訪問診療のみで訪問看護を使わない選択は可能?判断基準解説

訪問診療のみで訪問看護を使わない選択は可能?判断基準解説

訪問診療(在宅医療)を検討する際、多くのご家族や患者様が「医師の訪問だけで十分ではないか」「訪問看護まで利用すると費用や精神的な負担が増えるのではないか」という疑問を抱きます。

結論から申し上げますと、患者様の病状が安定しており、ご家族による日々のケア体制が整っている場合、訪問診療のみを利用し、訪問看護を契約しないという選択は十分に可能です。

しかし、この判断には医学的な安定性や介護力の客観的な評価が重要です。

本記事では、訪問看護を利用しない場合のメリットとデメリット、具体的な判断基準、そして代替となるサービスについて詳しく解説し、ご家庭にとって悔いのない選択をするための指針を提示します。

目次

訪問診療単独での利用が可能かどうかの基本的な考え方

訪問診療のみで在宅療養を行うことは、条件さえ整えば十分に実現可能な選択肢であり、実際に多くの患者様が医師の定期的な訪問だけで穏やかな生活を送っています。

在宅医療の現場において「訪問診療」と「訪問看護」は車の両輪のように表現されますが、すべての患者様に必ずしも両方が同時に必要とは限りません。

医師による月2回の定期的な診察と処方、そして緊急時の連絡体制が確保されていれば、日々の健康管理をご家族や介護ヘルパーで賄えるケースは多々あります。

重要なのは、医療処置の頻度と、突発的な体調変化への対応能力です。これらが見合っていれば、過剰なサービスを導入することなく、シンプルで落ち着いた在宅生活を維持できます。

訪問診療と訪問看護の役割の違いと境界線

訪問診療と訪問看護は、その目的と提供する内容において明確な違いがあります。この違いを正しく理解することが、不要なサービスを削ぎ落とし、必要なサポートだけを選び取る第一歩となります。

訪問診療を行う医師の主な役割は、病状の診断、治療方針の決定、薬剤の処方、そして死亡診断です。基本的に月2回程度の頻度で訪問し、全体的な医学管理を行います。

一方、訪問看護師は医師の指示書に基づき、日々の体調観察、服薬管理、清拭や入浴介助、床ずれの処置など、生活に密着した医療的ケアを提供します。

もし患者様が必要としているケアが、高度な医療的判断を伴わない日常的な見守りや、家族でも実施可能な軽微な処置であれば、それは訪問看護師の手を借りずとも成立する可能性が高いです。

逆に、頻繁な点滴管理や専門的な創傷処置が必要な場合は、医師の訪問だけでは間隔が空きすぎるため、看護師の介入が必要となります。

この「頻度」と「処置の専門性」が、両者の境界線となります。

医師と看護師の主な役割分担

項目訪問診療(医師)訪問看護(看護師)
主な役割診断、治療方針決定、処方日常のケア、生活支援、観察
訪問頻度月2回程度(標準)週1〜3回(必要に応じて毎日)
緊急対応指示出し、往診(必要時)24時間電話相談、緊急訪問

医療依存度が低い場合の選択肢

患者様の医療依存度が低い場合、訪問看護を導入しないという選択は非常に合理的です。

ここで言う「医療依存度が低い」とは、常時接続された医療機器がなく、病状が急激に変化するリスクが低い状態を指します。

例えば、高血圧や糖尿病などの慢性疾患で病状が安定しており、主な目的が定期的な薬の処方と健康状態の確認だけであれば、医師による月2回の訪問で十分事足ります。

このようなケースでは、日々の生活支援は介護保険適用の「訪問介護(ホームヘルパー)」に依頼することで、身体介護や生活援助をカバーできます。

看護師による医療的な視点での観察がなくとも、家族やヘルパーが「いつもと様子が違う」と気づいた時点で訪問診療医に連絡を取るルートが確立していれば、安全性を損なうことなく在宅療養を継続できます。

家族介護力によるカバーの可能性

訪問看護を使わない選択をする上で、最も大きな要素となるのが「家族介護力」です。

同居家族がおり、かつ日常的なケアに対して協力的で、ある程度の知識や技術を習得する意欲がある場合、専門職の役割を家族が代替できます。

服薬の管理、食事の介助、排泄の世話といった基本的なケアはもちろん、経管栄養の注入や痰の吸引といった医療的ケアであっても、医師や看護師から指導を受け、手技を習得すれば家族が実施することは法的に認められています。

