訪問リハビリの「介護保険優先の原則」とは?医療保険が適用される例外ケース

訪問リハビリを利用しようとしたとき、「介護保険と医療保険のどちらを使えばいいの?」と迷う方は少なくないようです。
日本の制度では「介護保険優先の原則」があり、要介護認定を受けている方は基本的に介護保険が適用されます。
ただし、厚生労働大臣が定める疾病に該当する場合や、急性増悪で特別訪問看護指示書が交付された場合などは、例外的に医療保険が使えるケースがあります。
この記事では、介護保険優先の原則の仕組みから、医療保険が適用される具体的な例外ケースまでを丁寧に解説します。ご自身やご家族の状況に照らし合わせながら、読み進めてみてください。
訪問リハビリで「介護保険が優先される」仕組みは法律で決まっている
介護保険と医療保険の両方に該当するサービスを受ける場合、介護保険を先に適用しなければならないと法律で定められています。
訪問リハビリも例外ではなく、要介護認定を受けている方は原則として介護保険での利用になります。
そもそも「介護保険優先の原則」とは何か
介護保険優先の原則とは、介護保険と医療保険の両方で提供できるサービスについて、介護保険を優先的に適用するという制度上のルールです。健康保険法や介護保険法に基づいて運用されています。
たとえば訪問リハビリは、医療保険でも介護保険でも提供される場合があります。しかし要介護認定(要支援認定を含む)を受けている方がこのサービスを利用するときは、まず介護保険から給付を受ける仕組みになっているのです。
なぜ介護保険が医療保険より優先されるのか
介護保険制度は2000年にスタートし、高齢者の介護を社会全体で支えることを目的に創設されました。それ以前は医療保険が介護的なサービスもカバーしていたため、医療費が膨張する一因となっていたのです。
| 比較項目 | 介護保険 | 医療保険 |
|---|---|---|
| 主な対象者 | 65歳以上(第1号被保険者)、40〜64歳の特定疾病該当者 | 年齢を問わず加入者全員 |
| 目的 | 日常生活の自立支援・維持向上 | 疾病やケガの治療・回復 |
| リハビリの特徴 | 生活期リハビリが中心 | 急性期・回復期リハビリが中心 |
| 利用の条件 | 要介護(要支援)認定が必要 | 医師の指示が必要 |
要介護認定を受けていない方は医療保険で訪問リハビリを利用できる
40歳未満の方はそもそも介護保険に加入していないため、訪問リハビリを利用する場合は医療保険が適用されます。40歳以上65歳未満の方でも、16特定疾病に該当せず要介護認定を受けていなければ同様です。
65歳以上であっても要介護認定の申請をしていない方、あるいは「非該当」と判定された方は、医療保険での訪問リハビリが選択肢となります。
つまり、介護保険優先の原則はあくまで「要介護認定を受けている方」に対して適用されるルールです。
介護保険の訪問リハビリと医療保険の訪問リハビリはここが違う
同じ「訪問リハビリ」という名称でも、介護保険と医療保険ではサービスの目的や利用回数、費用負担の仕組みが異なります。どちらの保険で利用するかによって、リハビリの進め方が変わってきます。
介護保険の訪問リハビリは生活期の自立支援が中心になる
介護保険の訪問リハビリは、病気やケガの急性期を過ぎた方が自宅で自立した生活を送れるよう支援するサービスです。
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門職が自宅を訪問し、日常生活に直結した動作の訓練を行います。
たとえばトイレへの移動練習や入浴動作の訓練、家事動作のリハビリなどが代表的な内容です。ケアマネージャーが作成するケアプランに基づいて実施され、週6回(1回20分以上)が上限とされています。
医療保険の訪問リハビリは治療目的のリハビリに対応する
医療保険の訪問リハビリは、正式には「在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料」として算定されます。病気やケガの治療・回復を目的としたリハビリであり、通院が困難な方が対象となります。
医師の訪問診療を受けていることが原則として求められ、主治医の指示のもとで専門職がリハビリを提供します。急性期から回復期にかけてのリハビリに対応できる点が、介護保険との大きな違いです。
2019年以降は維持期リハビリが介護保険へ完全移行している
2018年度の診療報酬改定を経て、2019年4月から維持期・生活期のリハビリは医療保険から介護保険への移行が完全実施されました。
病院での維持期リハビリを受けていた方は、介護保険の通所リハビリや訪問リハビリへ移行する形となっています。
この移行により、医療保険でのリハビリは急性期・回復期に限定される傾向が強まりました。維持期以降の長期的なリハビリは介護保険で受ける流れが定着しています。
