誤嚥性肺炎は高齢者の命に関わる重大なリスクであり、その予防には専門的な口腔ケアと食支援が重要な鍵を握ります。
しかし、ご自宅でのケアだけでは限界があり、どのように専門家を頼ればよいか迷うご家族も少なくありません。
本記事では、訪問歯科診療が果たす具体的な役割と、多職種が連携するチーム医療の意義、そして実際にサービスを導入するための具体的な手順を詳しく解説します。
大切なご家族の健康を守り、食べる喜びを支え続けるために必要な知識と行動指針を、専門的な視点からわかりやすくお伝えします。
誤嚥性肺炎の発生要因と訪問歯科が担う予防的役割
訪問歯科による専門的な口腔清掃と機能管理は、誤嚥性肺炎の最大のリスク要因である口腔内細菌の肺への侵入を、物理的かつ機能的に低減させる最も確実な手段です。
加齢や疾患によって飲み込む力が低下すると、本来は食道へ送られるべきものが気管に入り込む「誤嚥」が生じやすくなります。
しかし、誤嚥そのものだけが肺炎の原因ではありません。口の中が不潔な状態であれば、誤嚥した際に大量の細菌が肺に送り込まれ、重篤な炎症を引き起こします。
訪問歯科は、単に歯を治すだけでなく、この「細菌の温床」を徹底的に除去し、同時に「飲み込む力」を維持・向上させることで、肺炎の発症リスクを二重の壁で防ぎます。
口腔内細菌の増殖メカニズムと肺炎への影響
口の中には数億個もの細菌が生息しており、ケアが不十分だとこれらがバイオフィルムと呼ばれる膜を作り、爆発的に増殖して肺炎の直接的な引き金となります。
特に寝たきりの方や麻痺のある方は、自浄作用(唾液による洗浄や舌の動きによる掃除)が低下しているため、健常者よりも遥かに早い速度で細菌が増えます。
これらの細菌を含んだ唾液を、睡眠中などに無意識に誤嚥してしまう「不顕性誤嚥」が、高齢者の肺炎の大きな原因です。
訪問歯科では、通常の歯磨きでは取り除けない強固なバイオフィルムや歯石を専用の機器で除去し、細菌数を劇的に減少させます。
誤嚥性肺炎リスクと訪問歯科の対応策
| リスク要因 | 口腔内の状態 | 訪問歯科による対応策 |
|---|---|---|
| 口腔内細菌の誤嚥 | 歯垢、歯石、舌苔の蓄積 | 専門機器による徹底的な清掃(PMTC)、舌の清掃指導、抗菌薬の局所的応用 |
| 咀嚼機能の低下 | 残存歯の動揺、入れ歯の不適合 | 入れ歯の修理・調整・新製、動揺歯の固定や抜歯、噛み合わせの改善 |
| 嚥下反射の遅延 | 喉の筋力低下、口腔乾燥 | 嚥下マッサージ、唾液腺マッサージ、保湿剤の選定と塗布、食事形態のアドバイス |
嚥下機能の低下が招く誤嚥の危険性
喉の筋力低下や反射の遅れによって「ごっくん」とするタイミングがずれることが、食べ物や唾液を気管へと導いてしまう主な要因です。
脳卒中の後遺症や認知症、あるいは単なる加齢によっても、喉の感覚は鈍くなります。
さらに、合わない入れ歯を使用し続けていると、噛む力が弱まり、それが喉の筋力低下へと連鎖します。
訪問歯科は、入れ歯の調整や作成を通じて「噛む」という動作を回復させ、喉の筋肉を活性化させる役割も担います。
適切な噛み合わせは、安全な嚥下反射を誘発するために重要です。
訪問歯科介入による具体的なリスク低減効果
定期的な専門的ケアを受けることで、発熱の頻度が下がったり、食欲が回復したりするというデータが示す通り、歯科の介入は全身の健康状態を底上げします。
口腔ケアが行き届くと、誤嚥しても肺に入る細菌の総量が減るため、免疫力が低下している高齢者でも肺炎の発症を免れる、あるいは軽症で済む可能性が高まります。
また、口臭が消えることで介護者の負担感が減り、ご本人との会話が増えるといった副次的な効果も無視できません。
生活の質(QOL)を維持することが、生きる意欲を引き出し、結果として免疫機能を高めることにも繋がります。
チーム医療で支える口腔ケアの重要性と専門職の連携
誤嚥性肺炎を防ぐには歯科単独の力では不十分であり、医師、看護師、ケアマネジャー、介護スタッフ等が情報を共有し合い、生活全体で口腔環境を守る「チーム医療」の体制構築が成功の鍵です。
在宅療養者の生活は24時間続いており、歯科医師や歯科衛生士が訪問できる時間はそのごく一部に過ぎません。
