末期がんの在宅看取りで後悔する家族が多い理由|事前準備と心構えを解説

自宅で最期を迎えたいという希望を受け止めたご家族でも、見送ったあとに「あれでよかったのか」と振り返る場面は少なくありません。後悔の多くは、介護の手際ではなく、決めごとが間に合わなかったところから生まれます。
がんは体の力が保たれる時期が比較的長く続き、最期が近づくと短い期間で介助の必要度が上がりやすい病気です。その速さを知らないまま在宅へ移ると、話し合いも手配も追いつきません。
痛みや息苦しさへの備え、医療用麻薬をめぐる迷い、誰にいつ連絡するかという取り決めまで、家族が前もって手をつけられる部分を、国の資料や公的な調査に沿って並べます。
末期がんの在宅看取りで家族に後悔が残りやすい理由
後悔が生まれる最大の分かれ目は、話し合いと手配のタイミングです。何を大切にしたいかを詰める前に体の状態が先へ進んでしまうと、家族は限られた時間のなかで重い判断を続けることになります。
国立がん研究センターが厚生労働省の委託事業として実施し、54,167名の遺族から回答を得た全国調査は、その難しさを数字の形で示しています。
| 調査で尋ねた内容 | そう答えた遺族の割合 | 準備に引きつけて読むと |
|---|---|---|
| 患者さんと医師の間で最期の療養場所に関する話し合いがあった | 35.7% | 療養場所の相談は、家族の側から切り出さないと始まらない場合がある |
| 患者さんと医師の間で心肺停止時の蘇生処置について話し合いがあった | 35.1% | 急変したときにどうするかは、あらかじめ確かめておく余地が大きい |
| 患者さんが死亡前1週間に強い痛みを感じていた | 28.7% | 痛みが残る場面は今も一定数あり、つらさの伝え方の準備が効いてくる |
| 患者さんが死亡前1カ月間で日常生活動作に何らかの介助を必要とした | 78.4% | 介護の手が要る時期は、多くの家庭で最後のひと月に集中する |
話し合わないまま最期の時期へ入る家庭は珍しくない
この調査で、患者さんと医師のあいだに最期の療養場所をめぐる話し合いがあったと答えた遺族は35.7%にとどまりました。裏を返せば、6割以上の家庭では、はっきりした相談のないまま最終盤を迎えていたことになります。
担当医は治療の話を優先しますし、本人も家族も「まだその段階ではない」と感じているうちは切り出しにくいものでしょう。そのまま日が過ぎ、状態が変わってから慌てて相談を始める流れが、後悔の下地になります。
話し合いは、本人の希望を確定させるためだけのものではありません。どんな変化が起こりうるか、そのときどこで過ごせるかを共有しておけば、家族は選択肢を持ったまま最終盤に入れます。
痛みが残ったまま見送ったという心残り
同じ調査では、亡くなる前の1週間に強い痛みを感じていたと答えた遺族が28.7%いました。その理由として最も多かったのは、痛みに対して医療者が何らかの対処をしたものの不十分だったという回答で、28.4%を占めています。
この数字は医療者の怠慢を示すものではなく、基本的な対応だけでは和らげにくい痛みが一定数あることを表しています。認知機能が落ちて痛みの評価が難しい場合や、がん以外の痛みが混ざる場合も含まれます。
だからこそ、そばにいる家族が「いつ、どこが、どのくらい」を言葉にして届けられるかどうかが効いてきます。伝わらなかった痛みは、あとから「もっと早く言えばよかった」という思いに変わりやすいものです。
介護の手が要る時期は最後のひと月に集中する
亡くなる前の1カ月間に日常生活動作の介助が必要だったと答えた遺族は78.4%にのぼります。それまで自分で歩き、自分で食べていた人が、短い期間で全面的な手助けを要する状態へ移る例が多いという意味です。
介護用ベッドの手配や入浴の段取りは、必要になってから動くと数日から1週間の空白ができます。その空白のあいだ、家族は不慣れな介助を素手で担うことになり、体力も気持ちも削られていきます。
「まだ元気だから早すぎる」と感じる時期に用具をそろえておくと、この空白が消えます。使わずに終われば返せばよく、先に置いておくことの損はほとんどありません。
後悔を小さくするのは前倒しで決めた取り決め
振り返って語られる心残りは、「知らなかった」「間に合わなかった」「聞けなかった」の三つに大きく分かれます。いずれも、状態が落ち着いているうちに手をつけておけば、幅を狭められる種類のものです。
