LATE(辺縁系優位型TDP-43脳症)と認知症ケアの最前線 – 訪問診療クリニックの取り組み

LATE(辺縁系優位型TDP-43脳症)と認知症ケアの最前線 - 訪問診療クリニックの取り組み

高齢化が進む現代社会において、認知症は誰もが向き合う可能性のある身近な課題です。

特に80歳を超えるご高齢の方では、「アルツハイマー病」と診断されていても、実際には「LATE(レイト)」という別の病気が隠れていることがあります。

LATEはアルツハイマー病と症状が似ていますが、その原因や適切な対応は異なります。

この記事では、LATEとはどのような病気なのか、アルツハイマー病との違いは何か、そしてご自宅での療養を支える訪問診療の現場で、患者さんとご家族に寄り添うためにどのような取り組みを行っているのかを、詳しく解説します。

目次

LATE(辺縁系優位型TDP-43脳症)とは何か

近年注目されるようになった「LATE」という認知症。

まずは、この病気そのものについて理解を深めることが大切です。どのような原因で発症し、広く知られているアルツハイマー病とは何が違うのか。

基本的な知識から、診断に関わる専門的な内容まで、一つひとつ分かりやすく説明します。

LATEの基本的な病態

LATEは「Limbic-predominant Age-related TDP-43 Encephalopathy」の略称で、日本語では「辺縁系優位型TDP-43脳症」と呼びます。

この病気の原因は、「TDP-43」という特殊なタンパク質が、脳の中でも記憶や感情を司る「辺縁系」と呼ばれる領域に異常に蓄積することです。

私たちの脳内では、様々なタンパク質が正常に機能し、分解されることで健康な状態を保っています。

しかし、LATEの患者さんの脳内では、このTDP-43タンパク質がうまく処理されずに固まり、神経細胞の働きを妨げてしまいます。

特に、記憶の形成に重要な役割を果たす「海馬」という部分が強く影響を受けるため、物忘れなどの記憶障害が主な症状として現れます。

この病態は、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβやタウといった別のタンパク質の蓄積とは異なるものです。

アルツハイマー病との鑑別診断のポイント

LATEは、特に初期の段階ではアルツハイマー病と症状が非常によく似ているため、見分けるのが難しい場合があります。しかし、注意深く経過を観察すると、いくつかの違いが見えてきます。

訪問診療の現場では、これらの違いを念頭に置きながら、患者さんの状態を総合的に評価します。

最も大きな違いの一つは、症状の進行速度です。一般的に、アルツハイマー病に比べてLATEの記憶障害は、よりゆっくりと進行する傾向があります。

また、アルツハイマー病では比較的早期から見られる取り繕い(記憶障害を隠そうとする言動)が、LATEでは目立たないこともあります。

最終的な確定診断は、残念ながら現在の医療ではご逝去後の病理解剖でしかできません。しかし、生前の症状や画像検査などから、LATEの可能性を推測し、より適切なケアにつなげることが重要です。

LATEとアルツハイマー病の臨床的な違い

比較項目LATE(辺縁系優位型TDP-43脳症)アルツハイマー病
主な原因物質TDP-43タンパク質の異常蓄積アミロイドβ、タウタンパク質の異常蓄積
好発年齢特に80歳以上の超高齢者に多い65歳以上の高齢者に多いが、若年性もある
記憶障害の進行比較的緩やかに進行することが多い一般的に進行がより速い傾向

80歳以上高齢者における有病率と特徴

LATEは、特にご高齢の方にとって決して珍しい病気ではありません。研究によると、80歳以上の認知症の方のうち、約20~25%にLATEの病理変化が見られると報告されています。

