医療保険と介護保険の違いとは – 制度の基礎から利用方法まで解説

医療保険と介護保険の違いとは - 制度の基礎から利用方法まで解説

高齢化や医療技術の進歩によって、在宅で医療や介護を受けたいと考える方が増えています。

ただ、自宅で支援を受ける場合、医療保険と介護保険のどちらを使えばよいのか、あるいは両方を組み合わせて利用できるのかなど、疑問点が多いようです。

医療保険と介護保険には制度的な違いがあり、対象や利用できるサービス内容、負担の仕組みも別々です。

この記事では、その基礎から利用方法まで幅広く掘り下げ、在宅診療や訪問サービスを検討するうえでのヒントを紹介します。

目次

医療保険と介護保険の基礎知識

在宅で療養を進めるならば、医療保険と介護保険の仕組みを押さえることが大切です。どちらの保険を使うかで、保障範囲や負担割合、サービスの選択肢などが変わります。

この項目では、まずは両方の保険制度の目的や概要から違いを明確にし、対象者や保険料などの観点を踏まえながら、基礎的な理解を深めます。

保険制度の目的と概要

医療保険は、病気やケガなどによる医療費を幅広くカバーし、だれもが適切な治療を受けられるように整備された制度です。

会社員が加入する健康保険、個人事業主や無職の方が加入する国民健康保険、75歳以上の後期高齢者医療制度など、さまざまな形があります。

一方、介護保険は、高齢や特定疾病によって介護や支援が必要になったときに、所定のサービスを利用できるようにした仕組みです。要介護度や要支援度を認定し、そのレベルに応じたサービス費用の一部を公的保険で補います。

医療保険は治療や診療行為を中心に、介護保険は日常生活の支援を中心に置いている点が特徴です。どちらも日本の社会保障の柱ですが、利用条件や給付の範囲が異なるため、在宅療養の形態や進行度合いによって選択が分かれます。

次の情報を整理します。

区分医療保険介護保険
目的病気やケガの治療費用を補助要介護者への介護・支援費用を補助
運営主体健康保険組合、国民健康保険組合、市町村、など市町村(保険者)
対象年齢年齢制限なし(後期高齢者医療制度は75歳以上)原則として65歳以上、または40~64歳で特定疾患該当
給付の中心診療報酬(治療や投薬など)介護報酬(訪問介護、デイサービスなど)

両者は同じ社会保障制度の一部ですが、カバーする領域が異なるため、いずれを利用すべきかを判断するには本人や家族の状態をよく確認する必要があります。

対象者と加入条件の違い

医療保険は、国民全員がなんらかの形で必ず加入する仕組みになっています。会社員なら健康保険、個人事業主なら国民健康保険といった区分があり、75歳以上は後期高齢者医療制度を利用します。

介護保険は、原則として65歳以上の全員が加入対象です。40~64歳の人も公的介護保険料を支払い、特定疾病(がん末期や脳血管疾患など16種類)で要介護認定を受けた場合は、介護保険サービスを利用できます。

40~64歳の方が腰痛や関節の痛みなどで生活に支障をきたしても、特定疾病に該当しなければ介護保険の利用は難しいです。

このように介護保険は、高齢になったときに必要となる介護費用を支える仕組みとしてデザインされています。一方、医療保険は年齢や国籍を問わず、病気やケガの治療が必要な時点で幅広く適用される点が特徴です。

参考になる内容をまとめます。

年齢区分医療保険の例介護保険の例
0~39歳健康保険/国民健康保険介護保険の対象外(保険料の支払いも無)
40~64歳同上介護保険の第2号被保険者(特定疾病で要介護認定を受けると利用可能)
65~74歳同上介護保険の第1号被保険者(要介護認定を受けると利用可能)
75歳以上後期高齢者医療制度同上

保険料の仕組みと計算方法

医療保険の保険料は、サラリーマンであれば月々の給与から控除される形で支払います。健康保険組合や協会けんぽなど加入先によって料率が異なる場合があります。国民健康保険の場合は、所得や資産に応じて自治体が決定する形です。

介護保険料は65歳以上(第1号被保険者)の場合、年金から天引きされるのが一般的です。一方、40~64歳(第2号被保険者)の場合は医療保険とあわせて支払います。

保険料は各個人の所得状況や自治体による設定で変わるため、同じ年齢でも住んでいる地域や働き方によって金額に差が生じます。介護保険料は、行政が定める基準額と所得段階区分によって決まり、数年ごとに見直しが行われることが多いです。