具体的には、夜間の連絡先、痛みが強くなったときの手順、心肺停止時の方針、そして本人が何を大切にしたいかという四点になります。この四つを紙に書き出しておくだけでも、迷いの量はかなり減るでしょう。
決めた内容は途中で変えてかまいません。書き留める目的は本人を縛ることではなく、判断を迫られた瞬間に家族が拠りどころを持てるようにしておくところにあります。
末期がんの経過は最期の数週間で大きく変わりやすい
がんの終末期は、日常生活の自立が比較的保たれたまま進み、最期に近づいてから介助の必要度が急に上がる経過をたどりやすいところに特徴があります。動けているうちの相談が効くのは、この形のためです。
動けていた人が短い期間で床につく
先の全国調査では、亡くなる1カ月前まで自立していた人が、その後の短い期間に介助を要する状態へ移った像が浮かびます。心臓や肺の慢性の病気が、悪化と回復を繰り返しながらゆるやかに下っていくのとは違う動き方です。
家族の側からすると、昨日まで自分でトイレへ行けていた人が、数日で起き上がれなくなったように見えます。準備が追いつかないと感じる背景には、この落差があります。
同じ調査では、がんと診断されてから亡くなるまでの期間が1年以内だった割合も52.6%と報告されています。心構えを整える時間そのものが短い家庭が、半数を占めていた計算になります。
見通しは幅のある形でしか示せない
「あとどれくらいですか」という問いに、医師が一つの日付で答えることはできません。同じ病期でも進み方には大きな個人差があり、予測は幅を持った言い方にならざるを得ないからです。
そこで役に立つのは、残り時間ではなく「これから何が起きうるか」を尋ねる形です。食事が細くなる、眠る時間が延びる、痛みの出方が変わるといった変化を先に聞いておけば、起きたときに慌てずに済みます。
あわせて「そのときは誰に連絡すればよいか」まで確かめておくと、見通しが行動に結びつきます。数字ではなく手順を持ち帰ることが、面談の実りを大きくします。
「まだ早い」と感じる時期こそ相談どき
国立がん研究センターのがん情報サービスは、緩和ケアについて「がんと診断されたときから始まります」と記し、がんが進行してから始めるものではないと明記しています。終末期に限った医療ではないという位置づけです。
在宅の相談も同じで、通院がつらくなってきたあたりが動き出す目安になります。準備の段取りだけ整えておき、実際の切り替えは本人の状態に合わせる形が現実的でしょう。
日々の変化のうち、家族がつかみやすいものと、そのとき確かめておきたい点を並べると次のようになります。
| 家族が気づきやすい変わり目 | そのときに確かめておきたいこと |
|---|---|
| 食事の量が減り、好みが変わってくる | 薬の飲み方をどう調整するか、水分をどう補うかを訪問看護師に相談しておく |
| 日中に眠っている時間が長くなる | 起こして食べさせたほうがよいのか、そのままでよいのかの方針を主治医に聞いておく |
| 立ち上がりや移動に手を借りるようになる | 介護用ベッドや手すり、車いすの手配が何日で間に合うかをケアマネジャーに確認する |
| 痛みや息苦しさを訴える回数が増える | 頓服薬の残数と、夜間に連絡してよい窓口をあらためて確かめる |
在宅への切り替えが遅れるほど末期がんの看取りは慌ただしくなる
在宅の体制づくりは、退院が決まってから始めると間に合わないことが多くあります。訪問診療クリニックとの契約、訪問看護の導入、福祉用具の搬入がそれぞれ別の手続きなので、同時並行で進める時間が要るためです。
| 相談先 | 頼めること | 動き出す目安 |
|---|---|---|
| 病院の地域連携室・患者支援センター | 在宅医や訪問看護ステーションの紹介、退院前の顔合わせの手配 | 入院中、退院の話が出る前から |
| がん相談支援センター | 療養場所の選び方、使える制度、家族自身の気がかりの相談 | 診断後であればいつでも |
| 市区町村の介護保険窓口・地域包括支援センター | 要介護認定の申請、ケアマネジャーの手配 | 通院がつらくなってきた時点で |
| 訪問診療を行うクリニック | 24時間の連絡体制、往診、訪問看護との連携 | 退院の見通しが立った段階で |
退院の話が出てから探すと間に合わない
病院から「そろそろ退院を」と告げられてから在宅医を探し始めると、初回の訪問までに数日から1週間かかることがあります。その間に状態が変われば、そのまま入院を続ける判断に傾きやすくなります。
