胃ろうから常食(経口摂取)に戻れる?訪問診療での嚥下内視鏡検査(VE)と訓練

胃ろうから常食(経口摂取)に戻れる?訪問診療での嚥下内視鏡検査(VE)と訓練

胃ろうを造設した後でも、適切な評価と訓練を行えば、再び口から食事を摂る「経口摂取」へ戻れる可能性は十分にあります。諦める必要はありません。

在宅医療の現場では訪問診療医がご自宅へ伺い、嚥下内視鏡検査(VE)を用いて喉の動きや飲み込みの状態を詳しく調べます。

その結果に基づき言語聴覚士などの専門職と連携して、患者さん一人ひとりに合わせた安全なリハビリ計画を立てていきます。

本記事では、胃ろうから経口摂取への移行を目指すために必要な検査の流れ、自宅でできる具体的な訓練方法、そして家族ができるサポートについて詳しく解説します。

目次

胃ろう導入後も口から食べる楽しみを取り戻せる可能性

胃ろうの造設は、決して「二度と口から食べられなくなる」という決定的な終わりを意味するものではありません。

多くの患者さんやご家族が、一度胃ろうにすると食事の楽しみは失われると考えがちですが、実際にはそうではないのです。

胃ろうは栄養状態を安定させ、体力を回復させるための一時的な手段として機能する場合があります。体力が回復し、肺炎などのリスクが管理できるようになれば、少しずつ口から食べる練習を始められます。

訪問診療の現場では、胃ろうからの栄養摂取を続けながら、お楽しみ程度にゼリーを食べることから開始し、徐々に経口摂取の割合を増やしていくケースが多く見られます。

胃ろうは永続的なものではなく通過点になり得る

病気や加齢によって一時的に飲み込む力が落ちたり、誤嚥性肺炎を繰り返してしまったりする場合、主治医から胃ろうの造設を提案されるときがあります。これは生命を維持し、低栄養状態を防ぐための安全策です。

しかし、これが永続的な処置であるとは限りません。胃ろうによって十分な栄養と水分が確保され、全身状態が良くなって飲み込む力(嚥下機能)も改善する方がいらっしゃいます。

実際に、胃ろうを使用しながら嚥下訓練を行い、最終的に胃ろうを抜去して完全に常食へ戻った事例も存在します。

大切なのは、胃ろうを「諦めの象徴」と捉えるのではなく、「回復のための充電期間」として前向きに捉え直すことです。

経口摂取への移行を検討する際の主な指標

評価項目確認する内容と判断の目安重要度
全身状態発熱がなく、呼吸状態や脈拍が安定しているか。栄養状態が改善傾向にあるかを確認します。
意識レベル呼びかけに反応し、覚醒して椅子に座っていられるか。食事への認知や関心があるかを見ます。
嚥下機能唾液を誤嚥せずに飲み込めるか。咳払いが強くでき、喉の動きが保たれているかを評価します。
口腔環境口の中が清潔で、虫歯や歯周病による痛みがないか。義歯の適合状態も確認します。

経口摂取再開に向けた身体的な条件と判断基準

もちろん、すべての人がすぐに常食に戻れるわけではありません。安全に口から食べるためには、いくつかの身体的な条件をクリアする必要があります。

まず、意識レベルがはっきりしており、覚醒して食事に向かう意欲があることが重要です。また、呼吸状態が安定している、痰の量がコントロールできている、といった点も求められます。

