超高齢社会に突入した日本では、高齢者同士が支え合う老老介護が増えています。介護負担や地域格差など多様な課題を抱える中、在宅で医療を受けられる訪問診療が注目を集めています。
この記事では、老老介護の現状と背景、そして訪問診療の基礎知識や導入事例などを順に解説し、介護者や家族が安心して暮らすためのさまざまなヒントを探ります。
訪問診療の仕組みを理解し、地域との連携や支援制度を活用することによって、家族の負担を減らしながらよりよい介護環境を整える一助になれば幸いです。
老老介護の現状と背景
高齢者同士が支える老老介護は、社会の高齢化が進むにつれてさらに注目を浴びています。夫婦や兄弟姉妹など、双方が高齢であるため、身体的にも精神的にも負担が大きいと感じる方が多くいるようです。
介護を担う側も受ける側も同じ世代であるがゆえの複雑さがあり、それが社会的課題として顕在化しています。
ここでは、その定義や実態、そして家族介護をめぐる課題や地域格差に着目して、老老介護をとりまく現状を整理します。
老老介護の定義と現状
夫婦ともに65歳以上の世帯で、一方が介護を必要とし、もう一方が介護を提供している状況を「老老介護」と呼ぶことが多いです。
さらに夫婦ともに認知症の状態にある場合は「認認介護」と呼ぶこともあります。いずれのケースでも、当事者同士での負担感が高まる一方、外部からの支援が十分に行き届きにくい状況がみられます。
介護者自身の健康リスクを考えると、老老介護の家庭では次のような点が大きな課題になります。
- 介護する側も持病や体力低下などの不安を抱えている
- 夫婦間での精神的な支えがありながらも、深刻な疲労を感じやすい
- 周囲に相談できるコミュニティが限られている
いったん介護が必要になると、介護者と被介護者が共倒れの状態になりかねないため、医療サービスの活用や適切な公的支援が重要だといえます。
健康状態や要介護度の変化をきちんと把握するために、家庭内で以下のような確認事項を設定する動きも増えています。
項目 | 内容 |
---|---|
起床・就寝時間 | 睡眠時間が短すぎたり長すぎたりしないか |
食事の内容・回数 | 栄養が偏っていないか、食欲はあるか |
服薬管理 | 飲み忘れや重複服用がないか |
コミュニケーションの頻度 | 会話が減って気分が落ち込んでいないか |
こうした日常のチェックポイントによって、身体や精神の変化に早めに気付きやすくなり、必要に応じて医療や介護サービスにつなげることが可能になります。
高齢化社会と介護の実態
日本における高齢化の進展は急速です。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は年々増加傾向にありますが、その背景には以下のような要因があります。
- 平均寿命の延伸による高齢者人口の増加
- 出生率の低下による若年層の減少
- 地方から都市部への人口移動による地域の過疎化
こうした社会構造の変化に伴い、要介護者も増え、必然的に在宅介護や施設介護のニーズが高まっています。介護施設が不足する地域では在宅介護が中心となり、そこに老老介護が組み合わさることで、より厳しい介護環境が生じることも少なくありません。
また、高齢者の増加に対し、介護職従事者や医療専門職の数が追いつかず、介護サービスや訪問看護サービスを利用しようとしても待ち時間が発生することがあります。
この点は地域によって格差があり、都市部よりも地方や離島部などで深刻化する傾向がみられます。
介護保険制度を活用することで、訪問介護やデイサービスなどの在宅介護サービスを受けやすい環境を整えることはできます。しかし、利用者数の増加により、医療と介護の連携が進みにくいケースもあり、訪問診療のような医療面のサポートがさらに注目を集めています。
社会的な変化に伴う支援体制の拡充が待たれる中で、訪問診療の体制づくりや医療連携の在り方が大きな課題となっています。
家族介護の負担と課題
家族が在宅で介護を行う場合、時間的・経済的な負担が日常的に発生します。特に老老介護では、介護者自身が高齢であるため、体力的な限界を感じやすく、下記のような問題に直面しやすいです。
- 介護者の心身の疲労が慢性化する
- 外出しづらくなり社会とのつながりが薄れる
- 収入が減って家計が不安定になる
