訪問診療が4ヶ月目から安くなる「多数回該当」の仕組み|長期療養の負担軽減

訪問診療を毎月続けていると、医療費の負担が家計に重くのしかかります。「このまま何年も払い続けるのだろうか」と不安を感じているご家族も多いでしょう。
じつは、高額療養費制度には「多数回該当」という仕組みがあり、4ヶ月目から自己負担の上限額がさらに引き下げられます。たとえば年収約370万〜770万円の世帯なら、月々の上限が44,400円まで下がるケースもあるのです。
この記事では、多数回該当の条件や具体的な限度額、申請方法、さらに他の軽減制度との組み合わせ方まで、訪問診療を長期で利用するご家族に向けてわかりやすく解説します。
訪問診療の自己負担が4ヶ月目からグッと軽くなる「多数回該当」とは
多数回該当とは、高額療養費制度の中にある救済措置で、直近12ヶ月のうち3回以上高額療養費が支給された場合に、4回目以降の自己負担限度額が引き下げられる仕組みです。
訪問診療のように毎月一定の医療費が発生する方にとって、大きな味方になります。
そもそも多数回該当は高額療養費制度の中にある救済措置
日本の公的医療保険には、1ヶ月の医療費が一定額を超えた場合に超過分を払い戻す「高額療養費制度」があります。多数回該当は、その高額療養費制度の中に組み込まれた追加の軽減ルールです。
通常の高額療養費だけでもありがたい制度ですが、毎月のように医療費がかさむ方には、それでも負担が重いと感じる場面があるでしょう。そうした長期療養者を支えるために設けられたのが、多数回該当という仕組みです。
直近12ヶ月で3回以上の高額療養費支給が適用の条件になる
多数回該当が認められるには、診療月を含めた直近12ヶ月のうち、同一の医療保険で3回以上、高額療養費の支給を受けている必要があります。回数のカウントは、あくまで高額療養費として支給対象になった月が基準です。
訪問診療では月に2回の訪問が基本的なパターンとなり、検査や処置が加わると医療費が自己負担限度額を超えやすくなります。そのため、3ヶ月連続で高額療養費が支給されれば、4ヶ月目から多数回該当の恩恵を受けられるわけです。
多数回該当の適用開始までの流れ
| 経過月 | 高額療養費 | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 1ヶ月目 | 1回目の支給 | 対象外 |
| 2ヶ月目 | 2回目の支給 | 対象外 |
| 3ヶ月目 | 3回目の支給 | 対象外 |
| 4ヶ月目 | 4回目の支給 | 適用開始 |
4回目以降は自己負担限度額が自動的に下がる
多数回該当に該当すると、通常よりも低い自己負担限度額が適用されます。たとえば、69歳以下で年収約370万〜770万円の方は、通常の限度額が約80,100円ですが、多数回該当になると44,400円まで引き下げられます。
月々の差額はおよそ35,000円以上にもなるため、年間で見れば40万円以上の負担軽減につながる計算です。訪問診療を長く続けるほど、この差は家計にとって大きな意味を持つでしょう。
高額療養費制度と多数回該当の関係をしっかり押さえておこう
多数回該当を正しく活用するには、まず高額療養費制度そのものの仕組みを押さえておくことが大切です。高額療養費制度は月単位で医療費に上限を設け、多数回該当はその上限をさらに引き下げる「二段階目の軽減」にあたります。
高額療養費制度は月ごとの医療費に上限を設ける仕組み
高額療養費制度は、同月の1日から末日までにかかった医療費の自己負担額が一定の限度を超えた場合、超過分が公的医療保険から払い戻される制度です。
年齢と所得に応じて限度額が設定されており、たとえ医療費が100万円かかったとしても、自己負担は数万円〜十数万円程度に抑えられます。
訪問診療では在宅時医学総合管理料などが毎月発生するため、高額療養費の対象になりやすい傾向があります。制度を知っているか知らないかで、家計への影響は大きく変わってきます。
所得区分によって自己負担限度額は大きく異なる
自己負担限度額は、69歳以下の場合は5段階、70歳以上の場合はさらに細かく区分されています。69歳以下の住民税非課税世帯(区分オ)は月35,400円が上限です。
一方、年収約1,160万円超の区分アになると252,600円に加えて医療費の1%が上乗せされます。ご自身やご家族がどの区分に該当するかは、加入している健康保険の種類や世帯の課税状況によって決まるため、事前に確認しておくと安心です。
多数回該当は高額療養費の「上乗せ軽減」にあたる
高額療養費制度が「1ヶ月の医療費を一定額に抑える仕組み」だとすれば、多数回該当は「その一定額をさらに下げてくれる追加の仕組み」といえます。長期にわたって高額な医療費が続く方を守るための制度設計になっているのです。
なお、厚生労働省による2025年12月の専門委員会でも、多数回該当の限度額は現行水準を維持する方針が示されており、今後も長期療養者への配慮が続く見通しとなっています。