次の点に注意すると理解しやすいです。

  • 健康保険に加入している人は、給料から一定の割合で保険料を支払う
  • 国民健康保険の場合は、自治体が保険料を決定し、世帯全体の所得や人数によって変動
  • 65歳以上の介護保険料は、原則年金からの特別徴収
  • 40~64歳の介護保険料は、医療保険料とまとめて徴収

給付内容の基本的な違い

医療保険は治療費や手術費、入院費などを補助し、病気やケガを負ったときの経済的負担を軽減します。薬代や検査費用、訪問看護なども医師の指示があれば対象になる場合があります。

介護保険は、要介護認定を受けた利用者に対して、在宅介護サービスや施設サービスなどを給付します。たとえば、訪問介護(ヘルパーによる生活支援)、デイサービス、ショートステイなど日常生活を補うためのサポートが中心です。

要介護度が高いほど利用できるサービス量が増えますが、対象となる行為はあくまでも「生活援助」であり、医療行為に該当する処置は医療保険が担う形になることが多いです。

医療行為と生活援助、どちらがメインとなるかで利用保険が変わるため、在宅療養での使い分けが課題となります。医師の管理が必要な治療中は医療保険を中心に、日常的な介護・支援が中心の場合は介護保険を利用することが多いです。

保障内容と適用範囲

医療保険と介護保険では、カバーしている範囲に大きな相違点があります。医療保険は治療や医学的ケアを前提とし、介護保険は日常生活の維持・補助を目的としたサービスが中心です。

ここでは、それぞれの保険がどのようなサービスを提供しているのかを見ながら、具体的な利用場面をイメージしやすくします。

医療保険でカバーされる医療サービス

医療保険は、一般的な外来診療や入院はもちろん、在宅での治療行為も対象になる場合があります。たとえば、訪問診療や訪問看護、在宅酸素療法などを医師の指示のもとで実施するケースが該当します。

特に、重度の病状や継続的な医療処置が必要な方は、医療保険による訪問看護が大きな支えとなります。傷の処置や点滴管理、人工呼吸器の管理などは医師の指示書が必要になりますが、負担軽減に役立つでしょう。

医療保険が適用されるサービス例を示します。

サービス例概要
外来診療病院や診療所での受診
入院治療手術や集中治療などを含む
訪問診療医師が定期的に自宅を訪問する
訪問看護(国が指定する特定の状態)看護師などが医療処置や健康管理を行う
在宅酸素療法自宅に酸素吸入装置を設置して継続的な呼吸管理を行う
在宅自己注射インスリン注射など、医師の指示のもとで行う自己注射の指導

医療保険の中心は病気や怪我の治療です。終末期ケアや難病管理など高度な医療行為が必要ならば、医療保険を活用した訪問看護や訪問診療を検討するとよいかもしれません。

●在宅医療で医療保険を活用するメリットの例

  • 急変時に医師や看護師と連絡が取りやすい
  • 高度な医療機器を使用したケアにも対応しやすい
  • 病院への通院負担を軽減しやすい

介護保険で利用できる介護サービス

介護保険では、要支援や要介護に認定された方が在宅介護や施設サービスを利用できます。

たとえば、自宅での生活を続ける際には、訪問介護(ヘルパーが日常生活を支援)、デイサービス(通所介護)、短期入所(ショートステイ)などを組み合わせる形が一般的です。

要介護度が上がるほど、ケアプランで設定できるサービス量も増えます。


通所リハビリテーション(デイケア)や訪問リハビリテーションなども介護保険の対象です。身体機能の回復や維持を目指す場合に、自宅周辺でリハビリの機会をつくれるのは大きな特徴といえます。

介護保険で利用できるサービスをまとめます。

サービス名称概要
訪問介護(ホームヘルプ)介護士が自宅を訪問し、掃除、洗濯、食事作りなどの生活援助や身体介護を行う
通所介護(デイサービス)日中施設に通い、食事や入浴、レクリエーション、機能訓練を受ける
短期入所(ショートステイ)一時的に施設に宿泊し、集中的な介護やリハビリを受ける
特別養護老人ホーム常時介護が必要な方向けの公的施設
グループホーム認知症高齢者が少人数で生活しながら介護を受ける
訪問リハビリテーションリハビリ専門職が自宅を訪問して機能回復訓練を行う

こうしたサービスは、あくまで生活を支える介護がメインです。医師による診療や注射などの医療行為は別枠になるため、状態に応じて医療保険による訪問看護や訪問診療を組み合わせる必要があります。