家族介護の負担を軽減するには、介護保険サービスや地域包括支援センターの活用が有効です。
住まいの近くに相談できる拠点があると、自宅にいながら訪問診療やデイサービスを取り入れられるため、老老介護の維持が少し楽になる場合があります。
とりわけ、訪問診療を利用して医師の定期的なアドバイスを得ると、早い段階で病気の悪化を防ぐことや緊急時の対処法を把握できるので、家族の負担感も和らぎやすくなります。
利用できるサービスを見極める際には、対象者の要介護度や生活状況を踏まえるとともに、以下のような点を整理する方法が便利です。
項目 | チェックポイント |
---|---|
要介護度 | 要支援か要介護か、区分は何か |
通院状況 | 既にかかりつけ医があるか、通院頻度はどれくらいか |
介護者の負担度 | 1日の介護時間や休息の取り方 |
経済状況 | 介護保険利用料の自己負担分や医療費の捻出 |
このような情報を整理しておくと、医療機関や介護支援専門員との相談がスムーズになります。
地域格差と支援体制の現状
都市部と地方では、医療や介護サービスに対するアクセスに大きな差があります。人口が多い都市部でもサービスの供給は多いものの、利用者数の増加によって予約が取りにくい状況が生じることがあります。
一方、地方や離島などではそもそも医療機関の数が不足し、高齢者が通院するだけで一苦労というケースも少なくありません。
訪問診療を受けたくても、担当できる医療機関が限られている地域では、複数の医師や事業者を探さなければならず、結果的にサービスの導入が遅れる事態につながります。
こうした地域格差を緩和するために、市町村単位で訪問診療に関する情報を一元化し、住民が相談しやすい窓口を整備する取り組みが進んでいます。
さらに、地域密着型の介護施設や小規模多機能型居宅介護のように、柔軟に対応できるサービスがある地域では、老老介護の負担を軽減する可能性が高まります。
ただし、実際に活用するには家族や本人がサービス内容をよく理解した上で、医療チームとの連携についても検討していく必要があります。
訪問診療の基礎知識
訪問診療は、自宅へ医師が出向き医療行為を行うサービスです。病院へ通院しづらい方にとって、負担を軽減する有力な選択肢になります。高齢者や、老老介護の世帯にとって重要なサポート手段として注目されています。
ここでは訪問診療の概要や、在宅医療との違い、提供される主なサービスなどを具体的に解説し、家庭での介護にどのように役立つのかを考えてみましょう。
訪問診療の概要
訪問診療とは、医師が定期的に自宅を訪問し、健康状態の確認や治療行為を行う仕組みです。
病院に通うことが難しい要介護者や重度の障害を抱える方などが利用するケースが多いですが、老老介護の現場でも適した形で活用できます。月に複数回の往診を行い、必要に応じて血液検査や点滴などの医療行為も実施可能です。
利用にあたっては主治医の診断や、要介護度の評価が参考になります。
介護保険と医療保険を組み合わせて利用するため、経済的な面でも助かる仕組みがあります。ただし、制度の活用方法や費用負担のしくみはわかりにくい部分もあるので、ケアマネジャーや担当医と相談して決めると安心です。
訪問診療を活用すると、通院のための移動が不要になり、老老介護の世帯にとっては大きなメリットとなります。また、医師が家庭環境を直接把握できるため、症状だけでなく生活背景を考慮した柔軟な診療が期待できます。
サービスの利用を開始する前には、対象者と家族で以下のような点を検討するとよいでしょう。
- 定期的な往診の頻度はどのくらいが必要か
- 緊急時に来てもらえる体制はあるか
- 夜間・休日の対応はどのようになっているか
これらを明確にした上で、医療機関と契約するとスムーズです。
在宅医療との違い
訪問診療と在宅医療はしばしば混同されがちですが、在宅医療は医療行為だけでなく、リハビリテーションや訪問看護、訪問薬剤管理なども含む幅広い概念です。
一方、訪問診療は医師や歯科医師の往診による診療行為を指す場合が多いです。
下のまとめを参考にすると、それぞれの特性を把握しやすくなります。
項目 | 訪問診療 | 在宅医療 |
---|---|---|
主な目的 | 医師による診療、治療 | 多職種連携によるケア全般 |
提供者 | 医師(歯科医師) | 医師、看護師、理学療法士など |