| リハビリの段階 | 適用される保険 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 急性期 | 医療保険 | 発症直後の機能回復促進 |
| 回復期 | 医療保険 | 身体機能の回復と社会復帰 |
| 維持期・生活期 | 介護保険 | 日常生活動作の維持・向上 |
要介護認定を受けていても医療保険で訪問リハビリを受けられる例外がある
介護保険優先の原則には例外が存在します。特定の疾病に該当する方や、病状が急変した方などは、要介護認定を受けていても医療保険で訪問リハビリや訪問看護を利用できるケースがあるのです。
例外ケースは大きく分けて4つある
医療保険が適用される主な例外ケースは次の4つに分類されます。まず、厚生労働大臣が定める疾病等(別表7)に該当する場合。次に、特別訪問看護指示書が交付された場合です。
さらに、65歳以上で要介護認定を受けていない方、そして40歳以上65歳未満で16特定疾病以外の疾病により訪問看護が必要な方も、医療保険での利用が認められます。
別表7の疾病と16特定疾病は混同しやすいので注意が必要
「別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)」と「16特定疾病」は名前が似ており、対象疾病の一部が重複しているため混同されがちです。しかし両者は制度上の役割がまったく異なります。
| 区分 | 別表7(疾病等) | 16特定疾病 |
|---|---|---|
| 制度上の効果 | 医療保険による訪問看護が適用される | 40〜64歳でも介護保険を利用できる |
| 対象疾病数 | 20疾病等 | 16疾病 |
| 適用保険 | 医療保険 | 介護保険 |
指定難病の受給者証を持っていても別表7に該当するとは限らない
難病医療費助成制度の対象は現在300以上の疾病に拡大されていますが、別表7に該当する疾病は20種類に限られています。
特定医療費受給者証をお持ちの方でも、別表7に含まれない疾病の場合は医療保険での訪問看護は適用されません。
「難病イコール医療保険」という思い込みで判断すると、あとから保険の適用が異なるケースもあり得ます。主治医やケアマネージャーに確認を取ることが大切です。
厚生労働大臣が定める疾病等(別表7)に該当すれば医療保険が適用される
別表7に記載されている20の疾病等に該当する方は、要介護認定の有無にかかわらず医療保険での訪問看護が適用されます。
週4日以上の訪問や1日複数回の訪問が可能になるなど、手厚いサービスを受けられる点が特徴です。
別表7にはどのような疾病が含まれているのか
別表7に該当する疾病等は、末期の悪性腫瘍をはじめ、多発性硬化症、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、パーキンソン病関連疾患(一定の重症度以上)など、主に進行性の神経・筋疾患が中心です。
このほかにプリオン病、亜急性硬化性全脳炎、ライソゾーム病、脊髄性筋萎縮症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、後天性免疫不全症候群、頸髄損傷、そして人工呼吸器を使用している状態も含まれます。
別表7に該当するとどんなメリットがあるのか
別表7に該当する方は、介護保険ではなく医療保険で訪問看護を受けるため、介護保険の支給限度額を圧迫しません。その結果、介護保険の枠を訪問リハビリや他の介護サービスに活用できるようになります。
加えて、医療保険の高額療養費制度が適用されるため、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。医療費が高額になっても一定額以上の負担は求められないのは、経済的に大きな安心材料でしょう。
別表7の疾病に該当するかどうかは主治医が判断する
自分の疾病が別表7に該当するかどうかは、ご本人やご家族の自己判断ではなく、主治医の診断に基づきます。
別表7の疾病名と自分の診断名が一致しているか、訪問看護指示書にどのように記載されているかが判断材料となります。
不安な場合は、かかりつけ医や担当のケアマネージャーに相談するのが確実です。病名だけでなく、パーキンソン病のように重症度の条件が付いている疾病もあるため、正確な確認が必要になります。
- 末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、スモン
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症、パーキンソン病関連疾患(ステージ3以上)
- 多系統萎縮症、プリオン病、亜急性硬化性全脳炎
