在宅医療で注意したい誤嚥リスク – 食べ物の種類と形状から考える予防法

在宅医療で注意したい誤嚥リスク - 食べ物の種類と形状から考える予防法

ご自宅で療養生活を送る上で、「むせる」「飲み込みにくい」といったお悩みはありませんか。

食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」は、特に高齢の方や嚥下機能が低下している方にとって、肺炎などの重篤な状態を引き起こす可能性があります。

この記事では、在宅医療における誤嚥のリスクを理解し、食べ物の種類や形状、調理法、食事環境の工夫によって、安全に食事を楽しむための具体的な予防法を解説します。

ご本人やご家族が安心して日々の食事に向き合えるよう、分かりやすく情報を提供します。

目次

誤嚥のメカニズムと基本的理解

誤嚥を防ぐためには、まず誤嚥がなぜ起こるのか、その基本的な知識を身につけることが大切です。

ここでは、誤嚥の定義から嚥下機能の仕組み、そして誤嚥が引き起こす可能性のある問題について説明します。

誤嚥とは何か?定義と発生プロセス

誤嚥とは、食べ物や飲み物、唾液などが、食道ではなく気管に入ってしまう状態を指します。通常、飲食物は口から喉を通り、食道を経て胃へと送られます。

このとき、喉頭蓋(こうとうがい)という蓋が気管の入り口を塞ぎ、飲食物が気管に入らないように防ぎます。しかし、この仕組みがうまく働かないと、飲食物が気管に入り込み、誤嚥が発生します。

誤嚥が発生する主な要因としては、加齢や病気による嚥下機能の低下、食べ物の形状や量、食事中の姿勢などが挙げられます。

気管に異物が入ると、むせ反射によって排出しようとしますが、この反射が弱っていると、気づかないうちに誤嚥していること(不顕性誤嚥)もあります。

嚥下機能の仕組みと加齢による変化

嚥下(えんげ)とは、食べ物を認識し、口の中で噛み砕き、飲み込みやすい塊(食塊)にしてから、喉を通して食道へ送り込む一連の動きのことです。

この動きは、多くの筋肉や神経が複雑に連携して行われます。

嚥下の段階は、大きく分けて以下のようになります。

  • 先行期(認知期): 食べ物の形や性質を認識する段階。
  • 準備期(咀嚼期): 食べ物を口に入れ、噛み砕き、唾液と混ぜて食塊を作る段階。
  • 口腔期: 食塊を舌で喉の奥へ送り込む段階。
  • 咽頭期: 食塊が喉を通過し、食道へ送り込まれる段階。このとき、喉頭蓋が気管を塞ぎます。
  • 食道期: 食塊が食道の蠕動運動によって胃へ運ばれる段階。

加齢に伴い、これらの機能は徐々に低下します。例えば、噛む力が弱くなったり、唾液の分泌量が減ったり、喉の筋肉の動きが鈍くなったりします。

これらの変化が、食べ物をうまく飲み込めない、むせやすいといった症状につながり、誤嚥のリスクを高めます。

加齢による嚥下機能の主な変化

変化する機能具体的な内容影響
咀嚼能力の低下歯の喪失、筋力低下食べ物を細かくしにくい
唾液分泌量の減少口腔内の乾燥食塊を形成しにくい
喉の感覚低下食べ物の誤嚥に気づきにくいむせ反射の遅れ
喉頭挙上・閉鎖不全気管への入り込みやすさ誤嚥しやすくなる

誤嚥性肺炎との関連性と重篤化のリスク

誤嚥性肺炎は、誤嚥によって食べ物や唾液などと一緒に細菌が気管支や肺に入り込み、炎症を引き起こす病気です。

特に高齢者や免疫力が低下している方、寝たきりの方などは、誤嚥性肺炎を発症しやすく、重篤化するリスクも高まります。

発熱、咳、痰、呼吸困難などの症状が現れますが、高齢者の場合は症状がはっきりしないこともあります。

誤嚥性肺炎を繰り返すと、肺の機能が低下し、呼吸不全に至ることもあります。また、栄養状態の悪化や脱水症状を引き起こすこともあり、全身状態の悪化につながるため、予防が非常に重要です。

在宅医療における誤嚥リスクの特徴

在宅医療を受けている方は、病院とは異なる環境で生活しており、誤嚥リスクにも特有の特徴があります。例えば、介助する家族が医療専門職ではないため、誤嚥の兆候を見逃しやすかったり、適切な対応が遅れたりする可能性があります。

