透析をしない選択と自宅での緩和ケア|透析中止後の経過と在宅看取りの準備

透析をしない選択は、誰にでも開かれた一般的な道ではありません。限られた状況のもとで、本人と家族と医療者が時間をかけて話し合ったうえで検討される医療上の判断です。
日本透析医学会は「見合わせ」という言葉を使い、いったん決めたあとでもいつでも撤回できる前提を、確認書と撤回書の様式まで添えて示しています。
自宅で最期までという希望を受け止めたご家族が知りたいのは、何がどの順で起こるのか、そして誰に頼れるのかという点でしょう。
決め方の道すじ、体に起こりうる変化、自宅で受けられる緩和ケア、家族の備えを、厚生労働省と学会が公表している資料に沿って順にたどります。
透析をしない選択は限られた状況で検討される医療上の判断
透析をしない選択は、誰にでも勧められるものではありません。日本透析医学会は、透析を安全に行えない状態や、全身の状態がきわめて不良で本人の意思が明らかな場合など、限られた状況を挙げて検討の対象としています。
差し控えでも中止でもない「見合わせ」
日本透析医学会は、透析を差し控える、あるいは継続を中止するという言い方をせず、「見合わせ」の語を用いています。一時的に実施せず、病状の変化によっては開始または再開する含みを持たせた用語です。
言葉の選び方に、この判断の性質がよく表れているでしょう。扉を閉ざす決定ではなく、状況が変われば開き直せる余地を残した取り決めとして扱われます。
同じ学会は、2014年に公表した前の提言の段階から、合意された事項はいつでも撤回・修正ができると示してきました。用語も考え方も、後戻りを織り込んだ形で組み立てられています。
学会が挙げる、透析の見合わせを検討できる状態
日本透析医学会は、見合わせを検討できる状態を表にまとめ、大きく2つに分けています。透析そのものが危険になる場合と、全身の状態がきわめて不良で本人の意思が明らかな場合です。
| 区分 | 学会が表に挙げている状態 |
|---|---|
| 透析を安全に行えず、生命を著しく損なう危険性が高い場合 | 多臓器不全や持続低血圧などで、透析の実施がかえって生命に危険な状態/透析のたびに器具による抑制と薬物による鎮静をしなければ安全に実施できない状態 |
| 全身の状態がきわめて不良で、本人の意思が明示されている、または家族等が意思を推定できる場合 | 脳血管障害や頭部外傷の後遺症などの重篤な脳機能障害のため、透析や療養生活に必要な理解が困難な状態/完治不能な悪性疾患を合併し、死が確実にせまっている状態/経口摂取ができず、人工的な水分栄養補給によって生命を維持する状態を脱するのが長期的に難しい状態 |
表に並ぶのは、いずれも透析を続ける負担が本人の利益を上回りかねない場面ばかりです。腎臓の働きが落ちたという一点だけで当てはまる項目は、ひとつもありません。
透析を続けて得られるもの、失われるもの
学会は、患者さんがすべての情報を正しく理解したうえで選べるよう、透析を行う利益と不利益、そして行わない場合の利益と不利益を、理解できるまで説明するよう求めています。
透析を続ければ、体にたまる水分と老廃物を取り除き、命を保てる場面が多くあります。その一方で、通院や時間の拘束、透析中の血圧低下や穿刺の痛みといった負担も伴います。
提言には、期間を限定した透析の実施についての情報も提供するようにと書かれています。全か無かの二択ではなく、まず区切って試す道も選択肢に残されています。
見合わせは透析をやめるよう勧めるための選択肢ではない
誤解されやすい点ですが、この提言は透析をやめる方向を後押しするために作られたものではありません。日本透析医学会は、患者さんの救命と治療に医療チームが献身的な支援を行う姿勢を基調としたと記しています。
同じ学会は、2014年の提言から約2年後に行われた全国規模の実態調査を提言の中で紹介しています。見合わせた患者さんの89.7%が高齢者で、46.1%が認知症のある患者さんでした。
この調査では提言に準拠しない見合わせが23.4%認められ、医療チームが難しい判断を迫られて苦悩している現状も浮かび上がりました。手順を飛ばした決定は、当の医療者にとっても重い負荷になります。
透析をしない選択を本人と家族と医療者でどう話し合うか
話し合いの出発点は、医療者からの適切な情報提供と説明にあります。厚生労働省が平成30年3月に改めた、人生の最終段階における医療とケアの方針の決め方についての指針は、本人による意思決定を基本とする原則を最も重要なものとして置いています。
| 本人の意思の状態 | 話し合いの中心 | 指針が置く基本 |
|---|---|---|
| 自分で示せる | 本人と多職種の医療・ケアチーム | 十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定 |
| 示せないが家族等が推定できる | 家族等と医療・ケアチーム | 推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとる |
| 示せず、家族等も推定できない | 家族等と医療・ケアチーム | 本人に代わる者として十分に話し合い、最善の方針をとる |