入院中から候補のクリニックに問い合わせておけば、退院日に合わせて初回訪問を組めます。まだ帰る予定が立っていない段階でも、相談の電話をかけておく価値は十分にあるでしょう。
自宅の環境も先に見ておきたいところです。ベッドを置く部屋、トイレまでの距離、玄関の段差といった条件は、用具の選び方や訪問の動線に直結します。
相談の入口は地域連携室とがん相談支援センター
入院中であれば、病院の地域連携室や患者支援センターが最初の窓口になります。在宅医や訪問看護ステーションの紹介、退院前の顔合わせの手配まで、まとめて引き受けてくれる部署です。
もう一つの入口が、がん診療連携拠点病院などに置かれたがん相談支援センターです。がん情報サービスは、この窓口を「全国にある、どなたでも無料・匿名で利用できるがんに関する相談窓口」と説明しており、その病院にかかっていない人でも使えます。
自宅で療養するために訪問看護を頼みたいがどうすればよいか、といった相談も受け付けています。家族だけで来所して、本人にどう切り出すかを一緒に考えてもらう使い方もできます。
退院前の顔合わせで詰めておきたいこと
退院前には、病院の医師や看護師、在宅医、訪問看護師、ケアマネジャーが集まる場が設けられます。この機会に、痛みが強くなったときの薬の使い方と連絡の順番を口頭で確認しておくと、帰宅後の迷いが減ります。
本人がどこまで病状を聞いているか、どんな暮らし方を望んでいるかも、この場で共有しておきたい情報です。認識がずれたまま在宅へ移ると、説明のたびに家族が板挟みになります。
質問は当日その場で思い出すのが難しいため、前日までに紙へ書き出しておくとよいでしょう。聞き漏らした点は後日でも構わないので、遠慮なく訪問看護師へ回してかまいません。
介護保険は40歳から「がん」で申請できる
介護保険は65歳以上のための制度と思われがちですが、40歳から64歳の人にも申請の道が開かれています。厚生労働省が示す特定疾病の一覧に、がんが含まれているためです。
一覧では介護保険法施行令第二条に基づき「がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)」と記されています。
この対象に当たると判断されれば、年齢にかかわらず要介護認定を申請でき、介護用ベッドや訪問介護、通所のサービスにつながります。申請から結果が出るまでには日数がかかるため、早めの相談が生きてきます。
認定を待つあいだも、暫定的なケアプランでサービスを使える運用があります。申請の手続きと並行して、ケアマネジャーに相談を持ちかけておくとよいでしょう。
末期がんの痛みと息苦しさに在宅でどう備えるか
在宅を続けられるかどうかは、つらい症状をどれだけ早く拾い上げられるかで決まってきます。痛みも息苦しさも、我慢させないことが土台になります。
痛みを我慢させないことが在宅療養の土台になる
がん情報サービスは「痛みは本人にしか分かりません」としたうえで、我慢せずに担当の医師・看護師・薬剤師に伝えることが大切だと記しています。周囲が察するには限界があるという前提です。
同じ資料は、痛みを我慢していると日常生活に影響するだけでなく、体力を消耗してがんの治療に耐えられなくなることもあると説明しています。薬を使って痛みを抑えることは、治療を続ける助けになるという整理です。
在宅では、この「伝える」役割を家族が肩代わりする場面が増えます。本人が言葉にできなくなるほど、表情やしぐさの変化を拾って言語化する働きが重みを増します。
頓服薬は痛くなりそうな段階で使う
定時の鎮痛薬とは別に、急な痛みへ充てる頓服薬が処方されます。がん情報サービスは、急に痛みが出てきたときや痛みが強くなりそうなときに、我慢せず早めに使うよう案内しています。
痛みが強くなりきってからでは、和らぐまでに時間がかかります。体を動かす前や入浴の前など、痛みが出やすい場面の手前で使う組み立てが役に立ちます。
使った時刻と効き具合を手帳に書き留めておくと、訪問時の調整が正確になります。1日に何回まで使えるか、次まで何時間空けるかは、あらかじめ主治医に確かめておきたい点です。
痛みの伝え方を家族が代わりに担う
がん情報サービスは、いつから、どのあたりが、どの程度、どんなときに、どのように痛かったのかを伝えられるようにしておくとよいと案内しています。自分で対処した場合は、その結果まで添えると精度が上がります。
| 伝える項目 | 伝え方の例 |
|---|---|
| いつから | おとといの夜から。夕方以降に強くなる日が続いている |
