在宅医療における訪問リハビリテーション、医師との情報共有で高まる効果

在宅医療における訪問リハビリテーション、医師との情報共有で高まる効果

在宅医療の現場において、訪問リハビリテーションは単なる機能訓練にとどまらず、医師との綿密な連携によってその真価を発揮します。

患者様の生活の質を維持し向上させるためには、身体機能の専門家である理学療法士などの視点と、医学的な管理を行う医師の判断を融合させることが極めて重要です。

本記事では、医師とリハビリ専門職がどのように情報を共有し、それが患者様の安全性や意欲、そして具体的な治療効果にどう結びつくのかを多角的に解説します。

在宅療養生活をより安心で豊かなものにするための要点を詳しく紐解いていきます。

目次

訪問リハビリテーションの基本的役割と医師の関わり

訪問リハビリテーションは、医師の指示に基づき医学的な管理の下で実施することで、在宅療養における安全性と有効性を同時に担保する仕組みです。

在宅での生活を支える訪問リハビリテーションは、利用者様が住み慣れた自宅で自分らしく暮らすための支援を行います。

このサービスを利用するには、主治医が発行する「訪問リハビリテーション指示書」が必要です。

これは単なる形式的な手続きではなく、医学的なリスク管理とリハビリテーションの目標を合致させるための重要な土台となります。

医師は患者様の病状や全身状態を把握し、どの程度の運動負荷が許容されるか、どのような点に注意すべきかを指示書に明記します。

リハビリ専門職はこの指示を受け、実際の生活環境に即した訓練プログラムを立案します。

つまり、医師の医学的判断とリハビリ専門職の生活機能へのアプローチが融合して初めて、効果的なリハビリテーションが成立します。

医学的根拠に基づくプログラムの立案

医師が関与することで、リハビリテーションのプログラムに医学的な裏付けが生まれます。

例えば、心疾患を持つ患者様の場合、医師は心負荷の許容範囲を見極め、運動制限を指示します。

理学療法士などの専門職は、その制限範囲内で最大限の生活動作向上を目指すプログラムを構築します。

このように、医学的なリスク管理と生活機能の向上という二つの視点を統合することで、無理なく安全に、かつ効果的な訓練を行うことができます。

医師の診断や検査データがあるからこそ、専門職は自信を持って訓練を提供し、患者様も安心して取り組むことができます。

医師とリハビリ専門職の役割分担

役割の領域医師(医学的管理)訪問リハビリ専門職(機能・生活支援)
基本方針の決定病状診断に基づき、リハビリの適応とリスク管理の基準を指示する。医師の指示に基づき、具体的な訓練内容と生活目標を設定する。
リスク管理投薬調整や検査を通じて、全身状態の安定を図る。バイタルサイン測定や動作観察により、活動中のリスクを回避する。
家族への説明病気の予後や医学的な注意点について説明を行う。具体的な介助方法や福祉用具の選定について助言を行う。
緊急時の対応医学的な処置や救急搬送の要否、入院の判断を行う。異変を早期に発見し、速やかに医師へ報告し指示を仰ぐ。

在宅特有の環境要因への適応

病院とは異なり、在宅環境は患者様ごとに千差万別です。段差の有無、廊下の幅、ベッドの高さなど、物理的な環境の違いがリハビリテーションの効果に大きく影響します。

医師は患者様の身体状況を医学的に評価し、リハビリ専門職はその身体状況で自宅の環境に適応できるかを評価します。

医師と専門職が情報を共有することで、「この心機能であれば、自宅の階段昇降は負担が大きいので、1階中心の生活に変えるべき」といった具体的な環境調整の提案が可能になります。

