24時間の連絡先はどっち?訪問診療と訪問看護の緊急時連携

24時間の連絡先はどっち?訪問診療と訪問看護の緊急時連携

在宅医療を検討している方や現在利用している方にとって、最も大きな不安の一つが「夜間や休日に容体が急変したらどうすればいいのか」という点です。

24時間365日の対応を謳う訪問診療クリニックや訪問看護ステーションは増えていますが、実際に何か起きたとき、医師に電話すべきか、看護師に電話すべきか迷ってしまうケースは少なくありません。

結論から言えば、緊急時の第一連絡先は「訪問看護ステーション」となる場合が一般的です。

訪問看護師がトリアージ(緊急度の判定)を行い、必要に応じて医師につなぐ体制が、患者さんの安全を最も効率よく守ります。

この記事では、なぜ看護師への連絡が優先されるのか、その裏にある医療連携の仕組みや、家族が知っておくべき緊急時の動きについて詳しく解説します。

いざという時に慌てず行動できるよう、正しい連絡フローを理解しておきましょう。

目次

訪問診療医と訪問看護師それぞれの基本的な役割の違い

在宅医療の現場では医師と看護師が密接に関わり合っていますが、それぞれの職種が担う責任範囲と役割は明確に異なります。

医師は診断と治療方針の決定を行い、医学的な管理の責任者として機能します。

一方で看護師は、医師の指示に基づいた医療処置を行うとともに、患者さんの生活全般を見守り、日々の変化を敏感に察知する役割を担います。

この両者が車の両輪のように機能することで、在宅での療養生活は安定して継続できます。

医学的管理の責任者としての医師

訪問診療を行う医師の最大の役割は、医学的な判断を下すことです。定期的な訪問診療において患者さんの診察を行い、薬の処方や検査の実施、治療計画の立案を担当します。

病状が安定しているか、あるいは悪化の兆候があるかを見極め、今後の見通しを家族に説明するのも医師の重要な仕事です。

また、他の医療機関や介護事業者に対して指示を出す司令塔としての役割も果たします。特に「訪問看護指示書」の発行は重要です。

この書類がなければ、訪問看護師は医療処置を行うことができません。

医師は患者さんの状態に合わせて、どのような処置が必要かを具体的に指示書に記載し、その内容に基づいてチーム全体が動きます。

生活と医療をつなぐ看護師

訪問看護師は、医師よりも高い頻度で患者さんの自宅を訪問します。そのため、患者さんの「いつもの状態」を最もよく把握している存在といえます。

バイタルサイン(体温、血圧、脈拍など)の測定や、医師の指示に基づいた点滴、床ずれの処置、服薬管理など、具体的なケアを行うのは看護師です。

看護師の役割は医療処置だけにとどまりません。食事や排泄、入浴の介助や指導、療養環境の整備など、生活に密着した支援を行います。

家族の介護負担や精神的な悩みに寄り添い、相談に乗ることも重要な業務です。日々の変化を細かく観察し、異常があれば即座に医師に報告する「目」としての機能も果たします。

両者の業務範囲の比較

医師と看護師の業務は重なる部分もありますが、決定権と実行のバランスが異なります。

医師は方針を決め、看護師はその方針を生活の中で実行可能な形に落とし込みます。緊急時には、この役割分担がさらに重要性を増します。

医師と看護師の主な業務分担

業務項目訪問診療医訪問看護師
治療方針の決定決定する医師に提案・相談する
薬の処方処方箋を発行する服薬管理・指導を行う
日常的なケア状態を確認する実施・指導を行う
緊急時の対応指示・往診・搬送判断一次判断・応急処置

緊急時の第一連絡先は原則として訪問看護師

夜間や休日に体調が悪くなった際、最初に連絡を入れるべき相手は、多くの場合「訪問看護ステーション」です。

これは単なるルールではなく、迅速かつ適切な医療を提供するための合理的な理由があります。看護師が一次対応を行うことで、情報の整理が行われ、医師が正確な判断を下しやすくなるからです。

多くの在宅医療チームがこの「看護師ファースト」の連絡体制を採用しています。

トリアージ機能としての訪問看護

患者さんや家族が「具合が悪い」と感じたとき、その緊急度は様々です。すぐに救急車を呼ぶべき状態なのか、医師の往診が必要なのか、それとも様子を見て翌朝の対応で良いのか。

