薬剤師の訪問費用は医療保険か介護保険か?居宅療養管理指導費の優先適用ルール

薬剤師が自宅を訪問して薬の管理や指導を行う費用は、患者さんが要介護認定を受けているかどうかで、適用される保険が変わります。原則として、要介護・要支援の認定を受けている方には介護保険が優先され、「居宅療養管理指導費」として算定されます。
一方、介護認定を受けていない方には医療保険の「在宅患者訪問薬剤管理指導料」が適用されます。
この記事では、どちらの保険が適用されるのかの判断基準や自己負担額の違い、手続きの流れまで、在宅医療の現場経験をもとにわかりやすく解説します。
薬剤師の居宅療養管理指導費は原則として介護保険から適用される
薬剤師の訪問費用は、要介護認定または要支援認定を受けている患者さんであれば、介護保険を優先して適用するルールになっています。
医療保険と介護保険のどちらを使うかは、患者さん自身が選べるわけではなく、制度上のルールで自動的に振り分けられます。
居宅療養管理指導費とは薬剤師が自宅を訪問して薬の管理を行う費用だ
居宅療養管理指導費とは、通院が困難な患者さんの自宅に薬剤師が訪問し、服薬状況の確認や薬の保管状態のチェック、飲み合わせの確認などを行った際に発生する費用のことです。
介護保険上のサービスとして位置づけられており、介護報酬として「単位」で算定されます。
薬剤師だけでなく、医師や歯科医師、管理栄養士、歯科衛生士なども居宅療養管理指導を行えますが、この記事では薬剤師による訪問に焦点を絞って解説していきます。
要介護認定を受けている方は介護保険で自動的に算定される
介護保険被保険者証に要介護度(要介護1〜5)が記載されている患者さんの場合、薬剤師の訪問費用は介護保険の「居宅療養管理指導費」として算定しなければなりません。
医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料を選ぶことはできず、制度上は介護保険が常に優先されます。
薬局側も、訪問前に患者さんの介護保険被保険者証を確認し、要介護度が記載されていれば介護保険で請求する流れになっています。
要介護度と居宅療養管理指導費の関係
| 患者さんの状態 | 適用される保険 | 算定される費用名称 |
|---|---|---|
| 要介護1〜5 | 介護保険 | 居宅療養管理指導費 |
| 要支援1〜2 | 介護保険 | 介護予防居宅療養管理指導費 |
| 認定なし | 医療保険 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料 |
要支援の方は介護予防居宅療養管理指導費として算定される
要支援1または要支援2の認定を受けている方は、「介護予防居宅療養管理指導費」という名称で算定されます。要介護の方と名称は異なりますが、介護保険を使うという点では同じ扱いになります。
つまり、要介護・要支援いずれかの認定を持っている方は、すべて介護保険が優先的に適用されるということです。介護認定を受けていない方だけが、医療保険の対象になります。
介護保険が優先される根拠は介護保険法に明記されている
介護保険が医療保険に優先するのは、法律上の明確な規定に基づいています。感覚的な判断ではなく、制度設計として「介護保険を先に使う」という原則が定められているため、現場の薬局もこのルールに従って請求を行っています。
介護保険法が「医療保険に優先する」と定めている
介護保険法第41条および第53条には、要介護者・要支援者に対する居宅サービスに関する規定が設けられています。薬剤師の訪問による薬学的管理指導についても、要介護認定を受けている患者さんには介護保険を使うことが法律上求められています。
この優先適用のルールがあるため、たとえ医療保険のほうが患者さんにとって有利に見える場合でも、介護認定を受けている限りは介護保険での算定が義務づけられるのです。
医療保険と介護保険の併用は認められていない
薬剤師の訪問による薬学的管理指導について、同一の患者さんに対して医療保険と介護保険を同時に使うことはできません。月ごとに切り替えることも原則として認められず、介護認定がある期間は継続して介護保険で算定する必要があります。
ただし、介護保険で居宅療養管理指導費を算定している患者さんに対しても、診療報酬の「在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料」など一部の医療保険の点数は別途算定できる場合があります。
完全にすべての医療保険請求が禁止されるわけではないので、この点は誤解しないようにしましょう。
ケアマネジャーとの連携が介護保険適用の大きな特徴だ
介護保険で居宅療養管理指導費を算定する場合、薬剤師はケアマネジャー(介護支援専門員)に対してケアプランの作成に必要な情報を提供する義務があります。
医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料にはこの義務がないため、多職種連携の深さに違いが生じます。
ケアマネジャーとの情報共有によって、薬の管理だけでなく生活全体を支える体制が整いやすくなるのは、介護保険ならではの利点といえるでしょう。
介護保険と医療保険の制度上の違い
| 比較項目 | 介護保険 | 医療保険 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 介護保険法 | 健康保険法など |
| ケアマネへの情報提供 | 義務あり | 義務なし |
| 報酬の単位 | 単位(介護報酬) | 点数(診療報酬) |
| 優先順位 | 優先 | 介護認定がない場合のみ |
医療保険で薬剤師の訪問費用を算定できるのはどんなときか?