さらに、口の中に食べ物を留め、喉の奥へ送り込み、気管に入らないように蓋をして食道へ送り込むという一連の嚥下運動がある程度保たれている必要があります。

これらの条件を訪問診療医や歯科医師、言語聴覚士などの専門家が総合的に評価し、経口摂取が可能かどうかを慎重に判断します。

焦らず段階的に進めることが成功への近道

口から食べることを再開する場合、いきなり以前と同じ普通の食事(常食)に戻そうとすると、誤嚥のリスクが高まり危険です。

まずはスプーン一杯のゼリーや、とろみをつけた水分から開始し、問題なく飲み込めるかを確認しながら進めます。

焦りは禁物です。「もっと食べたい」という本人の意欲は大切ですが、機能に見合わない量を食べると、かえって肺炎を引き起こし、再び絶食となる恐れがあります。

医療チームの指導のもと、最初は「味わうこと」を目的にし、栄養は胃ろうで補うという併用期間を設けます。

そこから数週間、数ヶ月単位で徐々に口から食べる量を増やし、段階的に進める取り組みが、結果的に最も早く常食へ近づく道となります。

訪問診療医が自宅で行う嚥下内視鏡検査(VE)の詳細

訪問診療の大きな特徴の一つは、病院に行かなくても自宅で高度な検査が受けられる点にあります。その代表的なものが「嚥下内視鏡検査(VE)」です。

この検査は、実際に口から食べてよいのか、どの程度の固さや大きさなら安全に食べられるのかを判断するために行います。医師が鼻から細い内視鏡(カメラ)を挿入し、喉の奥の様子をモニターで観察します。

患者さんは普段通り車椅子やベッドに座った状態で検査を受けられるため、移動の負担がありません。

ご家族も一緒にモニター画面を見ながら、医師から喉の状態や食べ物が通過する様子について説明を受けられるので、現状を正しく把握できます。

鼻から細いカメラを入れて喉の動きを確認する

嚥下内視鏡検査で使用するカメラは、直径3ミリ程度の非常に細いファイバースコープです。これを鼻の穴からゆっくりと挿入し、喉の奥(咽頭)まで進めます。

検査前の絶食は不要な場合が多く、麻酔も鼻の中にスプレーをする程度で済むため、身体への負担は比較的少ない検査です。

カメラが喉の奥にある状態で、唾液が溜まっていないか、痰が絡んでいないか、喉の粘膜に腫れや異常がないかを観察します。

また、「ゴックン」と空嚥下をしてもらい、喉の筋肉がしっかりと動いているか、気管の入り口がきちんと閉鎖されているかを確認します。この視覚的な情報は、外見からは分からない喉の内部機能を正確に評価するために非常に役立ちます。

普段食べているゼリーやトロミ水を使って検査する

VE検査の最大の特徴は、カメラを入れたまま実際に食べ物を食べて飲み込む様子を観察できる点です。通常は着色した水やゼリー、とろみをつけた液体などを少量口に含んでもらいます。

着色すると食べ物が喉のどこを通り、どこに残っているかが鮮明に分かります。もし飲み込んだ後に食べ物が喉のくぼみに残っていたり、気管の方へ流れ込んでいたりすれば、誤嚥のリスクがあると判断できます。

また、普段ご自宅で食べている好物や、これから挑戦したいと思っている食事形態のものを使ってテストすることも可能です。これにより、「ゼリーなら大丈夫だが、水分は誤嚥しやすい」といった具体的な対策が見えてきます。

検査で見えることと分からないことの違い

VE検査は非常に有用ですが、すべての嚥下機能が見えるわけではありません。主に喉(咽頭)の動きや汚れ具合、気管への侵入(誤嚥)の有無を観察するのに適しています。

一方で、口の中で食べ物を噛んでまとめる「咀嚼・食塊形成」の様子や、食道を通過して胃に入っていく様子を直接見ることはできません。

食道の機能や詳細な誤嚥のタイミングを知るためには、バリウムなどの造影剤を使った「嚥下造影検査(VF)」が必要になるときがあります。

しかし、在宅や施設で手軽に行え、普段の食事環境に近い状態で評価できるという点で、VE検査は訪問診療における嚥下評価の第一選択となります。それぞれの検査の特徴を理解し、医師の判断を仰ぎましょう。