歯科専門職がいない時間帯に、誰がどのように口の中を見守り、変化に気づくかが重要になります。
多職種がそれぞれの専門性を活かしながら、統一された目標に向かって関わることで、切れ目のないケアが実現します。
主治医や看護師との医学的な情報共有
全身状態を把握する主治医や訪問看護師との連携は、歯科治療を安全に進めるためだけでなく、肺炎の兆候を早期に発見するためにも重要です。
例えば、歯科治療時の出血リスクに関わる血液サラサラの薬の服用状況や、糖尿病のコントロール状態などは、主治医からの情報が頼りです。
一方で、歯科からは「最近、飲み込みが悪くなっている」「口の中が乾燥しすぎて薬が飲めていないようだ」といった気づきを医療チームに伝えます。
この双方向の情報交換が、薬の変更や点滴の調整といった素早い医療的判断に繋がり、結果として肺炎の重症化を防ぎます。
多職種連携における各専門職の主な役割
- 主治医・看護師は全身状態を管理し、服薬情報の提供や肺炎兆候のモニタリングを行います。
- ケアマネジャーはケアプランへの歯科位置づけを行い、他サービスとの日程調整や関係者への連絡を担います。
- 介護スタッフ(ヘルパー)は日常的な口腔ケアを実践し、食事の介助や日々の変化の報告を行います。
- 薬剤師は服薬指導を行うとともに、口腔乾燥を引き起こす薬剤の確認と代替案の提案を行います。
- 言語聴覚士(ST)は専門的な嚥下訓練を実施し、歯科と協働して食形態の評価を行います。
- ご家族は本人の意向を代弁し、日々の見守りとケアの実践、そして精神的サポートを行います。
ケアマネジャーを中心としたサービス調整
ケアマネジャーは、訪問歯科を導入する際の調整役であり、歯科の必要性を家族や他のサービス事業者に伝える重要なパイプ役を果たします。
訪問歯科の日程を他のデイサービスや訪問入浴と重ならないように調整したり、歯科医師から提案された「食事時の姿勢」や「使用すべき食具」などの情報を、ヘルパーや家族に周知したりするのはケアマネジャーの役割です。
ケアプランの中に口腔機能向上加算などの項目を適切に組み込むことで、制度的にも無理のない形で継続的なケアを受けることが可能になります。
介護スタッフや家族との日常ケアの統一
歯科衛生士が指導したケア方法を、毎日の生活を支える家族や介護スタッフが正しく実践できるかどうかが、口腔環境の維持を左右します。
「痛がって口を開けてくれない」「うがいが上手くできない」といった現場の悩みは、介護スタッフや家族が最もよく知っています。
これらの情報を歯科チームが吸い上げ、無理なく実践できる方法(例えば、スポンジブラシの種類を変える、保湿ジェルの味を変えるなど)を提案し直すという連携が必要です。
全員が同じ方法、同じ道具でケアを行うことで、ご本人も混乱せず、安心してケアを受け入れるようになります。
訪問歯科診療の具体的な提供サービスと衛生管理手法
訪問歯科は、通院困難な環境であっても歯科医院と同等レベルの治療やケアを提供できるよう機材を携行し、虫歯治療から高度な口腔衛生管理までを包括的に実施するサービスです。
「家でどこまでできるのか」という不安を持つ方も多いですが、ポータブルユニット(持ち運び可能な歯科用エンジン)やレントゲン機器を持参するため、歯を削る、入れ歯を調整する、歯石を取るといった処置は問題なく行えます。
しかし、訪問歯科の真骨頂は「治療」以上に「管理」にあります。
次回の訪問まで良い状態を保てるよう、環境を整え、リスクを管理することこそが、誤嚥性肺炎予防における最大のサービス内容と言えます。
訪問歯科で提供される主な処置内容一覧
| 分類 | 主な処置内容 | 目的と効果 |
|---|---|---|
| 基本診療・治療 | 虫歯治療、抜歯、歯石除去、レントゲン撮影 | 感染源の除去、痛みの緩和、咀嚼機能の回復 |
| 義歯関連 | 義歯調整、内面裏打ち、修理、新製、洗浄指導 | 噛む力の維持、粘膜の保護、誤嚥防止 |
| 口腔衛生管理 | 機械的歯面清掃、粘膜清掃、舌ケア、保湿ケア | 細菌数の減少、誤嚥性肺炎の直接的予防 |
専門的口腔ケア(プロフェッショナルケア)の詳細