対象 | 通院が困難な方 | 要介護者から末期患者まで幅広い |
保険 | 医療保険が中心 | 医療保険+介護保険の組み合わせが多い |
両者は重なる部分もありますが、在宅医療のほうが包括的なサービスを想定しています。その中で医師の診察を定期的に行う形が訪問診療と考えるとわかりやすいかもしれません。
老老介護の場では、本人の病状や生活状況に合わせて、柔軟に使い分けることが大切です。
提供される主なサービス
訪問診療では、病院や診療所で受けられる診療行為のうち、自宅でも行えるものを幅広くカバーします。具体的には以下のようなサービスが該当します。
- 問診と診察
- 血液検査や尿検査などの検体検査
- 点滴や注射などの処置
- 褥瘡(床ずれ)などの処置やケア指導
- 病状の悪化や合併症を予防するためのアドバイス
- 在宅酸素療法や人工呼吸器管理などの高度な医療対応
これらのサービスを通じて、老老介護の世帯でも専門的な医療行為を家庭で受けられるようになります。緊急時には訪問診療を行う医療機関と連絡を取り、必要な場合は入院先の手配をスムーズに進めることもできます。
高齢者の多くは複数の慢性疾患を抱えているケースが多いので、こうした検査や処置の定期的な実施と管理は非常に重要です。
血圧や血糖値のコントロールをこまめに行い、合併症を防ぐ意識を高めるだけでも、老老介護における負担軽減に大きく寄与します。
医療チームの役割分担
訪問診療を実践するには、医師だけでなく、看護師、薬剤師、リハビリ専門職(理学療法士など)、栄養士、ケアマネジャーといった多職種が関わることが多いです。それぞれが専門的な知識を生かし、下のような役割分担で協力します。
専門職 | 主な役割 |
---|---|
医師 | 診察・治療の方針立案、処置や投薬の実施 |
看護師 | バイタルサインのチェック、傷の処置、日常ケアの指導 |
薬剤師 | 薬の調剤や服薬指導、薬の飲み合わせ確認 |
リハビリ専門職 | 運動機能の維持・向上のための訓練指導 |
栄養士 | 食事計画の提案や栄養管理 |
ケアマネジャー | 介護保険サービスの計画立案、調整、アドバイス |
老老介護の現場では、これらの専門職が連携を密に取ることで、介護者だけに負担が集中しない体制を目指せます。定期的なカンファレンスを開き、利用者の状態変化を共有しながらプランを見直すことが望ましいです。
訪問診療が支える老老介護の役割
老老介護においては、介護者と被介護者がともに高齢であることから、急激な体調変化や精神的ストレスが生じやすい傾向にあります。
訪問診療は、そうした負担を和らげながら、家庭での生活を維持できるようサポートする役割を担います。
ここからは、安心感や緊急時の対応、慢性疾患の管理、家族への心理面のサポートといった観点から、訪問診療がどのように老老介護を支えるのかを見ていきましょう。
安心感と自立支援の促進
訪問診療があると、医師が定期的に訪問してくれるため「いつでも相談できる」という安心感が高まります。老老介護の特徴として、介護者自身も体調を崩しやすいことが挙げられます。
自宅での暮らしを継続するうえで、両者が互いに無理をしすぎないバランスをとるためにも、医療専門職との定期的なコミュニケーションが重要です。
訪問診療では、身体的な問題だけでなく、精神的な負担の状況も確認します。たとえば、不眠やうつ症状の兆候があれば早期に対策を講じることで重症化を防ぎやすくなります。
介護者と被介護者双方の健康状態をチェックしながら、日常生活での自立度を少しでも高める工夫を行うことで、長期的な介護体制を維持しやすくなります。
下のように、どのような点で安心感が得られるのかをまとめることで、訪問診療の有用性がわかりやすくなります。
項目 | 安心感の内容 |
---|---|
定期診療 | 小さな体調変化にも気づきやすい |
医療連絡体制 | 緊急時の連絡先が明確 |
家族サポート | 介護者の状態や不安を定期的に聞ける |
精神面のケア | 不眠やうつなどの対処策を相談できる |
このような安心感は、老老介護を長期的に続けるうえで大変大切です。
緊急時の迅速な対応
老老介護では、被介護者だけでなく介護者が急に体調を崩す場合もあるため、緊急時にどのような対応ができるかを事前に考えておく必要があります。