嚥下内視鏡検査(VE)で具体的に分かるポイント

観察ポイント詳細な内容
喉の汚染状況唾液や痰が喉に溜まりすぎていないか、細菌繁殖のリスクがあるかを確認します。
嚥下反射の遅れ「飲み込もう」としてから実際に喉が動くまでにタイムラグがあるかを見ます。
咽頭残留飲み込んだ後、食べ物が喉のくぼみに残っていないかを確認します。
誤嚥の有無食べ物や唾液が声帯を超えて気管に入ってしまっていないかを直接観察します。
効果的な代償法首を曲げたり、回したりすることで飲み込みやすさが変わるかをその場で試せます。

安全に食べる力を育てるためのリハビリテーション

検査で現状を把握したら、次は食べる機能を回復させるための訓練(リハビリテーション)を行います。訓練は大きく分けて「間接訓練」と「直接訓練」の2種類があります。

誤嚥のリスクが高い段階では、食べ物を使わずに基礎的な機能を高める間接訓練から始めます。

これによって喉や舌の筋力を維持・向上させ、嚥下の準備を整えます。機能が向上してきたら、実際に少量の食べ物を使って行う直接訓練へと移行します。

訪問診療では医師の指示のもと、言語聴覚士や看護師がご自宅を訪問し、患者さんの状態に合わせたメニューを提案し、一緒に練習を行います。

飲み込む力を強化するための間接訓練

間接訓練は、食べ物を使わずに行う基礎訓練です。誤嚥の心配がないため、体調に合わせて毎日安全に行うことができます。

代表的なものに、口や舌、頬を動かして筋肉をほぐす「口腔体操」や、肩や首の緊張を和らげる「リラクゼーション」があります。

また、唾液の分泌を促す「唾液腺マッサージ」や、息をこらえて強く吐き出すことで声帯を鍛える「プッシング・プリング法」、氷水に浸した綿棒で喉を刺激して嚥下反射を誘発する「アイスマッサージ」なども効果的です。

さらに、呼吸機能を高めるための深呼吸や咳払いの練習も重要です。これらは食事の前に行う「準備体操」としても有効で、スムーズな飲み込みを助ける効果が期待できます。

自宅でできる基礎的な訓練メニュー

訓練名方法と期待できる効果
嚥下おでこ体操おでこに手を当て、頭とおへそを覗き込むように押し合います。首の前側の筋肉を鍛えます。
舌の抵抗運動スプーンの背を舌に押し当て、舌で押し返します。食べ物を送り込む力を養います。
パタカラ体操「パ」「タ」「カ」「ラ」と発音します。唇や舌の動きを良くし、食べこぼしを防ぎます。
ブローイングコップの水にストローでブクブクと泡を立てます。鼻への逆流を防ぐ力を高めます。

実際に少量を食べながら行う直接訓練

基礎的な力がついてきたら、いよいよ食べ物を用いた直接訓練を始めます。まずは、VE検査で安全だと確認された形態のもの(ゼリーやとろみ水など)を、スプーン1杯程度から試します。

この際、「複数回嚥下(一口入れたら二回ゴックンする)」や「交互嚥下(固形物と水分を交互に摂る)」といったテクニックを使い、喉に食べ物が残らないように工夫します。

食事中、むせ込みがないか、飲み込んだ後に声が湿っていないか(ガラガラ声になっていないか)を常に確認します。問題なければ、少しずつ量を増やしたり、ペースト食からソフト食へと形態を変えてみたりします。

姿勢調整や食事形態の工夫で誤嚥リスクを減らす

リハビリと並行して重要なのが、食べやすい環境を整えることです。特に姿勢は嚥下に大きな影響を与えます。基本的には、足の裏が床にしっかりつく高さの椅子に座り、骨盤を起こして深く座る姿勢が理想的です。

ベッド上で食べる場合は、リクライニングを30度から60度程度に起こし、首には枕を入れて少し顎を引く(頷くような)姿勢を作ります。顎が上がると気道が広がり、誤嚥しやすくなるため注意が必要です。