この判断(トリアージ)を専門知識を持つ看護師が行います。

家族が直接医師に電話をかけた場合、医師が診察中であったり、移動中であったりして電話に出られない可能性があります。

また、医師は医学的な詳細は理解できても、患者さんの「いつもの様子」との細かな違いまでは、電話口だけで判断しきれないことがあります。

普段から頻繁に接している看護師であれば、電話の声や家族の説明から、事態の切迫度をより正確に推測できます。

看護師が必要と判断すれば、看護師専用のホットラインで医師に連絡を取り、確実につなぐことができます。

医師へ直接連絡すべき例外的なケース

原則は訪問看護師への連絡ですが、例外的に医師へ直接連絡するよう指示される場合もあります。これは患者さんの病状や、契約している医療機関の方針によって異なります。

例えば、特定の症状が出た場合には一刻を争うため、迷わず医師(あるいは救急車)に連絡するよう、あらかじめ取り決めが行われているケースです。

また、訪問看護を利用しておらず、訪問診療のみ契約している場合は、当然ながら医師(クリニックの連絡先)が第一連絡先となります。

しかし、重症度の高い在宅患者さんの多くは訪問看護を併用しているため、やはり看護師を経由するルートが主流です。

契約時や退院時カンファレンスで、「誰に連絡するか」というフローチャートを確認しておくことが大切です。

医師へ直接連絡する可能性がある状況

  • 事前に医師から直接連絡するよう指示がある場合
  • 訪問看護ステーションと連絡がつかない場合
  • 明らかに死亡していることが確認された場合

24時間対応体制の仕組み

訪問看護ステーションには「24時間対応体制加算」という制度があり、これを算定しているステーションは、夜間・休日を問わず電話相談や緊急訪問に応じる義務があります。

多くのステーションでは、スタッフが持ち回りで専用の携帯電話(オンコール携帯)を持ち、自宅や待機場所で連絡を待ちます。

一方、医師も同様に24時間の連絡体制を敷いていますが、一人院長の場合は365日全ての電話に出ることは物理的に不可能です。

そのため、地域の医師会や連携するクリニック、あるいは提携する訪問看護ステーションと協力し合いながら、網の目のようにセーフティネットを構築しています。

看護師がフィルター役となることで、医師は本当に必要な往診や指示に集中でき、その結果として地域全体の医療資源が守られます。

夜間や休日に発生する緊急対応の具体的な流れ

実際に緊急連絡を入れた後、どのような流れで医療が提供されるのかを理解しておくと、焦りを軽減できます。電話をしたからといって、必ずしもすぐに医療者が駆けつけるわけではありません。

状況に応じて「電話でのアドバイス」「緊急訪問」「救急搬送」の3つのパターンに分かれます。看護師は医師と連携を取りながら、その時点で最善の選択肢を提示します。

電話での状況確認とアドバイス

連絡を受けた看護師は、まず電話口で状況を詳しく聞き取ります。「いつから」「どのような症状が」「どの程度」出ているのかを確認します。

バイタルサイン(熱や血圧)を家族が測定できる場合は、その数値を伝えます。多くのケースでは、電話でのアドバイスで事なきを得ます。

例えば、「熱が高いが水分は摂れており、意識もしっかりしている」という場合、解熱剤の使用方法や冷却の仕方を指導し、翌朝まで様子を見るという判断になることがあります。

これは決して対応を拒否しているのではなく、患者さんの体力を考慮し、不必要な移動や深夜の訪問による睡眠の妨げを避けるための医学的な判断です。

看護師による緊急訪問の判断

電話での聞き取りの結果、処置が必要だと判断された場合、看護師が自宅へ向かいます(緊急訪問)。到着した看護師は、まずバイタルサインを測定し、全身状態を観察します。

そして、その情報をリアルタイムで医師に報告します。

医師は看護師からの報告を受け、電話越しに指示を出します。「酸素投与量を上げてください」「座薬を入れてください」「点滴を開始してください」といった具体的な指示が飛びます。

看護師はこの指示(電話指示)に基づいて医療処置を行います。看護師の訪問だけで症状が落ち着けば、そのまま帰宅し、翌日の定期訪問につなげます。

医師の往診と救急搬送の選択

看護師の処置だけでは対応困難な場合、あるいは診断が必要な場合、医師が緊急往診に向かいます。医師が直接診察し、高度な医療処置や薬剤投与を行います。

さらに重篤で、在宅での対応限界を超えていると判断された場合は、救急搬送を選択します。

この際、かかりつけ医や訪問看護師が救急隊に情報を引き継ぐことで、搬送先の病院での治療がスムーズになります。

自分たちで119番通報するよりも、医療者が病状を説明したほうが、受け入れ病院が決まりやすいというメリットもあります。

状況別の対応パターン

状況主な対応内容目的
軽度・安定電話での生活指導・服薬指示不安解消と現状維持
中等度・処置必要看護師が訪問し医師の指示で処置症状緩和と悪化防止
重度・診断必要医師が往診し治療を実施専門的治療と方針決定
緊急・重篤救急車による病院への搬送生命維持と高度治療

