褥瘡(床ずれ)の洗浄は水道水でいい?家庭でできる処置方法と消毒の是非

褥瘡(床ずれ)の洗浄には、実は水道水で十分対応できます。かつては生理食塩水や消毒液が常識とされていましたが、近年の研究では清潔な水道水による洗浄でも感染率に大きな差がないことがわかっています。
むしろ消毒液の使用は、正常な細胞まで傷つけてしまい、治癒を遅らせるおそれがあると指摘されています。
この記事では、ご家庭で安全に褥瘡を洗浄・処置する方法を丁寧に解説し、消毒の是非についても医学的な根拠にもとづいてお伝えします。
褥瘡の洗浄に水道水を使っても大丈夫な理由
結論から言えば、日本の水道水は褥瘡の洗浄に安心して使えます。水道水には微量の塩素が含まれており、一般的な細菌はほぼ検出されません。
生理食塩水と水道水を比較した複数の臨床研究でも、創傷の感染率に有意差は認められていないのが現状です。
生理食塩水と水道水の感染率に差はなかった
海外で行われた大規模な比較試験では、開放創の洗浄に水道水を使用したグループと生理食塩水を使用したグループで、感染の発生率はほぼ同等でした。
日本の水道水は世界的にも水質基準が厳しく、飲用に適した水が蛇口から出てくる環境にあります。
わざわざ生理食塩水を準備しなくても、流水で十分にきれいにできるというのは、在宅介護を行うご家族にとって大きな安心材料になるはずです。
水道水の塩素濃度は傷に悪影響を与えにくい
「水道水に含まれる塩素が傷口を刺激しないか」と心配される方は多いですが、日本の水道水に含まれる残留塩素の濃度は0.1mg/L以上という基準であり、実際には0.4〜1.0mg/L程度です。
この濃度であれば、皮膚や傷口への刺激はごくわずかで、臨床上の問題はほとんど報告されていません。
プールの水(塩素濃度0.4〜1.0mg/L程度)で傷がしみる経験をされた方もいるかもしれませんが、流水で洗い流す短時間の接触であれば、傷への影響は極めて限定的です。
水道水と生理食塩水の比較
| 項目 | 水道水 | 生理食塩水 |
|---|---|---|
| 入手しやすさ | 蛇口から即座に使える | 薬局で購入が必要 |
| コスト | ほぼ無料 | 数百円〜 |
| 感染率への影響 | 有意差なし | 有意差なし |
| 保存性 | 常に新鮮な水が使える | 開封後は早めに使い切る |
在宅介護の現場で水道水が推奨される背景
病院では滅菌された生理食塩水が用いられることが多いですが、在宅の現場では入手のしやすさや保管の手間を考慮し、水道水の使用が広く認められるようになりました。
日本褥瘡学会のガイドラインでも、水道水による洗浄は推奨されています。
とくに毎日の処置が必要な場合、生理食塩水をそのたびに用意するのは経済的にも時間的にも負担が大きくなります。水道水であれば、手軽に継続できるという利点があります。
消毒液は褥瘡に使わないほうがいい|その医学的な根拠
褥瘡に消毒液を使うことは、現在の医学ではむしろ避けるべきとされています。消毒液は細菌だけでなく、傷の修復に必要な正常な細胞にもダメージを与えてしまうためです。
消毒液が正常な肉芽組織を破壊してしまう
イソジンやヒビテンなどのポピドンヨード系・クロルヘキシジン系消毒薬は、たしかに殺菌力に優れています。
しかし、その殺菌力は「無差別」であり、傷を治そうと新しく生まれてくる肉芽組織や線維芽細胞までも破壊してしまいます。
消毒液を繰り返し使用すると、傷口の治癒が遅れるだけでなく、かえって感染のリスクが高まるケースも報告されています。
「消毒して当然」という時代から湿潤療法の時代へ
かつては傷口を消毒してガーゼを当てるのが標準的な処置でした。しかし2000年代以降、創傷治癒の研究が進み、「傷は消毒せず、乾かさず、適度な湿潤環境を保つ」という考え方が主流になりました。
この湿潤療法(モイストウンドヒーリング)は、褥瘡のケアにもそのまま当てはまります。
消毒液を使わず、水道水でやさしく洗い流した後に適切なドレッシング材で保護するのが、現代のケアの基本です。
どうしても消毒が必要になるケースとは
例外として、傷口に明らかな感染徴候(強い発赤、腫脹、膿の増加、悪臭、発熱など)がみられる場合には、医師の指示のもとで消毒が行われるときがあります。
ただし、これは日常的なケアとしてではなく、治療としての限定的な使用です。
ご自身の判断で消毒液を使い続けるのは避け、感染が疑われる場合は速やかに医師や訪問看護師に相談してください。
| 消毒液の種類 | 殺菌力 | 正常細胞への影響 |
|---|---|---|