医療的な視点と生活環境の視点を合わせることで、より現実的で安全な生活設計を描くことができます。

定期的な評価と計画の見直し

人間の身体や病状は常に変化します。そのため、リハビリテーション計画も一度立てれば終わりではなく、定期的な見直しが必要です。

法律上も3ヶ月ごとの医師の診察や指示書の更新が求められますが、これは変化する状態に合わせて適切な医療とリハビリを提供し続けるための仕組みです。

リハビリ専門職が日々の介入で見つけた身体機能の変化や生活上の課題を医師に報告し、医師がそれを踏まえて新たな指示を出すというサイクルを回します。

この循環があることで、漫然とした訓練を防ぎ、常にその時の患者様に適した目標を設定し続けることができます。

医師とリハビリ専門職が情報共有する具体的意義

詳細な情報共有は、日々のリハビリテーションを単なる運動の機会から、病状安定化と生活の質向上を目的とした高度な医療的介入へと進化させます。

在宅医療の現場では、医師が患者様と接する時間は限られています。一方で、訪問リハビリテーションは週に数回、数十分の時間をかけて患者様と密接に関わります。

この時間の差を埋め、医療の質を高めるのが情報共有です。

リハビリ専門職が得た「訓練中の息切れの程度」や「関節の痛みの変化」といった微細な情報を医師に伝えることで、医師は診察室だけでは得られない生きた情報を治療に反映させることができます。

逆に、医師からの「新しい薬の効果を見てほしい」といった情報を専門職が受け取ることで、リハビリ中の観察ポイントが明確になり、薬効評価の一翼を担うことも可能になります。

情報共有が生み出す具体的なメリット

  • 診察時以外の日常生活における血圧や脈拍の変動データを、より正確な治療方針へ反映できます。
  • 新しい薬を開始した直後のふらつきや覚醒状態の変化といった副作用の兆候を早期に発見可能です。
  • 医学的な許容範囲内で最大限の活動を引き出しつつ、過度な安静による機能低下を防ぎます。
  • 痛みの原因が整形外科的なものか内科的なものか、多角的な視点で分析し対策を立てられます。
  • 動作の持久力低下から栄養状態の悪化をいち早く察知し、速やかな栄養介入へつなげます。