訪問診療と訪問看護をつなぐ情報連携の裏側

患者さんの自宅という離れた場所にいながら、なぜ医師と看護師はスムーズに連携できるのでしょうか。

そこには、ICTツールを活用した情報共有と、法的な指示系統に基づいた強固なネットワークが存在します。普段からの密なやり取りが、緊急時の迅速な判断を支えています。

ICTツールによるリアルタイム共有

現代の在宅医療では、多職種連携のための専用SNSやクラウド型電子カルテの導入が進んでいます。

訪問看護師が患者さんの自宅で測定した血圧や脈拍のデータ、床ずれの写真、食事の摂取量などは、クラウドを通じて即座に医師の端末にも共有されます。

例えば、患部の写真一枚あれば、医師は「抗生物質が必要かどうか」を瞬時に判断できることがあります。

電話の音声だけでは伝わりにくい微妙なニュアンスも、画像や動画、テキストを併用することで正確に伝わります。この常時接続された状態が、離れていても「チーム」として機能する基盤となります。

訪問看護指示書の重要性

連携の要となるのが「訪問看護指示書」です。これは医師から看護師へ、「どのような点に注意してケアを行うか」「緊急時にはどう対応するか」を記した公的な文書です。

この指示書には、予想される緊急事態とその際の対応手順があらかじめ記載されていることが多いです。

例えば、「SpO2(血中酸素飽和度)が90%を下回ったら酸素流量を2Lに上げる」といった具体的な指示が書かれていれば、看護師は医師に電話がつながらない一瞬の間でも、事前の指示に基づいて初期対応を開始できます。

この包括的な指示があるおかげで、緊急時のタイムロスを最小限に抑えることが可能です。

定期的なカンファレンスでの認識合わせ

デジタルな連携だけでなく、顔を合わせた(あるいはオンラインでの)会議も重視します。

退院時や病状変化時には、医師、看護師、ケアマネジャー、薬剤師などが集まりサービス担当者会議を開きます。

ここで「今後どのような経過をたどるか」「最期をどこで迎えたいか」といった大きな方針を確認し合います。

看取りの方針や、急変時の救急搬送の希望(DNAR:蘇生措置を行わない意思表示など)をチーム全体で共有しておくことで、いざという時に迷わず、患者さんの意思を尊重した行動が取れるようになります。

共有される主な医療情報

カテゴリ共有内容の例
バイタル情報血圧、脈拍、体温、酸素飽和度の推移
処置情報点滴の実施状況、傷口の状態(画像含む)
生活情報食事量、排泄状況、睡眠状態、家族の疲労度

家族ができる緊急時に備えた準備と心構え

医療チームがいかに万全の体制を敷いていても、第一発見者となるのは同居している家族です。

家族がパニックにならず、的確に情報を伝えることができれば、救命率やその後の療養生活の質は大きく向上します。

特別な医療知識は必要ありませんが、情報を伝えるための「準備」は必要です。

連絡先リストの見える化

緊急時には頭が真っ白になり、携帯電話のアドレス帳から番号を探すことすら難しくなるものです。

訪問看護ステーション、訪問診療クリニック、ケアマネジャーの連絡先を大きく書いた紙を、電話の横や冷蔵庫、トイレのドアなど、目につく場所に貼っておきます。

また、優先順位を明確にしておくことも大切です。

「まずは訪問看護の携帯番号へ、つながらなければステーション固定電話へ、それでもダメならクリニックへ」といったフローを矢印で書いておくと、迷いを消すことができます。

スマートフォンを使える家族全員で、連絡先を共有・登録しておくことも忘れてはいけません。

伝えるべき情報の整理

看護師につながった際、何を伝えれば良いかをまとめておきます。「いつから」「何をしていて」「どうなったか」の3点が基本です。

これに加え、「現在行っている処置(酸素吸入中など)」や「既往歴」も重要ですが、かかりつけの訪問看護師であればカルテで把握しているため、目の前の変化に集中して伝えて構いません。

