在宅での褥瘡(床ずれ)管理 – 予防から治療まで徹底解説

在宅での褥瘡(床ずれ)管理 - 予防から治療まで徹底解説

在宅で療養している方や、そのご家族は、褥瘡(床ずれ)の予防と治療をどう進めるべきかと悩むことが多いです。

体が不自由な状態や長期間ベッドで過ごす状態が続くと、皮膚への圧力が原因で褥瘡を起こしやすくなります。早めの段階で気付けるように観察方法を身につけ、適切なケアや体位変換、栄養管理を実践することが重要です。

また、必要に応じて訪問診療や訪問看護といった専門職との連携も視野に入れると、在宅でも無理なく治療と予防を続けることができます。

この記事では、在宅における褥瘡管理のポイントと、早期発見から進行時の対策までを詳しく解説します。

目次

在宅での褥瘡(床ずれ)管理とは?基礎知識を押さえる

在宅で療養する方の褥瘡管理は、病院のように看護師が常に巡回できない点が大きな特徴です。家族や介護者が主体となり、体位変換や皮膚の観察をはじめとする日常的なケアを行います。

医療機関との連携も欠かせないので、褥瘡のステージ分類や原因を正しく理解して、必要に応じて医師・看護師へタイミングよく相談することが大切です。

褥瘡(床ずれ)が起こるメカニズムとステージ分類

褥瘡は、皮膚やその下の組織が圧迫を受け続けることで血行が悪くなり、細胞が壊死してできる傷です。特に骨の突出部分(仙骨部、踵、坐骨など)に生じやすく、寝たきりが続くほど発症リスクが上がります。

褥瘡のステージ分類は以下のように分けられます。

  • ステージI:皮膚に軽度の発赤がみられるが、まだ皮膚は破れていない
  • ステージII:表皮が剥がれたり水疱がみられる
  • ステージIII:皮下組織にまで損傷が及び、皮膚に穴が開いた状態
  • ステージIV:筋肉や骨にまで及ぶ深い傷

褥瘡管理では、早期に発見してステージIやIIのうちに対応することが望ましいです。深い傷になれば治癒に時間がかかるため、日々の観察とケアが重要です。

ここで、褥瘡が生じやすい部位の代表例をまとめた一覧表を示します。

部位特徴
仙骨部ベッド上で仰向けに寝ることが多い場合、圧迫が集中しやすい
踵(かかと)ベッドのマットレスに常に当たるため、小さなずれでもリスク大
坐骨車椅子使用時など座位が長く続くと圧迫を受けやすい
肩甲骨上半身の体重がかかる場合に負担がかかりやすい
側臥位で寝る方の場合、枕との接触が続くことで傷みやすい

高齢者や寝たきり患者に多い理由

高齢者や寝たきりの方が褥瘡を起こしやすいのは、加齢による皮膚の薄さや弾力の低下、血行不良などが背景にあります。

筋力が低下すると自力で体位を変えることが難しくなり、一カ所に圧がかかり続けるため、皮膚や組織が損傷を受けやすくなります。高齢になると栄養状態が不十分になりやすく、傷の治りも遅くなりがちです。

在宅ケアの特徴と意識すべき点

在宅ケアでは、家族が1対1で長時間ケアを行うケースが多いです。病院と違い、日中に医師や看護師が常駐しているわけではありません。そのため、以下の点を意識すると、褥瘡を防ぎやすくなります。

  • 定期的な体位変換のスケジュールを立てる
  • シーツのシワや汚れ、湿りをこまめに確認する
  • 普段から皮膚の色や手触りを観察し、小さな異変にも気付く
  • 連携先(訪問診療、訪問看護など)と緊密にやりとりする
  • 介護者が主導して身体ケアを行う
  • 医療スタッフが頻繁に訪問できないことを前提にする
  • 日常的なチェックリストを作り、漏れなく把握する

早期発見を可能にする観察のコツ

褥瘡は、できる前兆として皮膚の発赤や腫れ、温度変化などがみられます。特に、寝たきりの方は痛みを訴えにくい場合があるため、視覚と触覚による観察が欠かせません。

入浴や清拭の際に、手で触れて皮膚が熱を帯びていないか、色の変化や硬さがないかなどを確認してください。環境面では、寝具や衣類が濡れた状態で長時間放置しないように気をつけることも重要です。

