褥瘡治療の選択肢を徹底比較 – 外来・入院・訪問診療の特徴とメリット

褥瘡治療の選択肢を徹底比較 - 外来・入院・訪問診療の特徴とメリット

褥瘡(床ずれ)の治療には、病院へ通う「外来」、病院で生活しながら治療する「入院」、そしてご自宅で治療を受ける「訪問診療」という選択肢があります。

どの治療法がご自身やご家族にとって最も合っているのか、判断に迷うことも少なくありません。この記事では、それぞれの治療法の具体的な内容、メリット、注意点を詳しく解説します。

患者さん一人ひとりの状況に合わせた治療選択の助けとなる情報を提供し、褥瘡治療に関する疑問や不安を解消することを目指します。

目次

褥瘡治療における基本理解

褥瘡の定義と発生要因

褥瘡(じょくそう)とは、一般的に「床ずれ」として知られています。

長時間、身体の同じ部位が圧迫され続けることで、その部分の血の巡りが悪くなり、皮膚やその下の組織が傷ついてしまう状態を指します。

特に、ご自身で身体を動かすことが難しい方や、栄養状態が良くない方、皮膚が弱くなっている高齢の方などに発生しやすい傾向があります。

主な要因は、体重で身体が圧迫される「圧迫」、寝具や衣類と皮膚がこすれる「摩擦」、ベッドの背を上げたときなどに身体がずり落ちる「ずれ」の3つが挙げられます。

これらの要因が組み合わさることで、褥瘡は発生しやすくなります。

褥瘡の重症度分類と評価方法

褥瘡は、その深さや傷の状態によって重症度が分類されます。治療方針を決める上で、この重症度を正しく評価することがとても重要です。

日本では「DESIGN-R®」という評価ツールが広く用いられています。

これは、褥瘡の「深さ(Depth)」「滲出液(Exudate)」「大きさ(Size)」「炎症・感染(Inflammation/Infection)」「肉芽組織(Granulation tissue)」「壊死組織(Necrotic tissue)」の6項目と、「ポケット(Pocket)」の有無を評価するものです。

この評価に基づいて、医師や看護師は適切な治療計画を立てます。

褥瘡の重症度の目安

重症度(ステージ)皮膚の状態主な特徴
軽度(Ⅰ)消えない赤み指で押しても赤みが消えない状態。皮膚はまだ破れていない。
中等度(Ⅱ)水ぶくれ・浅い傷皮膚の表面がめくれたり、水ぶくれができたりする。
重度(Ⅲ・Ⅳ)深い傷皮下脂肪や筋肉、骨まで達する深い傷。壊死組織が見られることもある。

治療選択が患者に与える影響

どの治療法を選択するかは、患者さんの身体的な負担だけでなく、精神的な安定や生活の質(QOL)にも大きく関わります。

例えば、通院は身体的な負担が伴いますが、日中は自宅で過ごせるメリットがあります。

入院は24時間体制で専門的なケアを受けられますが、住み慣れた環境を離れることへの精神的なストレスを感じる方もいます。

訪問診療は、自宅という最も安心できる場所で治療を受けられるため、精神的な負担が少ないという利点があります。

それぞれの治療法の特性を理解し、患者さん本人の意思や生活スタイルを尊重した選択が大切です。

外来での褥瘡治療

外来治療の適応基準と対象患者

外来での褥瘡治療は、褥瘡の状態が比較的軽度から中等度であり、ご自身で、あるいはご家族や介助者の助けを借りて定期的に病院へ通院できる方が主な対象となります。

全身の状態が安定しており、入院の必要がないと医師が判断した場合に選択されます。通院の負担を考慮し、移動手段が確保できることも重要な条件の一つです。

外来治療が検討される方の例

項目具体的な内容
褥瘡の状態赤みのみ、または水ぶくれや浅い傷で、感染の兆候がない。
全身状態安定しており、他の重篤な疾患がない。食事も概ね摂取できている。
通院能力独歩、車椅子、または家族の送迎などで定期的な通院が可能。