また、食事の準備や介助方法が必ずしも嚥下機能に適していない場合もあります。

さらに、疾患や加齢により嚥下機能が低下している方が多く、日々の体調変化によっても嚥下状態が変動しやすいことも特徴です。そのため、日頃からの観察と、医療専門職との連携によるきめ細やかな対応が必要です。

誤嚥リスクの高い食品とその特徴

どのような食べ物が誤嚥を引き起こしやすいのでしょうか。ここでは、誤嚥リスクが高いとされる食品の具体的な種類とその特徴について解説します。

これらの情報を知ることで、日々の食事選びや調理の工夫に役立てることができます。

水分の少ない乾燥した食品(パン・イモ類など)

パン(特にパサパサしたもの)、クッキー、ビスケット、カステラ、ゆで卵の黄身、粉ふきいも、焼き芋などは、水分が少なく、口の中でまとまりにくい性質があります。

唾液が少ないと、これらの食品は口の中でバラバラになりやすく、飲み込む際に気管に入りやすくなります。また、喉に貼り付きやすいものもあります。

これらの食品を食べる際は、飲み物と一緒に摂る、細かくする、水分を加えてしっとりさせるなどの工夫が必要です。

乾燥しやすい食品の例と対策のポイント

食品例特徴対策のポイント
パン、ビスケットパサパサしてまとまりにくい牛乳やスープに浸す、ジャムやバターを塗る
ゆで卵の黄身水分が少なくむせやすいマヨネーズなどと和える、細かくする
粉ふきいも、焼き芋口の中の水分を奪うだし汁や牛乳で煮る、潰して水分を加える

口腔内で細かく分解される食品(ひじき・ひき肉など)

ひじき、わかめなどの海藻類、きのこ類、ゴマ、ナッツ類、ひき肉、豆類などは、口の中で噛んでいるうちに細かくバラバラになりやすい食品です。

細かくなったものが唾液と混ざりにくく、食塊としてまとまりにくいため、飲み込む際に気管に入りやすくなります。特に、ひき肉は加熱するとポロポロとした状態になりやすいため注意が必要です。

これらの食品は、細かく刻みすぎない、あんかけにする、片栗粉などでまとめる、ミキサーにかけるなどの調理法で、飲み込みやすくする工夫が求められます。

噛み切りにくい食品(タコ・イカ・こんにゃくなど)

タコ、イカ、貝類、こんにゃく、ごぼう、たけのこ、生のセロリやリンゴなどは、弾力があったり、繊維質が多かったりして、噛み切りにくい食品です。

十分に噛み砕けないまま飲み込もうとすると、喉に詰まったり、誤嚥したりする危険性があります。特に、歯の状態が良くない方や噛む力が弱い方は注意が必要です。

これらの食品は、隠し包丁を入れる、圧力鍋で柔らかく煮る、細かく刻む、すりおろすなど、食べやすい形状に調理することが大切です。

噛み切りにくい食品の調理の工夫

食品例特徴調理の工夫例
タコ、イカ弾力があり硬い薄切り、細かく刻む、圧力鍋で煮る
こんにゃく弾力があり滑りやすい細かく切る、隠し包丁を入れる
ごぼう、たけのこ繊維が多く硬い薄切り、すりおろす、柔らかく煮る

粘着性の高い食品(餅・のり・わかめなど)

餅、団子、おこわ、生麩、のり(特に焼きのりや味付けのり)、わかめ、もずくなどは、粘着性が高く、口の中や喉に貼り付きやすい性質があります。

一度貼り付くと剥がれにくく、窒息や誤嚥の原因となることがあります。特に、餅は毎年窒息事故が多く報告されており、注意が必要です。

これらの食品は、小さく切る、水分を多めに一緒に摂る、とろみのあるものと混ぜるなどの工夫をすると良いでしょう。餅は、粥状にする、餅用のとろみ調整食品を使用するなどの方法もあります。

とろみのない液体(お茶・水など)

意外に思われるかもしれませんが、お茶や水、ジュース、味噌汁の汁などのサラサラとした液体は、嚥下機能が低下している方にとっては誤嚥しやすいものの一つです。

液体は動きが速いため、飲み込むタイミングを合わせるのが難しく、気管に流れ込みやすいのです。特に、むせやすい方は注意が必要です。

このような場合は、液体にとろみをつけることで、喉を通過するスピードを遅らせ、飲み込みやすくすることができます。市販のとろみ調整食品を利用すると便利です。

液体の誤嚥を防ぐポイント

液体の種類誤嚥しやすい理由対策
水、お茶、ジュース動きが速く、気管に入りやすいとろみをつける、少量ずつ飲む
味噌汁、スープの汁具と汁が分離しやすい具材を細かくする、汁にとろみをつける

