく、医師が医学的な見地から緊急性を判断します。呼吸困難や激しい痛み、意識が朦朧としているといった場合は、迷わず緊急往診を指示します。

反対に、電話での指示で十分に容態が安定すると判断されるケースも少なくありません。適切な薬剤の使用方法や、家庭でできる処置を伝え、患者様の負担を最小限に抑えます。

緊急度判定と対応の目安

緊急レベル判断される症状実施されるアクション
高(緊急)突然の意識消失・大量出血直ちに往診または救急要請
中(準緊急)制御できない痛み・高熱数時間以内の臨時訪問
低(非緊急)軽度の不眠・排便の相談電話指示と翌日の通常訪問

電話指示のみで対応する場合の流れ

電話での助言のみで様子を見る場合であっても、医療チームはそこで対応を終了させません。数時間後に再度状況を確認する電話を入れたり、翌朝一番で看護師が訪問したりする計画を立てます。

こうしたきめ細やかな追いかけの体制が、ご家族の抱く「見捨てられているのではないか」という不安を払拭します。

在宅医療への信頼は、こうした小さな安心の積み重ねによって築かれます。

当直医が担う役割と緊急往診の判断基準

当直医は、診療時間外に発生するあらゆる事態に対応する責任者として、現場での処置や入院調整を担います。

主治医から引き継がれた詳細なデータに基づき、その場で最適な医療的介入を決定する役割です。

診察から処置までの現場対応

緊急往診で駆けつけた医師は、まずバイタルサインをチェックし、全身状態を確認します。点滴や注射、酸素吸入などの応急処置を施し、苦痛を和らげることを最優先に動きます。

往診車には緊急用の医療機器や薬剤が常に積み込まれており、病院の外来に近いレベルの診療が可能です。患者様が住み慣れた布団の上で、安全に治療を受けられるよう最善を尽くします。

病院搬送の判断とネットワーク活用

在宅での管理が困難であると判断した場合には、迅速に入院の手配を行います。連携している二次救急病院などに対し、現在の病状とこれまでの経過を的確に伝えます。

救急車を呼ぶ必要があるか、介護タクシーで対応可能かといった搬送手段の指示も医師の重要な任務です。

地域の医療機関との強固なネットワークが、万が一の際のセーフティーネットとして機能します。

お看取りへの対応

在宅療養の最終段階にある患者様が、夜間に穏やかに息を引き取られるケースもあります。その際、当直医は現場に急行し、死亡確認と死亡診断書の発行を厳かに行います。

深い悲しみの中にいるご家族を支え、心のケアを行うのも、当直医が果たすべき大切な仕事です。

これまでの介護の苦労を労い、最期を支え切ったことを肯定する言葉かけを大切にしています。

往診時に医師が携行する主な物品

  • 心電計やパルスオキシメーターなどの測定器
  • 鎮痛剤や強心剤などの緊急用薬剤セット
  • 点滴用の資材および吸引器
  • 死亡診断書などの法的書類一式

複数のクリニックが協力する共同当直のメリット

共同当直体制は、地域の複数の医療機関が交代で夜間・休日の待機を担当する仕組みです。

一人の医師が抱える負担を分散させることで、結果として患者様に提供される医療の安定性が増します。

医師の健康維持と診療の質の向上

交代制を導入すると、医師はしっかりと休息を取り、日中の診療に集中できるようになります。疲弊した状態での判断ミスを防げ、地域全体の医療の質が底上げされます。

精神的、肉体的な余裕があるからこそ、一人ひとりの患者様に対して丁寧に向き合うことが可能となります。

持続可能な在宅医療を提供するためには、こうした医師側のケアも重要な要素です。

地域全体の受け入れ容量の拡大

一つのクリニックで対応できる患者様の数には限界がありますが、地域で連携すればその枠は広がります。

重症度の高い患者様や、看取りに近い方を、地域全体で受け入れる土壌が整います。

「いつでも診てもらえる」という安心感が地域に広がるため、在宅移行を希望する方が増える好循環を生みます。

地域包括ケアシステムの要として、共同当直の重要性は高まり続けています。

単独当直と共同当直の比較

比較項目単独当直体制共同当直体制
医師の負担度常に待機が必要で負担が非常に大きい当番制のため計画的な休息が可能
体制の継続性医師の体調不良時に機能不全となる恐れ他院がカバーするため極めて安定
情報の管理主治医の記憶に依存しやすいシステムを通じた客観的な情報共有

情報の共有とバックアップの安定化

共同当直を円滑に運用するために、各クリニックは患者情報の共有に力を入れています。

クラウド上の電子カルテを活用し、初めて診察する医師でも迷わず適切な処置ができる工夫をしています。

既往歴やアレルギー、ご家族の意向といった情報が瞬時に共有されるため、診察の精度が落ちることはありません。

この徹底した情報管理こそが、連携型オンコール体制の信頼の根拠となっています。

バックアップ体制の重要性と連携の仕組み

オンコール体制の真価は、メインの担当者が動けない緊急事態に備えたバックアップの厚みに現れます。複数の依頼が重なった際でも、対応が途切れないための二重の仕組みが必要です。