外来で実施可能な治療内容

外来では、医師や看護師が褥瘡の状態を診察し、必要な処置を行います。

主な治療内容は、傷口を洗浄して清潔に保つこと、状態に合った軟膏を塗布すること、そして創部を保護するためのドレッシング材(傷を覆う保護材)を交換することです。

また、ご家庭でのケアが重要になるため、ご本人やご家族に対して、自宅での処置方法や注意点について具体的な指導を行います。

外来治療のメリットと制約

外来治療の最大のメリットは、入院せずに住み慣れたご自宅での生活を継続できる点です。これにより、患者さんの精神的な安定を保ちやすく、生活リズムを大きく変える必要がありません。

一方で、制約も存在します。定期的な通院そのものが、患者さんやご家族にとって身体的・時間的な負担となることがあります。

また、褥瘡の悪化や変化に迅速な対応が難しい場合や、処置が毎日必要な場合に、通院だけでは十分なケアができない可能性も考えられます。

外来治療の長所と短所

分類メリット(長所)制約(短所)
生活面自宅での生活を続けられる通院の身体的・時間的負担
治療面専門医の診察を定期的に受けられる急な変化への対応が遅れる可能性
費用面入院に比べて費用を抑えられる傾向交通費などが別途発生する

通院頻度と費用負担

通院の頻度は、褥瘡の重症度や治癒の経過によって異なります。治療開始当初や状態が不安定な時期は週に1〜2回、状態が安定してくれば2週間に1回程度になるのが一般的です。

費用については、医療保険が適用されます。自己負担割合(1割〜3割)に応じた診察料、処置料、薬剤費などが必要です。これに加えて、通院のための交通費が別途発生します。

入院での褥瘡治療

入院治療が必要な褥瘡の状態

入院での治療は、褥瘡が重症化した場合に必要となります。

具体的には、傷が皮下組織や筋肉、骨にまで達している重度の褥瘡、広範囲にわたる褥瘡、細菌感染を合併して発熱などの全身症状が出ている場合などです。

また、ご家庭での介護が困難な状況や、栄養状態が極端に悪く、全身管理が必要な場合も入院の対象となります。

外科的な処置(壊死した組織を取り除くデブリードマンなど)が必要な場合も、入院して行います。

  • 骨にまで達する深い褥瘡
  • 感染を伴い、発熱などがある場合
  • 外科的な処置が必要な場合
  • 著しい栄養状態の低下が見られる場合

入院環境での専門的治療体制

入院治療の大きな利点は、24時間体制で専門的な医療ケアを受けられることです。医師や看護師が常に患者さんの状態を観察し、褥瘡の処置だけでなく、全身状態の変化にも迅速に対応します。

また、体圧を分散させる機能を持つ高性能なマットレスや、自動で体位を変換してくれるベッドなど、褥瘡の治療と予防に特化した医療機器や設備が整っている点も、入院環境ならではの強みです。

入院治療における専門職の主な役割

専門職主な役割
医師治療方針の決定、外科的処置、全身状態の管理
看護師日々の創部処置、体位交換、全身状態の観察、精神的ケア
管理栄養士創傷治癒を促進するための栄養計画の立案と食事提供

多職種連携による包括的ケア

褥瘡の治療は、傷を治すだけでは終わりません。褥瘡が発生した根本的な原因、例えば栄養不足やリハビリテーションの遅れなどにもアプローチする必要があります。

入院環境では、医師や看護師だけでなく、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーといった様々な専門職がチームを組み、一人の患者さんに対して多角的な視点から関わります。

この多職種連携による包括的なケアによって、褥瘡の治療と再発予防を同時に進めることが可能です。

入院期間と社会復帰への影響

入院期間は褥瘡の重症度や治癒の速度、全身状態によって大きく異なりますが、数週間から数ヶ月に及ぶこともあります。治療と並行して、退院後の生活を見据えた支援が重要になります。

