パーキンソン病の訪問診療|薬の調整(ウェアリング・オフ)と重度化時の在宅ケア

パーキンソン病の訪問診療|薬の調整(ウェアリング・オフ)と重度化時の在宅ケア

パーキンソン病が進行し通院が難しくなった際、訪問診療は患者さんとご家族の生活を支える強力な選択肢となります。

医師が自宅を訪問することで、リラックスした環境での診察や、きめ細かな薬の調整が可能になります。

特にウェアリング・オフ現象への対応や、重度化した場合の嚥下管理、精神症状のケアなど、住み慣れた家で穏やかに過ごすための包括的な医療が提供されます。

この記事では、訪問診療への切り替え時期の目安から、具体的な処置内容、費用の仕組みまで、在宅療養を成功させるための知識を詳しく解説します。

目次

パーキンソン病で訪問診療を検討すべき具体的なタイミングとは

訪問診療への移行を考えるべきタイミングは、単に「通えなくなったとき」だけではありません。病状の変化や生活上の困難さが現れ始めた段階での検討が、その後のQOL(生活の質)を大きく左右します。

通院が困難になるヤールの重症度分類3度以上が目安になります

パーキンソン病の進行度を示す「ホーン・ヤールの重症度分類」において、3度以上が一つの明確な切り替えの目安となります。3度は姿勢反射障害が現れ、歩行時のバランス保持が難しくなる段階です。

この時期になると、公共交通機関を利用しての単独通院が困難になり、転倒による骨折のリスクも格段に高まります。無理をして通院を続けるのは、患者さんの心身に大きな負担をかけることになります。

外来通院のために長い移動時間や待ち時間を費やすことは、患者さんの体力を著しく消耗させます。診察室に入るまでの移動だけで疲労困憊してしまい、診察時には本来の症状を医師に伝えられないというケースも少なくありません。

訪問診療に切り替えると、移動の負担をゼロにし、リラックスした状態で医師の診察を受けられます。医師は患者さんの普段の表情や動きを正確に評価でき、より適切な治療方針を立てることが可能になります。

ウェアリング・オフ現象で外出のタイミングが掴めないとき

薬の効果が切れて体が動かなくなる「ウェアリング・オフ現象」が現れ始めると、外出の計画を立てるのが極めて困難になります。通院予約の時間に合わせて準備をしていても、急に動けなくなる不安が常につきまといます。

病院からの帰宅途中に薬が切れて立ち往生してしまうといった恐怖感は、外出そのものを億劫にさせます。その結果、引きこもりがちな生活を招き、身体機能の低下をさらに加速させる悪循環に陥ってしまいます。

自宅に医師が来てくれる訪問診療であれば、たとえ診察予定時間にオフの状態であっても問題ありません。むしろ、その「動けない状態」を医師に直接診てもらうと、薬の調整に必要な貴重な情報を共有できます。

突発的なオフ症状に対して家族がどのように対応すべきか、その場で具体的な指導を受けられる点も在宅医療ならではの強みです。生活リズムを取り戻すための大きな一歩となるでしょう。

訪問診療を検討する主な兆候

  • 通院の前日から体調を整えるために、過度な緊張や準備が必要になっている。
  • タクシーの乗り降りや、病院の待合室で長時間座っているのが辛く感じる。
  • 薬が切れる時間を恐れて、外出の予定をキャンセルすることが増えた。
  • 転倒への恐怖心から、家の中でも活動範囲が狭まっている。

家族の介護負担が増して通院介助が限界に達したとき

パーキンソン病の在宅療養を支えるご家族にとって、通院介助は想像以上に大きな負担となります。車椅子への移乗や車への乗り降り、病院内での移動補助など、半日以上の時間を要する通院は大変な重労働です。

特に老老介護の世帯や、介護者が仕事を持っている場合、定期的な通院の継続自体が生活の破綻を招きかねません。介護者の疲弊は、共倒れのリスクを高める重大な問題です。

訪問診療の利用は、決して「楽をする」ことではなく、介護を長く続けるために必要な体制整備です。通院に費やしていた時間と体力を、日々の食事の世話や会話、介護者自身の休息に充ててください。

