死期が近い高齢者の匂いの変化とは?終末期の身体変化と家族が気づくサイン

自宅の寝室で高齢者の口元をやさしくケアする家族の手と、整えられた寝具を示す在宅医療のイメージ

においが変わったら最期が近い、と結びつける説明を目にした方もいるかもしれません。けれども在宅の現場で実際に起きているのは、口の乾きや皮膚、排泄といった手当てのできる変化のほうがずっと多いのです。

体から立つにおいは、その人の今の状態を映す手がかりになります。どこから来ているのかをたどれば、家族の手で和らげられる部分が見えてきます。

口の中で何が起きているのか、皮膚と排泄はどう変わるのか、そして今日から手を動かせるケアは何か。日本緩和医療学会や日本褥瘡学会などが公にしている指針をたどりながら順に見ていきます。

目次

終末期のにおいの変化はケアで和らげられるものが多い

においが変わったと感じたとき、まず疑うのは口の中の乾きと汚れ、皮膚のトラブル、排泄の変化という三つです。いずれも家族の手当てや医療の介入で軽くなる場合が多く、時期を告げる合図として受け取る必要はありません。

においの出どころ背景にありやすい変化家族にできる手当て
口の中唾液が減り、舌や入れ歯に汚れが乾いて残る湿り気を保ち、1日1回の口腔ケアを続ける
皮膚乾燥、汗の減少、褥瘡やがんによる傷やさしい清拭と保湿、体の向きの調整
排泄尿のアルカリ化、おむつの中の湿り早めの交換と、洗いすぎない洗浄・保湿

この三つは、どれも訪問診療や訪問看護が日常的に扱っている領域です。原因の見当さえつけば、薬や用具、専門職の手技といった打ち手が残されています。

においの出どころは口と皮膚と排泄に絞れる

体から立つにおいは、汗や皮脂だけでなく、唾液の減った口の中や、湿ったまま蒸れた皮膚、おむつの中の尿や便からも生まれます。横になっている時間が長くなるほど、発生源はこの三つに偏っていきます。

逆にいえば、確かめる場所はそれほど多くありません。口を開けて舌の色を見る、背中や腰の皮膚を見る、おむつを開けて赤みを見る。この順で目を通せば、出どころの見当はおおよそつきます。

訪問診療でもほぼ同じ順で確かめていきます。においそのものを測る検査はありませんが、発生源が分かれば手当ての方向は自然と決まってくるからです。

特定のにおいで残りの時間は測れない

体の中で何かが変わり独特のにおいが出る、といった説明が世の中には流れていますが、家庭で確かめられる形で裏づけられたものではありません。信頼できる学会の指針をたどっても、におい単独で時期を判断するという記述は見当たりません。

一方で、口の乾きや皮膚の傷が強くなればにおいも強まる、という関係ははっきりしています。つまり、においの強さが映しているのは残された時間ではなく、いまケアが届いているかどうかです。

ですから、におうから終わりが近いと受け取らなくて構いません。手を入れられる場所を教えてくれる合図として読み替えたほうが、ご本人にも家族にも役立ちます。

気づけたのは近くで過ごしてきた家族だから

においの変化は、毎日そばにいる人でなければ拾えない情報です。週に一度訪れる医療者よりも、同じ部屋で眠り、同じ布団に触れている家族のほうがはるかに早く気づきます。

気づいた時点で、その方はすでにケアの入り口に立っています。あとは発生源をたどり、できる手当てを重ね、変わらなければ在宅の医療チームへ伝えれば十分でしょう。

気になってしまう自分を責める必要はありません。においの変化は、看護や介護の現場でも観察の一部として扱われてきた、れっきとした手がかりです。

口の乾きと汚れが終末期のにおいの元になりやすい

においの出どころとして最も多いのは口の中です。日本緩和医療学会は、終末期のがん患者さんの56〜95%に口の渇きがみられると整理しており、唾液が減った口の中では汚れが乾いて残りやすくなります。