また、食事形態も重要です。パサパサしたパンや肉、サラサラした水は誤嚥しやすいため、とろみ剤を活用してまとまりやすくするなどの工夫が求められます。

家族だからこそできる食事介助と環境づくりのポイント

訪問診療やリハビリの時間は限られています。そのため、日常的に関わるご家族のサポートが経口摂取への復帰を大きく左右します。

家族が行う食事介助は、単に食べ物を口に運ぶだけではありません。本人の表情や反応を細かく観察し、安全を守りながら「美味しいね」と共感し合う大切な時間です。

自宅というリラックスできる環境で、家族と一緒に食卓を囲むこと自体が、脳を刺激し食欲を湧かせる最高のリハビリになります。

食事中の姿勢とポジショニングを見直す

食事を始める前に、まず姿勢のチェックを行います。体が左右に傾いていないか、ずり落ちていないかを確認し、必要であればクッションやタオルを使って隙間を埋め、体を安定させます。

麻痺がある場合は、麻痺側にクッションを入れて支えると安定します。

また、テーブルの高さも重要です。高すぎると腕が上がりすぎて疲れ、低すぎると前かがみになりすぎて誤嚥のリスクが高まります。

肘が90度くらいに曲がり、自然にテーブルに乗せられる高さを調整します。テレビがついていると気が散って飲み込みに集中できない場合があるため、食事中は消すか静かな音楽にするなど、集中できる環境を整えます。

本人のペースに合わせた声かけと見守り方

介助中は「早く食べて」と急かすのは禁物です。嚥下機能が低下している方は、一口飲み込むのに時間がかかります。

次の一口を運ぶのは、必ず口の中が空になったことを確認してからにします。「ゴックン」という喉の動きを見て、さらに口を開けてもらい残留物がないか確認すると確実です。

また、声かけも大切です。「これは大好きなカボチャだよ」「温かくて美味しいね」など、味や温度、食感を言葉で伝えます。これにより、脳が食事を認識し、嚥下の準備が整います。

ただし、口に食べ物が入っている最中に話しかけると、答えようとして誤嚥する危険があるため、飲み込み終わるまでは静かに見守るようにします。

食欲を引き出すための雰囲気づくりと工夫

「食べたい」という意欲は、リハビリの最大の原動力です。

しかし、ペースト状の食事ばかりでは見た目が単調になり、食欲がわかないケースもあります。盛り付けに彩りを加えたり、型抜きを使うなどの視覚的な工夫が効果的です。

また、料理の香りや湯気も食欲を刺激します。キッチンから漂う出汁の香りや、コーヒーの香りなどは、脳を覚醒させる働きがあります。

さらに、可能であれば家族も同じテーブルで一緒に食事を摂るのがおすすめです。

「一緒だね」という安心感や、人が食べている様子を見ることでミラーニューロンが働き、自然と口が動くきっかけになる場合もあります。楽しい食事の記憶が、次のリハビリへの意欲につながります。

安全な食事介助のためのチェック

タイミングチェック項目注意点
食事前覚醒状態は良好か眠気が強い時は無理に食べさせず時間をずらす。
食事前口腔内は清潔か口の中が乾燥している場合は湿らせてから始める。
食事中一口量は適量かスプーン山盛りではなく、小さじ1杯程度にする。
食事中むせ込みはないかむせたら一旦中断し、呼吸が整うまで待つ。
食後口腔ケアを行ったか食べかすを残さないよう丁寧に磨き、うがいをする。
食後座位を保っているか逆流を防ぐため、食後30分~1時間は横にならない。

訪問診療チームと連携して在宅での食支援を進める

在宅での経口摂取への取り組みは、患者さんとご家族だけで行うものではありません。訪問診療医を中心とした多職種のチームが支えます。

それぞれの専門職が異なる視点から評価し、情報を共有すると、より効果的な支援が可能になります。

ご家族は、日々の変化や困りごとをチームに伝える重要な役割を担っています。「最近、飲み込むのに時間がかかる」「好きな食べ物でも口を開けない」といった些細な情報が、治療方針の見直しに役立ちます。