●介護保険サービスの長所

  • 家族の負担を軽減しやすい
  • 日常生活の質を維持、向上する支援を受けやすい
  • 認知症への対応やリハビリなど、生活全般をサポートする仕組みがある

自己負担割合と限度額

医療保険では、年齢や所得に応じて1~3割を自己負担します。75歳以上は後期高齢者医療制度となり、原則1割負担(一定所得がある場合は2~3割)です。

月ごとの医療費が高額になる場合は、高額療養費制度を使って負担上限を超えた分を後日払い戻す仕組みがあります。

介護保険では、原則1割負担が基本ですが、所得によって2~3割負担になる方もいます。また、要介護度に応じた支給限度額が設定され、その範囲内であれば自己負担は1~3割です。

しかし、支給限度額を超えるサービスを利用する場合、超過分は全額自己負担になります。

次のような内容を整理できます。

保険自己負担割合備考
医療保険1~3割高額療養費制度で月額上限が変動
介護保険1~3割要介護度ごとに支給限度額を設定。それを超えた利用分は全額自己負担

負担割合や限度額の考え方が異なるため、在宅療養を継続する場合はどちらの保険のほうが費用負担を抑えやすいか、事前に確認しておくことが重要です。

特定疾病と要介護認定の関係

40~64歳の方は、介護保険の第2号被保険者です。この世代が介護保険を使うには、がん末期や関節リウマチなど16種類の特定疾病で要介護・要支援認定を受ける必要があります。

それ以外の病状で介護が必要になった場合は、原則として介護保険は利用できません。

また、65歳以上の方は要介護認定を受ければ原則として介護保険サービスを利用できます。要介護度が1~5まであり、数字が大きいほど必要とする介護の量が多いと認定されます。

要支援1~2は介護予防を中心としたサービスが利用可能です。認定結果に応じて利用できるサービス量が異なり、利用できる種類も変わります。

●要介護認定を受ける前の注意点

  • 認定調査では日常生活の様子や身体機能を詳細に確認
  • 主治医の意見書が重要な判断材料
  • 必要な介護レベルより低く判定された場合、介護保険サービスが不足する恐れがある

併用可能なサービスと制限事項

医療保険と介護保険は、状況に応じて併用できるケースがあります。たとえば、要介護度の高い方が介護保険の訪問介護やデイサービスを利用しつつ、医療保険で訪問看護を受けるといったパターンです。

ただし、同じ種類のサービスを重複して利用するのは認められていないことが多いです。

医療的ケアは医療保険、生活援助や身体介護は介護保険といったように役割分担を意識するとスムーズに運用できます。

主治医やケアマネジャーとも協力しながら、どのサービスが医療保険でどのサービスが介護保険なのかを確認して、重複を避ける必要があります。

次のまとめが参考になります。

組み合わせの例補足
医療保険:訪問看護(国が指定する特定の状態) + 介護保険:訪問介護医療行為を必要とする部分は訪問看護、日常的な身体介護は訪問介護
医療保険:訪問リハビリ + 介護保険:デイサービス(通所リハビリなし)医師の管理下で医療リハビリを受けつつ、介護保険で生活支援を利用
医療保険:在宅酸素療法 + 介護保険:ショートステイ在宅治療と介護サービスを組み合わせ、短期入所で家族の負担軽減

混乱を避けるため、サービス担当者会議(ケアカンファレンス)を活用して、医療と介護の連携を図る方法が大切です。

訪問医療・介護サービスの利用方法

在宅での生活を維持しつつ、専門家のサポートを得るためには、訪問医療や訪問介護の利用が欠かせません。医療保険や介護保険を上手に活用することで、身体の状態に合わせたサービスを受けやすくなります。

この項目では、医療保険を使った訪問看護と、介護保険を使った訪問サービスの利用方法、それぞれの手続きや流れを紹介します。

医療保険による訪問看護の利用条件

医療保険を利用して訪問看護を受けるには、主治医が発行する訪問看護指示書が必要です。がん末期や人工呼吸器を使うなど、医療的ケアを要する場合に活用しやすいと言えます。

年齢にかかわらず医療保険を適用できるため、高齢者以外でも、治療の必要性が高い状態なら利用が可能です。医療保険で訪問看護を利用する場合、下記のようなケースでメリットが大きいです。

