在宅での療養生活を検討する際、多くの人が直面する疑問の一つに、関わる医療職種の多さとその役割の違いがあります。
特に「訪問診療」と「訪問看護」は、言葉が似ているため混同されがちですが、実際には医師と看護師という明確な職能の違いがあり、提供できるサービスも異なります。
結論から申し上げますと、これらは必ずしもセットで契約しなければならないものではありませんが、併用することで病院に入院しているのと近い手厚い医療体制を自宅で再現できるため、多くのケースで両方の利用が推奨されます。
医師による医学的な診断・治療方針の決定と、看護師による日々の体調管理や生活支援が組み合わさることで、患者様とご家族の安心感は飛躍的に高まります。
この記事では、それぞれの役割の違いを明確にし、なぜ併用することが推奨されるのか、具体的なメリットや導入の流れについて詳しく解説します。
訪問診療と訪問看護の基本的な役割と決定的な違い
訪問診療は「治療と診断の責任者」であり、訪問看護は「療養生活の伴走者」であるという明確な役割分担がなされています。
訪問診療と訪問看護は、それぞれ医師と看護師が自宅へ出向くという点では共通していますが、その法的権限や行える行為にははっきりとした線引きがあります。
医師による医学的管理を中心とした訪問診療
訪問診療とは、通院が困難な患者様の自宅へ医師が定期的に訪問し、診療を行う医療サービスです。
ここで重要なのは、患者様の体調が悪くなった時だけ往診するのではなく、安定している時も含めて計画的に訪問し、病気の管理を行う点にあります。
医師は診察を行い、薬の処方や検査の指示、点滴などの医療処置を行います。また、長期的な治療方針の決定や、病状が変化した際の診断など、医学的な判断のすべてを担います。
例えば、痛みのコントロールが必要な場合に鎮痛剤の種類や量を決定するのは医師の役割です。在宅療養においては、病院の主治医と同様の機能を自宅に持ち込むイメージを持つと分かりやすいでしょう。
定期的な訪問により、病気の進行予防や早期発見に努め、入院することなく自宅での生活が継続できるようサポートします。
看護師による生活支援とケアを中心とした訪問看護
訪問看護は、看護師が自宅を訪問し、医師の指示書に基づいて療養上のお世話や必要な診療の補助を行うサービスです。
医師が医学的な決定を行うのに対し、看護師はその決定に基づき、日々の具体的なケアを実践します。
具体的な業務は多岐にわたり、血圧や体温の測定といったバイタルチェックから、食事や排泄の介助、入浴の支援、さらには床ずれの処置や点滴の管理なども行います。
また、ご家族に対する介護指導や相談対応も重要な役割の一つです。訪問看護師は、患者様の生活の場に入り込み、一番近い存在として心身の状態を観察し続けます。
医師の訪問頻度が月2回程度であるのに対し、訪問看護は必要に応じて週に数回訪問することができるため、細やかな変化に気づきやすいという特徴があります。
職種による具体的権限と業務範囲の比較
医師と看護師では、法律で認められている行為が異なります。最も大きな違いは「診断」と「処方」の権限です。看護師は独自の判断で病名を診断したり、薬を処方したりすることはできません。
すべての医療行為は医師の指示の下で行う必要があります。
一方で、看護師は患者様の生活背景や家族の状況をより深く把握し、生活者の視点から療養環境を整えること長けています。
「薬を飲む」という行為一つをとっても、医師は「何の薬をどれくらい出すか」を決めますが、看護師は「どうすれば飲み忘れないか」「副作用が出ていないか」を生活の中で確認します。
このように、双方が異なる視点と権限を持ち寄ることで、在宅医療は成立しています。
役割の違いを整理した比較
| 項目 | 訪問診療(医師) | 訪問看護(看護師) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 診断、治療方針の決定、処方 | 生活支援、診療補助、状態観察 |
| 訪問頻度 | 月2回程度(定期的) | 週1〜3回程度(状態による) |
| 緊急時 | 指示出し、往診(必要時) | 緊急訪問、応急処置 |
どちらか一方だけの利用も可能か