医師や歯科医師、言語聴覚士など多職種が関わる

食支援に関わる専門職は多岐にわたります。訪問診療医は全身状態の管理や肺炎の診断、VE検査などを行います。

訪問歯科医師や歯科衛生士は、虫歯の治療や義歯の調整、専門的な口腔ケアを行い、口の中の環境を整えます。

言語聴覚士(ST)は嚥下訓練の専門家であり、直接的なリハビリ指導や食事形態の助言を行います。さらに、訪問看護師は日々の体調確認や食事介助の実践的なアドバイスを行い、管理栄養士は栄養バランスや調理の工夫について指導します。

これらの専門職がチームを組み、それぞれの専門性を活かして「食べる」ことをトータルでサポートします。

食支援に関わる主な職種と役割

  • 訪問診療医:全体的な治療方針の決定、VE検査、肺炎等のリスク管理。
  • 訪問歯科医:口腔機能の評価、義歯調整、虫歯・歯周病治療。
  • 言語聴覚士(ST):嚥下機能評価、直接・間接訓練の実施、食事形態の選定。
  • 訪問看護師:バイタルチェック、食事介助指導、吸引、呼吸ケア。
  • 管理栄養士:必要栄養量の計算、献立作成、調理指導。
  • 理学療法士(PT):姿勢保持のための体幹訓練、呼吸リハビリ。

ケアマネジャーを通して訪問サービスを調整する

これらの訪問サービスを利用するには、ケアマネジャー(介護支援専門員)との調整が必要です。ケアマネジャーは、患者さんの介護度や生活状況に合わせて、どのサービスをどのくらいの頻度で利用するかを計画(ケアプラン作成)します。

「口から食べる練習をしたい」という希望をケアマネジャーに伝えれば、嚥下リハビリに対応できる訪問看護ステーションや、訪問歯科、訪問リハビリなどを紹介してくれます。

また、デイサービスなどの通所施設でも嚥下体操や口腔ケアを行っている場合があるため、それらの情報を統合し、生活全体の中でリハビリの機会を確保できるよう調整してくれます。

定期的なカンファレンスで目標を共有し合う

訪問診療では、定期的に関係職種が集まる「サービス担当者会議」や、より専門的な「退院前カンファレンス」などが行われます。

食支援においても、数ヶ月に一度、関係職種やご家族が集まり、現状の評価と今後の方針を話し合う場が持たれます。

ここで「ゼリー食からペースト食へ上げてみよう」「今は無理せず現状維持でいこう」といった具体的な目標を共有します。

情報が共有されるとどの職種が訪問しても統一した対応ができ、患者さんも混乱なくリハビリに取り組めます。

肺炎を予防しながら食べる楽しみを続けるために

経口摂取を再開する上で最も恐ろしいリスクは「誤嚥性肺炎」です。食べ物や唾液が気管に入り、細菌が肺で繁殖して炎症を起こします。高齢者にとって肺炎は命に関わる重大な病気です。

しかし、誤嚥を完全にゼロにするのは難しくても、肺炎の発症を予防することは可能です。

ポイントは「口の中をきれいにする(口腔ケア)」と「肺の状態を良くする(呼吸ケア)」、そして「体調の変化にいち早く気づく」の3点です。

これらを日々の習慣に組み込むと、リスクを最小限に抑えながら、食べる楽しみを長く維持できます。

食後の口腔ケアで口の中を清潔に保つ

誤嚥性肺炎の原因菌の多くは、口の中の細菌です。たとえ誤嚥してしまっても、口の中が清潔で細菌が少なければ、肺炎になる確率はぐっと下がります。

そのため、毎食後の歯磨きやうがいは非常に大切です。特に、歯と歯茎の境目や、舌の表面(舌苔)には細菌が溜まりやすいため、歯ブラシやスポンジブラシ、舌ブラシを使って丁寧に清掃します。