口の渇きは終末期の多くの人に起こる

同学会が公にした終末期がん患者さんの輸液療法についての指針は、口の渇きを「治療すべき重要な症状」と位置づけています。頻度の幅が広いのは調査ごとに対象が違うためで、まれな症状ではないという点は共通しています。

唾液には、口の中を洗い流す働きがあります。その量が減れば食べかすや剥がれた粘膜がとどまり、細菌が増えやすい環境に傾いていきます。

食べたり飲んだりする回数が減ると、口を動かす機会そのものも少なくなるでしょう。噛む刺激が乏しければ唾液はいっそう出にくくなり、乾いた口の中に汚れがとどまる時間も延びていきます。

においだけの問題ではありません。口の渇きは本人にとって強い苦痛にもなり、話しにくさや飲み込みにくさにもつながっていきます。

点滴を増やせば口の渇きは和らぐのでしょうか?

日本緩和医療学会の同じ指針は、残された時間が短いと見込まれ、口から水分をとれる終末期のがん患者さんについて、口の渇きを改善する目的で輸液を行わず口腔ケアなどの看護ケアを行うよう推奨しています。推奨の強さは1B、根拠は限られるとしたうえでの強い推奨です。

要約の部分では、輸液は口の渇きを改善しない場合が多く、渇きに対しては看護ケアが最も重要だと述べられています。点滴の量を増やしても、口の中の乾きだけは思うように埋まらないわけです。

点滴を増やしてほしいという家族の願いは、決して的外れではありません。ただ、口のにおいや渇きを軽くしたいのであれば、手を動かす先は点滴ではなく口の中になります。

舌と入れ歯の汚れがにおいを強める

国立長寿医療研究センターが公開している要介護高齢者向けの口腔ケアの手引きは、舌に付く白黄色の舌苔について、微生物の温床であり口臭の原因だと明記しています。舌の清掃を口腔ケアで忘れてはならない工程として挙げている点も見逃せません。

同じ手引きは、手入れされていない入れ歯には汚れの塊が付き、微生物が繁殖すると説明しています。入れ歯は毎日外して洗う対象であり、口から食べる量が減っても手入れの必要は変わりません。

口が開いたままの状態が続くと、口の中は非常に乾き、痰や剥がれた粘膜が上あごにこびりつきます。乾いて固まった汚れを無理にはがすと出血するため、まず湿らせてやわらかくしてから取り除きます。

口の中で起きている変化においにつながる理由家庭でできる手当て
舌が白や黄色に覆われる舌苔は微生物の温床で口臭の元になる軟らかい歯ブラシで奥から手前へ軽く10回程度
入れ歯に汚れが残る汚れの塊に微生物が繁殖する毎日外して歯ブラシで洗い、乾かさずに保管
口が開いたままで乾く痰や剥がれた粘膜が上あごに固まる保湿ジェルでふやかしてから拭き取る

乾きを強める薬や口呼吸にも目を向けたい

日本緩和医療学会の指針は、口の渇きを促進する要因として、口内炎、口呼吸、医療用麻薬、抗コリン作用をもつ薬剤、全身状態が不良であることを挙げています。薬の側に理由がある場合は、主治医が量や種類を見直せる余地が残ります。

同じ指針は、唾液の分泌低下や副腎皮質ステロイドの使用によって口腔内カンジダ症が高い頻度でみられるとも述べています。口の中の感染は渇きの原因にも結果にもなるため、白い付着物が広がるときは早めに相談したいところです。

渇きを和らげるケアとして同学会が挙げている例は、家庭でも取り入れやすいものが並びます。ご本人の好みに合うものを選んで構わない、という書き方をしている点も心強いでしょう。

  • 少量の水分や氷片、シャーベットを口に含んでもらう
  • スポンジスティックやガーゼで口の中を湿らせる
  • 口腔用の保湿ジェルや人工唾液を薄く塗る
  • 加湿器を置いて部屋の湿り気を保つ
  • レモン水や酸味のあるもので唾液を促す
  • 顎のまわりをやさしくマッサージする
  • 口腔ケアには、簡便で家族も参加でき、本人にとって不利益が少ないという利点があると同学会は書いています。家族とともに行うことで、ケアをしているという実感につながるとも述べられています。