ご家族が主体的にケアに関わることで、患者様の細かな変化に即座に気づけるという利点もあります。

家族だけで抱え込むのはリスクがありますが、主介護者に十分な体力と精神的な余裕があり、バックアップ体制も整っているのであれば、訪問看護を省略し、医師と家族の連携だけで療養生活を回していくことは十分に可能です。

訪問看護をあえて利用しないことのメリット

訪問看護を利用しないという決断は、単なる「節約」以上の積極的なメリットをご家庭にもたらす場合があります。

特に、プライバシーの保護や生活リズムの維持という観点において、外部サービスの介入を最小限に抑えることは、患者様とご家族にとって精神的な安定につながります。

経済的負担の軽減効果

在宅医療を継続する上で、経済的な持続可能性は極めて重要な要素です。訪問診療に加え、訪問看護を定期的に利用する場合、その費用は決して安くありません。

介護保険や医療保険の自己負担割合にもよりますが、週に数回の訪問看護を入れるだけで、月額の支払いが数万円単位で増加することが一般的です。

訪問看護を利用しない場合、この固定費を大幅に削減できます。

浮いた費用を、例えばより質の高いオムツや介護用品の購入、あるいは介護タクシーを利用した外出支援、自費のリハビリサービスなど、患者様のQOL(生活の質)を直接的に高める他のサービスに振り向けることができます。

長期的な療養生活を見据えたとき、毎月の固定費を抑えることは、家計の破綻を防ぎ、介護を長く続けるための重要な戦略となります。

特に病状が安定している時期においては、コストパフォーマンスを意識したサービス構成の見直しが有効です。

訪問看護サービスの有無による月額費用のイメージ比較

項目訪問診療のみ利用訪問診療 + 訪問看護(週2回)
医療・介護費用低(診療費のみ)中〜高(診療費+看護費)
管理療養費発生しない毎月発生する
24時間対応加算診療所分のみ診療所分+ステーション分

プライバシーの確保と生活への干渉回避

自宅というプライベートな空間に他人が入ってくることは、想像以上にストレスのかかる出来事です。

たとえそれが専門職である看護師であっても、週に何度も訪問を受けることは、患者様にとってもご家族にとっても「常に見られている」という緊張感を生みます。

部屋を片付けなければならない、対応のために時間を空けなければならないといった気遣いも発生します。

訪問診療のみに絞ることで、外部の人間が家に入る頻度を月2回程度にまで減らすことができます。

その結果、ご家族だけの時間を長く確保でき、リラックスして過ごせる時間が増えます。

特に、「静かに過ごしたい」「あまり構われたくない」という性格の患者様や、家族水入らずの時間を大切にしたいと考えるご家庭にとっては、サービスの利用を最小限に留めることが精神衛生上、大きなプラスに働きます。

スケジュール管理の簡素化

在宅療養では、多くのサービス事業者が関わることでスケジュールが過密になりがちです。

訪問診療、訪問看護、訪問介護、訪問入浴、リハビリ、デイサービスなど、多くの予定が詰め込まれると、ご家族はその調整や対応に追われ、疲弊してしまいます。

訪問看護を外すことで、週単位のスケジュールに空白が生まれ、柔軟性が高まります。天気の良い日に急遽散歩に出かけたり、孫が遊びに来たりといった、予定外の楽しみを受け入れる余地ができます。

時間に追われることなく、患者様のペースに合わせたゆったりとした生活リズムを作れることは、在宅療養ならではの醍醐味でもあります。

管理すべき予定が減ることは、介護者の事務的な負担を減らし、本来向き合うべき患者様とのコミュニケーションに時間を割くことにつながります。

訪問看護を利用しない場合のリスクとデメリット

訪問看護を導入しない選択は、緊急時の即応性や日常的な医療管理の面で、ご家族に大きな責任と負担を課すことになります。

看護師という「医療の目」が日常的に入らないことは、体調の微細な変化を見逃すリスクを高めます。

また、深夜や早朝の急変時に、まずは家族だけで判断し、対応しなければならないというプレッシャーは計り知れません。

特に、専門的な判断が求められる場面で孤立するリスクや、医療処置を家族が担う負担が増大する点には十分な注意が必要です。

緊急時の初期対応への不安

訪問看護ステーションと契約している最大の強みの一つは、24時間365日の緊急連絡体制と、必要に応じた緊急訪問看護体制にあります。

契約していない場合、夜中に患者様が高熱を出したり、転倒して怪我をしたりした際に、直ちに駆けつけてくれる医療従事者は不在となります。

もちろん、訪問診療を行うクリニックも24時間の連絡体制(在宅療養支援診療所など)を整えていますが、医師は複数の患者を抱えており、電話での指示は仰げても、看護師のようにすぐに自宅へ駆けつけることは物理的に難しい場合があります。