服薬調整と身体機能の相関関係の把握

高齢者の在宅医療において、薬物療法は重要な位置を占めますが、薬の副作用が身体機能に影響を与えることも少なくありません。

例えば、血圧を下げる薬が効きすぎて立ちくらみを起こし、転倒のリスクが高まることがあります。

また、パーキンソン病の薬の効果時間の変動により、動ける時間帯と動けない時間帯が生じることがあります。

リハビリ専門職がこうした身体反応を詳細に記録し医師と共有することで、医師はより精度の高い処方調整を行うことができます。

薬の専門家である医師と、身体の動きを見る専門家が連携することで、薬物療法の適正化と転倒予防を同時に進めることができます。

生活リズムと活動量の適正化

患者様の生活リズムは、病状の安定に直結します。活動量が少なすぎれば廃用症候群が進み、多すぎれば心肺機能への負担となります。

医師は医学的な見地から「1日どれくらい動いてよいか」という枠組みを示し、リハビリ専門職はその枠組みの中で「具体的に何をするか」をデザインします。

この連携がうまくいかないと、患者様が頑張りすぎて体調を崩したり、逆に安静にしすぎて筋力が低下したりする事態を招きます。

互いに情報を共有し、医学的に安全かつ生活を豊かにする活動量を設定することは、長期的な在宅療養を継続するために重要です。

予後予測に基づく生活設計の修正

病気の進行や加齢に伴い、将来的にどのような状態になるかという「予後予測」は、医師の重要な役割です。

この予後予測をリハビリ専門職と共有することで、先を見越した準備が可能になります。

例えば、将来的に歩行が困難になると予測される場合、早い段階から車椅子の操作訓練を取り入れたり、住宅改修の準備を進めたりすることができます。

医師の見立てを共有せずに現状維持だけの訓練を行っていると、急激な状態変化に対応できず、生活が破綻する恐れがあります。

未来を見据えた情報共有が、患者様とご家族の安心を生み出します。

身体機能の変化を早期に発見し対応する連携体制

リハビリ専門職が捉えたバイタルサインや動作の微細な変化を、医師へ迅速にフィードバックする体制が、重篤化を防ぐための鍵となります。

在宅療養中の高齢者は、体調が急変しやすい特徴を持っています。

しかし、その予兆は「なんとなく食欲がない」「いつもより足がむくんでいる」「少し息が上がりやすい」といった些細な変化として現れることが多いです。

週に複数回訪問し、体に直接触れて運動を行うリハビリ専門職は、こうした「いつもとの違い」に最も気づきやすい立場にあります。

この気づきを「加齢のせい」で済ませず、医学的な視点を持つ医師へ即座に報告することで、肺炎の初期段階や心不全の悪化などを早期に発見できるケースが多々あります。

バイタルサインの変化と医学的判断

リハビリテーション開始前には必ず血圧、脈拍、体温、酸素飽和度などのバイタルサインを測定します。これらの数値の推移は、身体内部の状態を知る重要な手掛かりです。

例えば、体重が短期間で急激に増加し、同時に酸素飽和度が低下している場合、心不全の悪化が疑われます。

リハビリ専門職がこのデータを医師に報告すれば、医師は利尿剤の調整などの早期介入を行うことができます。

単に数値を記録するだけでなく、その数値が持つ医学的な意味を医師と共に解釈し、行動に移す連携体制が患者様の命を守ることにつながります。

早期発見と対応の連携事例

観察される変化(リハビリ職)想定されるリスク医師との連携による対応策
運動後のSpO2(酸素飽和度)の回復が以前より遅い。下肢の浮腫が増強している。心不全の増悪、呼吸器疾患の悪化レントゲンや血液検査の実施、利尿剤や心臓の薬の調整、運動負荷量の制限指示。
片側の手足に軽い麻痺や脱力が見られる。呂律が回りにくい様子がある。脳梗塞の再発、一過性脳虚血発作(TIA)即時の受診指示または救急搬送の判断、抗血小板薬等の服薬状況の確認。
背中の痛みを強く訴え、寝返り動作が困難になっている。圧迫骨折、内臓疾患からの放散痛鎮痛剤の処方、コルセットの作成指示、安静度の変更、骨粗鬆症治療の強化。
会話のつじつまが合わず、興奮気味である。日内変動が大きい。せん妄、脱水、感染症、薬剤の影響原因薬剤の中止や変更、点滴による補水、感染症治療薬の投与。

動作能力の低下に潜む病状の進行

「先週までできていた立ち上がり動作が、今週はふらつくようになった」という場合、単なる筋力低下ではなく、脳梗塞の再発や感染症による全身状態の悪化が隠れている可能性があります。

リハビリ専門職は動作分析のプロフェッショナルとして、なぜその動作ができなくなったのかを分析します。

その分析結果を医師に伝えることで、医師は必要な検査を行い、原因を特定することができます。

整形外科的な問題なのか、神経内科的な問題なのか、あるいは内科的な問題なのかを切り分けるために、動作の変化という情報は極めて有用な診断材料となります。

認知機能の変動と生活リスクの管理

身体機能だけでなく、認知機能の変化も早期発見が重要です。

「薬の飲み忘れが増えた」「日付がわからなくなった」といった変化は、認知症の進行だけでなく、脱水症状や電解質異常、あるいはせん妄の可能性もあります。

リハビリ中の会話や課題への取り組み方から得られる認知機能の情報を医師と共有することで、適切な原因検索と対応が可能になります。

例えば、脱水が原因であれば点滴や水分摂取の指導を行い、薬の影響であれば処方を見直すなど、原因に応じた対策を講じることで、生活の崩壊を未然に防ぎます。

精神的ケアと意欲向上につながるチームアプローチ

医師とリハビリ専門職の方針が一貫していることは、患者様とご家族に深い安心感を与え、リハビリテーションへの意欲を向上させる原動力となります。

在宅療養は孤独や不安を感じやすい環境です。「本当に良くなるのだろうか」「このまま動けなくなるのではないか」という不安は、リハビリへの意欲を削ぐ大きな要因となります。

このような状況で、医師とリハビリ専門職がバラバラのことを言えば、患者様の不信感は募るばかりです。

しかし、両者が密に情報を共有し、「先生もこう言っていたから大丈夫」「理学療法士さんと相談してこの目標を決めたよ」と一貫したメッセージを伝えることで、患者様は「チームで支えられている」という強い安心感を得ます。

