脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の在宅療養|進行する嚥下障害・ふらつきへの医療支援

脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の在宅療養|進行する嚥下障害・ふらつきへの医療支援

脊髄小脳変性症や多系統萎縮症は、少しずつ体の自由が利きにくくなる神経難病です。診断を受けた直後から、「将来どうなるのか」「いつまで家で暮らせるのか」という深い不安を抱える方は少なくありません。

しかし、ご安心ください。適切な医療支援と早めの環境調整を行えば、住み慣れた自宅で、自分らしく穏やかな時間を長く過ごすことは十分に可能です。

本記事では、進行するふらつきや飲み込みにくさといった症状に対し、訪問診療や訪問看護、リハビリ専門職がどのような具体的サポートを行うのかを詳しく解説します。

目次

脊髄小脳変性症と多系統萎縮症はどう違う?症状の進行と特徴

脊髄小脳変性症(SCD)と多系統萎縮症(MSA)は、どちらも小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が徐々に障害される進行性の病気です。

初期症状や経過には個人差がありますが、共通する最大の特徴は「運動失調」と呼ばれる症状です。これは筋力が低下しているわけではないのに、バランス調整がうまくいかなくなる状態を指します。

ご家族やご本人が病気の特性を正しく理解し、「次に何が起こりうるか」を予測して準備することは、在宅療養の安定性を高めるために不可欠です。

運動失調による生活への具体的な影響

運動失調が現れると、スムーズな動作が困難になります。初期には、「お箸をうまく使えない」「字が乱れる」「シャツのボタンが留めにくい」といった、手先の細かな動作(巧緻運動障害)から気づくケースが多いです。

進行すると、歩くときに足が前に出にくくなったり、千鳥足のように左右にふらついたりする歩行障害が顕著になります。

転倒への恐怖心から外出を控えるようになると、筋力がさらに低下する悪循環に陥りやすいため注意が必要です。

疾患・病態主な特徴特に注意すべき初期症状
脊髄小脳変性症
(孤発性・遺伝性含む)
主に小脳が障害され、運動の調節機能が低下する。純粋な小脳型では自律神経症状は目立ちにくい場合がある。歩行時のふらつき、呂律が回らない、手の震え、細かい作業が苦手になる。
多系統萎縮症
(オリーブ橋小脳萎縮症など)
小脳症状に加え、パーキンソン症状(筋肉の固さ)や自律神経症状が合併し、広範囲に障害が及ぶ。起立性低血圧による立ちくらみ、排尿障害、睡眠時のいびき・無呼吸、動作緩慢。

また、言葉が不明瞭になる構音障害も運動失調の一つです。酔っ払ったような話し方(断綴性言語)や、声の大きさが調整できない爆発性言語になり、意思疎通にストレスを感じるようになります。

これらの症状は日内変動があり、疲労や精神的なストレスで一時的に悪化する場合もあります。周囲は「急かさない」「ゆっくり待つ」という姿勢で接することが大切です。

自律神経症状が強くなる多系統萎縮症の注意点

多系統萎縮症は、脊髄小脳変性症の中でも特に自律神経系の障害が強く出やすい特徴を持ちます。代表的な症状として、立ち上がった時に急激に血圧が下がる「起立性低血圧」があります。

これにより、立ちくらみや失神を起こし、転倒や骨折につながる危険性が高まります。失神は前触れなく起こるときもあるため、移動時には細心の注意が求められます。

排尿障害(頻尿、尿失禁、尿が出にくいなど)も早期から現れる傾向があります。また、睡眠中に大きないびきをかいたり、呼吸が止まったりする睡眠時無呼吸や、喉頭の筋肉が麻痺して呼吸が苦しくなる症状が出る場合もあります。

自律神経症状は目に見えにくく、本人も「なんとなく調子が悪い」としか表現できないときがあります。毎日の血圧測定や排泄リズムの確認など、数値で管理できる部分をしっかり観察しましょう。

進行スピードを見据えた早めの環境調整

これらの病気は、残念ながら現代の医学では完治させる治療法が見つかっていません。しかし、進行のスピードは人によって大きく異なり、数年単位でゆっくり進む方もいれば、比較的早く介助が必要になる方もいます。