| ポビドンヨード | 広範囲の菌に有効 | 肉芽組織を障害する |
| クロルヘキシジン | 持続的な殺菌作用 | 細胞毒性がある |
| 過酸化水素水 | 発泡による物理洗浄 | 組織障害が強い |
| 水道水(参考) | 殺菌作用なし | 細胞に悪影響を与えない |
家庭でできる褥瘡の正しい洗浄手順を押さえよう
褥瘡の洗浄は、ご家庭でも正しい手順を守ればご自身で十分に行えます。特別な器具は必要なく、清潔な環境と水道水、そして少しの知識があれば大丈夫です。
洗浄前の準備と手指の衛生
まず処置にとりかかる前に、石けんと流水で自分の手をしっかり洗いましょう。可能であれば使い捨ての手袋を着用すると、より衛生的です。
褥瘡の状態を観察し、前回の処置からの変化がないか確認してから洗浄に進んでください。
古いドレッシング材やガーゼはゆっくり剥がします。無理に引っ張ると、新しく形成された組織を傷つけてしまうので注意が必要です。
水道水で褥瘡をやさしく洗い流すコツ
洗浄のポイントは「たっぷりの水量でやさしく」です。シャワーの水圧を弱めに設定し、ぬるま湯(体温に近い37度前後)を褥瘡の表面に当てて、壊死組織や滲出液、汚れを洗い流します。
ペットボトルに水を入れてキャップに小さな穴を開けたものを「簡易洗浄ボトル」として使う方法も便利です。
ゴシゴシとこすらないことが大切です。傷の表面は非常にデリケートで、強い摩擦は新生組織を損傷させてしまいます。水の力だけで汚れを落とすイメージで行ってください。
褥瘡の洗浄に使える道具
- シャワーヘッド(水圧を弱めに調整)
- ペットボトルの簡易洗浄ボトル
- シリンジ(注射筒)による加圧洗浄
シリンジを使った洗浄は、適度な圧力で細菌や壊死組織を効率的に除去できるため、訪問看護師から指導を受けたうえで活用するのもよい方法です。
一般的には30〜50mLのシリンジに18Gの針をつけた場合の圧力(約8psi)が、組織を傷つけず汚れを落とすのに適した圧力とされています。
洗浄後の水気の取り方と注意点
洗浄が終わったら、清潔なガーゼやタオルで褥瘡の周囲の水気をそっと押さえるように拭き取ります。
擦るのではなく「押さえる」動作が大切です。傷の中心部分はとくにデリケートなので、直接触れないように注意してください。
水気を取ったあとは、速やかにドレッシング材を貼り、傷口が乾燥しないように保護します。空気にさらされた状態が長く続くと、乾燥によって治癒が遅れてしまいます。
褥瘡の処置で絶対にやってはいけないこと
善意のケアが逆効果になってしまうケースは少なくありません。家庭での褥瘡処置で避けるべきポイントを知っておくと、悪化や感染を防げます。
ガーゼを直接傷口に当て続けてはいけない
ガーゼは滲出液を吸収する一方で、乾燥するとそのまま傷口に張り付いてしまいます。
剥がすときに新生組織も一緒に剥がれてしまい、傷の回復が大幅に後退します。これが「ガーゼ交換のたびに出血する」という状態の原因です。
ガーゼの代わりに、創傷被覆材(ドレッシング材)を使うことで傷口の湿潤環境を保てます。ドレッシング材の選択は褥瘡の状態によって異なるため、医師や訪問看護師に相談して適切なものを選んでもらいましょう。
壊死組織を自己判断で取り除くのは危険
褥瘡の表面に黒色や黄色の壊死組織が付着していると、「取り除いたほうがいいのでは」と考えるかもしれません。
しかし、壊死組織の除去(デブリードマン)は医療行為であり、専門的な判断と技術が必要です。
無理に取り除こうとすると、出血や感染のリスクが非常に高くなります。壊死組織が気になる場合は、自分で処置せず医療者に任せてください。
ドライヤーで傷を乾かすのは逆効果
「傷は乾かしたほうが早く治る」という古い考え方から、ドライヤーの温風を褥瘡に当てる方がまれにいます。これは傷の表面を乾燥させ、かさぶたの下で細胞の移動を妨げてしまうため、治癒を遅らせる行為です。
適度な湿潤環境を維持することが、細胞の増殖と創傷の治癒にとって望ましい条件です。「乾かす」のではなく「潤す」ケアを心がけてください。
| やりがちな間違い | なぜダメなのか | 正しい対処法 |
|---|---|---|
| 消毒液を毎日使う | 正常細胞を破壊し治癒を遅らせる | 水道水で洗浄する |
| ガーゼを直接当てる | 乾燥して張り付き組織を損傷する | ドレッシング材を使用する |
| 壊死組織を自分で取る | 出血・感染のリスクが高い | 医療者に相談する |
| ドライヤーで乾かす | 乾燥が治癒を妨げる | 湿潤環境を保つ |
褥瘡の深さ別に見る家庭でのケアと受診の目安