救急車を呼ぶべきか、朝まで様子を見るべきかという判断を、医学的知識のない家族が下さなければならない状況は、精神的に大きな重圧となります。

この「いざという時の安心感」の欠如は、訪問看護なしの療養生活における最大のリスクと言えます。

家族にかかる医療的処置の負担

訪問看護師がいれば、インスリン注射、ストマ(人工肛門)の交換、褥瘡(床ずれ)の処置、在宅酸素の管理などを専門家にお任せできます。

しかし、これらを利用しない場合、すべての処置をご家族が行う必要があります。

技術的には習得可能であっても、毎日欠かさず、失敗の許されない医療行為を家族に対して行うことは、心理的なストレスを伴います。

「痛がらせてしまったらどうしよう」「傷が悪化していないだろうか」という不安を抱えながらの毎日は、介護者の心身を蝕む可能性があります。

また、介護者が風邪で寝込んだり、急用で不在になったりした際に、代わりに対応できる人間がいないという「代役不在」の問題も浮上します。

専門職による定期的な処置の代行がないことは、介護継続の持続性を脅かす要因となり得ます。

衛生管理や入浴介助の専門性欠如

看護師による訪問には、単なる医療処置だけでなく、全身状態を観察しながら行う「清拭」や「入浴介助」も含まれます。

特に寝たきりの方や、皮膚が弱くなっている高齢者の場合、専門的なスキンケアや清潔保持は、感染症や床ずれを防ぐために重要です。

訪問介護(ヘルパー)も入浴介助は行いますが、看護師のように血圧や体温、皮膚の状態を医学的に判断してから入浴の可否を決めることはできません。

体調が不安定な日の入浴判断や、摘便などの排泄ケアに関しては、看護師のスキルに頼れない分、衛生状態の悪化を招くリスクがあります。

適切な衛生管理が行き届かないことで、尿路感染症や皮膚トラブルを引き起こし、結果として入院が必要になる事態も想定されます。

訪問看護なしで発生しやすいリスク一覧

リスク分類具体的な懸念事項家族への影響
急変対応判断の遅れ、救急搬送の迷い強い精神的プレッシャー
処置ミス服薬間違い、機器操作ミス罪悪感や不安の増大
状態悪化床ずれの発見遅れ、感染症介護負担の急激な増加

判断基準1:患者の病状と医療依存度

訪問看護を外すかどうかの判断において、最も客観的かつ優先すべき基準は、患者様の医学的な状態です。

「安定している」という主観的な感覚だけでなく、具体的な処置の内容や頻度、バイタルサインの変動幅などを冷静に分析する必要があります。

医師と相談する際も、現在の病状が「看護師の頻回な観察を必要とするレベルか」を確認することが大切です。

医療的な観点からは、処置の専門性、病状の安定性、そして服薬管理の確実性が、訪問看護の要否を分ける決定的な要素となります。

頻繁な医療処置の有無

まず確認すべきは、看護師でなければ実施が難しい、あるいは危険を伴う処置があるかどうかです。

例えば、24時間の持続点滴、人工呼吸器の管理、頻回な気管内吸引、複雑な創傷処置などは、高度な医療知識と技術を要します。

これらの処置が必要な場合、訪問看護なしでの在宅療養は現実的ではなく、患者様の生命を危険に晒すことになります。

一方で、内服薬のみでのコントロールが可能であったり、簡単な軟膏塗布や湿布の貼り替え程度であったりする場合は、医療依存度は低いと判断されます。

また、在宅酸素療法を行っていても、機器の操作が単純で、酸素飽和度が安定しているならば、必ずしも毎日の看護訪問は必要ありません。

処置の内容が「家族による実施が許可されている範囲」であり、かつ「家族が自信を持って実施できる」かどうかが分かれ道となります。

病状の安定性と予見可能性

現在の病状が落ち着いているだけでなく、近い将来の変化が予測しやすいかどうかも重要な視点です。

慢性心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで、季節の変わり目やちょっとした風邪をきっかけに急激に悪化する恐れがある場合は、予防的な意味でも訪問看護による肺音の聴取や浮腫の確認が重要になります。

