- 精神科の薬の一部は、食欲や代謝に影響して体重増加につながることがあります。
- 薬を自己判断でやめず、治療を続けながら体重管理を相談できます。
- 減量薬を検討する前に、血糖と服用中の薬を確認します。
- マンジャロは選択肢になる場合がありますが、適応と副作用の確認が必要です。
精神科の薬を飲み始めてから体重が増え、このまま飲み続けてよいのか、痩せる方法はあるのかと迷っている方に向けた記事です。薬を続けたい気持ちと、体重が増え続けることへの苦痛のあいだで、判断がつかないこともあると思います。ここでは、体重が増える理由、減量薬の前に確認したい血糖と服薬内容、精神科の治療と両立する体重管理、マンジャロの根拠と限界を順に整理します。
精神科の薬で太ったら、まず何をすればよい?
最初にすることは、薬を自己判断でやめないことです。そのうえで、体重が増えた経過を記録し、処方している医師に伝えます。
体重の変化と、薬の開始・増量の時期を並べると、原因を考える手がかりになります。次のものを手元にそろえておくと、相談が進みやすくなります。
- お薬手帳(薬の名前と量が分かるもの)
- 直近の健診結果
- 体重の記録(分かる範囲で)
- 薬を始めた時期、量が変わった時期
体重が増えたことは、精神科の主治医に話してかまいません。減量の希望を伝えることは、治療を続けるための相談です。体重が増えた背景には、薬の影響だけでなく、病状が落ち着いて食欲が戻ったことや、生活の変化が重なっていることもあります。
精神科の治療を続けながら、体重管理を検討できます。その前に、血糖の確認が必要です。薬によっては糖尿病の方に使えないものがあり、体重が増えた背景に糖尿病が隠れていることもあるためです。確認できたら、食事や活動の見直し、処方の見直し、必要に応じた薬による減量治療が選択肢になります。マンジャロはその一つで、使えるかどうかは血糖、服薬内容、身体の状態を確認して決めます。
「必ず痩せる」と言える方法はありません。また、精神科の薬をやめても体重が戻るとは限らず、病状が悪化するおそれがあります。
向精神薬で体重が増える理由と、影響のある薬
向精神薬は、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬など、精神科で使う薬の総称です。すべてが体重を増やすわけではなく、薬の種類や量、体質、病状で影響は違います。
食欲の変化や眠気が、体重に影響する
薬が脳の受容体に働くと、食欲が増したり、満腹感を感じにくくなったりすることがあります。学会のガイドラインは、抗精神病薬のヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体への作用が、体重増加に関わると指摘しています。
眠気も間接的に影響します。日中の活動量が減れば、消費するエネルギーも減るためです。オランザピンやミルタザピンの添付文書には、眠気(傾眠)が多い副作用として記載されています。
病状の変化も関わります。抑うつや不安が和らいで食事が進み、食べる量が戻ることもあります。生活リズムや間食の習慣も加わります。こうした要因が重なるため、体重増加を意志の強さだけで説明することはできません。一方で、薬がすべての原因とも限らず、食べなくても必ず太る、基礎代謝が一律に下がる、といった単純な話でもありません。
当院でも、精神科の薬の服用開始後に20kg以上体重が増えたと相談される方がいます。これは相談を受けた例の話で、薬との因果関係を示すものでも、一般的な増え方を示すものでもありません。
抗精神病薬・抗うつ薬・気分安定薬では事情が違う
抗精神病薬は、薬によって体重増加の頻度が異なります。日本の臨床試験と使用成績調査をまとめた情報では、体重増加の報告はクロザピン、オランザピン、パリペリドンで15%程度、ほかの第二世代抗精神病薬では2〜7%程度とされています。
抗うつ薬は種類ごとの差が大きく、まとめて同じには扱えません。気分安定薬では、バルプロ酸ナトリウムとリチウムの添付文書に、体重増加が副作用として記載されています。
代表的な薬の例を、次の表に示します。薬の善し悪しや危険度の順位を示すものではありません。
| 薬の種類・例 | 体重への影響 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 抗精神病薬:オランザピン(ジプレキサ) | 添付文書に、体重増加(20.1%)と食欲亢進が記載されています。 | 精神科の効能では、糖尿病・既往が禁忌です。血糖とHbA1cを確認します。 |