ダブル待機や副担当の設置

患者様の数が多い地域や、感染症の流行期には、複数の医師が同時に待機する体制をとります。一人が往診に出ている間に別の連絡が入っても、二番手の医師が直ちに対応を開始します。

こうした冗長性を確保することで、待ち時間による病状の悪化を未然に防げます。「予備の力」を常に持っておくことが、安全な在宅医療を支える土台となります。

訪問看護ステーションとの強力な連携

医師だけでなく、24時間対応の訪問看護ステーションとの連携も非常に大切です。まず看護師が現場に向かい、応急処置を行いながら医師に詳細な報告を上げる形が一般的です。

専門知識を持つ看護師の目が先に入ることで、不必要な出動を抑えつつ、必要な人には手厚く対応できます。

医師と看護師のプロフェッショナルな連携が、オンコールの密度をより濃いものにします。

リスク管理のための対策一覧

  • 主担当と副担当による多層待機システム
  • 看護師先行訪問による現場の安定化
  • GPSを活用した往診車の効率的な配車管理
  • 停電や災害時を想定した通信手段の確保

ICTツールによるリアルタイムの情報更新

日中の小さな変化が、夜間の急変を読み解く重要な手がかりになるケースは少なくありません。

ケアマネジャーやヘルパーが気づいた異変が、即座に当直医の端末に届く環境を整えています。

最新のデータに基づいた判断ができるため、不必要な検査や処置を省くことにもつながります。テクノロジーの活用が、アナログな安心感を支える強力な武器になっています。

患者家族がオンコールを利用する際の留意点

オンコール体制を最大限に活かすためには、ご家族側の事前の準備と、適切な利用の心得が必要です。

急変時に慌てず行動できるよう、日頃から連絡の流れをシミュレーションしておきましょう。

電話をかける前に確認すべきポイント

電話をする際は、まず手元に診察券とお薬手帳、そしてメモ帳を準備してください。「いつから、どこが、どう悪いのか」を客観的な数字とともに伝えられると非常に助かります。

体温や血圧、脈拍、意識のはっきりしているか、といった情報を紙に書き出してから受話器を取ってください。

こうした整理された情報が、医師の頭の中をクリアにし、的確な指示を引き出す近道となります。

緊急往診までの準備と受け入れ

往診が決まったら、医師がスムーズに診察できるよう、室内の環境を整える必要があります。

部屋を明るくし、ペットを飼っている場合は、診察の妨げにならないよう別の場所へ移してください。

また、医師が手を洗う場所の案内や、これまでに処方された薬の確認も済ませておきます。

スムーズな受け入れ体制が、診察時間を有効に使い、患者様の苦痛を早く取り除くことにつながります。

オンコール利用時の理解とマナー

オンコールはあくまで緊急時のためのリソースであることを忘れないでください。「予約の変更」や「明日でも間に合う相談」などで専用回線を占有することは、本来の目的を損ないます。

本当に困っている他の患者様を救うためにも、緊急性の高い連絡を優先する意識が大切です。互いにマナーを守り合うと、地域の医療資源を大切に守り抜けます。

連絡時に最低限伝えたい項目

項目具体的な内容伝える理由
主要な症状痛み、嘔吐、呼吸の苦しさなど緊急性の判定に直結するため
数値データ体温、血圧、脈拍、酸素飽和度客観的に重症度を測るため
意識状態返事の有無、視点が合うか脳や心臓の異変を疑う指標となるため

Q&A

夜中に連絡をしても嫌な顔をされませんか?

全く心配いりません。オンコール担当のスタッフは、困った時の相談を受けるために待機しています。

むしろ我慢をして容態が悪化してから連絡をいただくよりも、異変を感じた段階で早めに相談していただくほうが、軽い処置で済む場合が多いです。

知らない先生が往診に来るのが不安です

地域の複数のクリニックで当番を回している場合、主治医以外の医師が伺うときがあります。

しかし、カルテや共有ツールによって患者様の治療方針は完全に把握していますので、治療内容に差が出ることはありません。

どの医師も在宅医療の専門家ですので、安心してお任せください。

救急車を呼ぶ判断基準を教えてください

意識がない、呼吸が止まっている、激しい胸の痛みがあるなど、一分一秒を争うと感じる場合は、119番通報を最優先してください。

それ以外の、判断に迷うような症状の場合は、まずオンコール電話へご連絡ください。状況をお聞きし、医師が救急車を呼ぶべきかどうかを的確にアドバイスします。

電話だけで診察に来てもらえないことはありますか?

電話口でのアドバイスで十分に対応可能な場合は、その旨を丁寧にお伝えします。

例えば、頓服薬の使用指示やクーリング(冷やす)で様子が見られるケースなどが該当します。

ただし、ご家族がどうしても不安な場合や、電話だけでは判断が難しい場合は、往診を検討しますので、正直な気持ちをお話しください。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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