これは、認知症と診断された高齢者の4人から5人に1人が、LATEを合併しているか、LATEが主な原因である可能性を示唆しています。

この年代の方々では、純粋なアルツハイマー病だけでなく、LATEや脳血管障害など、複数の原因が重なり合って認知症を発症しているケースが少なくありません。

そのため、「アルツハイマー病の薬が効きにくい」と感じる場合、その背景にLATEが隠れている可能性を考える必要があります。

訪問診療では、年齢的な特徴を踏まえ、画一的な診断にとらわれず、一人ひとりの状態を丁寧に見極める姿勢が大切になります。

TDP-43蛋白質の役割と病理学的意義

LATEの原因となるTDP-43タンパク質は、本来、私たちの体にとって必要不可欠な存在です。

正常な状態では、細胞の核の中に存在し、遺伝情報の伝達やタンパク質の合成を調整する重要な役割を担っています。

しかし、何らかの理由でこのTDP-43が核の中から細胞質(細胞の核以外の部分)へ移動し、異常な構造に変化して蓄積してしまうのがLATEの病理です。

異常なTDP-43が溜まると、神経細胞は正常な機能を失い、やがて細胞死に至ります。

この一連の変化が、記憶を司る海馬や感情を制御する扁桃体といった辺縁系で集中的に起こるため、LATE特有の症状が現れるのです。

なぜTDP-43が異常をきたすのか、その根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、加齢が最も大きな危険因子であると考えられています。

訪問診療におけるLATE患者の臨床的特徴

ご自宅という生活の場で患者さんと向き合う訪問診療では、LATEの患者さんが示す特有の症状や経過をより深く理解することができます。

日々の暮らしの中で見られる変化に気づき、適切なケアにつなげるために、私たちがどのような点に注目しているのかを解説します。

症状の進行パターンと経過観察のポイント

LATEの患者さんに見られる症状は、多くの場合、最近の出来事を忘れてしまう「エピソード記憶」の障害から始まります。

これはアルツハイマー病と似ていますが、LATEでは、昔のことは比較的よく覚えていたり、自分の名前や家族の顔が分からなくなるような見当識障害は、病状が進行するまで現れにくい傾向があります。

経過とともに、物事への興味や関心が薄れる「アパシー(意欲低下)」や、感情の起伏が乏しくなるといった変化が見られるようになります。

これらの症状は、ご家族から「急に元気がなくなった」「何をするのも億劫がるようになった」と表現されることもあります。

訪問診療では、定期的な診察を通じてこうした微細な変化を捉え、記録し、ケアプランに反映させていきます。

LATEの経過観察における重要項目

観察領域主な観察ポイントご家族から聞かれる言葉の例
認知機能新しいことを覚える力、会話の理解度、日付や場所の認識「同じことを何度も聞く」「話が噛み合わなくなった」
精神・行動意欲、感情の波、不安感、睡眠の状態「一日中ぼーっとしている」「ささいなことで怒りっぽくなった」
日常生活動作食事、着替え、入浴、トイレなどの自立度「着替えに時間がかかるようになった」「食事をこぼすようになった」

認知機能評価と神経心理学的検査

患者さんの認知機能の状態を客観的に把握するために、訪問診療の場でもいくつかの検査を行います。

代表的なものに「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」や「ミニメンタルステート検査(MMSE)」があります。

これらは、記憶力、計算能力、言語能力、見当識などを短い時間で評価するための質問形式の検査です。

ただし、LATEの患者さんの場合、これらの点数だけで状態を判断するのは十分ではありません。検査の点数が比較的保たれていても、日常生活での遂行能力が著しく低下していることがあるからです。

そのため、検査結果と合わせて、ご家族から日々の生活の様子を詳しく聞き取ることが極めて重要になります。

「以前はできていた料理の段取りが悪くなった」「金銭管理が難しくなった」といった具体的なエピソードが、診断やケアの方針を立てる上で貴重な情報源となります。

画像診断での海馬硬化所見の重要性

LATEの診断を推測する上で、脳のMRI検査は非常に有用な情報を提供します。LATEの患者さんの脳では、記憶の中枢である「海馬」が強く萎縮している所見がしばしば認められます。