| 家族等がいない、または判断を委ねられた | 医療・ケアチーム | 本人にとっての最善の方針をとる |
厚生労働省の指針が最も重要な原則として置くもの
指針は、医師などの医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて本人が多職種の医療・ケアチームと十分に話し合い、本人による意思決定を基本として進める形を、最も重要な原則としています。
同じ指針は、本人の意思は変化しうるものだと明記したうえで、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援を医療・ケアチームが行い、話し合いを繰り返すよう求めています。
透析を続けるか見合わせるかという重い話題ほど、一度の面談で結論まで運ぼうとしないほうがうまく運びます。日を分けて重ねる進め方で十分でしょう。
本人が自分の言葉で意思を示せないとき
本人の意思が確認できない場合の手順も、指針は具体的に書き分けています。家族等が本人の意思を推定できるなら、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとるのが基本です。
推定できない場合は、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、やはり本人にとっての最善を探します。時間の経過や心身の状態の変化、医学的評価の変更に応じて、この話し合いは繰り返されます。
家族等がいない場合、あるいは家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合も、本人にとっての最善の方針をとるのが基本と定められています。誰も決められないまま宙に浮く筋書きにはなりません。
意見がまとまらないときに開かれる話し合いの場
家族の間で意見が割れる場面は珍しくありません。厚生労働省の指針は、そうした行き詰まりに備えて、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設けるよう示しています。
この場には医療・ケアチーム以外の者を加え、方針についての検討と助言を行うと指針は定めています。家族だけで抱えて煮詰まったときに、外から風を入れる仕組みだと考えてよいでしょう。
話した内容はその都度、文書にまとめておく
厚生労働省の指針は、話し合った内容をその都度、文書にまとめておくものとすると定めています。日本透析医学会も、すべての職種が話し合いの内容を記録し、文書にまとめて患者さん・家族等と共有する大切さを説いています。
書き残す媒体は、診療所が用意する用紙でもノートでもかまいません。どこに置いてあるかを家族全員が知っている状態にしておくほうが、いざというときに迷わずに済みます。
記録は決定を縛る契約ではありません。あとで読み返し、書き換えるための下書きとして持っておくと、話し合いの続きが楽になります。
透析をしない選択はいつでも撤回できる
決めたあとで気持ちが変わっても、元の道へ戻れます。日本透析医学会は、見合わせの決定をいつでも撤回できると説明するよう求め、そのための撤回書の様式まで提言に添えています。
学会が撤回書の様式まで示している
提言の参考資料には、透析の見合わせに関する確認書とあわせて、撤回書が並んでいます。撤回書は「私の意思が変わりましたので」という一文から始まる、簡潔な書式です。
選べる欄は2つに分かれ、一時的な血液透析を始めるか続けるかを選ぶ欄と、継続的な腎代替療法の開始または継続を選ぶ欄が並びます。後者では血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかに印を付けます。
様式があらかじめ用意されている事実そのものが、撤回を例外扱いせず、はじめから織り込まれた手続きとして扱う姿勢を映しています。
口頭で伝えれば透析は実施される
書式が手元になければ撤回できない、という決まりではありません。学会は、意思を変えて透析の開始を申し出た場合には口頭の意思表示で透析を実施し、そのうえで今後の医療とケアの方針を改めて話し合うと示しています。
撤回書は、必要に応じてあとから受け取る位置づけです。手続きの紙が先に立って、本人の気持ちが後回しになる構図にはなっていません。
確認書についても同じで、学会は強制的に取得するのではなく、患者さんの意思を尊重して取得しない場合もあると書き添えています。
撤回するときに知っておきたい制約
撤回が自由である一方で、確認書には注意も書かれています。撤回時の状況によっては迅速かつ安全に透析を開始できない可能性があり、死亡する可能性があるという説明を受けたうえで署名する形です。
体の状態が大きく崩れてからでは、透析そのものを安全に行えなくなる場面があるためです。気持ちが揺れた時点で早めに医療チームへ伝えておくほうが、選び直せる幅は広く残ります。
揺れを口に出すのは、決意が足りない証拠ではありません。学会は、患者さんの意思は変わりうるものだと医療チームが常に認識し、透析を受け入れるための対応を続けるようにと求めています。
迷いが行き来するのは自然な反応
