リビングウィルとは?書き方・書式・ACPとの違いと問題点を解説

リビングウィルとは、病気などで自分の意思を示せなくなったときに備え、受けたい医療や受けたくない医療を、元気なうちに本人が書面で示しておくものです。自宅で療養しながら今後の医療について説明を受けたとき、希望を家族に口頭で伝えるだけでは心配だと感じたら、書き残す方法が役立ちます。
ただし、書面を作れば希望どおりの医療が必ず行われるわけではありません。内容を家族や訪問医に伝え、病状や気持ちの変化に合わせて話し合い直すところまでが大切です。
この記事では、リビングウィルの書式と書き方、公正証書で作る場合、ACPとの違い、法的な限界を含む問題点や共有の方法を解説します。
リビングウィルとは本人の医療への希望を残す書面
書面に残すのは、家族が望む方針ではなく、本人が受けたい医療についての意思です。自分で説明できるうちに言葉にしておくと、後に意思を確かめにくくなっても、医療を選ぶ際の手がかりになります。
自分で意思を伝えにくくなる場面への備え
今は会話ができても、病状の変化で意識が低下すれば、その場で治療への希望を伝えるのが難しくなります。そうした将来に備え、どのような医療を希望するかを記した書面がリビングウィルです。
書いた時点で治療を決め終えるわけではなく、実際に医療が必要になった場面で、病状と照らし合わせて内容を読み取ります。本人が意思を示せる状態なら、以前の記載だけで進めず、そのときの本人の希望を確かめるのが基本です。
受けたくない医療だけでなく受けたいケアも記す
リビングウィルには、望まない医療に加えて、続けてほしい治療やケアも書けます。緩和ケアは、痛みや息苦しさ、つらさを和らげる医療・支援であり、受けたいケアとして示す大切な項目です。
たとえば、受けたくない延命治療についての希望と、苦痛を和らげるケアを望む意思は、同じ書面に併記できます。希望を拒否の言葉だけに絞ると、どのような支援を受けたいのかが読み手に伝わりにくくなるためです。
書く時期は病気が進んでからに限らない
書き始める時期は病名や年齢で区切るものではなく、自分の希望を伝えられるうちが目安です。体調が落ち着いているうちなら、分からない言葉を調べたり、診察で質問したりしながら、自分のペースで文章を整えられます。
将来の医療を今決めるのが怖く感じられるのは、無理もない気持ちです。すべてを決めようとせず、今はっきりしている希望と迷っている点を分けて残すところから始められます。
書式は希望を書き足せるものを選ぶ
手元に決まった用紙がなくても、リビングウィルは作成できます。国が定めた統一の様式はなく、既存の書式を使う方法も、自分で書面を作る方法も選べます。
自治体や医療機関の用紙と自作の書面
用紙を探すなら、居住地の自治体の高齢者支援窓口や、かかりつけの医療機関に、医療への希望を書き残す書式があるか尋ねる方法があります。民間団体が作成した書式もありますが、用紙の名称より、何を記入できるかが選ぶ基準です。
| 書式の種類 | 使い方 | 選ぶ前の確認点 |
|---|---|---|
| 自治体の書式 | 窓口やウェブサイトで入手 | 医療への希望を記す欄の有無 |
| 医療機関の書式 | 診療時の説明と併せて記入 | 分からない項目を相談する相手 |
| 民間団体の書式 | 用紙の説明を読んで記入 | 選択肢以外を書き足せる欄 |
| 自作の書面 | 紙や文書作成ソフトで作成 | 本人の氏名、日付、希望の記載 |
| 公正証書 | 公証人に作成を依頼 | 作成の記録と医療上の効力の違い |
すでに診療を受けている場合は、その医療機関で共有しやすい用紙があるか先に尋ねると、記入後の渡し先も決めやすくなります。
選択欄の言葉を説明できるか確かめる
選択肢に印を付ける書式では、言葉の意味を確かめてから選びます。「希望しない」という選択がどのような病状を想定しているのか分からないままでは、自分の意図と読み手の理解がずれるためです。
自由記入欄があれば、選んだ理由や、説明を聞いてから決めたい項目を書き添えられます。文字が小さく読みにくい、選べる答えに自分の希望がないと感じる場合は、読みやすさや記入の自由度を基準に、別の用紙も候補にするとよいでしょう。
自分で作る場合も日付と署名を残す
白紙に書く場合も、誰の意思か、いつの意思かが分かるように、本人の氏名と記入日を入れます。本文を文書作成ソフトで整える場合には、印刷した用紙を読み直し、本人の署名を添えると確認の記録になります。
大切なのは、用紙をきれいに整えるより、本人が意味を確かめた言葉を残す姿勢です。出発点は、今の希望を記した1枚の紙。書き直せる余白があれば、診察で説明を受けた後の変更も反映しやすくなります。
公正証書で残す場合の手続きと効力
公正証書は、公証人という文書の作成や証明を担う公務の専門職が作成する文書です。リビングウィルをこの形で残す場合は、公証人が執務する公証役場へ作成を依頼します。
最初の連絡先は公証役場
