パートナーや家族からいびきを指摘されて、複雑な気持ちになったことはないでしょうか。「うるさくてごめん」と謝りながら、どうしたらいいかわからないまま時間が過ぎている人も多いと思います。
あるいは、最近体重が増えてからいびきがひどくなった気がする、朝起きても頭がすっきりしない、昼間に異様に眠くなる——そういった状態が続いているけれど、忙しさにまぎれてそのままにしてきた、という人もいるかもしれません。
いびきは、放っておいても害はないと思われがちです。でも、体重との関係、睡眠の質への影響、そして全身の健康への関わり方を整理してみると、「ただうるさいだけの問題」ではないと感じる場面が出てきます。この記事では、そのあたりをなるべくわかりやすく解説していきます。
いびき問題は、思っているより人に言いにくい
旅行や泊まりの場が気まずくなる
会社の出張、家族旅行、友人との旅行。泊まりがともなう場面が近づくと、少し気が重くなる——そういう人は珍しくありません。「自分のいびきで相手を起こしてしまうんじゃないか」「また指摘されるんじゃないか」という気持ちが頭のどこかにあると、旅行そのものが楽しみにくくなってきます。
ひどくなると、先に相手が寝てくれないと不安になったり、一人部屋を希望するようになったりもします。いびきが、社会的な場面でじわじわと行動を制限していくのです。
家族に迷惑をかけている気がしてしまう
「いびきがうるさくて眠れない」と家族から言われた経験のある人は、どこか罪悪感を持ちやすくなります。寝室を別にしている夫婦も多いですし、それが一時的な解決策になっても、「自分のせいで」という感覚は残ります。
いびきは、本人が意図してやっているわけではありません。病気や体の状態として起きていることです。でも、「わかってはいるけど、やっぱり気になる」という気持ちは、なかなか消えないものです。
寝ているはずなのに疲れが取れない
朝、目覚めたときに「寝た気がしない」と感じることはありませんか。8時間寝ても体がだるい、頭が重い、なんとなくすっきりしない——こういう訴えを持っている人の中に、実は夜中に何度も呼吸が乱れている人が含まれています。
本人は熟睡しているつもりでも、気道が狭くなるたびに睡眠が浅くなり、脳が十分に休めていないことがあります。疲れが取れないのに原因がよくわからない、というときに、実は睡眠中の呼吸が関係しているケースは少なくありません。
だらしなさの問題ではないのに、そう見られやすい
いびきが大きい人や、昼間に眠くなりやすい人は、「体型管理ができていない」「自己管理ができていない」という目で見られることがあります。本人もそう感じてしまうことがある。でも、いびきや日中の眠気は、単なる生活習慣の乱れだけで起きているわけではありません。
睡眠中の呼吸の問題は、意志の力でどうにかなるものではないことも多いです。「だらしない」ではなく「体が何かを訴えている」という見方のほうが、実態に近いことがあります。
いびきの裏に、睡眠時無呼吸症候群が隠れていることがある
いびきと「呼吸が止まる」は別ではなく、つながっていることがある
いびきは、眠っている間に喉の奥の空気の通り道が狭くなり、そこを空気が通るときに粘膜が振動して音が出るものです。通り道がさらに狭くなると、一時的に呼吸が止まってしまうことがあります。これが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。
いびきをかく人が全員SASというわけではありませんが、大きないびきをかく人ほど、呼吸が乱れている可能性は高くなります。「いびきがひどい」と「呼吸が止まる」は、連続したひとつの状態として理解しておくと整理しやすいと思います。
家族が先に異変に気づくことも多い
本人は眠っている間のことを覚えていません。「呼吸が止まっていた」という事実を教えてくれるのは、多くの場合、隣で寝ているパートナーや家族です。「息をしていないように見えた」「突然大きな音で息を吸い始めた」「ガガッと音がしてまた静かになった」——こういった様子に気づいた家族が心配して受診を勧めるというケースは、よくあります。
もし家族からそういった指摘を受けたことがあるなら、それは一つの大切な情報です。本人に自覚がなくても、体は何かを起こしているかもしれません。
痩せている人にも起こるが、肥満は大きなきっかけになりやすい
SASは、体型に関係なく起こりえます。顎が小さい、扁桃腺が大きいなど、体型以外の要因でも気道が狭くなることがあります。「太っていないからSASではない」とは言い切れません。
ただ、肥満がある人では、首まわりや喉の周辺に脂肪がつくことで気道が狭くなりやすく、SASが起きやすい体の状態になっていることが多いです。体重と症状の間に関係がある人は、実際に多くいます。
ダイエット外来の原点
実は、SAS外来の原体験こそが私のダイエット外来開始のモチベーションになりました。その時は体調不良の院長先生の代理で短期間の診療でしたので、あまり深入りできなかったのが残念でしたが、この患者さんをちゃんと痩せさせられたら体に起こるたくさんの不調がどう好転するだろうか、と思いながら診療していました。