    皮膚の乾燥と褥瘡が高齢者のにおいに関わるとき

    横になっている時間が長くなった方では、においの出どころが皮膚へ移っていきます。背景にあるのは乾いて傷んだ皮膚や褥瘡(じょくそう)で、日本褥瘡学会は予防の柱を体圧の分散とスキンケアに置いています。

    動けない時間が長いほど皮膚は乾いて傷む

    自分で寝返りを打てなくなると、同じ場所に体重がかかり続け、血のめぐりが滞ります。汗をかく力も落ちていくため、皮膚は乾きやすくなる一方で、寝具に触れている面だけは蒸れるという偏った状態になりがちです。

    乾いた皮膚は薄く裂けやすく、蒸れた皮膚はふやけて弱くなります。どちらの側でもわずかな摩擦で傷ができ、そこから独特のにおいが立つようになります。

    皮膚が薄くなると、衣類の縫い目や寝具のしわといった小さな段差でも負担がかかります。汗をかきにくい体では汚れが流れ落ちにくく、皮脂や角質が表面に残ったまま蓄えられていくのです。

    においに気づいたら、まず背中と腰、かかと、耳の後ろを見せてもらいましょう。衣類やシーツで隠れた場所ほど、変化が進んでから見つかりやすいからです。

    褥瘡ができやすい場所と体の向きの変え方

    日本褥瘡学会は、体位変換について基本的に2時間を超えない範囲で行うと説明し、体圧分散寝具の種類によっては4時間を超えない範囲で行ってもよいとしています。夜間の負担が重いときは、寝具を替えて回数を減らせないか相談する余地があります。

    姿勢としては30度側臥位が挙げられており、クッションなどを活用してできるだけ広い接触面積で支える形が示されています。骨の出っ張りだけで体を支えない、という発想が根っこにあります。

    予防の柱学会が示している目安家庭での置き換え
    体圧の分散体位変換は2時間を超えない範囲、体圧分散寝具では4時間を超えない範囲でもよい夜間は寝具を見直し、回数を減らせないか相談する
    姿勢の工夫30度側臥位で広い面積を使って支える背中と足の下にクッションを差し入れる
    スキンケアゴシゴシ擦らずやさしく洗い、排泄部の周囲に保護のクリームを塗る泡で洗い、押さえ拭きで水分を取る

    同学会は、皮膚をゴシゴシ擦らないようやさしく丁寧に洗うと述べ、肛門や外陰部から周囲の皮膚へ保護のためのクリームなどを塗るよう勧めています。低栄養を避けることも予防の基本に含まれます。

    傷のにおいが強まったら在宅チームへ伝える

    すでにできている傷のにおいが強まったときは、家庭で様子を見る段階を越えています。日本褥瘡学会の評価スケールは、創の面のぬめりや滲出液の多さ、肉芽が浮腫状でもろい状態を、細菌が増えている疑いの目印として扱っています。

    がんが皮膚に及んでできた傷では、においそのものが治療の対象になります。メトロニダゾールのゲル剤には「がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減」という効能・効果が承認されており、潰瘍面を清拭したうえで1日1〜2回塗る使い方が定められています。

    つまり、傷のにおいは我慢すべきものではなく、伝えれば手が打てる場合があります。ご本人が人に会うのをためらう理由にもなりますから、遠慮せず主治医や訪問看護師へ相談してください。

    排泄の変化が終末期のにおいとして表に出るとき

    おむつのにおいが強くなるのは、量が増えたからとは限りません。日本創傷・オストミー・失禁管理学会の資料では、尿の中の尿素が細菌に分解されてアンモニアに変わり、皮膚のバリアも弱くなっていく流れが説明されています。

    尿がアンモニアに変わるとにおいも皮膚も変わる

    同学会の資料は、尿中の尿素が細菌によってアンモニアと二酸化炭素に分解され、尿がアルカリ性に傾くと記しています。アルカリ性に傾いた尿が皮膚に付くと皮膚のpHが上がり、表面を守っている酸の膜の働きが落ちて感染しやすくなります。