作成を希望するときは、公証役場に連絡し、将来の医療への意思を公正証書にしたいと伝えます。「尊厳死宣言公正証書」という名称で扱われるため、希望を書いたメモがあれば、その内容を基に相談できます。
予約の取り方や本人確認書類、原案の準備方法は、依頼する公証役場に確認する事項です。本人が十分に内容を理解して意思を示せるかの確認も関わるため、家族が用紙を持参すれば作成できるとは限りません。
相談から完成までの日数は、原案の調整や予約状況によって変わるので、希望する時期と体調を最初の連絡で伝えましょう。
本人が意思を述べた記録を残せる
公正証書を選ぶ理由は、本人が意思を述べた内容を、公証人が作成した文書として残せる点にあります。自作の書面より医療への希望が強くなるという意味ではなく、意思を表明した記録の残り方に違いがあるのです。
| 比べる点 | 自作・既存の書式 | 公正証書 |
|---|---|---|
| 作成への関与 | 本人が記入して作成 | 公証人が本人の意思を確認して作成 |
| 記録の残り方 | 本人や共有先が保管 | 公証役場にも作成の記録が残る |
| 医療での扱い | 本人の意思を示す判断材料 | 本人の意思を示す判断材料 |
| 共有の必要性 | 家族や医療者へ伝える | 家族や医療者へ伝える |
作成しても希望の実現が保証されるわけではない
公正証書にしても、医師や家族に記載どおりの医療を義務付ける効力が加わるわけではありません。公証人で構成される全国組織の日本公証人連合会も、尊厳死宣言公正証書の説明で、作成しても希望が必ず実現するとは限らない点を示しています。
公証役場での作成と、治療についての医学的な説明は、それぞれ確かめる内容が異なります。治療の意味や受けた場合の見通しは主治医に尋ね、文書としてどう残すかは公証人に相談する、と分けると疑問の尋ね先が明確です。
書く項目と書き上げるまでの流れ
まず書式を選び、受けたい医療と受けたくない医療を記してから、内容を確かめた日付と署名を残します。完成を急ぐより、意味が分からない項目を見分けて質問できる形にする方が、本人の意思を正確に伝えられます。
希望する医療と判断を保留する項目を分ける
一般的に記すのは、受けたくない延命治療、受けたい緩和ケア、書いた日付と本人の署名です。書式にある選択欄に答えるだけで足りなければ、希望を付け足す欄や別紙を使えます。
処置ごとの希望は、主治医から効果や負担の説明を受けたうえで書き分けます。まだ判断できない項目は「説明を聞いてから決めたい」と記すと、空欄が記入漏れなのか、迷いがあるのかを区別しやすくなります。
下書きを診察に持参して意味を確かめる
下書きができたら、普段から診療を受けている主治医に見せ、自分が書いた言葉がどのような医療の希望として受け取られるか確かめます。自宅へ定期的に来て診療する訪問医がいる場合は、訪問診療の場で用紙を示せます。
説明を受けるときには、書いた内容が現在の病状でも当てはまるのか、想定していない状況があるのかが質問の軸です。聞いた説明を自分の言葉で言い直してみると、理解が曖昧な箇所をその場で確かめられます。
説明後に直した部分を読み返し、その内容が今の意思に合っていると確かめてから、日付と署名を入れましょう。
書面と一緒に共有先を記録する
書面の完成後には、誰に写しを渡したかが分かる記録を添えると、後の変更を伝えやすくなります。署名だけを確認して終えず、作成日と見直した日を区別しておくのも有用です。
| 手元で確かめる項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 書式の種類 | 自治体・医療機関・民間団体・自作・公正証書のいずれか |
| 署名 | 本人の氏名と意思の確認 |
| 日付 | いつの希望を記した書面か |
| 共有先 | 写しを渡した相手の氏名や医療機関名 |
| 見直した日 | 内容を再確認した日と変更の有無 |
写しの配布記録は、医療への希望を記す本文とは別に管理する方法も選べます。医療機関が変わったときは、以前の共有先から自動的に伝わると思わず、新しい主治医にも書面を示します。
病状が動いたら完成前に医師へ伝える
体調が落ち着いているうちは時間をかけてよく、完成を目指す時期も、本人の体調と話し合いの状況に合わせて決められます。説明を受ける回数や、まだ迷っている項目の有無によって、書き上げるまでの期間は変わるためです。
一方、入院や手術の説明を受けたとき、食べられなくなってきたときは、書面の完成を待たず、その週のうちに訪問医と話す場を持ちましょう。医療の判断がそれより早く必要なら、説明を受けたその場で、分かっている希望と未定の部分を伝えます。
病状が急に悪くなったときは、希望を書き終えるより診療への連絡が優先です。強い息苦しさや呼びかけへの反応が乏しい状態では直ちに医療につながる対応を取り、状態が落ち着いた後に訪問医との話し合いを設けてください。
ACPとリビングウィルとは何が違う?