- ライソゾーム病、副腎白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋萎縮症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎
- 後天性免疫不全症候群、頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態
特別訪問看護指示書が出たときは医療保険での訪問リハビリに切り替わる
病状の急性増悪などで一時的に頻回な訪問看護が必要と主治医が判断した場合、特別訪問看護指示書が交付されます。
この指示書が出ている期間は、介護保険ではなく医療保険での訪問看護・訪問リハビリに切り替わるのです。
特別訪問看護指示書はどのようなときに交付されるのか
特別訪問看護指示書は、主治医が「急性増悪や終末期など、一時的に頻繁な訪問看護が必要」と判断したときに発行されます。通常の訪問看護指示書とは別に交付され、有効期間は原則14日間です。
たとえば肺炎の急性増悪や、がんの終末期で急速に状態が変化している場合などに発行されるケースが多いです。気管カニューレを使用している方の場合は、月に2回まで交付されることもあります。
特別訪問看護指示期間中に受けられるサービス内容
特別訪問看護指示期間中は、通常の介護保険による回数制限が外れます。毎日の訪問が可能になり、1日に複数回の訪問看護を受けることもできるようになります。
| 項目 | 通常時(介護保険) | 特別指示期間中(医療保険) |
|---|---|---|
| 訪問頻度 | ケアプランに基づく | 毎日の訪問が可能 |
| 1日の訪問回数 | 原則1回 | 複数回可能 |
| 有効期間 | 指示書の有効期間内 | 原則14日間 |
| 適用保険 | 介護保険 | 医療保険 |
指示期間が終了すると介護保険に戻る
特別訪問看護指示書の有効期間が終了すると、再び介護保険での訪問看護・訪問リハビリに戻ります。継続して医療保険での訪問が必要な場合は、主治医が改めて指示書を発行する必要があるのです。
このように特別訪問看護指示書は「一時的な例外措置」であり、恒常的に医療保険が適用されるわけではありません。病状が安定すれば介護保険に復帰するのが通常の流れです。
介護保険と医療保険で訪問リハビリの回数・費用はこれだけ変わる
訪問リハビリの回数制限や自己負担額は、利用する保険によって大きく異なります。
介護保険には支給限度額が設けられている一方で、医療保険には高額療養費制度が適用されるなど、それぞれに独自の仕組みがあるのです。
介護保険の訪問リハビリは週6回・1回20分以上が上限
介護保険での訪問リハビリは、1回20分以上を基本単位として週6回まで利用できます。1日あたりの上限は設けられていないため、40分のリハビリを1日に受けることも制度上は可能です。
ただし1日に60分を超えてリハビリを行うと、所定単位数の90%で算定されます。利用回数はケアマネージャーが作成するケアプランに基づいて決まり、他の介護サービスとのバランスを考慮して調整されます。
医療保険の訪問リハビリは週3回・1日1回が原則
医療保険(訪問看護ステーションからのリハビリ専門職による訪問)では、1日1回、週3回までが原則的な上限となっています。介護保険と比べると回数の上限は少なく見えるかもしれません。
しかし別表7に該当する疾病の方や、特別訪問看護指示書が交付された期間中は、この回数制限が緩和されます。週4日以上の訪問や1日複数回の訪問も認められるため、病状に応じた柔軟な対応が可能になるのです。
自己負担額は保険の種類と所得によって変わる
介護保険・医療保険ともに、自己負担割合は所得に応じて1割から3割です。ただし介護保険の場合、要介護度ごとに定められた支給限度額を超えた分は全額自己負担となる点に注意が必要です。
医療保険の場合は高額療養費制度により、月ごとの自己負担に上限が設けられます。高額な医療費が発生しても、所得区分に応じた一定額を超えた分は払い戻しを受けられる仕組みです。
- 介護保険の自己負担割合は所得に応じて1割・2割・3割
- 介護保険は支給限度額を超えると全額自己負担になる
- 医療保険にも1割〜3割の自己負担がある
- 医療保険には高額療養費制度による月額上限がある
保険の判断に迷ったら主治医とケアマネージャーに相談するのが一番の近道
介護保険と医療保険のどちらが適用されるかは、疾病の種類や要介護認定の状況、病状の変化などによって異なります。自己判断で決めるのではなく、主治医やケアマネージャーに相談することが確実な方法です。
主治医は訪問看護指示書の発行を通じて保険の振り分けに関わる
| 相談先 | 相談できる内容 | 連絡方法 |
|---|---|---|