訪問診療を利用していれば、主治医が家庭の状況を把握しているため、緊急連絡を受けた際に適切な判断を下しやすくなります。
具体的には、夜間や休日に対応できる医療機関と連携しているケースが多いので、突然の発熱や転倒、呼吸困難などが起こった場合でも、電話相談から始めて、必要があれば早急に往診や救急車の手配を行えます。
- 訪問診療医がいない時間帯の連絡窓口
- 連絡後の対応フローや、かかりつけ医への情報伝達手順
- 持病や常用薬のリストを整理しておく
こうした事前準備をしておくと、いざというときに混乱せず対応できます。老老介護では、症状の変化を見落としがちになる場合があるため、医療者と共同で緊急時のマニュアルを作っておくことも役立ちます。
慢性疾患管理の強化
高齢者は高血圧、糖尿病、心臓病、認知症など複数の慢性疾患を抱えることが多く、その管理が長期的な課題になります。訪問診療を利用すれば、自宅で血圧測定や血液検査などを行い、数値の変化をこまめに追うことが可能です。
症状に合わせて投薬内容を調整したり、日常生活の中で気をつけるポイントを医師と相談したりできるのは、通院の負担が大きい老老介護世帯にとって大きなメリットです。
また、食事や運動習慣の指導は家で実践しやすい内容が求められます。訪問診療の医師や看護師が、実際の生活空間や食卓を見ながらアドバイスを行うと、より現実的なプランを立てやすくなります。
老老介護では、双方が無理のない形で生活リズムを作ることが大切なので、専門家の目から見たアドバイスを取り入れる価値は高いです。
下のような視点で慢性疾患管理を行うと、入院や重篤化を防ぎやすくなります。
項目 | 管理の具体例 |
---|---|
薬物療法 | 毎日の服薬スケジュール確認 |
栄養管理 | 塩分や糖分の摂取量を食事記録でチェック |
運動習慣 | 転倒予防を考慮した軽度な体操 |
メンタルケア | ストレスや気分の落ち込みを定期的にヒアリング |
こうしたこまめなサポートが、老老介護の負担を軽くするうえでも重要です。
家族への心理的サポート
老老介護における家族への支援は、医療行為だけでなく心理面のフォローも重要になります。高齢の配偶者や兄弟姉妹が介護を担う際には、思うように動けない自分への苛立ちや、被介護者の症状が進んでいくことへの不安を抱きやすいです。
訪問診療では、医師が介護者の体調を尋ねながら、必要に応じて睡眠や栄養面のアドバイスをすることで、家族の健康状態を見守ることができます。
看護師などが定期的に訪問するときにも、ちょっとした悩みを話せる相手がいるだけで気が楽になるという声も多いです。
また、介護する側とされる側のコミュニケーションがうまくいかず、互いにストレスを溜め合うこともあります。そのような場合は、地域包括支援センターやケアマネジャーとの面談を組み合わせ、問題の根本を一緒に整理する方法もあります。
訪問診療がもたらす安心感は、医療面だけに限りません。家族全体が「困ったときに頼れる先がある」と思うことで、介護を継続しやすくなるのです。
実践事例と導入のポイント
訪問診療を実際に導入している家庭では、老老介護の負担を軽減しながら、できる限り普段どおりの生活を送る工夫を凝らしています。
成功事例から学べることは多く、導入時のプロセスや注意点を理解すると、スムーズに訪問診療を始めやすくなります。費用面や運用面に関しても、あらかじめ把握しておくことで、不安を軽減しながら導入のハードルを下げることができます。
成功事例に学ぶ訪問診療
ある高齢夫婦の事例では、妻が要介護2、夫が要介護1という状況で、夫が妻の介護を行う老老介護が続いていました。妻は慢性心不全を抱えており、通院が困難でしたが、訪問診療を導入した結果、次のようなメリットが得られたといいます。
- 定期的な血液検査と心電図モニタリングで病状が安定
- 緊急時に心不全の兆候があった際、夜間の往診と入院手配が迅速に実施
- 夫自身の高血圧管理にもアドバイスをもらい、生活改善につなげた
- 夫婦だけではなく、家庭を訪れる看護師などの専門職とも顔なじみになり、孤独感が減った
この事例では、訪問診療を通じて夫婦の健康管理を一緒に行う体制が整い、入院リスクの軽減と介護負担の分散につながりました。
次のポイントを意識したことが、成功の秘訣として挙げられています。
- 近所にある内科クリニックをかかりつけ医にして、まず相談した