下の表は、在宅ケアでチェックしておきたい項目をまとめたものです。

チェック項目具体例
皮膚の色赤みや紫色の変化がないか
触った時の温度や硬さほかの部位と比べて熱く感じる、または硬さに違和感
衣類や寝具の湿り汗や排泄物で湿ったままになっていないか
シーツのシワ小さなシワでも長時間当たると圧迫リスクがある
痛み・違和感の訴え介護者からの問いかけで確認する

褥瘡予防の基本 – 日常ケアのポイント

体位変換や栄養管理、皮膚の清潔保持など、褥瘡予防には多角的なアプローチが必要です。

在宅でのケアでは、家族や介護者が日々実践できる手法を押さえておくと、早期のケアにつながります。正しい方法を習得し、無理なく続けることが大切です。

体位変換とポジショニングの実践

長時間同じ姿勢で寝ていると、一部の部位にかかる圧が集中します。そこで体位変換が重要になります。定期的に体の向きを変えると、圧迫部分を分散できるだけでなく、血行を促し、褥瘡の発生を抑えられます。

横向きや仰向け、少し身体を傾けるなど、数時間おきに姿勢を変えてみてください。車椅子を利用している場合も、座ったまま少し姿勢を変えるなど、できる範囲で変化をつけることが効果的です。

  • 2~3時間ごとの体位変換を目安にする
  • クッションや枕、タオルを活用して姿勢を安定させる
  • 体位変換のタイミングに合わせて皮膚のチェックを行う

皮膚の清潔保持と保湿の重要性

皮膚を清潔かつ乾燥しすぎない状態に保つことは、褥瘡予防において大切です。汚れたままや汗をかいたままの状態が続くと、皮膚のバリア機能が低下してトラブルを起こしやすくなります。

入浴が困難な場合は、清拭や部分浴を行い、清潔を維持します。また、乾燥が気になる部分は保湿剤を塗って皮膚のうるおいを保つとよいでしょう。

ここで、皮膚トラブルを減らすためのポイントをまとめた表を示します。

ポイント詳細内容
適度な洗浄洗浄時に過度にゴシゴシ擦らず、汚れを優しく落とす
保湿剤の使用乾燥が気になる部分に保湿クリームを薄くのばす
衣類や寝具の交換汗や汚れが付着しやすい寝具はこまめに換える
皮膚のこまめな観察赤みや荒れ、湿疹の早期発見につながる

栄養バランスと水分補給のコツ

傷の修復や皮膚の健康維持には、十分なタンパク質とビタミン、ミネラルが必要です。特に食欲が低下しがちな方や嚥下に不安のある方は、少量でも栄養価の高い食事を工夫するとよいでしょう。

水分補給も血行維持に直結しますので、飲み込みの状態に配慮しながらこまめに水分を摂らせるようにします。

  • タンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)を適度に取り入れる
  • ビタミン豊富な緑黄色野菜や果物を取り入れる
  • 水分補給は1回の量を少なめに回数を増やす

リスク評価ツールの活用方法

在宅での褥瘡予防や管理を進める場合、褥瘡リスクを客観的に評価するツールを取り入れると便利です。代表的なものに「ブレーデンスケール」があり、感覚認知や湿潤状態、活動度、可動性、栄養状態などの要素で総合的に判断します。

リスクが高いとわかった場合は、体位変換の頻度を上げる、クッションを追加するなど、早めの対策を講じます。

以下の表は、ブレーデンスケールの主な評価要素を整理したものです。

評価要素具体的内容
感覚認知痛みや不快感をどの程度感じ取れるか
湿潤状態皮膚が湿りがちか、乾燥しているか
活動度日常動作がどれだけできるか
可動性自力で体位を変えられるか
栄養状態食事の量やバランス、食欲の状態

介護者が行うセルフチェックのすすめ

介護者自身が忙しさに追われて、気づいたらケアに抜けや漏れが生じていたという状況は珍しくありません。定期的なセルフチェックを行い、以下のような項目を意識すると、結果的に褥瘡を防ぎやすくなります。