この信頼関係こそが、意欲向上の土台となります。

目標の統一によるモチベーション維持

リハビリテーションの効果を出すためには、具体的で達成可能な目標設定が必要です。

医師が医学的な予後を踏まえて「春には散歩に行けるようになる」と目標を示し、リハビリ専門職がそのための具体的な階段練習や歩行訓練を提案する。

このように、医師の言葉と実際のリハビリ内容がリンクしていると、患者様は目標を現実的なものとして捉えることができます。

医師がリハビリの進捗を診察時に褒めたり励ましたりすることも、患者様のモチベーションを維持する上で非常に大きな効果を持ちます。

医師の「お墨付き」が、日々の辛い訓練を乗り越える力になるのです。

意欲と安心感を高める連携効果

  • 医師とリハビリ担当者が同一の目標を共有しているため、患者様は迷うことなく訓練に取り組めます。
  • 日々の小さな努力がリハビリ職から医師へ伝わり、診察時に称賛されることで大きな自信につながります。
  • 痛みの訴えに対して、リハビリ職の評価と医師の診断が一致し、患者様は納得して治療を受けられます。
  • 「何かあれば医師とリハビリ職が連絡を取り合っている」という事実が、独居や老老介護の不安を和らげます。
  • リハビリが進まない時期でも、医学的な根拠を医師から説明されることで、焦らず回復を待つ余裕が生まれます。

不安の軽減とメンタルヘルスのサポート

身体の不調は精神的な落ち込みを招きやすく、逆に精神的な不調が身体の動きを悪くすることもあります。

うつ傾向や意欲低下が見られる場合、リハビリ専門職はその様子を詳細に医師に伝えます。医師はそれを受けて、カウンセリング的な関わりを強化したり、必要に応じて抗うつ薬の導入を検討したりします。

また、リハビリテーション自体が、会話や身体を動かすことを通じて精神的な活性化を促す効果もあります。

医学的なメンタルケアと、リハビリによる活動性の向上が両輪となって、患者様の心の健康を支えます。

ご家族への統一した支援体制

在宅医療では、患者様だけでなく、介護を行うご家族の精神的負担も考慮しなければなりません。医師とリハビリ専門職が情報を共有し、ご家族に対して統一した助言を行うことが大切です。

例えば、介助方法について、リハビリ専門職が指導した内容を医師も把握し、「そのやり方で腰の負担は大丈夫ですか?」と気遣うだけでも、ご家族の孤立感は和らぎます。

その結果、予後についての見解を一致させておくことで、ご家族も将来の介護計画を立てやすくなります。チーム全体で支える姿勢が、在宅生活の継続を可能にします。

退院直後の在宅生活移行期における密な連携の重要性

退院直後の不安定な時期における医師とリハビリ専門職の綿密な連携は、再入院のリスクを低減し、在宅生活へのスムーズな定着を実現します。

病院から自宅への移行期は、患者様にとって最もリスクが高い時期の一つです。病院の整った環境とは異なり、自宅では多くのことを自分や家族の力で行わなければなりません。

環境の変化による転倒、薬の管理ミス、食事摂取量の変化など、様々な問題が噴出しやすいのがこの時期です。

ここで医師と訪問リハビリ専門職が強力にタッグを組むことが求められます。

退院時のサマリー(診療情報提供書)やリハビリサマリーを基に、入院中の状態と現在の自宅での状態にギャップがないかを確認し、そのギャップを埋めるための即座の対応が必要となります。

病院でのリハビリと在宅リハビリの接続

病院で行っていたリハビリと、自宅で必要なリハビリは質が異なります。

病院では「機能を回復させること」が主眼になりがちですが、在宅では「今の機能でどう生活するか」が重要になります。

医師は入院中の治療経過を把握した上で、在宅での医学的管理方針を決定します。リハビリ専門職は、病院での到達レベルを確認しつつ、それを実際の生活動作(トイレ、入浴、調理など)に応用する訓練を行います。