| 抗精神病薬:クエチアピン(セロクエル) | 体重や血糖への影響に注意が必要な薬です。 | 糖尿病・既往が禁忌です。血糖とHbA1cを確認します。 |
| 抗精神病薬:リスペリドン(リスパダール) | 添付文書では、体重増加は5%未満の副作用です。 | 糖尿病は禁忌ではありませんが、高血糖や糖尿病の悪化に注意します。 |
| 抗うつ薬:ミルタザピン(リフレックス、レメロン) | 体重増加が5%以上の副作用として記載され、眠気も多い薬です。 | 食欲と眠気の変化を記録して、処方医に伝えます。 |
| 気分安定薬:バルプロ酸ナトリウム(デパケン) | 体重増加が副作用として記載されています(頻度不明)。 | 体重の推移と、ほかの薬を追加した時期を処方医に伝えます。 |
| 気分安定薬:炭酸リチウム(リーマス) | 体重増加が副作用として記載されています。 | 食事や水分が減ると、血中濃度が上がるおそれがあります。極端な食事制限は避け、減量の方法は処方医に相談します。 |
※体重への影響には個人差があります。薬の変更は処方医が判断します。
薬と体重の関係の全体像は、薬と体重の関係でも整理しています。
減量薬を使う前に、血糖と服薬内容を確認したい理由
体重が増えた状態は、見た目だけの問題ではありません。血糖、脂質、血圧にも関わるため、減量の方法を決める前に、身体の状態を確認します。
確認するのは、血糖とHbA1c(過去1〜2か月ほどの血糖の平均を反映する検査値)、糖尿病の既往、いま服用している薬です。必要に応じて、脂質や肝臓・腎臓の機能、体重が増えるほかの原因がないかも調べます。甲状腺の検査は、むくみや疲れやすさなどの症状から必要と判断した場合に行います。検査項目は全員同じではなく、健診の時期、症状、服薬内容で変わります。
オランザピン・クエチアピンは糖尿病では禁忌
国内の添付文書では、オランザピンとクエチアピンは、糖尿病の患者と糖尿病の既往歴のある患者に禁忌とされています。血糖が著しく上がり、糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡に至ることがあるためです。オランザピンには抗がん剤に伴う吐き気の効能もあり、2026年8月の改訂で、その効能に限って、血糖コントロールが良好な方に限るなどの条件つきの例外が設けられました。統合失調症や双極性障害の効能での禁忌は、変わっていません。
禁忌の対象は「糖尿病」と「糖尿病の既往」で、肥満や糖尿病予備群は含まれません。ただし、肥満や高血糖のある方は血糖が上がりやすいため、服用中の血糖の観察が必要です。
糖尿病が見つかった場合は、精神科の処方の見直しが必要になります。オランザピンやクエチアピンの禁忌は糖尿病に関するもので、マンジャロとの併用禁忌ではありません。ただし、マンジャロで血糖を下げれば元の薬をそのまま使える、という話にもなりません。
体重が増えたことだけを理由に、薬を自己判断でやめることはしないでください。一方、強いのどの渇き、水を大量に飲む、尿の量や回数が極端に増える、といった症状は、高血糖のサインとして添付文書が注意を促しています。この場合は次の受診日を待たず、処方している医師にその日のうちに連絡し、飲み続けてよいかの指示を受けてください。吐き気や嘔吐、腹痛、呼吸が深く速い、意識がぼんやりするといった症状が伴うときは、救急での評価が必要です。体重が増えたことだけで、こうした状態になるわけではありません。
ダイエットの相談から糖尿病が見つかった診療例
当院でダイエット外来への来院をきっかけに、クエチアピンを服用中の方に糖尿病が見つかった例があります。当院でこの方の糖尿病を保険診療として診療し、精神科の病院に薬の変更を依頼しました。精神科側で、別の薬に変更していただきました。
体重の相談から糖尿病が見つかることがあり、そのときは糖尿病の診療と、精神科の処方の見直しを並行して進める必要がある、という一例です。クエチアピンが糖尿病の原因だったかは不明です。
なお、この方の場合に保険診療になったのは糖尿病の診療です。当院では、体重減量に対しては、基準を満たしていないため、保険診療を行っていません。
当院では普段から訪問診療においてクエチアピンやオランザピンの処方を検討することが多く、糖尿病のチェックを日常的に行っており、それが生きた実例でもあります。
精神科の治療を続けながら、体重を管理する