ご自身でのケアが難しい場合は、ご家族や看護師が介助します。

また、入れ歯の手入れも重要です。汚れた入れ歯は細菌の温床になるため、毎日洗浄剤を使ってきれいにします。就寝中は唾液の分泌が減り細菌が増えやすいため、寝る前のケアは特に念入りに行います。

痰の吸引や排痰ケアで呼吸状態を整える

誤嚥したものを吐き出すためには、強い咳をする力が必要です。

しかし、筋力が低下すると咳をする力が弱まり、痰や誤嚥物を排出できなくなります。痰が絡んでいる音がする場合はこまめに吸引を行い、気道をクリアにします。

また、背中を優しく叩いたり、加湿器を使ったりして痰を出しやすくするケアも有効です。訪問看護師や理学療法士から、効果的な排痰方法や呼吸リハビリの方法を学び、日々のケアに取り入れます。

呼吸状態が良ければ、もし誤嚥しかけても強い咳で押し返せて、肺炎を未然に防ぐことにつながります。

肺炎や体調悪化を疑うべきサイン

  • 発熱:37.5度以上の熱が続く、あるいは急な高熱が出た場合は初期症状の可能性があります。
  • 呼吸の変化:呼吸が浅く速い、息苦しそうにする、ゼーゼーという音が聞こえるなどの変化に注意します。
  • 痰の性状:普段より痰の量が増える、色が黄色や緑色に濃くなる、嫌な臭いがする場合は感染のサインです。
  • 元気がない・傾眠:いつもよりぼーっとしている、食欲がないといった様子も体調悪化の兆候です。
  • 酸素飽和度の低下:パルスオキシメーターの数値が普段より低い(例えば90%を切るなど)場合は要注意です。

発熱や体調変化が見られた場合の対応を知っておく

どんなに注意していても、肺炎を起こす可能性はあります。大切なのは早期発見・早期治療です。発熱や呼吸の乱れ、痰の増加など、いつもと違う様子が見られたら、すぐに訪問看護ステーションや主治医に連絡します。

「様子を見よう」と判断を遅らせると、急激に悪化するケースがあります。医師の指示に従い、必要であれば抗生物質の投与や点滴治療をご自宅で行うことも可能ですし、状態によっては入院が必要になる場合もあります。

緊急時の連絡先を分かりやすい場所に掲示し、夜間や休日の対応についても事前に確認しておくと、いざという時に慌てずに対応できます。

完全移行だけがゴールではなく併用という選択肢もある

「胃ろうから経口摂取へ戻る」というと、胃ろうを完全に止めて、口からの食事だけで全ての栄養を摂ることを想像しがちです。しかし、それが唯一の正解ではありません。

栄養と水分の基本ラインは胃ろうでしっかりと確保し、口からは「楽しみ」として好きなものを少しだけ食べる、という「併用スタイル」も立派なゴールの一つです。

無理に全量経口摂取を目指して疲弊したり、肺炎のリスクを過度に冒したりするよりも、安心と楽しみを両立させるほうが、結果的に本人とご家族の生活の質(QOL)を高める場合が多くあります。

栄養は胃ろうで摂り楽しみとして口から食べる

胃ろうの最大のメリットは、確実な栄養管理ができる点です。この安心感をベースにしつつ、昼食だけは口から食べる、あるいはおやつのプリンだけは家族と一緒に楽しむ、といった方法は非常に合理的です。

