在宅医療チームの連携体制とは|主治医とケアマネの役割分担

在宅医療チームの連携体制とは|主治医とケアマネの役割分担

在宅医療において、患者が住み慣れた自宅で安心して療養生活を続けるためには、主治医とケアマネジャーを中心とした「チーム医療」の確立が重要です。

本記事では、在宅医療チームの連携体制の仕組み、主治医が担う医学的な管理責任、そしてケアマネジャーが果たす生活支援の調整役としての役割を詳しく解説します。

医療と介護の両輪がスムーズに噛み合うことで、患者一人ひとりの病状や生活環境に合わせた支援が可能となります。

専門職同士がどのように情報を共有し、役割を分担しているのかを理解することで、より良い在宅療養を実現するためのヒントを提供します。

目次

在宅医療を支えるチーム医療の全体像

在宅医療が成功するかどうかは、一人の専門家の力ではなく、多種多様な専門職が連携し一つのチームとして機能できるかにかかっています。

患者を中心として、医療、看護、介護、生活支援の各分野が有機的につながることで、病院とは異なる自宅という環境でも安全で質の高い療養生活を維持することが可能になります。

チーム全員が共通の目標を持ち、それぞれの専門性を発揮しながら隙間なく患者を支える体制こそが、在宅医療におけるチーム医療の本質です。

患者を中心とした多職種連携の仕組み

在宅医療の現場では、患者と家族がチームの中心に位置します。これを取り囲むように、医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護福祉士、リハビリ職などが配置につきます。

この構造は「多職種連携」と呼ばれ、各専門職が対等な立場で情報を交換し、支援方針を決定します。

従来の病院医療では医師が頂点に立つピラミッド型の構造になりがちでしたが、在宅医療では生活の場が舞台となるため、生活支援の視点が重要視されます。

したがって、医療的な判断が必要な場面では医師がリードし、日々の生活ケアの場面ではヘルパーや家族が主役となるなど、状況に応じてリーダーシップをとる職種が柔軟に入れ替わるフラットな関係性が築かれます。

在宅医療に関わる主な職種とその特徴

チームを構成する職種は多岐にわたります。定期的に診察を行う訪問診療医、日々の体調管理や医療処置を行う訪問看護師、薬の管理を行う薬剤師などは医療系サービスに分類されます。

一方で、ケアプランを作成するケアマネジャー、身体介護や生活援助を行うホームヘルパー、リハビリを行う理学療法士などは介護・リハビリ系サービスとして関わります。

これらに加えて、歯科医師や歯科衛生士による口腔ケア、管理栄養士による栄養指導、さらには福祉用具専門相談員によるベッドや車椅子の選定など、患者の状態に応じて必要なプロフェッショナルがチームに参加します。

それぞれの職種が独自の視点で患者を観察し、その気づきをチーム全体で共有することで、複合的な課題に対応します。

連携がスムーズに進むことで得られるメリット

職種間の連携が円滑に行われると、患者の些細な体調変化を早期に発見し、重症化を防ぐことができます。

例えば、ヘルパーが食事量の低下に気づき、それをケアマネジャー経由で医師や看護師に伝えることで、早めの治療や点滴対応が可能になります。

また、情報の共有は患者や家族の安心感に直結します。「どのスタッフに話しても情報が伝わっている」という信頼感は、在宅療養における孤独感や不安を軽減します。

さらに、重複したサービス提供や矛盾した指導を防ぐことができ、効率的かつ経済的な療養生活を送ることにもつながります。

在宅医療チームの主な構成メンバーと役割

職種主な役割と機能関わりの頻度と特徴
訪問診療医(主治医)医学的管理、治療方針の決定、処方、死亡診断月2回程度の定期訪問に加え、緊急時は24時間対応を行う。
ケアマネジャーケアプラン作成、サービス調整、連絡窓口月1回の定期訪問。必要に応じて随時相談に応じる調整役。
訪問看護師病状観察、医療処置、家族への療養指導週1〜数回訪問。医師の指示に基づき、最も頻繁に医療的ケアを行う。
ホームヘルパー身体介護(入浴・排泄)、生活援助(調理・掃除)ケアプランに基づき、週数回から毎日訪問。生活を直接支える。

医療と介護の垣根を超えたサポート体制

在宅医療では「医療」と「介護」の境界線が曖昧になる場面が多くあります。例えば、食事介助は介護の領域ですが、嚥下機能(飲み込む力)の評価や誤嚥性肺炎の予防は医療の視点が必要です。

