- MASLDは、ある日突然登場した新しい病気ではありません
- 従来NAFLDと呼ばれていた病気の考え方が、2023年に国際的に整理し直されました
- 肝臓に脂肪があるかどうかだけでなく、肥満・血糖・血圧・脂質の状態もあわせて見る考え方になりました
- MASLDと言われても、経過には幅があり、肝硬変まで進むのは一部です
- 体重だけでなく、診察と血液検査で全身の状態を確かめることが出発点になります
健康診断で「脂肪肝」を指摘され、そのあとの情報収集で「MASLD」という聞き慣れない言葉に行き着いた方は少なくありません。NAFLDという言葉を知っている方であれば、なぜ呼び方が変わったのか気になるはずです。
結論から言うと、MASLDはある日突然登場した新しい病気ではありません。以前はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていた病気の集まりを、2023年の国際的な合意にもとづいて整理し直したものです。ただし、脂肪肝と診断された人がすべてMASLDに当てはまるわけではありません。
MASLDは「突然できた新しい病気」ではありません
正式名称はmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)です。以前NAFLDと呼ばれていた病気の集まりは、この名称に変わりました。同じ流れの中で、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)はMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)という名称になりました。
この名称変更を主導したのは、世界の主要な肝臓学会が参加した国際コンセンサスです。2023年6月、新しい名称と診断の考え方が国際的に合意されました。日本では日本消化器病学会と日本肝臓学会が1年余りの検討を経て、2024年8月に日本語の病名を公表しています。そして2026年4月、この新しい考え方にもとづく「MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)」が発刊されました。2020年発刊のNAFLD/NASH診療ガイドラインから、6年ぶりの改訂です。
このとき整理されたのは、名前だけではありません。脂肪性肝疾患(脂肪肝)全体を、SLD(steatotic liver disease)という一つの大きな枠組みでとらえ直し、原因や背景の違いによって分類し直しました。MASLDは、そのSLDという枠組みの中で中心的な位置を占める病態です。飲酒量が多い人や、他の明らかな原因で脂肪肝になっている人は、別の分類に含まれます。脂肪肝と診断された人が、すべてMASLDに当てはまるわけではありません。
| 項目 | 従来(NAFLD/NASH) | 現在(MASLD/MASH) |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | アルコールが原因ではない、という除外で定義 | 肥満・血糖・血圧・脂質などの代謝異常を積極的に評価して定義 |
| 上位の枠組み | 明確な上位概念はなし | SLD(脂肪性肝疾患)という枠組みの中に位置づけ |
| 診断で見るもの | 脂肪肝の有無が中心 | 脂肪肝に加え、代謝異常(心血管代謝リスク因子)の有無もあわせて確認 |
※診断基準そのものを示した表ではなく、名称と考え方の変化を簡略化して整理したものです。
お酒をあまり飲まない人に脂肪肝が起こる理由や、体重との関係については、お酒を飲まないのに脂肪肝と言われた-その理由と体重との深い関係で詳しく説明しています。
なぜ「非アルコール性」という名前をやめたのか
病気を「何ではないか」で定義する問題
NAFLDという名称は、アルコールが原因の肝疾患ではない、という否定形で病気を定義していました。「何が原因か」ではなく「何が原因ではないか」を示す名前だったのです。除外によって病気を定義すると、原因として何を積極的に見るべきかが、名前からは伝わりません。
「代謝異常」が病名に入った意味
あわせて、nonalcoholic(非アルコール性)やfatty(脂肪性)という言葉が、患者にとって好ましくない響きを持つという指摘も、国際的な議論の中で挙がっていました。2023年の名称変更では、この2点を踏まえ、心血管代謝リスク因子(肥満、血糖、血圧、脂質の異常)を診断の考え方そのものに組み込みました。肥満や糖尿病との関わりは以前から知られていましたが、それが病名と診断の枠組みに明示的に反映されたのは、今回が初めてです。「酒ではない脂肪肝」という消去法の説明から、「代謝異常と関わりのある脂肪性肝疾患」という説明へ、視点が移ったといえます。
MASLDと診断するとき、実際には何を見るのか
肝臓に脂肪があるだけでは決まらない
超音波検査などの画像診断で脂肪肝が確認されただけでは、MASLDとは診断されません。