制度上は、訪問診療のみ、あるいは訪問看護のみを利用することは可能です。例えば、病状が非常に安定しており、薬の処方と定期的な確認だけで十分な場合は訪問診療のみで対応することもあります。
逆に、主治医は外来に通える病院の医師にお願いし、日々のケアだけ訪問看護を利用するというケースもあります。
しかし、在宅療養を必要とする方の多くは、通院が困難なほどの身体状況にあることがほとんどです。
そのため、実際には医療的な管理と日々のケアの両方が必要となる場面が多く、結果として両方を併用するケースが一般的です。
特に病状が不安定な場合や、医療処置が多い場合は、片方だけのサービスでは在宅生活を支えきれないリスクがあることを理解しておくことが大切です。
両者をセットで利用する最大の理由は連携力
医師と看護師が密に情報を共有することで、変化の兆候を逃さず、迅速な対応が可能になります。
訪問診療と訪問看護を併用する最大の意義は、強固な連携体制による「切れ目のない医療」の提供にあります。
情報共有によるリアルタイムな状況把握
在宅医療の現場では、患者様の状態は日々変化します。医師が訪問しない日に患者様の様子がおかしいと感じた場合、訪問看護師がいればすぐに状態を確認し、医師へ報告することができます。
この「報告」が非常に重要であり、専門的な視点を持つ看護師からの情報は、医師が迅速かつ正確な判断を下すための材料となります。
現在はICTツールなどを活用し、チャットや電子カルテを通じてリアルタイムに情報を共有する事業所も増えています。
例えば、看護師が撮影した患部の画像を医師が即座に確認し、処置の変更を指示するといった連携が日常的に行われています。
こうした連携のおかげで、医師がそばにいない時間であっても、実質的には医師の目の届く範囲にいるような安心感を提供することができます。
緊急時における迅速な指示系統の確立
夜間や休日に体調が急変した場合、ご家族だけで判断し対応するのは非常に困難であり、大きな不安が伴います。
訪問診療と訪問看護がセットで入っている場合、明確な連絡ルートと指示系統が確立されています。
まず看護師が駆けつけて状況を確認し、医師に電話で報告して指示を仰ぐ、あるいは医師が直接往診に向かうといった連携がスムーズに行われます。
お互いの役割と患者様の特徴を熟知しているチームだからこそ、初動の遅れを防ぐことができます。
救急車を呼ぶべきかどうかの判断も、医療チームが相談に乗ってくれるため、不必要な救急搬送を減らし、ご本人とご家族の負担を軽減することにもつながります。
治療方針と生活ケアの方向性の統一
医師が考える「治療の目標」と、患者様やご家族が望む「生活の目標」をすり合わせる上でも、両者の連携は重要です。
医師は医学的な見地から最善を提案しますが、それが実際の生活において実施可能かどうかは、生活環境を知る看護師の意見が参考になります。
例えば、頻繁な点滴が必要な治療方針が出された際、看護師が「ご家族の介護力では管理が難しい」と助言することで、より現実的な内服治療へ変更されることもあります。
このように、医師と看護師が密に話し合うことで、医学的な正しさと生活の質(QOL)のバランスが取れた、その人らしい療養計画が作成されます。
連携によって生まれる具体的な効果
- 些細な体調変化の早期発見と早期治療
- 薬の調整や副作用確認の迅速化
- 緊急時のたらい回し防止とスムーズな対応
地域包括ケアシステムの中での役割分担
現代の在宅医療は、地域全体で患者様を支える「地域包括ケアシステム」の中で機能しています。訪問診療医と訪問看護師は、その中核を担う存在です。
ケアマネジャーや薬剤師、ヘルパー、リハビリ専門職など、多くの職種が関わる中で、医療的な判断の軸となるのが医師であり、その判断を各職種に分かりやすく翻訳して伝えるのが看護師の役割でもあります。
セットで利用することで、この多職種連携のハブ(中心)機能が強化されます。
医師の指示が看護師を通じてヘルパーやケアマネジャーにも正しく伝わることで、食事形態の変更や入浴方法の注意点などがチーム全体で共有され、安全な在宅生活の基盤が作られます。
患者様自身にとっての併用メリット
医療的な安全性が担保されることで、安心して自分らしい生活を送ることができるようになります。
患者様ご本人にとって、訪問診療と訪問看護を併用することは、自宅にいながら病院に近い安全性と、自宅ならではの自由さを両立できるメリットがあります。