  • 自分が疲れすぎていないか(ケアの質が落ちやすい)
  • 体位変換や皮膚観察をしっかり実行したか
  • 食事や水分補給の記録が取れているか
  • 連携先に相談すべきことはないか

褥瘡の初期段階における対処法

褥瘡は初期の段階で気付いてケアを行うと、深刻化を防ぎやすいです。軽度の発赤やわずかな傷の時点で正しい処置を行い、皮膚への負担を減らすことが重要です。

少しでも迷いがあるときは、早めに医師・看護師へ相談すると回復を促進できます。

軽度な発赤を悪化させないケア

軽度な発赤の段階で早めに気付けば、体位変換やクッション調整、皮膚の清潔保持を徹底するだけで改善しやすいです。

圧がかかりやすい部位は特に意識して、こまめに力を逃がす工夫をしてください。早期対応が褥瘡の拡大を防ぐカギとなります。

  • 赤みが消えない場合は医療者に相談
  • 汚れや汗を吸収しやすい寝具や下着を選ぶ
  • 適度に皮膚を乾燥させない(保湿を考慮)

圧力の除去とクッション・マットの使用

ベッドのマットやクッションを活用して、皮膚への圧力を分散することがポイントです。床ずれ防止マットは空気やジェルなどの素材を用いたものなど種類があり、寝ているだけでも圧を分散する設計になっています。

クッションやポジショニングピローも活用して、肘やかかとなど突出部位を保護するとよいでしょう。

各種クッション・マットの特徴を紹介します。

種類特徴
エアマット空気圧を調整して圧力を分散しやすい
ジェルクッション弾力があり、姿勢保持しながら圧を分散
ウレタンマット軽くて扱いやすいが、厚みや硬さに種類がある
ポジショニングピロー特定部位を支え、身体にかかる負担を減らす

軽度損傷時のガーゼ・被覆材選び

軽度の傷(ステージII程度)の場合、ガーゼやフィルム材、ハイドロコロイド材などの被覆材を活用すると、傷口の保護と湿潤環境の保持が期待できます。

選ぶ際には傷の状態や大きさ、滲出液(浸出液)の量などを考慮しましょう。迷ったときは訪問看護師や医師に相談し、適切な被覆材を試してみると、傷の悪化を防ぎやすくなります。

小さな変化を見逃さない観察力

初期段階では、痛みや赤みが軽微な場合が多く、本人も気付きにくいことがあります。だからこそ、介護者が積極的に観察して小さな変化を察知する必要があります。

定期的な観察を習慣化することで、軽い発赤の段階ですぐ対応し、褥瘡の進行を食い止めることができます。

進行した褥瘡の管理と治療連携

褥瘡が深く進行した場合、医療処置が必要となる場合があります。感染症を起こすと全身状態にも影響しやすいため、医師や看護師との連携が欠かせません。訪問診療や訪問看護を利用し、傷の状態に合わせた適切な処置を行いましょう。

ドレッシング材と専門医の判断基準

ステージIII以降の褥瘡や感染を伴う場合は、専門的な処置を検討する必要があります。ドレッシング材も、湿潤環境を保つハイドロコロイドやアルギネート、フォーム材、さらには抗菌作用を持つ銀含有製品などさまざまです。

専門医や看護師が、傷の状態や滲出液の量、感染の有無などを総合的に判断し、どの素材を使うかを決めていきます。

以下の表は、褥瘡が進行した場合に使用を検討する代表的なドレッシング材の特徴です。

種類特徴
ハイドロコロイド傷口の湿潤環境を維持しやすく、軽度~中程度の滲出液に対応
フォーム材吸収力が高く、重度の滲出液にも対応できる
アルギネート海藻由来で吸収性が高い。多量の滲出液を含む傷によい
銀含有製品抗菌効果が期待でき、感染リスクのある傷に用いられることが多い

感染防止のための清潔操作

深い褥瘡は感染を起こしやすいので、ケアを行う際には手袋の着用や器具の消毒など清潔操作を徹底します。例えば、ドレッシング交換を行う前には、手洗いや手指消毒を十分に行い、清潔なガーゼや使い捨ての器具を用意します。