ACPは、本人・家族・医療者が今後の医療やケアについて繰り返し話し合う取り組みで、人生会議とも呼ばれます。リビングウィルは、その時点の本人の意思を記した書面であり、話し合いと書面という違いがあります。
話し合いは続き、書面には日付が付く
医療への希望は、実際に説明を受けたり、体調が変わったりすると変化し得ます。ACPではその変化も含めて話し合いを続け、リビングウィルには確認した時点の意思を残すという関係です。
| 比べる点 | ACP | リビングウィル |
|---|---|---|
| 中心となるもの | 繰り返し行う話し合い | 本人の意思を記した書面 |
| 関わる人 | 本人・家族・医療者 | 意思を示す本人 |
| 変化への対応 | 病状や気持ちを改めて話す | 日付を付けて内容を更新 |
| 書面との関係 | 記録を用いて話し合いを継続 | 話し合いの結果を意思として記載 |
署名した後にも説明を受けて選び直せる
書面に署名しても将来の選択が固定されるわけではなく、医療を受ける場面で本人の希望を確かめ、必要に応じて以前の記載を改めます。
たとえば、以前は受けたくないと記していた医療でも、現在の病状での効果や負担の説明を受けると、希望が変わることがあります。その場合は、今の希望を伝えましょう。過去に書いた言葉を守るために、今の気持ちを抑える必要はないです。
書面だけでは伝わらない意味を補う
「苦痛を減らしたい」という短い記載でも、本人が何をつらいと感じているかによって、希望の受け取り方が変わります。書面を見ながら説明すると、読み手が言葉だけで推測していた意味と、本人の意図との違いに気づけます。
意思を繰り返し確かめ、本人・家族・医療者で共有する方針は、国の医療行政を担う厚生労働省が人生会議の案内でも示しています。書面を完成させる行為と、その意味を話し合う行為を組み合わせると、記載の解釈を確かめる機会になります。
法的な拘束力と解釈に関する問題点
リビングウィルは本人の意思を示す大切な資料ですが、書面だけで医療方針が自動的に決まるものではありません。法的な効力の限界に加え、想定外の病状や曖昧な表現によって、内容をそのまま当てはめにくい点にも注意が必要です。
記載どおりに従う義務は法律で定められていない
日本では、リビングウィルに法的な拘束力を定めた法律はなく、医師や家族がその内容に従う義務は法律で定められていません。記載があっても、実際の医療は病状や治療の妥当性を踏まえて判断されます。
とはいえ、法的に義務付けられていないからといって、書いた意思が無意味になるわけではありません。本人の希望を確かめる材料となり、意思を直接聞けない場面でも、方針を話し合う根拠として役立ちます。
想定していない病状には当てはめにくい
元気なときに想像した状況と、実際に医療が必要になった状況は、一致するとは限りません。同じ言葉で書かれた希望でも、回復が見込める状態か、病気が進んで回復を望みにくい状態かによって、判断する内容が変わります。
そのため、用紙にすべての場面を書き尽くそうとするより、何を想定して記したのかが分かる説明を添える方が読み取りやすくなります。今の病状への当てはめに迷ったら、主治医に、書いたときの想定と現在の状態の違いを尋ねるのが出発点です。
家族と医療者で読み取りが分かれた場合
同じ書面を読んでも、本人がどの場面を想定していたかについて、家族と医療者で解釈が分かれる場合があります。本人に確認できるなら、どの言葉の意味が食い違っているかを示し、現在の意思を直接確かめます。
本人に確認できないときは、書面を書いた経緯やその後に話していた内容を持ち寄り、主治医・看護師・介護職が関わる医療・ケアチームとの話し合いを求めます。家族の多数決で決めるのではなく、本人の意思をどう読み取れるかを中心に検討する場です。
話し合っても合意が難しいときは、主治医に、担当チーム以外の複数の医療・ケアの専門職から助言を受ける場を設けられるか相談できます。
家族・訪問医への共有と見直しを続ける