薬の変更は、精神科の主治医と相談する
薬を変えられるか、変えたときに再発しないかは、病状を診ている処方医が判断します。体重が増えたからといって、単純に減薬すればよいわけではありません。
統合失調症薬物治療ガイドライン2022は、安定している方の抗精神病薬の減量は体重減少につながらないとして、勧めていません。体重増加のリスクが低い薬への変更は、精神症状の悪化に注意しながら、利益と害を比べて検討するとしています。予防としては、薬の開始前後に体重を定期的に測ることが望ましいとされています。このガイドラインは統合失調症の抗精神病薬が対象で、抗うつ薬や気分安定薬にそのまま当てはまるとは限りません。
食事と活動は、今の体調に合わせて調整する
食事は、間食、甘い飲み物、夜遅い食事、一回の量を、少しずつ見直します。大きく変えるより、続けられる範囲で減らすほうが、体調を崩しにくくなります。無理な断食、過度な運動、筋肉量を落としてしまう極端な減量は勧められません。眠気が強い日や体調が悪い日は、活動量を控えてかまいません。
重い精神疾患のある方への生活習慣の介入を調べた研究の統合解析では、通常の治療に比べて、わずかに体重が減ったと報告されています。効果は限られるため、生活習慣の見直しだけで足りない場合には、薬による治療も検討します。
薬物療法は、必要性、適応、身体の状態を踏まえて医師が判断します。マンジャロだけが唯一の解決策ではありません。たとえばメトホルミンは、同ガイドラインの検討でプラセボを上回る効果が示されたものの、国内では2型糖尿病のみが保険適用であることなどから、推奨とはされませんでした。
向精神薬による体重増加にマンジャロは効く?
先に結論を述べます。抗精神病薬による体重増加には、セマグルチドで臨床試験の報告があります。マンジャロ(チルゼパチド)を調べた専用の試験は、確認できた範囲では見つかっていません。
抗精神病薬を服用する人を対象とした研究
デンマークのHISTORI試験は、抗精神病薬を服用している統合失調症で、前糖尿病があり、過体重または肥満の154人が対象でした。セマグルチドの週1回の皮下注射かプラセボを30週間使い、体重の差は約9.2kg(セマグルチド群が少ない)でした。精神症状には、群間で差はみられませんでした。消化器症状は、セマグルチド群で多くみられました。オーストラリアのCOaST試験は、クロザピンを服用中の統合失調症31人の小規模な試験で、36週後の体重の減り方がプラセボより大きかったと報告されています。
これらはセマグルチドの研究で、マンジャロの結果ではありません。経口のリベルサスの減量効果を示すものでもありません。対象も主に統合失調症の方で、抗うつ薬を服用している方やほかの疾患の方に、同じ結果があてはまるとは言えません。
マンジャロの根拠と、まだ分かっていないこと
2026年の系統的レビューは、統合失調症圏の方を対象にセマグルチドまたはチルゼパチドを調べた無作為化比較試験を集めましたが、チルゼパチドの試験は見つかりませんでした。
実際の診療データを分析した観察研究では、糖尿病のない方で、セマグルチドまたはチルゼパチドの処方を受けた人は、受けなかった人より6か月後の体重が平均で約2kg少なく、5%以上の減量に達する確率は約1.7倍でした。チルゼパチドのほうが減量は大きい傾向でしたが、オランザピンやクロザピンのように体重が増えやすい薬を使っている人では、効果が小さい傾向もありました。処方記録は実際に使ったかどうかを示さず、背景の違いの影響も受けます。この研究だけで、チルゼパチドのほうが優れているとは言えません。
一般の肥満の方を対象にしたSURMOUNT試験の事後解析(2026年)では、試験の途中でステロイドなど体重が増えやすい薬を始めた参加者でも、チルゼパチドによる体重減少は、試験全体と同程度でした。ただし、抗精神病薬に限った解析ではなく、薬ごとの十分な評価でもありません。長く抗精神病薬を飲んで体重が増えた方のための専用の試験でもなく、製薬企業が実施した試験の解析である点も踏まえる必要があります。
つまり、向精神薬による体重増加にマンジャロが効くと言い切れる直接の根拠は、いまのところありません。セマグルチドの研究や一般の肥満の研究からの、間接的な推定にとどまります。
適応・副作用・併用薬を確認して判断する