褥瘡が感染した場合は痛みや発熱、傷口の悪化が進行しやすくなるため、発赤や悪臭、膿などが見られたら医師へ連絡してください。

かさぶた除去やデブリードマンの適切な実施

重症化した褥瘡では、壊死組織やかさぶたを除去するデブリードマンが必要となる場合があります。

これは、傷の治癒を促すために行う処置で、訪問看護師や医師が実施することが多いです。専門知識が必要となるため、自己判断でかさぶたを無理に剥がすのは避けてください。

  • デブリードマンは専門の医療職が行う
  • 傷口を傷めないために必要最小限の範囲で除去する
  • 事前に痛み止めを検討する場合もある

医師・看護師との密な情報共有

進行した褥瘡は状態が変わりやすく、感染リスクも高まります。経過観察を行ううえで、毎日の変化を家族や介護者がしっかり記録し、訪問診療や訪問看護時に情報共有すると治療方針をスムーズに立てやすくなります。

写真を撮っておくことや、書面で経過をまとめておくことも有効です。

多職種連携で進める褥瘡管理の実際

褥瘡のケアには、医療だけでなく介護の視点、リハビリの視点など、さまざまな専門職が関わることで多角的なケアを実現できます。

在宅という環境は家族の負担が大きくなりがちですが、多職種との連携によってサポート体制を整えると安心感が増します。

訪問診療・訪問看護の効果的な活用

在宅療養中は、定期的な訪問診療や訪問看護を依頼すると、褥瘡の状態把握から処置まで継続的に見てもらえます。褥瘡が深刻化する前にアドバイスを受けたり、必要に応じて医療処置を受けられるため、負担軽減につながります。

訪問診療は医師が定期的に家庭を訪問して診察するシステムで、訪問看護は看護師が自宅を訪れて健康管理や処置を行います。どちらも医療保険や介護保険で利用可能な場合が多いため、費用面も相談しながら検討するとよいでしょう。

介護ヘルパーやリハビリスタッフとの協働

褥瘡は姿勢や身体機能の低下、栄養状態などが影響するため、リハビリスタッフ(理学療法士や作業療法士など)が加わると、起き上がりや寝返りの習慣づけ、車椅子の座位姿勢改善などを指導してもらえます。

介護ヘルパーは排泄介助や入浴介助で皮膚の状態をこまめに確認できる立場です。日常的にケアに関わるヘルパーやリハビリスタッフとの意見交換は、褥瘡管理にとっても価値が高いです。

  • 理学療法士が姿勢保持をアドバイス
  • 作業療法士が日常生活動作の改善を指導
  • ヘルパーが皮膚や寝具の状態を日々確認

福祉用具の導入で負担を減らす

在宅で褥瘡管理を行うにあたり、福祉用具の導入も前向きに検討するとよいです。

車椅子や介護ベッド、リフトなどを利用すると、体位変換や移乗の際の負担が大きく減ります。体位変換が楽になると、介護者の負担だけでなく、褥瘡リスクの低減にもつながります。

下の表は、褥瘡予防やケアに役立つ福祉用具の一例です。

用具名使用メリット
介護ベッド背上げや高さ調整ができ、体位変換や移乗を楽に行いやすい
車椅子姿勢保持のためのクッションや背もたれ調整が可能な場合もある
スライディングボードベッドから車椅子への移乗をスムーズにする
体位保持具側臥位保持や半座位など、身体を安定した姿勢に保ちやすい

また、福祉用具はレンタル制度を利用できるケースもあり、費用面での負担を軽減できる可能性があります。ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談して、本人の状態に合う道具を紹介してもらうとスムーズに進められます。

長期にわたって在宅療養を続ける方や、そのご家族は、褥瘡(床ずれ)のリスクを抱えやすいです。

しかし、日常の観察やケア、栄養管理を丁寧に行い、訪問診療や訪問看護などの専門家の力を借りることで、褥瘡の発生を最小限に抑えることも可能です。

介護者が一人で悩まず、多職種と連携しながら対策を実践すれば、在宅でも安心して暮らせる環境を作りやすくなります。

褥瘡管理は継続的な取り組みが求められますが、必要な情報を適切に把握して、できるところから少しずつ始めてみてください。

以上

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 所長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 所長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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