自分では磨き残してしまう歯周ポケットの奥や、粘膜に付着した汚れを、専門家が機械や特殊なブラシを使って徹底的に除去します。
長期間ケアが行き届いていなかった口の中には、剥がれ落ちた粘膜や痰、食べかすが固まって層になっています。
これを無理に剥がすと出血や痛みを伴うため、歯科衛生士は保湿剤を使ってふやかしたり、吸引器を使いながら誤嚥させないように慎重に除去したりします。
このプロフェッショナルケアを定期的に受けることで、口腔内の細菌叢(フローラ)が善玉菌優位の状態へと変わり、肺炎のリスクが大幅に下がります。
義歯(入れ歯)の調整と修理・新製
合わない入れ歯を使い続けることは、痛みによる食欲不振だけでなく、細菌の温床となる傷(褥瘡)を作る原因にもなるため、訪問での微調整や修理は非常に重要です。
体重の増減や顎の骨の吸収により、入れ歯は徐々に合わなくなります。
訪問歯科では、ご本人が普段食事をしている姿勢や椅子で入れ歯のチェックができるため、診療室よりも実生活に即した調整が可能です。
必要であれば新しい入れ歯を作ることもあり、噛める入れ歯が入ることで表情がいきいきとし、全身の活動性が向上するケースも珍しくありません。
急性症状への対応と緩和ケア
急な歯の痛みや歯茎の腫れ、入れ歯の破損などのトラブルに対し、迅速に対応して苦痛を取り除くことも訪問歯科の大切な役割です。
痛みのために食事が摂れない状態は、体力を奪い、肺炎への抵抗力を弱めます。抜歯が必要な場合も、全身状態を考慮しながら慎重に行います。
また、終末期(ターミナルケア)においては、無理な治療よりも「口の中を湿らせて不快感を取る」「最期まで好きな味を楽しんでもらう」といった緩和的な口腔ケアに重点を移し、安らかな時間を過ごせるよう支援します。
摂食嚥下機能評価とリハビリテーションの実践
「安全に食べる」能力を維持・向上させるためには、現在の嚥下機能を正確に評価した上で、個々の状態に合わせたリハビリテーション計画を立てて実行することが不可欠です。
「むせることが増えた」というのは分かりやすいサインですが、実はむせない誤嚥(不顕性誤嚥)も多く存在します。
訪問歯科では、聴診器を使って嚥下音を聞いたり、少量の水やゼリーを使って飲み込みの様子を観察したりするスクリーニングテストを行います。
さらに詳細な評価が必要な場合は、鼻から細いカメラを入れる「嚥下内視鏡検査(VE)」をご自宅で行うこともあります。
間接訓練による基礎的な機能向上
食べ物を使わずに、舌や唇、喉の筋肉を動かすトレーニングを行うことで、誤嚥のリスクを冒さずに嚥下に関わる基礎体力を養います。
具体的には、舌を前後左右に動かす体操や、「パ・タ・カ・ラ」と発音する発声練習、唾液腺のマッサージなどがあります。
また、首や肩の緊張をほぐすリラクゼーションや、呼吸のトレーニングも含まれます。
これらは食事の前に行う「準備体操」としても有効で、毎日継続することで少しずつ筋力が回復し、スムーズな飲み込みができるようになります。
主な嚥下リハビリテーションの種類と内容
| 訓練区分 | 主な内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 準備的訓練 | 首・肩のストレッチ、深呼吸、口腔周囲筋マッサージ | 筋肉の緊張緩和、呼吸機能の改善、可動域拡大 |
| 機能的訓練(間接) | 舌の運動、パタカラ体操、嚥下おでこ体操、アイスマッサージ | 舌・口唇・喉の筋力強化、嚥下反射の誘発促進 |
| 摂食訓練(直接) | 交互嚥下、複数回嚥下、水分へのとろみ調整 | 実践的な飲み込み技術の習得、咽頭残留の除去 |
直接訓練による摂食動作の獲得
実際にゼリーやペーストなどの食べ物を使い、安全な飲み込み方を練習する実践的なトレーニングです。
歯科医師や歯科衛生士の立ち会いのもと、背もたれの角度を調整したり、一口の量を調節したりしながら進めます。
「顎を引いて飲み込む」「飲み込んだ後にもう一度空嚥下をする」といった具体的なテクニック(代償法)を習得することで、機能の低下を補いながら安全に食事を楽しむ方法を身につけます。
この訓練は、ご本人の「食べたい」という意欲を引き出すためにも非常に効果的です。
食事形態と環境の調整アドバイス