重要なのは、身体機能が低下してから準備するのではなく、「まだ動けるうち」に環境を整えることです。これを「予期的対応」と呼びます。

例えば、今は歩けていても、将来的に車椅子が必要になる可能性を考慮して廊下の幅を確保したり、玄関の段差解消を検討したりします。早めの対策は、ご本人の将来への不安を軽減し、安全な生活を長く維持する土台となります。

ふらつきや転倒を防ぐためにリハビリと住環境を整える

進行するふらつきに対して、「危ないから動かない」という選択をすると、廃用症候群を招き、筋力は急速に衰えてしまいます。在宅療養の目標は、安全を確保しながら、可能な限りご本人の「動きたい」という意欲を支えることです。

そのためには、ご本人の身体機能へのリハビリテーションと、住環境のハード面での整備(住宅改修や福祉用具)を車の両輪のように同時に進める取り組みが必要です。

理学療法士と連携して現在の身体機能を維持する

訪問リハビリテーションを利用し、理学療法士(PT)の専門的な指導を受けるのは非常に有益です。PTはご本人のバランス能力や筋力を詳細に評価し、その日の体調に合わせた訓練メニューを提案します。

脊髄小脳変性症の方に対するリハビリでは、過度な負荷をかけると逆に疲労が増し、症状が悪化するときがあります。専門家による適切な負荷量の調整と、疲れないための動作指導が重要です。

具体的には、「足を肩幅より広く広げて立つと安定する」「振り返るときはいきなり回らず、足踏みをして向きを変える」といった、ふらつきをカバーするための動作のコツを習得します。

転倒リスクを減らす手すり設置や段差解消の具体策

家の中は、健常な人には気にならない小さな段差や障害物が、患者さんにとっては大きな転倒リスクとなります。

特にバランスを崩した時、とっさに手をつくなどの防御反応が遅れがちになるため、転倒は骨折などの大怪我に直結します。

介護保険の住宅改修制度を利用すれば、手すりの取り付けや段差の解消、滑りにくい床材への変更などの工事費用の一部(上限20万円まで)が支給されます。

転倒予防のための住環境整備チェックポイント

  • 動線の確保と整理整頓
    床に物を置かないのが基本です。電気コードやカーペットの端、脱ぎ捨てたスリッパなどはつまずきの原因になります。通路幅を確保し、家具の配置を見直して直線的な動線を作ります。
  • 手すりの設置場所の最適化
    玄関の上がり框、トイレの立ち座り位置、浴室の出入り口、階段など、動作の切り替えが必要な場所に設置します。縦型の手すりは立ち座りに、横型の手すりは移動の補助に適しています。
  • 照明環境の見直し
    足元が暗いとバランスを崩しやすくなります。夜間のトイレ移動のために、人感センサー付きの足元灯を設置します。また、日中でも部屋全体を明るく保つって、視覚情報を補い転倒を防ぎます。

工事が難しい賃貸住宅などでは、突っ張り棒式の手すりや、据え置き型の手すりをレンタルすると対応可能です。身体状況の変化に合わせて、柔軟に環境を変えていく視点が必要です。

車椅子導入のタイミングを専門家と相談する

歩行が困難になってきた時、車椅子を使うことに心理的な抵抗を感じる方は少なくありません。「車椅子になったらおしまいだ」と考え込んでしまう方もいます。

しかし、「車椅子を使うと行動範囲が広がり、安全に移動できる」と捉え直すことが大切です。無理をして歩き続け、転倒を繰り返すよりも、移動手段として車椅子を適切に取り入れる方が、結果的に生活の質(QOL)を高く保てます。

導入のタイミングは、理学療法士や医師、ケアマネジャーと相談して決定します。最初は外出時のみ使用し、室内では伝い歩きをするなど、段階的に導入する場合もあります。

飲み込みにくさを感じた時に始まる嚥下機能への支援

病気が進行すると、食べ物や飲み物がうまく飲み込めない「嚥下障害」が現れやすいです。食事中にむせたり、飲み込んだ後に声がガラガラしたり(湿性嗄声)する場合は注意信号です。

誤嚥(食べ物が食道ではなく気管に入ること)は、命に関わる誤嚥性肺炎を引き起こす最大の要因です。

誤嚥性肺炎を防ぐための食事形態と姿勢の工夫

嚥下機能が低下した場合、普通の食事をそのまま食べるのは危険です。食材を細かく刻んだり、ミキサーにかけたり、とろみ剤を使って水分の流れる速度を調整したりする「食事形態の調整」が必要です。