- ケアマネジャーとも連携し、訪問診療医を紹介してもらった
- 夫婦の日常生活スケジュールを医療チームが把握しやすいよう記録をつけた
こうした取り組みが、訪問診療を効果的に活用する手助けとなったそうです。
導入プロセスと留意点
訪問診療を導入する流れは、概ね次の手順を踏む場合が多いです。
- かかりつけ医や地域包括支援センターに相談
- ケアマネジャーや在宅診療に対応する医療機関との連絡調整
- 医師が本人の状態を確認して具体的な診療計画を策定
- 契約や費用の説明を受けた上で正式に利用開始
注意すべきは、家族や本人がサービスの内容や費用負担について十分理解することです。とりわけ、老老介護世帯では家事や生活全般の管理に負担がかかっているため、訪問診療の打ち合わせに時間を割くのも大変かもしれません。
しかし、最初にしっかりと話し合いを行い、どの程度の頻度で往診を行うか、緊急時の連絡手段をどうするかなどを明確にしておくと、あとあとトラブルを防げます。
また、訪問診療だけでなく、訪問看護や訪問リハビリ、訪問介護などを組み合わせることで、より包括的な支援体制を整えやすくなります。
サービスの組み合わせによって費用や利用限度額が変わるため、ケアマネジャーと一緒に計画を立てると安心です。
コストと運用の実態
訪問診療の費用は、医療保険または介護保険の適用によって変わります。一般的には医療保険が中心ですが、介護保険との併用が可能なケースもあります。
高齢者の場合、高額療養費制度や後期高齢者医療制度などの恩恵を受けられる場合があるので、実質的な負担額は通院と比べて大きくなり過ぎないことがあります。
家計への負担を具体的にイメージするために、ある平均的な事例を見てみます。
項目 | おおよその金額例 |
---|---|
月に2回の訪問診療 | 3割負担で月額19,000円~21,000円程度 |
検査や点滴など | その都度追加費用(保険適用の範囲内) |
往診加算や医療管理料 | 症状や処置内容により異なる |
交通費 | クリニックによっては別途請求 |
あくまで一例ですが、通院のための交通費や移動時間の負担などを総合的に考えると、訪問診療のメリットは大きいと考える方もいます。また、医師や看護師との距離が近くなることで、精神的な負担感が軽減するという声もあります。
なお、訪問診療の利用を続けるうえでは、医療チームとのコミュニケーションが欠かせません。月々の費用が思ったより高いと感じたら、どの検査や処置が加算されているかを確認したり、頻度の調整を検討したりすることが必要です。
老老介護世帯では年金収入など限られた経済状況の場合が多いので、納得できるプランを構築するためにも、遠慮せず相談する姿勢を持つことが大切です。
未来展望と今後の課題
老老介護の増加に伴い、訪問診療や在宅医療に対するニーズは今後さらに高まると予想されています。医療者や行政、地域が連携を深めることで、より多様な高齢者のニーズに応じられる体制づくりを進めていくことが望まれています。
以下では、技術革新や政策、地域包括ケアの観点から、今後どのような取り組みが期待されるのかを考えてみます。
技術革新と医療連携の進展
遠隔医療の技術が進歩し、オンラインで医師と相談できる環境が整いつつあります。
高齢者が自宅でタブレット端末やモニター越しに医師と対話し、血圧や心電図データを送信することで、日常的な健康チェックを行う取り組みも始まっています。
訪問診療と組み合わせれば、より柔軟な医療連携が可能になり、地域の病院や専門医との情報共有も効率化するでしょう。
ただし、高齢者が機器を扱うことへのハードルや通信環境の問題など、課題も残されています。老老介護のように家族全員が高齢の場合、ICT機器の操作を誰が担うのか、使い方をどう学ぶのかといった問題が出てきます。
そのため、技術だけでなく、支援者によるサポート体制も同時に整えなければ利用者の負担が大きくなってしまう恐れがあります。
政策動向と支援制度の拡充
政府や自治体は、高齢化に対応するための政策を次々と打ち出しています。医療と介護の連携を推進する地域包括ケアシステムは、その代表的な取り組みです。
訪問診療をはじめとした在宅医療の充実に向け、診療報酬の見直しや、地域医療を担う医師の確保策が進められています。