    つまり、鼻につくにおいと皮膚の傷みは同じ変化から生まれています。においが強い日は、皮膚も同じだけ負担を受けていると考えて差し支えありません。

    便が付いた場合には、便に含まれる消化酵素が皮膚の角層を傷めると同資料は説明しています。軟らかい便ほど広がって付着しやすく、皮膚への負担も増していきます。

    おむつやパッドの中は体温で温まり、湿り気もこもります。細菌にとって働きやすい条件がそろうため、交換までの時間が延びるほどにおいは強まりやすいのです。

    おむつの中で起きる失禁関連皮膚炎

    同学会は、尿または便が皮膚に接触して生じる皮膚炎を失禁関連皮膚炎と定義しています。予防と管理の基本は、付いた排泄物を取り除く清拭と洗浄、そして皮膚の働きを整える保湿の二本立てだと示されました。

    水分を含んでふやけた皮膚は、摩擦やずれだけでもただれた状態になりやすいと同資料は述べています。おむつを替えるときの何気ないひと拭きが、そのまま傷の引き金になりかねません。

    軟らかい便や水様の便、尿の感染が疑われる場合には、標準のスキンケアに撥水の保護を足すよう同学会は勧めています。順序をおさえておくと、毎回の交換で迷わずに済むでしょう。

    • 付いた排泄物を毎回やさしく拭き取る
    • 1日1回は弱酸性の洗浄剤で洗い流す
    • 水分は擦らず押さえ拭きで取る
    • 保湿剤を排泄物の付きうる範囲へ広めに塗る
    • 軟便や水様便のときは撥水性の保護剤を重ねる
    • おむつやパッドの当て方も、においの残り方を左右します。尿が広がる向きを見て当て直すだけで、汚れが皮膚に触れている時間は短くなります。

      洗いすぎはかえって皮膚を弱くしていないでしょうか?

      においが気になると、洗う回数を増やしたくなります。ところが同学会の資料は、洗浄剤を使って何度も洗うと皮膚が受ける化学的な刺激が大きくなるため、排便の回数が多い場合でも洗浄剤の使用は1日1回とするよう明記しています。

      拭き取りは毎回、洗浄剤を使う洗いは1日1回。この配分をおさえるだけで、皮膚を守りながらにおいを抑える形に近づきます。

      洗浄剤はpH5.5から7.0の弱酸性のものが勧められており、アルカリ性の石けんは皮脂を落としすぎるため慎重に選ぶよう書かれています。泡で包むように洗い、洗浄剤が残らないよう微温湯で流すのが基本の形です。

      家族が今日からできる終末期のにおいのケア

      特別な道具をそろえる前に、口の中を湿らせる、押さえ拭きで清潔を保つ、空気を通すという三つを回すだけで手ごたえは変わります。時間帯ごとに何をするかを決めておくと、介護する側の負担も軽くなるでしょう。

      場面手当ての目安気をつける点
      起床後と就寝前口の中を湿らせてから汚れを取る乾いた汚れを無理にはがさない
      おむつ交換のたび拭き取りは毎回、洗浄剤は1日1回強く擦らず押さえ拭きにする
      日中の空気の入れ替え短い時間でも窓を開けて空気を通す本人が冷えないよう掛け物で調整する

      1日1回5分の口腔ケアから始める

      国立長寿医療研究センターの手引きは、1日1回5分で誰でも要介護高齢者の口を清潔にできる手順を示しています。スポンジブラシで口の中を拭うのに約1分、歯の清掃に約2分30秒、舌の清掃に30秒、うがいに約1分という配分です。

      舌の清掃では、市販の舌ブラシを使わず一番軟らかい歯ブラシで奥から手前へ10回程度軽く擦る方法が勧められています。高齢者の口の中の粘膜は傷つきやすいため、力を入れすぎないよう注意が要ります。

      飲み込む力が落ちてむせやすい方には、洗浄用の水を使わず保湿ジェルで汚れをやわらかくしてから取り除く方法が同センターで確立されています。むせが増えてきたら自己流で続けず、歯科の訪問診療や訪問看護に手技を教わってください。