家庭全体の生活の質を向上させ、笑顔で過ごせる時間を増やすことこそが、患者さんの安心感につながります。限界を感じる前に専門家の力を借りることが大切です。

誤嚥性肺炎などの合併症リスクが高まった段階で相談します

パーキンソン病が進行すると、飲み込む力が弱くなる嚥下障害が現れやすくなります。食事中にむせることが増えたり、唾液が飲み込めずに口から流れたりする場合は注意が必要です。

これらは誤嚥性肺炎のリスクが高まっているサインであり、外来通院だけでは日々の変化を見逃してしまう場合があります。気づいたときには重症化して緊急入院が必要になるケースも珍しくありません。

訪問診療では定期的な訪問時に肺の音を聴診し、酸素飽和度を確認して、肺炎の兆候をいち早く察知します。異常があれば、即座に抗生剤の投与などの対応を行います。

また、誤嚥を防ぐための食事形態の工夫や、食事姿勢の指導など、生活環境に応じた具体的なアドバイスも受けられます。合併症を未然に防ぐことが、長く在宅生活を続ける鍵となります。

訪問診療医が行う薬の調整とウェアリング・オフへの対策

パーキンソン病治療の要は薬物療法ですが、進行期においては「何を飲むか」と同じくらい「いつ、どのように飲むか」が重要です。訪問診療医は、患者さんの生活実態に合わせたオーダーメイドの処方設計を行います。

生活リズムに合わせて薬効時間をコントロールします

病院での診療とは異なり、訪問診療医は患者さんが実際に生活している現場を見られます。起床時間や食事のタイミング、活動量などを詳細に把握した上で、薬の効果が最大限に発揮されるよう調整します。

例えば、朝起きたときに体が動かないとトイレや着替えに支障が出る場合は、起床直後に速効性のある薬を追加するなどの工夫を行います。寝る前の薬を変更して朝まで効果を持続させる方法も有効です。

課題生活場面での困りごと訪問診療医による調整アプローチ
起床時の無動朝、体が固まって布団から出られない、トイレが間に合わない。就寝前の長時間作用型薬の増量や、起床時即座に内服できる水なしで飲める薬(OD錠など)の活用を検討。
食後のオフ食事のタンパク質が薬の吸収を妨げ、食後に動けなくなる。服薬時間を食前30分に変更し、薬が吸収されてから食事を摂るよう指導。必要に応じて補助薬を追加。
夜間の寝返り困難夜中に体が固まって寝返りが打てず、不眠や痛みが生じる。夜間持続する貼付薬の導入や、徐放性製剤への切り替えを行い、睡眠の質を確保。

また、食事の影響で薬の吸収が悪くなる場合には、空腹時に服薬できるよう時間をずらすなど、生活実態に即した柔軟な指示を出します。一日の中で「動ける時間」を少しでも長く確保することを目指します。

症状日誌を活用してオンとオフの波を正確に把握します

薬の効果が出ている「オン」の時間と、効果が切れている「オフ」の時間を正確に把握することは、治療精度の向上に直結します。

しかし、患者さん自身の感覚だけでは、その境界があいまいな場合も少なくありません。

そこで、訪問診療では「症状日誌(パーキンソン病日誌)」の活用を推奨しています。ご本人やご家族、時には訪問看護師やヘルパーと協力して記録をつけてもらって、客観的なデータを収集します。

この日誌には、服薬時間だけでなく、実際に体が動いた時間や動かなくなった時間を記録します。訪問診療医はこの記録を分析し、「昼食後に必ずオフが来ている」といった特定のパターンを読み解きます。

このデータに基づき、1回あたりの薬の量を微調整したり、服薬回数を増やして血中濃度を一定に保つなどの対策を講じます。感覚だけでなく、事実に基づいた調整を行うことが重要です。

副作用のジスキネジアが出ないギリギリの量を見極めます

薬の量が多すぎたり効きすぎたりすると、自分の意思とは関係なく体がくねくねと動く「ジスキネジア」という副作用が現れます。激しい動きは体力を消耗させ、転倒の原因にもなるためコントロールが必要です。