| どのあたりが | 右の肋骨の下あたりで、背中側にも回り込む |
| どの程度 | 痛みのない状態を0、これ以上ないつらさを10とすると、今は6くらい |
| どんなときに | 寝返りを打つときと、起き上がる動作のとき |
| 対処の結果 | 頓服を飲んだら30分ほどで4くらいまで下がった |
程度を数字で示す方法として、痛みが全くない状態を0、これ以上考えられないほどつらい痛みを10とする物差しが紹介されています。同じ尺度を家族と医療者で共有しておくと、変化の向きが伝わりやすくなります。
痛みの質を言い表す言葉も、あらかじめ知っておくと役に立ちます。がん情報サービスは次のような表現を挙げています。
- 鈍い痛み
- ズキズキするような鋭い痛み
- 電気が走るような、ビリビリする痛み
- 針で刺すような、突き刺すような痛み
- ギュッと締め付けられるような痛み
- 焼けつくような痛み
息苦しさは薬以外の手当ても効いてくる
呼吸のつらさに対して、がん情報サービスは酸素吸入や胸腔ドレナージのほか、医師が慎重に判断したうえでモルヒネなどの医療用麻薬やステロイドを使う場合があると説明しています。薬は選択肢の一つという位置づけです。
同時に、家庭でできる工夫も具体的に挙げられています。換気をよくし、窓を開けたり扇風機を回したりして顔に心地よい風があたると症状が軽くなる場合があり、弱い風から始めて好みの強さに調節する方法が示されています。
背中を起こせるベッドや枕で上半身を起こし、膝の下にクッションを入れて曲げる姿勢も紹介されています。室温は寒く感じない程度にやや低めにし、乾燥していれば加湿器を使うとよいとされています。
不安が強いと息苦しさも増すため、そばにいて手を握るだけでも支えになります。ベッドの角度、扇風機の位置、枕の高さといった条件を、本人が楽だと言った形で覚えておくと再現できます。
医療用麻薬への迷いが末期がんの在宅看取りを遠ざける
医療用麻薬をためらう気持ちは、家族として自然なものです。ただ、依存や中毒への心配については、公的な資料がはっきりした説明を出しています。
依存や中毒を心配する家族は少なくない
がん情報サービスは、医療用麻薬の成分について「痛みがある状態で使うと、痛みにのみ働き、精神や身体の依存はほとんど問題にならないことが分かっています」と記しています。そのうえで、医師の指示に従って正しく使えば依存症の心配はないと説明しています。
同センターの緩和ケアの解説でも、がんによる痛みがあり、その治療のために医師から処方された医療用麻薬を使うときには、依存や中毒は起こらないと明記されています。心配の輪郭を、この二つの記述で押さえておくとよいでしょう。
逆に言えば、これは医師の管理のもとで痛みに合わせて使う場合の話です。処方された量や間隔を家族の判断で変えることは、この前提から外れてしまいます。
「最期が早まるのでは」という不安の扱い方
麻薬という言葉から、使えば最期が早まるのではないかと感じる方もいます。この点について、がん情報サービスは痛みを我慢することの不利益のほうを具体的に述べており、体力を消耗して治療に耐えられなくなる場合があると説明しています。
薬である以上、量の調整や副作用のチェックは欠かせません。だからこそ在宅では医師と看護師が定期的に訪問し、効き方と眠気の程度を見ながら量を決め直していきます。
家族が抱えている不安は、そのまま医師へ伝えてよいものです。疑問を残したまま薬を減らすより、率直に相談したほうが本人のつらさは早く落ち着きます。
便秘や吐き気、眠気は先回りできる
医療用麻薬の副作用として、がん情報サービスは便秘、吐き気、眠気を挙げています。いずれも起こることが分かっている症状なので、あらかじめ対処を用意しておけば慌てずに済みます。
| 副作用 | 現れ方の目安 | 家庭での動き方 |
|---|---|---|
| 便秘 | 使っているあいだ続きやすい | 早めに医師・看護師・薬剤師へ伝えて下剤を出してもらう。水分と食物繊維も意識する |
| 吐き気 | 多くの場合、使い始めて1〜2週間ほどで落ち着く | 吐き気止めを処方してもらい、消化のよいものや好きなものを少量ずつにする |
| 眠気 | 多くの場合、使い始めて1週間ほどで落ち着く | 呼びかけても目を開けないなど反応がないときは、すぐ担当の医師や看護師へ連絡する |
眠っている時間が増えると、家族は薬のせいではないかと気を揉みます。病状の進行による眠気と薬による眠気は見分けが難しいため、迷ったら訪問時に遠慮なく尋ねるのが早道です。