先ほどの全国規模の実態調査では、いったん透析を見合わせた患者さんの7.5%が、その後に透析を開始または再開していました。決定が一方通行ではない様子が、数字にも表れています。
厚生労働省の指針も、時間の経過や心身の状態の変化、医学的評価の変更に応じて本人の意思が変化しうると明記しています。揺れは想定外の出来事ではありません。
家族の側も、支持したり反対したり、日によって気持ちが動くものでしょう。その揺れを責め合わずに持ち寄れる場をつくれるかどうかが、あとの後悔を左右します。
| 書式 | 記されている中身 |
|---|---|
| 透析の見合わせに関する確認書 | 現在の腎機能と全身状態の説明を受けて理解した/透析を行わなければ近い将来に症状が生じ、苦痛を和らげる処置は行われるが死亡すると理解した/いつでも撤回できると説明を受けた/撤回時の状況によっては迅速・安全に透析を開始できない可能性があると説明を受けた |
| 透析の見合わせに関する撤回書 | 意思が変わったので、一時的な血液透析の開始または継続、あるいは継続的な腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)の開始または継続を希望する |
透析をしない選択のあと、体に起こりうる変化
腎臓が担っていた水分と老廃物の調節が追いつかなくなり、いくつかの症状が現れてきます。ただし出方も時期も人によって大きく異なり、日数で言い当てられるものではありません。
確認書に並ぶ6つの症状
日本透析医学会の確認書は、透析を開始または継続しない場合に近い将来生じうる症状を、6つの組に分けて並べています。署名の前に、ひとつずつ確かめる形になっています。
同じ確認書には、これらの症状に対して苦痛を和らげる処置が行われると明記されています。症状が出るに任せて放っておく筋書きではありません。
尿毒症の症状として説明されるもの
学会は、保存的腎臓療法を選んで透析を見合わせた場合に、尿毒症の症状として呼吸困難、意識障害、肺水腫、不整脈などが起こり、死亡する可能性があると説明するよう求めています。
あわせて、透析を始めればこれらを避けられる可能性、透析に伴う苦痛が生じる可能性、緩和ケアで苦痛の軽減を図れる可能性も、理解できるまで伝えるようにと示されています。
良い面だけ、あるいは悪い面だけを並べる説明にはならないよう、両側を対にして示す組み立てです。
なぜ時期を数字で言い当てられないのか?
どのくらいの期間で何が起こるのかを、日数や週数で言い切れる根拠はありません。残っている腎臓の働き、心臓や肺の状態、年齢や合併症によって経過の幅が大きいためです。
学会も、見合わせたあとに出現が予測される症状と予後を説明する主体を、目の前の患者さんを診ている医療チームに置いています。一般論の数字ではなく、その方の体の状態に即した見通しが要ります。
見通しを尋ねるのは、遠慮の要る質問ではありません。いつごろ何が起こりうるかを聞いておくと、家族の側も心づもりと段取りを進めやすくなります。
苦痛を和らげる手当ては決める前から続いている
緩和ケアは、見合わせを決めてから始まるものではありません。日本透析医学会は、緩和ケアが慢性腎臓病の段階にかかわらず症状に応じて必要であり、見合わせを決める前であっても提供されるべきだと述べています。
痛みや息苦しさ、かゆみ、吐き気といったつらさは、透析を続けている間にも現れます。決断の前後で線を引かず、状況に応じた手当てを続ける姿勢が示されています。
この点は、ご家族が抱きやすい誤解のひとつでしょう。緩和ケアへ移るという言い方は、治療を手放す合図ではありません。
透析をしない選択のあと、自宅で受けられる緩和ケアと支え
自宅で過ごすと決めた場合、透析施設の医療チームは在宅医と連携するよう学会から求められています。訪問診療と訪問看護、介護のサービスを組み合わせ、家に手が届く形へ組み替えていきます。
| 担い手 | 主に引き受ける中身 | 家族が頼りやすい場面 |
|---|---|---|
| 在宅医(訪問診療) | 定期の診察、症状を和らげる薬の調整、家族への説明 | 今後の見通しを聞きたいとき |
| 訪問看護師 | 体の手当て、症状の観察、夜間の電話相談 | 様子が変わって迷うとき |
| 訪問介護員 | 入浴や排せつの介助、身の回りの世話 | 介護の手が足りないとき |
| 介護支援専門員 | サービスの組み立てと事業者との調整 | 何をどこへ頼めばよいか分からないとき |
| もとの透析施設 | 経過と薬の引き継ぎ、意思の再確認 | 透析を再開したくなったとき |
学会が求める在宅医との連携
日本透析医学会の提言は、患者さんが在宅での看取りを希望した場合、在宅医と連携すると明記しています。看取りの場所を確かめたうえで、在宅医や介護福祉士、介護支援専門員といった介護の担い手と手を組む形です。
透析施設と縁が切れるわけではありません。それまでの経過や薬の内容が引き継がれ、生活の場のほうへ医療が移ってきます。
引き継ぎを頼むのは、ご家族から切り出しても差し支えありません。通院がつらくなった事情を素直に伝えれば、多くの医療者は前向きに応じます。
夜間に電話がつながる先はどこか?
