- 毎日16時間の断食で「若返る」と証明した人間を対象とした研究はありません。
- オートファジーは普段から働く細胞の仕組みです。人での研究はまだ限られます。
- オートファジーが働くことと、体脂肪が減ることは別の現象です。
- 食事時間を区切る方法も選択肢です。ただし、カロリー制限への上乗せ効果は確認されていません。
- 持病や内服薬がある方は、断食時間を延ばす前に体調と食事内容を確認することをおすすめします。
16時間断食で若返る、とはまだ言えません
毎日16時間食べず、8時間の間に食事をとる方法で、人間の老化が遅くなると証明した研究はありません。また、オートファジーが体脂肪を直接減らすわけでもありません。
オートファジーとは、細胞が自分の中の不要なものを分解し、再利用する仕組みのことです。動物実験ではこの仕組みが老化に関わる変化を遅らせることが示されており、注目される理由になっています。ただしこれは動物での結果であり、人において同じことが確認されたわけではありません。
動物で得られた知見や、断食による体重の変化は、人の寿命が延びる証拠になるわけではありません。まず、よく聞く「16時間」という数字を確認しましょう。
一方で、16時間断食で体に良い変化が現れた、痩せて体調が良くなった、という定性的な話はよく聞きます。私自身も18歳で実家を出て以来、朝食を摂らない生活を続けています。それだとだいたい16時間くらいの断食状態を作ることになります。比較のしようがないのですが、少なくとも悪い変化は無いのではないかと思っています。
朝食付きのホテルなどでは、貧乏根性で朝食を食べてしまうのですが、それによって午前中の頭脳労働の質が落ちるように感じています。これも定性的な一個人の感想に過ぎないので、全ての人に当てはまるわけではありません。
16時間はオートファジーの境目なのか
人のオートファジーが、断食開始から16時間で一斉に始まると示した研究はありません。食事をとっているときも細胞内で働いており、栄養状態などによってその程度が変わります。肝臓に蓄えた糖から脂肪を利用する方向へ代謝が移る時間にも個人差があり、それをオートファジーの開始時刻と同一視することはできません。
この話では、細胞内の変化、体脂肪の減少、健康への影響、寿命への影響を分けて考える必要があります。
・細胞の中の変化(オートファジーの働き方が変わること)
・体重の減少
・血圧や血糖値など健康面での利益
・寿命が延びること
血液細胞でオートファジーに関する変化が見られても、ほかの臓器の変化や寿命への影響は別に調べる必要があります。
オートファジーは、細胞の中で何をしているのか
細胞内のものを分解・再利用する仕組み
オートファジー(autophagy)は、ギリシャ語で「自分(auto)を食べる(phagy)」という意味の言葉です。細胞は、古くなったタンパク質や壊れた小器官を膜で包み込み、リソソームという分解酵素を含む袋に送り込みます。そこで分解されたものは、再びアミノ酸などの材料として使われます。
この仕組みの研究で大隅良典氏は2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。酵母を使った実験から始まり、その後哺乳類でも同様の仕組みがあることが分かってきました。飢餓状態やエネルギー不足のときにこの働きが活発になることは、酵母やマウスなどの動物実験で繰り返し確認されています。
この働きは、細胞がエネルギーや栄養をどれだけ持っているかを感知する仕組みと連動しています。代表的なのはmTOR(エムトール)という酵素で、栄養が十分にあるときはオートファジーを抑える方向に働きます。逆にAMPKという酵素は、エネルギー不足を感知するとオートファジーを促す方向に働きます。空腹時にインスリンが下がりグルカゴンが上がるといったホルモンの変化も、この調節に関わっているとされています。ただし、これらの調節の多くは酵母や培養細胞、マウスでの研究に基づくものであり、人の体で同じ調節が同じ速さで起きているかどうかは、別に確認が必要です。
「細胞の掃除」という説明の限界
オートファジーはよく「細胞の掃除」と説明されます。比喩としては分かりやすいのですが、実際の仕組みはもう少し複雑です。オートファジーは普段から働いています。その働き方は栄養状態などによって変わり、断食で突然オンになるスイッチではありません。