眠気だけでは済まない 睡眠時無呼吸症候群が日常に与える影響
朝のだるさ、頭の重さ、すっきりしない目覚め
夜中に何度も呼吸が止まり、そのたびに睡眠が浅くなるということは、体の回復が妨げられているということでもあります。「十分寝たはずなのに疲れが取れない」という感覚は、この繰り返しから来ていることがあります。
頭の重さ、寝起きのだるさ、一日中どこか体がはっきりしない感じ——これらを「年のせいかな」で片づけてしまっている人もいますが、睡眠中の呼吸の問題が原因のこともあります。
日中の眠気と集中力低下で、仕事や家事の効率が落ちる
SASの症状として最もよく知られているのが、日中の強い眠気です。夜に何度も目が覚めているのと同じような状態になっているため、昼間の眠気が出やすくなります。食後、会議中、少しデスクに向かっていると眠くなる——こういった状態が続いていると、仕事や家事のパフォーマンスに直接影響します。
「根性が足りない」「夜更かしのせい」と思い込んでいるうちに、実は睡眠の質そのものに問題があった、というケースはたくさんあるのです。
会議中、運転中、デスクワーク中に起こる見えにくい危険
日中の眠気で特に注意したいのが、運転や機械操作などの場面です。居眠り運転による事故の背景にSASがあったというケースが報告されており、本人がコントロールしにくい眠気という点で、見過ごしにくいリスクです。
毎日の通勤で車を運転している、長距離の移動が多い、という人は、日中の眠気が続いているなら一度立ち止まって考えてみる価値があります。
イライラや気分の不安定さにもつながることがある
睡眠の質が低下すると、感情のコントロールにも影響が出ることがあります。些細なことでイライラしやすくなる、気分が落ち込みやすい、何となく焦りや不安感が続く——こういった変化の裏に、睡眠中の問題が潜んでいることがあります。
メンタル的な不調だと思って別の対処をしていたら、睡眠の問題が原因だったと判明したという話も、実際の臨床ではよく見ます。
なぜ肥満でいびきや無呼吸が起こりやすくなるのか
首まわりやのどの奥に脂肪がつくと、空気の通り道が狭くなりやすい
少しイメージしてみてください。喉の奥には、鼻や口から入った空気が肺に向かう通り道があります。その通り道の周囲——首の内側、喉の筋肉のまわり、舌の付け根あたりに脂肪がついてくると、通り道そのものが物理的に狭くなります。
体の中でも、この「見えないところに脂肪がつく」という変化は、外見からはわかりにくいものです。体重が増えたとき、お腹まわりの脂肪は意識しやすいですが、喉のまわりの変化には気づきにくい。でも、その見えにくい脂肪が、呼吸に関わってきます。
仰向けで悪化しやすいのは、気道がつぶれやすくなるため
横向きで寝ているときは比較的問題がなくても、仰向けになった途端にいびきが始まる、という人がいます。これは重力のはたらきによるものです。仰向けになると、舌や喉まわりの組織が後ろに落ちやすくなります。そこに脂肪がある人では、さらに通り道が狭くなりやすい。
「横向きで寝るようにしたら少しましになった」という声があるのも、この理由からです。ただ、姿勢の工夫だけで根本的に解決するかどうかは、人によって違います。
体重が増えてから症状が悪化したと感じる人が多い理由
「昔はいびきなんてかかなかったのに」「5キロ太ってから急にひどくなった」という話は、思いのほかよく聞きます。体重の変化と症状の変化が連動しているなら、その関係は偶然ではない可能性が高いです。
体型と睡眠の問題がつながっている方向けには、体重管理や生活習慣の改善に関する情報も参考になるかもしれません。体重と体の変化についての記事も別途まとめています。
体重を減らすことで改善が期待できる人もいる
体重が増えることで気道が狭くなりやすくなるなら、逆に体重を減らすことで状態が改善することもあります。実際、体重を落としたらいびきが減った、睡眠検査の結果が改善したという経験をしている人はいます。
ただし、「痩せれば必ず治る」と言い切ることはできません。SASの原因は体重だけではないですし、体重が戻れば症状が戻ることもあります。あくまで「改善につながる可能性がある要素の一つ」として考えるのが現実的です。
放っておくと、眠りの問題が全身の問題に広がる
高血圧と睡眠時無呼吸症候群は重なりやすい
呼吸が止まるたびに、血液中の酸素が一時的に下がります。すると体は酸素を補おうとして、心拍数を上げ、血管を収縮させます。これが夜中に繰り返されると、血圧が安定しにくくなります。
高血圧の治療をしているのになかなかコントロールがうまくいかない、という人の中に、SASが関係しているケースがあるという報告があります。高血圧と体重の問題がどのようにつながるかについては、別の記事でも触れていますので、気になる方は参考にしてみてください。
不整脈や心臓・血管の病気との関係
夜中に繰り返す低酸素状態と血圧の変動は、心臓や血管にも負担をかけます。心房細動などの不整脈や、心血管疾患との関連が指摘されています。毎晩繰り返すことで、じわじわと体への影響が積み重なっていくという考え方です。
「一晩くらい大丈夫」という話ではなく、何年も続けているとどうなるか、という文脈で考えると、放置することの意味が変わってきます。