高額療養費と多数回該当の違い
| 項目 | 高額療養費 | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 適用条件 | 月の自己負担が限度額超 | 12ヶ月で3回以上支給後の4回目 |
| 限度額 | 所得区分に応じた金額 | 通常より低い金額 |
| 対象者 | すべての被保険者 | 長期療養が続く方 |
多数回該当で訪問診療の自己負担はいくら安くなる?具体的な限度額を確認
多数回該当が適用されると、69歳以下の一般的な所得層(年収約370万〜770万円)で月額44,400円、住民税非課税世帯なら24,600円まで自己負担限度額が下がります。通常の限度額と比較すると、毎月数万円の差が生まれます。
年収約370万〜770万円の世帯なら月44,400円まで下がる
69歳以下の区分ウに該当する方は、通常の自己負担限度額が「80,100円+(医療費−267,000円)×1%」です。仮に月の医療費総額が50万円だった場合、通常の限度額は約82,430円になります。
多数回該当が適用されると、その月の限度額は44,400円で固定されるため、差額は約38,000円にもなります。年間に換算すると45万円以上の軽減効果があり、訪問診療を受けているご家庭にとって家計の見通しが立てやすくなるでしょう。
住民税非課税世帯はさらに低い限度額で守られる
住民税非課税世帯(区分オ)の方は、通常の自己負担限度額が月35,400円、多数回該当が適用されると24,600円まで引き下げられます。月10,800円の差は、年金生活を送るご高齢の方にとって決して小さくない金額でしょう。
69歳以下の所得区分別・多数回該当の限度額一覧
| 所得区分 | 通常の限度額 | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 区分ア(年収約1,160万円超) | 252,600円+1% | 140,100円 |
| 区分イ(年収約770万〜1,160万円) | 167,400円+1% | 93,000円 |
| 区分ウ(年収約370万〜770万円) | 80,100円+1% | 44,400円 |
| 区分エ(〜約370万円) | 57,600円 | 44,400円 |
| 区分オ(住民税非課税) | 35,400円 | 24,600円 |
70歳以上の方は「外来特例」とも組み合わせて使える
70歳以上の方には、外来の自己負担に個人単位の上限が設けられる「外来特例」という仕組みがあります。一般区分の方は月18,000円(年間上限144,000円)、住民税非課税世帯は月8,000円が外来分の上限です。
入院を伴う場合は世帯単位の限度額も適用され、そのうえで多数回該当の条件を満たせば、さらに限度額が下がります。70歳以上で訪問診療を受けている方は、外来特例と多数回該当の両方が味方になってくれる場面が多いといえるでしょう。
多数回該当の回数カウントで見落としがちな落とし穴に気をつけて
多数回該当の条件は「直近12ヶ月で3回以上の支給」ですが、カウントの仕方にはいくつかの注意点があります。保険証の切り替えや世帯合算のルールを見落とすと、本来受けられるはずの軽減が適用されないことがあるため、事前に確認しておきましょう。
保険証の切り替えがあるとカウントがリセットされる場合がある
転職や退職で健康保険の種類が変わった場合、原則として多数回該当の回数カウントはリセットされます。たとえば、会社の健康保険組合から国民健康保険に切り替わると、それまで積み上げた回数がゼロに戻ってしまうのです。
厚生労働省の専門委員会でもこの問題は議論されており、保険者が変わった際のカウント引き継ぎの実現に向けた検討が進められています。
ただし、現時点ではまだ実現していないため、保険の切り替えタイミングには十分注意が必要です。
世帯合算と個人合算の違いに気をつけよう
高額療養費制度には、同じ公的医療保険に加入する家族の自己負担額を合算できる「世帯合算」という仕組みがあります。
69歳以下の場合、1つの医療機関での自己負担が21,000円以上のものだけが合算の対象になるという条件がある点を覚えておきましょう。
70歳以上の方は金額条件なしで合算できるため、ご夫婦でそれぞれ通院や訪問診療を受けている場合に有利に働きます。世帯合算によって高額療養費の支給回数が増え、多数回該当の条件を早く満たせることもあるのです。
月をまたいだ入院・訪問診療は別の月としてカウントされる
高額療養費の計算は、あくまで暦月(その月の1日から末日まで)が単位です。入院が月末から翌月にまたがった場合、それぞれの月で別々に計算されるため、どちらの月も限度額に届かないケースが生じることがあります。
訪問診療の場合は外来扱いとなるため入院の月またぎとは状況が異なりますが、入院と訪問診療が並行する方は、退院や入院のタイミングを主治医と相談しておくと無駄な自己負担を避けやすくなるでしょう。