医療保険で薬剤師の訪問費用を算定できるのは、要介護認定も要支援認定も受けていない患者さんに限られます。介護保険の対象外となる方が、在宅での薬学的管理指導を受ける際に医療保険が適用されます。
要介護認定も要支援認定も受けていない患者が対象になる
在宅療養を行っていても、介護認定を受けていない患者さんは一定数いらっしゃいます。たとえば、事故や急性期の疾患で通院が困難になった40歳以上65歳未満の方で、特定疾病に該当しないケースなどです。
こうした方に薬剤師が訪問して薬学的管理指導を行う場合は、医療保険の「在宅患者訪問薬剤管理指導料」を算定します。介護保険の居宅療養管理指導費と内容的にはほぼ同等のサービスですが、請求先と根拠法が異なる点に注意が必要です。
40歳未満の在宅患者には医療保険が適用される
介護保険の被保険者は原則40歳以上の方です。そのため、40歳未満で在宅療養を行っている患者さんには、そもそも介護保険の適用がなく、医療保険で在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定することになります。
小児の在宅医療においても薬剤師の訪問は行われており、6歳未満の患者さんには乳幼児加算が算定できます。年齢を問わず、通院が困難な方は薬剤師の訪問サービスを利用できると覚えておいてください。
医療保険が適用される主なケース
| 対象者 | 適用理由 |
|---|---|
| 40歳未満の在宅患者 | 介護保険の被保険者に該当しない |
| 40〜64歳で特定疾病に該当しない方 | 介護認定の対象外 |
| 65歳以上で介護認定を受けていない方 | 認定申請をしていない、または非該当 |
| 介護認定の申請中で認定結果が出ていない場合 | 認定が確定するまでは医療保険で算定可能 |
介護保険の認定申請中でも医療保険で算定できる場合がある
要介護認定の申請を出したものの、まだ認定結果が通知されていない期間には、医療保険で在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定できるケースがあります。
認定結果が出た後に、さかのぼって介護保険へ切り替える対応が必要になることもあるため、薬局との確認を忘れないようにしましょう。
実際のところ、認定申請中の取り扱いは地域や保険者によってやや異なる場合があるため、不明点があればケアマネジャーや薬局の窓口で確認するのが確実です。
居宅療養管理指導費と在宅患者訪問薬剤管理指導料は似て非なる制度だ
居宅療養管理指導費(介護保険)と在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険)は、薬剤師が患者さんの自宅で薬学的管理指導を行うという点では同じ内容です。ただし、報酬の計算方法、算定回数の上限、関連する加算の種類など、制度的な違いが多くあります。
居宅療養管理指導費は介護報酬の「単位」で計算される
介護保険の居宅療養管理指導費は、介護報酬として「単位」で算定されます。令和6年度の介護報酬改定後、薬局の薬剤師が行う場合の基本単位数は、単一建物居住者が1人の場合で518単位、2〜9人の場合で379単位、10人以上の場合で341単位となっています。
1単位あたりの金額は地域によって若干異なりますが、おおむね10円前後です。そのため、518単位であれば約5,180円がサービスの費用総額となり、自己負担はその1割〜3割という計算になります。
在宅患者訪問薬剤管理指導料は診療報酬の「点数」で計算される
医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料は、診療報酬として「点数」で算定されます。1点は全国一律10円で計算されるため、仮に517点であれば費用総額は5,170円です。
介護報酬の「単位」と診療報酬の「点数」は似た仕組みに見えますが、地域差の有無や算定の上限回数、加算項目が異なるため、最終的な患者負担額にも差が出ることがあります。
算定回数の上限や訪問間隔にも違いがある
薬局の薬剤師が行う居宅療養管理指導費は、原則として月4回まで算定可能で、算定日の間隔は6日以上あける必要があります。ただし、末期がんの方や医療用麻薬の持続注射を受けている方などは、週2回かつ月8回まで算定が認められています。
医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料も月4回が原則ですが、保険薬剤師1人あたり週40回という上限や、患家から16キロメートルを超える訪問では保険算定が認められないといった制限があります。
介護保険にはこれらの制限がないため、制度上の柔軟性にも違いが見られます。
居宅療養管理指導費と在宅患者訪問薬剤管理指導料の比較