自宅での療養が続くかどうかは、夜間に電話がつながる先があるかで大きく変わります。厚生労働省が定める在宅療養支援診療所の届出では、24時間連絡を受ける体制、24時間の往診体制、24時間の訪問看護体制が求められます。
緊急時に入院を受け入れる体制の確保も、同じ届出の基準に並びます。家で過ごすと決めたあとも、病院へ戻る道が閉じるわけではありません。
届け出ているかどうかは、最初の相談の電話で確かめられます。夜間に誰が電話を受けるのか、連携先の病院はどこかは、面談で必ず尋ねておきたい点でしょう。
体の痛みだけではない苦痛にも応じる
日本透析医学会は、患者さんが抱える苦痛を全人的なものととらえ、身体的な痛み、心理的な痛み、社会的な痛み、そしてスピリチュアルな痛みの4つを挙げています。
緩和ケアでは体の痛みを和らげながら、心理的・社会的・スピリチュアルな求めに耳を傾け、患者さんと家族の双方を支えると示されています。必要に応じて緩和ケアの専門知識を持つ専門家が関わるのが望ましいとも書かれています。
訴えにくいのは、体の痛みより暮らしや気持ちの側かもしれません。眠れない、申し訳ない、役に立てないといった言葉も、支えを組み替える材料になります。
深い鎮静を行うときの取り決め
苦痛が薬でおさまらない場面では、意識を下げて眠るように過ごす深い持続的な鎮静が検討される場合があります。学会は、これを行う場合には事前に患者さん・家族等から同意を得るのが望ましいと示しています。
あらかじめ話題にしておくと、いざというときの判断がご家族の肩だけに載りません。どこまでの苦痛を許容し、どこから眠りたいのかは、本人の言葉で聞いておく値打ちがあります。
鎮静は命を縮める目的で行うものではありません。厚生労働省の指針も、生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は対象としないと明記しています。
透析をしない選択を支える家族の備え
本人の意思を預かって伝える人を決めておく段取りが、家族の備えの中心にあります。医療の代わりを務める働きまで求められているわけではなく、話し合いの記録を分け持ち、連絡先を手元に置く準備が要になります。
本人の意思を代わりに伝える人を先に決める
厚生労働省の指針は、話し合いに先立って、本人が特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておく大切さに触れています。意識が下がってからでは、この指名ができません。
代わりに伝える人を決めておくと、判断を迫られる場面で家族の意見が割れにくくなります。誰が話すかを先に決めておくだけでも、あとの摩擦はかなり減ります。
指名された人が一人で背負う形にはしないでおきたいところです。決めた中身をきょうだいや親族にも伝え、皆で支える枠組みに置き換えておくと安心でしょう。
記録と連絡先を家族で分け持つ
話し合いの記録は、書いた人の引き出しにしまったままでは役に立ちません。夜間の連絡先とあわせて、家族の誰もがすぐ取り出せる場所に置いておきます。
紙に書いて電話のそばに貼っておくと、暗がりで慌てて探す時間がなくなります。同居していないご家族にも同じ写しを渡しておくと、留守を頼むときに役立ちます。
介護する側の疲れと、そのあとを支える手当て
介護する側が倒れると、自宅での療養はそこで止まります。眠れない、腰が痛い、仕事に行けないといった訴えも、支えの組み方を見直す材料として遠慮なく伝えてよいものです。
日本透析医学会は、家族等に看取りとグリーフケアも含んだ心理的なケアを行う大切さにも触れています。ご家族が良い最期であったと振り返れるところまでを、支えの範囲に入れているわけです。
支えは亡くなった時点で終わりません。気持ちの整理に時間がかかる方も多く、訪問看護や在宅医にあとから相談を持ちかける道も残されています。
透析をしない選択に迷いが深いときの相談先
迷いが晴れないまま署名へ進む必要はありません。学会は、患者さんにセカンド・オピニオンを求める権利があると明記し、その説明を行うよう医療チームに求めています。
セカンド・オピニオンを求める権利
透析を見合わせるかどうかは、一度きりの説明で決め切れる話ではありません。日本透析医学会は、患者さんにセカンド・オピニオンを求める権利があるとしたうえで、その説明をするよう提言に書き込んでいます。
別の医療機関の考えを聞いたからといって、いまの主治医との関係が壊れるものではありません。むしろ判断の材料が増え、ご家族の納得も得やすくなります。
聞きに行くときは、これまでの検査結果と治療の経過を持参すると話が早く進みます。何に迷っているのかを一文で書き出しておくと、限られた時間を使い切れます。
解決できる理由が隠れていないか?