また、玄関の鍵をすぐに開けられるようにしておく、保険証やお薬手帳をすぐに持ち出せる場所にまとめておく(救急搬送セット)といった物理的な準備も、スムーズな連携を助けます。

特に夜間は、外灯をつけて救急車や医療者を誘導する準備も想定しておきます。

電話で伝えるべきポイント

  • 誰が(患者さんの名前)
  • いつから(時間の経過)
  • どのような状態で(具体的な症状・数値)
  • 何を一番心配しているか

訪問看護師による医療処置の範囲と法的限界

「看護師に来てもらったけれど、医師じゃなくて大丈夫?」という不安を持つ方もいます。しかし、訪問看護師は高度な医療処置を行うトレーニングを受けています。

医師の指示があることを前提に、病院の看護師と同様、あるいはそれ以上の自律的な判断と技術を行使して患者さんを支えます。

看護師が実施可能な医療処置

医師の指示書があれば、看護師は点滴や静脈注射、カテーテルの交換、人工呼吸器の管理、褥瘡(床ずれ)の処置、ストーマ(人工肛門)のケアなど、多岐にわたる医療行為を実施できます。

また、痛みのコントロールのために、麻薬の管理や調整を行うこともあります。

特に在宅医療においては、ご家族への指導も看護師の重要な業務です。

痰の吸引や経管栄養の注入など、家族が行える医療的ケアについて、安全な手技を教育し、見守ります。看護師は「ミニドクター」ではありませんが、医師の目と手となり、必要な処置の多くを代行できるプロフェッショナルです。

医師でなければできない行為

一方で、法律上医師にしか認められていない行為もあります。

最も代表的なのが「診断」と「死亡確認」です。看護師は症状を観察しアセスメント(評価)はできますが、「肺炎です」「インフルエンザです」と診断名を確定することはできません。

また、新たな薬の処方も医師の権限です。

死亡確認については、原則として医師が直接診察して行います。

しかし、近年では規制緩和が進み、予測された看取りの範囲内であり、かつ医師が直接来られない事情がある場合に限り、看護師が情報を伝達し、医師がICT機器(テレビ電話など)を用いて死亡診断を行うことが認められるケースも出てきました。

それでも基本は、医師が最終的な責任を持つことに変わりありません。

主な処置の実施可否

処置・行為訪問看護師の実施可否
点滴・注射可能(医師の指示下)
バルーンカテーテル交換可能(医師の指示下)
麻薬の管理可能(医師の指示下)
病気の診断不可
死亡診断書の作成不可

よくある質問

夜間に電話しても繋がらない場合はどうすればいいですか?

訪問看護ステーションの緊急連絡先(オンコール)に電話しても繋がらない場合、数分おいてから再度かけ直してください。

看護師が別の緊急対応中や運転中で電話に出られないことがあります。

それでも繋がらず、かつ状態が切迫している場合は、事前に決められた第二連絡先(訪問診療クリニックなど)へ連絡するか、呼吸停止や意識消失などの緊急事態であれば迷わず救急車(119番)を呼んでください。

訪問看護を契約せずに訪問診療だけ利用できますか?

制度上は可能ですが、重症度が高い場合や24時間対応を希望する場合は、訪問看護の併用を強く推奨されます。

医師だけで24時間365日の初期対応を全てカバーすることは困難なため、訪問看護が入っていないと「夜間の急変には対応できない(救急車を呼んでください)」という契約になるケースが多くなります。

在宅での安心を確保するためには、看護師との連携が重要です。

医師と看護師の方針が違うように感じる時は?

医師と看護師で説明のニュアンスが異なり、戸惑うことがあるかもしれません。

医師は医学的な理論を、看護師は生活に即した実践を話すため、視点が異なることが原因であることが多いです。

疑問を感じた際は、遠慮なく「先生はこう仰っていましたが、生活上はどうすれば良いですか」と看護師に相談してください。

看護師が医師と連絡を取り、方針のすり合わせを行います。

自宅での看取りの際、看護師だけで対応することはありますか?

息を引き取る瞬間に医師が間に合わないことはあります。

その場合、まず看護師が駆けつけてご家族に寄り添い、身体のケア(エンゼルケア)を始めながら医師の到着を待つことが一般的です。

医師が到着後に死亡確認を行い、死亡診断書を作成します。看護師がそばにいれば、慌てることなく穏やかな時間を過ごすことができます。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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