研究者が実際に注目するのは「オートファジー・フラックス」という指標です。これは、分解されるものが細胞内にどれだけあるかだけでなく、実際にリソソームまで運ばれて分解される流れを調べる指標です。分解の入り口だけを見ても、出口まで流れているかは分かりません。人の研究では、採取した血液を分け、試験管内で分解を妨げる薬剤を加えた試料と加えない試料を比較して、この流れを推定した例があります。薬剤を研究参加者に投与するわけではありません。こうした測定は一般診療の血液検査では行いません。
肝臓に蓄えた糖を使い、脂肪を燃料にする割合が増えることと、細胞内のオートファジーの変化は別です。代謝の変化が起きる時間には幅があり、「16時間で細胞の掃除が始まる」とは言えません。
人を対象にした研究では、どこまで確かめられたか
間欠的な食事制限と血液細胞の研究
人でオートファジー・フラックスを直接測定することは技術的に難しく、長年研究が進みませんでした。2025年に発表されたBensalemらの研究は、この点で注目されています。
対象は肥満のある成人121人です。3つのグループに分けられました。
・標準ケア群(体重管理の資料を渡すのみ)
・カロリー制限群(必要エネルギーの70%を摂取)
・iTRE群(正午までに必要エネルギーの30%を摂取し、その後20時間食べない日を、週3回、連続しない曜日に設ける)
ここで注意したいのは、iTRE群の食事法は、毎日16時間食べない時間を作る一般的な「16時間断食」とは異なるという点です。週3回、20時間の断食日を設ける方法であり、この研究は日常的な16時間断食を検証したものではありません。
元の試験では、食後血糖の変化や中性脂肪などについて、iTRE群がカロリー制限群より良好だったと報告されています。一方、ここで扱うオートファジーの測定は付随する探索的解析です。食後血糖の結果を「若返り」の証拠として扱うことはできません(臨床試験登録番号:NCT03689608)。
介入は6か月間で、血液中の免疫細胞(末梢血単核球)のオートファジー・フラックスを調べました。2か月時点では群間差はなく、6か月時点の事後解析でiTRE群と標準ケア群の変化量に差が見られました(P=0.04)。標準ケア群の値が低下傾向にあったことも、この差に影響した可能性があります。カロリー制限群と標準ケア群の間に有意差はありませんでした。
iTRE群だけを見ると、介入前からの増加は統計学的に有意ではありませんでした。この結果から、16時間断食で全身のオートファジーが増えるとは言えません。
Espinozaらは健康な成人30人を対象に、2種類の断食模倣食と通常の食事を比較しました。介入群にはカロリーや栄養素を制限した食事キットが5日分提供され、6日目の介入終了時と8日目まで採血して調べています。6日目には血液細胞のオートファジー・フラックスなどに群間差が見られましたが、すべての測定時点で差が確認されたわけではありません。予備的な小規模試験で、食事キットの製造企業が資金提供しています。2025年にオンライン公開され、雑誌の巻号は2026年です。毎日16時間の断食を調べた試験ではありません。
測れたのは「全身の若返り」ではない
ここまで紹介した2つの研究が測定したのは、血液中の免疫細胞におけるオートファジー・フラックスです。これは体のごく一部の細胞であり、肝臓や筋肉、脳など他の臓器で同じ変化が起きているかどうかは、この研究からは分かりません。免疫細胞は繰り返し採血して調べやすいため研究の対象になりやすいのですが、老化との関わりが注目される肝臓や筋肉の細胞では、同じ方法での測定自体が難しいという事情もあります。
血液細胞の指標が変わっても、病気の発症や見た目、寿命への影響までは示されません。
「若返り」は、何を測るかで答えが変わります
老化の指標が変わることと、寿命が延びること
「若返り」という言葉は、日常会話では見た目の若さを指すことが多いですが、老化研究ではいくつかの異なる測り方があります。
・DNAのメチル化パターンから推定する「生物学的年齢」(実年齢とは別の、体の状態から推定される年齢)
・老化が進む速さを示す指標
・見た目(肌や顔つきなど)
・病気の発症のしやすさ
・健康なまま生活できる期間(健康寿命)
・寿命そのもの