また、医療保険と介護保険をさらに連動させることで、利用者がサービスを選択しやすくなるしくみづくりが検討されています。ただ、制度が複雑になりすぎると当事者の混乱を招く恐れがあるため、わかりやすい情報提供と専門家によるサポート体制が求められます。
老老介護の当事者は、手続き自体を負担に感じる場合が少なくありません。役所や病院、介護事業者など、どこに相談すればいいのかを明確に示すガイドラインの整備が期待されています。
地域包括ケアの実現に向けて
地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で自分らしい生活を続けながら、必要な医療・介護・生活支援を受けられる体制を指します。多職種が連携し、本人の意向を尊重しながら、訪問診療や訪問介護といったサービスを調和させることが目的です。
老老介護の家庭においては、地域とのつながりが薄れると孤立感が高まりやすく、介護状態が深刻化しやすい傾向にあります。地域の中で顔見知りの支援者が増えたり、通いの場や交流スペースが活用できたりすれば、家族の心理的負担も軽くなるかもしれません。
そのため、訪問診療だけでなく、地域で実践されている高齢者向けの集いの場などと連動することも大切です。
専門的な医療行為と、地域コミュニティによる見守りが融合すれば、老老介護への対応がさらにしやすくなるでしょう。医療機関や行政だけではなく、NPOやボランティア団体、自治会なども含む多様な主体が連携することが、今後の課題となります。
今後の課題と展望
訪問診療の重要性が高まる一方で、人手不足や制度の不透明さなど、解決すべき課題が残っています。医師や看護師の確保が難しい地域では、訪問診療を希望しても十分に利用できないことがあるのです。
今後は、都市部と地方の格差を埋めるための施策や、遠隔診療の活用、若手医師の地域定着を図るための支援などが進むことが期待されます。
また、訪問診療に対する理解不足から、「在宅で十分な医療を受けられないのではないか」という懸念や、「費用が高いのではないか」という誤解が広がる場合もあります。
自治体やメディアを通じて、訪問診療の有用性や制度について積極的に情報を発信し、老老介護を含む在宅介護世帯の不安を解消していく取り組みが求められます。
既に訪問診療を利用している世帯での経験談を共有する場も必要です。実際の導入体験や費用についての具体的な情報が広がれば、これから導入を検討する人々にとって安心材料となるでしょう。
訪問診療のさらなる普及と質の向上によって、老老介護の現場が少しでも明るいものになることを願うばかりです。
よくある質問
訪問診療の利用を検討する段階で、さまざまな疑問を抱く方が多くいらっしゃいます。導入をスムーズに進めるために、代表的な質問と回答をいくつか挙げます。
- 訪問診療と往診は同じ意味ですか?
-
一般的に、定期的に医師が家庭を訪れて医療行為を行うものを訪問診療と呼びます。往診は急患対応など単発で行うケースを指すことが多いです。定期的な診療か臨時の診療かという違いがあると考えてください。
- 費用が高くならないか心配です。どう考えればいいですか?
-
医療保険や後期高齢者医療制度を利用するため、通院と比べて極端に高額になるとは限りません。自立支援医療や高額療養費制度など、個々の状況に応じた負担軽減策もあります。
担当医やケアマネジャーと相談しながら、負担額を試算してみてください。
- どの段階で訪問診療を始めればいいのでしょうか?
-
通院が難しくなったと感じたり、介護者の負担が大きいと感じたりする段階で早めに相談するとよいでしょう。要介護度が低い段階から利用を検討することで、症状の悪化を防ぎやすくなる場合もあります。
- 対応エリア外の場合は利用できませんか?
-
医療機関ごとに対応エリアの範囲が異なります。
対応エリア外でも、ほかの医療機関との連携で往診可能なケースもあるので、まずは地域包括支援センターやケアマネジャー、かかりつけ医に相談してみてください。
- 医師だけでなく看護師や薬剤師にも相談できますか?
-
訪問診療では、多職種が連携するケースが多いので、看護師や薬剤師の訪問が組み合わされることがあります。投薬管理や床ずれ対策など、専門家のサポートが必要な場合には遠なく相談するとよいでしょう。
今回の内容が皆様のお役に立ちますように。