このような場面でこそ、医療職と介護職の連携が真価を発揮します。

医師や看護師が医学的なアドバイスを介護職に伝え、介護職は日々の実践の中で患者の反応や変化を医療職にフィードバックします。

この双方向のやり取りが、安全で快適な生活基盤を作ります。制度上は異なる保険(医療保険と介護保険)を利用していても、現場ではシームレスなサポートを提供することが求められます。

在宅医療における主治医の役割と責任

主治医は在宅医療チームにおける医学的な最高責任者であり、チームの「司令塔」としての役割を果たします。

患者の人生観や価値観を尊重しながら、医学的に妥当な治療方針を示し、最終的な判断を下す責任を負います。

また、急変時や看取りの場面においても、揺るぎない指針を示すことで、患者と家族、そして他のスタッフを支える精神的な支柱となります。

医学的な管理と治療方針の決定

在宅医療における主治医の最大の役割は、継続的な医学管理です。定期的な訪問診療を通じて、バイタルサインの確認、診察、検査を行い、病状の安定を図ります。

慢性疾患のコントロールはもちろん、床ずれの処置や痛みの緩和ケアなど、幅広い症状に対応します。

治療方針の決定においては、病院のように「病気を治すこと」だけを最優先するのではなく、「その人らしく生きること」を重視します。

積極的な治療をどこまで行うか、延命措置をどうするかなど、正解のない問いに対して、患者や家族と対話を重ねながら納得のいく方針を導き出します。

24時間365日の対応体制と緊急時の動き

在宅療養中に最も不安なのが、夜間や休日の急変です。在宅療養支援診療所などの認可を受けた主治医は、24時間365日の連絡体制を確保しています。

患者や家族からの緊急コールを受け、電話での指示で済むのか、あるいは往診が必要か、救急搬送すべきかを即座に判断します。

この「いつでもつながる」という安心感が、在宅療養を継続するための土台となります。

訪問看護ステーションとも密に連携し、夜間は看護師が一次対応を行い、必要に応じて医師に指示を仰ぐという重層的なバックアップ体制を敷くことも一般的です。

主治医が在宅で行う主な医療処置

区分具体的な処置内容備考
検査・診断血液検査、尿検査、ポータブルエコー、心電図自宅で実施可能な検査機器を持参して行う。
医療機器管理在宅酸素療法、人工呼吸器、中心静脈栄養(IVH)機器の設定調整やチューブ交換などの管理を行う。
処置・投薬褥瘡(床ずれ)処置、インスリン注射、疼痛管理痛みの緩和には麻薬を使用することもある。
看取り死亡確認、死亡診断書の作成、家族へのグリーフケア最期の時を自宅で迎えるための支援を行う。

他の医療機関や薬局への指示出し

主治医はチーム内の医療職に対して具体的な指示を出す権限を持ちます。

「訪問看護指示書」を作成して看護師に処置の内容を指示したり、薬局の薬剤師に対して処方箋を発行し、服薬指導や管理を依頼したりします。

これらの指示書は、医療保険や介護保険のサービスを利用するための法的根拠となる重要な書類です。

より高度な検査や入院治療が必要と判断した場合には、連携先の総合病院や専門医に紹介状(診療情報提供書)を書き、スムーズな引き継ぎを行います。

地域の医療資源を把握し、患者にとって適切な医療機関へつなぐコーディネート能力も必要です。

患者や家族への病状説明と精神的ケア

医療的な処置と同じくらい大切なのが、わかりやすい言葉での病状説明と精神的なサポートです。患者本人の不安を取り除くことはもちろん、介護を行う家族の肉体的・精神的な負担にも配慮します。

「今のままで大丈夫ですよ」「よく頑張っていますね」という医師の一言が、家族の支えになることは少なくありません。

予後の見通しや死期が迫った際の説明など、デリケートな話題についても、信頼関係を築きながら誠実に伝えます。

意思決定支援のガイドラインに沿って、患者自身がどうしたいかを繰り返し確認し、その意思決定を支援し続ける姿勢が求められます。

ケアマネジャーが担う調整役としての重要性

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、医療と生活をつなぐ要であり、在宅療養生活の設計図を描くアーキテクト(設計者)です。

医学的な専門知識を持つ医師とは異なり、福祉や介護保険制度のスペシャリストとして、患者が望む生活を実現するために必要な社会資源を組み合わせ、全体を調整する役割を担います。