飲み込めなくなっても続けられる形がある
終盤には、薬を口から飲み込むこと自体が難しくなる時期が訪れます。がん情報サービスは、鎮痛薬には内服薬のほかに貼り薬や坐薬、点滴などもあると案内しています。
在宅でも、貼り薬への切り替えや持続的な注射といった手段を取れます。飲めなくなったから痛み止めが終わりになるわけではないと知っておくだけで、不安の量が変わります。
切り替えのタイミングは主治医が判断しますが、家族が「最近むせるようになった」と早めに伝えれば準備が前へ進みます。薬の残数と受け取り方も、薬局とあわせて確かめておきたいところです。
末期がんの在宅看取りを支える体制は先に組んでおく
夜間や休日に誰へ連絡するかを一つに定めておくと、家族の迷いは大きく減ります。体制づくりは、症状が落ち着いているうちに済ませておく仕事です。
24時間つながる連絡先を一つに決める
厚生労働省が定める在宅療養支援診療所の施設基準では、24時間連絡を受ける医師または看護職員をあらかじめ決めておき、担当者と連絡先を文書で患者さんや家族に渡すことが求められています。求めに応じて24時間往診できる体制も要件です。
この文書を受け取ったら、電話のそばと冷蔵庫の扉に貼っておきます。深夜にあわてて探すことのないよう、家族の誰が見ても分かる場所へ置いておくのが要点です。
どんなときに電話してよいのかも、契約の時点で聞いておきます。遠慮して朝まで待った結果、本人が長くつらい思いをする例は珍しくありません。
訪問看護は末期のがんで使える枠が広がる
厚生労働省が定める「厚生労働大臣が定める疾病等」には末期の悪性腫瘍が含まれており、この対象になると訪問看護は医療保険の扱いになります。訪問できる日数や回数の枠が広がり、状態に応じた手厚い関わりを組めます。
訪問看護師は、痛みの評価、薬の管理、身体の清潔、家族への手技の指導までを担います。医師の訪問より頻度が高いぶん、日々の変化を最初に拾う存在になります。
夜間の相談窓口を持つステーションかどうかも、選ぶときの確認点です。24時間の連絡体制をどう組んでいるかは、契約前に率直に尋ねてかまいません。
介護用ベッドと福祉用具は早めに入れる
背上げのできる介護用ベッドは、食事、痛みの緩和、呼吸の楽な姿勢のすべてに関わります。搬入と組み立てに日数を要するため、必要になってからでは遅れが出ます。
あわせて、床ずれを防ぐマットレス、ポータブルトイレ、手すり、車いすが候補に挙がります。何が要るかはケアマネジャーが住まいを見たうえで組み立ててくれます。
置き場所を決めるときは、窓の景色や家族が集まる部屋との距離も考えに入れたいところです。本人が一日の大半を過ごす場所になるからです。
家族が倒れない形をあらかじめ用意する
在宅を続けられなくなる理由の多くは、病状ではなく支える側の限界です。訪問介護やショートステイ、緊急時に受け入れてくれる病院を先に押さえておくと、行き詰まりを避けられます。
途中で入院に切り替えても、それは失敗ではありません。最後まで自宅でと決めていたとしても、状況に応じて選び直せる余地を残しておくほうが、結果として長く自宅で過ごせます。
家族の側で持っておきたい連絡先を整理すると、次の通りです。
- 訪問診療クリニックの24時間窓口
- 訪問看護ステーションの夜間連絡先
- 担当のケアマネジャー
- 薬を受け取っている薬局
- 緊急時に受け入れを相談できる病院
看取りの場面で家族が慌てないための心構え
呼吸が止まったときに、救急車を呼ばなければならないわけではありません。在宅で最期を迎える段取りが整っていれば、まず訪問看護師と主治医へ連絡する流れになります。
息が止まったときにまず連絡する先
厚生労働省医政局医事課長が平成24年8月31日付で出した「医師法第20条ただし書の適切な運用について」という通知は、この場面の誤解を正すために発出されました。在宅などでの看取りが適切に行われていない例があるとの指摘が背景にあります。
通知は、医師が死亡に立ち会っておらず生前の診察から24時間を超えていても、死亡後にあらためて診察し、生前に診療していた傷病に関連する死亡と判定できる場合には死亡診断書を交付できると示しています。警察への届出が要る話とは別だという整理です。
そのため、あわてて救急車を呼ぶ必要はありません。深夜であっても、契約している訪問看護ステーションと訪問診療クリニックへ電話する手順を、家族全員で共有しておきます。