この際、医師との情報共有があれば、「まだ手術部位の負荷は避けるべき」といった医学的な制約を守りながら、安全に生活動作の獲得を進めることができます。

退院直後の課題と連携による解決策

在宅移行期の課題連携による解決アプローチ期待される効果
活動量の急激な変化による心身への負荷医師が医学的な活動制限範囲を示し、リハビリ職がその範囲内で生活動線を設計する。心不全や呼吸不全の悪化防止、疲労による転倒予防。
服薬管理の自己管理への移行に伴う混乱リハビリ職が動作面から薬の取り出しやすさを評価し、医師が処方形態(一包化など)を調整する。飲み忘れや過量服用の防止、コンプライアンスの維持。
家族の介護負担と不安の増大リハビリ職が身体負担の少ない介助法を指導し、医師が介護疲れによるレスパイト入院の判断を行う。在宅介護の継続性の確保、共倒れの防止。
環境の不適合による転倒リスク予後予測を共有し、現在および将来必要な福祉用具を医師の意見を踏まえて選定・導入する。骨折や外傷の予防、安全な移動手段の確保。

環境調整と福祉用具選定の医学的助言

退院直後は、自宅の環境を患者様の身体に合わせる調整が急務です。手すりの位置、ベッドの種類、歩行器の選定など、検討すべき事項は多岐にわたります。

リハビリ専門職は家屋評価を行い、具体的な改修案を出しますが、ここに医師の意見が入ることでより適切な判断ができます。

例えば、進行性の疾患であれば、「今は歩けていても半年後は車椅子が必要になる可能性が高い」という医師の予測に基づき、最初からスロープを設置するといった判断が可能です。

無駄な出費を防ぎ、長く使える環境整備を行うためにも、医学的な見通しの共有は重要です。

生活習慣の再構築とリスク回避

入院生活で管理されていた食事や睡眠の生活リズムは、退院とともに崩れやすくなります。特に食事制限や水分管理が必要な疾患の場合、在宅での自己管理は困難を伴います。

リハビリ専門職が訪問時に冷蔵庫の中身や食事内容、服薬の状況を確認し、乱れがあれば医師に報告します。

医師はそれに基づき、栄養指導や服薬指導を改めて行ったり、訪問看護師やケアマネジャーへの指示を出したりします。

退院直後の生活習慣の乱れを早期に修正することは、再入院を防ぐための最大の防御策です。

慢性期における生活の質を維持するための継続的共有

病状が安定した慢性期においても、継続的な医師とリハビリ専門職の連携が、機能低下の予防と「その人らしい生活」の維持を可能にします。

在宅医療は長期にわたることが多く、慢性期に入ると「変化がない」と見なされがちです。しかし、加齢や活動量の低下による廃用症候群のリスクは常に潜んでいます。

また、長期間の療養生活の中で、新たな痛みの出現や意欲の減退が起こることもあります。

慢性期だからこそ、定期的な医師の診察とリハビリ専門職による評価を組み合わせ、小さな変化を見逃さない体制が必要です。

現状維持を目標とする場合でも、漫然と続けるのではなく、「今の機能を維持するために何が必要か」を常に医師と専門職が話し合い、プログラムを微調整し続けることが生活の質の維持につながります。