しかし、ジスキネジアを抑えようとして薬を減らしすぎると、今度は体が動かないオフの時間が増えてしまいます。この「動けるけれど、勝手には動かない」という狭い範囲に薬の濃度を保つのは容易ではありません。

訪問診療医は、在宅での様子を観察しながら、非常に細かい単位で薬の量を調整します。時には種類の異なる薬を組み合わせ、ドパミン受容体への刺激をマイルドにする方法も模索します。

ジスキネジアの出現を抑えつつ運動機能を維持することは、高度な専門知識を要します。患者さんが「これなら生活しやすい」と感じるバランスを見つけるまで、根気強く調整を続けます。

貼付薬や注射薬への切り替えで飲み忘れやムラを防ぎます

嚥下機能が低下して錠剤を飲み込むのが難しくなったり、消化管の動きが悪くなって内服薬の効果が安定しなくなったりする場合があります。そのような時は、経口薬以外の選択肢を積極的に提案します。

皮膚に貼るタイプのドパミンアゴニスト製剤(貼付薬)は、24時間安定して薬剤が体内に吸収されます。血中濃度の変動が少なく、夜間の症状改善にも有効な手段です。

さらに進行した場合や、急激なオフ症状に対応するために、自己注射製剤の使用を検討するときもあります。これらは在宅でも安全に使用できるよう、訪問看護師と連携して手技の指導や管理を行います。

薬の形状を変えると、服薬の負担を減らし、より安定した効果を引き出すことが可能です。飲み忘れの防止にもつながり、介護者の服薬管理の負担軽減にも大きく寄与します。

進行期から重度化した場合に在宅で受けられる医療処置

病状が進行し、寝たきりに近い状態になったとしても、適切な医療処置を受けると自宅での生活を継続することは十分に可能です。病院でなければできないと思われがちな処置の多くが、現在は在宅で実施できます。

嚥下機能低下時の胃ろう管理や点滴に対応します

パーキンソン病の進行により、口から食事を摂るのが難しくなり、低栄養や脱水の状態になる場合があります。栄養摂取の代替手段として「胃ろう(PEG)」の造設を選択された場合、その管理は在宅で問題なく行えます。

チューブの交換や皮膚トラブルの処置、栄養剤の注入指導など、専門的なケアを提供します。ご家族が不安なく管理できるよう、丁寧な指導を繰り返します。

医療処置の種類具体的な内容と目的在宅での管理方法
経管栄養管理胃ろうや経鼻胃管を使用し、必要な栄養と水分を確実に投与する。家族や介護者への注入指導、定期的なチューブ交換、皮膚トラブルの治療。
在宅酸素療法呼吸機能低下に対し、酸素濃縮器を設置して酸素を吸入する。機器の設置手配、酸素流量の調整、パルスオキシメーターによる管理。
尿道カテーテル留置排尿障害に対してカテーテルを留置し、尿路感染や尿閉を防ぐ。定期的なカテーテル交換、尿の性状確認、膀胱洗浄が必要な場合の処置。

また、一時的な体調不良や水分摂取不足に対しては、自宅での点滴治療も可能です。中心静脈栄養(IVH)の管理が必要な場合でも、カテーテルの刺入部管理や輸液ポンプの操作指導を行い、安全な体制を整えます。

無理に口から食べさせることによる誤嚥リスクを避けつつ、体の状態を維持するための栄養管理を徹底してサポートします。栄養状態が良いことは、褥瘡予防や感染症対策の基本でもあります。

痰の吸引や排痰ケアで呼吸状態を安定させます

飲み込む力が落ちると同時に、咳をして痰を出す力も弱まります。痰がのどや気管に溜まると、呼吸が苦しくなるだけでなく、窒息や肺炎の直接的な原因となります。

在宅療養においては、必要に応じて吸引器を導入し、定期的に痰を取り除くケアを行います。ご家族が吸引を行えるよう、訪問看護師が自信を持てるまで丁寧に指導します。

また、単に機械で吸い出すだけでなく、体位変換や背中のスクイージング(圧迫排痰法)などのアプローチも取り入れます。ネブライザーを使って気道を加湿し、痰を出しやすくする処置も一般的です。