逆に、認知症や老衰などで、緩やかに身体機能が低下しているものの、日々のバイタルサインに大きな変動がない場合は、訪問診療による定期チェックだけで十分なケースが多いです。

「明日どうなるか分からない」状態ではなく、「概ね来週も同じ状態であろう」と予測できる安定性があるなら、看護師の訪問頻度を減らす、あるいはゼロにするという選択肢が視野に入ります。

服薬管理の確実性

薬の管理は在宅医療の要です。

患者様ご本人が認知機能の低下などにより自己管理できず、ご家族も仕事などで服薬確認が難しい場合、訪問看護師による配薬カレンダーのセットや服薬確認が必要になります。

飲み忘れや飲み間違いは、病状の悪化に直結するからです。

しかし、ご家族が朝昼晩の食事に合わせて確実に薬を手渡せる環境にある、あるいは「お薬カレンダー」やアラーム機能を活用して管理できているのであれば、看護師による管理は必須ではありません。

最近では、薬剤師による居宅療養管理指導(訪問薬剤管理)を利用することで、看護師ではなく薬剤師に薬のセットや残薬調整を依頼することも可能です。

このように、服薬管理の代替手段が確保できるかは、訪問看護を外すための重要な条件となります。

訪問看護が必要となる医療的徴候リスト

  • 中心静脈栄養(IVH)やポートの管理が必要である
  • 1日に何度も痰の吸引が必要で、家族だけでは手が回らない
  • 重度の床ずれ(褥瘡)があり、毎日の処置と経過観察を要する
  • 末期がんなどで疼痛コントロールが複雑、かつ麻薬の管理が必要である
  • 病状が不安定で、医師から頻繁な観察指示が出ている

判断基準2:家族構成と介護力の実態

医療的な条件をクリアしていても、それを支える「人」の力が不足していては、訪問看護なしの生活は破綻します。

介護力は、単に人数だけでなく、質、時間的余裕、そして精神的な耐久力を含めて総合的に判断しなければなりません。

「頑張ればできる」という精神論ではなく、数ヶ月、数年単位で継続できるかという現実的な視点で、ご家庭の介護力を評価してください。

主たる介護者の年齢と体力

介護は肉体労働です。オムツ交換、体位変換、移乗介助、入浴の世話など、どれも腰や膝に負担がかかります。

主たる介護者が高齢の配偶者である場合(老老介護)、または自身も持病を抱えている場合、看護師やヘルパーなどの外部の力を借りずにすべてを行うことは、共倒れのリスクを高めます。

訪問看護師は、ケアを行うだけでなく、効率的で身体に負担の少ない介助方法を指導してくれる存在でもあります。

もし主介護者の体力に不安があるなら、完全にサービスを断つのではなく、週1回でも介入してもらい、身体的な負担を分散させることが賢明です。

逆に、介護者が若く体力があり、力仕事に不安がない場合は、自分たちでケアを行う余地が広がります。

日中および夜間の見守り体制

患者様が一人になる時間がどれくらいあるかも重要な指標です。

ご家族が同居していても、日中は仕事で不在、夜間も疲れて熟睡してしまうためナースコールに気づかない、といった状況では、安全な療養環境とは言えません。

訪問看護を使わない場合、日中の空白時間を埋めるのは家族の役割となります。また、夜間に痰が詰まったり、トイレに行きたがったりした際も、すべて家族が対応しなければなりません。