24時間365日の安心感が得られる
自宅で過ごす上で最も大きな不安は「夜中に具合が悪くなったらどうしよう」という点です。
訪問看護ステーションの多くは24時間対応体制をとっており、契約していればいつでも電話相談や緊急訪問を受けることができます。
さらに訪問診療医との連携があれば、必要な時に医師の指示や往診を受けられます。
この「いつでも医療者につながる」という環境は、患者様の精神的な安定に大きく寄与します。
痛みや苦しみがある時、我慢せずに相談できる相手がいることは、療養生活を継続する上で非常に大きな支えとなります。
孤独感を感じやすい在宅療養において、定期的に顔なじみのスタッフが来てくれること自体が、心のケアにもつながります。
医療処置があっても自宅で暮らせる
かつては病院でなければ管理できなかったような高度な医療処置も、現在は訪問診療と訪問看護のセット利用によって自宅で実施可能になっています。
例えば、在宅酸素療法、人工呼吸器の管理、中心静脈栄養、経管栄養、尿道カテーテル留置、床ずれの処置などが挙げられます。
医師が管理計画を立て、看護師が日常のメンテナンスやトラブル対応を行うことで、重い病気や障害があっても住み慣れた家で暮らす選択肢が生まれます。
最期まで自宅で過ごしたいという希望を叶えるためには、この医療的バックアップ体制が必要不可欠といえるでしょう。
専門家によるメンタルサポート
病気と向き合う生活は、身体的な苦痛だけでなく、精神的な辛さを伴うものです。
「家族に迷惑をかけているのではないか」「これからどうなってしまうのか」といった不安を抱える患者様は少なくありません。
医師には話しにくいことでも、日常的にケアをしてくれる看護師には話しやすいという場面も多々あります。
訪問看護師は、身体のケアだけでなく、傾聴や対話を通じた精神的ケアのプロフェッショナルでもあります。患者様の想いを受け止め、必要であれば医師やご家族との橋渡しを行います。
心身両面からのサポートを受けることで、穏やかな気持ちで日々を過ごすことが可能になります。
患者様が得られる主な恩恵
| メリットの種類 | 具体的な内容 | 生活への影響 |
|---|---|---|
| 身体的メリット | 適切な疼痛管理、褥瘡予防 | 苦痛の少ない生活維持 |
| 精神的メリット | いつでも相談できる安心感 | 孤独感や不安の軽減 |
| 社会的メリット | 入院生活の回避 | 住み慣れた地域での生活継続 |
自分らしい生活リズムの維持
病院での生活は、起床時間や消灯時間、食事の時間などが決められており、集団生活の規律に従う必要があります。しかし、在宅療養では自分のペースで生活することができます。
訪問診療と訪問看護を併用することで、医療的な安全性を確保しつつ、その人らしい生活リズムを守ることが可能です。
例えば、お風呂が好きな方であれば、病状を見ながら安全に入浴できるよう看護師が介助します。
ペットと一緒に過ごしたい、好きなお酒を少しだけたしなみたいといった希望も、医師と看護師が連携して医学的な許容範囲を見極めながら、可能な限り実現できるようサポートします。
管理されるだけの生活ではなく、楽しみや生きがいを持てる生活を支えます。
ご家族にとっての併用メリット
プロの手を借りることで、介護一色の生活から解放され「家族」としての時間を大切にできるようになります。
在宅医療を支えるご家族の負担は計り知れませんが、訪問診療と訪問看護を併用することで、身体的・精神的な負担を大幅に軽減できます。
介護負担と精神的プレッシャーの軽減
家族だけで介護を行う場合、24時間気が休まる暇がなく、「自分がしっかりしなければ」という強いプレッシャーにさらされがちです。
特に医療的な知識がない中で、点滴の管理や痰の吸引などの医療的ケアを行うことは、大きな恐怖とストレスを伴います。
訪問看護を利用すれば、入浴介助や排泄ケアなどの重労働をプロに任せることができます。また、医療処置に関しても看護師が定期的に管理し、ご家族に行ってもらう手技についても丁寧に指導します。
「何かあればすぐにプロが来てくれる」という環境があるだけで、ご家族の精神的な重圧は大きく軽くなります。
医師と看護師がチームとして関わることで、責任を分散し、ご家族が孤立することを防ぎます。