食品形状と調理法による誤嚥予防

誤嚥を予防するためには、食べ物の種類だけでなく、その形状や調理法も非常に重要です。ここでは、安全に食事をするための具体的な工夫について解説します。

適切な食品の大きさと形状の選択

食べ物の大きさや形状は、飲み込みやすさに大きく影響します。大きすぎるものは喉に詰まりやすく、小さすぎたりバラバラになりやすいものは気管に入りやすくなります。

一般的に、一口で無理なく食べられる大きさにし、ある程度まとまりのある形状にすることが推奨されます。

例えば、野菜は細かく刻むよりも、ある程度の大きさを保ちつつ柔らかく煮る方が、食塊としてまとまりやすく、安全な場合があります。

個々の嚥下能力に合わせて、適切な大きさと形状を見つけることが大切です。

とろみ剤の効果的な活用方法

とろみ剤(とろみ調整食品)は、液体や食品にとろみをつけて飲み込みやすくするためのものです。水やお茶、ジュースなどの液体だけでなく、味噌汁やスープ、あんかけ料理などにも活用できます。

とろみをつけることで、食べ物が喉をゆっくりと通過し、気管に入りにくくなります。

とろみ剤には様々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。使用する際は、製品の説明書をよく読み、適切な量を守って使用することが重要です。

とろみの強さは、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみなど、段階的に調整できます。どの程度の強さが適切かは、医師や歯科医師、言語聴覚士などの専門家に相談すると良いでしょう。

とろみ剤使用時の注意点

  • ダマにならないように、よくかき混ぜる。
  • とろみがつくまでに時間がかかる場合がある。
  • 温度によってとろみのつき方が変わることがある。
  • 一度とろみをつけたものは、再加熱でとろみが弱まることがある。

食品のテクスチャー調整と調理の工夫

テクスチャーとは、食べ物の舌触りや歯ごたえ、硬さなどのことです。嚥下機能に合わせて食品のテクスチャーを調整することは、誤嚥予防に非常に効果があります。

具体的な調理の工夫としては、以下のようなものがあります。

柔らかく煮込む野菜や肉などは、時間をかけて煮込むことで柔らかくなり、噛みやすく飲み込みやすくなります。圧力鍋の活用も有効です。
潰す・裏ごしする芋類や豆類、野菜などを潰したり裏ごししたりすることで、滑らかなペースト状になり、飲み込みやすくなります。
刻む・ミキサーにかける固形物を細かく刻んだり、ミキサーにかけてポタージュ状にしたりすることで、咀嚼が難しい方でも食べやすくなります。ただし、細かくしすぎると逆に誤嚥しやすくなる場合もあるため、状態に合わせます。
片栗粉やゼラチンでまとめるバラバラになりやすい食品(ひき肉など)や液体は、片栗粉でとろみをつけたり、ゼラチンで固めてゼリー状にしたりすることで、まとまりが良くなり、安全に食べられます。

嚥下機能に合わせた食事形態の段階的調整

嚥下機能は、その日の体調や病状の進行によって変化することがあります。そのため、常に同じ食事形態ではなく、その時の状態に合わせて柔軟に調整することが重要です。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会が提唱する「嚥下調整食分類」などを参考に、医師や管理栄養士、言語聴覚士と相談しながら、適切な食事形態を選択します。

食事形態は、普通食から始まり、きざみ食、ソフト食、ミキサー食、ゼリー食など、段階的に調整されます。

どの段階が適切かは専門家が判断しますが、家庭でも観察を続け、変化があればすぐに相談できる体制を整えておくことが大切です。

食事環境と姿勢による誤嚥予防

誤嚥を防ぐためには、食事の内容だけでなく、食事をする際の環境や姿勢も大きく影響します。落ち着いて食事に集中できる環境を整え、正しい姿勢で食べることを心がけましょう。

安全な食事姿勢の基本(30~60度のリクライニングなど)

安全な食事姿勢の基本は、体幹を安定させ、首が後ろに反らないようにすることです。ベッドで食事をする場合は、上半身を30~60度程度起こしたリクライニング位が推奨されます。

可能であれば、90度に近い座位(椅子に座った姿勢)が望ましいです。顎を軽く引くことで、気管の入り口が狭まり、食道が広がりやすくなります。

足が床につかない場合は、足台などを使用して安定させます。体が傾いてしまう場合は、クッションやタオルを使って支え、左右対称の安定した姿勢を保つようにしましょう。

食事時の安全な姿勢のポイント

ポイント具体的な方法理由
体幹の安定深く座る、背もたれを利用飲み込み動作をスムーズにする
顎を引くやや下を向くような姿勢気管への流入を防ぎ、食道を開きやすくする
足底の接地足が床や足台につくようにする姿勢を安定させ、踏ん張りを効かせる