ご本人の能力に合わせて、食材の大きさや硬さ、とろみのつけ方を調整し、最も誤嚥しにくい食事環境を整えるよう指導します。
「きざみ食」がかえって口の中でバラけて誤嚥しやすい場合もあり、適切な食形態の選定は専門知識が必要です。
また、食事をする際の椅子の高さ、足が床についているか、テーブルの高さは適切かといった環境面も見直します。
正しい姿勢で食べるだけで、誤嚥のリスクが大幅に減ることも少なくありません。ご家族に対して、具体的な調理の工夫や介助の方法を伝えることも重要なサービスの一部です。
訪問歯科導入の流れとスムーズな開始への手順
訪問歯科の依頼は、かかりつけの歯科医院や地域の歯科医師会、あるいは担当のケアマネジャーへ相談し、現在の状況を正確に伝えることからスタートします。
特別な手続きが複雑にあるわけではありませんが、医療保険と介護保険の両方が関わる場合があるため、仕組みを把握しておくと安心です。
ご自身で探すのが難しい場合は、ケアマネジャーに「訪問歯科を入れたい」と伝えるのが最も近道です。
ケアマネジャーは地域の訪問歯科リソースを把握しており、ご本人の性格や状態に合った歯科医院を紹介してくれる可能性が高いからです。
訪問歯科診療開始までのタイムライン
| 段階 | 行うべきこと | 留意点 |
|---|---|---|
| 1. 相談・依頼 | ケアマネジャーまたは歯科医院へ連絡 | 主訴、住所、連絡先を明確に伝える |
| 2. 日程調整 | 訪問日時の決定 | キーパーソン(家族等)の立ち会い可否を確認 |
| 3. 初回訪問 | 検診、問診、保険証確認 | お薬手帳、各保険証を準備しておく |
| 4. 計画・同意 | 治療計画の説明を受ける | 費用や期間の目安を確認し同意書にサインする |
| 5. 診療開始 | 治療および口腔ケアの実施 | 体調が悪い時は無理せず日程変更を申し出る |
申し込みから初回訪問までの準備
電話や窓口での申し込みの際、ご本人の氏名、住所、主訴(入れ歯が痛い、口臭がするなど)、全身疾患の有無、服用薬などの情報を伝えます。
この段階で、保険証(医療保険証と介護保険証の両方)やお薬手帳を手元に用意しておくとスムーズです。
また、駐車スペースの有無や、オートロックの開錠方法、ペットの有無など、訪問に必要な生活情報も伝えておきます。
歯科医院側から訪問日時の提案があり、ご家族の立ち会いが可能な日時で調整を行います。
初回検診と治療計画の立案
初回の訪問では、すぐには治療に入らず、口腔内の検査や全身状態の把握、ご本人・ご家族の希望の聞き取りに時間を割き、今後の計画を作成します。
歯科医師が口の中全体をチェックし、レントゲン撮影が必要であれば行います。
その結果に基づき、「どのような治療が必要か」「期間はどのくらいか」「費用はどの程度か」を説明した文書が作成されます。
この治療計画にご本人やご家族が同意して初めて、本格的な治療やケアが開始されます。疑問点や不安な点は、この時点で遠慮なく質問し、解消しておくことが大切です。
継続的なケアへの移行と定期確認
治療が一通り終了した後も、誤嚥性肺炎予防のためには定期的なメンテナンスが必要であり、状態に合わせて週1回から月2回程度の頻度で訪問を継続する体制を整えます。
状態は変化していくものなので、計画は一度立てて終わりではありません。
定期的にケアマネジャーへの報告書が提出され、ケアプランの見直しに合わせて歯科の訪問頻度や内容も再検討されます。
「最近元気になってきたから、リハビリを強化しよう」あるいは「少し弱ってきたから、口腔ケアを重点的に行おう」といった具合に、その時々の状況に合わせて柔軟に対応を変化させていきます。
在宅介護における日常的な口腔ケアのポイント
誤嚥性肺炎を確実に防ぐためには、ご家族や介護者が行う毎日の口腔ケアの質を高め、口の中を常に清潔で潤いのある状態に保つことが、プロによる週に一度のケア以上に重要です。
細菌は数時間で増殖を始めるため、毎食後のケアが理想です。しかし、介護の現場では完璧を求めすぎると共倒れになってしまいます。
「これだけは外せない」というポイントを押さえ、効果的に汚れを落とす技術を身につけることが大切です。また、ケアを嫌がる方への対応にはコツがいります。