見合わせを望む背景に、手当てすれば消える困りごとが潜んでいる場合があります。学会は、解決可能な見合わせの理由として、通院困難、透析中の低血圧、穿刺の痛みを挙げています。
本人は苦痛と受け止めていても、適切な手当てで解決できる余地が残る項目です。送迎の組み直し、透析中の血圧を保つ工夫、痛みへの対処によって、続けられる場面は少なくありません。
だからこそ、なぜ見合わせたいのかを言葉にしておく作業が要ります。理由の中身によって、答えは正反対に振れます。
| 迷いや困りごとの中身 | まず持ちかける先 |
|---|---|
| 透析を続ける負担そのものがつらい | 主治医と透析施設の看護師(解決できる理由が無いか一緒に洗い出す) |
| 説明された見通しに納得できない | 別の医療機関のセカンド・オピニオン |
| 家族の間で意見がまとまらない | 医療・ケアチーム(複数の専門家からなる話し合いの場の設置を相談) |
| 自宅で過ごしたいが体制が不安 | 在宅医、訪問看護、介護支援専門員 |
| いったん決めたが気持ちが変わった | 主治医(口頭で伝えれば透析を実施し、撤回書は必要に応じて) |
話し合いが行き詰まったときに残る道
何度話しても合意に至らない場面もあります。日本透析医学会は、患者さん・家族等と話し合いを繰り返しても合意を形成できない場合、施設長に相談して合意形成に努めると示しています。
繰り返し話し合う時間の余裕がない場合にも、同じく施設長への相談が置かれています。担当医とご家族の二者だけで抱え込ませない設計です。
厚生労働省の指針が示す、複数の専門家からなる話し合いの場も同じ働きをします。行き止まりに見えても、外へ開く扉はいくつか用意されています。
よくある質問
希望だけで決まる仕組みではありません。日本透析医学会は、医療チームが必要な情報を十分に提供し、話し合いを繰り返して合意を形成する道すじを示しています。
意思決定能力を持つ患者さんには医療を拒否する権利があるとしたうえで、透析を受け入れるための対応を続け、期間を限定した透析についての情報も伝えるよう求めています。
日数や週数で言い当てられる問いではありません。残っている腎臓の働きや心臓・肺の状態、年齢や合併症によって経過の幅が大きく変わります。
日本透析医学会は、見合わせたあとに予測される症状と予後を、目の前の患者さんを診ている医療チームが説明するものとしています。主治医へ直接尋ねるのが確実です。
戻れます。日本透析医学会は撤回書の様式を提言に添え、口頭で意思を伝えれば透析を実施し、今後の方針を改めて話し合うと示しています。
ただし確認書には、撤回時の状況によっては迅速かつ安全に透析を開始できない可能性も併記されています。気持ちが動いた時点で早めに伝えておくと、選び直せる幅が残ります。
在宅での看取りを希望した場合、透析施設は在宅医と連携すると日本透析医学会は明記しています。訪問診療と訪問看護、介護のサービスを組み合わせて支える形になります。
症状が強まったときに入院へ切り替える道も残ります。厚生労働省が定める在宅療養支援診療所の届出には、緊急時に入院を受け入れる体制の確保が含まれます。
ご家族だけで相談に出向いても差し支えありません。厚生労働省の指針は、本人が自らの意思を伝えられなくなる場合に備えて、家族等も含めた話し合いを繰り返すよう促しています。
話し合いに先立って、本人が特定の家族等を意思を推定する者として定めておく大切さにも触れています。動き出す前に情報を集めておくと、あとで急に迫られる場面が減ります。



