大人の溶連菌感染症対策 – 重症化を防ぐ早期治療のポイント

大人の溶連菌感染症対策 - 重症化を防ぐ早期治療のポイント

「ただの風邪だと思っていたら、実は溶連菌感染症だった」という経験は、大人にとっても決して珍しいことではありません。

大人の溶連菌感染症は、子どものように典型的な症状が出にくいため、診断が遅れがちです。

しかし、適切な治療を受けずに放置すると、腎炎やリウマチ熱といった重い合併症を引き起こす可能性があります。

特に、通院が難しい状況にある方やそのご家族にとって、在宅での対応や判断基準を知ることは重要です。

この記事では、大人の溶連菌感染症の正しい知識、症状の見分け方、適切な治療法、そして重症化を防ぐためのポイントを、訪問診療の視点も交えながら詳しく解説します。

目次

大人の溶連菌感染症の基礎知識

溶連菌感染症は子どもに多い病気というイメージがありますが、大人も感染します。大人の場合、症状の現れ方が異なるため、見過ごされやすい傾向にあります。

まずは、この感染症がどのようなものか、基本的な知識を深めることが、ご自身やご家族の健康を守る第一歩です。

溶連菌感染症とは何か

溶連菌感染症は、「A群β溶血性レンサ球菌」という細菌が原因で起こる感染症です。

この細菌は主に喉(咽頭)に感染し、急性咽頭炎を引き起こします。

細菌が作り出す毒素によって、喉の強い痛みや発熱、体や手足の発疹、舌が赤くブツブツになる「いちご舌」などの症状が現れることがあります。

感染力が強く、適切な治療を行わないと、まれに重い合併症につながるため注意が必要です。

大人と子どもの症状の違い

溶連菌感染症の症状は、年齢によって現れ方が異なります。

子どもでは高熱や発疹といった典型的な症状が見られやすいのに対し、大人は喉の痛みや倦怠感が中心で、風邪と区別がつきにくいことが多いです。この違いを知っておくことが、早期発見の鍵となります。

年齢による主な症状の比較

症状子ども(主に幼児・学童期)大人
発熱38℃以上の高熱が多い微熱から高熱まで様々、熱が出ないことも
喉の痛み強い痛みを訴える非常に強い痛み(唾を飲み込むのも辛い)が特徴
発疹全身に細かい赤い発疹が出やすい発疹は出ないことが多い

感染経路と感染力の特徴

溶連菌の主な感染経路は、咳やくしゃみによって飛び散る細菌を吸い込む「飛沫感染」と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることで感染する「接触感染」です。

学校や職場、家庭内など、人が集まる場所で感染が広がりやすい特徴があります。

特に、症状が出始めた急性期から抗生物質による治療を開始して24時間が経過するまでは、感染力が非常に強いと考えられています。

そのため、感染が疑われる場合は、周囲への配慮も大切になります。

潜伏期間と発症

細菌が体内に入ってから症状が現れるまでの潜伏期間は、通常2日から5日程度です。この期間に細菌は喉の粘膜で増殖し、炎症を引き起こします。

そして、一定数以上に増殖すると、発熱や喉の痛みといった症状として現れます。潜伏期間中には基本的に症状はありませんが、すでに感染力を持っている可能性も否定できません。