しかし、ただ細かくすれば良いというわけではありません。刻んだ食材が口の中でバラバラになると、かえって誤嚥しやすくなる場合もあります。まとまりを持たせ、のど越しを良くする工夫が大切です。

嚥下レベル・状態適した食事の形状・特徴具体的なメニュー例
軽度低下
(固いものが噛みにくい)
軟菜食。箸やスプーンで簡単に切れる柔らかさ。適度な水分を含み、パサつかないもの。煮魚、柔らかく煮た野菜、豆腐ハンバーグ、お粥(全粥)。
中等度低下
(まとまりにくい・むせる)
ソフト食・ムース食。舌で押しつぶせる硬さ。食材をミキサーにかけ、ゲル化剤で再成形したもの。ムース状の肉・魚、茶碗蒸し、ヨーグルト、とろみをつけたスープ。
重度低下
(飲み込みが難しい)
ミキサー食・ゼリー食。噛む必要がなく、そのまま飲み込めるペースト状。粒がなく均質であること。重湯、具なしのポタージュ、市販の高カロリーゼリー、ペースト食。

食事をするときの姿勢も重要です。足裏をしっかり床につけ、背筋を伸ばし、顎を軽く引いた姿勢(頸部前屈位)をとると、気道が塞がり食道が開きやすくなります。

ベッド上で食べる場合は、リクライニングを30度〜60度程度に調整し、首が後ろに反らないように枕で頭の位置を調整します。食事前に深呼吸や首の体操を行うのも、誤嚥予防に効果的です。

言語聴覚士による嚥下リハビリテーションの効果

言語聴覚士(ST)は、「話すこと」と「食べること」のリハビリ専門職です。訪問リハビリでSTの介入を受けることで、専門的な嚥下評価と訓練が可能になります。

具体的には、口や舌の動きを良くする口腔体操、飲み込む反射を促すためのアイスマッサージ、呼吸と発声を連動させる練習などを通じて、嚥下機能を維持・改善します。

また、STは実際に食事をしている場面を観察し、ご本人に合った一口量や、次の一口を入れるタイミング、適切なスプーンの選び方などをアドバイスします。「このゼリーなら安全」「この水分にはこれくらいのとろみが必要」といった具体的指導は、家族の不安を大きく軽減します。

胃ろう造設の判断時期と在宅での管理方法

嚥下障害が重度になり、口からの摂取だけでは十分な栄養や水分が摂れなくなった場合、あるいは誤嚥性肺炎を繰り返すようになった場合、胃ろう(PEG)の造設を検討する時期が来ます。

これは非常にデリケートで難しい決断ですが、胃ろうを作るのは「口から食べることを諦める」とイコールではありません。

胃ろうから必要な栄養を確保すると体力が回復し、誤嚥のリスクを減らした上で、少量の「楽しみとしての経口摂取(楽しみ食)」を安全に続けることも可能です。

在宅での胃ろう管理は、訪問看護師や訪問診療医が全面的にバックアップします。栄養剤の注入手順や、皮膚トラブルのケア、カテーテルの交換など、専門職が指導・管理するため、ご家族だけで抱え込む必要はありません。

在宅生活を長く続けるための排泄・入浴ケアのポイント

在宅療養において、ご本人にとってもご家族にとっても、身体的・精神的に大きな負担となりやすいのが排泄と入浴のケアです。

特に多系統萎縮症では、自律神経障害による排尿トラブルが顕著に出るため、医療的な管理が必要になるケースが多くあります。

排尿障害への対応とバルーンカテーテルの管理

神経因性膀胱により、尿が出にくい(排出障害)または尿が我慢できない(蓄尿障害)といった症状が現れます。尿が出し切れずに膀胱に残ると、尿路感染症や腎盂腎炎の原因となります。

初期段階では、お薬によるコントロールや、時間を決めてトイレに行く排尿誘導を行いますが、進行すると自己導尿や、尿道留置カテーテル(バルーンカテーテル)が必要になる場合があります。

バルーンカテーテルを留置する際は、定期的な交換(通常月に1回)と毎日の観察が必要です。尿の量や色、混濁がないかを確認し、尿バッグの位置を膀胱より低く保つなどの管理を行います。

これらは訪問看護師が中心となって管理し、ご家族には日々の簡単なチェックポイントをお伝えします。トラブル時には24時間対応の訪問看護ステーションが緊急対応するため、在宅でも安全に継続できます。