廃用症候群とサルコペニアの予防

慢性期における最大のリスクは、動かないことによる心身機能の低下、すなわち廃用症候群や筋肉量が減少するサルコペニアです。

これらを防ぐには、適切な栄養摂取と適度な運動負荷が必要です。リハビリ専門職が筋肉量や活動量のデータを収集し、医師が栄養状態を血液検査などで評価します。

両者の情報を合わせることで、「運動量は足りているがタンパク質が不足している」「貧血があるため運動強度を下げるべき」といった具体的な対策が見えてきます。

単なる運動指導ではなく、栄養と医学管理をセットにしたアプローチが、身体の予備能力を維持します。

慢性期の維持・向上に向けた連携ポイント

着目すべきポイント医師の役割リハビリ専門職の役割
栄養状態の管理血液検査(アルブミン値等)による評価、栄養剤の処方、食事形態の指示。運動量に見合った栄養摂取の確認、嚥下機能の評価と訓練。
関節拘縮の予防痙縮(筋肉のつっぱり)に対する投薬調整やボツリヌス療法の検討。関節可動域訓練、ポジショニング(寝る姿勢)の指導、装具の調整。
慢性疼痛の管理鎮痛薬の種類や量の調整、ブロック注射等の検討、湿布の処方。疼痛を誘発しない動作指導、温熱療法やマッサージによる緩和。
社会参加の促進外出や旅行の医学的許可、感染症対策の助言、デイサービスの利用指示。屋外歩行訓練、公共交通機関の利用練習、趣味活動への動作支援。

疼痛コントロールと活動性の維持

慢性的な痛み(腰痛、膝痛など)は、活動意欲を著しく低下させます。リハビリテーションでは徒手療法や運動療法で痛みの緩和を図りますが、それだけでは限界がある場合もあります。

ここで医師との連携が重要になります。

リハビリ専門職が痛みの出る動作や時間帯、性質を詳しく分析して医師に伝えると、医師はより効果的な鎮痛剤の選択や服薬タイミングの調整を行うことができます。

痛みを医学的にコントロールしながら、リハビリで身体の使い方を改善していくという両輪のアプローチが、痛みに負けずに生活を楽しむためには重要です。

新たな目標設定と生きがいの支援

身体機能の改善が頭打ちになったとしても、生活の質を向上させる余地は残されています。趣味の再開や外出の機会を作るなど、社会的・精神的な目標設定が重要になります。

医師が医学的な観点から「旅行に行っても大丈夫」という判断を出し、リハビリ専門職がそのための体力作りや移動手段の検討を行う。

このような連携があれば、患者様は新たな目標に向かって前向きに取り組むことができます。

医療とリハビリが連携して「できること」を増やし、患者様の「やりたいこと」を支えることが、慢性期在宅医療の醍醐味です。

訪問看護師やケアマネジャーを含めた多職種連携への波及

医師とリハビリ専門職の強固な連携は、チーム全体の羅針盤となり、訪問看護師やケアマネジャーなど他職種のケアの質を底上げします。

在宅医療は医師とリハビリ専門職だけで完結するものではありません。訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパー、薬剤師など、多くの職種が関わります。

この中で、治療方針の決定権を持つ医師と、機能予後を予測できるリハビリ専門職がしっかりと情報を共有し、方向性を定めておくことは、チーム運営の基盤となります。

例えば、医師とリハビリ職の間で「今は安静よりも動く時期」という合意形成ができていれば、ケアマネジャーはそれを根拠にデイサービスの回数を増やすプランを立てられ、訪問看護師は活動量を増やすための体調管理に注力できます。

情報の核となる二者が連携することで、チーム全体が迷いなく同じ方向を向くことができるのです。

ケアプランへの専門的根拠の提供

ケアマネジャーが作成するケアプランは、利用者様の生活の設計図です。この設計図の精度を高めるためには、医学的な見地と機能的な見地からの情報が必要です。

医師とリハビリ専門職が共有した「今後3ヶ月で歩行状態がどう変化するか」という予測情報は、ケアマネジャーにとって非常に貴重です。

これにより、必要な時期に必要なサービス(例えば、入浴介助から見守りへの移行など)を計画的に組み込むことができます。

さらに、サービス担当者会議において、医師とリハビリ職の意見が一致していることは、利用者様やご家族の決断を後押しする強い材料となります。

多職種連携を強化する医師・リハビリ職の役割

連携先医師・リハビリ職連携による波及効果具体的なアクション例
訪問看護師医療処置とリハビリのタイミング調整が可能になり、効果的な介入ができる。入浴動作訓練の日に合わせ、入浴前後のバイタルチェックや皮膚処置を依頼する。
ケアマネジャー機能予後に基づいた、長期的かつ適切なサービス計画が立案できる。「3ヶ月後に杖歩行可能」という予測を伝え、将来的な福祉用具変更やサービス減を織り込む。
訪問介護(ヘルパー)統一された介助方法の実践により、利用者様の混乱防止と自立支援が進む。リハビリで獲得した「できる動作」を共有し、過剰介護を防ぎつつ見守り介助を徹底してもらう。
薬剤師服薬状況と身体機能の変化をリンクさせ、残薬調整や処方提案につなげる。手の巧緻性低下による薬の取り出しにくさを伝え、一包化や剤形の変更を相談する。