理学療法士や作業療法士は、患者さんの身体機能の回復を助けるリハビリテーションを実施します。

また、医療ソーシャルワーカーは、退院後の在宅療養環境の調整や、介護保険サービスの利用手続きなど、社会復帰に向けた様々な相談に対応します。

入院治療の費用と保険適用

入院費用は、治療内容や入院期間によって大きく変動します。主に、医療費(DPC包括評価支払い方式が一般的)、食事代、居住費(個室などを利用した場合の差額ベッド代)で構成されます。

医療費には公的医療保険が適用されますが、自己負担額が高額になることもあります。その場合、「高額療養費制度」を利用することで、所得に応じて定められた自己負担限度額を超えた分が払い戻されます。

入院にかかる費用の内訳例

費用の種類内容保険適用の有無
医療費診察、検査、投薬、処置、手術などあり
食事療養費入院中の食事代(一部自己負担)一部あり
差額ベッド代個室など特別な療養環境の利用料なし(全額自己負担)

訪問診療での褥瘡治療

訪問診療の適応条件と対象者

訪問診療は、病気や障害のために病院へ通うことが困難な方が、ご自宅で医療を受けるためのサービスです。

褥瘡治療においては、寝たきりの状態であったり、歩行が著しく困難であったりするなど、外来通院が難しい患者さんが主な対象となります。

年齢に関わらず利用できますが、特に在宅での療養を希望する高齢の方の利用が多くなっています。医師が定期的な訪問診療の必要性を認めた場合に、計画的な治療が開始されます。

  • 寝たきり、またはそれに準ずる状態の方
  • 病気や障害により、外出が極めて困難な方
  • 退院後、継続的な医療ケアが自宅で必要な方

在宅で実施可能な治療技術

「家では簡単な処置しかできないのでは?」と心配されるかもしれませんが、現在の訪問診療では、多くの専門的な治療がご自宅で可能です。

医師や看護師が医療機器や薬剤を持参し、病院の外来で行うのと同等の創部洗浄、ドレッシング交換、軟膏処置などを行います。

状況によっては、小規模な外科的処置(デブリードマン)や、創部の治癒を促進する陰圧閉鎖療法(NPWT)といった高度な治療を在宅で実施することもあります。

家族・介護者との連携体制

在宅での褥瘡治療を成功させるためには、医療専門職とご家族・介護者の連携がとても大切です。

訪問診療のスタッフは、治療を行うだけでなく、ご家族や介護者の方々に対して、日々の観察ポイントや簡単な処置の方法、体圧管理のコツなどを丁寧にお伝えします。

この情報共有により、ご家族は安心して介護にあたることができ、褥瘡の状態に変化があった際にも早期に発見・対応することが可能になります。

訪問診療における連携のポイント

連携相手連携内容目的
医師・訪問看護師治療方針の共有、日々の状態報告一貫性のある治療の実施
ケアマネジャー介護サービスの調整、福祉用具の導入療養環境の最適化
家族・介護者ケア方法の指導、精神的サポート介護負担の軽減と安心の確保