      体をふくときは強くこすらない

      清拭は、汚れを削り取る作業ではなく、皮膚に残ったものを浮かせて移す作業です。日本褥瘡学会も日本創傷・オストミー・失禁管理学会も、強く擦らないという一点で足並みをそろえています。

      タオルは繊維が硬く刺激が大きいため、失禁のある部位ではウェットワイプや専用の清拭剤を使うほうが皮膚にやさしいと示されています。滑りをよくする成分が入ったものを選べば、力を入れずに拭き取れるでしょう。

      拭き終わったら保湿剤を塗ります。塗るタイミングは洗浄や入浴のあとがよいとされ、1日1回以上が目安として挙げられています。

      乾燥が強いときは、量を惜しまず広めに伸ばすのがこつでしょう。薄く塗り広げるより、皮膚が吸い込む分を見越して置くように塗るほうが、うるおいの持ちがよくなります。

      寝具と衣類を替え、部屋の空気を通す

      日本緩和医療学会の指針は、患者さんと家族の不安を助長する身体的な苦痛を和らげるケアの例として、においへの配慮と室内の換気を並べて挙げています。部屋の空気を入れ替える営みは、思いつきの気休めではなく指針に載ったケアです。

      寝具は、汗や排泄物を吸ったまま長く敷いておくとにおいの元になります。枕カバーとシーツを先に替えるだけでも、部屋に漂う印象はかなり変わります。

      シーツのしわを伸ばす手間は、においだけでなく褥瘡の予防にもつながります。掛け物を一枚めくって背中に空気を通す短い作業も、蒸れをためないうえで役に立ちます。

      強い香りで覆ってしまってよいのでしょうか?

      香りで覆う方法には、二つの落とし穴があります。ひとつは発生源が分からなくなる点、もうひとつは終末期のご本人がにおいに敏感になっている場合がある点です。

      強い芳香剤を焚いた部屋で、吐き気が増したり眠りが浅くなったりする方もいます。まず換気とケアで発生源を減らし、そのうえで穏やかな香りを少しだけ添えるという順番が無理のない形でしょう。

      来客の前だけ何とかしたい、という気持ちも自然なものです。その場合も、口の中と寝具に先に手を入れたほうが結果は早く出ます。

      においが気になる自分を責めないでいい

      においが気になってしまうのは、愛情が足りないからではなく、介護の距離が近いからです。感じたものを打ち消そうとするより、在宅の医療チームへ言葉にして渡すほうが、ご本人にとっても近道になります。

      においが気になるのは薄情なのでしょうか?

      においは、意思と関係なく脳に届いてしまう感覚です。目は閉じられても鼻は閉じられない以上、気づいてしまう自分を責めても行き場がありません。

      むしろ、変化に気づける人が家にいるという事実が、在宅で過ごすうえでの強みになります。医療者は数日おきにしか訪れませんから、日々の観察は家族に委ねられている部分が大きいのです。

      後ろめたさを抱えたまま黙っていると、手当ての機会だけが遅れていきます。感じたままを伝えて構いませんし、伝えられて困る医療者もいません。

      在宅チームへ伝えるときの言葉

      伝える内容は、いつから、どのあたりから、どう変わったかの三点で足ります。「三日前から、おむつを替えるときに以前と違うにおいがする」という程度の粒度で十分に伝わります。

      言いにくければ、口の中や皮膚の話として切り出す手もあります。舌が白い、背中が赤い、傷から出る汁が増えたといった観察は、そのまま診察の手がかりです。

      相談する相手伝えると役立つ内容期待できる手当て
      訪問診療医いつから、どこから、どう変わったか薬の見直し、傷の治療の検討
      訪問看護師口の中や皮膚の状態、ケアで困っている点手技の指導、処置、用具の提案
      歯科の訪問診療口の乾き、汚れ、入れ歯の合い具合専門的な口腔ケア、入れ歯の調整