この所見は「海馬硬化」と呼ばれ、LATEの病理変化と強く関連することが知られています。

特に、海馬の萎縮が左右非対称に見られる場合や、扁桃体といった周辺領域にも萎縮が及んでいる場合は、LATEの可能性をより強く示唆します。

アルツハイマー病でも海馬の萎縮は見られますが、LATEではその程度がより顕著であることが特徴です。

訪問診療の計画を立てる際には、地域の連携病院で撮影したMRI画像を確認し、これらの所見の有無を評価することが、治療方針を決定する一助となります。

LATE患者への訪問診療アプローチ

LATEである可能性が高いと判断された患者さんに対して、訪問診療では画一的な治療ではなく、一人ひとりの状態に合わせた多角的なアプローチを行います。

薬物療法だけでなく、生活環境の調整やご家族への支援も含めた、包括的なケアプランについて具体的に説明します。

個別化された治療計画の立案方法

LATEのケアにおいて最も大切なのは、患者さん一人ひとりの状態、生活環境、価値観を尊重した「個別化された計画」を立てることです。

訪問診療の初診時には、ご本人やご家族と十分な時間をかけて面談し、これまでの生活歴、現在の困りごと、そして今後どのように過ごしたいかという希望を丁寧に伺います。

その上で、医師、看護師、そして連携するケアマネジャーやリハビリ専門職などがチームを組み、医学的な評価と生活上の課題を総合的に検討します。

例えば、記憶障害が中心的な問題であれば、服薬管理やスケジュール管理の工夫を提案します。

意欲低下が著しい場合は、デイサービスの利用や簡単な役割をお願いするなど、社会的なつながりや達成感を得られる機会を作ることを目指します。

薬物療法の選択と効果判定

現在、LATEそのものを根本的に治療する薬はまだ開発されていません。

また、アルツハイマー病の治療に用いられる認知症治療薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチンなど)は、LATEに対しては効果が限定的であるか、効果が見られないことが多いと報告されています。

そのため、薬物療法は、LATEに伴って現れる症状を和らげる「対症療法」が中心となります。

例えば、強い不安や抑うつ症状が見られる場合には抗うつ薬や抗不安薬を、幻覚や妄想といった精神病症状が生活に支障をきたす場合には非定型抗精神病薬を、ごく少量から慎重に使用することを検討します。

薬の効果と副作用を注意深く見極めるため、訪問診療による定期的な評価が重要です。

LATEの周辺症状に対する薬物療法の選択肢

対象となる症状検討される薬剤の種類使用上の注意点
抑うつ・不安SSRIなどの抗うつ薬少量から開始し、効果と副作用を慎重に評価する
不眠非ベンゾジアゼピン系睡眠薬などふらつきや転倒のリスクに注意し、依存性の低い薬を選択する
幻覚・妄想・興奮非定型抗精神病薬副作用(錐体外路症状、過鎮静など)に最大限の注意を払う

非薬物療法とケア環境の整備

LATEのケアでは、薬だけに頼らない非薬物療法が非常に重要な役割を果たします。穏やかで安心できる環境を整えることが、症状の安定につながるからです。

訪問診療では、ご自宅の環境を評価し、具体的なアドバイスを行います。

例えば、カレンダーや時計を見やすい場所に設置して時間や季節が分かりやすいようにしたり、室内の照明を明るくして不安感を軽減したりする工夫が有効です。

また、昔の写真や音楽を用いて楽しかった記憶を語り合う「回想法」や、簡単な計算や書き取りを行う「学習療法」は、脳に適度な刺激を与え、精神的な安定をもたらす効果が期待できます。

大切なのは、ご本人が苦痛を感じず、楽しめる範囲で行うことです。

家族への説明と心理的サポート

認知症の介護を担うご家族は、身体的にも精神的にも大きな負担を抱えがちです。

特にLATEのように、病気の実態がまだ十分に知られていない場合、ご家族の戸惑いや孤立感は一層深まることがあります。

訪問診療の重要な役割の一つは、ご家族の良き相談相手となり、心理的なサポートを提供することです。

私たちは、LATEという病気について、その特徴や今後の見通しを分かりやすい言葉で丁寧に説明します。そして、介護の中で生じる様々な悩みや葛藤に耳を傾け、ご家族の気持ちに寄り添います。

介護保険サービスの利用方法や、地域の相談窓口に関する情報提供も行い、ご家族だけで抱え込まずに済むよう、社会的なサポート体制の構築を支援します。

ご家族への説明で重視するポイント

  • LATEが加齢に伴う脳の変化であり、誰にでも起こりうることを伝える。
  • ご本人の言動は病気によるものであり、ご家族を困らせようとしているわけではないことを理解してもらう。
  • 介護者が自身の休息時間を確保することの重要性を強調する。
  • 小さなことでも気軽に相談できる関係性を築く。

多職種連携による包括的ケア体制

在宅での療養生活を支えるためには、一人の医師の力だけでは限界があります。

医師、看護師、ケアマネジャー、薬剤師、理学療法士、作業療法士、ホームヘルパーなど、様々な専門職がそれぞれの専門性を生かし、情報を共有しながら連携する「多職種連携」の体制が極めて重要です。