これらのケアを適切に組み合わせると、呼吸を楽にし、苦痛の少ない安らかな在宅生活を守れます。

褥瘡(床ずれ)の予防処置と発生時の専門的な治療を行います

自分自身で体の向きを変えるのが難しくなると、骨が突出した部分に圧力がかかり続け、褥瘡ができやすくなります。一度できると治りにくく、感染症の原因にもなるため予防が何よりも重要です。

訪問診療医は、エアマットなどの適切な福祉用具の選定を助言し、皮膚の状態を定期的にチェックします。小さな赤みの段階で発見し、対策を講じることが悪化を防ぐポイントです。

もし褥瘡ができてしまった場合でも、壊死した組織を取り除く処置や、創傷被覆材の交換、軟膏処置などを自宅で行います。傷の状態に合わせた専門的な治療を提供します。

栄養状態の改善も傷の治癒には不可欠であるため、管理栄養士と連携して食事内容を提案するときもあります。重度化しても皮膚をきれいに保つことは、患者さんの尊厳を守ることにつながります。

自宅でのリハビリテーションで身体機能を維持する方法

薬物療法と並んでパーキンソン病治療の両輪となるのがリハビリテーションです。外出が難しくなってもリハビリを諦める必要はありません。訪問リハビリテーションを利用すると、生活の場を訓練の場に変えられます。

訪問リハビリと連携して関節拘縮の進行を遅らせます

パーキンソン病特有の筋固縮(筋肉のこわばり)は、動かさないでいると関節拘縮へと進行し、手足が曲がったまま固まってしまいます。こうなると着替えや清拭などのケアが難しくなり、痛みも伴います。

理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、関節の可動域を広げるストレッチやマッサージを行って、体の柔軟性を保ちます。プロの施術は、強張った筋肉をほぐす上で非常に効果的です。

自宅リハビリの重点ポイント

  • 関節が固まるのを防ぎ、着替えやオムツ交換の介助をしやすくする。
  • ベッドからポータブルトイレへの移乗動作など、実生活に直結した動作を練習する。
  • 飲み込みの力を維持し、誤嚥せずに食事を楽しむための訓練を行う。
  • 表情筋を動かす練習や発声練習を行い、コミュニケーション能力を維持する。

また、ご家族に対しても、毎日の生活の中で無理なくできるストレッチの方法を指導します。関節に負担をかけない介助の仕方を学ぶことで、介護者の腰痛予防にもつながります。

すくみ足や歩行障害に対する住環境の整備を提案します

家の中には、敷居の段差や滑りやすい床、狭い廊下など、転倒の危険となる箇所がいくつもあります。特に「すくみ足」は、狭い場所や方向転換が必要な場所で発生しやすい特徴があります。

リハビリスタッフは、実際の家屋環境を確認し、手すりの設置位置や家具の配置換え、床材の変更などを具体的に提案します。動線を確保すると、転倒リスクを大幅に減らせます。

また、すくみ足が出た際の対処法として、床に目印となるテープを貼ったり、リズムをとるための声かけを練習したりします。これらは視覚・聴覚刺激を利用した効果的な歩行訓練です。

安全に移動できる環境を整える工夫は、患者さんの自立度を高めると同時に、ご家族の見守りの負担を減らすことに直結します。

言語聴覚士による嚥下訓練で食事の楽しみを守ります

食べることは生きる喜びであり、最期まで口から食べたいと願う患者さんは多くいらっしゃいます。しかし、嚥下障害は徐々に進行するため、専門家による定期的な評価と訓練が必要です。