食事中・食後の姿勢管理のポイント

食事中だけでなく、食後もしばらくは誤嚥に注意が必要です。食べたものが胃から逆流して気管に入ることがあるためです。

食後すぐに横になると逆流しやすいため、少なくとも30分~1時間程度は座った姿勢や上半身を起こした姿勢を保つようにしましょう。特に、胃食道逆流症のある方は注意が必要です。

食事中は、一口の量を少なくし、よく噛んでゆっくりと食べることを促します。テレビを消すなど、食事に集中できる環境を作ることも大切です。

食事環境の整備と集中できる空間づくり

食事に集中できる環境を作ることも、誤嚥予防には重要です。

騒がしい場所や、気が散るものが多い場所では、飲み込みのタイミングがずれたり、慌てて食べてしまったりする可能性があります。

以下の点に注意して、食事環境を整えましょう。

  • 静かで落ち着いた場所を選ぶ。
  • テレビやラジオを消すなど、視覚的・聴覚的な刺激を減らす。
  • テーブルの高さや椅子の高さを調整し、楽な姿勢で食事ができるようにする。
  • 明るさを確保し、食べ物がよく見えるようにする。

食事の時間をリラックスして楽しめるような雰囲気作りも、食欲増進や安全な食事につながります。

介助者の適切な位置取りと声かけ

食事介助を行う場合、介助者の位置や声かけも重要です。介助者は、食事をする方の斜め前、または横に座り、目線の高さを合わせるようにします。

これにより、食事をする方は介助者の顔を見ながら安心して食事を進めることができ、介助者も口元の動きや表情を観察しやすくなります。

声かけは、穏やかな口調で、食事のペースに合わせて行います。「次は何を食べますか?」「よく噛んでくださいね」「ゆっくり飲み込みましょう」など、具体的な指示を出すと分かりやすいです。

食事の前に「これから食事を始めますよ」と声をかけ、意識を食事に向けてもらうことも大切です。

多職種連携による誤嚥予防と早期対応

在宅での誤嚥予防と早期対応には、ご家族だけでなく、医師、看護師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士、ケアマネジャーなど、多くの専門職が連携して関わることが重要です。

それぞれの専門性を活かし、情報を共有しながら、包括的なサポート体制を築きます。

家族と医療者の効果的な情報共有方法

ご家族は、日々の食事の様子や体調の変化などを最もよく把握している存在です。医療者は、専門的な知識や技術を持っています。

これらの情報を効果的に共有することが、適切な誤嚥予防策を講じる上で欠かせません。

連絡ノートや共有アプリなどを活用し、食事量、むせの有無、食事にかかる時間、食後の様子などを記録し、訪問診療や訪問看護の際に伝えるようにしましょう。

ささいな変化でも、専門家にとっては重要な情報となることがあります。疑問や不安な点があれば、遠慮なく相談することが大切です。

情報共有のポイント

共有する情報共有のタイミング共有方法の例
食事の様子(むせ、時間、量)定期的、変化があった時連絡ノート、口頭報告
体調の変化(発熱、痰の増加)速やかに電話連絡、訪問時報告
口腔内の状態(汚れ、乾燥)定期的、気づいた時訪問歯科診療時、看護師へ報告

訪問診療医・看護師・歯科医師・言語聴覚士の役割

在宅での誤嚥予防には、各専門職がそれぞれの役割を果たすことが重要です。

  • 訪問診療医: 全身状態の管理、誤嚥性肺炎の診断・治療、嚥下機能評価の指示、薬剤調整などを行います。
  • 訪問看護師: 日常的な健康管理、食事介助方法の指導、口腔ケアの実施・指導、緊急時の対応、家族への精神的サポートなどを行います。
  • 訪問歯科医師・歯科衛生士: 口腔内の診察、専門的な口腔ケア、義歯の調整、嚥下機能評価、摂食嚥下リハビリテーションの指導などを行います。
  • 言語聴覚士(ST): 専門的な嚥下機能評価、嚥下訓練の計画・実施、食事形態や介助方法のアドバイス、コミュニケーション支援などを行います。

これらの専門職が連携し、定期的に情報を交換しながら、ご本人やご家族をサポートします。

日常的な口腔ケアと嚥下機能訓練の実践

口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防に非常に重要です。口の中を清潔に保つことで、誤嚥した際に細菌が肺に入るリスクを減らすことができます。