MASLDの診断そのものに肝生検は必須ではなく、現在は画像検査や血液検査を組み合わせた非侵襲的な評価が広く使われています。一方、MASHや線維化の状態を詳しく調べる目的では、肝生検(肝臓の組織を採取して調べる検査)が必要になる場合があります。画像診断を中心に、血液検査などの体への負担が少ない方法で評価を進める流れが広がっています。ただし、MASHの詳しい評価や線維化の程度をはかる目的では、肝生検が今も役立ちます。
肥満・血糖・血圧・中性脂肪・HDLなどをあわせて見る
MASLDの診断では、脂肪肝に加えて、心血管代謝リスク因子と呼ばれる項目のうち少なくとも1つに当てはまるかを見ます。具体的には、肥満(体重や腹囲)、血糖値、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールという5つの領域です。MASLDでは、5つの心代謝系危険因子のうち1つ以上が基準に該当することが診断要件に含まれます。
代謝異常があり、飲酒量が一定の範囲に入る場合にはMetALDという分類になります。さらに飲酒量が多い場合は、アルコール関連肝疾患(ALD)として分類されます。「お酒を飲んでいるからMASLDではない」という単純な理解も正確ではありません。
ここで注意したいのは、日本の「メタボリックシンドローム」の診断基準とは仕組みが異なるという点です。メタボリックシンドロームは腹囲の基準を満たすことが前提になりますが、MASLDでは腹囲以外の項目だけでも該当し得ます。「MASLDはメタボの肝臓版」というわけではありません。
だから肥満・糖尿病・脂質異常症と一緒に起こりやすい
肝臓は代謝の中心にある
肝臓は、糖や脂質の代謝を担う臓器です。内臓脂肪が増えてインスリンの効きが悪くなると、肝臓に脂肪がたまりやすくなります。この関係が、肥満・糖尿病・脂質異常症とMASLDが重なりやすい理由の土台になっています。肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症が連鎖的に進む仕組みは、メタボリックドミノとは?肥満・高血圧・糖尿病の連鎖を止める代謝改善の考え方で詳しく説明しています。
体重が正常でもMASLDはあり得る
体重やBMIが標準範囲でも、血糖や血圧、脂質のいずれかに異常があれば、MASLDに該当することがあります。見た目の体型だけで判断せず、血液検査の数値もあわせて見ることが必要です。
MASLDと言われたら肝硬変になるのか
経過には幅がある
MASLDには幅広い状態が含まれます。多くは脂肪肝の段階にとどまり、一部でMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)という、炎症を伴う段階に進みます。さらにその一部で肝臓に線維(硬くなった組織)が増える線維化が進行し、そのごく一部が肝硬変や肝細胞がんに至ります。
重要なのは「線維化」が進んでいないか
2026年に改訂されたMASLD診療ガイドラインでも、進行した線維化があるかどうかが、その後の経過を左右する重要な因子として位置づけられています。線維化のリスクを絞り込む方法として、FIB-4という指標や、エラストグラフィという肝臓の硬さをはかる検査が使われます。FIB-4は、年齢とAST、ALT、血小板数から計算する指標です。どちらも確定診断のための検査ではなく、精密検査が必要かどうかを見極めるためのスクリーニングです。数値の解釈は年齢などの影響も受けるため、自己判断はせず、医師の評価を受けてください。
痩せることには意味がある。でも体重だけ見ればよいわけではない
減量によって肝脂肪が改善することがある
肥満のあるNASH患者293人を対象に行われた前向き研究では、生活習慣の改善による体重減少の程度と、肝臓の組織所見の改善に関連が見られました。体重が5%以上減った人は、5%未満だった人に比べてNASHの改善が多く報告されています。体重が10%以上減った人では、9割でNASHの改善が見られ、4割台で線維化の改善も報告されました。これは単一施設で行われた前向きの生活習慣介入研究であり、薬剤を比較したランダム化比較試験ではありません。ただし、体重減少の程度が大きいほど肝臓の状態が良くなる傾向は、複数の研究で共通して示されています。食事の見直しに加え、運動も肝脂肪の改善に役立ちます。線維化がすでに進んでいる場合には、減量だけでは十分でないこともあります。
マンジャロ・リベルサスを「脂肪肝の薬」と考えない
マンジャロ(チルゼパチド)とリベルサス(経口セマグルチド)は、いずれも国内では2型糖尿病の治療薬として承認されています。承認されているのは2型糖尿病に対してであり、MASLDやMASHへの効能・効果ではありません。体重を目的にこれらの薬を使う場合は、承認された範囲外の使用にあたり、保険診療の対象にはなりません。