蘇生をどうするかを先に話し合う
先の全国調査で、心肺停止時の蘇生処置について患者さんと医師のあいだに話し合いがあったと答えた遺族は35.1%でした。多くの家庭では、方針が定まらないまま最終盤を迎えていた計算になります。
その場で判断を迫られると、家族は自分の決断で最期を左右したように感じてしまいます。本人の意向を含めて先に共有しておけば、その重さを一人で背負わずに済みます。
方針は書面に残すのが確実ですが、形式にこだわる必要はありません。訪問診療の医師と看護師に伝わっていて、家族のあいだで食い違いがなければ十分に働きます。
一度決めたことは何度でも変えてよい
厚生労働省は、もしものときに望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い共有する取組を「人生会議」という愛称で呼んでいます。一度で終わらせない前提が名前に込められています。
同省は、人生の最終段階の医療について、医療従事者からの適切な情報提供と説明を踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種からなる医療・ケアチームとして方針を決めることが重要だと述べています。
気持ちは体調とともに揺れますし、揺れていいものです。前に言ったことと違うと責めず、そのつど確かめ直す姿勢が、結果として本人の望みに近い最期へつながります。
「家に帰りたい」の中身を確かめておく
自宅で過ごしたいという言葉の中身は、人によってまるで違います。庭を見ていたいのか、家族の生活音のなかにいたいのか、飼っている犬のそばにいたいのかで、整えるべき環境が変わります。
がん情報サービスは、治療の主役は本人であることを念頭に、本人が何を大切にしたいかを考えていくよう促しています。この問いは終末期に限らず、療養の場所を選ぶときの軸になります。
叶えられた願いが一つでもあれば、見送ったあとの記憶はずいぶん違ったものになります。大きな決断より、日々の小さな希望を拾う姿勢のほうが、後悔を減らす働きは大きいでしょう。
よくある質問
- 末期がんの在宅看取りは、医療の知識がない家族でも続けられますか?
-
医療行為を家族が担うわけではないため、専門の知識がなくても始められます。薬の管理や身体の清潔、痛みの評価は訪問看護師が受け持ち、家族には様子を伝える役割が回ってきます。
実際に難しいのは技術より、判断を求められる場面の重さです。夜間に連絡してよい窓口と、どんなときに電話するかを先に決めておくと、負担の感じ方がかなり変わります。
- 末期がんで自宅にいる本人が食べられなくなったら、点滴は必要ですか?
-
点滴を行うかどうかは、体のむくみや呼吸の状態を見ながら主治医が判断します。終末期には水分を処理する力そのものが落ちるため、量を増やせば楽になるとは限りません。
米国国立がん研究所がまとめたPDQの患者向け要約でも、食べ物や飲み物を強制しない対応が示されています。口の中を綿棒でぬぐったり氷のかけらを含んでもらったりすると、乾きが和らぐとされています。
- 末期がんの痛みが夜中に強くなったとき、朝まで待つべきでしょうか?
-
待つ必要はありません。まず処方されている頓服薬を使い、それでも和らがなければ夜間の窓口へ連絡する流れが基本になります。
頓服薬は、痛みが強くなりそうな段階で早めに使うほうが効き目を得やすいと案内されています。使った時刻と効き具合を書き留めておけば、翌日の調整にそのまま生きてきます。
- 末期がんの在宅看取りを選んだあとで、病院へ入り直すことはできますか?
-
途中で入院へ切り替える道は残されています。症状が自宅では抑えきれなくなった場合や、支える家族の体調が崩れた場合など、理由はさまざまです。
受け入れ先を先に決めておくと、切り替えが必要になったときに動けます。訪問診療のクリニックが連携先の病院を持っているかどうか、契約の段階で確かめておくとよいでしょう。
- 末期がんの本人に見通しを伝えるかどうか、家族として迷っています。
-
伝え方に正解はありませんが、本人がどこまで知りたいかを尋ねるところから始める方法があります。すべてを聞きたい人もいれば、日々の過ごし方だけ知りたい人もいます。
家族だけで抱えず、がん相談支援センターへ持ち込む手もあります。全国どこでも無料・匿名で利用でき、その病院にかかっていない家族の相談にも応じています。



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