正しいケア技術と知識の習得
在宅療養が始まった当初は、多くのご家族が介護や医療処置の方法について初心者です。
間違った方法でケアをしてしまうと、患者様を苦しめるだけでなく、介護をするご家族自身が腰を痛めるなどのトラブルにつながりかねません。
訪問看護師は、ご自宅の環境に合わせた効率的で楽な介護方法を指導します。例えば、ベッドからの移乗方法やおむつ交換のコツ、清拭(体を拭くこと)の方法などです。
また、医師からは病状に応じた食事の注意点や、急変時の対応について医学的な根拠に基づいたアドバイスを受けられます。
正しい知識と技術を身につけることで、自信を持ってケアに当たることができるようになります。
ご家族を支える具体的なサポート要素
- 夜間や休日の緊急時対応による安心感の提供
- 介護疲れを防ぐための一時的なケアの代替
- 療養環境を整えるための福祉用具等の提案
緊急時の判断を委ねられる安心
患者様の様子が急変した時、救急車を呼ぶべきか、様子を見るべきか、ご家族が判断を迫られる場面があります。しかし、医学的な知識がない中でその判断を下すのは非常に困難です。
訪問診療と訪問看護のセット利用があれば、まずは連絡を入れることで、プロが医学的な判断を代行してくれます。
「先生や看護師さんが指示してくれた通りにすれば良い」という状況は、パニックになりがちな緊急時において非常に重要です。
もし入院が必要な場合でも、連携している病院への連絡や紹介状の準備などをスムーズに行ってもらえるため、ご家族は患者様のそばに寄り添うことに集中できます。
レスパイトケア(休息)の確保
介護は長期間に及ぶことが多く、ご家族が共倒れしてしまっては元も子もありません。ご家族が自分の時間を持ったり、ゆっくり休んだりするための「レスパイト(休息)」が必要です。
訪問看護師が訪問している時間は、ご家族が外出したり、別の部屋で休んだりできる貴重な時間となります。
また、医師や看護師は、ご家族の疲労度にも目を配っています。
限界が来る前に、ショートステイ(短期入所)の利用を提案したり、介護サービスの区分変更を助言したりと、制度面からのサポートも行います。
患者様だけでなく、ご家族も含めた全体を「ケアの対象」として捉え、持続可能な在宅生活を支援します。
特に併用が推奨される具体的なケース
医療依存度が高い場合や病状の変化が予測される場合、そして最期の時間を自宅で過ごしたい場合に併用は特に重要となります。
すべての在宅患者様にセット利用が必要なわけではありませんが、病状や環境によっては強く推奨されるケースがあります。
末期がんや終末期ケア(看取り)を希望する場合
人生の最期を自宅で迎えたいと希望される場合、痛みのコントロール(緩和ケア)と、刻一刻と変化する状態への対応が必要です。
がんの末期などでは、麻薬を使った疼痛管理が必要になることが多く、医師による繊細な処方調整と、看護師による頻繁な状態観察が求められます。
また、お看取りの時期が近づくと、ご家族の不安もピークに達します。夜間・休日を問わず対応できる体制が整っていることは、穏やかな最期を迎えるための絶対条件とも言えます。
医師が死亡診断を行うまでの流れも含め、チームでのサポートが大切です。
難病や重度の障害がある場合
ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病などの神経難病、あるいは脳卒中の後遺症などで重度の障害がある場合も、併用が基本となります。
これらの疾患では、人工呼吸器の管理、痰の吸引、経管栄養など、日常的に医療的ケアが必要となる場面が多いからです。
病気の進行に合わせて、必要なケアの内容も変化していきます。
医師が専門的な治療計画を立て、看護師やリハビリスタッフが機能を維持するためのケアを行うことで、在宅での生活期間を延ばし、QOLを維持することにつながります。
退院直後で病状が不安定な時期
病院から退院してすぐの時期は、環境の変化により体調を崩しやすいタイミングです。また、ご家族も介護に慣れておらず、トラブルが起きやすい時期でもあります。
退院直後は集中的に訪問看護を利用し、生活が軌道に乗るまで手厚くサポートすることが推奨されます。