訪問診療クリニックは、この連携の中心的な役割を担います。

定期的にカンファレンス(サービス担当者会議)を開催し、患者さんの最新の状態やご家族の状況を共有します。

この多職種連携により、医療的な視点だけでなく、介護やリハビリ、生活支援といった多角的な視点から、患者さんにとって最善のケアを一体的に提供することが可能になります。

在宅ケアにおける多職種連携の体制例

専門職主な役割連携による効果
訪問診療医・看護師医学的管理、症状評価、薬の調整、家族支援医療と介護の情報が密に共有され、一貫性のあるケアが実現する。急な状態変化にも迅速に対応できる。
ケアマネジャーケアプラン作成、介護サービス調整、社会資源の紹介
訪問介護・看護身体介護、生活援助、日々の健康状態の観察

在宅でのLATE患者ケア実践

ご自宅でLATEの患者さんと共に穏やかに過ごすためには、日々の生活の中でいくつかの工夫が役立ちます。

安全を守り、心穏やかに過ごせる時間を増やすための、具体的なケアの実践方法についてご紹介します。

日常生活支援と安全管理

認知機能が低下してくると、ご本人が意図しないところで危険な状況が生まれることがあります。在宅ケアでは、事故を未然に防ぐための環境整備が重要です。

例えば、転倒は骨折につながり、寝たきりの原因となり得ます。室内の段差をなくし、滑りにくい床材を選び、手すりを設置するなどの対策が有効です。

また、火の元の管理も重要です。ガスコンロをIHクッキングヒーターに変更したり、火災報知器を設置したりすることで、火事のリスクを減らすことができます。

訪問診療の際には、看護師などがご自宅の環境をチェックし、具体的な安全対策についてアドバイスします。

行動・心理症状への対応策

LATEの患者さんには、不安、焦り、抑うつ、無気力といった「行動・心理症状(BPSD)」が見られることがあります。これらの症状に対しては、まずその背景にある原因を探ることが大切です。

身体的な苦痛(痛み、便秘など)はないか、環境の変化による混乱はないか、周囲の人の接し方が不安を煽っていないか、などを丁寧に見極めます。

対応の基本は、ご本人の言動を否定せず、まずは気持ちを受け止めることです。穏やかな口調で、分かりやすい言葉で話しかけ、安心感を与えることを心がけます。

ご本人のペースに合わせ、急かさずに見守る姿勢が、症状の緩和につながることが多くあります。

行動・心理症状(BPSD)への基本的な対応

症状の例背景にある可能性のある感情対応のポイント
物盗られ妄想不安、喪失感、孤独感否定せずに一緒に探す。「大変でしたね」と気持ちに共感する。
介護への抵抗羞恥心、自尊心の傷つき無理強いせず、時間を置く。本人の得意なことを褒める。
無気力・無関心抑うつ、疲労感、脳機能の低下簡単な役割をお願いする。本人が好きな活動に誘ってみる。

栄養管理と誤嚥予防対策

病状が進行すると、食事への関心が薄れたり、飲み込む力(嚥下機能)が低下したりすることがあります。

低栄養や脱水は、全身の状態を悪化させ、感染症のリスクを高めるため、適切な栄養管理が重要です。

食事の際は、食べやすく、飲み込みやすいように調理法を工夫します。食材を細かく刻んだり、とろみ剤を使ったりすることで、誤嚥(食べ物や水分が気管に入ってしまうこと)を防ぎます。

また、食事に集中できる静かな環境を整え、急かさずにゆっくりと食べてもらうことも大切です。

訪問診療では、必要に応じて言語聴覚士と連携し、専門的な嚥下機能評価や食事指導を行うこともあります。

褥瘡予防と皮膚ケア

活動性が低下し、ベッドで過ごす時間が長くなると、「褥瘡(じょくそう)」、いわゆる床ずれのリスクが高まります。

褥瘡は一度できてしまうと治りにくく、ご本人に大きな苦痛を与えるため、予防が何よりも大切です。

予防の基本は、同じ部位に長時間圧力がかからないようにすることです。定期的な体位変換や、体圧分散効果のあるマットレスの使用が有効です。

また、皮膚を清潔に保ち、保湿剤で乾燥を防ぐスキンケアも重要です。訪問看護師は、定期的に全身の皮膚の状態を観察し、褥瘡の兆候がないかを確認します。

そして、ご家族ができるケアの方法について、具体的に指導します。

褥瘡予防のためのセルフチェックポイント

チェック項目確認する内容異常があった場合の対応
皮膚の赤み骨の出っ張った部分(かかと、お尻など)に赤みがないか赤みが消えない場合は訪問看護師に相談する
皮膚の清潔皮膚が汚れたり、湿ったりしていないか優しく洗浄し、よく乾かす
栄養状態食事量が減っていないか、体重が減少していないか訪問診療医や管理栄養士に相談する