これなら、体調が悪い日は無理せず胃ろうだけにし、調子が良い日は口から食べる量を増やすといった調整も簡単です。

「食べなければならない」というプレッシャーから解放されるため、食事本来の楽しさを純粋に味わうことができます。

ご本人にとっても「味がする」「噛む感覚がある」という喜びは、生きる意欲に直結します。

胃ろうと経口摂取を併用するメリットとデメリット

視点メリットデメリット
栄養管理必要栄養量を確実に確保でき、脱水や低栄養を防げる。胃ろうの管理や注入の手間が継続して発生する。
安全性誤嚥リスクの高い水分や多量の食事を無理に摂る必要がない。口から食べる量が増えると、誤嚥のリスクは完全には無くならない。
精神面「食べなきゃ」という焦りがなく、楽しみとして食に向き合える。「いつか完全に口から食べたい」という希望に対し、中途半端に感じる場合がある。

本人のQOLを最優先に考えたプランを立てる

最終的にどのような形を目指すかは、医学的な判断だけでなく、ご本人の価値観やご家族の意向を尊重して決定します。

「たとえリスクがあっても、最期まで口から食べたい」と願う方もいれば、「穏やかに過ごしたい」と願う方もいます。

訪問診療医やケアチームは、これらの想いを汲み取り、リスクと得られる効果を天秤にかけながら、その人らしい生活プランを提案します。正解は一つではありません。

病状やライフステージの変化に合わせて、目標を修正しながら進んでいく柔軟性が、在宅医療にはあります。

無理のない範囲で続けることが長期的な安定につながる

リハビリや食事介助は、長期間続くマラソンのようなものです。ご家族が頑張りすぎて疲れてしまっては、在宅療養を続けることが難しくなります。

胃ろうの併用は、介護負担の軽減という意味でも有効です。

食事に1時間も2時間もかけるのではなく、注入で済ませる時間を設けると、ご家族の休息時間を確保できます。介護者が心身ともに健康であって初めて、良いケアが提供できます。

「今日は疲れたから胃ろうに頼ろう」と割り切ることも、長く安定して在宅生活を続けるための賢い選択です。無理のない範囲で、細く長く「食べる楽しみ」を支え続けることが重要です。

よくある質問

胃ろう患者の嚥下訓練はいつから始められますか?

全身状態が安定していれば、造設直後からでも開始可能です。

ただし、手術直後は傷口の痛みなどに配慮が必要です。主治医の判断のもと、まずは口腔ケアやアイスマッサージなどの間接訓練から始め、安全を確認しながら徐々に進めていくのが一般的です。

嚥下内視鏡検査は自宅のベッド上でも受けられますか?

受けられます。訪問診療で使用する内視鏡は持ち運び可能なポータブルタイプですので、ご自宅のベッドサイドや普段座っている椅子で行えます。

寝たきりの方でも、ベッドの角度を調整して安全に検査可能です。

誤嚥性肺炎を繰り返している場合でも、経口摂取に挑戦できますか?

肺炎を繰り返している場合は慎重な判断が必要です。

しかし、完全に経口摂取を諦めるのではなく、「楽しみとしてのごく少量の摂取」や「誤嚥しにくいゼリーのみの摂取」など、リスクを管理しながら制限付きで楽しむ方法を模索することは可能です。

VE検査で詳細な評価を行い、医師と相談して決定します。

訪問歯科診療と訪問診療のリハビリにはどのような違いがありますか?

訪問歯科は主に「歯や義歯の治療」「口腔ケア」「咀嚼(噛む)機能の訓練」など、口の中の環境整備と機能向上を専門とします。

一方、医科の訪問診療では、全身状態の管理を含めた嚥下機能全体の診断や、呼吸状態と合わせた訓練を行います。

両者が連携すると、より効果的なリハビリが可能になります。

家族だけで毎食の食事介助を行うのが不安な場合はどうすれば良いですか?

無理に家族だけで抱え込む必要はありません。訪問看護や訪問介護(ヘルパー)を利用し、プロのスタッフに食事介助を依頼したり、見守ってもらったりできます。

また、スタッフから安全な介助方法の指導を受けると、ご家族の自信と安心にもつながります。

胃ろう・経管栄養の訪問診療に戻る

訪問診療の対象疾患・医療処置TOP

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

目次