大人の溶連菌感染症の症状と診断

大人の溶連菌感染症は、症状が非典型的であるため自己判断が難しい病気です。

風邪との違いを理解し、どのような場合に医療機関に相談すべきかを知っておくことが、重症化を防ぐ上で重要になります。

初期症状の見分け方

大人の溶連菌感染症では、以下のような初期症状が多く見られます。複数の症状が当てはまる場合は、注意が必要です。

  • 急に始まる強い喉の痛み
  • 食べ物や唾を飲み込むときの激しい痛み
  • 38℃前後の発熱
  • 全身の倦怠感や関節痛、頭痛

これらの症状は他の病気でも見られますが、「急激に発症する強い喉の痛み」が大きな特徴です。

風邪との症状の違い

溶連菌感染症と一般的な風邪(ウイルス性の上気道炎)は、症状にいくつかの違いがあります。特に、咳や鼻水の有無は、見分ける上での重要なポイントです。

溶連菌感染症と風邪の症状比較

症状溶連菌感染症(細菌性)一般的な風邪(ウイルス性)
喉の痛み非常に強いことが多い比較的軽度から中等度
咳・鼻水あまり見られないよく見られる
発症の仕方急激に発症する比較的緩やかに発症する

重症化のサインと危険信号

ほとんどの場合は適切な治療で回復しますが、ごくまれに重症化し、命に関わる状態になることがあります。

劇症型溶連菌感染症と呼ばれる状態で、急速に進行するため、以下のようなサインを見逃さないことが極めて重要です。

注意すべき重症化のサイン

分類具体的な症状
呼吸器系の異常息苦しさ、呼吸が速い、胸の痛み
循環器・意識の異常血圧の急激な低下、めまい、意識がもうろうとする
全身状態の悪化手足の急な腫れや激しい痛み、皮膚の変色(赤黒くなる)

これらの症状が一つでも現れた場合は、夜間や休日であっても、直ちに医療機関に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。

溶連菌感染症の検査と診断方法

溶連菌感染症の診断は、症状の確認と検査結果を総合的に判断して行います。風邪と症状が似ているため、正確な診断のためには検査が重要です。

訪問診療においても、必要な検査を行うことが可能です。

迅速抗原検査の実施方法

最も一般的に行われる検査です。喉の奥を清潔な綿棒でこすり、その粘液を試薬と反応させて診断します。この検査の利点は、5分から10分程度でその場で結果がわかることです。

陽性であれば溶連菌感染症と診断し、すぐに治療を開始できます。ただし、菌の数が少ないと正確な結果が出ない(偽陰性)可能性もあります。

血液検査による炎症反応の確認

症状が典型的でない場合や、重症度を評価するために血液検査を行うことがあります。体内の炎症の程度を示すCRP(C反応性タンパク)や、白血球の数などを調べます。

これらの数値が高い場合は、細菌感染が強く疑われ、抗生物質による治療の必要性が高まります。

培養検査の必要性と判断基準

迅速検査で陰性だったものの、症状から溶連菌感染症が強く疑われる場合に行う確定診断のための検査です。

迅速検査と同様に喉から採取した検体を検査室で数日間培養し、溶連菌が増殖するかどうかを確認します。

結果が出るまでに数日かかりますが、最も精度の高い検査方法です。この検査の結果により、治療方針を決定または変更することがあります。

各検査方法の特徴

検査方法所要時間特徴
迅速抗原検査約5~10分その場で結果がわかるが、偽陰性の可能性あり
培養検査数日最も精度が高いが、結果判明まで時間がかかる
血液検査数時間~1日全身の炎症反応の程度や重症度の評価に有用