●医療保険で訪問看護を検討するケース

  • 末期の悪性腫瘍で痛みなどの緩和ケアを受けたい
  • 神経難病などで人工呼吸器を使用している
  • 急性増悪のリスクが高く、自宅で医療管理が求められる
  • 若年層で外出困難だが高度な医療行為を継続したい

訪問看護には看護師、理学療法士、作業療法士などが関わり、病状の観察から医療処置、在宅リハビリまで多面的に支えてくれます。主治医の指示書が根拠となるため、まずは医師に相談することが大切です。

次の表に、医療保険で訪問看護を利用しやすい例を挙げます。

状態理由
末期がん痛みコントロールなどの緩和ケアを自宅で実施しやすい
難病(ALSなど)呼吸器管理や痰の吸引などの高度医療的ケア
中心静脈栄養静脈ラインの管理や感染予防
経管栄養胃ろうや経鼻チューブのケア
褥瘡管理専門的な創傷処置や予防策

介護保険での訪問サービス申請手順

介護保険を使った訪問サービスを受けるには、まず市区町村窓口で要介護認定(または要支援認定)の申請を行い、認定調査や主治医の意見書を経て、要介護度を確定させる必要があります。

要介護度が確定した後は、ケアマネジャーを通じてケアプランを作成します。そのプランに基づいて、訪問介護や訪問入浴、通所介護などを組み合わせる形です。

たとえば、日常的な身体介護を支援するヘルパーの訪問や、定期的なデイサービスへの通所がケアプランに盛り込まれます。申請からサービス開始までに1~2か月ほどかかるケースがあるため、早めの手続きが重要です。

●介護保険の訪問サービス例

  • 訪問介護(身体介護・生活援助)
  • 訪問入浴(移動入浴車を使って自宅で入浴支援)
  • 訪問リハビリテーション(専門職による機能訓練)

主治医の指示書と利用計画

医療保険での訪問看護を受ける際は「訪問看護指示書」、介護保険の訪問系サービスを受ける際は「ケアプラン(サービス計画)」が重要な基盤となります。

主治医は、患者の症状や治療方針を踏まえて必要なケア内容を指示し、看護ステーションやケアマネジャーと連携します。

この指示書や計画書をもとに、訪問の頻度や時間、担当スタッフなどが調整されます。自宅で医療処置を継続しながら生活支援も必要な場合は、医療保険と介護保険の利用を組み合わせる形になります。

主治医、看護師、ケアマネジャー、リハビリスタッフなど多職種が連携するため、こまめな情報共有が大切です。

次の整理が役立ちます。

書類の名称該当保険内容
訪問看護指示書医療保険主治医が記入。病状や必要処置、訪問頻度などを記載
ケアプラン介護保険ケアマネジャーが作成。要介護度に応じたサービス内容や頻度を定義
主治医意見書介護保険要介護認定を受ける際に主治医が記載。症状や予後などを説明

サービス提供までの具体的な流れ

医療保険の場合は、まず主治医と相談し、訪問看護指示書を受け取り、看護ステーションと契約する流れが一般的です。看護ステーションとの契約後に正式な訪問看護がスタートします。

介護保険の場合は、要介護認定の申請から始まります。認定結果が出たあと、ケアマネジャーと相談してケアプランを作成し、各事業所(訪問介護事業所やデイサービスなど)と契約してサービスを開始します。

いずれの場合も、以下の順序を踏むことが多いです。

●医療保険での訪問看護の例

  1. 主治医に相談
  2. 訪問看護指示書の作成
  3. 看護ステーションを決定・契約
  4. サービス開始・定期的なモニタリング

●介護保険での訪問サービスの例

  1. 市区町村に要介護認定を申請
  2. 認定調査と主治医意見書の手続き
  3. 認定結果の通知(要支援・要介護度の確定)
  4. ケアマネジャーとケアプランの作成
  5. 事業所と契約
  6. サービス開始・定期的なモニタリング

費用負担と給付の仕組み

在宅でサービスを受ける場合、経済的負担をどうするかも大きな課題です。医療保険と介護保険それぞれで自己負担割合や給付の仕組みが異なるため、制度を正しく理解しておくと負担を軽減しやすくなります。

この項目では、医療費の計算方法や介護サービスの費用構造、さらに世帯収入や各種控除制度に関する情報を詳しく見ていきます。

医療費の計算方法と高額療養費制度

医療保険の自己負担は年齢と所得で1~3割に分かれます。たとえば、70歳未満で標準報酬月額が高い方は3割負担、75歳以上の後期高齢者は原則1割負担です。一部の高所得者は2割または3割になるケースもあります。