| 主治医(かかりつけ医) | 疾病が別表7に該当するかの判断、訪問看護指示書の発行 | 外来受診時・訪問診療時 |
| ケアマネージャー | ケアプランへの訪問リハビリの組み込み、保険の振り分け確認 | 担当ケアマネに電話・面談 |
| 訪問看護ステーション | リハビリ専門職の配置状況、利用可能な回数の確認 | 直接問い合わせ |
ケアマネージャーはケアプラン全体から保険の使い分けを提案してくれる
ケアマネージャーは、訪問リハビリだけでなく介護保険サービス全体のバランスを見ながらケアプランを作成します。
支給限度額の範囲内で、どのサービスをどれだけ利用するのが望ましいかを総合的に判断してくれる存在です。
別表7に該当して訪問看護が医療保険に切り替わる場合、その分だけ介護保険の枠に余裕が生まれます。空いた枠を通所リハビリや福祉用具のレンタルに充てるなど、柔軟なプラン調整が可能になるでしょう。
訪問看護ステーションや地域包括支援センターにも気軽に問い合わせてよい
訪問看護ステーションにはリハビリ専門職が在籍しているケースも多く、具体的なサービス内容や利用回数について直接確認できます。どの保険が適用されるかの判断に必要な情報を提供してくれるでしょう。
また、地域包括支援センターは介護全般に関する相談窓口として機能しています。要介護認定を受けていない方でも利用でき、訪問リハビリの利用方法や保険制度についてのアドバイスを無料で受けられます。


よくある質問
- 訪問リハビリの介護保険優先の原則は40歳未満の方にも適用されるのか?
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40歳未満の方は介護保険の被保険者ではないため、介護保険優先の原則は適用されません。訪問リハビリを利用する場合は医療保険が適用されます。
医療保険での訪問リハビリは、主治医が必要と判断し訪問看護指示書を発行することで利用が開始されます。年齢に関係なく、通院が困難であるなどの条件を満たせば利用可能です。
- 訪問リハビリで介護保険と医療保険を同じ月に併用できるのか?
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原則として、同一の診断名で介護保険と医療保険の訪問リハビリを併用することはできません。ただし、別の診断名に基づくリハビリであれば、同じ月に両方の保険を利用できる場合があります。
また、別表7に該当する疾病で訪問看護が医療保険扱いになった場合、その方が同月に介護保険の訪問リハビリを別途利用することは制度上認められています。詳しくはケアマネージャーや主治医にご確認ください。
- 訪問リハビリの医療保険適用で自己負担が高額になった場合に使える制度はあるのか?
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医療保険での自己負担が高額になった場合は、高額療養費制度を利用できます。この制度では、1か月あたりの医療費の自己負担額に所得区分に応じた上限が設定されており、上限を超えた分は後日払い戻されます。
申請は加入している健康保険組合や市区町村の窓口で行えます。あらかじめ「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払い時点から上限額までの負担で済むため、立て替えの必要がなくなり便利です。
- 訪問リハビリで別表7の疾病に該当するかどうかは誰が判断するのか?
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別表7に該当するかどうかの判断は主治医が行います。訪問看護指示書に記載される病名や病状が別表7の疾病に該当するかどうかが、保険の振り分けを決める根拠となるのです。
ご自身の疾病が別表7に当てはまるか不安な方は、かかりつけ医に直接確認するのが確実でしょう。難病の受給者証をお持ちでも別表7に該当しない疾病もあるため、思い込みで判断しないことが大切です。
- 訪問リハビリを医療保険で受けたいときに必要な書類は何か?
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医療保険で訪問リハビリを受けるには、主治医が発行する「訪問看護指示書」が必要です。
この指示書には病名、現在の状態、必要な医療処置やケアの内容が記載され、訪問看護ステーションはこの指示書に基づいてリハビリ計画を立てます。
病状の急性増悪時に頻回な訪問が必要と判断された場合は、通常の指示書に加えて「特別訪問看護指示書」が発行されます。
書類の準備は基本的に主治医が行いますので、利用を希望する旨を伝えれば手続きを進めてもらえるでしょう。
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