24時間365日、誰かが常に気にかけていられる体制があるか、あるいは交代要員が存在するかを確認してください。

見守りの目が途切れる時間が長い場合は、安否確認の意味も含めて訪問看護などの外部サービスを入れることが、安全確保の命綱となります。

キーパーソンの精神的余裕

在宅介護において最も見過ごされがちで、かつ最も崩壊しやすいのが介護者のメンタルです。

技術や体力があっても、「自分しかやる人がいない」「失敗できない」という孤独感やプレッシャーは、徐々に心を蝕みます。

訪問看護師は、医療的なケアだけでなく、介護者の愚痴を聞き、相談に乗るというメンタルケアの役割も果たしています。

第三者が定期的に家に来て、「よく頑張っていますね」「今のやり方で大丈夫ですよ」と声をかけてくれることは、介護者にとって大きな救いとなります。

もし主介護者が強いストレスを感じていたり、相談相手がいなかったりする場合は、メンタルサポートとして訪問看護を利用する価値があります。

逆に、家族間の仲が良く、悩みや負担を共有できる関係性が築けているのであれば、外部のサポートがなくとも精神的な健康を維持できるでしょう。

家族介護力の自己チェックポイント

  • 急な体調変化時にも、パニックにならずに対応できる自信がある
  • 介護に関する悩みを相談できる親族や知人が近くにいる
  • 主介護者が不在の時に、代わりにケアできるサブ介護者がいる
  • 夜間のトイレ介助や体位変換で睡眠不足になっても、昼間に休息が取れる
  • 患者本人と介護者の関係が良好で、意思疎通がスムーズである

訪問看護の代替となるサービスの活用法

訪問看護を使わないからといって、すべてを家族だけで背負う必要はありません。

医療保険や介護保険の枠組みの中には、看護師以外の専門職が提供するサービスがあり、これらを上手に組み合わせることで、看護機能を部分的に代替できます。

特に「生活支援」や「入浴」に関しては、看護師でなくとも対応可能な分野です。

コストを抑えつつ、必要なケアを確保するために、訪問介護、訪問入浴、小規模多機能型居宅介護といった既存サービスの活用が有効です。

訪問介護(ホームヘルパー)の役割拡大

医療処置以外の身体介護や生活援助において、訪問介護(ホームヘルパー)は強力な味方です。食事、排泄、更衣の介助はもちろん、部屋の掃除や洗濯といった家事援助も依頼できます。

ヘルパーは医療行為を行うことはできませんが、研修を受けた職員であれば、条件付きで「痰の吸引(口腔内・鼻腔内)」や「経管栄養(胃ろう)」の実施が可能です。

もし、これらの処置がネックで訪問看護を検討しているなら、医療的ケアに対応可能なヘルパー事業所を探すことで、訪問看護よりも安価にサービスを受けることができます。

また、服薬の確認や促しもヘルパーの業務範囲内ですので、日常的な見守りの手として最大限に活用しましょう。

ヘルパーと看護師の業務範囲比較

業務内容訪問介護(ヘルパー)訪問看護(看護師)
身体介護(排泄・食事)〇(主業務)〇(医療的視点含む)
家事援助(掃除・洗濯)〇(独居等の条件あり)×(基本的に行わない)
医療処置(点滴・注射)×

訪問入浴サービスの利用

自宅の浴槽での入浴が難しく、かつ家族による介助も困難な場合、訪問入浴サービスの利用がおすすめです。

これは、専用の浴槽を自宅に持ち込み、看護師1名と介護職員2名の計3名チームで入浴介助を行うサービスです。

注目すべきは、このチームに「看護師」が含まれている点です。訪問入浴の看護師は、入浴前後のバイタルチェックや皮膚状態の観察を行います。

医療処置を目的とした訪問ではありませんが、週に1〜2回、看護師の目による健康チェックを受けられるという副次的なメリットがあります。

訪問看護を契約していなくても、入浴サービスを通じて定期的に専門家のチェックを受けることで、異常の早期発見につなげることが可能です。

小規模多機能型居宅介護やショートステイ

「訪問」だけでなく、「通い」や「泊まり」を組み合わせることも有効です。

ショートステイ(短期入所生活介護)を利用すれば、数日間施設に宿泊することで、その期間の医療管理や介護を施設のスタッフに任せることができます。

また、小規模多機能型居宅介護(カンタキと呼ばれる看護小規模多機能型居宅介護を含む)は、一つの事業所が「通い」「泊まり」「訪問」を柔軟に提供するサービスです。

登録制で顔なじみのスタッフが対応するため、安心感があります。

普段は訪問診療のみで過ごし、体調が少し優れない時や家族の休息が必要な時だけ、これらのサービスを利用してプロの手を借りるという「ピンポイント利用」は、長期的な在宅療養を成功させる秘訣です。

状況に応じた柔軟な切り替えの重要性

在宅医療の計画は、一度決めたら変えられないものではありません。むしろ、患者様の状態変化に合わせて柔軟にサービスを足し引きすることが、理想的な在宅マネジメントです。