言語聴覚士は、実際に食事をしている場面を観察し、一口の量やペース、飲み込みやすい姿勢などを指導します。喉の動きを確認しながら、適切な食事方法を見つけ出します。

喉の筋力を鍛えるための発声練習や、口腔ケアによる口内環境の改善、飲み込みの反射を促すアイスマッサージなども行います。これらは誤嚥性肺炎の予防にも非常に有効です。

また、どのような形状の食事(トロミの有無や刻み食など)が最も安全かを評価し、調理を担当するご家族にアドバイスを行います。安全に美味しく食べる楽しみを、最期までサポートします。

精神症状や認知機能低下に対する在宅でのサポート体制

パーキンソン病は運動症状だけでなく、幻覚や妄想、認知機能低下、うつなどの非運動症状を伴うケースが多くあります。これらは時に運動障害以上に、患者さんとご家族を苦しめる原因となります。

幻視や妄想が出現した際の薬物調整と環境設定を行います

「部屋に知らない人がいる」「虫が這っている」といった幻視は、治療薬の副作用や病気の進行に伴って現れる場合があります。ご家族にとっては驚きの症状ですが、本人には現実に見えている光景です。

訪問診療医は、まず抗パーキンソン病薬の減量や種類の変更を検討します。運動症状を悪化させない範囲で、幻視を軽減できるよう慎重に調整を行います。

症状特徴的な訴えや行動在宅での対応方針
幻視「子供が遊んでいる」「虫がいる」など、実在しないものが見える。薬の調整、部屋を明るくする、否定せずに「私には見えないけれど心配ないよ」と安心させる。
妄想「妻が浮気をしている」「お金を盗まれた」など、訂正不能な思い込み。議論や説得を避け、話題を変える。必要に応じて抗精神病薬の微量使用を検討。
衝動制御障害買い物依存、ギャンブル、性欲亢進など、衝動を抑えられない。原因となるドパミンアゴニストの減量や中止。金銭管理をご家族が行うなどの環境調整。

同時に、幻視が見えにくくなるような環境作りも大切です。部屋の照明を明るくして影を減らす、複雑な柄のカーテンを変えるといった対策を助言します。

ご家族には、幻視を頭ごなしに否定せず、かといって肯定しすぎず、安心感を与えるような接し方を指導します。混乱を防ぎ、穏やかに過ごせるようサポートします。

認知症を合併した場合の生活上の工夫を指導します

パーキンソン病に合併する認知症は、注意力の低下や段取りが悪くなる遂行機能障害が特徴的です。ぼーっとしている時としっかりしている時の差が激しいこともあり、対応に戸惑う方が少なくありません。

訪問診療チームは、患者さんが理解しやすいシンプルな指示の出し方や、生活リズムを整えて覚醒レベルを上げる方法を指導します。日中の活動量を増やすのも効果的です。

また、介護者が同じことを何度も聞かれたり、突拍子もない行動に振り回されたりして疲弊しないよう、専門的な知識を共有します。病気の特徴を知るだけで、介護のストレスが軽減される場合があります。

デイサービスなどの介護サービスを適切に組み合わせ、社会的な刺激を取り入れるのも推奨します。認知機能の維持や周辺症状の安定に大いに役立ちます。

うつ症状やアパシーに対して心のケアと薬物療法を行います

「やる気が出ない」「何に対しても興味がわかない」といったアパシー(無気力)やうつ症状は、パーキンソン病患者さんの約半数に見られると言われています。これらは単なる「甘え」ではなく、脳内の変化による病的な症状です。

家族が励ませば励ますほど、患者さんがプレッシャーを感じて追い詰められてしまうときもあります。まずは病気の症状であることを理解し、焦らず見守りましょう。

医師は、患者さんの訴えをじっくりと傾聴し、必要に応じて抗うつ薬や意欲を改善する薬剤を処方します。心の状態が改善すると、リハビリへの意欲も湧いてくることが多いのです。

ご家族に対しては、本人のペースを尊重し、できたことを評価するような関わり方を提案します。心のケアを通じて、生きる意欲を支え続けます。

介護する家族を支えるレスパイトケアと緊急時の連携

在宅療養を長く続けるための鍵は、患者さんへの医療だけでなく、介護をするご家族をいかに支えるかにあります。24時間365日の介護は、どんなに愛情があっても一人で背負いきれるものではありません。