      どこへ言えばよいか迷ったら、まず訪問看護師に話すのが早道でしょう。日々のケアに最も近い立場から、必要に応じて主治医や歯科へ橋渡ししてもらえます。

      相談すると手当ての幅が広がる

      口の渇きが薬の影響なら量や種類の調整が検討されますし、傷が原因なら処置や塗り薬の選択肢が出てきます。体圧分散のマットレスや軟便専用のパッドといった用具も、担当者に伝われば手配が動きます。

      訪問入浴や歯科の訪問診療といった手も残されています。介護保険の担当者に相談すれば、今の状態に合う組み合わせを一緒に探せるでしょう。

      厚生労働省が示している人生の最終段階の医療とケアの決め方についての指針も、本人と家族、医療・介護の担当者が繰り返し話し合う形を基本に置いています。一度決めた方針を後から変えてよい、という考え方が前提です。

      においの話は、その話し合いの入り口としても使えます。体に起きている変化を共有する材料になり、これから何を大事にしたいかを言葉にするきっかけにもなるからです。

      よくある質問

      終末期の高齢者のにおいは、家族のケアで和らげられますか?

      においの多くは口の乾きや皮膚、排泄といった手当てのできる原因から生まれるため、家庭のケアで軽くなる場合が少なくありません。口の中を湿らせて汚れを取る、押さえ拭きで清潔を保つ、寝具を替えて空気を通すという三つが柱になります。

      二、三日続けても変わらないときや、強まっていくときは、原因が傷や感染の側にある場合があります。その段階で訪問診療医や訪問看護師へ伝えると、処置や薬の見直しにつながります。

      終末期の口の渇きが強いとき、点滴を増やせば口のにおいも減りますか?

      日本緩和医療学会の指針は、終末期のがん患者さんにおいて輸液は口の渇きを改善しない場合が多く、渇きに対しては看護ケアが最も重要だと述べています。点滴の量と口の中の潤いは、必ずしも比例しません。

      口のにおいを軽くしたいのであれば、保湿ジェルやスポンジスティックで口の中を湿らせ、舌と入れ歯の汚れを落とす手当てが先になります。点滴の量については、むくみや痰の量も含めて主治医と相談してください。

      おむつのにおいが強いとき、洗う回数を増やしたほうがよいですか?

      日本創傷・オストミー・失禁管理学会の資料は、洗浄剤を使って何度も洗うと皮膚が受ける化学的な刺激が大きくなるため、排便の回数が多い場合でも洗浄剤の使用は1日1回とするよう示しています。拭き取りは毎回、洗浄剤を使う洗いは1日1回という配分です。

      洗う回数よりも、交換の早さと保湿のほうが効いてきます。軟らかい便が続くときは、撥水性の保護剤を重ねる方法を訪問看護師に相談すると負担が減るでしょう。

      褥瘡やがんの傷のにおいが強くなったら、何を伝えればよいですか?

      傷の面がぬめってきた、出る汁が増えた、赤みが広がったといった変化を、においと一緒に伝えてください。日本褥瘡学会の評価では、こうした所見が細菌の増えている疑いの目印として扱われています。

      がんが皮膚に及んでできた傷では、においを軽くする効能・効果で承認された塗り薬もあります。我慢して抱え込まず、まず主治医へ相談してみるとよいでしょう。

      部屋のにおいが気になるとき、芳香剤を使ってもかまいませんか?

      使ってはいけないわけではありませんが、順番が大切です。強い香りで覆うと発生源が分からなくなりますし、終末期の方はにおいに敏感になっている場合もあります。

      日本緩和医療学会の指針も、においへの配慮と室内の換気をケアの例として並べて挙げています。まず窓を開けて空気を通し、寝具と口の中を整えたうえで、香りは穏やかなものを少しだけ添える形をおすすめします。

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      この記事を書いた人

      新井 隆康のアバター 新井 隆康 富士在宅診療所 院長

      医師
      医療法人社団あしたば会 理事長
      富士在宅診療所 院長
      順天堂大学医学部卒業(2001)
      スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー
      USMLE/ECFMG取得(2005)
      富士在宅診療所開業(2016)

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