訪問診療の利便性とQOL向上効果

訪問診療の最も大きな利点は、患者さんが住み慣れた自宅で、リラックスして治療を受けられることです。通院に伴う移動の負担や、待ち時間による心身の疲労がありません。

患者さん自身の生活リズムを尊重しながら治療計画を立てられるため、生活の質(QOL)を高く保つことができます。

また、ご家族にとっても、通院の付き添いにかかる時間的・身体的負担が大幅に軽減されるというメリットがあります。

治療選択肢の比較分析

重症度別の推奨される治療環境

褥瘡の治療法を選択する際、最も重要な判断材料の一つが褥瘡の「重症度」です。どのステージにあるかによって、推奨される治療環境は大きく異なります。

もちろん、これはあくまで一般的な目安であり、最終的な判断は患者さんの全身状態や生活環境などを総合的に考慮して行います。

褥瘡の重症度と治療環境の選択目安

褥瘡の重症度第一選択となりやすい治療法主な理由
軽度(ステージⅠ・Ⅱ)外来 or 訪問診療通院可能なら外来、困難なら訪問診療で十分対応可能。
中等度訪問診療 or 入院在宅での専門的ケアか、環境を整えての集中治療かを検討。
重度(ステージⅢ・Ⅳ)入院外科的処置や24時間体制の全身管理が必要なため。

患者の生活状況による選択基準

褥瘡の重症度に加え、患者さんご自身の生活状況や価値観も、治療法を選択する上で非常に重要な要素となります。

例えば、日中の介護者がいるかどうか、ご本人がどれだけ自宅での療養を望んでいるかなど、医学的な側面だけでは測れない点を十分に考慮する必要があります。

  • ADL(日常生活動作): ご自身でどれくらい動けるか。
  • 介護力: ご家族など、日々のケアをサポートしてくれる人がいるか。
  • 居住環境: 療養に適した環境か(ベッド周りのスペースなど)。
  • ご本人の意思: 住み慣れた家で過ごしたいか、病院の安心感を優先したいか。

費用対効果の詳細比較

治療にかかる費用は、多くの方が気にされる点です。単純な自己負担額だけでなく、それぞれの治療法に伴う間接的なコストも考慮に入れると、より現実的な比較ができます。

「費用対効果」という視点で、どの治療法がご自身の状況にとって最も納得のいく選択肢となるかを考えることが大切です。

よくある質問

訪問診療でも、入院や外来と同じような質の高い治療を受けられますか?

はい、多くのケースで質の高い治療が可能です。現在の訪問診療では、医師や看護師が専門的な知識と技術、そして必要な医療機器を持参してご自宅へ伺います。

そのため、外来で行われるような創部の処置はほとんどご自宅で実施できます。外科的な大手術などを除けば、入院治療に劣らないケアを提供できる体制が整ってきています。

訪問診療の費用は、どのくらいかかりますか?

訪問診療は、外来や入院と同じように公的医療保険が適用されます。費用は、月々の訪問回数や行った処置の内容によって決まります。

自己負担割合(1割〜3割)や、所得に応じた自己負担限度額(高額療養費制度)も適用されるため、一概に「いくら」とは言えませんが、一般的に入院するよりは費用を抑えられる傾向にあります。

詳しい費用については、利用を検討している医療機関に直接問い合わせてみることをお勧めします。

各治療法の費用負担の目安(月額・1割負担の場合)

治療法おおよその自己負担額備考
外来数千円~1万円程度診察と処置のみ。交通費は別途。
訪問診療7,000円~2万円程度訪問看護など他サービスと連携することも多い。
入院高額療養費制度の限度額による所得により異なる。食事代などが別途必要。
家族が日中仕事で不在なのですが、訪問診療は利用できますか?

はい、利用可能です。訪問診療は、事前に患者さんやご家族と相談の上、訪問日時を計画的に決定します。

そのため、ご家族が不在の時間帯でも、ご本人の同意があれば訪問して治療を行うことができます。

また、訪問時にご家族が在宅している日に合わせて、療養上の相談やケア方法の指導を行うなど、柔軟な対応が可能です。

治療法の変更は可能ですか?

はい、もちろん可能です。患者さんの褥瘡の状態や全身状態は変化します。例えば、訪問診療で治療を開始したものの、状態が悪化して入院が必要になることもあります。

逆に、入院治療で状態が安定し、退院後は訪問診療に切り替えて在宅療養を続けるというケースも多くあります。

治療法は固定的なものではなく、その時々の状態に応じて、医師や関係者と相談しながら最も良い方法を再選択していくことが重要です。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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