この時期に訪問診療医もしっかりと関わることで、病院での治療からの移行をスムーズに行い、再入院のリスクを下げることができます。状態が安定してきたら、訪問回数を減らすなどの調整も可能です。
病態別のサポートニーズ一覧
| 病態・状況 | 主な医療ニーズ | 併用の重要性 |
|---|---|---|
| 終末期・看取り | 疼痛緩和、精神的ケア | 24時間体制での急変対応に必須 |
| 医療依存度高 | 機器管理、処置全般 | 安全な医療処置の継続に必須 |
| 認知症(重度) | 服薬管理、BPSD対応 | 生活リズムの確立と家族支援 |
認知症の症状が進行している場合
認知症の方の場合、ご自身で体調の不調を訴えることが難しいケースがあります。そのため、客観的に観察できるプロの目が必要です。
また、拒薬(薬を飲むのを嫌がる)や徘徊、暴言などの行動・心理症状(BPSD)に対して、医師による薬物療法と、看護師による対応の工夫を組み合わせることで、症状が落ち着くことがあります。
認知症ケアはご家族の疲弊が特に激しいため、医療チームが介入して適切な距離感を保ちながらサポートすることが、在宅生活破綻を防ぐ鍵となります。
導入までの流れと手続き
まずは相談員やケアマネジャーを窓口にし、医師からの「訪問看護指示書」を発行してもらうことがスタート地点となります。
実際に訪問診療と訪問看護のセット利用を始めるには、いくつかの手順を踏む必要があります。
相談窓口と最初のステップ
現在入院中であれば病院の「地域連携室」や「医療相談室」のソーシャルワーカーに、すでに自宅にいる場合は担当の「ケアマネジャー」に相談するのがスムーズです。
「自宅で療養したい」「訪問診療と訪問看護を使いたい」という意向を伝えましょう。
自分で探すことも可能ですが、地域には「在宅療養支援診療所」や「訪問看護ステーション」が多数あり、それぞれ得意とする分野や対応可能な範囲が異なります。
専門家であるケアマネジャーなどに紹介してもらうことで、患者様の状態に合った事業所を見つけやすくなります。
医師による指示書の発行
訪問看護を利用するためには、主治医が作成する「訪問看護指示書」が必ず必要になります。
これは法律で定められたルールであり、医師が「この患者さんには訪問看護が必要である」と認め、具体的なケアの内容を指示する書類です。
訪問診療を行う医師が決まったら、その医師に指示書を書いてもらいます。
これまで病院にかかっていた場合は、病院の主治医からの診療情報提供書(紹介状)を訪問診療医に渡し、情報を引き継いだ上で、訪問診療医が新たな主治医として指示書を作成する流れが一般的です。
この書類があって初めて、訪問看護師は医療的なケアを行うことができます。
契約から開始までのフロー
| 段階 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 相談・選定 | ケアマネ等へ相談 | 希望や条件を明確に伝える |
| 面談・契約 | 各事業所と契約 | 診療・看護それぞれの説明を受ける |
| 指示書発行 | 医師から看護へ指示 | 連携のスタート地点 |
それぞれの事業所との契約
訪問診療を行うクリニックと、訪問看護ステーションは、多くの場合別の組織です(クリニックに併設されている場合もあります)。
そのため、基本的にはそれぞれと個別に契約を結ぶ必要があります。
契約の際には、緊急時の連絡先や費用、受けられるサービスの内容、個人情報の取り扱いなどについて説明を受けます。重要事項説明書などの書類に署名・捺印を行います。
この時、診療と看護の事業所同士が日頃から連携しているかどうかも確認しておくと良いでしょう。顔の見える関係ができているチームであれば、より安心です。
初回訪問とケアプランへの反映
契約が完了すると、初回訪問が行われます。医師や看護師が実際に自宅を訪れ、ご本人やご家族と面談し、身体の状態や生活環境を確認します。
その上で、具体的な訪問スケジュールやケアの内容を決定します。
介護保険を利用する場合は、これらのサービスはケアマネジャーが作成する「ケアプラン(居宅サービス計画書)」に組み込まれます。
訪問診療は医療保険で行う場合がほとんどですが、訪問看護は介護保険と医療保険のどちらを使うかが病名や状態によって異なります。