同じ成分でも、製品によって承認された効能・効果は異なります。たとえば注射薬のウゴービ(セマグルチド)は肥満症の治療薬として承認されており、2026年6月には、肝硬変を伴わない、中等度または高度の線維化を伴うMASHという条件つきで、新たな効能・効果が追加されました。国内で初めて、MASHへの薬物治療の選択肢が承認された例です。これは対象を厳格に定めた専門的な治療であり、体重管理を目的とした一般的な使用とは別の話です。
マンジャロやリベルサスをMASLDの治療薬として扱うことはできません。体重管理を目的とした薬の処方は、糖尿病の有無、肥満の程度、血液検査の結果、体調を踏まえて医師が判断します。自己判断で薬を開始したり、中止したり、量を変えたりしてはいけません。薬と体重管理の関係は、生活習慣病治療薬と体重の関係で詳しく説明しています。
健診で「脂肪肝」「肝機能異常」と言われたら、体重以外も確かめる
AST・ALT・γ-GTPだけでは診断できない
AST、ALT、γ-GTPが正常範囲であっても、MASLDが存在することはあります。逆に、これらの数値が高くても、原因がMASLDとは限りません。ウイルス性肝炎、アルコール関連の肝疾患、薬剤性の肝障害など、他の原因が背景にあることもあります。数値だけで自己診断はできません。
血糖・脂質・血圧・腎機能もあわせて見る
健診結果を見るときは、肝機能の数値だけでなく、血糖(HbA1cなど)、脂質(中性脂肪やHDL)、血圧、腎機能、BMIや腹囲もあわせて見ます。飲酒歴や服薬歴、これまでにかかった病気も、原因を絞り込む手がかりになります。健診で異常を指摘された場合の受診の考え方は、健康診断で異常があってもダイエット外来は受診できる?でも取り上げています。
脂肪肝がある人ほど「薬だけではなく診察と検査」を
健診結果がある場合は、その数値が診察の参考になります。必要に応じて、肝機能・血糖・脂質・腎機能を含めた血液検査を行います。体重を減らす薬を処方すること自体を目的にはしません。状態によっては、薬よりも先に、消化器内科や肝臓専門医による肝疾患の精査を優先すべき場合もあります。医療ダイエット前の血液検査の目的は、ダイエット外来で血液検査を行う理由で説明しています。体重管理と生活習慣病治療薬の関係は、こちらでも取り上げています。
富士市・富士宮市・沼津市周辺で、健診結果も含めて体重管理について相談したい方は、医療機関で一度整理する方法もあります。
よくある質問(FAQ)
【参考文献】
- Rinella ME, Lazarus JV, Ratziu V, et al. A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature. Journal of Hepatology. 2023;79(6):1542-1556.
- 日本消化器病学会・日本肝臓学会(編). MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)-代謝機能障害関連脂肪性肝疾患-. 南江堂; 2026年4月.
- European Association for the Study of the Liver (EASL), European Association for the Study of Diabetes (EASD), European Association for the Study of Obesity (EASO). EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on the management of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease (MASLD). Journal of Hepatology. 2024;81(3):492-542.
- Vilar-Gomez E, Martinez-Perez Y, Calzadilla-Bertot L, et al. Weight Loss Through Lifestyle Modification Significantly Reduces Features of Nonalcoholic Steatohepatitis. Gastroenterology. 2015;149(2):367-378.
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). マンジャロ皮下注アテオス 電子添文.
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). リベルサス錠 電子添文.
- ノボ ノルディスク ファーマ株式会社. 「ウゴービ皮下注」、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に対する承認を取得. ニュースリリース. 2026年6月19日.
- 日本消化器病学会. 消化性潰瘍・MASLD診療ガイドライン最新版公開のお知らせ. 2026年4月.