安全に入浴するための訪問入浴サービスの活用

入浴は清潔保持だけでなく、血行促進やリラックス効果、拘縮予防にも役立ちます。しかし、ふらつきがある中での滑りやすい浴室移動や、浴槽への出入りは、転倒リスクが非常に高い動作です。

家族だけで入浴介助を行うのが難しくなった場合は、無理をせず介護サービスを活用しましょう。自宅の浴槽での入浴が難しい場合、「訪問入浴サービス」を利用できます。

専用の浴槽を自宅の部屋に持ち込み、看護師と介護スタッフのチームが入浴を介助します。寝たきりの状態でも、バイタルチェックを行いながら安全に入浴でき、褥瘡(床ずれ)の観察や処置も同時に行えます。

在宅ケアを助ける日々の工夫と用具

  • ポータブルトイレの活用
    寝室のベッドサイドにポータブルトイレを設置して移動距離を短くし、転倒リスクと失禁の不安を減らします。消臭機能付きや、暖房便座付きのものを選ぶと快適です。
  • シャワーチェアとバスボード
    浴室では、背もたれと肘掛けのあるシャワーチェアに座って体を洗います。浴槽への移乗には、浴槽の縁に渡すバスボードを使用すると、またぎ動作をなくし安全に入浴できます。
  • 陰部洗浄ボトルの利用
    入浴できない日や、オムツ交換の際には、ぬるま湯を入れたボトルで陰部を洗い流します。清潔を保って尿路感染症を予防し、皮膚トラブルを防ぎます。

便秘や頻尿に対する訪問看護師のコントロール

自律神経の乱れや運動量の低下、水分摂取量の減少により、頑固な便秘に悩まされる方は非常に多いです。便秘は腹部膨満感や食欲不振、さらには腸閉塞のリスクにもつながります。

訪問看護師は、腹部マッサージや排便のタイミングに合わせた摘便、医師の指示に基づく下剤や浣腸の適切な使用を通じて、排便リズムを整えるコントロールを行います。

頻尿に対しては、夜間のトイレ回数が増えるとご本人もご家族も慢性的な睡眠不足になりがちです。尿とりパッドやオムツの適切な選定、夜間のみポータブルトイレを使用するなど、生活リズムを崩さないための工夫を提案します。

急変時や困った時にすぐ動いてくれる在宅医療チーム

進行性の難病を抱えて自宅で過ごす上で、最も心強いのは「何かあった時にすぐに相談できる専門家チーム」の存在です。在宅療養は患者さんとご家族だけで頑張るものではありません。

医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどが連携し、24時間体制で生活を支えます。

24時間365日対応の訪問診療医が担う役割

訪問診療(在宅医療)を行う医師は、通院が困難になった患者さんの自宅を定期的に(通常は月2回程度)訪問し、診察や検査、薬の処方を行います。

脊髄小脳変性症や多系統萎縮症の患者さんの場合、神経学的所見のチェック、血圧変動の管理、嚥下状態の確認、栄養状態の評価などが主な診療内容となります。

そして最も重要なのが「24時間365日の緊急対応」です。夜間の急な発熱、転倒による怪我、呼吸状態の悪化、カテーテルのトラブルなどが起きた際、いつでも電話がつながり、必要に応じて医師や看護師が緊急往診を行います。

ケアマネジャーを中心とした介護保険サービスの調整

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、在宅療養の司令塔でありコーディネーターです。ご本人やご家族の希望を丁寧に聞き取り、身体状況に合わせて適切なケアプラン(居宅サービス計画書)を作成します。

訪問看護、訪問介護、訪問入浴、福祉用具のレンタルなど、必要なサービスを組み合わせ、各事業所との連絡調整を一手に引き受けます。

病状が進行し、サービスの変更や追加が必要になった場合も、ケアマネジャーが窓口となって素早く対応します。

また、介護保険だけでなく、難病医療費助成制度や障害福祉サービスの利用についても相談に乗ってくれる、生活全般の頼れる相談役です。

職種主な役割と支援内容訪問頻度の目安
訪問診療医定期的な診察、薬の処方、治療方針の決定、緊急時の往診、死亡診断。月2回(隔週)が基本。状態により週1回や毎日の場合も。
訪問看護師バイタルチェック、医療処置(点滴・カテーテル管理・褥瘡ケア)、保清、家族指導。週1〜3回程度。重症度や医療依存度により毎日訪問も可能。
訪問リハビリ
(PT/OT/ST)
身体機能維持訓練、歩行練習、嚥下訓練、コミュニケーション練習、環境調整助言。週1〜2回、1回40〜60分程度が一般的。