ケアプランの作成とサービス調整の実務

ケアマネジャーの主たる業務は「ケアプラン(居宅サービス計画書)」の作成です。これは、どのようなサービスを、週に何回、どの事業所から受けるかを定めた計画書です。

作成にあたっては、利用者宅を訪問してアセスメント(課題分析)を行い、解決すべき課題を明確にします。

プラン作成後も、実際にサービスを提供する訪問介護事業所やデイサービスセンター、訪問看護ステーションなどと連絡を取り合い、利用開始に向けた日程調整を行います。

各事業所の空き状況を確認し、利用者の生活リズムに合わせてスケジュールを組む作業は、高い調整能力を要します。

医療ニーズと生活ニーズをつなぐ架け橋

在宅患者の多くは、医療的なケアと生活上の介助の両方を必要としています。ケアマネジャーは、主治医から医学的なアドバイスを受け取り、それを生活支援のプランに落とし込みます。

例えば、医師から「脱水を防ぐために水分を1日1000ml以上摂取させてほしい」という指示があれば、ヘルパーの訪問時に水分補給の時間を設けたり、飲みやすい形状の水分を用意するよう手配したりします。

逆に、生活の中で見られた変化を医師に伝える役割も担います。

「最近、足のむくみがひどく、靴が履けなくなった」といった生活上の支障を医師に報告することで、心不全の増悪などの早期発見につなげます。このように、医療と生活の通訳者として機能します。

ケアマネジャーの業務範囲と具体的なアクション

業務フェーズ主な業務内容目的
アセスメント自宅訪問、本人・家族との面談、課題抽出生活状況や要望を把握し、支援の方向性を探る。
プランニング原案作成、サービス担当者会議の招集具体的なサービス内容を決定し、チームの合意を得る。
モニタリング月1回の訪問、目標達成度の確認、プラン修正サービスが適切に機能しているか継続的に評価する。
給付管理サービス利用票の作成、国保連への請求事務介護保険が正しく適用されるよう事務手続きを行う。

介護保険サービスの利用限度額管理

介護保険には、要介護度に応じた利用限度額(支給限度基準額)が設定されています。ケアマネジャーは、この限度額の範囲内で必要なサービスが収まるように予算管理を行います。

医療ニーズが高く訪問看護の回数を増やしたい場合などは、他のサービスを調整したり、医療保険の適用を検討したりするなど、複雑な制度を駆使して最適解を導き出します。

経済的な負担も考慮し、利用者の支払い能力に見合ったプランを提案することも重要です。

限られた資源の中で最大の効果を発揮できるよう、サービスの優先順位をつけ、利用者や家族と相談しながら決定していきます。

家族の介護負担を軽減するための相談支援

患者本人の支援だけでなく、介護者である家族の支援もケアマネジャーの重要な仕事です。

介護疲れ(レスパイト)を防ぐために、ショートステイ(短期入所)の利用を提案したり、介護ベッドや手すりのレンタルを手配して身体的な負担を減らしたりします。

さらに、家族が抱える悩みや愚痴を傾聴し、精神的な支えとなることもあります。

介護は長期間に及ぶことが多いため、家族が共倒れしないよう、持続可能な介護体制を整える視点を常に持ち続けています。

主治医とケアマネジャーの具体的な連携方法

主治医とケアマネジャーが密に連携することは、質の高い在宅医療を実現するための絶対条件です。

両者が独立して動くのではなく、情報をリアルタイムに共有し、認識を合わせることで、患者にとって安心できるサポート体制が構築されます。

具体的な連携は、定期的な会議や日々のICTツール活用を通じて行われます。

退院前カンファレンスでの情報共有

連携のスタート地点となるのが、入院先から自宅へ戻る際に開催される「退院前カンファレンス」です。病院の医師、看護師、相談員に加え、在宅を担当する主治医、ケアマネジャー、訪問看護師などが一堂に会します。

ここで患者の病状、必要な医療処置、生活上の注意点などを詳細に引き継ぎます。

顔を合わせて話し合うことで、書面だけでは伝わらない微妙なニュアンスや、患者・家族の想いを共有できます。

ケアマネジャーはこの場で得た情報を基に、退院直後から滞りなくサービスが開始できるよう準備を整えます。主治医は病院主治医からの紹介状を確認し、今後の治療計画を立案します。

サービス担当者会議における意見交換

ケアプランを新規に作成したり、内容を変更したりする際には「サービス担当者会議」が開催されます。ケアマネジャーが主催し、利用者宅にサービス提供責任者や関係職種が集まります。