「最初は訪問診療だけでスタートし、必要になったら訪問看護を追加する」という段階的なアプローチは、多くのご家庭で採用されています。

重要なのは、ADLの低下や新たな医療処置の発生、あるいは看取り期といった局面に差し掛かった際、躊躇なくサービス構成を見直し、必要なサポートを取り入れることです。

訪問看護を追加すべきタイミングとサイン

では、どのような状況になれば訪問看護の導入を再考すべきでしょうか。明確なサインの一つは、ADL(日常生活動作)の著しい低下です。

これまで自分でトイレに行けていたのが行けなくなった、嚥下機能が落ちて食事が摂れなくなったといった変化は、医療的な介入が必要な前兆です。

また、新たな疾患の発症や、既存の病気の進行により、インスリン注射や在宅酸素、点滴などの医療処置が新たに追加された場合も、導入のタイミングです。

さらに、主介護者から「もう限界かもしれない」「夜眠れない」といった弱音が聞かれ始めたら、それは家族の崩壊を防ぐための警告信号です。

これらのサインを見逃さず、医師やケアマネジャーに相談し、速やかに訪問看護の手配を進めることが大切です。

看取り期における再評価

人生の最終段階、いわゆる「看取り期」に入った場合は、改めて訪問看護の必要性を強く検討すべきです。死期が迫ると、身体の状態は刻一刻と変化し、痛みや苦痛の緩和(緩和ケア)が最優先事項となります。

この時期には、医師だけでなく、24時間いつでも相談でき、駆けつけてくれる看護師の存在が、ご本人とご家族にとって強烈な支えとなります。

最期の時間を自宅で安らかに過ごすためには、麻薬を使った疼痛管理や、呼吸苦への対応など、専門的な看護ケアが大切になります。

元気なうちは訪問診療だけで過ごせたとしても、最期の数週間から数ヶ月だけは訪問看護をフル活用し、後悔のないお別れを実現することをお勧めします。

ケアマネジャーや医師との連携

サービスの変更や追加をスムーズに行うためには、ケアマネジャー(介護支援専門員)や訪問診療医との密な情報共有が必要です。

彼らは「訪問看護を使わない」というご家族の意向を尊重しつつも、プロの視点でリスクを評価しています。

定期的なカンファレンスや診察の際に、「今は大丈夫だが、こうなったら看護師を入れたい」という将来の展望を共有しておきましょう。

信頼関係があれば、医師の方から「そろそろ訪問看護を入れた方が安心ですよ」と適切なタイミングで提案してくれます。

独断で抱え込まず、専門家チームを上手く使いながら、その時々のベストな選択肢を常に模索し続ける姿勢が、質の高い在宅療養を実現します。

よくある質問

病状が急変したとき、訪問看護なしでどう対応すればよいですか?

訪問診療を行う医療機関の緊急連絡先に電話をしてください。多くの在宅療養支援診療所は24時間対応の電話窓口を設けています。

医師の指示に従い、救急車を呼ぶべきか、往診を待つべきかの判断を仰ぎます。

ただし、医師がすぐに到着できない場合もあるため、事前に「どのような症状が出たら救急車を呼ぶか」を医師と相談し、決めておくことが重要です。

訪問看護を利用しない場合、費用はどれくらい安くなりますか?

介護保険の負担割合や利用頻度によりますが、週1〜2回の訪問看護を利用しない場合、月額で1万円から数万円程度の自己負担額を削減できる可能性があります。

医療保険利用の場合も同様にコストダウンが見込めます。

具体的な金額は、ケアマネジャーに「訪問看護あり」と「なし」のケアプラン見積もりを作成してもらい、比較することをお勧めします。

家族だけで入浴介助やおむつ交換ができるか不安です。

技術的な不安がある場合は、訪問診療の医師や、入院していた病院の看護師に事前に指導を依頼してください。

また、訪問介護(ヘルパー)を利用すれば、おむつ交換や清拭などの身体介助をプロに任せることができます。

無理に家族だけですべてを行おうとせず、ヘルパーや訪問入浴サービスなど、看護師以外の専門職を上手に活用することで負担を軽減できます。

途中で訪問看護をやめたり、逆に再開したりすることはできますか?

可能です。介護保険や医療保険のサービスは、月単位で契約内容を変更できます。「病状が安定したから一旦休止する」「体調が悪くなったから再開する」といった変更はよくあることです。

変更を希望する場合は、ケアマネジャーや訪問診療医に相談してください。

ただし、新しい訪問看護ステーションを探す場合は、空き状況によってすぐに開始できないこともあるため注意が必要です。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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