無理強いはせず、気持ち良いと感じてもらえるようなアプローチを工夫します。
保湿ケアの徹底と口腔乾燥の防止
乾燥した口の中は汚れがこびりつきやすく、粘膜も傷つきやすいため、清掃の前後には必ず口腔用保湿ジェルなどを用いて潤いを与えることがケアの基本です。
乾燥した痰や汚れを無理に擦ると、粘膜から出血し、そこから細菌が侵入する恐れがあります。まず保湿剤を塗って汚れをふやかしてから、優しく除去します。
そしてケアの最後にも、再び保湿剤を薄く塗って保護します。潤いがある口の中は自浄作用も働きやすく、細菌の繁殖を抑える効果があります。
毎日のケアで確認すべきチェックポイント
- 口の中、特に舌や頬の粘膜が乾燥していないかを確認し、保湿の必要性を判断します。
- 舌の上に厚い苔(舌苔)が付着していないかをチェックし、細菌の温床を取り除きます。
- 食べかすが頬と歯茎の間に残っていないか、食後に必ず見回るようにします。
- 歯茎から出血や腫れ、膿が出ていないか、炎症のサインを見逃さないようにします。
- 入れ歯がヌルヌルしていないか、または破損していないかを確認し、清潔を保ちます。
- 便臭のような強い口臭がしていないかを確認し、内臓や口腔内の異常を察知します。
- 喉のゴロゴロ音(痰の貯留音)がしていないかを聞き取り、誤嚥のリスクを評価します。
安全な姿勢と誤嚥させないケア手技
ケア中に水や汚れが喉に流れ込まないよう、顎を引き、上体を起こすか横を向くなどの姿勢調整を行い、極力水を使わないケア方法を選択することが安全確保のために大切です。
うがいができない方の場合は、濡らしたガーゼやスポンジブラシで拭き取る方法が適しています。
歯ブラシを使う際も、水で濡らしすぎないように注意し、汚れを喉の奥へ押し込まないよう、「奥から手前」にかき出す動作を意識します。
吸引器がある場合は活用し、唾液や洗浄水が溜まらないようにこまめに吸い取ります。
義歯の清掃と管理方法の見直し
入れ歯には目に見えない無数の穴が開いており、そこにカンジダ菌などのカビが繁殖しやすいため、毎日必ずブラシで洗い、専用の洗浄剤に浸ける習慣を守らなければなりません。
入れたまま寝てしまうことは、誤嚥性肺炎のリスクを跳ね上げます。特別な指示がない限り、就寝時は外して粘膜を休ませることが大切です。
外した入れ歯は、乾燥して変形するのを防ぐため、水につけて保管します。
ご家族は、入れ歯のバネがかかる歯が汚れていないか、入れ歯の内側にヌメリがないかを日々チェックしてください。
訪問歯科を利用するメリットと家族の負担軽減
訪問歯科を利用することは、患者本人の健康維持のみならず、介護に追われるご家族の精神的・身体的な負担を大幅に軽減し、在宅生活を長く安定させるための強力な支えとなります。
「口の中を見るのが怖い」「どう磨いていいか分からない」「口臭がひどくて辛い」。こうした悩みをご家族だけで抱え込む必要はありません。
専門家が定期的に訪れることで、口腔ケアの責任を一部委ねることができ、「きちんと診てもらっている」という安心感が生まれます。
これは、介護者が燃え尽きるのを防ぐためにも非常に価値のあることです。
訪問歯科利用による患者・家族双方のメリット比較
| 視点 | 主なメリット | 生活への影響 |
|---|---|---|
| 患者ご本人 | 自宅でリラックスして受診可能、疼痛除去、食機能改善 | 食べる喜びの回復、体力維持、誤嚥性肺炎リスク低下 |
| ご家族(介護者) | 通院介助からの解放、専門家への相談、口臭軽減 | 介護負担の軽減、安心感の獲得、介護生活の持続性向上 |
| 在宅生活全体 | 多職種連携の強化、緊急時の対応ルート確保 | 在宅生活の長期継続、QOL(生活の質)の向上 |
通院介助の手間と身体的負担の解消
車椅子や寝たきりの方を歯科医院へ連れて行くには、移動手段の手配、着替え、移乗介助など膨大なエネルギーが必要ですが、訪問歯科ならその全てが不要となり、ご本人の体力消耗も防げます。
雨の日も風の日も、待合室で待つ必要もありません。通院にかかっていた数時間を、ご家族の休息や他の家事に充てることができます。