訪問診療での検査対応

通院が困難な方のために、訪問診療でも溶連菌感染症の診断が可能です。医師がご自宅へ伺い、問診や診察を行った上で、迅速抗原検査や血液検査のための採血を行います。

これにより、ご自宅で安静を保ちながら、医療機関と同等の初期診断を受けることができます。必要に応じて、培養検査の検体を採取することも可能です。

診断確定までの流れ

溶連菌感染症の診断は、以下の流れで進むのが一般的です。

問診と診察

まず、どのような症状がいつから現れたか、周囲に同じような症状の人がいないかなどを詳しく伺います。その後、喉の赤みや腫れ、扁桃腺の状態などを直接観察します。

検査の実施

診察所見に基づき、迅速抗原検査やその他の必要な検査を実施します。

総合的な診断

症状と検査結果を総合的に評価し、溶連菌感染症であるかどうかを最終的に判断します。診断が確定すれば、直ちに治療計画を立てます。

溶連菌感染症の治療法と薬物療法

溶連菌感染症は細菌による感染症のため、治療の基本は抗生物質の内服です。

症状を和らげる対症療法とあわせて行い、合併症を防ぐためには、処方された薬を最後まで飲み切ることが何よりも大切です。

抗生物質による治療の基本

溶連菌に対しては、ペニシリン系の抗生物質が非常に有効です。アレルギーがある場合は、別の系統の抗生物質を選択します。

抗生物質を服用し始めると、通常1日から2日で熱が下がり、喉の痛みも和らいできます。この迅速な効果が、細菌感染症治療の特徴です。

主な治療薬の例

薬剤系統主な薬剤名特徴
ペニシリン系アモキシシリンなど第一選択薬として広く使用される
セフェム系セフジニルなどペニシリンアレルギーの場合などに使用
マクロライド系クラリスロマイシンなどペニシリン系、セフェム系が使えない場合に使用

症状緩和のための対症療法

抗生物質が効果を発揮するまでの間、つらい症状を和らげるために解熱鎮痛薬を使用することがあります。アセトアミノフェンやイブプロフェンなどが一般的です。

また、喉の痛みが強いときは、食事や水分を摂るのが難しくなりがちですが、脱水を防ぐために水分補給は非常に重要です。

喉への刺激が少ない、冷たい飲み物やゼリー、スープなどがおすすめです。十分な休息をとり、体を休めることも回復を助けます。

治療期間と服薬継続の重要性

溶連菌感染症の治療で最も重要な点は、処方された抗生物質を症状が良くなった後も、指定された期間(通常は10日間程度)きちんと飲み続けることです。

途中で服薬をやめてしまうと、生き残った細菌が再び増殖して症状が再燃したり、体内に潜伏して後述する重い合併症を引き起こす原因になったりします。

自己判断で薬を中断することは絶対に避けてください。

副作用への対処法

抗生物質によっては、下痢や軟便、発疹などの副作用が出ることがあります。

多くは軽度ですが、症状が強い場合や、息苦しさ、顔のむくみなど、アレルギーを疑う症状が現れた場合は、すぐに処方した医師や薬剤師に相談してください。

自己判断で服用を中止する前に、まずは専門家のアドバイスを求めることが大切です。

合併症の予防と重症化対策

溶連菌感染症の治療目標は、現在の症状を改善するだけでなく、将来起こりうる合併症を予防することにあります。抗生物質による確実な除菌が、合併症を防ぐ最も有効な手段です。

急性糸球体腎炎の予防

急性糸球体腎炎は、溶連菌感染後に免疫の異常反応が原因で腎臓に炎症が起こる病気です。

感染から2週間から4週間後に、むくみ(特に顔やまぶた)、血尿(コーラ色の尿)、高血圧といった症状で発症します。予防のためには、抗生物質を最後まで飲み切ることが重要です。

治療後しばらくして、むくみや尿の異常に気づいた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

リウマチ熱の早期発見

リウマチ熱も、急性糸球体腎炎と同様に免疫の異常反応によって起こります。関節の痛みや腫れ、心臓の炎症(心炎)、不随意運動などの症状が現れます。

現代の日本では衛生環境の改善や抗生物質の普及により発症はまれになりましたが、心臓の弁に後遺症を残す可能性があるため、注意が必要です。

抗生物質による治療が、リウマチ熱の最も確実な予防法です。

主な合併症とその特徴

合併症主な症状発症時期(感染後)
急性糸球体腎炎むくみ、血尿、高血圧約2~4週間後
リウマチ熱関節痛、心臓の炎症、発疹約2~4週間後
敗血症など急激な血圧低下、意識障害急性期

敗血症などの重篤な合併症

頻度は非常に低いものの、溶連菌が血液中に入り込み、全身で急激な炎症反応を引き起こす敗血症や、筋肉や脂肪組織が急速に壊死する劇症型溶連菌感染症(人食いバクテリアとも呼ばれる)に移行することがあります。