マンジャロは、国内では2型糖尿病の薬として承認されています。糖尿病のない方が減量目的で使う場合は、承認された効能・効果とは異なる適応外使用で、自由診療の全額自己負担です。自費で処方できることと、承認されていることは別の話です。同じ成分のゼップバウンドは、肥満症を効能として2024年に承認された別の製剤で、対象や保険の条件がマンジャロとは異なります。名前が似ていても読み替えられません。米国などでは同成分が肥満の適応でも承認されていますが、日本のマンジャロの承認内容とは別です。適応外で使って重い副作用が起きた場合は、医薬品副作用被害救済制度の対象にならないことがあります。詳しくは、自由診療で扱うダイエット薬の適応と注意点に整理しています。
副作用は、悪心、嘔吐、下痢、便秘、食事量の低下による脱水などです。インスリンやスルホニルウレア薬と併用すると低血糖に注意が必要で、持続する強い腹痛は急性膵炎などの評価が要ります。添付文書の禁忌は、成分への過敏症の既往、糖尿病性ケトアシドーシスや1型糖尿病、重症感染症や手術などの緊急時です。妊婦には投与せず、膵炎の既往、重い胃腸障害、腹部手術やイレウスの既往がある方は、慎重な評価が必要です。効果や副作用、使用前の確認事項は、マンジャロの効果・副作用と使用前の確認事項にまとめています。
併用薬は、すべて確認します。マンジャロは胃の内容物が出ていくのを遅らせるため、添付文書では経口避妊薬やワルファリンなどで注意が示されています。ただ、これを根拠に、精神科の薬のすべてが吸収されにくくなる、併用が必ず危険になる、とは言えません。嘔吐や下痢で薬が飲めなかったとき、精神症状に変化を感じたときは、処方元に相談してください。リチウムには、マンジャロとの併用注意の記載はありません。ただ、脱水や食事・水分の不足でリチウム中毒のおそれがあるため、吐き気や食事量の低下が続くときは、早めに処方医へ伝えてください。
向精神薬を飲んでいる人のダイエット外来の選び方
「美容クリニック」「内科」「オンライン」といった形態だけでは、安全かどうかを判断できません。実際の診療内容で選びます。確認したい点は次のとおりです。
- お薬手帳などで、精神科の薬を含む服薬内容を確認しているか
- 血糖やHbA1cなどの血液検査を行うか、直近の検査結果を確認するか
- 精神状態や食行動に配慮して、減量の進め方を決めているか
- 薬の変更が必要なとき、精神科の主治医と連携できるか
- 治療を始めたあとのフォローと、困ったときの相談先があるか
美容クリニックは危険で、内科なら安全、といった見方はできません。どの形であっても、身体の評価と精神科治療への配慮を両立できる体制があるかどうかが基準です。処方先ごとの違いは、ダイエット薬の処方先と医療管理の確認点で整理しています。
富士市・富士宮市・沼津市周辺で相談を考えている方は、お薬手帳、健診結果、体重の記録を持ってお越しください。体重増加の相談だけでもかまいません。相談したからといって、必ずマンジャロを処方するわけではありません。
当院のダイエット外来では、診察と血液検査(直近の健診結果があれば、省略できることもあります)を行い、服薬内容と身体の状態を確認してから治療を考えます。結果によっては、その日の処方を見送ることもあります。精神科の薬の変更が必要と考えられるときは、こちらで判断せず、処方している精神科に相談をお願いする形をとります。受診するかどうかは、読んだうえで決めてください。地域ごとの案内は、富士市・富士宮市でのダイエット外来の受診案内と、沼津市からダイエット外来を検討する方へにあります。
よくある質問(FAQ)
【参考文献】
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- デパケン細粒40% 添付文書(日経メディカル処方薬事典掲載). https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/11/1139004C2061.html
- リーマス錠 添付文書(2026年6月改訂・第6版). KEGG MEDICUS. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00048293 / リーマス錠200(日経メディカル処方薬事典掲載). https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/11/1179017F2052.html
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