これらは、それぞれ別の指標です。ある指標が変化しても、別の指標が同じように変化するとは限りません。
CALERIE試験の老化指標解析では、肥満のない成人220人に、摂取エネルギーを25%減らす目標で2年間の食事介入を行いました。実際に達成した制限率は平均約12%です。毎日の16時間断食を調べた研究ではありません。血液サンプルからDNAメチル化を分析し、複数の老化指標を比較しました。
老化の進む速さを推定するDunedinPACEでは、カロリー制限群に小さな差が見られました。効果の大きさを示す指標では、12か月時点で約0.29、24か月時点で約0.25です。一方、生物学的年齢を推定するPhenoAgeやGrimAgeでは有意な差は確認されていません。血液から計算した指標の変化であり、見た目や寿命の変化を測ったものではありません。
急激な体重減少が肌や顔つきの印象に与える影響については、当院の別記事「急な減量と老け顔」で詳しく取り上げています。
| 研究 | 食事法・測定 | 結果と限界 |
|---|---|---|
| Bensalemら(2025) | 週3回の20時間断食。6か月後の血液細胞を評価。 | 標準ケアとの変化量に事後解析で差。16時間断食や全身への効果は不明。 |
| Espinozaら(2025年オンライン公開) | 断食模倣食の5日分の食事キット。8日目まで観察。 | 6日目に血液細胞で差。30人の予備的試験で、他の時点では一貫せず。 |
| CALERIEの解析 | 25%減を目標に2年間の食事介入。達成率は平均約12%。 | 老化速度の一指標で小さな差。別の生物学的年齢指標では差なし。 |
| Liuら(2022) | カロリー制限のみと、8時間の食事時間制限を加えた方法を比較。 | 12か月後の体重・体脂肪・内臓脂肪の減少に有意な上乗せ効果は確認されず。 |
注:対象者も食事法も異なるため、研究間で効果の大きさを直接比べることはできません。詳しい結果と限界は本文および参考文献をご覧ください。
では、ファスティングはダイエットに役立つのか
食べる時間を短くする方法が合う人もいる
食べる時間を区切る方法(時間制限食)は、夜遅い間食を減らすきっかけになる人もいます。続けられる食事法を探す際の選択肢ですが、オートファジーのために16時間を目標にする必要はありません。ダイエットの基本的な考え方については、「ダイエットの意味と効果」でも解説しています。
2022年のLiuらの研究では、肥満のある成人139人を、カロリー制限に午前8時から午後4時までの食事時間制限を加える群と、カロリー制限のみの群に分け、12か月間比較しました。両群には同じ摂取カロリーの目標が示されています。118人が12か月後まで追跡され、体重、体脂肪、腹部内臓脂肪面積の減少に統計学的に有意な群間差はありませんでした。食事時間を限った分だけ痩せるとは示されなかったわけです。内臓脂肪と皮下脂肪の違いは「内臓脂肪と皮下脂肪の違い」で解説しています。
この結果だけですべての断食法を判断することはできません。生活に合わない食事時間を無理に守ると、必要な栄養が不足したり、後の食事量が増えたりすることがあります。方法ごとの負担は「断食のリスクと費用」でも取り上げています。
一度、試してみましょう
16時間ファスティングは、私個人としては体に合っているように感じましたが、全ての人に合うかはわかりません。まずは数日間続けてみて、無理なくできるか確認してみてください。それで体に合わなければすぐにやめたらいいのです。くれぐれも無理はしないようにしてください。
断食を延ばす前に、体調と食事の中身を確認してください
特に自己判断を避けたい人
断食の時間を自己判断でどんどん延ばすことは、おすすめできません。特に次に当てはまる方は、断食を始める前、あるいは延ばす前に、体調と食事の内容を確認することをおすすめします。
・糖尿病の治療を受けている方(とくにSU薬やインスリンなど、低血糖を起こしうる薬を使っている方)
・妊娠中、授乳中の方
・体重が低い方
・摂食障害の既往がある方
・栄養不足やフレイル(加齢による心身の衰え)がある方