褥瘡は深さによってステージが分類され、家庭で対応できる範囲と医療者の介入が必要な範囲が変わります。浅い段階であれば日常のケアで改善が期待できますが、深い褥瘡は必ず医師の管理が必要です。
発赤だけの初期段階(ステージI)なら早めの対応が肝心
皮膚が赤くなっているだけで、指で圧迫しても白くならない状態がステージIです。この段階ではまだ皮膚の表面は破れていないため、圧迫を解除して体位変換を徹底することが最も大切です。
赤みのある部位をマッサージするのは逆効果です。すでにダメージを受けた組織をさらに傷つけてしまうおそれがあるため、圧迫の原因を取り除くことに集中してください。
浅い傷(ステージII)は家庭での洗浄とドレッシング管理で対応できる
表皮が剥がれたり、水疱ができた状態がステージIIです。この段階であれば、水道水での洗浄とドレッシング材による保護を毎日行うことで、ご家庭でも十分にケアできます。
ただし、水疱は自分で破かないようにしましょう。破れた場合は、周囲を清潔に保ちながらドレッシング材で覆い、皮膚の再生を待ちます。
褥瘡のステージ分類と家庭での対応目安
| ステージ | 状態 | 家庭での対応 |
|---|---|---|
| I | 消退しない発赤 | 圧迫解除・体位変換の徹底 |
| II | 表皮の剥離・水疱 | 水道水洗浄+ドレッシング管理 |
| III | 皮下組織に達する損傷 | 医師の管理が必要 |
| IV | 筋肉・骨まで達する損傷 | 医師による治療が必須 |
ステージIII以上は訪問診療・訪問看護への相談が必要
皮下組織や筋肉、骨にまで達した褥瘡は、家庭でのケアだけでは対応が難しくなります。壊死組織の除去、感染の管理、栄養状態の評価など、多角的な医療介入が求められます。
こうしたケースでは訪問診療や訪問看護を利用し、医師や看護師が定期的に創の状態を評価しながら治療計画を立てていくことが回復への近道です。
悪化を感じたら遠慮せず、早めに専門家に連絡をとりましょう。
褥瘡を悪化させないために家庭で取り組む予防ケア
褥瘡は「できてから治す」よりも「できないように防ぐ」ほうがはるかに楽です。日常のちょっとした工夫が、褥瘡の発生と悪化を防ぐ大きな力になります。
2時間ごとの体位変換が褥瘡予防の基本
同じ姿勢で長時間横になっていると、骨が突出している部位(仙骨、踵、肩甲骨など)に持続的な圧迫がかかります。この圧迫により血流が途絶え、組織が壊死していくのが褥瘡の発生メカニズムです。
目安としては2時間ごとに体の向きを変えることが推奨されていますが、患者さんの状態や使用している体圧分散マットレスの性能によって間隔は調整可能です。
夜間の体位変換が難しい場合は、自動体位変換機能付きのエアマットレスの導入も検討してみてください。
栄養管理と水分補給が傷の回復力を左右する
褥瘡の予防と治癒には、十分な栄養摂取が欠かせません。とくにタンパク質、亜鉛、ビタミンC、鉄分は創傷の修復に深く関わっている栄養素です。
食欲が低下している方には、少量でも高カロリー・高タンパクな補助食品を活用するとよいでしょう。
脱水状態は皮膚の弾力性を低下させ、褥瘡のリスクを高めます。こまめな水分補給も、見過ごされがちですが大切なケアの一つです。
スキンケアで皮膚のバリア機能を守る
高齢者の皮膚は乾燥しやすく、バリア機能が低下しがちです。入浴後や清拭後に保湿剤を塗布し、皮膚の潤いを維持してください。
おむつを使用している場合は、排泄物による皮膚への刺激(湿潤環境の過多やアンモニアの刺激)にも注意が必要です。
皮膚保護剤やワセリンで褥瘡好発部位を保護することも、有効な予防策になります。「洗う・潤す・守る」の3つを意識したスキンケアを毎日続けることが、褥瘡予防につながります。
- 体位変換(2時間ごとが目安)
- 体圧分散マットレスの使用
- タンパク質・ビタミンC・亜鉛の積極的な摂取
- こまめな水分補給
- 保湿剤による皮膚の保護
- おむつ内環境の清潔維持
在宅での褥瘡ケアに困ったら訪問診療を頼ってほしい
ご家庭での褥瘡ケアには限界があります。不安を抱えたまま一人で頑張り続ける必要はありません。訪問診療や訪問看護を活用すれば、医療の専門家が自宅に来て褥瘡の評価と処置を行ってくれます。
訪問診療で医師が自宅に来て褥瘡を診てくれる
訪問診療とは、通院が困難な方のもとへ医師が定期的に訪問し、診察や治療を行う医療サービスです。
褥瘡の状態を直接確認し、ドレッシング材の選択や外用薬の処方、必要に応じたデブリードマンなどを自宅で受けられます。
訪問診療と往診の違い
| 項目 | 訪問診療 | 往診 |