訪問薬剤師による薬の飲み合わせと副作用管理

多くの種類の薬を服用している場合、飲み忘れや飲み間違い、薬同士の相互作用が懸念されます。訪問薬剤師は、医師の処方箋に基づいて薬を自宅に届け、服薬指導や管理を行います。

嚥下障害がある方には、粉砕して飲みやすくしたり、簡易懸濁法(お湯で溶かして注入する方法)を提案したりします。また、副作用のモニタリングも重要な役割です。

例えば、多系統萎縮症で使用される昇圧剤の効果判定や、パーキンソン症状治療薬による幻覚・妄想などの副作用が出ていないかを確認し、医師にフィードバックします。残薬の調整や、お薬カレンダーへのセットなども行い、服薬管理の負担を減らします。

介護する家族が共倒れしないためのレスパイト活用

進行性の神経難病の介護は、長期間に及びます。また、転倒や誤嚥の不安から「一瞬も目が離せない」という精神的なプレッシャーも大きく、介護するご家族が疲弊してしまう「介護疲れ」が深刻な問題となります。

在宅療養を継続するためには、ご家族が定期的に休息を取る「レスパイト」が絶対に必要です。ご自身の生活と健康を守るための制度やサービスについて説明します。

ショートステイを利用して介護から離れる時間を作る

ショートステイ(短期入所生活介護・療養介護)は、施設に短期間宿泊し、食事や入浴、排泄などの介護を受けるサービスです。

ご家族の病気や冠婚葬祭、仕事の出張などの理由だけでなく、「介護を休んでリフレッシュしたい」「夜ぐっすり眠りたい」という理由で利用して全く構いません。定期的に利用すると、介護の持続可能性が高まります。

医療的ケア(吸引や経管栄養など)が必要な場合は、「医療療養型」のショートステイや、難病患者の受け入れ実績がある施設を選定する必要があります。予約が取りにくい場合もあるため、ケアマネジャーと相談し、早めに計画を立てておきましょう。

難病医療費助成制度の手続きで経済的負担を減らす

脊髄小脳変性症や多系統萎縮症は、国の指定難病に含まれています。「指定難病受給者証」を取得すると、医療費の自己負担割合が2割(または1割)になり、世帯の所得に応じた月額自己負担上限額が設定されます。

これにより、訪問診療や訪問看護、高額な薬代などの医療費負担を大幅に抑えられます。

また、身体障害者手帳を取得すれば、重度心身障害者医療費助成制度の対象となる場合や、税金の控除、公共交通機関の割引などが受けられます。

これらの手続きは複雑なため、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)や保健所の難病担当者に相談しながら進めましょう。

地域の患者会や家族会で悩みを共有する場を持つ

同じ病気を持つ患者さんやご家族と交流することは、大きな心の支えとなります。「この症状はうちだけじゃない」「先輩たちはこうやって乗り越えている」という情報を得ると、孤独感が和らぎます。

全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会などの患者団体があり、各地で交流会や医療講演会が開かれています。最近ではオンラインでの交流会も増えており、自宅にいながらの参加も可能です。

専門職には話しにくい愚痴や弱音も、同じ立場の人たちとなら分かち合えるときがあります。精神的な孤立を防ぐためにも、つながりを持つと良いでしょう。

言葉が出にくいもどかしさと精神的な不安を支える

運動機能の低下と同じくらい、あるいはそれ以上に辛いのが、言葉がうまく話せない(構音障害)ことによるコミュニケーションの断絶です。

頭の中ははっきりしているのに、思いを伝えられないもどかしさは、ご本人を深く傷つけ、孤立感を深めます。また、将来への不安からうつ状態になるケースも稀ではありません。

構音障害があっても意思を伝えるための代替手段

言葉が聞き取りにくくなった場合、聞き手が「ゆっくり話してもらう」「『はい』『いいえ』で答えられるクローズドな質問をする」などの工夫をするのが基本です。

しかし、進行に伴い発話自体が難しくなるときもあります。その場合は、文字盤(50音表)を指差して会話する方法や、筆談、パソコン、タブレット端末などの代替コミュニケーションツール(AAC)を活用します。