訪問看護ステーションと24時間連絡が取れる体制を作ります

「夜中に熱が出たらどうしよう」「転んで動けなくなったら誰に相談すればいいのか」といった不安は、在宅介護における最大のストレスです。いつでも相談できる相手がいることは、精神的な支えとなります。

訪問診療を導入すると、提携する訪問看護ステーションと連携し、24時間365日いつでも電話相談ができる体制が整います。必要に応じて看護師の緊急訪問も可能です。

職種主な役割と家族への支援
訪問診療医定期的な診察、処方、治療方針の決定、緊急時の往診、看取りの対応。
訪問看護師日々の健康観察、服薬管理、入浴介助、医療処置、緊急時の初期対応、家族の精神的ケア。
ケアマネジャーケアプランの作成、介護サービスの調整、制度利用の手続き代行、生活全般の相談窓口。
訪問薬剤師薬の配達、服薬指導、残薬管理、飲み合わせの確認、医師への処方提案。

夜間や休日であっても、医療のプロフェッショナルと繋がっているという安心感は、ご家族の負担を劇的に軽減します。医師とも常にホットラインが確保されており、迅速な医療判断が可能です。

ショートステイを計画的に利用して介護者の休息時間を確保します

介護者が一時的に介護から離れ、休息をとることを「レスパイトケア」と呼びます。冠婚葬祭などの用事がなくても、「少し疲れたから休みたい」という理由でショートステイを利用するのは非常に重要です。

しかし、パーキンソン病の場合、服薬管理が複雑であることなどから、受け入れ施設が見つかりにくいケースがあります。施設側が対応できるか不安に思うことも多いでしょう。

訪問診療医は、普段の診療情報を施設側と詳細に共有し、ショートステイ先でも適切なケアが受けられるようバックアップします。医療依存度が高い場合は、療養型ショートステイなどを紹介します。

安心して預けられる先を一緒に探し、介護者がリフレッシュできる時間を確保します。介護者が元気でいることが、結果として患者さんの幸せにつながるのです。

急変時には往診や連携病院への入院搬送を迅速に行います

自宅で過ごしていても、肺炎や骨折、予期せぬ急変が起こる可能性はゼロではありません。そのような時、救急車を呼ぶべきか迷う場面でも、まずは訪問診療医や訪問看護師に連絡してください。

状況を確認し、往診で対応できるか、病院への搬送が必要かを適切に判断(トリアージ)します。無駄な救急搬送を減らし、適切な医療につなげられます。

入院が必要と判断された場合は、あらかじめ連携している地域の基幹病院や、かかりつけの神経内科へスムーズに紹介します。医師同士の連携により、入院先での治療も円滑に開始されます。

在宅と病院の切れ目のない連携が、患者さんの命を守ります。いざという時のバックアップ体制があるからこそ、安心して在宅生活を送れるのです。

訪問診療にかかる費用の目安と利用できる公的制度

「訪問診療は高額なのではないか」と心配される方は多いですが、パーキンソン病は指定難病に含まれるため、公的な助成制度を活用すると自己負担額を大幅に抑えることが可能です。

指定難病受給者証を利用して自己負担上限額を抑えます

パーキンソン病は国の指定難病です。重症度などの基準を満たし、「指定難病医療費受給者証」の交付を受けていれば、医療費の自己負担割合が2割(または1割)になります。

さらに重要なのが、所得に応じた「月額自己負担上限額」が設定される点です。これにより、訪問診療や薬代などを合算しても、ひと月に支払う医療費の上限が決まります。

制度名称対象となる費用メリットと特徴
指定難病医療費助成難病治療に関わる医療費、薬剤費、訪問看護費など。所得に応じた月額上限額(0円〜3万円程度)が設定され、超過分は全額助成される。
重度心身障害者医療費助成医療費全般(保険診療の自己負担分)。自治体による制度。身体障害者手帳の等級等の条件を満たせば、自己負担が実質無料や低額になる。
高額療養費制度医療保険適用の医療費全般。指定難病の対象外の治療を受けた場合でも、月ごとの自己負担限度額を超えた分が払い戻される。