訪問診療クリニックの体制整備と連携

質の高い在宅ケアを継続的に提供するためには、クリニック内の体制を整えると共に、地域の他の医療機関や介護事業所との円滑な連携が欠かせません。

患者さんとご家族が安心して在宅療養を続けられるための、私たちの組織的な取り組みについて説明します。

スタッフ教育と専門知識の向上

LATEをはじめとする認知症の分野は、日々新しい知見が報告されています。患者さんに最善のケアを提供するためには、スタッフ一人ひとりが常に学び続け、専門知識を更新していく姿勢が重要です。

私たちのクリニックでは、定期的に院内勉強会を開催し、LATEに関する最新の研究論文や診療ガイドラインを共有しています。

また、外部の学会や研修会への参加を積極的に奨励し、そこで得た知識を院内にフィードバックする仕組みを整えています。

この継続的な学習により、スタッフ全員がLATEに対する深い理解を持ち、自信を持って患者さんのケアにあたることができます。

地域医療機関との連携システム

訪問診療は、地域医療ネットワークの一部です。患者さんが必要とする医療を切れ目なく受けられるように、地域の基幹病院や専門クリニック、かかりつけ医の先生方と緊密な連携体制を築いています。

例えば、MRIなどの精密検査が必要な場合は、連携先の病院に迅速に紹介します。

また、入院治療が必要になった際には、患者さんの在宅での様子や治療経過をまとめた情報提供書を作成し、入院先の医師とスムーズな引き継ぎを行います。

退院後、再び在宅療養に戻る際にも、病院と連携してカンファレンスを開き、在宅での療養計画を共有します。この顔の見える関係が、質の高い地域包括ケアを実現します。

介護施設との情報共有体制

在宅療養中の患者さんの多くは、デイサービスやショートステイといった介護サービスを利用しています。これらの介護施設は、患者さんの日中の様子を知る上で非常に重要な情報源です。

私たちは、ケアマネジャーを通じて、あるいは直接介護施設のスタッフと連絡を取り合い、患者さんの情報を密に共有しています。

例えば、「デイサービスでレクリエーションへの参加が減った」「食事のむせが増えた」といった情報は、病状の変化を早期に捉えるための重要なサインです。

逆に、クリニックでの治療方針の変更などを介護施設に伝えることで、施設での対応も一貫したものになります。この双方向の情報共有が、患者さんをチーム全体で支える基盤となります。

よくある質問

LATEや訪問診療に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

LATEは遺伝しますか?

現在のところ、LATEの明確な遺伝性は確認されていません。

一部の遺伝子が発症リスクと関連する可能性が研究されていますが、家族にLATEの人がいるからといって必ず発症するわけではありません。

最も大きな危険因子は加齢であると考えられています。

家族として何ができますか?

まずは、ご本人の言動の変化を病気によるものと理解し、温かく見守る姿勢が大切です。安全な環境を整え、穏やかに過ごせる時間を作ってあげてください。

そして何より、介護者であるご家族自身が無理をせず、休息をとり、外部のサポート(介護サービスや訪問診療など)を積極的に利用することが重要です。

一人で抱え込まず、私たち専門家にご相談ください。

訪問診療ではどのような医療行為が受けられますか?

定期的な診察、血圧測定などの健康管理、お薬の処方と管理、血液検査や簡単な処置(褥瘡のケアなど)がご自宅で受けられます。

また、地域の医療機関と連携して、レントゲンや超音波検査などを手配することも可能です。

医療的なケアだけでなく、療養生活全般に関する相談や、ご家族への精神的なサポートも行います。

LATEと診断されたら、もう治らないのでしょうか?

残念ながら、現時点でLATEを完治させる治療法はありません。しかし、治らないからといって、何もできないわけではありません。

薬物療法や非薬物療法によって症状を和らげたり、生活環境を整えたりすることで、病気の進行を緩やかにし、ご本人らしい穏やかな生活を長く続けることは十分に可能です。

私たちは、そのための最善の方法を、患者さんやご家族と一緒に考え、支えていきます。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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