食事や水分を十分にとれない、嘔吐が続く、ふらつきや強い疲労がある場合は、断食を中止し、受診または処方医への相談が必要です。断食を試す場合は、いきなり長時間の断食から始めるのではなく、まず食事の内容を見直し、水分をしっかりとることから始めるのが現実的です。持病がない方でも、強い空腹感や集中力の低下が続くようであれば、無理に断食時間を延ばす必要はありません。もともと食事量が少ない方が断食時間をさらに延ばすと、必要な栄養が不足しやすくなります。食事量を減らしすぎることのリスクについては、「食事量の減らしすぎ」で取り上げています。
薬で食欲が落ちているとき
マンジャロ(チルゼパチド)やリベルサス(経口セマグルチド)を使用している方から、食欲が落ちたタイミングで断食を組み合わせてよいか、という質問を受けることがあります。
これらは「オートファジーを活性化する薬」や「若返りの薬」ではありません。マンジャロとリベルサスは、いずれも国内では2型糖尿病を効能・効果として承認されている薬剤です。減量を目的とした使用は、承認された効能の範囲外(適応外使用)にあたります。食欲低下や吐き気などの消化器症状が主な注意点として添付文書に記載されており、自己判断で増量したり急に中止したりすることは避ける必要があります。
薬によって食欲が落ちている状態でさらに断食時間を延ばすと、必要な栄養やエネルギーが不足しやすくなります。食事がとれない、吐き気が続くなどの変化は処方医に伝え、断食を続けるか相談してください。
体重だけでなく、続けられる食事と体調を見る
当院でダイエットのご相談を受ける際は、体重の増減だけでなく、食事の内容、体調、持病、内服薬、健診結果などを合わせて確認しています。必要に応じて血液検査を行うこともありますが、これは肝機能や血糖、脂質などの一般的な項目を確認するためのものです。通常の血液検査で、オートファジーの活性度そのものを調べることはできません。
糖尿病の治療薬を使っている方、食事時間を狭めると強い空腹やふらつきが出る方、体重だけでなく血糖や脂質も気になる方は、食事法を決める前にご相談ください。持病や生活時間を確認し、続けられる食事の形を一緒に考えます。富士市・富士宮市・沼津市周辺にお住まいで、ご自身に合ったダイエットの進め方についてご相談されたい方は、「富士市・富士宮市の受診案内」から受診案内をご確認いただけます。
よくある質問(FAQ)
【参考文献】
- Bensalem J, Teong XT, Hattersley KJ, et al. Intermittent time-restricted eating may increase autophagic flux in humans: an exploratory analysis. J Physiol. 2025;603(10):3019-3032.
→本文「間欠的な食事制限と血液細胞の研究」で紹介した、iTREと血液細胞のオートファジー・フラックスに関する研究。 - Espinoza SE, Park S, Connolly G, et al. Effect of fasting-mimicking diet on markers of autophagy and metabolic health in human subjects. GeroScience. 2026;48:7083-7093(2025年オンライン公開).
→本文で紹介した、健康な成人30人を対象とした予備的試験。 - Waziry R, Ryan CP, Corcoran DL, et al. Effect of long-term caloric restriction on DNA methylation measures of biological aging in healthy adults from the CALERIE trial. Nat Aging. 2023;3:248-257.
→本文「老化の指標が変わることと、寿命が延びること」で紹介した、CALERIE試験の老化指標解析。 - Liu D, Huang Y, Huang C, et al. Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss. N Engl J Med. 2022;386(16):1495-1504.
→本文「食べる時間を短くする方法が合う人もいる」で紹介した、時間制限食とカロリー制限を比較した12か月試験。 - マンジャロ皮下注 添付文書(PMDA)
- リベルサス錠 添付文書(PMDA)