脳卒中や糖代謝異常など、生活習慣病全体とのつながり
SASは、脳卒中や2型糖尿病のリスクとも関係していることが報告されています。睡眠中の低酸素や血圧変動が、血管や代謝に長期的な影響を与えると考えられています。
ただし、これはSASがあれば必ずこれらの病気になる、ということではありません。リスクが上がる可能性があるというレベルで理解しておくのが、今の段階では適切だと思います。
「突然死」が気になる人に知っておいてほしいこと
「SAS 突然死」で検索してこの記事にたどり着いた方もいるかもしれません。SASと夜間の心臓への負担の関係は研究されており、重度のSASでは心血管リスクが上がるという知見があります。
ただ、「SASがあれば突然死する」というものではなく、適切に評価・対処することでリスクを管理できる余地があるとも言われています。怖い話として消費するのではなく、「だから一度きちんと評価してもいいかもしれない」という判断材料として受け取ってもらえると、より建設的だと思います。
こんな人は一度立ち止まって考えたい
いびきが大きい、呼吸が止まると言われた
家族や同室者から「呼吸が止まっていた」「大きないびきをかいていた」と言われたことがあるなら、それは自分では気づけない情報です。本人に自覚症状が少なくても、睡眠中の状態として無視しにくいものです。
昼間の眠気や集中力低下が続いている
十分な時間眠っているつもりなのに、昼間に強い眠気がある、仕事中に頭がぼんやりするという状態が続いているなら、「睡眠の量」ではなく「睡眠の質」に問題がある可能性があります。
高血圧、肥満、血糖異常などを指摘されている
健診や診察で高血圧、肥満、血糖の異常を指摘されている人は、SASが重なっているケースも少なくないと言われています。それぞれが別々の問題ではなく、互いに関係し合っている可能性があることを頭に置いておくと、対処の方向性が変わることもあります。
体重増加とともに、眠りの質が落ちた気がする
「最近太ってから、眠りが浅くなった気がする」「いびきがひどくなった」という感覚があるなら、その変化は体が何かを知らせているサインとして受け取ってもいいかもしれません。気のせいかもしれないし、気のせいではないかもしれない。その判断をするためにも、一度整理してみる価値はあります。
自分で見直せることと、医療に相談したほうがよいこと
寝る姿勢、飲酒、睡眠時間など、まず見直したい生活習慣
いびきや睡眠の質に関係しやすい生活習慣はいくつかあります。就寝前の飲酒は、喉の筋肉を弛緩させてより気道が狭くなりやすくなるため、症状を悪化させることがあります。睡眠不足が続くと、睡眠が深くなりすぎて気道が緩みやすくなることもあります。
仰向けよりも横向きで眠る習慣も、いびきや無呼吸の軽減に役立つことがあります。ただ、これらは補助的な対策であり、根本的な解決になるかどうかは人によって違います。
体重管理が意味を持つのは、見た目のためだけではない
体重を管理することは、見た目や健康診断の数値のためだけではありません。睡眠中の気道の状態、血圧、血糖など、複数の問題が体重と連動していることがあります。
体重を少し落とすだけで、いびきが減った、睡眠が深くなった感じがする、という変化を経験する人もいます。一方で、体重が戻れば症状が戻ることもあります。継続的な管理という観点が、体重と健康の関係を考えるうえでは欠かせません。
当院には仲良くご夫婦で通院してくださる患者さんがいらっしゃいます。ご主人がダイエット外来、奥様が保険診療で対応しているのですが、ご主人のダイエットの成果が出てきた時、奥様から「最近、いびき聞かなくなったね」という発言があり、こちらまで嬉しくなりました。
医療機関ではどのように相談ができるのか
「受診するほどのことかな」と思って踏み出せない人は多いと思います。いびきや眠気の相談を最初にどこにすべきか迷うのも自然なことです。
かかりつけの内科や一般的なクリニックでも、睡眠の問題や体重管理の相談を受け付けているところがあります。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、簡易の検査機器を自宅で使う方法(在宅簡易睡眠検査)が処方されることが多く、入院の必要はありません。当院での相談の流れや診療内容については、診療案内のページをご確認ください。
睡眠時無呼吸症候群の専門的な評価と、体重管理の支援は役割が少し違う
SASの診断と治療(CPAP療法などの呼吸補助装置の使用など)を行うのは、主に呼吸器科や耳鼻科、睡眠専門外来です。一方で、体重管理や肥満の改善を継続的にサポートするのは、内科や肥満外来、ダイエット外来の役割です。
両方の問題が重なっている人では、どちらか一方だけを対処しても不十分なことがあります。「いびきや睡眠の問題は睡眠外来で、体重は別のところで」という分担になることもありますし、一つのクリニックで総合的に相談できることもあります。どちらが先に必要かは、症状の重さや状態によって異なります。
当院ではSASのCPAP療法も実施しており、こちらは保険診療となります。保険診療とダイエット外来(自費)は別日で設定すれば併用可能です。ダイエット外来のほうはオンライン診療も可能ですので、時間的な負担は軽いのではないでしょうか。