訪問看護との役割分担と協働

訪問看護師と訪問リハビリ専門職は、現場で最も顔を合わせる機会が多いパートナーです。

医師の指示の下、看護師は全身管理や処置を、リハビリ職は機能訓練を担当しますが、その境界線は時に重なります。

医師とリハビリ職の情報共有ができていれば、医師を通じて看護師へ「リハビリの効果を高めるために、訪問前の鎮痛剤服用を管理してほしい」といった具体的なオーダーが可能になります。

また、リハビリ中に起きた急変に対し、看護師が迅速に対応し、その経過を医師に報告するといったシームレスな連携も、日頃の信頼関係と情報共有があってこそ成り立ちます。

統一したケアによる利用者様の混乱防止

多くの職種が関わると、それぞれの視点からのアドバイスが食い違い、利用者様が混乱してしまうことがあります。

医師は「無理しないで」、リハビリ職は「頑張って歩いて」、ヘルパーは「危ないから座っていて」と言えば、利用者様はどうして良いかわかりません。

医師とリハビリ職が「医学的には安定しているので、転倒に注意しつつ歩行量を増やす」という方針を共有し、それをチーム全体に発信することで、全職種が「見守りながら歩いてもらう」という統一した対応をとることができます。

この一貫性が、利用者様の安心と安全な生活を支える基盤となります。

Q&A

医師の指示書は毎回必要ですか?

はい、必要です。訪問リハビリテーションを継続して利用する場合、通常は3ヶ月ごとに医師の診察を受け、新しい指示書を発行してもらう必要があります。

これは、法律で定められたルールであると同時に、変化する身体状況に合わせてリハビリ内容を見直し、安全かつ効果的なサービスを提供するために大切です。

状態が安定している場合でも、定期的な医学的チェックを受ける良い機会となります。

リハビリ中に具合が悪くなったらどうなりますか?

直ちにリハビリを中止し、バイタルサインの測定や状態の観察を行います。

緊急性が高いと判断した場合は、速やかに主治医や救急隊へ連絡を取り、適切な指示を仰ぎます。

リハビリ専門職は日頃から医師と連携体制をとっており、緊急時の連絡ルートや対応手順も共有しているため、迅速な医療対応につなげることができます。

医師とリハビリスタッフはどうやって連絡を取っていますか?

電話やFAXに加え、最近では医療介護専用の情報共有システム(ICTツール)を活用するケースが増えています。

また、毎月作成するリハビリテーション実施計画書や報告書を通じて、詳細な経過を医師に伝えています。

さらに、3ヶ月ごとの指示書更新時や、状態変化があった際には直接話し合いを行い、密な連携を図っています。

リハビリの方針について医師に相談できますか?

もちろんです。リハビリの内容や目標に疑問や不安がある場合は、遠慮なく主治医にご相談ください。

また、訪問に来ているリハビリスタッフに相談していただければ、スタッフから主治医へ意見を伝え、調整を行うことも可能です。

患者様ご本人の希望や目標が最も重要ですので、医師とリハビリスタッフ、そして患者様で情報を共有し、納得のいく方針を決めていくことが大切です。

入院中の主治医と在宅の医師が違う場合はどうなりますか?

退院時に病院の主治医から在宅の主治医(かかりつけ医)へ、診療情報提供書(紹介状)が送られ、治療の経過や注意事項が引き継がれます。

訪問リハビリテーションは、在宅の主治医の指示に基づいて行われます。

リハビリスタッフは、この引き継がれた情報を基に、在宅医と連携しながらリハビリを進めますので、医師が変わっても一貫したケアを受けることができます。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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