上限を超えた分は公費で賄われるため、訪問回数が増えたり高額な薬を使ったりしても、家計への負担は一定額に留まります。経済的な心配をせずに必要な医療を受けられます。

介護保険と医療保険の適用区分を明確にします

在宅療養では、医療保険と介護保険の両方を利用します。訪問診療や薬の処方は「医療保険」が適用されますが、訪問看護やリハビリについては病状によって適用される保険が異なります。

パーキンソン病(指定難病)の場合、訪問看護などは条件によって「医療保険」が優先されるケースがあります。制度が複雑に入り組んでいるため、専門的な知識が必要です。

専門知識を持ったスタッフが、どちらの保険を使えば最も費用対効果が高いかをシミュレーションします。介護保険の限度額を有効に使いながら、必要なサービスを組み合わせる提案を行います。

無駄な出費を防ぎ、利用できる権利を最大限に行使できるようアドバイスします。制度の谷間に落ちないよう、しっかりとサポートします。

重度心身障害者医療費助成制度などの自治体の支援を確認します

お住まいの自治体によっては、国の指定難病助成に上乗せして、独自の医療費助成を行っている場合があります。これらは申請主義であることが多く、知らなければ利用できません。

例えば、「重度心身障害者医療費助成制度(マル障)」は、身体障害者手帳の等級が一定以上の方を対象に、医療費の自己負担分を全額または一部助成する制度です。

パーキンソン病が進行し、肢体不自由の認定を受けた場合はこの対象となる可能性があります。この制度が利用できれば、訪問診療にかかる費用負担はさらに軽くなります。

クリニックの相談員が個別に状況を確認し、申請漏れがないようサポートします。利用できる支援をすべて活用し、経済的な安心を確保しましょう。

よくある質問

パーキンソン病の訪問診療はどのくらいの頻度で来てくれますか?

基本的には月2回の訪問を行うのが一般的です。2週間に1度のペースで診察を行うと、薬の効果判定や副作用のチェック、体調の変化をきめ細かく把握できます。

ただし、病状が不安定な時期や、薬の調整を集中的に行う必要がある場合、また終末期などで頻繁な観察が必要な場合には、週1回以上の訪問を行うケースもあります。

逆に、病状が非常に安定している場合は、ご本人やご家族と相談の上、回数を調整することもあります。

パーキンソン病の薬調整がうまくいかない場合も訪問診療で対応できますか?

はい、対応可能です。むしろ、薬の調整がうまくいかない方こそ、訪問診療のメリットを大きく感じていただけます。

診察室での短い時間では伝えきれない、生活の中での「動けない時間帯」や「薬が切れるタイミング」、「食事との関係」などを、医師が直接現場で確認できるからです。

詳細な症状日誌と生活実態に基づいた調整を行うと、これまで改善しなかったウェアリング・オフやジスキネジアがコントロールできるようになるケースは多くあります。

訪問診療を利用しながら今の神経内科専門医にもかかり続けられますか?

はい、併診(へいしん)という形で可能です。普段の健康管理や薬の処方、体調不良時の対応は訪問診療医が行い、3ヶ月〜半年に1回程度、専門的な検査や評価のために神経内科専門医の外来を受診するというスタイルをとれます。

訪問診療医と専門医が診療情報提供書を通じて情報を共有し、役割分担をするため、専門性の高い治療と在宅での安心した生活の両立が可能になります。

パーキンソン病が重度化して寝たきりになっても自宅で看取れますか?

はい、可能です。多くの訪問診療クリニックは「看取り」に対応しています。

パーキンソン病の終末期において、痛みや苦しさを緩和するケア(緩和ケア)を行いながら、最期まで住み慣れた自宅で過ごせるよう支援します。医師や看護師が24時間体制でバックアップし、ご家族の不安にも寄り添います。

急変時に病院へ搬送するか、そのまま自宅で静かに最期を迎えるかなど、事前にご本人やご家族の希望を確認し、その意思を尊重した医療を提供します。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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