主治医が同席することは時間的な制約で難しい場合もありますが、その場合は事前にケアマネジャーが医師に照会を行い、医学的な意見(医師の助言)を入手して会議に反映させます。

この会議では、各専門職がそれぞれの視点から意見を出し合い、チーム全体の方針を統一します。

「リハビリをもっと頑張りたいが、心臓への負担は大丈夫か」といった疑問に対し、医師の見解を共有することで、安全な目標設定が可能になります。

日々の連絡手段と報告連絡相談の徹底

定期的な会議以外にも、日常的な情報交換が頻繁に行われます。電話やFAXに加え、最近では医療介護専用のSNSやチャットツール(MCSなど)を活用する事例が増えています。

その結果、患部の写真や検査データを瞬時に共有し、迅速な指示や判断を仰ぐことが可能になりました。

ケアマネジャーは、毎月のモニタリング報告書を主治医に送付し、生活状況を報告します。主治医からは、診療情報提供書や指示書を通じて医療情報が提供されます。

双方向の報告・連絡・相談(ホウレンソウ)を徹底することで、情報の漏れを防ぎます。

連携が強化される具体的なタイミング

  • 退院が決定し、在宅療養の環境整備を開始する時
  • 要介護認定の更新や、状態悪化による区分変更を行う時
  • 新たな病気の発覚など、医学的な状況が変化した時
  • 看取りの方針を決定し、終末期ケアへ移行する時
  • 家族の介護力に変化が生じ、サービス見直しが必要な時

ケアプラン変更時の協議と合意形成

患者の状態変化に伴い、ケアプランを変更する必要が生じた場合、ケアマネジャーは必ず主治医の意見を確認します。

特に、身体機能が低下して福祉用具を追加する場合や、認知症の進行によりデイサービスの種類を変える場合などは、医学的な根拠に基づいた選定が必要です。

主治医とケアマネジャーが協議し、医学的妥当性と生活支援の必要性をすり合わせた上で、利用者や家族に提案します。

専門家同士が合意形成を行っているプランは説得力があり、利用者も安心してサービス変更を受け入れることができます。

訪問看護師や薬剤師など他職種との関わり

在宅医療チームには、主治医とケアマネジャー以外にも欠かせないプレーヤーが存在し、それぞれの専門性を活かして患者を支えています。

特に訪問看護師と訪問薬剤師は、医師の目や手となり、現場での細やかなケアを実践することで、医療の質を担保する重要な役割を果たします。

訪問看護師による日々の健康観察と処置

訪問看護師は、在宅医療において最も患者に近い存在と言えます。医師の指示書に基づき、点滴、傷の処置、人工呼吸器の管理、入浴介助などを行います。

しかし、それ以上に重要なのが「観察」です。血圧や体温だけでなく、顔色、会話の様子、部屋のにおいなどから全身状態を把握し、異常の兆候を察知します。

看護師の気づきが医師の診断を助け、ケアマネジャーのプラン修正につながります。

また、24時間の連絡体制を持っているステーションも多く、夜間の不安に応える頼れる存在です。本人だけでなく、家族の精神的なケアも行います。

薬剤師による服薬管理と残薬調整

高齢者の在宅療養では、多種類の薬が処方されることが多く、飲み忘れや飲み間違い(コンプライアンスの低下)が課題となります。

訪問薬剤師は、自宅を訪問して薬のセット(カレンダーへの配置など)を行い、正しく服薬できているかを確認します。

飲み残しの薬(残薬)を確認して医師に報告し、処方日数の調整を提案することで、医療費の無駄を省くことにも貢献します。

さらに、薬の副作用のチェックや、他の薬との飲み合わせの確認など、薬の専門家としての管理を行います。

コメディカル職種の主な支援内容

職種主な支援内容期待される効果
訪問看護師全身状態の観察、医療処置、清潔ケア、家族指導病状の安定化、急変の早期発見、家族の不安解消。
訪問薬剤師服薬指導、残薬確認、薬剤の一包化、副作用モニタリング服薬コンプライアンスの向上、ポリファーマシーの防止。
訪問歯科医・衛生士義歯調整、口腔ケア、嚥下機能評価、虫歯治療誤嚥性肺炎の予防、栄養摂取の改善、QOL向上。
理学療法士等機能訓練、歩行練習、住環境の調整アドバイス身体機能の維持・向上、廃用症候群の予防。