医療機関や訪問看護ステーションなどに支払う医療費が高額になる場合、高額療養費制度を使えば自己負担の上限が決まります。月ごと、世帯合算も含めて計算し、上限を超えた部分は後から払い戻される仕組みです。

あらかじめ健康保険の窓口で限度額適用認定証を発行してもらうと、医療機関での支払いを抑えることもできます。

在宅療養では、外来や入院を減らして通院交通費などを削減できる利点がありますが、医療機器や看護の費用がかさむ可能性もあります。事前に大まかな費用見通しを立てておき、高額療養費制度の活用を検討することが大切です。

次の例を参考にしてください。

年齢・所得区分自己負担割合高額療養費制度の自己負担上限例(1か月)
70歳未満、一般所得層3割約8万円+α(収入に応じて細かく変動)
70~74歳、一般所得層2割外来の上限約1万8千円、世帯合算約5万7千円程度
75歳以上(後期高齢者)、一般所得層1割外来の上限約1万8千円、世帯合算約2万4千円程度

※あくまでも一例であり、正確な金額は個別に確認が必要

介護サービスの費用構造

介護保険サービスを利用する場合、要介護度ごとに設定された支給限度額の範囲内であれば1~3割の自己負担になります。

例えば、要介護1の方は1か月あたりのサービス費用が一定額(地域加算や特別加算を除く)までなら自己負担は1~3割で済みますが、その枠を超えた部分は全額自己負担です。

また、施設サービスを使う場合は食費や居住費(部屋代)が別途発生します。特別養護老人ホームや有料老人ホームなどでは、施設のタイプや居住形態(個室か多床室か)によって費用が変わります。

低所得者向けの減免措置や補足給付があるため、該当する方は自治体に問い合わせるとよいでしょう。

下に要介護度ごとの支給限度額の目安を簡単に示します。

要介護度1か月あたりの支給限度額(目安)
要支援1約5万円
要支援2約10万円
要介護1約16万円
要介護2約19万円
要介護3約27万円
要介護4約31万円
要介護5約36万円

これらは1割負担の場合で、2割または3割負担に該当する方は自己負担額が2倍、3倍になる点に注意が必要です。

世帯収入による負担割合の違い

医療保険・介護保険ともに、世帯収入が一定以上ある場合は自己負担割合が高く設定されることがあります。とくに介護保険では、年間所得や年金収入の状況によって1割負担ではなく2割、3割になる例が増えています。

医療保険においても、後期高齢者医療制度に加入している方の中で課税所得が一定額を超えると2割負担、3割負担になることがあります。

したがって、年齢だけでなく所得状況も含めて、実際の自己負担をシミュレーションしておくことが大切です。

次の内容を確認してください。

制度負担割合が変わる要因
後期高齢者医療制度被保険者の課税所得に応じて1割→2割または3割
介護保険世帯や本人の所得水準、年金収入額で1割→2割または3割

所得区分は自治体や保険者によって具体的な基準が異なる場合があるため、最新の情報を問い合わせると正確です。

各種控除制度の活用方法

医療費控除や障害者控除、医療費の税額控除など、税制面でも負担を軽減する仕組みがあります。

医療費控除は、年間の医療費が一定額(10万円または所得の5%のどちらか低い額を超えた分)を支払った場合に、その超過分が所得から控除される制度です。

また、障害者控除は身体障害者手帳や特定疾病による認定を受けている方に適用される場合があります。在宅医療や介護保険サービスの利用費用も、状況によって控除対象になる場合があります。

控除制度を使うには領収書やレシートなどの証拠書類をきちんと保管し、確定申告の際に申告する必要があります。大きな金額になると納税額に影響するため、漏れなく活用することがポイントです。

制度の使い分けとポイント

医療保険と介護保険の違いを理解したら、実際にどちらを使うかを検討する段階になります。年齢や病状、要介護度、家族のサポート体制など、状況によって判断基準は大きく変化します。

この項目では、制度の使い分けや注意点を整理し、支援窓口や制度改正の動向にも触れながら、よりよい在宅療養プランを考えるためのヒントを紹介します。

年齢による適用の違い

65歳以上で要介護認定を受ければ、介護保険が中心になることが多いです。ただし、病状が重く医療的管理が必要であれば、医療保険の訪問看護や訪問診療が重要になります。

40~64歳の方の場合、特定疾病があるならば介護保険の利用を検討できますが、それ以外は医療保険がメインです。若い世代でも難病などで医療保険を使って在宅療養を続けるケースがあります。