また、認知症の方にとっても、慣れ親しんだ自宅で診療を受けられることは、パニックや拒否反応を起こしにくく、穏やかに治療を受けられるという大きなメリットがあります。
専門的視点による早期発見と重症化予防
定期的にプロの目が入ることで、口の中の小さな異変だけでなく、全身状態の変化やフレイル(虚弱)の進行にもいち早く気づき、対応することが可能になります。
「最近、体重が減ったのは入れ歯が合わないからかもしれない」「微熱が続くのは口の中が原因かもしれない」といった判断は、専門家でなければ難しいものです。
早期に対処すれば、入院や手術といった大掛かりな事態を回避でき、結果として医療費や介護費用の抑制にも繋がります。
何でも相談できる専門家がチームに加わることは、在宅生活の安全網を強化します。
食の楽しみを取り戻すことによる意欲向上
口から美味しく食べることは生きる喜びそのものであり、訪問歯科によって噛めるようになり、味がわかるようになることが、ご本人の笑顔を増やし、家族全体の雰囲気を明るく変えます。
「もう口からは食べられない」と諦めていた方が、リハビリによって再びゼリーやプリンを食べられるようになった事例は数多くあります。
食べることは脳への刺激にもなり、認知症の進行予防や意欲の向上に直結します。
ご家族にとっても、「美味しいね」と言い合える時間は、介護の辛さを忘れさせてくれる貴重なひとときとなります。
Q&A
訪問歯科を検討する際や、実際に利用を開始した後に、多くのご家族やケアマネジャーの方々から寄せられる疑問にお答えします。
誤嚥性肺炎の予防と、円滑な在宅療養生活のために、ぜひ参考にしてください。
- 寝たきりで意識もはっきりしない状態ですが診てもらえますか?
-
もちろん可能です。
むしろ、寝たきりで意思疎通が難しい方ほど、口腔ケアが困難になりやすく、誤嚥性肺炎のリスクが高いため、訪問歯科の必要性は高いと言えます。
ご本人の負担にならないよう、体調を見ながら短時間で効率的にケアを行います。
お口を開けるのが難しい場合でも、専門的な技術を用いて安全に清掃や状態確認を行いますので、安心してお任せください。
- 本人が認知症で治療を嫌がったり暴れたりするのですが?
-
認知症の方への対応経験が豊富な歯科医師や歯科衛生士が伺いますので、まずはご相談ください。無理やり押さえつけて治療をすることは基本的にはありません。
まずは信頼関係を築くところから始め、お顔のマッサージや会話などを通じてリラックスしていただくことを優先します。
日によって機嫌が良い時、悪い時がありますので、ご家族や介護スタッフと相談しながら、できる範囲で少しずつケアを進めていきます。
- 誤嚥性肺炎になった後でも訪問歯科を頼む意味はありますか?
-
非常に大きな意味があります。一度肺炎を起こした方は再発のリスクが高いため、再発予防のために徹底した口腔衛生管理が必要です。
退院直後から訪問歯科が介入し、専門的なケアとリハビリを行うことで、次の肺炎を防ぐ体制を整えることが大切です。
また、入院中に低下した筋力を回復させるための訓練も、在宅での生活を安定させるために役立ちます。
- 入れ歯を作るのにはどれくらいの期間がかかりますか?
-
お口の状態や入れ歯の種類にもよりますが、新しい入れ歯を作る場合、一般的には型取りから完成まで週1回の訪問で1ヶ月半から2ヶ月程度かかります。
訪問診療では、歯科技工士との連携や、ご自宅の環境に合わせた調整を丁寧に行うため、通院よりも回数がかかる場合があります。
完成後も、痛くないか、噛めるかを確認するための調整期間が必要ですので、焦らずじっくりと合わせていくことが大切です。
- 週に何回くらい来てもらうのが一般的ですか?
-
お口の状態やご本人のリスクによって異なりますが、誤嚥性肺炎のリスクが高い方や、集中的な治療が必要な時期は週1回の訪問が一般的です。
状態が安定してくれば、2週間に1回など間隔を空けることもあります。
逆に、汚れがつきやすくリスクが極めて高い場合は、ご家族の同意のもと回数を増やす提案をすることもあります。ケアプランや生活スタイルに合わせて調整します。
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