このあたりの複雑な制度調整も、ケアマネジャーや各事業所の担当者が行ってくれます。
事業者選びで失敗しないためのポイント
24時間対応の実効性と、スタッフとの相性、そして事業所間の連携実績を確認することが大切です。在宅医療は長く続く生活の一部となるため、事業者選びは慎重に行う必要があります。
連携実績のある組み合わせを選ぶ
訪問診療のクリニックと訪問看護ステーションが、普段からよく連携している組み合わせを選ぶのが最もスムーズです。
ケアマネジャーは地域の事情に詳しいため、「ここの先生とあそこのステーションは相性が良い」「よく一緒に仕事をしている」といった情報を持っています。
同じ法人グループ内であれば連携は密ですが、別の法人であってもICTツールなどを活用して緊密に連携しているケースは多々あります。
お互いに連絡が取りやすく、信頼関係があるチームを選ぶことで、情報の伝達ミスなどのトラブルを防ぐことができます。
24時間対応の実態を確認する
「24時間対応」を謳っていても、その実態は事業所によって異なります。
必ず電話がつながり、必要であればすぐに駆けつけてくれる体制があるのか、それとも電話相談がメインで夜間の出動は救急車を推奨しているのかなど、具体的な対応内容を確認しましょう。
特に重症度が高い方や終末期の方は、実際に夜間や休日に医師や看護師が来てくれる体制があるかどうかが生命線となります。
契約前の面談時に「夜中に熱が出たらどうなりますか?」「先生は来てくれますか?」など、具体的な質問をしてみることをお勧めします。
確認すべきチェックポイント
| 確認項目 | 見るべき視点 |
|---|---|
| 緊急対応力 | 夜間・休日の出動実績や体制 |
| 専門性 | 特定の疾患(がん、難病等)への経験 |
| 人柄・相性 | 話しやすさ、価値観の尊重 |
患者様・ご家族との相性を重視する
どれほど技術が高くても、人と人とのことですので相性はあります。
威圧的で話しにくい医師や、業務的すぎる看護師では、自宅というプライベートな空間に入ってこられることにストレスを感じてしまいます。
こちらの話をしっかり聞いてくれるか、生活スタイルや価値観を尊重してくれるかといった「人柄」の部分は非常に重要です。
可能であれば、契約前の事前面談や相談の機会を利用して、スタッフの雰囲気を確認しましょう。
長く付き合うパートナーだからこそ、信頼でき、安心して任せられる相手を選ぶことが、在宅療養の成功につながります。
よくある質問
- 同じ法人の診療所と看護ステーションを使わないといけませんか?
-
いいえ、必ずしも同じ法人のサービスを使う必要はありません。別の法人の事業所であっても、連携が取れていれば問題なく利用できます。
患者様の状態や希望に合わせて、それぞれ最適な事業所を自由に選ぶ権利がありますので、ケアマネジャー等と相談して決定してください。
- 訪問看護だけを利用したいのですが可能ですか?
-
可能です。ただし、訪問看護を利用するには必ず医師の「訪問看護指示書」が必要です。
訪問診療を行っている医師でなくても、外来通院している病院の主治医に指示書を書いてもらえば、訪問看護のみを利用することができます。
通院が困難でなく、日々のケアのみ手助けが必要な場合によく見られるケースです。
- 夜中に急変したら、必ず医師が来てくれますか?
-
必ず医師が訪問するとは限りません。まずは電話での指示や、訪問看護師が先に駆けつけて状況を確認することが一般的です。
その上で、医師が往診の必要があると判断した場合に訪問します。状況によっては救急搬送を指示されることもあります。
どのような体制で対応するかは、契約している医療機関の方針によりますので、事前に確認が必要です。
- 途中で事業所を変更することはできますか?
-
はい、変更可能です。相性が合わない、対応に不満があるといった場合は、ケアマネジャーに相談してください。
別の事業所を紹介してもらうことができます。我慢して使い続けることは、患者様とご家族双方にとってストレスになりますので、遠慮なく相談することが大切です。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。
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