75歳以上は後期高齢者医療制度の対象となり、医療保険の自己負担割合が1~3割に分かれます。一方で介護保険の第1号被保険者なので、要介護認定を受ければ介護保険サービスも併用できます。

次のまとめが参考になります。

年代主な適用保険
0~39歳医療保険(健康保険または国民健康保険)
40~64歳医療保険が主。特定疾病があれば介護保険も利用可能
65~74歳医療保険と介護保険の両方で状況によって使い分け
75歳以上後期高齢者医療制度+介護保険(要介護認定を受けた場合)

病状や要介護度による選択

病状が安定しない、医療処置を頻繁に行う必要がある方は医療保険の訪問看護を受けるほうがメリットが大きいでしょう。人工呼吸器や点滴、創傷処置など、専門的なケアを必要とする場合も同様です。

一方で、要介護認定を受けた高齢者が、生活支援や日常の介護を中心に求めるならば介護保険が適しています。たとえ軽微でも医療的行為が含まれるならば、併用によって効果的に支援を受けることが可能です。

要介護度が高くなると、介護保険の利用枠が拡大しますが、それでも医療行為が必要なときは医療保険を使うほうがスムーズに対応できます。どこで治療行為が発生し、どこで日常生活の介護が必要になるかを明確にしておくと判断しやすくなります。

●在宅療養の選択肢例

  • 要介護3だが呼吸器管理が必要 → 介護保険でヘルパーやデイサービス、医療保険で訪問看護
  • 要介護1で認知症が進行 → 介護保険で通所介護や訪問介護、必要に応じて医療保険で訪問診療

効果的な併用のための注意点

医療保険と介護保険のサービスを重複して同じ目的で使うことは原則として認められていません。たとえば、同じ時間帯に訪問看護と訪問介護が重なる形で提供を受けるのは避けるべきです。

サービスが二重請求にならないように、ケアマネジャーや主治医、看護ステーションが連絡を取り合い、役割分担を明確にすることが重要です。

急性期は医療保険、状態が安定してきたら介護保険をメインにするなど、体調やライフステージに合わせた使い分けを行うと負担を抑えやすくなります。

次の表は、医療保険と介護保険を併用する際の例を簡潔にまとめたものです。

状況医療保険介護保険
がん末期で疼痛コントロールが必要 + 食事や入浴補助も必要訪問看護(麻薬管理や創傷処置)訪問介護(入浴や食事などの日常生活支援)
脳卒中後遺症でリハビリが必要 + 自宅での生活援助も必要訪問リハビリ(医療保険)ヘルパーの利用(介護保険)

併用時には、担当者間の情報共有が大切です。

相談窓口と支援体制

制度の詳細や具体的な利用手順を知りたい場合、市区町村の介護保険担当窓口、地域包括支援センター、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなど、いくつかの相談先があります。

医療機関や訪問看護ステーションでも、医療保険・介護保険の違いについてアドバイスを得られることが多いです。

在宅療養は、ひとつの機関だけで完結するわけではなく、多方面との連携が欠かせません。わからない点を抱えたまま進めると、サービスを十分に活用できずに終わる可能性があるため、遠慮なく専門家に相談することが大切です。

●主な相談先の例

  • 市町村の介護保険課や高齢福祉課
  • 地域包括支援センター(高齢者を総合的にサポート)
  • ケアマネジャー(介護保険サービスの専門家)
  • 医療ソーシャルワーカー(入院中や通院中に相談できるケースが多い)

将来的な制度改正の動向

高齢化の進行に伴い、医療費や介護費の財政的負担が増大していることから、医療保険・介護保険の制度は定期的に見直しが行われています。自己負担割合が変化したり、サービス内容や報酬単価が改定されることも考えられます。

将来的には、医療と介護の連携をより強化する方針が打ち出される可能性が高く、自宅での看取りや在宅でのリハビリなど、住み慣れた地域で最後まで生活を続けるための施策が充実する方向に進むと想定されています。

そのため、在宅医療を検討する方は、変更があった際に最新情報をキャッチアップする意識が必要です。

今回の内容が皆様のお役に立ちますように。

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この記事を書いた人

新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 所長

医師
医療法人社団あしたば会 理事長
富士在宅診療所 所長
順天堂大学医学部卒業(2001)
スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
USMLE/ECFMG取得(2005)
富士在宅診療所開業(2016)

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