歯科医師や歯科衛生士による口腔ケア

「食べる」ことは生きる喜びであり、栄養摂取の基本です。訪問歯科診療では、虫歯や歯周病の治療だけでなく、入れ歯の調整や専門的な口腔ケアを行います。

口腔内を清潔に保つことは、高齢者に多い誤嚥性肺炎の予防に直結するため、全身の健康管理という観点からも重要です。

その上、飲み込みの状態(嚥下機能)を評価し、安全な食事形態(きざみ食やミキサー食など)を提案することもあります。

そのおかげで、窒息事故を防ぎながら、口から食べる楽しみを長く維持できるよう支援します。

理学療法士等による訪問リハビリテーション

理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などが自宅を訪問し、リハビリテーションを行います。

病院のリハビリとは異なり、自宅のトイレへの移動、お風呂への出入り、調理動作など、実際の生活環境に合わせた訓練を行うのが特徴です。

身体機能の維持・回復だけでなく、福祉用具の選定や住宅改修のアドバイスも行います。寝たきりを防ぎ、できる限り自立した生活を送れるよう、身体的な側面からサポートします。

連携不足が引き起こすリスクと対策

チーム内の連携が不十分だと、単にサービスがスムーズにいかないだけでなく、患者の生命や生活を脅かすリスクが生じます。

情報の断絶は誤解を生み、適切な介入のタイミングを逸することにつながるため、ICTツールや連絡ノートなどを活用した多重チェックの仕組みが不可欠です。

情報の行き違いによる医療事故の防止

医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャーの間で情報共有が遅れると、重大な事故につながる恐れがあります。

例えば、医師が薬を変更した情報がヘルパーに伝わっておらず、古い薬を飲ませてしまうといったケースです。

また、リハビリでの注意点が共有されず、無理な運動をして骨折してしまうリスクもあります。

これを防ぐためには、口頭での伝達だけでなく、連絡ノートやICTツールを用いた記録に残る形での情報共有を徹底することが重要です。

変更点があった場合は「誰に」「いつ」「何を」伝えたかを確認し合うダブルチェックの機能を持たせます。

サービス重複や漏れを防ぐための確認

連携が取れていないと、複数の事業所が似たようなサービスを提供してしまったり、逆に必要な支援が誰の担当にもなっておらず放置されたりする事態が起こります。

例えば、訪問看護師が身体の保清を行うつもりだったのに、直前にヘルパーが入浴介助を済ませていた、といった無駄が発生します。

ケアマネジャーが中心となり、週間スケジュール表(週間ケアプラン)を全関係者に配布し、役割分担を明確に可視化することでこうした事態を防ぎます。

それぞれの職種が自分の役割範囲を正しく理解し、他職種の動きも把握しておく必要があります。

連携トラブルを引き起こす主な要因

  • 「伝えたつもり」という思い込みによる確認不足
  • 専門用語の違いによる職種間の理解の齟齬
  • 緊急時に誰へ連絡すべきかという系統の未確立
  • 事業所ごとの情報共有ルールの不一致
  • 業務多忙を理由とした報告の遅延や後回し

患者の状態変化に対する対応の遅れ

患者の状態は日々刻々と変化します。小さな変化を見逃さず、チーム全体で共有し対応策を練ることができなければ、状態悪化を招きます。

ヘルパーが気づいた「食欲がない」という情報を、単なる気分の問題と片付けてしまうと、背後にある消化器疾患や感染症のサインを見逃すことになります。

「些細なことでも報告する」という文化をチーム内に醸成することが対策となります。

ケアマネジャーや訪問看護師が情報のハブとなり、集まってきた情報をトリアージして医師につなぐ流れを確立しておくことが、迅速な対応を可能にします。

家族が連携体制をうまく活用するポイント

在宅医療チームにおいて、家族はケアを受ける側であると同時に、最も重要なチームの一員でもあります。

24時間患者のそばにいる家族からの情報は専門職にとって非常に貴重であるため、キーパーソンを決めて窓口を一本化し、介護ノートなどで情報を共有することが、ケアの質を高める鍵となります。

キーパーソンの決定と連絡窓口の一元化

家族の中で中心となって連絡を取り合う「キーパーソン」を決めておくことが大切です。

キーパーソンが定まっていないと、長男と長女で意見が食い違ったり、情報が分散したりして、医療チームが混乱する原因になります。

主治医やケアマネジャーからの連絡を誰が受けるのか、緊急時の判断は誰が行うのかを明確にし、家族内の意見をまとめてからチームに伝えるようにすると、意思決定がスムーズに進みます。