| 比較項目 | 居宅療養管理指導費 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料 |
|---|---|---|
| 適用保険 | 介護保険 | 医療保険 |
| 報酬単位 | 単位(地域差あり) | 点数(全国一律1点=10円) |
| 算定上限(原則) | 月4回 | 月4回 |
| 訪問間隔 | 6日以上 | 6日以上 |
| 距離制限 | なし | 16km以内 |
薬剤師の訪問にかかる自己負担額は保険の種類で大きく変わる
薬剤師の訪問費用の自己負担額は、介護保険と医療保険で計算方法が異なるうえ、患者さんの年齢や所得によっても負担割合が変わります。どちらの保険が適用されるかによって毎月の出費に差が出るため、あらかじめ把握しておくと安心です。
介護保険の自己負担割合は所得に応じて1割から3割まで変わる
介護保険の自己負担割合は、本人の所得に応じて1割・2割・3割のいずれかに設定されます。多くの高齢者は1割負担ですが、一定以上の所得がある方は2割や3割を負担することになります。
たとえば、薬局の薬剤師が単一建物居住者1人の条件で訪問した場合、518単位(約5,180円)の1割負担であれば約518円、3割負担であれば約1,554円がおおよその自己負担額です。
医療保険の自己負担割合は年齢と所得で決まる
医療保険では、70歳未満の方は原則3割負担、70〜74歳の方は2割負担(現役並み所得者は3割)、75歳以上の後期高齢者は1割負担(一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割)というルールが基本です。
在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定額は居宅療養管理指導費とほぼ同水準ですが、適用される自己負担割合によって実際の支払額は変わります。若い世代の患者さんは3割負担になるため、介護保険の1割負担と比べると負担が重くなりがちです。
自己負担割合の比較
| 保険の種類 | 対象者 | 自己負担割合 |
|---|---|---|
| 介護保険 | 一般的な高齢者 | 1割 |
| 介護保険 | 一定以上の所得がある方 | 2割または3割 |
| 医療保険 | 70歳未満 | 3割 |
| 医療保険 | 75歳以上(一般) | 1割 |
居宅療養管理指導費は区分支給限度額の対象外だ
介護保険のサービスには、要介護度ごとに1か月あたりの利用上限額(区分支給限度基準額)が設定されています。
しかし、居宅療養管理指導費はこの上限額の枠外で算定できるため、ほかの介護サービスを上限いっぱい利用していても、追加で利用が可能です。
この点は、訪問介護やデイサービスなどほかの介護サービスと大きく異なるポイントです。居宅療養管理指導費が別枠であることを知らずに「もう介護保険の枠がいっぱいだから」と利用を諦めてしまう方もいますが、心配する必要はありません。
薬剤師の訪問サービスを受けるには主治医の指示が出発点になる
薬剤師の訪問サービスは、患者さんやご家族が「利用したい」と思ったらすぐに始まるわけではありません。主治医による指示が出発点となり、そこからケアマネジャーや薬局と連携しながら準備を進めていく流れです。
ケアマネジャーか主治医への相談が始まりだ
薬剤師の訪問サービスを利用したい場合は、まず担当のケアマネジャーまたは主治医に相談してください。ケアマネジャーが状況を確認し、訪問に対応できる薬局を探してくれます。
主治医が「この患者さんには訪問による薬学的管理指導が必要だ」と判断した場合、薬局に対して指示書や処方箋を通じて訪問指示を出します。この指示がなければ、薬剤師は訪問を開始できません。
医師の指示書がなければ薬剤師は訪問できない
居宅療養管理指導費を算定するためには、医師または歯科医師からの指示が必須です。処方箋に訪問指示の旨が記載されているか、別途指示書が発行されている必要があります。
初回だけ指示があり、次回以降は指示がないまま漫然と訪問が継続されることのないよう、制度上は指示の有効期間も確認するようになっています。
指示の期間が不明な場合は、処方箋に記載された投与日数か1か月のうち長いほうが指示期間として扱われます。
薬学的管理指導計画の策定で訪問が正式にスタートする
薬局の薬剤師は、医師の指示に基づいて「薬学的管理指導計画」を作成します。この計画書には、患者さんの服薬状況、処方内容、訪問の頻度、指導の内容などが記載されます。
計画を策定したうえで訪問を行い、服薬指導や残薬の確認、副作用のモニタリングなどを実施します。訪問後にはケアマネジャーへの情報提供も行い、患者さんの療養生活を多職種で支えていく体制が整います。
- 主治医またはケアマネジャーへの相談
- 主治医から薬局への訪問指示(処方箋または指示書)