これらは命に関わる極めて危険な状態で、集中治療室での管理が必要です。急激な症状の悪化が見られた場合は、ためらわずに救急要請を検討してください。

訪問診療における溶連菌感染症対応

高熱や強い倦怠感で外出が難しい場合や、寝たきりのご家族が感染を疑われる場合など、訪問診療は有効な選択肢となります。

ご自宅という慣れた環境で、診断から治療、経過観察までを一貫して受けることが可能です。

在宅での診断と治療方針

医師がご自宅に訪問し、診察と必要な検査(迅速検査など)を行います。診断が確定すれば、その場で治療方針を説明し、薬の処方を行います。

薬局に行くことが困難な場合は、薬剤師がご自宅まで薬を届ける訪問服薬指導の利用も可能です。患者さんの状態に合わせて、療養上の注意点や食事のアドバイスも行います。

家族への感染予防指導

家庭内で感染を広げないための対策は非常に重要です。訪問診療の際には、同居するご家族に対して、具体的な感染予防策を指導します。

  • こまめな手洗いとアルコール消毒
  • 患者さんと接する際のマスク着用
  • 食器やタオル、歯ブラシなどの共用を避ける
  • 患者さんが使用した食器は、洗浄後に熱湯消毒する

経過観察のポイント

治療開始後も、電話や次回の訪問で症状の変化を確認します。

特に、薬を飲み始めて2日以上経っても熱が下がらない、痛みが改善しない、副作用が疑われる症状が出た、といった場合には注意が必要です。

また、合併症の初期症状(むくみ、尿の変化など)がないかどうかも含めて、注意深く経過を見ていきます。

入院適応の判断基準

基本的には在宅での治療が可能ですが、症状や全身状態によっては入院が必要になる場合があります。訪問診療の医師が、入院の必要性を適切に判断します。

入院を検討する主な基準

項目判断基準の例
全身状態ぐったりして意識がはっきりしない、呼吸が苦しそう
水分・食事摂取喉の痛みで全く水分が摂れず、脱水症状が見られる
重症化・合併症敗血症や劇症型など、重症化のサインが見られる

よくある質問

最後に、大人の溶連菌感染症に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

仕事は休むべきですか?

溶連菌感染症は感染力が強いため、抗生物質を飲み始めてから少なくとも24時間は、出勤を控えることが推奨されます。

学校保健安全法では「適切な抗菌薬治療開始後24時間を経て全身状態が良ければ登校可能」と定められており、大人の場合もこれに準じて判断するのが一般的です。

最終的には、ご自身の体調と職場の規定に従ってください。

食事はどうすればいいですか?

喉の痛みが強い間は、無理に固形物を食べる必要はありません。喉ごしの良い、刺激の少ないものを選びましょう。

  • おかゆ、おじや
  • ゼリー、プリン、ヨーグルト
  • 冷たいスープ、茶わん蒸し

香辛料の強いもの、酸味の強いもの(柑橘類など)、熱すぎるものは、喉への刺激となるため避けた方が良いでしょう。何よりも水分補給を第一に考えてください。

一度かかったらもうかからない?

残念ながら、一度かかっても再び感染することがあります。溶連菌にはいくつかの種類(血清型)があり、一度感染してできた免疫は、その特定の型に対してしか有効ではありません。

そのため、異なる型の溶連菌に接触すれば、再度感染する可能性があります。

家族が感染したらどうすれば?

ご家族、特に子どもや高齢の方がいる場合は、感染予防策を徹底することが大切です。手洗いやマスク着用、タオルの共用を避けるなどの対策を行いましょう。

もし、ご家族に喉の痛みや発熱などの症状が出た場合は、早めに医療機関を受診することを勧めます。

症状が出ていないご家族が予防的に抗生物質を飲むことは、通常は推奨されません。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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