|---|---|---|
| 計画性 | 定期的・計画的な訪問 | 急な体調変化時の臨時対応 |
| 頻度 | 月2回〜週1回程度 | 必要時のみ |
| 目的 | 継続的な健康管理と治療 | 緊急的な診察と応急処置 |
訪問看護師による褥瘡ケアの指導と実施
訪問看護師は、医師の指示に基づいて褥瘡の洗浄やドレッシング交換を行うだけでなく、ご家族に対して日々のケア方法を丁寧に指導してくれます。
「洗い方がこれでいいのかわからない」「ドレッシング材の貼り替え方がわからない」といった不安に、実践的なアドバイスで応えてくれる心強い存在です。
定期的に褥瘡の状態を写真で記録し、改善や悪化の経過を医師と共有する体制を整えることも、訪問看護が得意とするところです。
一人で抱え込まず、医療チームと一緒に取り組む姿勢が大切
在宅介護をされているご家族の多くは、「自分がしっかりやらなければ」と責任感を持って日々のケアに臨んでいます。その姿勢はとても立派ですが、褥瘡のケアは専門的な知識が必要な領域でもあります。
医師、看護師、ケアマネジャー、栄養士など、多職種のチームで連携して取り組むことで、患者さんの負担もご家族の負担も軽減できます。困ったときや迷ったときは、遠慮なく専門家に頼ってください。



よくある質問
- 褥瘡の洗浄に使う水道水の温度は何度くらいが適切?
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褥瘡を洗浄する際の水道水は、体温に近い37度前後のぬるま湯が適しています。冷たすぎる水は血管を収縮させて血流を悪化させ、熱すぎる湯は組織を傷めるおそれがあります。
手首の内側に水を当てて「少しあたたかいかな」と感じる程度が目安です。厳密な温度計測は不要ですが、入浴用の温度計がある場合は参考にしてみてください。
- 褥瘡の洗浄は1日に何回行えばよい?
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褥瘡の洗浄回数は、傷の深さや滲出液の量によって異なりますが、一般的には1日1回の洗浄とドレッシング交換で十分です。滲出液が多い場合や汚染が目立つ場合には、1日2回に増やすこともあります。
洗浄の頻度を上げすぎると、かえって新しく形成された組織を繰り返し傷つけてしまうこともあるため、担当の医師や訪問看護師と相談しながら回数を決めるのが望ましいです。
- 褥瘡から嫌なにおいがする場合は感染のサイン?
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褥瘡から悪臭がする場合、感染や壊死組織の存在が疑われます。とくに緑色や黄色の膿が増えている、周囲の皮膚が赤く腫れている、発熱がある、といった症状を伴うときは、感染の可能性が高いと考えてください。
こうした場合は自己判断でケアを続けるのではなく、できるだけ早く医師に連絡して診察を受けることが大切です。感染が進行すると蜂窩織炎や敗血症といった重篤な合併症に発展するおそれがあります。
- 褥瘡のケアに使うドレッシング材は薬局で買える?
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創傷被覆材(ドレッシング材)の一部は、薬局やドラッグストアで購入できます。ハイドロコロイドタイプの絆創膏(キズパワーパッドなど)は市販されており、浅い褥瘡であれば家庭でも使いやすい選択肢です。
ただし、褥瘡の深さや滲出液の量によって適したドレッシング材は異なります。
フォームタイプやアルギネートタイプなど、医療用のものは医師の処方が必要な場合もあるため、まずは訪問診療や訪問看護の際に相談して、適切なものを選んでもらうと安心です。
- 褥瘡がある状態でも入浴して大丈夫?
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褥瘡があっても入浴は可能です。むしろ入浴によって全身の清潔を保ち、血行を促進できるため、褥瘡の治癒にとってプラスに働くことが多いです。シャワー浴であれば、流水で褥瘡の洗浄も同時に行えます。
ただし、深い褥瘡や感染を起こしている褥瘡の場合は、入浴方法に制限がかかるときがあります。
浴槽に浸かると細菌が傷口に入るリスクもあるため、シャワー浴にとどめるかどうかは医師に確認してください。入浴後は速やかにドレッシング材で傷口を保護するのも忘れないようにしましょう。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。