食後だけでなく、食前や就寝前にも口腔ケアを行うことが推奨されます。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシや舌ブラシ、保湿剤などを適切に使い、口腔内の清掃と保湿を心がけましょう。

嚥下機能訓練は、飲み込む力を維持・向上させるための訓練です。首や肩の体操、口や舌の体操(パタカラ体操など)、呼吸訓練、空嚥下(唾液を飲み込む練習)など、様々な方法があります。

これらの訓練は、言語聴覚士などの専門家の指導のもと、安全に配慮しながら行うことが大切です。無理のない範囲で、毎日続けることが効果的です。

誤嚥兆候の早期発見と緊急時の対応策

誤嚥の兆候を早期に発見し、適切に対応することも重要です。以下のようなサインが見られたら、誤嚥を疑いましょう。

  • 食事中や食後にむせる、咳き込む。
  • 声がガラガラになる(湿性嗄声)。
  • 痰が増える、痰の色が変わる。
  • 飲み込んだ後に、口の中に食べ物が残っている。
  • 食事中に顔色が悪くなる、呼吸が苦しそうになる。
  • 原因不明の発熱がある。

これらの兆候が見られた場合は、食事を一時中断し、様子を見ます。むせが続く場合や呼吸状態が悪化する場合は、速やかにかかりつけ医や訪問看護師に連絡し、指示を仰ぎましょう。

窒息の危険がある場合は、救急車を呼ぶこともためらわないでください。事前に緊急時の連絡先や対応手順を確認しておくことが大切です。

よくあるご質問

ここでは、在宅での誤嚥予防や食事に関して、ご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

とろみ剤はどんな飲み物にも使えますか?

ほとんどの飲み物に使用できますが、とろみ剤の種類によっては、牛乳や酸味の強い飲み物(オレンジジュースなど)ではとろみがつきにくい、または分離してしまうことがあります。

使用する製品の説明書をよく確認し、少量で試してから使用することをおすすめします。

味噌汁やスープなどの温かいものにも使用できますが、温度によってとろみのつき方が変わることがあるため注意が必要です。

食事介助の際に気をつけることは何ですか?

まず、ご本人のペースに合わせて、一口ずつゆっくりと介助することが大切です。無理強いしたり、急かしたりしないようにしましょう。

スプーンは、口の奥に入れすぎず、下唇に軽く乗せるようにして、ご本人が自分で口に取り込むのを待ちます。飲み込んだのを確認してから次の一口を勧めましょう。

食事中は、むせや表情の変化などに注意し、異変があればすぐに介助を中断してください。

むせたら必ず誤嚥していますか?

むせることは、異物が気管に入りそうになったり、入ったりした時に、それを排出しようとする体の防御反応です。

そのため、むせたからといって必ずしも誤嚥しているわけではありませんし、むせることで誤嚥を防いでいる場合もあります。

しかし、頻繁にむせる、食事のたびにむせる、むせ方が激しいといった場合は、誤嚥のリスクが高い状態と考えられますので、医師や専門家に相談することをおすすめします。

また、むせないのに誤嚥している「不顕性誤嚥」もあるため、注意が必要です。

嚥下訓練はどのように行えばよいですか?

嚥下訓練には、間接訓練(食べ物を使わない訓練)と直接訓練(食べ物を使う訓練)があります。間接訓練としては、首や肩のストレッチ、深呼吸、口唇や舌の運動(「パ」「タ」「カ」「ラ」と発声するパタカラ体操など)、唾液を飲み込む練習(空嚥下)などがあります。

直接訓練は、実際に食べ物を使って飲み込む練習を行いますが、誤嚥のリスクも伴うため、必ず医師や言語聴覚士の指導のもとで行ってください。

ご自宅で安全に行える訓練については、訪問リハビリテーションなどで指導を受けると良いでしょう。

食べ物の好き嫌いが多いのですが、どうすれば良いですか?

嚥下機能が低下している方にとって、食事は楽しみの一つであると同時に、大きな負担となることもあります。

無理強いはせず、まずは本人が食べたいと思うもの、食べやすいものを優先することも大切です。その上で、栄養バランスや誤嚥のリスクを考慮し、調理法を工夫したり、代替食品を探したりするなどの対応を考えます。

例えば、好きな食材をペースト状にしたり、ゼリー状にしたりすることで、安全に食べられるようになることもあります。

管理栄養士や言語聴覚士に相談し、個別の状況に合わせた食事の工夫を見つけていくことが重要です。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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