  • 透明文字盤の活用
    透明なアクリル板に50音が書かれた文字盤を、ご本人と介助者の間に掲げます。ご本人の視線を読み取るため、声が出せなくても、指が動かせなくても会話が可能です。
  • ICT機器の導入
    タブレット端末のアプリには、タップするだけで日常会話のフレーズを音声で読み上げてくれるものや、筆談アプリなどがあります。作業療法士がスイッチの改造などを行い、操作を支援します。

うつ状態や不安感に対する精神的なケアアプローチ

病気の受容は容易なことではありません。進行への恐怖、役割の喪失、家族への申し訳なさなどから、抑うつ状態や不眠、イライラが現れるときがあります。

訪問診療医や訪問看護師は、身体面だけでなく精神面の変化にも注意を払います。必要に応じて抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などを調整し、辛さを緩和します。

また、傾聴と共感をベースにした対話を通じて、ご本人の感情を受け止めます。「辛いと言ってもいい」「弱音を吐いてもいい」と思える安全な関係性を築くことが、精神的安定には必要です。

本人の「こう生きたい」を叶える意思決定支援

医療やケアの方針を決める際、ご本人の意思が置き去りにされてはいけません。ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)と呼ばれるプロセスを通じて、「大切にしていることは何か」「どのような医療やケアを望むか」を、ご本人、ご家族、医療ケアチームで繰り返し話し合います。

胃ろうをするかしないか、人工呼吸器をつけるかつけないかといった重大な決断だけでなく、「孫の結婚式に出たい」「自宅でお風呂に入り続けたい」といった日々の希望も大切にします。

病気になっても「その人らしさ」を失わないよう、チーム全体でご本人の意思決定を支え続けます。

よくある質問

脊髄小脳変性症の在宅療養で、一人暮らしを続けることは可能ですか?

初期や症状が軽い段階では、訪問介護や配食サービスなどを活用して一人暮らしを継続している方もいらっしゃいます。

しかし、進行に伴い転倒リスクや緊急時の対応が課題となります。24時間対応の訪問看護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを組み合わせた手厚い支援体制の構築が必要です。

ケアマネジャーや医師と相談し、安全を確保できる限界点を見極めつつ、施設入所も視野に入れた計画を立てましょう。

多系統萎縮症で誤嚥が頻繁に起こる場合、家族はどう対応すればよいですか?

食事中にむせたり咳き込んだりした場合は、まず食事を中断し、背中をさすらずに前傾姿勢をとらせて咳き込みを促します(背中を叩くと異物が奥に入り込む可能性があります)。

頻繁に起こる場合は、食事形態(とろみの強さや刻み具合)が合っていない可能性があります。直ちに訪問看護師や医師、言語聴覚士に相談し、嚥下機能の再評価と食事内容の見直しを行ってください。

脊髄小脳変性症の進行を遅らせるためのリハビリは、毎日行う必要がありますか?

過度な運動は疲労を招き、一時的に症状を悪化させる場合があるため、必ずしも「毎日きつい運動をする」必要はありません。大切なのは「継続」です。

理学療法士に指導された、自宅でできる軽いストレッチやバランス練習を、体調の良い時に無理のない範囲で行うのが効果的です。日常生活動作そのもの(着替えや移動)をリハビリと捉え、できることは自分で行う姿勢も重要です。

多系統萎縮症の患者が急に意識を失った場合、どのように対処すればよいですか?

多系統萎縮症では起立性低血圧による失神や、声帯麻痺による呼吸困難が原因の場合があります。まずは安全な場所に寝かせ、足を高くして血流を頭に戻す姿勢をとります。

呼吸をしていない、呼びかけに反応がない場合は、直ちに救急車を呼んでください。呼吸停止のリスクがある疾患ですので、事前に主治医と緊急時の対応フローを確認しておくことが極めて重要です。

脊髄小脳変性症の遺伝性が心配な場合、検査を受けるべきですか?

遺伝子検査は、確定診断に役立つ一方で、ご本人だけでなく血縁者の方々にも心理的・社会的な影響を及ぼす可能性があります。

検査を受けるかどうかは、専門医による十分な遺伝カウンセリングを受け、メリットとデメリットをよく理解した上で慎重に判断する必要があります。決して一人で悩まず、主治医に相談してください。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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