もちろん、キーパーソン一人が負担を背負い込む必要はなく、家族内で役割分担をすることも重要です。

医師やケアマネへの要望の伝え方

専門家に対して遠慮してしまい、要望や不安を言えずに抱え込んでしまう家族もいます。しかし、チームは患者と家族の希望を叶えるために存在します。

「夜、痛がって眠れていない」「お風呂にゆっくり入れてあげたい」など、具体的な事実や希望を率直に伝えることが、より良いケアにつながります。

伝える際は、感情的にならず、「いつ」「どのような状況で」「何に困っているか」を具体的に話すと、専門職も対策を立てやすくなります。

医学的に難しいことや制度上できないこともありますが、その場合でも代替案を一緒に考えることができます。

家族と専門職の上手な付き合い方

項目家族が行うと良いこと専門職に任せるべきこと
日々の観察「いつもと違う」様子をメモする。食事量や排泄回数の記録。観察結果に基づく医学的な診断や、薬の調整判断。
医療処置医師・看護師から指導を受けた範囲での簡単な処置や介助。高度な判断を要する処置、機器のトラブル対応、注射など。
意思決定本人の希望を代弁し、最終的な選択を行うこと。選択肢の提示、メリット・デメリットの専門的な解説。

介護ノートや連絡帳を活用した情報共有

口頭での連絡は忘れたり伝わり間違えたりすることがあります。

そこで有効なのが「介護ノート」や「連絡帳」の活用です。自宅に一冊ノートを用意し、家族が気づいたこと、ヘルパーの実施記録、訪問看護師からの申し送り事項などを時系列に記入していきます。

このようにして、異なる時間に訪問するスタッフ同士が情報を共有できるだけでなく、家族も日々のケアの状況を把握できます。

医師が往診に来た際も、このノートを見るだけで経過が一目瞭然となり、診療の質が向上します。アナログですが、確実で強力な連携ツールです。

Q&A

ケアマネジャーを変更したい場合はどうすればよいですか?

ケアマネジャーとの相性が合わない場合や、対応に不信感がある場合は、変更することが可能です。

契約している居宅介護支援事業所の管理者に相談するか、お住まいの自治体の介護保険課や地域包括支援センターに相談してください。

変更は利用者の正当な権利ですので、遠慮する必要はありません。新しいケアマネジャーを探す際も、地域包括支援センターがリストを提供してくれるなどサポートしてくれます。

主治医と意見が合わないときはどう対応すべきですか?

治療方針について主治医と意見が食い違う場合は、まずその不安や疑問を率直に医師に伝えてみましょう。

それでも納得がいかない、あるいは話しにくい場合は、ケアマネジャーや訪問看護師に間に入ってもらい、調整をお願いするのが有効です。

信頼関係が治療の基盤ですので、我慢せずに解決策を探ることが大切です。また、セカンドオピニオンとして別の医師の意見を聞くことも選択肢の一つです。

緊急時にまず連絡すべきなのは医師ですかケアマネですか?

生命に関わるような急変(意識がない、呼吸が苦しいなど)の場合は、迷わず救急車を呼ぶか、主治医(または訪問看護ステーション)の緊急連絡先に電話してください。

まずは医療的な対応が最優先です。状態が落ち着いた後や、生活上のトラブル(介護ベッドが壊れた、ヘルパーが来ないなど)の場合は、ケアマネジャーに連絡します。

事前に主治医やケアマネジャーと「どのような場合にどこへ連絡するか」を取り決めておくと安心です。

訪問診療と往診の違いは何ですか?

「訪問診療」は、通院が困難な患者に対して、計画的・定期的に(例えば2週間に1回など)医師が自宅を訪問して診療を行うものです。

これに対し「往診」は、患者の急変時や突発的な要請に応じて、臨時で医師が駆けつける診療を指します。

在宅医療では、ベースとなる訪問診療を行いつつ、必要に応じて往診を行うという形で医療を提供します。

介護サービスの種類を増やすには誰に相談すべきですか?

現在のサービスだけでは生活が支えきれないと感じたら、まずは担当のケアマネジャーに相談してください。

ケアマネジャーが現状を再評価(アセスメント)し、区分変更申請が必要かどうか、限度額の範囲内で追加できるサービスがあるかなどを検討します。

勝手に事業所と契約するのではなく、必ずケアプランに位置付ける必要があるため、ケアマネジャーを通すのが原則です。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 院長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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