いびきをきっかけに、体全体を見直すという考え方
いびきを「ただの癖」で終わらせない
いびきは長年「本人には関係ない話」として扱われてきたところがあります。でも、睡眠中の呼吸の乱れは、眠りの質、日中のパフォーマンス、そして長期的な健康リスクと関係しています。「癖」として片づけるには、少し背景が重いものです。
とはいえ、いびきがあるからといって全員がすぐに受診しなければならない、というわけでもありません。まず「自分の状態がどのあたりにあるか」を少し整理してみることが、次の一歩になります。
睡眠の問題と肥満がつながっている人は少なくない
いびきがある、体重が増えてきた、疲れが取れない、高血圧を指摘されている——これらが重なっている人は、それぞれが独立した問題ではなく、体全体のバランスが崩れているサインとして捉えるほうが的を射ていることがあります。
一つを改善しようとしたことが、別の問題にも良い影響を与えるケースもあります。たとえば体重が少し落ちることで、血圧も睡眠も改善に向かった、という経験をする人もいます。
必要に応じて、睡眠の評価と体重管理の両方を考えてよい
睡眠の評価を先にするか、体重管理を先にするか、あるいは同時に進めるか——それは一人ひとりの状態によって違います。どれが正解とは言い切れません。
ただ、「どうしようか迷ったまま何もしない」より、「まず今の自分の状態を確認してみる」という選択のほうが、何かが変わるきっかけになる可能性は高いと思います。睡眠の専門的な評価を受けたい場合は睡眠外来や呼吸器科へ、体重管理について相談したい場合は内科やダイエット外来へ、それぞれ相談の窓口があります。どちらに相談していいかわからないときは、まずかかりつけ医に話してみるのが、一番入りやすい方法かもしれません。
いびきをきっかけに体のことを少し考え始めた、という段階にいる人が、この記事を読んで「なんとなく納得できた」と感じてもらえたなら、それで十分だと思っています。
【参考文献】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会(編):睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 日本呼吸器学会・厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業監修. 南江堂, 東京, 2020.
日本循環器学会ほか:循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(2023年版)
厚生労働省:e-Stat,社会医療診療行為別統計 令和2年版
Benjafield AV, et al. Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. Lancet Respir Med. 2019; 7(8): 687–698.
Peppard PE, et al. Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing. JAMA. 2000; 284(23): 3015–3021.
Young T, et al. The occurrence of sleep-disordered breathing among middle-aged adults. N Engl J Med. 1993; 328(17): 1230–1235.
Nieto FJ, et al. Association of sleep-disordered breathing, sleep apnea, and hypertension in a large community-based study. JAMA. 2000; 283(14): 1829–1836.
Gami AS, et al. Association of atrial fibrillation and obstructive sleep apnea. Circulation. 2004; 110(4): 364–367.
Yaggi HK, et al. Obstructive sleep apnea as a risk factor for stroke and death. N Engl J Med. 2005; 353(19): 2034–2041.
Foster GD, et al. A randomized study on the effect of weight loss on obstructive sleep apnea among obese patients with type 2 diabetes. Arch Intern Med. 2009; 169(17): 1619–1626.
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」:睡眠時無呼吸症候群
国立研究開発法人国立循環器病研究センター:患者向け情報「睡眠時無呼吸症候群」