- 薬局による薬学的管理指導計画の策定
- 薬剤師による訪問・服薬指導の開始
- ケアマネジャーへの情報提供とケアプランへの反映
保険の適用ミスを防ぐために家族が確認すべき3つの項目
介護保険と医療保険の振り分けは薬局側が行いますが、ご家族の側でも確認しておくと、請求ミスや不要なトラブルを防げます。特に介護認定の更新時期や保険証の記載内容は、ご家族にしか把握できないこともあるため、能動的な確認が大切です。
介護保険被保険者証の要介護度を必ず確認しよう
薬局が保険の種類を判断する際に最も重要なのが、介護保険被保険者証に記載された要介護度です。認定の更新がされた直後や、区分変更の申請をした場合は、新しい情報が反映されているかを確認してください。
- 介護保険被保険者証に記載された要介護度の確認
- 認定の有効期間が切れていないかの確認
- 区分変更や更新申請中であるかの確認
担当薬局と主治医の間で情報が共有されているか確かめよう
訪問指示が正しく薬局に伝わっているかどうかは、サービスの質にも関わる重要なポイントです。処方箋に訪問指示が記載されていなかったり、薬局が主治医の意図を正確に把握できていなかったりすると、算定上のトラブルにつながることがあります。
ご家族から薬局に「主治医からこのような説明を受けました」と一言伝えるだけでも、情報共有がスムーズになるケースは少なくありません。
請求書や領収書の内容は毎月チェックしたほうがよい
毎月届く請求書や領収書には、算定されたサービスの名称や単位数(点数)、自己負担額が記載されています。「居宅療養管理指導費」なのか「在宅患者訪問薬剤管理指導料」なのかを確認し、ご自身の介護認定状況と矛盾がないかをチェックする習慣をつけましょう。
万が一、誤った保険で請求されていた場合は、薬局やケアマネジャーに連絡すれば修正対応をしてもらえます。遠慮せずに問い合わせてください。


よくある質問
- 居宅療養管理指導費はどのような患者が介護保険で算定されますか?
-
要介護1〜5の認定を受けている65歳以上の方が、居宅療養管理指導費の主な対象となります。加えて、40歳〜64歳の方でも、がんや関節リウマチなど16種類の特定疾病により要介護認定を受けている場合は介護保険で算定されます。
要支援1〜2の認定を受けている方も介護保険の対象ですが、その場合は「介護予防居宅療養管理指導費」という名称で算定されます。いずれも通院が困難であることが前提条件です。
- 居宅療養管理指導費と在宅患者訪問薬剤管理指導料は同時に算定できますか?
-
同一の患者さんに対して、居宅療養管理指導費と在宅患者訪問薬剤管理指導料を同時に算定することはできません。要介護または要支援の認定を受けている方には介護保険が優先され、認定を受けていない方のみが医療保険で算定される仕組みです。
両方の保険を併用して二重に請求することは制度上認められていないため、薬局では訪問前に患者さんの介護認定状況を必ず確認しています。
- 居宅療養管理指導費は介護保険の区分支給限度額に含まれますか?
-
居宅療養管理指導費は、介護保険の区分支給限度基準額の枠外で算定されます。そのため、訪問介護やデイサービスなどほかの介護サービスを限度額いっぱいまで利用していても、居宅療養管理指導は別枠で利用が可能です。
「介護保険の枠に余裕がないから薬剤師の訪問は頼めない」と思い込んでいる方もいらっしゃいますが、その心配はありません。安心して利用をご検討ください。
- 居宅療養管理指導費の自己負担額は月にどのくらいかかりますか?
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自己負担額は、患者さんの所得による負担割合(1割〜3割)と訪問回数によって変わります。たとえば薬局の薬剤師が月に2回訪問した場合、1割負担の方であれば月あたり約1,000円前後が目安になります。
単一建物居住者の人数によっても1回あたりの単位数は異なるため、正確な金額は担当の薬局に問い合わせていただくのが確実です。訪問のたびに領収書が発行されますので、そちらで実際の金額をご確認ください。
- 居宅療養管理指導費の自己負担分は医療費控除の対象になりますか?
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居宅療養管理指導費の自己負担額は、確定申告における医療費控除の対象になります。国税庁の見解によると、居宅療養管理指導は医師や薬剤師などから受ける療養上の管理・指導であるため、その自己負担額は医療費控除に含めることができます。
医療費控除を申請する際は、薬局から発行される領収書を保管しておいてください。領収書には医療費控除の対象となる金額が記載されているため、確定申告の際にそのまま活用できます。