カウント時に注意したいポイント
- 転職・退職による保険者変更で回数がリセットされる
- 69歳以下の世帯合算は自己負担21,000円以上が条件
- 70歳以上の外来のみで限度額に達した月は回数に含まれない場合がある
- 同一月内でも医科と歯科、入院と外来は別計算になる
多数回該当の申請手続きと必要書類はこれだけ揃えれば安心
多数回該当の適用は、基本的に保険者(健康保険組合や自治体)が自動で判定します。ただし、加入している保険の種類によっては自分から申請が必要な場合もあるため、手続きの流れを把握しておくと安心です。
国民健康保険の場合は自治体の窓口で手続きする
国民健康保険に加入している方が高額療養費の支給を受けるには、お住まいの市区町村役場の国保担当窓口で申請する必要があります。
多くの自治体では、高額療養費に該当した月から3〜4ヶ月後に「支給のお知らせ」と申請書が届く仕組みになっています。
申請時に必要なものは、マイナンバーカードまたは本人確認書類、振込先の口座情報、医療機関の領収書などです。初回の申請を済ませれば、次回以降は自動で振り込まれる自治体も増えています。
社会保険や後期高齢者医療保険はそれぞれ申請先が異なる
会社員やその扶養家族が加入する健康保険組合・協会けんぽの場合は、勤務先の総務部門や健康保険組合に申請します。健康保険組合によっては、自動で高額療養費を支給してくれる「付加給付」の仕組みを持つところもあります。
保険種別ごとの申請先と手続き方法
| 保険の種類 | 申請先 | 備考 |
|---|---|---|
| 国民健康保険 | 市区町村の国保窓口 | 通知が届いてから申請 |
| 協会けんぽ | 全国健康保険協会の支部 | 郵送でも申請可 |
| 健康保険組合 | 勤務先の組合窓口 | 付加給付がある場合も |
| 後期高齢者医療 | お住まいの広域連合 | 初回申請後は自動振込 |
限度額適用認定証を事前に取得しておくと窓口負担が楽になる
高額療養費は原則として後から払い戻される仕組みですが、「限度額適用認定証」を事前に取得して医療機関に提示すれば、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。多数回該当が適用される月も同様です。
マイナンバーカードを保険証として利用できる医療機関であれば、認定証がなくても限度額までの支払いで済むケースが増えています。訪問診療のクリニックがマイナ保険証に対応しているか、事前に確認しておくとよいでしょう。
訪問診療を長期で続けるご家族が押さえておきたい医療費の負担軽減のコツ
多数回該当だけでなく、医療費を軽減できる方法はほかにも複数あります。確定申告での医療費控除や各種助成制度を組み合わせることで、訪問診療にかかる実質的な負担をさらに抑えることが可能です。
医療費控除の確定申告で所得税・住民税を取り戻す
1年間に支払った医療費が10万円(もしくは総所得金額の5%)を超えた場合、超えた分を所得から差し引ける「医療費控除」を確定申告で申告できます。訪問診療の費用だけでなく、薬代や通院の交通費なども対象になります。
所得税と住民税の両方が軽減されるため、年間の医療費が高額になる方ほど戻ってくる金額も大きくなります。毎月の領収書をこまめに保管しておくことが大切です。
自立支援医療や難病医療費助成との併用も視野に入れる
精神疾患で訪問診療を受けている方は「自立支援医療制度」の対象になる場合があり、自己負担が1割に軽減されます。また、指定難病の認定を受けている方は「難病医療費助成制度」によって自己負担が大幅に軽減されるケースもあるでしょう。
これらの制度と高額療養費制度・多数回該当は併用が可能なため、条件に合致する方は主治医や自治体の担当窓口に相談してみてください。
ケアマネジャーやソーシャルワーカーに早めに相談する
医療費の制度は複雑で、自分だけでは見落としてしまう軽減策も少なくありません。介護保険を利用している方であればケアマネジャーが相談に乗ってくれます。
病院や訪問診療クリニックにはソーシャルワーカー(医療相談員)が在籍していることが多く、制度の案内や申請のサポートを受けられます。
「どの制度が使えるかわからない」と感じたら、遠慮なく専門職に相談しましょう。早めに動くことで、申請の遅れによる受給漏れを防げます。
訪問診療の負担を減らすために活用したい制度・相談先
- 確定申告の医療費控除(所得税・住民税の軽減)
- 自立支援医療制度(精神疾患の自己負担を1割に)
- 難病医療費助成制度(指定難病の自己負担を大幅軽減)
- ケアマネジャー・ソーシャルワーカーへの早期相談
多数回該当と他の医療費軽減制度を上手に組み合わせて賢く備えよう
多数回該当による負担軽減に加え、介護保険との合算制度や健康保険組合の付加給付など、活用できる仕組みはまだあります。複数の制度を組み合わせると、長期にわたる訪問診療の費用をより現実的な水準に抑えられるでしょう。