書いた後は、写しを渡す相手と見直すきっかけを決めます。内容が古いままになったり、必要な場面で存在を知られていなかったりする問題は、共有と更新を続けて補います。
写しを受け取った人の次の動きをそろえる
写しを渡すときは、読んでもらうだけでなく、保管場所と分からない部分を一緒に確かめます。ケアマネジャーは、介護サービスの計画や調整を担う担当者で、医療への希望を生活上の支援とつなぐ共有先になります。
| 共有する相手 | 写しを受け取った後の動き |
|---|---|
| 家族 | 本人と内容を読み、書面の保管場所を確認 |
| 訪問医・かかりつけ医 | 今の病状と記載を照らし合わせ、診療の記録やチーム内で共有 |
| ケアマネジャー | 本人の了解を得た範囲で、関係する介護職への共有を調整 |
| 入院先の担当医・看護師 | 現在の意思と書面の内容を確認し、入院中の医療・ケアの検討に使用 |
保管場所は、本人しか開けられない場所だけにせず、共有した家族が必要時に取り出せるよう決めておきます。医療者に渡したつもりでも担当者が変わると伝わり方が途切れ得るため、入院や転院時には改めて提示するのが確実です。
診断や療養場所が変わったら読み返す
見直しは、決まった間隔だけでなく、病状の説明を受けたときや療養場所が変わるときにも行います。気持ちが変わったなら予定の日を待たず、内容が同じでも、読み返した日を残すと今の意思に合っていると伝わります。
書き直す際は、新しい書面の日付を明確にし、古い写しが残る共有先にも変更を知らせましょう。前の書面を保管する場合は、過去の記録だと区別できる表示を付けておくと、どちらを読むべきか迷いにくくなります。
在宅の支援をまだ使っていない場合の連絡先
訪問医やケアマネジャーがいなくても、今かかっている医療機関に書面を持参し、医師へ医療の希望を相談できます。受付で、将来の医療について記した用紙を診察で見てもらいたいと伝えると、相談の目的が届きます。
通院先がなく、自宅での療養支援も必要な場合は、地域包括支援センターという高齢者の暮らしや介護を相談できる窓口に連絡する方法があります。居住地の自治体の高齢者支援窓口に担当センターを尋ね、受診先や在宅支援につながる相談を始められます。
最初の相談で伝えたいのは、現在の体調と、書面が下書きか完成したものか、医療の説明を受けたいのか、共有先を探しているのかという情報です。
よくある質問
市販のノートにも書けます。本人の氏名と日付を明記し、医療への希望が書かれたページを家族や主治医に示せる形にしておくと、ほかの記録に埋もれずに共有できます。
本人が意思を示せる状態なら、家族が聞き取って筆記を手伝う方法はあります。手が動かしにくいときも、希望の内容と、家族が筆記した事実を区別して残すのが大切です。
本人の意思を確かめられない状態で、家族の判断を本人の意思として書くのは避けてください。以前に聞いていた希望があれば、その発言の時期や状況を主治医へ伝え、医療・ケアチームと方針を話し合います。
全員が公正証書を選ぶ必要はなく、本人が意思を述べた記録を公証人の作成する文書で残したいかが選択の目安です。医療への法的な拘束力が強くなるという理由では選べません。
作成の記録を残したい場合は公証役場に準備方法を尋ね、医療の内容に迷う場合は先に主治医の説明を受けると、それぞれの疑問を解消できます。
変わった希望を家族と主治医に伝え、新しい日付で書面を更新します。すぐに書き直せない場合も、診療で判断が必要なら口頭で現在の意思を伝え、以前の記載と異なる点を明確にします。
書面を更新したら、渡した相手にも写しを差し替えてもらいましょう。公正証書を作っている場合は、医療者への連絡と併せて、作成した公証役場に変更や撤回を文書で残す方法を尋ねられます。
未完成のまま医師に見せて相談できます。分からない言葉や迷っている欄が分かる下書きを持参すると、医師に何の説明を求めたいかを伝えられます。
入院や手術の説明を受けている場合は、完成を待たず、その説明の場で現在の希望を伝えてください。書き残す作業は、必要な説明を受けた後に続けられます。