介護保険との合算で「高額医療・高額介護合算療養費」が使える
訪問診療を受けている方の多くは、同時に介護保険のサービスも利用しています。医療保険と介護保険の自己負担額を年間で合算し、一定の基準額を超えた場合に払い戻しが受けられるのが「高額医療・高額介護合算療養費制度」です。
計算期間は毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間で、基準額は年齢と所得区分によって異なります。医療費と介護費の両方がかかるご家庭にとって、忘れずに申請しておきたい制度です。
高額医療・高額介護合算療養費の基準額(70歳以上・一部抜粋)
| 所得区分 | 年間の基準額 |
|---|---|
| 現役並み所得III | 2,120,000円 |
| 現役並み所得I | 670,000円 |
| 一般 | 560,000円 |
| 低所得II | 310,000円 |
| 低所得I | 190,000円 |
付加給付がある健康保険組合ならさらに自己負担が減る
大企業の健康保険組合の中には、法定の高額療養費に上乗せして「付加給付」を支給するところがあります。付加給付がある組合では、自己負担限度額が月25,000円前後まで引き下げられるケースも珍しくありません。
この付加給付は高額療養費の支給とは別に自動で計算されるため、申請不要で受け取れる場合がほとんどです。ご家族が加入している健康保険組合に付加給付があるかどうか、一度確認してみる価値は十分にあるでしょう。
訪問診療の長期療養を見据えた家計のシミュレーションをしておこう
訪問診療の費用は、診察内容や処方薬の種類によって月ごとに変動します。多数回該当の限度額を基準にしたうえで、年間の医療費・介護費・薬代の見通しを立てておくと、急な出費に慌てずに済みます。
ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーに家計面の相談をすると、利用できる制度を整理してくれることが多いです。「制度が複雑でよくわからない」と感じる方ほど、専門職の力を借りることで安心感が得られるはずです。

よくある質問
- 多数回該当は訪問診療だけでなく通院や入院にも適用される?
-
多数回該当は、訪問診療に限らず通院・入院を含むすべての公的医療保険の対象となる医療費に適用されます。高額療養費制度の一部であるため、保険診療であれば診療の形態を問いません。
訪問診療と通院を併用している方や、途中で入院が必要になった方も、同一保険内での高額療養費の支給回数がカウントされ、条件を満たせば多数回該当が適用されます。
- 多数回該当の適用を受けるために別途申請は必要?
-
多数回該当は、加入している保険者(健康保険組合・協会けんぽ・自治体の国保など)が自動的に判定するのが原則です。高額療養費の支給回数を保険者側で管理しているため、4回目以降は自動で引き下げられた限度額が適用されます。
ただし、国民健康保険に加入している方は、高額療養費そのものの申請手続きが必要な場合があります。初回の申請を済ませておけば、以降の多数回該当も自動で反映される自治体が多いため、届いた通知は早めに対応しておくとよいでしょう。
- 多数回該当の回数カウントは保険者が変わってもリセットされない?
-
現行の制度では、転職や退職によって加入する保険者が変わった場合、多数回該当の回数カウントはリセットされます。たとえば健康保険組合から国民健康保険へ切り替わると、それまでの支給回数は引き継がれません。
この点は厚生労働省の検討会でも課題として認識されており、カウントの引き継ぎに向けた議論が進められています。ただし、現時点では実現していないため、保険の切り替えが予定されている方は時期に注意が必要です。
- 多数回該当と医療費控除は同時に使える?
-
多数回該当と医療費控除は、まったく別の制度であるため併用が可能です。多数回該当は公的医療保険による自己負担限度額の引き下げであり、医療費控除は所得税・住民税を軽減するための確定申告上の仕組みです。
医療費控除を申告する際には、高額療養費として払い戻された金額を差し引いた実際の自己負担額が対象になります。多数回該当で限度額が下がっても、年間の自己負担の合計が10万円を超えていれば医療費控除の申告ができます。
- 多数回該当の限度額は今後の制度改正で変わる見通しがある?
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2025年12月に厚生労働省の専門委員会が取りまとめた方針では、多数回該当の限度額は現行水準を維持することが明記されています。高額療養費制度全体の見直しが議論されている中でも、長期療養者への配慮として多数回該当は据え置かれる方向です。
一方、1〜3ヶ月目の通常の自己負担限度額については、所得区分の細分化や段階的な引き上げが検討されています。制度の動向は今後も変わりうるため、厚生労働省や加入保険者からの通知を定期的に確認しておくと安心です。
